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平成29年12月27日判決言渡
平成25年第4755号
259号,同第3849号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成29年12月21日
判決
主文
1別紙認容額一覧表の「被告」欄記載の被告らは,「原告」欄記
載の各原告に対し,他の被告らと認容額が重なる限度で連帯し
て,それぞれの「原告」及び「被告」に対応する欄記載の各金員
及びこれに対する平成27年1月22日から支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。
2原告1ないし11,原告13ないし23,原告25ないし29,
原告30訴訟承継人29,原告31,原告34ないし42,原告
43訴訟承継人43の1及び同43の2,原告44,原告45,
原告47ないし49,原告51ないし60,原告62,原告63,
原告65ないし67,原告68訴訟承継人68の1及び同68の
2,原告69ないし78,原告81並びに原告82の被告Gに対
する各請求をいずれも棄却する。
3原告32,原告33訴訟承継人33の1及び同33の2並びに
原告46の被告Gに対するその余の請求をいずれも棄却する。
4原告18及び原告45の被告Hに対する請求をいずれも棄却
する。
5原告18及び原告30訴訟承継人29の被告Iに対する請求
並びに原告29の被告Iに対するその余の請求をいずれも棄却
する。
6原告46の被告Jに対するその余の請求を棄却する。
7訴訟費用の負担は,別紙「訴訟費用負担一覧表」記載のとおり
とする。
8この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1別紙請求額一覧表(原告73,74以外関係)の「被告」欄記載の被告らは,
同一覧表の対応する「原告」欄記載の原告に対し,連帯して同目録の「請求額」
欄記載の金員及びこれに対する平成27年1月22日から支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
被告A及び被告Dは,原告73に対し,連帯して3287万3747円及
びこれに対する平成27年1月22日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
被告株式会社C(以下「C」という。),被告B,被告E,被告F及び被告
Gは,原告73に対し,被告A及び被告Dと連帯して385万円及びこれに
対する平成27年1月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
被告Aは,原告74に対し,被告Dと4950万円の限度で連帯して,6
560万5509円及びこれに対する平成27年1月22日から支払済みま
で年5分の割合による金員を支払え。
被告Dは,原告74に対し,被告Aと連帯して,4950万円及びこれに
対する平成27年1月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
被告C,被告B,被告E,被告F及び被告Gは,原告74に対し,被告A
及び被告Dと連帯して715万円及びこれに対する平成27年1月22日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,株式会社L(以下「L」という。)又は株式会社M(以下「M」とい
う。)が発行した社債を購入した原告ら(相続が発生している原告については
被相続人たる購入者を指す。社債の購入・販売に関して述べるときは以下同じ。)
が,L及びMによる社債の販売は組織的詐欺の一環として行われたものであっ
て,L又はMの勧誘担当者から勧誘を受けて前記社債を購入したことにより,
損害を被ったと主張し,被告らに対し,次のとおり,前記第1の金員(社債購
入額の一部及び弁護士費用並びにこれらに対する不法行為の後の日であり,か
つ催告の後の日である平成27年1月22日(全ての被告らに対して本件の全
ての訴状が送達された日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合に
よる遅延損害金)の連帯支払を求める事案である。
本訴において,原告らは,被告らから支払を受け得る金額の合計を前記第1
の金員と特定し,別紙購入社債一覧表【原告請求】の「請求順位」欄記載の順
位に従い,前記第1の金員に満つるまでの部分に係る損害の賠償を求めている。
なお,ここでいう順位付けは,全ての被告との間で別紙購入社債一覧表【原告
請求】の当該社債に係る請求が棄却されたときは,これを条件として請求金額
に満つるまで後順位の社債についての判断を求めるというものであり,いずれ
かの被告との関係において請求額が満額認容されれば,当該社債購入について
他の被告に対する請求が棄却となっている場合でも,当該他の被告について,
後順位の購入社債に関する請求の判断は求めないという趣旨での順位付けであ
る。
被告C関係
原告らは,被告CがLと一体となって組織的詐欺行為に及び,かつ,その
代表者である被告Bが職務執行について組織的詐欺行為を行ったと主張し,
被告Cに対し,共同不法行為,不法行為の幇助又は会社法350条に基づく
損害賠償として,前記第1の金員について,他の被告らとの連帯支払を求め
ている。
被告A,被告D及び被告G関係
原告らは,Lの実質的代表者であった被告A,Lの代表取締役であった被
告D及び被告Gが,違法な社債販売を行い,又は従業員をしてこれを行わせ
たものであると主張し,被告A,被告D及び被告Gに対し,共同不法行為又
は会社法429条1項(ただし被告Aについては類推適用)に基づく損害賠
償として,前記第1の金員について,他の被告らとの連帯支払を求めている。
被告E関係
原告らは,Lの営業部長であった被告Eが,違法な社債販売を行い,又は
従業員をしてこれを行わせたものであると主張し,被告Eに対し,共同不法
行為,代理監督者責任(民法715条2項)又は会社法429条1項(類推
適用。Lの実質的な取締役としての責任を追及するもの。)に基づく損害賠
償として,前記第1の金員について,他の被告らとの連帯支払を求めている。
被告F関係
原告らは,Lの総務部長であり,被告Cの取締役であった被告Fが,Lの
マネーロンダリングに関与し,Lの違法な社債販売に加担したと主張し,被
告Fに対し,共同不法行為又は会社法429条1項に基づく損害賠償として,
前記第1の金員について,他の被告らとの連帯支払を求めている。
被告B関係
原告らは,被告Cの代表取締役である被告Bが,被告Aとともに違法な社
債販売を行うとともに,被告Cによる違法な社債販売を容認・助長したと主
張し,被告Bに対し,共同不法行為又は会社法429条1項に基づく損害賠
償として,前記第1の金員について,他の被告らとの連帯支払を求めている。
その余の被告関係
原告ら(ただし,勧誘担当者に対して損害賠償請求をしている者に限る。)
は,当該原告に対して本件社債の購入を勧誘した担当者である被告H,被告
I,被告J及び被告Kが,社債販売の違法性を認識しつつこれを行ったと主
張し,被告H,被告I,被告J及び被告Kに対し,不法行為に基づく損害賠
償請求として,前記第1の金員について,他の被告らとの連帯支払を求めて
いる。
2前提事実(争いのない事実のほかは,後掲各証拠(枝番があるもので,その
全てを摘示すべき場合には,その記載を省略する。以下同じ。)及び弁論の全
趣旨により明らかに認められる。)
当事者等
アL及びM
Mは,信用保証業務,企業間の提携及び合併に関する仲介及びコンサ
ルティング業務等を目的として,平成19年12月28日に設立された
資本金3000万円の株式会社である。Mは,平成21年11月にLが
設立された後,その事業を事実上Lに引き継ぎ,平成25年8月28日
破産手続開始決定を受けた。(甲全6,9,11,18)
Lは,企業間の提携及び合併に関する仲介及びコンサルティング業務,
有価証券の売買等の媒介,取次及び代理等を目的として,平成21年1
1月24日に設立された資本金5000万円(ただし平成22年1月1
4日以前は500万円)の株式会社である。Lは,
99号事件提訴後である平成25年6月24日午後5時,名古屋地方裁
判所から破産手続開始決定を受けて,平成28年10月14日,破産手
続廃止決定を受けた(同決定は,同年11月10日に確定した。)。(甲
全5,17,顕著な事実)
イ被告C
被告Cは,企業間の提携及び合併に関する仲介及びコンサルティング業
務,信用保証業務等を目的として,平成20年8月5日に設立された資本
金500万円の株式会社である。(甲全20)
ウ被告A
被告Aは,自身の名義で,又は,同人が大部分を出資していたN株式会
社(以下「N」という。)名義で,Lの全株式を保有し,Lを実質的に支配
・経営していた者である。そして,被告Aは,M,株式会社O(Mから従
業員の移籍を受け,Lに対して従業員を出向させていた会社である。以下
「O」という。)の全株式を保有し,これらの会社を実質的に支配・経営
していたほか,設立当初より,被告Cの取締役である。(甲全8,11,
19,20,25,27の3,28の3,29の3)
エ被告D
被告Dは,設立当初からMの代表取締役であり,平成23年9月30日
以降はLの代表取締役の地位にもあるほか,平成22年8月4日以降,O
の代表取締役であった者である。(甲全17ないし19)
オ被告G
被告Gは,Lの設立時である平成21年11月24日から平成22年8
月26日までの間,Lの代表取締役であったほか,Oの設立時から平成2
2年8月4日まで,同社の代表取締役であった者である。(甲全17,1
9)
カ被告F
被告Fは,被告C及びOの設立時からの取締役の地位にある者であり,
平成23年9月30日までMの取締役であった者である。(甲全18ない
し20)
キ被告E
被告Eは,Oの設立時からの取締役であり,平成22年7月31日まで
Mの取締役であった者である。(甲全18,19)
ク被告B
被告Bは,被告Aの妻であり,被告Cの設立時である平成20年8月5
日以降,同社の代表取締役である者である。また,被告Bは,被告Cの決
算報告書上,被告Cの全株式を保有する株主として記載されている。(甲
