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平成28年12月26日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成27年(ワ)第1105号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成28年10月12日
判決
主文
1被告らは,原告に対し,連帯して103万8752円及びこれに対する
平成26年2月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用はこれを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの
負担とする。
4この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告らは,原告に対し,連帯して141万2370円及びこれに対する平成
26年2月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,ドッグラン内で飼い犬を遊ばせていた原告が,ドッグラン内で
転倒し受傷したこと(以下「本件事故」という。)につき,その原因は被
告らの飼い犬が連なって原告に向かって突進し,衝突したことにあるとし
て,民法718条1項に基づき,被告らに対し,損害賠償金141万23
70円とこれに対する不法行為日である平成26年2月11日から支払済
みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案
である。
1前提となる事実(当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨により容
易に認められる事実)
本件事故の発生
ア日時平成26年2月11日午後1時10分ころ
イ場所神戸市a区b町cd丁目所在の甲ドッグラン(以下「本件施
設」という。)
ウ飼い犬原告ミニチュアダックスフント3歳オス(以下「原告
犬」という。)
被告Aゴールデンレトリバー4歳オス(以下「被告A犬」
という。)
被告Bラブラドールレトリバーとゴールデンレトリバー
の交雑2歳メス(以下「被告B犬」といい,被告
A犬と併せて「被告ら犬」という。)
エ事故態様原告が本件施設内で原告犬を遊ばせていたが,被告ら犬が接
近してきた際,その場に転倒した(後記2のとおり,事故態
様の詳細については争いがある。)。
本件施設
ア本件施設は,甲地域振興会が運営するドッグランであり(その後,運営
主体は変更されている。),利用登録した者が利用時間内(午前7時から
日没まで)に無料で自由に利用することができる(甲8)。
イ本件事故当時,警備員は配置されていなかった(甲9)。
ウ本件施設の利用規約には,次のような規定が置かれている(甲8)。
利用者の方々が仲良く譲り合い,自らの責任において利用してくださ
い。ドッグラン内で生じた愛犬,飼い主の事故,怪我,その他のトラブ
ルなどは,当事者間で直接解決してください。
飼い主は愛犬をドッグランの雰囲気に慣らしてからリードを外すよう
にしてください。
飼い主は愛犬から目を離さないように注意し,他の犬や飼い主の迷惑
にならないようにしてください。
「こわがりさん専用エリア」には大型犬は入れないでください。共有
エリアに小型犬を入れる場合は飼い主のご判断にお任せします。
原告は,本件事故により受傷し,平成26年2月11日午後1時59分こ
ろ,神戸市立医療センター中央市民病院に救急搬送され,頚椎捻挫であると
診断された(甲2の1,乙4)。
2争点及びこれに関する当事者の主張
本件事故態様
(原告)
原告は,夫や子ども2名(小学生・当時9歳と7歳)と共に本件施設
を訪れ,別紙図面表示のA地点付近で原告犬と子どもらを遊ばせていた。
他方,被告ら犬は,当初,別紙図面表示①の地点で軽く走り回りながら
遊んでおり,その状態は数分程度続いた。この間,原告は,原告犬や家
族のほうを見るなどして被告ら犬から目を離すことはあったが,それ以
