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裁判例


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主文
1外務大臣が原告に対して平成18年6月20日付けでした別紙請求文書目
録記載の行政文書に関する不開示決定を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,処分行政庁である外務大臣に対し,特定の国会議員が訪米
した際に在米日本大使館が行った会食及び供応に関する支出証拠等の行政文書
の開示を請求したところ,外務大臣が,行政機関の保有する情報の公開に関す
る法律(以下「情報公開法」という。)8条に基づき,同行政文書の存否を明
らかにしないで,同開示請求の対象文書を不開示としたことから,その取消し
を求める事案である。
1前提事実(争いのない事実並びに掲記証拠及び弁論の全趣旨により容易に認
められる事実)
(1)開示請求
原告は,平成18年4月13日,情報公開法3条に基づき,外務大臣に対
し,「平成12年2月に木俣佳丈国会議員が訪米した際に,在米日本大使館
が行ったすべての会食および供応に関する,支出証拠,計算証明に関する計
算書等一切,および会食の目的趣旨を記載した文書」の開示を請求した。
これに対し,外務大臣が,1件の請求として扱うことができないとして,
情報公開法4条2項に基づき,上記請求を2件に分けるよう要請したところ,
原告は,平成18年5月16日付けで,開示の請求をする行政文書を,別紙
請求文書目録記載の文書(以下「本件文書」という。)とする旨の補正をし
た(以下,この補正された開示の請求を「本件開示請求」という。)。
(2)不開示処分
本件開示請求に対し,外務大臣は,平成18年6月20日付けで,本件文
書の存否を答えるだけで既に公になっているほかの情報と相まって,個別具
体的な外交活動及び事務に関する情報で,情報公開法5条3号及び同項6号
に規定する不開示情報を開示することになることを理由として,情報公開法
8条に基づき,本件文書の存否を明らかにしないで,本件開示請求を拒否す
る旨の決定をした(甲2)(以下「本件処分」という。)。
(3)本件開示請求までの経緯
ア原告は,平成14年3月12日,平成11年度の在米日本大使館におけ
る国会議員に対する便宜供与に係る文書の開示を請求した。
イ外務大臣は,平成14年12月12日,これに対し,部分開示を行った
ところ,原告は,平成15年2月13日,異議を申し立てた。外務大臣は,
再度検討した結果,国会議員の氏名肩書,便宜供与に従事した職員(大使
館現地職員を除く。)の氏名肩書を開示することとして,平成16年3月
30日付けで上記決定を変更し,その旨原告に通知するとともに,上記変
更決定においてなお不開示とする部分があったことから,同月31日付け
で,情報公開・個人情報保護審査会(以下「審査会」という。)に諮問書
等を発出した。
ウ上記審査対象文書には,平成11年10月と平成12年2月に渡米を予
定し,又は渡米した木俣佳丈国会議員(以下「本件議員」という。)の米
国内における日程及び在米日本大使館が提供を予定していた同議員への便
宜供与,日程等に関する文書が含まれていたところ,審査会は,平成17
年8月25日,これらの文書について,記載事項を細分して分類し,開示
すべきものとそうでないものを区分して,大使館側が,大使館に立ち寄る
国会議員に対して懇談会,昼食会,夕食会等を行うことを予定した日程で,
公式日程以外の大使館主催昼食会,公使主催昼食会,公使との懇談及び参
事官主催夕食会の各日程及び場所並びに国会議員及び公表慣行のある大使
館職員の氏名及び肩書は開示すべきである旨答申した(以下「本件答申」
という。甲3)。
エその後,外務大臣が,平成18年6月13日に開示した文書に記載され
た在米日本大使館が本件議員に対し行い,又は行う予定であった会合は,
以下のとおりであった(ただし,平成11年10月1日及び同月5日に予
定されていた夕食会及び昼食会は,訪米が取りやめになったため,中止さ
れた。)(以下,下記平成12年2月4日のA公使及びB公使との懇談と
大使館主催夕食会を併せて「本件夕食会等」という。)。
平成11年10月1日大使館主催夕食会
10月5日C総務公使主催昼食会
平成12年2月4日A公使及びB公使との懇談
同日大使館主催夕食会
時刻18:30から
会場「α」
大使館側出席者D参事官
2争点
本件の争点は,処分行政庁である外務大臣が,本件開示請求に対し,情報公
開法8条に基づき,行政文書の存否を明らかにしないで開示を拒否したことが
適法かどうかであり,これに関する当事者の摘示すべき主張は,後記第3「争
点に対する判断」掲記のとおりである。
第3争点に対する判断
1当事者の主張
(1)被告は,本件文書の存否を明らかにしないで開示を拒否できる理由として,
以下のとおり主張する。すなわち,国会議員等の我が国関係者が外国を訪問
して相手国関係者と接触する場合,その準備として,在外公館職員が,公に