全20,乙1の5,1の11,1の12)
ケ勧誘担当者ら
被告H
被告Hは,平成23年2月頃,Oに従業員として入社し,顧客に対し
てLの社債を販売する営業活動を行っていた者である。被告Hは,平成
25年5月頃のLの営業停止まで,Oの従業員であった。(甲全57,
66,弁論の全趣旨)
被告I
被告Iは,平成21年1月頃,Mに従業員として入社し,顧客に対し
てMの社債を販売する営業活動を行っていた者である。被告Iは,その
後,Oに移籍して,Lの社債を販売する営業活動を行っていたが,平成
23年3月頃,退職した。(甲全66,弁論の全趣旨)
被告J
被告Jは,平成20年7月頃,Mに従業員として入社し,顧客に対し
てMの社債を販売する営業活動を行い,その後,Oに移籍して,Lの社
債を販売する営業活動を行っていた者である。被告Jは,平成25年5
月頃のLの営業停止まで,Oの従業員であった。(甲全66,弁論の全
趣旨)
被告K
被告Kは,平成19年11月頃,Mの前身であるP株式会社(以下「P」
という。)に従業員として入社した後,顧客に対してMの社債を販売す
る営業活動を行い,その後,Oに移籍して,Lの社債を販売する営業活
動を行っていた者である。被告Kは,平成25年5月頃のLの営業停止
まで,Oの従業員であった。(甲全66,弁論の全趣旨)
P,M又はL(以下「L等」という。)による社債販売及び原告らによる
社債購入
ア被告Aは,平成15年頃,信用保証業務を行っていた会社(後にPに社
名変更)を買収し,平成19年より,事業会社から債権を買い取り,消費
者から回収して買取り価格との差額を得る事業を行うようになった。そし
て,債権の買取りの資金を調達するために,「クレジット債権購入ファン
ド」として,予想配当金利年18パーセント等と謳い,資金を集めるよう
になったが,金融商品取引法(以下「金商法」という。)の改正や監督官
庁によりPに対する指導が行われたことなどから,同年12月,Pとは別
会社としてMを設立し,同社において,社債販売の形態で,資金調達を開
始した。
そして,その後,Mで行っていた社債発行による資金調達事業は,Lに
事実上引き継がれ,Lにおいて前記社債販売を継続することになった(以
下,P,M又はLにおいて募集された高利の「クレジット債権購入ファン
ド」又は社債を「本件社債」という。)。なお,資金調達形式は,ファンド
から社債に変わったものの,その販売方法は,M及びLにおいても概ね踏
襲されていた。(甲全37,54,60,65)
イ原告らは,消費者であるが,L等の従業員の勧誘又はL等から本件社債
を既に購入していた知人から紹介を受け,かつ,L等の従業員から本件社
債の内容等に関する説明を受け,平成19年頃から平成25年頃までの間
に,本件社債を購入した。
亡原告30は平成27年6月29日死亡し,原告29が同人の本訴請求
権を相続した。亡原告33は平成28年8月16日死亡し,原告33訴訟
承継人33の1が5分の2,同33の2が5分の3の割合で,亡原告33
の本訴請求権を相続した。亡原告43は平成28年4月27日死亡し,原
告43訴訟承継人43の1と同43の2が各2分の1の割合で,亡原告4
3の本訴請求権を相続した。亡原告68は,平成29年4月23日死亡し,
原告68訴訟承継人68の1と同68の2が各2分の1の割合で,亡原告
68の本訴請求権を相続した。(甲全10,甲1ないし82の2,弁論の
全趣旨)
ウL等においては,本件社債の勧誘に当たり,本件社債は次のようなもの
であるという説明をしていた。(甲全10,12ないし15)
L等は,社債権者(以下「顧客」という。)から集めた資金を,海外
企業や関連会社に対する投資に充てたり,不良債権の回収事業等に充て
ることによって,収益を上げる。
L等は,上記事業により得た収益を原資として,顧客に対する利息の
支払(配当)及び元金の返済を行う。
L等による本件社債の販売方法
L等は,本件社債の販売人数の上限を49人,募集金額を4億9000万
円(ただし,後に9900万円とされた。)として,「●回債」などと回債
の番号を付した上で,その販売を行っていた。購入希望者が前記上限を上回
る場合には,新たな社債として回債を変えて販売を行っていた。(甲全13
ないし15,33,54)
Lに対する返金請求及び強制捜査等
本件社債の販売に関しては,遅くとも平成22年9月頃以降,顧客の代理
人弁護士から,違法な預り金に当たるなどと主張され,元本の返金請求がな
されることがあった。また,平成23年2月頃には,Lの預金口座に対し,
犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律
3条1項に基づく口座凍結が行われた。さらに,Lは,同年11月頃からは
上記社債販売について金商法違反(無届けの私募債募集)の疑いで東海財務
局による調査を受け,平成24年7月31日には愛知県警察から強制捜査を
受けた。
このため,同年8月頃以降,本件社債の解約申出が加速し,Lは,同年1
0月頃からは分割払いで対応するようになった。そして,平成25年4月末
の社債償還及び同年5月10日の利払が困難になって支払を停止し,同年6
月13日,破産手続開始申立てをした。(甲全5,8,37,48)
被告A,被告D,被告E及び被告Fに関する刑事事件
被告A及び被告Dは,平成25年10月,本件社債の販売が違法な預り金
に当たるとして,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(以
下「出資法」という。)違反事件の被疑者として逮捕・勾留された。そして,
被告A及び被告Dは,同月23日,出資法違反事件の被告人として,起訴さ
れた。
上記公訴の提起を受けた名古屋地方裁判所は,平成26年6月3日,「被
告A及び被告Dは,被告Eらと共謀の上,平成23年3月10日頃から平成
25年5月1日頃までの間,不特定かつ多数の相手方である顧客らから,5
2回にわたり,合計1億5500万円を,いずれも元本額及び所定の利息を
支払うことを約して受け取り,もって業として預り金をした」旨の犯罪事実
を認定した上で,被告Aに対して懲役1年8月,被告Dに対して懲役2年・
執行猶予4年の有罪判決を宣告した。
また,被告E及び被告Fについても,被告A及び被告Dと同様の犯罪事実
が認定された上で,それぞれ懲役2年・執行猶予4年の有罪判決が宣告され
た。(甲全1ないし3,53,59,63)
Lの破産手続の推移
Lの破産管財人であるQ弁護士(以下「Q管財人」という。)は,被告A
がLの事実上の代表取締役として損害賠償責任を負うと主張し,被告Aに対
する役員責任査定の申立てをした。そして,同申立てを受けた名古屋地方裁
判所は,被告Aについて,Lの事実上の代表取締役であったにもかかわらず,
取得したとする金融債権のリストと債権証書を保管することもなく,債権回
収を委託したとする債権の特定も,委託契約の内容も具体的に明らかにしな
いものであるから,事実上の代表取締役としての善管注意義務に違反すると
判断し,会社法423条1項に基づき,Lの被告Aに対する損害賠償請求権
の額を,41億6889万1295円及び遅延損害金と査定した。
また,Q管財人は,被告D及び被告Gについても役員責任査定の申立てを
行ったところ,同申立てを受けた名古屋地方裁判所は,被告D及び被告Gの
両名について,Lが取得する金融債権の管理体制を適切に構築した上で金銭
債権購入のための資金を支出すべき注意義務があるのに,これに違反したと
判断し,Lの被告Dに対する損害賠償請求権の額を1億3778万円及び遅
延損害金と査定し,Lの被告Gに対する損害賠償請求権の額を1億3245
万9172円及び遅延損害金と査定した。(甲全39,40)
3争点
各被告共通
ア本件社債の販売の違法性(争点①)
イ損害額(争点②)
ウ原告らの損害と受領した利息との間の損益相殺の可否(争点③)
被告A関係
ア被告Aは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか(争点④)
イ被告Aは,Lの実質的な代表者として,会社法429条1項(類推適用)
に基づく責任を負うか(争点⑤)
被告C関係
ア被告Cは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任又は不法行為の幇
助責任を負うか(争点⑥)
イ被告Cは,本件社債の販売に関して原告らに対する会社法350条に基
づく責任を負うか(争点⑦)
被告B関係
ア被告Bは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか(争点⑧)
イ被告Bは,被告Cの取締役として,会社法429条1項に基づく責任を
負うか(争点⑨)
被告D関係
ア被告Dは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか(争点⑩)
イ被告Dは,Lの取締役として,会社法429条1項に基づく責任を負う
か(争点⑪)
被告E関係
ア被告Eは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか(争点⑫)
イ被告Eは,本件社債の販売に関して,Lの従業員の代理監督者責任(民
法715条2項)を負うか(争点⑬)
ウ被告Eは,Lの事実上の取締役として,会社法429条1項(類推適用)
に基づく責任を負うか(争点⑭)
被告F関係
ア被告Fは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか(争点⑮)
イ被告Fは,被告Cの取締役として,会社法429条1項に基づく責任を
負うか(争点⑯)
被告G関係
ア被告Gは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか(争点⑰)
イ被告Gは,Lの取締役として,会社法429条1項に基づく責任を負う
か(争点⑱)
勧誘担当者関係
ア被告Hは,勧誘を担当した顧客に対し,本件社債の販売に関して共同不
法行為責任を負うか(争点⑲)
イ被告Iは,勧誘を担当した顧客に対し,本件社債の販売に関して共同不
法行為責任を負うか(争点⑳)
ウ被告Jは,勧誘を担当した顧客に対し,本件社債の販売に関して共同不
法行為責任を負うか(争点㉑)
