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平成23年6月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(行ケ)第10076号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年6月16日
判決
原告X
被告特許庁長官
同指定代理人小林和男
廣瀬文雄
板谷玲子
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2010-25466号事件について平成23年1月14日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,本件特許出願に対する拒絶査
定不服審判の請求について,特許庁が同請求を却下するとした別紙審決書(写し)
の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3の取消事由があると
主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,名称を「CD音質向上シール」とする発明について,平成17年
5月18日,特許出願(特願2005-174245)をした。
(2)特許庁は,平成22年7月7日付けで拒絶査定(以下「本件拒絶査定」と
いう。)をし,その謄本は同月22日,原告に送達された(乙4,5)。
(3)原告は,平成22年10月25日,本件拒絶査定に対する不服の審判(不
服2010-25466号事件)を請求した。
(4)特許庁は,平成23年1月14日,「本件審判の請求を却下する。」との
本件審決をし,その謄本は同年2月5日,原告に送達された。
2本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本件は,特許法121条の規定により査定の謄本
の送達があった日から3月以内である平成22年10月22日までにされなければ
ならないところ,上記法定期間経過後の不適法な請求であって,その補正をするこ
とができない,というものである。
3取消事由
審判請求期間に関する判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
別紙準備書面記載のとおり
〔被告の主張〕
(1)審判手続について
ア特許法121条1項によれば,拒絶査定に対する審判の請求は,原則として,
その査定の謄本の送達の日から3月以内にしなければならないものである。本件特
許出願については,拒絶査定の起案日が平成22年7月7日であって,同月20日
付け発送の拒絶査定の謄本中にもその旨の教示がされており(乙4),かつ当該拒
絶査定の謄本の送達の日は,同月22日(乙5)であるから,本件拒絶査定に対す
る審判請求期間の末日は,同年10月22日である。
しかるに,本件審判請求がされたのは,原告も自認するとおり,平成22年10
月25日であるから,その請求は,上記審判請求期間の期間経過後にされたものと
いわざるを得ない。したがって,本件審判請求を却下した本件審決に取り消される
べき違法はない。
イ原告は,本来なら弁明の機会が与えられるべきであるが,本件審決はその機
会が出願人に与えられることなくされたものであり,違法である旨主張しているが,
拒絶査定に対する審判請求の期間は,特許法121条1項に定める法定期間であっ
て,また,仮に同条2項に該当する場合は,請求人が審判請求時等にその旨を述べ
るべきである。
そして,本件審判の請求に当たり,原告において「その責めに帰することができ
ない理由」を述べた形跡はないこと,法定期間経過後に拒絶査定不服審判があった
場合,期間徒過について請求人に同条2項に規定する事由の有無を確認するために
審尋することを求める規定はないことに照らすと,本件審判手続において審尋等に
より審判請求期間を徒過した理由を確認することなく本件審決をしたとしても,何
ら審理不尽となるものではない。
(2)その責めに帰することができない理由について
ア特許法121条2項にいう「その責めに帰することのできない理由」とは,
天災地変その他客観的に避けることができない事故のほか,審判請求人又はその代
理人が通常すべき注意を払っても避けることができなかったと認められる事由をい
う。
イ原告は,「不服審判請求をするためにさまざまに行ったが期間的に厳しいも
のになった」旨主張し,その具体的な理由として家族との事情等をるる述べるが,
原告において,上記アの事由があったということはできない。
さらに,「その責めに帰することができない事由」という文言の通常の意味から
すると,当事者に過失がある場合を含まないと解するべきところ,法定期間経過後
の審判請求は,そもそも,特に期限が定められた手続に関する書類であることから
すれば相応の注意を払うべきものであるにもかかわらず,原告が本件拒絶査定謄本
の送達日の確認等を怠ったことによるものであり,これをもって,原告が通常すべ
き注意を払っても避けることができなかった事由とはいうことはできない。
また,我が国の特許法は,本人による手続のほか,代理人が特許に関する行為を
行うことを認めているから,特許出願の維持管理をどのように行うかは,原告が自
ら行うのか,外部に委託するのか,委託するのであれば誰に委託するのか等を含め,
全て原告である本人の意思に委ねられており,原告の自己責任の下に行われること
である。原告は,特許出願が拒絶された場合,その拒絶査定謄本に記載された審判
請求に関する期間を正確に認識した上で,所定期間内に審判請求をすべき注意義務
がある。本件においても,審判請求人である原告の家族の過失により,本件審判請
求を法定期間内に請求することができなかったものであるとしても,本人である原
告がその責任を負うべきは当然であって,原告の家族を含めた委託者の過失に起因
して本件拒絶査定に対する不服審判請求をすることができる法定期間を徒過した場
合には,たとえ,その期間徒過が原告本人自身の過失に基づくものではないとして
も,同法121条2項所定の事由に該当するということはできない。
第4当裁判所の判断
1本件審判請求の適否
(1)郵便物等配達証明書(乙5)によれば,本件拒絶査定は,平成22年7月
22日,その謄本が原告に送達されたことが認められる。
なお,原告の主張中には,「受け取った日は24日である」かの記載もあるが,
原告は,結局のところ「配達の記録によれば22日に配達されたことは確かなこと
である」旨自認している。
(2)特許法121条1項によれば,拒絶査定に対する審判の請求は,その査定
の謄本の送達があった日から3月以内にしなければならず,この期間は,法定の不
変期間である。そして,特許庁長官は,遠隔又は交通不便の地にある者のため,請
求により又は職権で,同項に規定する期間を延長することができるが(特許法4
条),本件拒絶査定においては,期間の延長はなく,「この査定に不服があるとき
は,この査定の謄本の送達があった日から3月以内(在外者にあっては,4月以
内)に,特許庁長官に対して,審判を請求することができます」との記載があった
(乙4)。よって,本件拒絶査定に対する審判請求期間の末日は,平成22年10
月22日である。
(3)しかるところ,原告が,同年10月25日,特許庁に本件拒絶査定に対す
る不服の審判を請求したことは,当事者間に争いがない。
(4)そうすると,後記のとおり,同法121条2項に規定する事由が認められ
ない以上,本件審判の請求は,上記審判請求期間の経過後にされた不適法なものと
いわざるを得ない。
2原告の主張について
(1)審判手続について
原告は,要旨,特許法121条2項により,本来なら,弁明の機会が与えられる
べきであるが,本件審決はその機会が出願人に与えられることなくされたものであ
り,違法であると主張する。
しかしながら,法定の審判請求期間を経過した後に拒絶査定不服審判があった場
合,期間徒過について請求人に特許法121条2項に規定する事由の有無を確認す
るために審尋することを求める規定はない上,後記のとおり,本件について同条2
項の「その責めに帰することができない理由」に該当する事由が認められず,原告
も,本件審判の請求に当たり,同項所定の事由を述べた形跡はないことに照らすと,
本件審判手続において原告に弁明の機会を与えることなく本件審決をしたことに,
違法はない。
(2)その責めに帰することができない理由について
原告は,要旨,「不服審判請求をするためにさまざまに行ったが期間的に厳しい
ものになった」旨を主張し,その具体的な理由として,家族との事情等をるる述べ
る。
仮に,原告の上記主張を,特許法121条2項にいう「その責めに帰することの
できない理由」に関する事情を主張するものと善解したとしても,上記「その責め
に帰することのできない理由」とは,通常の注意力を有する当事者が通常期待され
る注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により審判請求期
間内に請求できなかった場合をいうところ,本件において原告に通常期待される注
意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由があったということは
できない。
3結論
以上の次第であるから,本件請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官髙部眞規子
裁判官齋藤巌

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