しないことを前提とする会合の場を設け,当該我が国関係者に対して,相手
国への働き掛け等につき協力方を内々に依頼したり,当該我が国関係者が相
手国関係者と接触した結果を踏まえた対応を検討することがあり,また,外
交交渉が在外公館職員と我が国国会議員とで連携して行われる場合,在外公
館職員と当該国会議員が,相手国政府との協議前に,対処方針の背景となる
考え方について十分に認識を一致させる等するために,人目に触れない形で
議論を行ってすり合わせを図ることがある。こうした会合の存否が公になれ
ば,当該訪問に関する公の情報に加えて,既に公になった情報や各国がそれ
ぞれ収集した情報等とを重ね合わせて照合・分析することにより,相手国関
係者との接触の準備の内容や接触の結果を踏まえた対応の検討内容が明らか
になる手掛かりを与え,我が国が,どのような関係者の訪問を契機として,
だれとどのような準備をし,どのような外交工作活動を行っているかを知る
手掛かりを与えることになるので,こうした特定の会合の存否や,これが公
にしないことを前提に行われたかどうかは,情報公開法5条3号及び6号に
規定する不開示情報に当たる。そして,仮に本件のように特定の者を名指し
した特定の会合に関する文書の存在を明らかにした上,不開示処分をすれば,
既に公となった情報や各国がそれぞれ収集した情報等と重ね合わせることに
よって,あるいは,不開示処分の処分理由の中で,当該特定の会合が公にし
ないことを前提としてされたものであることを具体的に説明せざるを得なく
なることによって,上記不開示情報を明らかにすることになるから,情報公
開法8条によって存否応答拒否の上不開示とすることができるというもので
ある。
(2)これに対し,原告は,本件文書が本来的に開示することができない性質の
文書であることについて,被告からほとんど言及がないのであって,在米日
本大使館が平成12年2月4日に本件議員に対し飲食を伴う便宜供与を行い,
これについて公費が支出されたところ,大使館側と訪問議員の懇談や食事会
等の接待の事実を明らかにしても,外務省の業務には支障が生じないと,本
件答申において認定されていると指摘し,本件文書に保秘性がないとして,
被告の主張を争う。
2検討
(1)まず,情報公開法は,開示請求に対する行政機関の長の対応が行政文書の
存否を明らかにして,その上で,これを開示するか,不開示とするかのいず
れかを決定するのが原則であるとした上で,文書の存否自体が一つの情報で
あることもあり得ることから,同法8条において,開示請求がされた行政文
書の存否自体を明らかにするだけで,不開示情報を開示することになるとき
は,行政機関の長は,その行政文書の存否を明らかにしないで,その開示請
求を拒否できる旨定めたものと解される。
そして,このように,同条が,文書の存否という情報を開示すること自体
が不開示情報を開示することになることがあり得ることに着目して,例外と
して定められたものであり,その文言上,行政文書の存否を明らかにしない
で開示請求を拒否できる場合を「当該開示請求に係る行政文書が存在してい
るか否かを答えるだけで,不開示情報を開示することとなるとき」に限定し
ていること,文書の存否を明らかにした上で不開示事由に該当する場合に不
開示とし,このような措置が是認されるべきものか否かは情報公開手続上の
判断(情報公開・個人情報保護審査会の判断ないし司法の判断)にゆだねる
のが,情報公開法の趣旨にそったものというべきであることなどに照らすと,
同条に基づいて,行政文書の存否を明らかにしないことが許されるのは,当
該行政文書の存否を回答すること自体から不開示情報を開示したこととなる
場合や,当該行政文書の存否に関する情報と開示請求に含まれる情報とが結
合することにより,当該行政文書は存在するが不開示とする,又は当該行政
文書は存在しないと回答するだけで,不開示情報を開示したことになる場合
に限られると解するのが相当である。
したがって,前記1(1)の被告の主張のうち,上記のとおり説示した考え方
に反する部分は,採用できない(この点については,後記(2)イ(ア)のとおり,
敷えんする。)。
(2)上記(1)の考え方を踏まえて,本件について,具体的に検討する。
ア確かに,被告が主張するとおり,我が国政府関係者が我が国の国会議員
と連携して行う情報収集,外交交渉等の外交活動の一環として,外国の関
係者と会合し,その会合が飲食を伴うものであった場合において,当該会
合がこうした外交活動の一環として行われた事実が情報公開法5条3号又
は6号の不開示情報に該当し得る場合があるとも考えられる。また,こう
した外交活動の準備又はその後の対応の検討のために,公とすることを前
提としない会合(以下,単に「公にすることを前提としない会合」とい
う。)が行われ,その会合に飲食が伴う場合があるとも考えられる。そし
て,被告の主張は,公にすることを前提としない会合の存否自体が同法8
条にいう不開示情報であることを前提としている。
とはいえ,在外公館が国会議員のために飲食を伴う会合(本件文書にい
う「会食及び供応」は総体としてこのような会合の意味で用いられている