エ被告Kは,勧誘を担当した顧客に対し,本件社債の販売に関して共同不
法行為責任を負うか(争点㉒)
4争点に関する当事者の主張
各被告共通
ア争点①(本件社債の販売の違法性)について
(原告らの主張)
本件社債の販売は,詐欺に当たる上,出資法,金商法にも違反するもの
である。その詳細は次のとおりである。
本件社債の販売が詐欺に該当すること
本件社債は,年利6.4パーセント以上の高利の配当を謳って一般消
費者である原告らに対して販売されたものであるが,本件社債の発行主
体であるL等は,原告らに対する高利配当を維持できるほどの収益又は
収益構造を有していなかった。したがって,近い将来,高利配当及び元
本償還が不可能となることが明らかであるにもかかわらず,L等におい
ては,これができるかのように装った上で,原告らを無差別に勧誘し,
社債を販売し続けた。そうすると,本件社債の販売は,原告らに対する
詐欺に当たり得るものである。この点を詳述すると,次のとおりである。
aL等が高利配当を維持し得る収益又は収益構造を有していなかった
こと
社債発行会社は,社債償還時に社債権者に対して社債元本を一括返
済する必要があるから,社債の発行による資金調達は,分割返済であ
ることが多い金融機関からの借入れや返済の必要がない株式発行によ
る資金調達に比べ,償還時の資金的負担が極めて大きい。それゆえ,
社債発行による資金調達を行う場合には,社債の利息支払を定期的に
行うとともに,元本返済に充てることができる資金を現預金といった
キャッシュの形で計画的にストックしなければならない。
すなわち,社債発行会社は,社債の発行に当たり,償還期日におけ
る元本返済の見込みの有無を慎重に判断して経営しなければならない
ところ,このことは,資金のほとんどを社債発行により調達していた
L等については特に妥当するものといえる。
しかしながら,そもそもL等を実質的に支配し,調達した資金運用
を一手に担っていた被告Aは,本件社債により原告らから得た金銭を
着服し,あるいは,個人的な利殖目的で海外等に流出させたのであっ
て,元本償還に行き詰ることのないように現預金を積み立てることを
一切していなかった。
元本償還のための資金の積立てすらされていない本件社債は,そも
そも,近い将来高利配当及び元本償還が不可能となる詐欺的な金融商
品であり,本件社債販売当初から詐欺目的で販売されていたものとい
える。
bL等の従業員による勧誘態様
高利の利息を支払った上で,元本を一括償還する本件社債は,上記
のように支払が不可能になって破たんすることが必至な金融商品であ
った。このように,L等には年利6.4パーセント以上もの社債利息
の支払及び社債元本償還を継続できるだけの収益及び収益構造がな
く,設立当初よりいずれかの段階で配当又は元本償還の原資の調達に
行き詰り,支払が不能となって破たんすることが明らかであるのに,
L等の従業員は,高利配当の理由が真実であり,本件社債の元本は必
ず償還されるとして,「元本確保」なる勧誘文言を用いるなどして社
債購入を勧誘し続け,原告らをして,高利配当及び元本の返還が確実
であると誤信させたものである。
c小括
以上述べたところによれば,本件社債の販売は,原告らに対する詐
欺に当たるといえる。
本件社債の販売が出資法に違反すること
本件社債の販売事業は,法定の除外事由がないのに,不特定多数の者
から元本及び利息の支払を約して金銭を預かるという「預り金」に該当
するものであって,出資法2条1項に違反するものであった。出資法違
反は刑事罰によって禁圧されており,同法違反によってされた社債販売
ないし勧誘行為は,私法上も公序良俗違反として無効であるのみならず,
顧客らに対する違法行為となる。
本件社債の販売が金商法に違反すること
a本件社債の販売が無届募集であること
社債発行会社は,社債の募集又は売出しが「少人数私募」に当たら
ない限り,社債の募集又は売出しに当たり,募集又は売出しの届出及
び有価証券届出書の提出を行う必要がある(金商法4条,5条1項)
ほか,顧客らに対して目論見書を交付する必要がある(同法13条1
項)。そして,本件社債は,不特定多数の相手方に対して無差別に電
話をかけて,その購入を勧誘されたものであり,「少人数私募」には
当たらないにも関わらず,前記届出や目論見書の交付などが行われて
いない。なお,金商法上の上記義務違反は,刑事罰の対象にもなるも
のであり(同法197条の2第1項),同違反行為によってなされた
本件社債販売は,私法上も公序良俗違反として無効であるのみならず,
顧客らに対する違法行為となる。
b適合性原則違反について
金融商品取引業者は,金融商品取引行為について,顧客の知識,経
験,財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適
当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとならないよ
う業務を行わなければならない(適合性原則。金商法40条1項)と
ころ,同様の規律は,金商法の定める金融商品取引業者でないL等に
対しても及ぶものである。
しかるに,L等の従業員による勧誘行為は,原告らの経歴,投資等
に関する知識,経験,社債の購入目的等に照らし,全ての原告らとの
関係で適合性原則に違反するものであった。
c説明義務違反について
金融商品取引業者は,顧客の勧誘に際し,顧客が不測の損害を被る
ことがないよう,顧客の経験,知識,能力に照らして,顧客の理解に
必要十分な範囲で説明を行う義務を負うところ,同様の規律は金融商
品取引業者でないL等に対しても及ぶ。そして,上記で述べたと
ころによれば,原告らに対する本件社債の販売に際し,前記説明義務
を満たした説明がされたとはいえない。
(被告A,被告C及び被告B(以下「被告Aら」という。)の主張)
本件社債の販売は出資法に違反する違法な預り金であったが,本件社債
の販売が無許可の預り金であることによって,本件社債の販売が直ちに違
法と評価されるものではない。
また,Lにおいては,社債購入者から預かった資金を運用し,その利益
によって社債の償還及び配当を行っていたものであって,現にLは平成2
1年に会社を設立して社債の販売を始めてから平成24年7月までの約3
年間,何ら問題なく元本償還を行い,平成25年4月までは利息の支払を
滞りなく行っていた。Lが元本償還及び利息の支払に支障を生じるように
なったのは,平成24年7月31日に警察による強制捜査を受け,同年8
月以降に名古屋国税局により,Lの出資金や貸付金が差し押えらえたため,
資金繰りが悪化したことによる。以上のことからすれば,Lにおいて,本
件社債の元本償還及び利息支払を継続できるだけの収益又は収益構造を有
していなかったとはいえない。Lは警察の捜索差押えを受けた同年8月以
降,新規の社債募集を停止しており,社債の償還及び配当が困難な状況で
社債を募集したこともない。
また,原告らは金商法違反を主張するが,金商法は取締法規にすぎない
から,これに違反する行為が直ちに不法行為を構成することはない。
(被告D及び被告Eの主張)
本件社債の販売が詐欺であるかについて
不知,否認ないし争う。被告D及び被告Eは,本件社債販売の詳細に
ついて関知していないが,配当や元本償還等は可能であるという認識で
あり,支払不能になって破綻するという認識はなかった。
本件社債の販売が出資法に違反するかについて
被告D及び被告Eにおいて,本件社債の販売(預り金)が出資法に違
反するという認識はなかった。
本件社債の販売が金商法に違反するかについて
本件社債の販売が少人数私募の要件を満たさないことは認めるが,そ
の余は否認ないし争う。被告D及び被告Eは少人数私募の要件を満たす
ものと信じていた。なお,Lは金融商品取引業者でないから適合性原則
違反及び説明義務違反の問題が生じる余地はない上,原告らによる適合
性原則違反,説明義務違反の主張には具体性がない。さらに,金商法は
公法上の業務規制であるから,同法違反の事実が直ちに民法上の不法行
為を構成するわけでもないし,金商法違反(無届け募集)と損害の間に
は因果関係もない。
(被告Fの主張)
本件社債の販売が詐欺であること,出資法及び金商法に違反することに
ついては,不知ないし否認する。被告Fは,被告A又は被告Dの指示に基
づいて経理業務,総務的な事務,雑用をしていただけであり,具体的な勧
誘の態様,Lの実際の財務状況,配当の見込み等については何も知らされ
ていなかった。
(被告Gの主張)
否認する。本件社債販売について,詐欺事件として起訴された事実はな
い。
(被告H及び被告Jの主張)
否認する。
(被告I及び被告Kの主張)
不知
イ争点②(損害額)について
(原告らの主張)
社債購入
原告らは,少なくとも,別紙購入社債一覧表【原告請求】に各記載の
とおり,M又はLから社債を購入し,同表の「償還の有無」欄において
「償還未了」と記載されている社債については,未だその元本について
現実の償還を受けていない。
弁護士費用
原告らは弁護士に委任して本訴を提起せざるを得なかった。各原告ら
について本件と相当因果関係のある弁護士費用は,次の金額を下らない。
a原告73,74以外の原告関係別紙請求額一覧表(原告73,7
4以外関係)の「請求」欄中,それぞれ対応する「弁護士費用」欄に
記載の額
b原告73被告A及び被告Dについては300万円,被告C,被告
B,被告E,被告F及び被告Gについては35万円
c原告74被告Aについては600万円,被告Dについては450
万円,被告C,被告B,被告E,被告F及び被告Gについては65万

(被告A,被告C,被告B,被告D及び被告Eの主張)
否認ないし争う。
(被告Fの主張)
原告らの社債購入については不知,弁護士費用については否認ないし争
う。
(被告Gの主張)
社債購入については不知。弁護士費用は争う。
(被告H,被告I,被告J及び被告Kの主張)
否認する。
ウ争点③(原告らの損害と受領した利息との間の損益相殺の可否)につい

(被告D及び被告Eの主張)
原告らが受領した配当は,原告ら主張の損害から損益相殺されるべきで
ある。なお,本件社債の販売は,いわゆるヤミ金融や詐欺のような反倫理
的行為には当たらないから,原告らが受領した配当金は損益相殺ないし損
益相殺的な調整の対象となるというべきである。
(原告らの主張)