外は被告ら犬がいずれも大型犬であったことから自然とそちらに目が行
くようになり,継続して観察していた。そうした中,被告ら犬は徐々に
興奮を増し,別紙図面表示②の範囲で速度を上げて走り回るようになり,
その状態は1分ほど継続した。この段階で,原告は,被告ら犬に危険を
感じるようになり,原告の子どもらに本件施設の北西角付近に移動する
よう促し,被告ら犬の様子を注視するようになった。その後,被告ら犬
は,ひどく興奮し,別紙図面表示③のとおり本件施設を全速力で東西に
一,二往復した後,別紙図面表示④の位置から矢印の軌道に沿って走り,
南西角を曲がって原告(別紙図面表示「原告」の位置にいた。)に突進
してきた。被告ら犬は,被告A犬が先を走り,被告B犬がその後を追っ
て原告に向かって突進し,被告A犬又は被告ら犬が原告の右方向から原
告の右膝辺りに衝突した。原告は,その衝撃によって足をすくわれたよ
うな形になって後方に転倒し,後頭部を強く打って一時意識を失ったも
のである。
(被告ら)
被告ら犬が別紙図面表示①付近でじゃれ合っていたこと,その後,被
告ら犬が先後して本件施設の入口付近に走って行ったこと,被告ら犬が
入口付近で佇立する原告の横をすり抜ける際に原告が転倒したことは事
実であるが,被告ら犬がひどく興奮していたことや別紙図面表示④の地
点から長距離を走って原告に向かって突進したことはない。
相当の注意
(被告ら)
民法718条1項ただし書にいう「相当の注意」とは,通常払うべき
程度の注意義務を意味し,異常な事態に対応できる程度の注意義務まで
課したものではない。本件事故は,犬がリード(引き綱)から解き放た
れ自由に走り回ることが許され,現に自由に走り回っているドッグラン
のフリー広場で発生したものであるから,被告らが犬の占有者として通
常払うべき注意義務はリードを外すと制御が利かなくなるとか,リード
を外す前に被告らの飼い犬が興奮しているなどの特段の事情がなければ,
リードを外し犬が自由に走り回ることができる状態におけるものである
ことを前提としなければならない。
被告ら犬はいずれも温厚ないし友好的で優しい性格であり,これまで
多数回にわたり本件施設に遊びに来るなどその利用に慣れており,過去
にドッグランで他の犬や飼い主とトラブルになったこともない。本件事
故当日,被告らは,被告ら犬を本件施設に馴染ませてからリードを外し,
その後も被告ら犬が遊んでいる近くに立ちその動向を監視していた。本
件事故が発生するまでの間,被告ら犬は互いにじゃれ合ったり,追いか
け合ったりしていたが,興奮するなど特別変わった様子はみられなかっ
た。このような事情からすれば,被告らは「相当の注意」をもって飼い
犬を管理しており,危険を予見ないし回避すべき行動をとるべき状況に
はなかったというべきである。
したがって,被告らは,民法718条1項ただし書により,本件事故
につき賠償責任を負わない。
(原告)
被告Aは,被告A犬が走り出したらこれを止められないと認識しなが
ら,被告ら犬が原告のほうへ走り出して危害を加えるということを考え
もせず,原告と被告ら犬との間に立って,被告ら犬の突然の行動に備え
るなどの予防措置をとらなかった。そればかりでなく,被告Aは,被告
ら犬がじゃれ合い,追いかけ合いを1分間も続けるなど,その興奮が増
しているにもかかわらず,漫然とその様子を眺めるのみで,声をかける
など何らの制御行動もとろうとはしなかった。また,被告Bは,被告B
犬が他の犬とじゃれ合っているときに走り出すことがあると認識しなが
ら,同行していた従兄弟との会話に興じて飼い犬の監視を十分に行わな
かった。また,被告B犬が興奮状態にあり,原告に向かって走り出した
にもかかわらず,声をかけるなどして適時にこれを制止することを怠っ
た。
これらからすれば,被告らが相当の注意を尽くしていなかったことは
明らかであり,民法718条1項ただし書により免責されることはない。
過失相殺
(被告ら)
本件事故はドッグラン内におけるものであるところ,ドッグランに自
らの意思で立ち入る者は,複数の犬がリードから解き放たれ,自由に走
