弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人Aを懲役五月及び罰金五万円に、同B、Cを懲役三月及び罰金二
万円に処する。
     被告人等が右罰金を完納することができないときは金四百円を一日に換
算した期間、その被告人を労役場に留置する。
     但し各被告人に対し、裁判確定の日から三年間右各懲役刑の執行を猶予
する。
     押収してある葉たばこ二百二十五瓩は被告人Aより没収する。
         理    由
 被告人等の弁護人竺原巍の控訴の趣意は、その提出に係る控訴趣意書記載の通り
であるからこれを引用する。
 第一点について
 論旨は要するに、被告人B、Cは、その所持していた葉たばこを他に譲り渡した
事実も消費した事実もないばかりでなく、同葉たばこはその所有者である相被告人
Aから没収することができるものであるにかかわらず、右両名よりその価格を追徴
した原判決は、法令の適用を誤つていると主張するものであ<要旨>る。よつて案ず
るに、たばこ専売法第七十五条第二項は、同条第一項の規定を受けて、「前項の物
件を他に譲り渡し、若しくは消費したとき又は他にその物件の所有者があつ
て没収することのできないときは、その価格を追徴する。」と規定しているのであ
つて、同項にいわゆる「前項の物件」とは、同法第七十一条、第七十二条第一項、
第二項、第七十三条第四号ないし第七号の犯罪に係るたばこ、葉たばこ等の犯則物
件を指称するものであり、「他に譲り渡したとき」とは、右犯罪の犯人がその犯則
物件の所有権を他に移転したことを意味し、また「消費したとき」というのは、そ
の犯人が当該犯則物件を自ら需要に供しその利益を亨受し尽した場合を指すものと
解せられる。従つて、単に他人のために他人所有の葉たばこ類を所持していたに過
ぎない犯人が、その葉たばこ類を所有者に返還し、若しくはさらに他人にその所持
を移した場合、又は依然として自らその所持を継続している場合の如きは、右にい
わゆる「他に譲り渡し、若しくは消費したとき」のいずれにも該当しないものであ
つて、同法第七十五条第二項前段の文理上からは追徴の言渡をなし得ないものとい
わねばならない。又一般にたばこ、葉たばこ類は同法第六十六条の規定によつても
明らかな如く、特に同法の規定によつて認められた場合又は正当な事由に基く場合
の外何人と雖もこれを所有し所持することを禁止せられているのである。たばこ、
葉たばこ類の所有所持が法の保護尊重を受けるがためには、その所有、所持が同専
売法の規定に照して見ても許されている場合でなければならないのであつて、没収
に対して保護尊重せらるべき犯人以外の第三者の所有権もまたこの要件を備えたも
のでなければならない。従つてたばこ専売法第七十五条第二項後段に「又は他にそ
の物件の所有者があつて没収することのできないとき」というのも、正しくこの意
味における合法的な所有者があつて、その所有権を無視して没収の処分をなし得な
いような場合、例えば許可を受けたたばこ耕作者の同居の親族が、その耕作者の生
産し所有している葉たばこを、収納前他に盗み出して所持していたことから、所持
罪として起訴せられたが、その犯則物件たる葉たばこは、当該犯人以外の耕作者の
合法的な所有に属するような場合を指しているものと解すべきである。これを要す
るに、たばこ専売法第七十五条第一項は原則として同法違反の犯則物件が何人の所
有たるとを問はず没収する趣旨において、ことさら刑法第十九条第二項のような規
定を設けなかつたものであり、ただ同条第二項は、若し当該犯人がその犯則物件を
他に譲り渡し、若しくは消費して既に犯罪による不法の利益を亨受している場合に
は、その不法の利益を犯人に保持せしめないために、当該犯人よりその価格を追徴
すること、及び若しその犯則物件が第三者の合法的な所有に属する場合において
は、特に第一項の例外として犯則物件そのものの没収を差し控え、当該犯人よりそ
の価格を追徴する趣旨と解すべきものである。しかして、原判決の認定した事実
は、被告人AはD外一名と共謀の上、他人から不法に譲り受けた葉たばこ約六十貫
(二百二十五瓩)を、うち二十貫は昭和二十五年二月一日頃より、残四十貫は、翌
二日頃より、共に同月四日頃に至るまで自宅に保管所持し、被告人B、Cの両名
は、相被告人Aの依頼によつて、両名共謀の上、A所有の右葉たばこ六十貫を他に
運搬のため同月四日頃所持していたというのであつて、右両名の所持していた右葉
たばこが、両名の手中より直接押収せられ、同人等の手によつて譲渡、消費のなさ
れていないことは本件記録上明らかなところである。従つて本件葉たばこは、違反
所有者でありかつ違反所持着である被告人Aより没収するか、若しくは違反所持者
である被告人B、Cの両名より没収すれば足り、そのいずれか一方より没収すれ
ば、他の一方についてさらに追徴すべき筋合でないにもかかわらず、これと反する
措置に出でた原判決には、法令の適用に誤があつて、しかもその誤が判決に影響及
ぼすことが明らかであるから論旨は理由がある。
 第二点について
 論旨は被告人等に対する原判決の量刑は重きに失するというのであつて、本件記
録を精査し所論の各情状を斟酌すれば、原審が本件につき被告人Aに対し懲役五月
及び罰金十万円、被告人B、Cに対し懲役三月及び罰金五万円、を言渡したのは、
その量刑重きに失するものと認められるので論旨は理由がある。
 よつて刑事訴訟法第三百九十七条に従い原判決を破棄し、かつ本件は訴訟記録竝
びに原審において取り調べた証拠によつて、直ちに判決することができるものと認
められるので同法第四百条但書によつてつぎの通り判決する。
 原審の認定した事実を法律に照すと、被告人等の所為は各刑法第六十条、たばこ
専売法第六十六条第一項、第七十一条第一号に各該当し、情状懲役刑と罰金刑を併
科するのを相当とするので同法第七十六条に従いこれを併科することとし、所定の
刑期罰金額の範囲内において、各被告人を主文の如く量刑処断し、被告人等が罰金
を完納することができないときは各刑法第十八条に従い金四百円を一日に換算した
期間労役場に留置すべく情状を斟酌して同法第二十五条を適用し被告人等に対し各
三年間右懲役刑の執行を猶予し、押収してある葉たばこ二百二十五瓩はたばこ専売
法第七十五条第一項に則り被告人Aより没収すべきものとする。
 よつて主文の通り判決する。
 (裁判長判事 植山日二 判事 林歓一 判事 幸田輝治)

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