本件社債の販売は反倫理的行為であるところ,原告らが多大な損害を被
っていることや原告らには何らの落ち度がないことを考慮すれば,衡平の
観点から損益相殺をすべきではない。
また,本訴請求は一部請求であるところ,仮に損益相殺されるとしても,
一部請求額の残余額を上回る相殺額になることはないから,上記被告D及
び被告Eの主張は,原告らの請求額を左右するものではない。
被告A関係
ア争点④(被告Aは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか)
について
(原告らの主張)
被告Aは,L及びMの100パーセント株主であるが,M時代に本件社
債の販売という詐欺商法を発案し,その関連会社,役員らや従業員らを組
織化して同商法を実践し,L設立後もこれを引き継いだものである。そし
て,被告Aは,顧客から集めた資金の投資先を独占的に決定する立場にあ
り,総額41億円もの資金を扱い得る立場となったものであるが,これを
着服し,あるいは個人的な利殖目的で,被告Cを含めて関連会社を経由し
て海外等に流出させたものであるといえる。
このように,本件社債販売による集金スキームを自ら発案し,これを組
織化して統括していた被告Aは,自ら本件社債の販売という詐欺行為を主
導的に行っていたものといえるから,顧客である全ての原告らの社債購入
に関して,他の被告らとともに共同不法行為責任を負う。
また,この点を措くとしても,本件社債の販売は,出資法及び金商法に
違反するものであることは上記のとおりであり,被告Aは,このような違
法行為を主導して行ったものともいえるから,この点をみても,顧客であ
る全ての原告らの全ての社債購入に関し,共同不法行為責任を負う。
(被告Aの主張)
争点①(被告Aらの主張)に記載のとおり,Lは,本件社債の元本償還
及び利息支払を継続できるだけの収益又は収益構造を有しており,原告ら
に本件社債を販売した時点で社債の償還及び配当ができなくなることは,
被告Aには予見できなかった。
また,被告Aにおいて,本件社債販売当時,その販売が出資法に違反す
る違法な預り金に当たることを認識していたことは認めるが,出資法違反
や金商法違反の事実は,直ちに不法行為を構成するものではない。加えて,
本件社債の勧誘方法等については,金融商品販売のノウハウを持っていた
被告Dらが発案して決定し,業務を遂行していたため,被告Aはその勧誘
態様等の詳細を把握していなかった。さらに,Mが私募債を発行する際に
は,東海財務局に具体的募集文言と内容を説明し,同局から問題なしとい
う回答を得た上で事業を開始している。それゆえ,仮に本件社債の勧誘方
法に違法性があるとしても,被告Aに故意も過失もない。
以上によれば,被告Aが原告らに対する共同不法行為責任を負うことは
ない。
イ争点⑤(被告Aは,Lの実質的な代表者として,会社法429条1項(類
推適用)に基づく責任を負うか)について
(原告らの主張)
争点④(原告らの主張)に記載のとおり,被告AはL及びMの100パ
ーセント株主であった。また,被告Aは,自ら「Lグループ」の代表と称
し,本件社債の購入に当たって用いられたLのパンフレットにおいて,L
を取り巻く状況や同社の将来について述べるなど,対外的にもLの代表者
としてふるまっていた。以上のことからすれば,被告AはLの実質的な代
表者としての地位・役割を有していたものといえる。
Lにおける前記の地位・役割に照らせば,被告Aは,Lの役員や従業員
をしてその業務を適正・適法に行わせるように監督し,従業員の違法行為
を防止する管理体制を整備すべき義務があったのに,少なくとも重大な過
失により前記義務を怠り,組織的詐欺である本件社債の販売や,L従業員
らによる違法な勧誘行為を監督又は防止しなかったものである。
したがって,被告Aは,本件社債を購入した全ての原告らに対し,会社
法429条1項(類推適用)に基づく責任を負う。
(被告Aの主張)
被告AがL及びMの100パーセント株主であることは認めるが,その
余は否認ないし争う。争点④(被告Aの主張)のとおりであるから,被告
Aに悪意・重過失は認められない。
被告C関係
ア争点⑥(被告Cは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任又は不法
行為の幇助責任を負うか)について
(原告らの主張)
被告Cは,Lが組織的詐欺商法である本件社債の勧誘を行う際に,海外
投資事業を行っているかのような外観を作出することに関与したり,Lが
顧客から得た資金を他社に移転させたりすることにより,本件社債の販売
という違法行為を積極的に援助・助長し,加担してきたものであるから,
Lとともに共同して本件社債の販売(違法行為)を行ったものといえ,少
なくともLによる本件社債の販売(違法行為)を幇助したものである。こ
の点を詳述すると,次のとおりである。
Lと被告Cの取締役の構成等
被告Cの本店所在地はL及びOの本店所在地と同じである上,Lの実
質的な代表者である被告Aが被告Cの取締役を,その妻である被告Bが
被告Cの代表取締役を務め,さらにLの経理担当者であり財務・経理関
係を取り仕切っていた被告Fが被告Cの取締役を務めるなど,L及び被
告Cの役員も重複していた。
被告Cが,本件社債の勧誘に必要不可欠な虚偽の外観の作出に関与し
たこと
Lは,本件社債の勧誘に際して発行したパンフレット等において,被
告Cが現地法人として設立した会社がLの海外における事業拠点である
かのように記載し,この点を重要なアピールポイントとして本件社債の
勧誘活動を行っていた。被告Cの現地法人をLの事業拠点であるとアピ
ールすることはLにおける本件社債の勧誘にとって必要不可欠であった
ところ,被告Cは,その現地法人が上記のようにLの違法な社債販売に
利用されていることを認識していたのに,何らの是正措置を講じなかっ
た。このように,被告Cは,本件社債の勧誘に際して説明されたLの海
外事業という,本件社債勧誘に際して必要不可欠な事項に関する虚偽の
外観の作出に関与したものである。
被告A及びLの資産と被告Cの資産が混然一体となっており,被告C
の口座はLの事業にも用いられていたこと
被告Cの預金口座には,Lから極めて多額の現金が流入・流出してい
るところ,この資金移動は契約関係に基づいて行われたものではなく,
被告Aの指示のもとになされていたものである。すなわち,本件社債を
購入した顧客らが支払った現金は被告Cへと流れ込んでいたところ,そ
の会計処理は「仮払金」「仮受金」とされたまま,早期に本来の勘定科
目に振り分けられることもなかったのであり,合理的な裏付けのない金
銭移動であることが明らかである。また,被告CからLに対しては,約
5500万円から6600万円にも及ぶ趣旨不明の貸付けが行われてお
り,原告らの求釈明にもかかわらず,被告Cから貸付金の根拠等は明ら
かにされていない。加えて,被告Cの資金はLの運転資金(役員報酬,
従業員の給与等)に流用され,被告Cの取引先とLの取引先はその大部
分が重複している上,被告A及び被告Fが,いずれもLと被告Cの資金
が混然一体となっていたことを認めている。
さらに,被告Cの口座には,多数回にわたって被告Aの金が流入・流
出し,被告Aの資金とも混然一体となっていたものであって,このこと
も併せ考えると,被告A,Lと被告Cの財産は混然一体となっており,
被告Cの口座がLの事業活動のために用いられていたものといえる。そ
して,被告Cの預金口座の使途は被告Aが判断して決めていた。
被告Cは,本件社債の販売で得た資金を他社(実質的には被告A。形
式的には,捜査機関やLの破産管財人による追及を受けにくい海外の関
連会社等)に移転するために必要不可欠な存在であったこと
被告Cは,Lから本件社債の販売により得た資金の移転を受けた後,
多くの会社に対して貸付金及び出資金などの名目(「投資その他の資産」
名目)で現金を流出させているが,いずれも実態を欠くものである上,
被告Aやその親族が役員や株主である会社が流出先となっており,実質
は被告Aへの送金と同義である。他方,被告Aが供述する被告Cの事業
(飲食業・海外投資に関するコンサルティング事業)はいずれも事業と
して成立していなかった。
すなわち,被告Cの存在価値は,Lが顧客から集めた資金を,被告C
を介在させて,被告Aに移転させる点にあったのであり,被告Cは,L
が本件社債の販売により得た資金を安全な場所(特に,被告Aの兄が代
表理事を務め,被告A及び被告Bが社内理事を務めるCコリアに移転さ
せ,顧客からの責任追及を免れるために必要不可欠な役割を担っていた
ものである。これにより,Lが顧客から社債名下で受領した資金のほと
んどは所在不明の状態に陥り,本件社債の償還は不可能になった。
小括
以上によれば,被告Cは,本件社債の販売という違法行為を積極的に
援助・助長し,加担したものといえ,Lとともに共同して本件社債の勧
誘行為(違法行為)を行ったものといえる。また,少なくともLや他の
被告らによる本件社債の販売(違法行為)を幇助していたものと認めら
れる。
(被告Cの主張)
(原告らの主張)のうちの事実は認めるが,その余は否認ないし争う。
Lと被告Cの仕事の内容は完全に分離されており,被告Cは,国内外の
会社に対する投資事業,ミュージックレストラン「R」の経営,日本酒の
販売事業等を行っていたのであるから,両社が一体として機能していたわ
けではない。また,被告CとLの間で金銭の出入金がされているのは,両
社が共同出資をしたり,Lが被告Cを介して海外事業に出資をしたり,相
互に事業資金を貸付け・返済したりしていたことによる。被告Aも,被告
Cに事業資金が不足したときに貸付けを行い,被告Cは余裕ができたとき
にこれを返済していたものである。したがって,被告A及びLと被告Cと
の間で金銭の授受があったとしても,被告CがLの事業活動に用いられて
いたことを意味することにはならない。
そして,被告Cの預金の使途について被告Aが判断していたこともない。
さらに,被告Cが他社に金銭を送金したのは,被告Cの事業としての投資
活動に基づくものであり,多くの投資先については被告Cからの出金額よ
りも被告Cへの入金額の方が多いし,被告Cからの出金額の方が多いCコ
リアについても投資回収見込みが十分にあったのであるから,被告Cが本
件社債の発行により得た金銭を他社に移転させるための存在であったとの