り回ることを前提に行動すべきである。原告においても,過去20回ほ
ど本件施設を利用しており,ドッグランの特徴を十分把握していたはず
である。本件事故当日,原告は,被告ら犬がじゃれ合っていたことや本
件施設内を東西に一,二往復していたことを目撃していたというのであ
るから,予め危険を予測して一旦フリースペース(共有エリア)の外に
出るなり,「こわがりさん専用エリア」に移動するなり回避措置をとる
ことが可能であったにもかかわらず,そのような対応を取ることなく漫
然とフリースペースに居続けたものである。また,原告は,被告ら犬が
自分のほうに向かってきたことを認識し,衝突の危険を感じたというの
であるから,逃げたり身構えるなどの防衛措置を講じることができたに
もかかわらず,漫然とその場に佇立し続けていた。加えて,原告は,本
件事故当日,犬を運動させたり,機敏な行動をするのに適していないブ
ーツを履いていたものである。以上の事情からすれば,本件事故発生に
ついて原告に過失があることは明らかであり,その過失割合は8割を下
回らないというべきである。
(原告)
争う。
本件施設内で原告がいた位置は,被告らが被告ら犬に対する監視義務
等を尽くしていれば,危険が生じることのない場所である。「こわがり
さん専用エリア」は大型犬に恐怖を覚える小型犬であっても利用可能な
ように設けられたスペースであり,利用者の安全を確保するためのもの
ではない。また,被告らが主張するように,自己に向かって走ってくる
被告ら犬から俊敏に逃げるなど,通常人である原告に期待することには
無理がある。これらからすれば,予め避難措置を講じることができなか
ったことや被告ら犬との衝突を回避できなかったことをもって,原告の
過失ということはできないというべきである。
損害
(原告)
ア治療費6万1000円
原告は,本件事故により頚椎捻挫,頭部打撲,頚椎症性神経根症,
右前腕部筋筋膜炎の傷害を負い,次のとおり通院治療を余儀なくされ
た。原告は,平成27年1月までは治療によって症状が改善し,その
後も更なる改善を期待できるかどうか見極めるために3か月間治療を
継続したものであり,その症状固定日は平成27年4月11日という
べきである(甲1)。
神戸市立医療センター中央市民病院1万4700円
平成26年2月11日~同年3月13日(通院・実日数4日)
神戸低侵襲がん医療センター7050円
平成26年3月5日(MRI検査)
医療法人社団り整形外科クリニック3万9250円
平成26年2月25日~平成27年3月27日(通院・実日数94日)
イ文書料3240円
ウ薬剤費6540円
エ通院交通費1万1590円
オ通院慰謝料120万0000円
カ小計128万2370円
キ弁護士費用13万0000円
ク合計141万2370円
(被告ら)
争う。
原告の主訴である右前腕部痛は客観的所見の乏しい神経症状であり,
その症状は平成26年3月10日のリハビリ開始時から有意な変化はな
い。とすると,その症状固定時期は受傷から6か月後の同年8月ころで
あるとみるのが相当である。仮にその時期に固定するに至っていなかっ
たとしても,遅くとも医師が原告に症状固定の時期であると説明した同
年11月28日には固定していたというべきである。
第3当裁判所の判断
1本件事故態様)について
前提となる事実に証拠(甲1,2の1,8,12,乙4~6,原告,被告
A,被告B)及び弁論の全趣旨を総合すれば,①本件施設は,東西の長さ
約64m,南北の長さ約40mのドッグランであるが,周囲にはフェンスが
張りめぐらされており,その西側に出入口が設けられていること,②本件
施設の北東角には小型犬専用エリアがあること,③出入口付近のフェンス
には,飼い主は飼い犬をドッグランの雰囲気に慣らしてからリードを外すこ
と,飼い主は飼い犬から目を離さないように注意し,他の犬や飼い主の迷惑
にならないようにすること,小型犬専用エリアには大型犬を入れてはならず,
共有エリアに小型犬を入れる場合は飼い主の判断に任せることなどとする規
約が記載された看板が設置されていたこと,④原告は,平成26年2月1