といえる。)を開催するのは,被告が主張するような目的のためのものに
限られないことは容易に推測できることであり,かつ,被告も自認してい
ることである。本件答申(甲3)においても,国会議員の外国訪問中に,
在外公館が同国会議員のために主催する夕食懇談会等の会合においては,
渡航目的に関する行動を含む様々な日程等に関する当該国会議員への一般
的なブリーフィング等が行われており,それに公費が支出されるものがあ
る旨認定されており,国会議員が外国を訪問する場合,当該国会議員が,
訪問先の外国に関する事情,我が国と当該外国との外交課題及びそれに対
する我が国の方針等に通暁しているとは限らず,国会議員の外国訪問に当
たり在外公館の職員が上記一般的なブリーフィングを行うことは自然なこ
とであることが認められる。また,他方で,公とすることを前提としない
会合が常に飲食を伴って行われるわけではないことも容易に推測できるこ
とである。
そうすると,在外公館が我が国の特定の国会議員のために行ったとされ
る飲食を伴う会合に関する行政文書(本件文書はこれに該当する。)の存
否を回答すること自体から直ちに,公にすることを前提としない会合の存
否を開示したこととなるということはできないし,当該行政文書の存否に
関する情報と開示請求に含まれる情報とが結合することにより,不開示又
は不存在と回答することだけで,公とすることを前提としない会合の存否
を開示したことになると認めることもできない。
イ(ア)なお,被告は,既に公となった情報や各国がそれぞれ収集した情報
等と重ね合わせることによって,公にすることを前提としない会合の存
否が明らかになり得る旨主張するが,ある情報がほかの情報と重ね合わ
せることによって不開示情報が明らかになるおそれがあるかどうかは,
当該情報が情報公開法5条各号の不開示情報に該当するかどうかの問題
であり,この点を明らかにせず,上記おそれが抽象的に観念できること
を根拠として,同法8条に規定する文書の存否応答拒否を認めることは
できない。被告の懸念を回避するためには,本来,情報公開法5条及び
6条の適切な運用によって,これを行うべきものであるといえる。
また,被告は,不開示処分の処分理由の中で,当該特定の会合が公に
しないことを前提としてされたものであることを具体的に説明せざるを
得なくなることによって,その不開示情報を明らかにすることになるか
ら,同条によって存否応答拒否ができるとも主張するが,不開示処分を
行った場合の理由の提示は,処分行政庁である外務大臣がその責任にお
いて工夫して行うべきものであって,その理由の内容を先取りして上記
存否応答許否の理由とすることは,本末転倒であるといわざるを得ない。
ちなみに,前記前提事実(3)ウ及びエのとおり,まず,本件答申におい
て,大使館側が,大使館に立ち寄る国会議員に対して懇談会,昼食会,
夕食会等を行うことを予定した日程で,公式日程以外の大使館主催昼食
会,公使主催昼食会,公使との懇談及び参事官主催夕食会の各日程及び
場所並びに国会議員及び公表慣行のある大使館職員の氏名及び肩書は開
示すべきであるとされており,その後,外務大臣において,本件食事会
等の予定を記載した文書が開示されたものである。被告は,あくまで予
定にすぎないと主張するものの,これらのことからすれば,少なくとも
本件食事会等が公にすることを前提としない会合ではなかったことが既
に明らかになったともいえる。そうであるとすれば,本件文書の開示に
関する限り,被告が色々と述べる懸念は,そもそも問題とならないと考
えられる。
(イ)さらに,被告は,本件文書が「会食及び供応」に係る行政文書を対
象としており,これが開示されると,「会食」の実施の有無のみならず,
「供応」の有無までが明らかになる点を秘匿性の根拠として主張する。
しかしながら,被告は,日常用語として「会食」と「供応」の違いを
説明するにとどまり,情報公開法5条又は8条との関係で,この区別が
どのような法的意味を持つのか十分明らかにしていない上,この両者の
目的趣旨の違いがあるとしても,飲食を伴う会合が実施された事実から
直ちにそのいずれであるかが明らかになるものではないと考えられる。
3結論
以上によれば,被告が情報公開法8条に基づき,本件文書の存否を明らかに
しないで,その開示を拒否したことは違法であるから,本件処分は取消しを免
れない。
よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の
負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のと
おり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
大門匡裁判長裁判官
吉田徹裁判官
倉澤守春裁判官
(別紙)
請求文書目録
平成12年2月に木俣佳丈国会議員が訪米した際に,在米日本大使館が行ったす
べての会食及び供応に関する,支出証拠,計算証明に関する計算書等一切の文書

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