事実もない。
さらに,Lのパンフレットに記載されている海外法人は被告Cの現地法
人ではなく,被告Cとは何らの関連性もない。被告Cが積極的にLの行う
事業に協力していた事実はない。
以上によれば,被告Cが本件社債の販売に関し,共同不法行為責任を負
うことも,不法行為の幇助責任を負うこともない。
イ争点⑦(被告Cは,本件社債の販売に関して原告らに対する会社法35
0条に基づく責任を負うか)について
(原告らの主張)
争点⑧(原告らの主張)に記載のとおり,本件社債の販売に関して被告
Bに不法行為責任が成立するところ,被告Bは,被告Cの代表取締役とし
ての職務を行うについて前記不法行為に及んだものであるから,被告Cは
会社法350条に基づく責任を負う。
(被告Cの主張)
否認ないし争う。
被告B関係
ア争点⑧(被告Bは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか)
について
(原告らの主張)
被告Bは,被告Bの夫でありLの実質的代表者である被告Aとともに,
被告CをしてLとの間で,海外事業に係る虚偽の外観を作出し,密接な
人的・財務的関係を有しつつ一体となって本件社債の販売(違法行為)
を行ったものであるから,他の被告らとともに,本件社債を購入した原
告らに対して共同不法行為責任を負う。
また,被告Bは,被告Aの求めに応じて被告Cの代表取締役への就任
を承諾し,被告Cの設立手続に関与し,その事業としての飲食事業に関
わったほか,被告Cが金融事業を営んでいることやその収益構造も理解
した上で毎月被告Cの代表取締役としての給与の振り込みを受けてい
た。このように,被告Bは,被告Cの事業内容が,Lと密接な人的・財
務的関係を持ちながら,本件社債の販売という組織的詐欺行為を行うも
のであることを認識していた。そうであるのに,被告Bは,被告CがL
と行っていた違法行為を容認し,助長していた。また,仮に上記のよう
にいえなくても,被告Bは,被告Cの代表取締役として,被告Cの事業
内容を理解し,被告CがLと違法行為を行うことを防止しなかった。
したがって,被告Bは,被告Cによる本件社債の販売(違法行為)を
容認し,助長したものとして,他の被告らとともに,本件社債を購入し
た原告らに対する共同不法行為責任を負う。
(被告Bの主張)
(原告らの主張は否認ないし争う。
また,争点①(被告Aらの主張)に記載のとおり本件社債の販売は違
法行為に当たらず,争点⑥(被告Cの主張)に記載のとおり被告Cは不
法行為責任を負わないのであるから,被告Bが被告Cの違法行為を容認
・助長したとする原告らの主張は,前提を欠く。
そして,被告Bは,被告Aの仕事の内容を知らず,Lが私募債を発行
していることを認識していなかったのであり,本件社債の発行事業に何
ら関与しておらず,その違法性を全く認識していなかった。そのため,
仮に本件社債の販売が違法であるとしても,被告Bが違法行為を行った
とはいえないし,故意も過失も存在しない。被告Bは,本件社債の販売
について共同不法行為責任を負わない。
イ争点⑨(被告Bは,被告Cの取締役として,会社法429条1項に基づ
く責任を負うか)について
(原告らの主張)
被告Bは,被告Cの代表取締役として,被告Cの業務を適正・適法に
行わせるように監督し,被告Cの役員らの違法行為を防止する管理体制
を整備すべき地位にあったものである。そうであるのに,被告Bは,少
なくとも重大な過失により前記任務を怠り,Lによる本件社債の販売(違
法行為)に対する被告Cの関与を監督又は防止しなかった。したがって,
被告Bは,被告Cの取締役として,本件社債を購入した原告らに対し,
会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。なお,これを基礎付
ける具体的な事実は,争点⑧に対する(原告らの主張)に記載のとお
りである。
なお,被告Bは,名目的取締役であるから会社法429条1項に基づ
く損害賠償責任を負わないと主張するが,被告Cの事業内容を理解した
上でその代表取締役への就任を承諾している上,被告Cから毎月70万
円程度の高額な報酬も受け取っていたのであるから,被告Cの代表取締
役として会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。
(被告Bの主張)
原告らの主張は否認する。
また,争点①(被告Aらの主張)に記載のとおり本件社債の販売は違
法行為に当たらず,争点⑥(被告Cの主張)に記載のとおり被告Cは不
法行為責任を負わないから,被告Bに被告Cの取締役としての任務懈怠
があるとする原告らの主張は前提を欠く。
そして,被告Bは,被告Cの名目上の代表取締役にすぎなかった。す
なわち,被告Bの代表取締役就任手続は被告Aらが行ったものであり,
被告Bは被告Cの業務に一切関与したこともなく,被告Cの組織,体制,
業務等については,被告Cが飲食業を営むということ以外には,一切知
らなかった。さらに,被告Bは,被告Cの業務に関する能力を有してお
らず,被告Aによる業務内容決定に対する影響力も有していなかった。
したがって,被告Bについては,代表取締役としての任務懈怠につき悪
意又は重過失がない。
さらに,被告Bには会社経営の経験はなく,会社経営の是非及び当否
について判断し得る状況にはなかったし,被告Cの代表取締役にすぎな
い被告Bには,Lの事業内容を監督し,本件社債の販売を止めさせるこ
とはできなかった。また,仮に被告BがLの事業状況について何らかの
調査をしたとしても,Lが平成24年7月まで問題なく元本償還及び配
当を行い,平成25年4月までは配当を滞りなく支払っていたことから
すれば,被告Bにおいて本件社債の販売が違法行為に該当すると判断す
ることは不可能であった。加えて,被告Bが選択し得るのは,被告Cと
Lの取引中止のみであり,Lをして本件社債販売を中止させることは不
可能である。以上によれば,仮に被告Bに被告Cの取締役としての任務
懈怠があるとしても,原告らの損害との間には因果関係がない。
被告D関係
ア争点⑩(被告Dは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか)
について
(原告らの主張)
被告Dは,P,M及びLを通じて本件社債の販売業務に携わり,平成1
9年12月28日以降はLの前身であるMの代表取締役に,平成23年9
月30日以降はLの代表取締役に,それぞれ就任したものである。被告D
は,長年にわたり商品先物取引業者等で要職を歴任し,行政処分を受けた
業者で勤務した経験もあったことから,金融商品取引の業界に精通し,金
融商品取引に関する豊富な知識・経験を有していた。
したがって,被告Dは,不特定多数の者に少人数私募債を勧誘すること
が違法であることを認識し,少なくとも認識し得たものである上,Lにお
いて本件社債の勧誘に当たり組織的に用いていた「元本確保型」という言
葉が,顧客をして元本が必ず戻ってくると信用する可能性が高い用語であ
ることを認識していた。にもかかわらず,被告Dは,L設立以後も漫然と
不特定多数に対する少人数私募債として本件社債の勧誘を継続する一方,
Lにおける資金運用を被告Aに一任し,その実態について何ら把握するこ
とも,調査・確認をすることもしなかった。
以上によれば,被告Dは,被告Aをはじめとする他の被告らと共同して,
上記のとおりLによる組織的な違法行為(組織的詐欺に当たるのみならず,
出資法・金商法にも違反することは争点①(原告らの主張)に記載のとお
りである。)を指導し,又は関与・助長していたといえる。したがって,
被告Dは,本件社債を購入した全ての原告らに対し,他の被告らとともに
共同不法行為責任を負うものである。
(被告Dの主張)
被告Dには,本件社債の販売に関して故意及び過失がないため,共同不
法行為責任は成立しない。すなわち,被告Dは,本件社債の販売が違法行
為に当たるという認識を有していなかったのであって,組織的詐欺行為を
行うことについて故意も過失もなかった。
Lを統括していたのは,同社のオーナーである被告Aであり,新たな社
債の発行及び社債の利率の決定などは全て被告Aが決定していて,被告D
は実際の資金運用については全く関与していない。そして,被告Dは,被
告Aから資産運用の方法について具体的な説明を受けていた上,Lが有す
る金融債権の回収が困難であることの兆候や,被告AがLの資産価値を毀
損していることの兆候もなかったのであるから,本件社債の償還が不可能
になることを予見できなかった(このことは被告D自身がLの社債を購入
していることによっても裏付けられる。)。被告Dの実質は代表取締役と
いうより一従業員にすぎず,従属的立場にあるにすぎなかったのであるか
ら,被告Dにおいて本件社債の販売スキームを抜本的に変更するなどの結
果回避措置を採ることもできず,結果の回避可能性もない。したがって,
被告Dには注意義務違反はなく,本件社債の販売に関して過失はない。
そして,被告Dは,Lにおいて各支店の責任者から営業報告を受けてこ
れを被告Aに報告するという業務を行っていたものであって,営業に関す
る業務は行っていたものの,営業活動は各支店の営業担当者が行っていた
ものであり,具体的な営業活動は関知していなかったため,違法な勧誘は
行われていないと認識しており,違法な勧誘を指示したこともなかった。
少人数私募債についても,被告Aが東海財務局に確認をとっていて大丈夫
だとの説明を受けていた。したがって,Lにおける勧誘活動が違法である
としても,この点について,被告Dには故意も過失もない。
以上によれば,被告Dは本件社債の販売について共同不法行為責任を負
わない。
イ争点⑪(被告Dは,Lの取締役として,会社法429条1項に基づく責
任を負うか)について
(原告らの主張)
争点⑩(原告らの主張)に記載のとおり,被告Dは,金融商品取引の業
界に精通しており,本件社債の販売が違法であることを認識し,あるいは
認識し得たものである。以上を前提とすれば,被告DがLの代表取締役に
就任した平成23年9月30日以降については,Lの代表取締役として,
同社の従業員をしてその業務を適正・適法に行わせるように管理・監督し,
従業員の違法行為を防止する社内管理体制を整備すべき地位にあったとこ