1日午前11時ころ,原告犬を連れて,夫及び2人の子どもと共に本件施設
を訪れたが,当日は祝日の昼間であったことから,10頭近い飼い犬とその
飼い主らが場内で遊んでいたこと,⑤原告は,本件施設に入場し,一旦リ
ードをしたまま原告犬の様子を見ていたが,しばらくして原告犬がその場の
雰囲気に馴染んできたことから徐々に本件施設の西側中央部付近に移動して
いったこと,⑥被告A犬は当時4歳(オス),被告B犬は当時2歳(メス)
のいずれも大型犬であり,体重は約27㎏あったこと,⑦被告らは既に被
告ら犬を連れて本件施設に入場していたが,被告ら犬は原告の上記位置より
も本件施設の中央寄りでじゃれ合ったり,追いかけ合うなどしていたこと,
⑧被告ら犬は,じゃれ合ったり追いかけ合ったりしながら,徐々にその行
動範囲を広げ,走る速度も上がっていったこと,⑨原告は,被告ら犬のこ
のような様子を見て,興奮してきていると感じたことから,子どもらに対し
て出入口付近に移動するように促したこと,⑩そうした中,被告ら犬は,
場内の人垣を縫うような形で出入口付近に向けて駆け出し,本件施設の西側
中央部から出入口付近にいた原告のいる方向に向けて,互いに追いかけ合う
ような形で走って行ったこと,⑪原告は上記地点から本件施設の中央部(東
側)を向いて立っていたところ,被告ら犬がその右側から接近し,相前後し
て原告の右膝付近に衝突したこと,原告はその衝撃によりその場に転倒し,
頭部を打撲するなどして受傷したこと,以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば,被告ら犬は,じゃれ合ったり追いかけ合うなどし
ているうちに,次第に興奮の度合いを高め,走る速度を上げながら,その行
動範囲を広げる中,原告のいる方向に向けて互いに追いかけ合うように駆け
て行き,原告に衝突するに至ったものと認めることができる。
これに対し,被告らは,被告ら犬が興奮していたことや原告に向かっ
て突進したことはないなどと主張し,その本人尋問においても,被告ら
犬から目を離したことはないなどとして,おおむねこれに沿う供述をす
る。しかし,被告Aは,被告ら犬が原告のいる出入口方向に向かって駆
け出して行ったこと自体は認める旨の供述をしている上,被告らはいず
れも,結局のところ,被告ら犬が原告に衝突したところは見ていなかっ
たというのであり,終始その飼い犬の動向を注視していたというにも疑
問が残る。したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
また,被告Bは,原告が滑りやすい靴を履いていたために,滑って転
倒した旨の供述をする。しかし,被告Bは他方で,原告が倒れた瞬間は
なぜ倒れたかわからなかった旨を供述していること,同被告の供述する
事故態様は,原告や被告Aが供述する事故態様と大きく違っており,そ
の供述の信用性については慎重に吟味する必要があること,原告は,本
件事故当日は靴底がゴム素材のムートンブーツを履いており,走ること
に支障はなかった旨を供述していること,本件事故発生当時,原告にお
いてスリップする可能性のある動きをしたとはうかがわれないことなど
からすると,被告Bの上記供述をそのまま採用することはできない。

前記認定のとおり,原告は被告ら犬に衝突されて転倒し,受傷したという
のであるから,被告ら犬の飼い主である被告らは,動物の占有者として,動
物の種類及び性質に従い相当の注意をもって管理したことを証明しない限り,
被告ら犬が原告に加えた損害を賠償する責任を免責されないこととなる(民
法718条1項)。
これに対し,被告らは,被告ら犬はいずれも温厚ないし友好的で優しい
性格であり,これまで多数回にわたり本件施設に遊びに来るなどその利
用に慣れており,過去にドッグランで他の犬や飼い主とトラブルになっ
たこともない,本件事故当日,被告らは,被告ら犬を本件施設に馴染ま
せてからリードを外し,その後も被告ら犬が遊んでいる近くに立ちその
動向を監視していた,本件事故が発生するまでの間,被告ら犬は互いに
じゃれ合ったり,追いかけ合ったりしていたが,興奮するなど特別変わ
った様子はみられなかったなどとし,かかる事情に照らせば,被告らは
相当の注意を尽くした旨を主張する。
本件施設はドッグランであり,犬をリードから外して自由に遊ばせるため
の施設である(甲8,13)。しかしながら,犬をリードから外して自由に
走り回らせることができるといっても,飼い主としては,飼い犬が不測の行
動に出ることも十分あり得ることを前提にこれを監視し,四囲の状況をみて
適時適切に制御することができることを前提とするものである。現に本件施
設の利用規約においても,飼い主は飼い犬をドッグランの雰囲気に慣らした
上でリードを外すこと,飼い主は飼い犬から目を離さないように注意し,他
の犬や飼い主の迷惑にならないようにすることなどが規定されている。一般
的な文献においても,ドッグランを利用するに当たっては,呼び戻しができ
ることが鉄則とされている(甲14。ちなみに,ドッグランの中には,常に
飼い主の命令が聞ける犬以外はリードを放してはいけない旨の利用規定が置
かれている例もある〔甲13〕。)。そして,犬が一度走り出せば人間が追
い付くことはできないのであるから,トラブルが発生する前に犬のそばから
離れずに監視し,興奮するような兆候があればこれを制御することが必要で
あり(被告ら犬のように体重が約27㎏もあるような大型犬の場合には,な
おさらその必要性が高いといえる。なお,甲11には,ゴールデンレトリバ
ーにつき,「大型で力が強いので,人に飛びついたり,リードを引っ張った
りしないように訓練しましょう。犬に悪気がなくても,思わぬ事故につなが
る恐れがあります。」との記載がされている。),犬の興奮が増してきたと
感じたときには「待て」と声を掛けたり,一度リードを付けて休ませるなど
して落ち着かせることが必要であるとされている(甲15)。
このような観点から本件をみるに,先に検討したとおり,被告らにあって
は,被告ら犬の動向を十分監視していたというには疑問がある上,被告ら犬
が原告に衝突するまでの間,被告ら犬に声を掛けたり,これを制止するなど
一切していないことからすると(被告Aにあっては,呼び戻しのしつけすら
したことがない旨を供述している。),その管理につき相当の注意を尽くし
たものとは到底認めることができない。他方,原告において,本件施設にお
いてことさらに危険な状況を作出したなどの事情はうかがわれない。そうす
ると,被告らは,被告ら犬の飼い主として,民法718条1項本文に基づき,
本件事故により原告に生じた損害につき,これを賠償すべき責任がある。

前記2で検討したとおり,被告らは,本件事故発生当時,被告ら犬の動向を
十分監視していたとは認め難く,被告ら犬に声を掛けたり,これを制止するな
ど一切しなかったというのであるから,その過失は重いといわざるを得ない。
他方,前記認定によれば,原告においても,被告ら犬がじゃれ合い追いかけ
合うなどの様子を見て,興奮していると感じ,子どもらに対して避難を促すな
どしていること,原告は夫と共に本件ドッグランに入場しており,子どもらを
同伴していたことを考慮しても,避難するに当たっては夫の助力を期待するこ
ともできたこと,本件施設はドッグランであり,犬をリードから外して自由に
遊ばせるための施設であるところ,飼い主が飼い犬の行動につき第一次的な責
任を負うべきではあるものの,他の利用者においても犬がリードを外された状
態で自由に走り回るなどしていることを前提に,動物である以上不測の事態が
生じ得ることを念頭に行動すべき面があることは否定できないことなどからす
ると(なお,本件ドッグランには小型犬専用エリアが設けられているが,原告
の位置は同エリアから離れていた上,同エリアは飼い主の退避スペースとして
設けられたものでもないから,同エリアに避難しなかったからといって,これ
を原告の落ち度と認めることはできない。),本件事故の発生については,原
告においても一定の不注意があったといわざるを得ず,損害の公平な分担の観
点から,原告に生じた損害額につき2割の過失相殺をするのが相当である。

症状固定時期について
前提となる事実に証拠(甲1,2の1~6の11,12,乙3,4,