ろ,被告Dは,Lの資金運用を被告Aに一任し,資金運用の状況について
何ら把握することも,本件社債の販売が法令に抵触しないかを調査・確認
することもしなかったのであるから,少なくとも重大な過失により前記任
務を怠り,本件社債の違法な販売を監督又は防止しなかったものである。
したがって,被告Dは,本件社債を購入した全原告に対し,会社法429
条1項に基づく損害賠償責任を負う。
なお,被告Dは,代表取締役という地位にあり,月額120万円という
高額な報酬を受領していたのであるから,仮に実質的には権限のない名目
的な代表取締役であったとしても,代表取締役としての前記責任を免れる
ものではない。
(被告Dの主張)
まず,被告DがLの代表取締役に就任する前である平成23年9月3
0日より前に発生した損害に関しては,被告Dに任務懈怠も,任務懈怠
との因果関係もないから,被告Dがその損害賠償責任を負わない。
また,争点⑩(被告Dの主張)に記載のとおり,被告Dは,組織運営
上の理由から,Lのオーナーである被告Aの指示で,Lの代表取締役に
据えられたにすぎず,形式上代表取締役の地位を与えられていたにすぎ
ない。したがって,被告Dには代表取締役としての代表権や業務執行権
は全くなく,従業員と同じような立場にあった。被告Dは,Lにおいて
各支店から営業報告を受け,これを被告Aに報告する業務に従事してい
ただけであるから,被告Dの業務範囲はLの業務執行全般に及ぶと解す
べきではなく,営業面に限定されるというべきである。したがって,被
告Dが被告Aによる資金運用や社債の発行について監視・監督を行わな
かったとしてもLの取締役としての任務懈怠があったということはでき
ない。
また,仮に被告DにLの取締役としての任務懈怠があるとしても,悪
意又は重過失があるとは認められないことは,争点⑩(被告Dの主張)
に記載のとおりである。
以上によれば,被告DにはLの取締役として,悪意又は重過失に基づ
く任務懈怠は認められない。被告Dは,本件社債を購入した原告らに対
し,Lの取締役として会社法429条1項に基づく損害賠償義務を負う
ことはない。
被告E関係
ア争点⑫(被告Eは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか)
について
(原告らの主張)
被告Eは,平成17年10月頃からFX会社において営業担当社員と
して稼働し,その後に被告DとともにPに転職し,Lの前身となるMに
おいては創業時から取締役に就任していた。そして,Mにおける社債販
売のスキームを受け継いだLにおいても,営業統括部長として,部下の
営業活動を指導するにとどまらず,自らも勧誘を担当するなど,営業業
務全般を管理していた。また,被告Eは,Lに対して従業員を出向させ
ていたOにおいても設立時から取締役の地位にあった上,被告Aとは旧
知の仲であり,被告Aとの人的関係を背景にして,Lにおいて被告A,
被告Dに次ぐ幹部の地位に在るなど,実質的な権限をも有していた。さ
らに,被告Eは,一貫して金融取引業務に携わっており金融取引業務に
関する知識が豊富であった。
以上の事情に鑑みれば,被告Eは,高配当で事実上の元本保証を謳う
本件社債の販売スキームが破たん必至であることは認識可能であったと
いえる。また,被告Aに対して説明を求めたり,金融庁に相談をするな
ど,本件結果を未然に回避するための方策を尽くすことは可能であった。
したがって,Lにおいて本件社債の販売を継続させたことについて,被
告Eには過失があるといえる。
また,この点を措くとしても,被告Eは本件社債の販売が出資法に違
反することを認識していた。さらに,被告EがLにおいて被告A,被告
Dに次ぐ地位にあることに照らせば,Lが金商法上の届出義務,説明義
務に違反した勧誘を行ったことについて,故意又は過失により加担した
といえる。したがって,被告Eは,本件社債を購入した原告らに対して,
他の被告らと共同して不法行為責任を負う。
さらに,被告Eは,自らも営業担当者として顧客らに対して本件社債
の勧誘を行っていたところ,自らが勧誘し,本件社債を販売した顧客と
の関係では,本件社債を販売したことについても,不法行為責任を負う。
(被告Eの主張)
被告Eには,本件社債の販売に関して故意及び過失がないため,共同
不法行為責任は成立しない。すなわち,実質的にLを統括していたのは
被告Aであり,被告Eは,少人数私募債の募集について,被告Aから財
務局と相談をして確認を受けている旨の説明を受けていた。また,本件
社債で得た資金の投資先を決定し,テレフォンアポインターを用いた勧
誘方法の指示を行っていたのは被告Aであったため,資金投資や勧誘方
法の指導について,被告Eは関知し得なかった。そして,被告Eは,被
告Aから資産運用の方法について具体的な説明を受けており,金融資産
の回収が困難であるとの兆候もなかったのであるから,債権者に対して
本件社債の元本償還が不可能となることを予見することはできなかった
(このことは,被告E自身がLの社債を購入し,償還不可能となってい
ることによっても裏付けられる。)。被告Eが本件社債を勧誘する際に
は,元本保証という言葉を用いたり,顧客に対して絶対儲かる旨を伝え
たことはなく,従業員にも用いないように指導していた。
以上の経緯に照らせば,被告Eが組織的詐欺行為を行ったといえない
ほか,違法な勧誘の指導監督をしたとも,被告E自らが違法な勧誘をし
たともいえない。そして,Lは被告Aのワンマン会社であり,被告Eは
従属的な立場にあるにすぎなかったのであるから,本件社債の販売スキ
ームの抜本的変更等の結果回避措置を採ることもできなかった。したが
って,本件社債の販売を継続したことについて,被告Eに故意・過失は
なく,共同不法行為責任を負わない。
イ争点⑬(被告Eは,本件社債の販売に関して,Lの従業員の代理監督者
責任(民法715条2項)を負うか)について
(原告らの主張)
争点⑫(原告らの主張)に記載したところによれば,被告Eは部下の営
業活動の指導など,営業業務全般を管理していたものといえる。したがっ
て,本件社債の販売自体が違法行為に該当する以上,従業員らによる本件
社債の販売(違法行為)について,民法715条2項による損害賠償責任
を負うというべきである。
(被告Eの主張)
被告Eは,違法な勧誘態様による販売を指導教育したことはなく,違法
な勧誘がなされないよう監督していたのであるから,監督義務を尽くして
いた。したがって,被告Eは,原告らに対して代理監督者責任を負わない。
ウ争点⑭(被告Eは,Lの事実上の取締役として,会社法429条1項(類
推適用)に基づく責任を負うか)について
(原告らの主張)
争点⑫(原告らの主張)に記載したところによれば,被告Eは事実上の
取締役といえる重要な地位にあったといえる。
そして,被告Eは,本件社債の勧誘時に,Lが有する債権を売却して現
金化すればほぼ間違いなく元本については返金が可能である旨の説明を部
下にさせていたところ,このような説明をさせるのであれば,上記説明が
真実であることを十分に把握し,あるいは少なくともそのような努力をす
べき義務があったにもかかわらず,これを怠ったものといえる。したがっ
て,被告Eは,事実上の取締役という立場に相応する職責を全く果たして
いなかったものであり,悪意又は重過失により任務を懈怠したものといえ
るから,会社法429条1項(類推適用)により,本件社債を購入した原
告らに対する損害賠償責任を負う。
(被告Eの主張)
争う。
被告F関係
ア争点⑮(被告Fは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか)
について
(原告らの主張)
被告Fは,Lにおいて総務部長の地位にあり,同社の資金管理等の総
務・経理業務全般を担当する管理職であった。そして,被告Fは,顧客
から集めた金銭の管理業務を行っており,被告Aの指示に基づいてLの
預金口座からの出金・送金を行い,被告Cの資金として振り替えたり,
被告Aに現金を渡すなどの処理をしていた。すなわち,被告Fは,マネ
ーロンダリングに直接的に関与しており,L及びLグループの違法行為
を組織的に維持・遂行する上で不可欠な存在であった。
以上に加え,被告Fは,Lの前身であるMの創業時からの取締役であ
り,同社がLに事実上の事業譲渡を行った平成21年11月当時もMの
取締役であった上に,関連会社である被告C及びOの取締役を歴任し,
Cコリアの代表取締役,Nの清算人にも就いているのであり,以上によ
れば,被告FがLにおいて非常に重要な地位にあったことは明らかであ
る。
以上のような被告Fの地位・役割からすれば,被告Fは,被告Aらと
ともに本件社債の販売スキームを構築したものというべきであり,さら
には,L社内において資金の管理業務という重要かつ必要不可欠な役割
を担っていたものとして,それに見合う収入(平成21年11月から平
成24年7月までに合計約3995万円)も得ていた。そして,被告F
が,Lの勧誘担当者の営業方法を把握していたことも踏まえれば,本件
社債の販売の違法性を認識していたものといえるから,本件社債の販売
に加担したことについて,故意又は過失があるといえる。したがって,
被告Fは,本件社債の販売について,共同不法行為責任を負う。
(被告Fの主張)
被告FがLの経理業務を担っていたこと,各社の商業登記簿上現れて
いる地位にあったことは認めるが,その余は否認ないし争う。Lにおけ
る業務は,本件社債の販売を含め,被告Aの独断により行われていた。
被告Fは,帳簿の作成などの経理業務そのものに携わっていたわけでは
なく,被告Aの指示を受けて単なる事務作業として手続を行ったり,会
社の備品を購入する等の総務的な雑用を行ったりしていたにとどまり,
機械的・従属的役割を担っていたにすぎない。このような被告Fの地位
に鑑みれば,被告Fが,本件社債の販売という組織的詐欺行為の一端を
担っていたということはできない。
また,被告Fは,被告Aから本件社債は少人数私募債であると聞かさ
れ,「グレーであるが違法ではない」という説明を一貫して受けていた
ものであって,会社法や金融商品についての専門的知識のない被告Fに
おいて,本件社債販売の違法性について疑問を持つことはなく,認識し
ようと思ってもできなかった。さらに,被告Fは,Lにおける営業会議
に出席していたわけでも,営業活動に関与していたわけでもなかったた