原告)及び弁論の全趣旨を総合すれば,①原告は,本件事故当日,神
戸市立医療センター中央市民病院に救急搬送されたが,外傷痕や画像所
見(頭部及び頚椎のCT検査や腰部のレントゲン検査)上の問題は認め
られず,頚椎捻挫と診断されたこと,②原告は平成26年3月13日
まで主に右上肢のしびれを訴え,同病院に通院したが,この間,神戸低
侵襲がん医療センターにおいて,頚椎症性神経根症の病名で頚椎MRI
検査を受けたこと,③同年2月25日,近医である医療法人社団り整
形外科クリニックを受診し,頚椎捻挫,頭部打撲,頚椎症性神経根症及
び右前腕部筋筋膜炎との診断を受け,以後同クリニックで通院治療を受
けることになったこと,④同年3月15日,頚椎MRIの結果,C5・
6・7椎間板の膨隆が認められたが,外傷に伴う所見は認められなかったこ
と,⑤原告は主として右前腕部のしびれや痛みを訴え,リハビリを受け続
けていたが,同年11月28日の診療録には,「時期としては,症状固定の
時期ではある。」との記載があること,⑥原告は同クリニックでの治療を
継続したが,平成27年の年明けころまでは症状が改善しているとの実感が
あったこと,⑦同クリニックの乙医師は,同年1月7日,調査会社の担当
者と面談した際,原告の病状について症状固定時期であるとの所見を示した
こと,⑧その後も原告は通院を継続し,従前同様の治療を受けたが,その
症状に著変はみられなかったこと,⑨乙医師は,同年4月11日付けで,
原告の症状につき,同日時点で症状固定時期であると判断する旨の診断書を
作成したこと,以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば,平成26年11月28日には担当医が症状固定時
期であるとの見方を示していることは確かであるが,その後も原告は平成2
7年初頭まではリハビリを含む治療を受けることにより症状が改善している
との実感を受けていたこと,担当医においても,同年1月7日の時点で,調
査会社の担当者に対し,症状固定時期であるとの所見を示していること,そ
の後も原告は従前と同様の治療を継続したものの,症状に著変は認められな
かったことなどを踏まえると,原告は同年1月7日をもって症状固定したと
認めるのが相当である。これに対し,被告らは,原告の主訴である右前腕
部痛は客観的所見の乏しい神経症状であることなどを根拠に,その症状
固定時期は受傷から6か月後の平成26年8月ころである旨を主張する
が,上記認定の治療経過等に照らせば,その主張する症状固定時期は早
きに失し,採用することはできない。
損害額
ア治療費5万8320円
神戸市立医療センター中央市民病院1万4700円
(甲2の1~3)
神戸低侵襲がん医療センター7050円
(甲3の1・2)
医療法人社団り整形外科クリニック3万6570円
前示のとおり,原告の症状固定日は平成27年1月7日と認めるのが
相当であるから,治療費は,同日までに要した上記金額をもって本件事
故と相当因果関係のある損害と認める(甲4の1~22)。
イ文書料3240円
(甲5の5)
ウ薬剤費6540円
(甲6の1~11)
エ通院交通費1万1590円
(甲7)
オ通院慰謝料110万0000円
原告の通院期間,受傷内容及び治療経過のほか,原告の症状が他覚的所
見のない神経症状であること等に照らせば,通院慰謝料は,上記金額をも
って相当と認める。
カ過失相殺後の金額94万3752円
前記3のとおり,原告について生じた損害については,2割の過失
相殺をするのが相当である。
キ弁護士費用9万5000円
本件事案の内容,認容額及び審理経過等を総合すれば,本件事故と
相当因果関係のある弁護士費用は上記金額をもって相当と認める。
ク合計103万8752円
5以上によれば,原告の請求は主文1項に限り理由があるからこれを認容し,
その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第4民事部
裁判官奥野寿則

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