めに,本件社債の販売に当たり,詐欺的な言辞が行われていたことも認
識し得なかったし,本件社債の販売が違法な預り金であることも認識し
ていなかった。そして,被告Fは,新聞報道がなされるまで,Lの破た
んについても何ら認識していなかったものである。
したがって,被告Fは,出資法違反や金商法違反の点なども含め,本
件社債販売の違法性を認識しておらず,そのことに過失もなかったので
あるから,故意又は過失を欠くものであるといえる。
以上によれば,被告Fが不法行為を行ったものとはいえないし,故意
又は過失もないのであるから,原告らに対して共同不法行為責任を負う
ことはない。
イ争点⑯(被告Fは,被告Cの取締役として,会社法429条1項に基づ
く責任を負うか)について
(原告らの主張)
争点⑥(原告らの主張)で述べた通り,被告Cは,Lと一体となって
Lが海外投資を行っているかのような外観を作出するなど,本件社債の
販売(違法行為)に寄与していた。
しかるに,被告Fは,被告Cの設立時以降の取締役として,被告Cが
Lの詐欺行為(本件社債の販売)に加担することを防止する業務監督責
任を負っていたのに,これを怠ったものである。そして,被告Fは,被
告Cの創業時からの取締役であり,Lの経理担当管理職としての役割を
兼ねていたのであるから,Lがパンフレットに虚偽記載をしていること
やLと被告Cとの資金関係について詳細に知る立場にあり,被告Cの取
締役としての任務懈怠について,悪意又は重過失があったといえる。
したがって,被告Fは,被告Cの取締役として,会社法429条1項
に基づく責任を負う。
なお,被告Fは,自身が被告Cにおいて名目的取締役であったと主張
するが,仮にそうであるとしても,漫然と被告Cの取締役の地位にとど
まっていたのであるから,前記責任を免れるものとはいえない。
(被告Fの主張)
被告Cは,Lとは別個の会社であって,本件社債の販売に関して,被
告Cが虚偽の外観を作出していたとはいえない。したがって,被告Cが
Lの詐欺行為に加担していたということはなく,被告Fがこの点につい
て何らの権限行使を行わなかったことは,そもそも任務懈怠には当たら
ない。
また,被告Fは,被告Aの指示で,銀行口座開設等の手続の便宜のた
めに,名目的に被告Cの取締役に就任したにすぎなかった。被告Cにお
いては取締役会が開かれることもなく,被告Aの一方的な指示のもとに
業務が行われていたのであるから,被告Fにおいて,取締役としての実
質的な権限や裁量を発揮する余地はなかった。このようなことからすれ
ば,被告Fは被告Cの名目上の取締役にすぎなかったものといえる。し
かるに,被告Fは,Lのパンフレットに虚偽記載があったことや,被告
CとLとの間で資金のやり取りがされていたことも認識していなかっ
た。
したがって,被告Fは,そもそも被告Cの取締役としての注意義務を
尽くし得る状態になかったのであるから,任務懈怠も悪意・重過失も認
められない。
以上によれば,被告Fは,被告Cの取締役として会社法429条1項
に基づく責任を負うものではない。
被告G関係
ア争点⑰(被告Gは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか)
について
(原告らの主張)
被告Gは,平成21年1月29日にNの代表取締役に就任した後,同
年5月22日に,当時被告Aが代表を務め,Lが貸付けをしていた株式
会社Tの取締役に就任した。その後,同年11月24日にはLの設立時
代表取締役に就任し,平成22年3月9日には,Oの代表取締役となっ
ている(同時に被告D,被告E及び被告Fが同社の取締役に就任してい
る。)。このように,被告Gは,被告A,被告D,被告E及び被告Fと各
社の取締役という関係を通じて仕事上のつながりを有していたものとい
えるから,L設立時にはこれらの被告らと並ぶ中心的な存在であったと
いえ,被告AからL設立に関する相談も受けていたものと考えられる。
したがって,被告Gは,詐欺又は出資法違反に当たる違法な行為を継
続的に行うための組織を作り上げたものとして,代表取締役辞任後のも
のも含めて,Lが行った不法行為全体について,他の被告らとともに共
同不法行為責任を負う。
また,被告Gは,Lの代表取締役として,テレフォンアポインターや
営業担当者が不特定多数の者に対して本件社債の勧誘をしていた事実を
認識していたにもかかわらず,金商法上義務付けられた届出を怠り,金
商法に違反したものであるから,この点においても共同不法行為責任を
負う。なお,被告Gがこのような勧誘態様を認識していなかったとして
も,認識していないことに過失があるから,いずれにせよ共同不法行為
責任を免れない。
(被告Gの主張)
被告GがLの取締役であった平成21年11月24日から平成22年8
月26日の間に,Lにおいて詐欺又は出資法違反に当たる違法行為は行わ
れていなかったし,被告Gが組織的詐欺行為に関与したこともない。被告
G自身は,詐欺や出資法違反による捜査も受けていないし,被告Aらが出
資法違反で有罪になったのも,被告DがLの代表取締役を務めていた時期
のことである。また,被告Gは,平成22年8月26日にLの取締役を退
任しているのであるから,同日以降に販売された本件社債に係る損害につ
いては,被告Gの行為との間に因果関係がない。被告Gが在任中に販売さ
れた本件社債に関しても,退任後の社債償還不履行については責任を負わ
ない。
イ争点⑱(被告Gは,Lの取締役として,会社法429条1項に基づく責
任を負うか)について
(原告らの主張)
被告Gは,平成21年11月24日から平成22年8月26日の間,
Lの代表取締役であったところ,被告A,被告D,被告E及び被告Fと
ともに,Lの社債発行業務を通じ,詐欺又は出資法違反に該当する違法
な行為を継続的に行うための組織を作り上げてきたものであるから,被
告GにLの取締役としての任務懈怠があったこと及びそのことに悪意又
は重過失があったことは明らかである。
したがって,被告Gは,Lの取締役として,会社法429条1項に基
づく責任を負う。
なお,被告Gは,自身が取締役を辞任しただけでは違法行為が終了し
ないことを認識しながら,具体的な対処を何ら行うことなく取締役を辞
任したものである。したがって,被告Gには,取締役辞任前に,Lにお
ける継続的な違法行為を終了させる具体的な対処をしなかった点におい
て取締役としての監視義務違反が認められるから,代表取締役辞任後の
原告らの損害についても会社法429条1項に基づく責任を負う。
(被告Gの主張)
争点⑰(被告Gの主張)と同じ。
勧誘担当者関係
ア争点⑲(被告Hは,勧誘を担当した顧客に対し,本件社債の販売に関し
て共同不法行為責任を負うか)について
(原告らの主張)
被告Hは,1月当たり25万円程度(手取り)の給与の支給を受ける
一方で,就業期間27か月間の間において,合計697万9760円(1
月当たり平均25万8509円)もの加給金(加給金とは,顧客から社
債金の払込みを受けた際に営業担当者が受領する歩合報酬である。)の
支給を受け,時には86万4000円もの加給金を受領することもあり,
他の営業担当従業員も同様に高額な加給金を受給していた。被告HがO
又はLに就職して間もないこと,被告Hに特殊技能があるわけではない
こと,被告Hの業務は本件社債の販売であって,Lに利益を生み出すも
のではないことからすれば,被告Hが過度に高額な加給金を受領してい
たことは明らかである。
そして,本件社債の利率は昨今の経済情勢に照らして非常に高く,更
には従業員に対して過度に高額な加給金を支払わなければならないもの
であって,このような資産運用方法を容易に見出し難いことは,一般の
従業員であっても考えが及ぶところ,被告Hは,Lがこのような資産運
用方法を実現できていないことを知っていたから,Lの商法が破綻必至
であることを認識していたといえる。
被告Hは,上記のように本件社債による資金調達が,破綻必至である
にもかかわらず,投資経験が乏しく判断力にも劣る高齢者である顧客に
対して,元本を保証して販売勧誘をしていたものである。このような元
本保証は,特定の金融機関を除き,法律により禁止されているところ,
そのことは被告Hも当然認識していたといえる。したがって,被告Hは,
自身の行為が違法であることを認識していたし,遅くとも平成22年9
月以降は顧客側から払込相当額の返還請求が多発していたこと,平成2
4年7月31日にはLが金商法違反の容疑で警察による捜索差押えを受
けていたことからすれば,被告Hは本件社債の販売が違法であることを
認識していたといえる。
また,仮に本件社債販売の違法性を認識していないとしても,社債購
入契約の締結を勧誘する被告Hには,信義則上,当然同契約の結末を予
見すべき注意義務があるのであるから,被告Hには過失がある。
以上によれば,被告Hは,本件社債の販売に関して,自らが販売した
顧客(別紙請求額一覧表の「勧誘者」欄に被告Hの名前が記載されてい
る原告ら)に対して共同不法行為責任を負う。
(被告Hの主張)
被告Hは,被告Aらの説明を受けて,本件社債の元本は確実に償還され
るものと信じていたし,金商法の問題についても,被告A及び被告Dから,
財務局からの指導に基づいて社債の販売をしているとの説明を受けていた
ものであるから,原告らに対して共同不法行為責任を負うものではない。
イ争点⑳(被告Iは,勧誘を担当した顧客に対し,本件社債の販売に関し
て共同不法行為責任を負うか)について
(原告らの主張)
被告Iは,Lの前身であるM時代から本件社債への出資を勧誘して,
顧客をして多額の金銭を出資させたものである。被告Iは,本件社債の
販売がLに引き継がれた後,1月当たり20万円以上の給与の支給を受
けた上で,Lにおける就業期間12か月間の間において,合計257万
3100円(1月当たり平均21万4425円)もの加給金の支給を受
け,時には36万円もの加給金を受領することもあり,他の従業員も同
様に高額な加給金を受給していた。そして,このような過度に高額な加
給金を支給しつつ,顧客に対する元本と高利配当の支払を可能とするよ
うな資金運用方法を容易に見い出し難いことは,前記ア(原告らの主張)
のとおりであって,被告Iは,L及びMがこのような資産運用方法を
実現できていないことを知っていたから,L及びMの商法が破綻必至で
あることを認識していたといえる。
被告Iは,上記のように本件社債による資金調達が,破綻必至である
にもかかわらず,顧客である原告らに対して,元本を保証して販売勧誘
をしていたものである。被告Iが自身の行為の違法性を認識していたこ
と,仮に認識していなかったとしても過失があることは,前記ア(原告
らの主張)と同様である。
以上によれば,被告Iは,本件社債の販売に関して,自らが販売した
顧客(別紙請求額一覧表の「勧誘者」欄に被告Iの名前が記載されてい
る原告ら)に対して不法行為責任を負う。なお,被告Iが販売した社債
の中には,M時代に被告Iが販売し,それがLの社債に乗り換えられて
いるものもあるが,乗換えに被告Iが関与していなくても,乗換え後の
Lの社債が償還未了になっているのは,被告IがMの社債を販売したこ
とに因るものであるから,被告Iは乗換え後の社債による損害について
も責任を負う。
(被告Iの主張)
被告IがOを退職した平成23年3月頃までは,顧客への配当,解約や
返還はスムーズに行われており,被告A,被告D,Lの支店長であるγが
常日頃から「うまくいっている」と述べていたため,本件社債の販売に問
題はないものであると考えていた。
また,被告Iの退職後も契約を解約しなかった顧客は,自身の意思又は
γに言われて解約を取りやめたものと考えられるから,契約を継続した原
告らとの関係で,被告Iが共同不法行為責任を負うことはない。
ウ争点㉑(被告Jは,勧誘を担当した顧客に対し,本件社債の販売に関し
て共同不法行為責任を負うか)について
(原告らの主張)
被告Jは,1月当たり34万円程度(手取り)の給与の支給を受ける
一方で,就業期間57か月間の間において,合計925万4760円(1
月当たり平均16万2364円)もの加給金の支給を受け,時には95
万2000円もの加給金を受領することもあり,他の従業員も同様に高
額な加給金を受給していた。そして,このような過度に高額な加給金を
支給しつつ,顧客に対する元本と高金利の支払を可能とするような資金
運用方法を容易に見い出し難いことは,前記ア(原告らの主張)のと
おりであって,被告Jは,Lがこのような資産運用方法を実現できてい
ないことを知っていたから,Lの商法が破綻必至であることを認識して
いたといえる。
被告Jは,上記のように本件社債による資金調達が,破綻必至である
にもかかわらず,投資経験が乏しく判断力にも劣る高齢者である顧客に
対して,元本を保証して販売勧誘をしていたものである。被告Jが自身
の行為の違法性を認識していたこと,仮に認識していなかったとしても
過失があることは,前記ア(原告らの主張)と同様である。
以上によれば,被告Jは,本件社債の販売に関して,自らが販売した
顧客(別紙請求額一覧表の「勧誘者」欄に被告Jの名前が記載されてい
る原告ら)に対して共同不法行為責任を負う。
(被告Jの主張)
被告Jは,会社の業務命令に従って営業活動をしていたにすぎず,本件
社債の販売が組織的詐欺商法に当たるとの認識はなかった。
エ争点㉒(被告Kは,勧誘を担当した顧客に対し,本件社債の販売に関し
て共同不法行為責任を負うか)について
(原告らの主張)
被告Kは,Lの前身であるM時代から本件社債への出資を勧誘して,
顧客をして多額の金銭を出資させたものである。被告Kは,本件社債の
販売がLに引き継がれた後,1月当たり52万円程度(手取り)の給与
の支給を受けた上に,就業期間65か月間の間において,合計2918
万8710円(1月当たり平均43万5652円)もの加給金の支給を
受け,時には305万4600円もの加給金を受領することもあり,他
の従業員も同様に高額な加給金を受給していた。そして,このような過
度に高額な加給金を支給しつつ,顧客に対する元本と高金利の支払を可
能とするような資金運用方法を容易に見い出し難いことは,前記ア(原
告らの主張)のとおりであって,被告Kは,L及びMがこのような資
産運用方法を実現できていないことを知っていたから,L及びMの商法
が破綻必至であることを認識していたといえる。
被告Kは,上記のように本件社債による資金調達が,破綻必至である
にもかかわらず,投資経験が乏しく判断力にも劣る高齢者である顧客に
対して,元本を保証して販売勧誘をしていたものである。被告Kが自身
の行為の違法性を認識していたこと,仮に認識していなかったとしても
過失があることは,前記ア(原告らの主張)と同様である。
以上によれば,被告Kは,本件社債の販売に関して,自らが販売した
顧客(別紙請求額一覧表の「勧誘者」欄に被告Kの名前が記載されてい
る原告ら)に対して共同不法行為責任を負う。なお,被告Kが販売した
社債の中には,M時代に被告Kが販売し,それがLの社債に乗り換えら
れているものがあるが,これについても被告Kに責任が生じることは前
(被告Kの主張)
被告Kは,被告AからL及びその投資先の収益は順調であるとの説明が
されていたため,その説明を信用していたものであり,元本償還も確実に
されるものと信じていた。また,被告Kにおいて,意図的に元本償還を繰
り延べたこともない。さらに,被告Kは,無差別に本件社債の勧誘を行っ
たわけではない上,組織的詐欺商法に加担した事実はなく,本件社債の販
売が違法であるとの認識はなかった。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前記前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認
められる。
Lにおける社債購入に至る経緯等
ア被告Aは,昭和57年に消費者金融大手である株式会社U(以下「U」
という。)に入社し,平成4年頃に同社を辞めた後,投資顧問会社や信用
保証会社等で勤務するなどしていたが,平成15年頃から,自らが買収し
た会社であるPにおいて,消費者金融業者向けの信用保証業務を営むよう
になった。しかしながら,その後,保証会社の保証料等についても利息制
限法のみなし利息に該当する旨の判決が出るなどしたことから,消費者金
融業者向けの信用保証業務に限界を感じ,他の事業への転換を考えるよう
になった。(甲全11,37,54,乙1の41,被告A本人)
イそこで,被告Aは,U勤務時代の部下である被告Dらを誘い,平成19
年4月頃から,Pにおいて,「クレジット債権購入ファンド」と称して,
不特定多数の一般消費者から資金を集める事業を開始した。同社の事業は,
被告Aのほか,被告D,被告Eや被告Fなど十数人が中心となって開始さ
れ,その多くは,被告Dが,従前の勤め先であるV株式会社(以下「V」
という。)から連れてきた営業担当者らであった。Vは,FX取引を扱う
会社であり,電話帳をもとに不特定多数の消費者に対して不招請勧誘を行
っていた(同社は平成20年4月4日に金融庁より行政処分を受けた。)。
そして,Pにおいては,本件社債(クレジット債権購入ファンド)につ
いて,次のような販売がなされた。すなわち,①Pは,不良債権を安値で
購入した上で,債権回収業者に委託してその取立てを行う事業を行うこと
を前提に,その原資を集めるために社債の募集を行うこととする,②その
際,配当は年率10パーセント以上(募集される社債の回債毎に,その率
は異なるが,募集の際には10パーセント以上の具体的な配当率を伝える
ことにする。)が見込まれるものとする,③「少人数私募債」(金商法上
の届出義務等を負わない勧誘方法)である外観を装うため,その募集人数
を49名以下とし,募集金額を4億9000万円以下とする(ある回債に
ついて,募集の上限人数又は額となった場合には,次の回債を発行する。),
④ただし,現実的には縁故債では資金集めに限界があるので,実際にはテ
レフォンアポインターから不特定多数の一般消費者に対して電話による勧
誘を行う,というものであった。(甲全35,37,50,54,62,6
4,69,乙1の41,被告A本人,被告D本人)
ウ被告Aは,しばらくPにおいて上記事業を行っていたが,金商法の改正
や監督官庁からの指導等により,「ファンド」という名称を使用すること
が困難になったため,ファンドではなく社債で金銭を集めることにした。
そこで,同事業を行う会社としてMを設立し,被告Dを同社の代表取締役
に就任させることにし,不特定多数の一般消費者に対して社債の勧誘を行
う事業を始めた。もっとも,勧誘方法等は,Pにおいて販売されていたク
レジット債権購入ファンドと同様の方法が用いられており,顧客に対して
はPからMに社名が変更になった旨が伝えられていた。(甲全35,37,
52,62,甲64の7,乙1の41,被告A本人,被告D本人)
エMでは,同社が設立された平成19年12月以降,Pと同様の方法で,
多数回にわたり社債の募集を行い,その販売を行っていた。なお,P及び
Mは,本社のある名古屋市x区を本拠地として,本件社債の販売活動を行
っていたが,M設立後に,丸の内支店(名古屋市y区)と東京支店が開設
された。(甲全37,69,乙1の41,被告A本人)
オ平成21年,Mの投資先である株式会社W等のオーナーXについて詐欺
疑惑が指摘されるようになり,被告Aも共犯であるかのような風評が流れ
たため,被告Aは,Mの業務や社債の販売を新会社に引き継がせることに
し,同年11月にLを設立した。そして,会社組織を一新したことを装う
ために,被告Gを名目的にその代表取締役に就任させた(ただし,被告G
は平成22年8月26日に辞任した。)。
Lは,顧客に対して,クレジット債権等を廉価で買い取ってサービサー
等にその回収を委託して利益を得る事業や,Lのグループ企業を通じたレ
ストランなどの店舗経営,出版事業やシステム開発事業等を行っている旨
を宣伝し,本件社債の払込金をこれらの事業の運用資金に充てる旨を説明
して,年利6パーセントを超える利息の支払を約して社債の販売を行って
いた。
この際に用いられていたパンフレットに記載された内容等は,P,Mの
際のものとほぼ同様であった。また,Lにおいても,M時代の勧誘担当者
が本件社債の勧誘を担当し,勧誘方法についても特段の変更はされず,顧
客に対してはLに社名が変更になった旨の説明をしていた。なお,Lが設
立された後に神戸支店も開設され,Lは,本社,本店営業部,丸の内支店,
東京支店,神戸支店で営業を行っていた。(甲全12ないし15,37,
52,54,69,甲50の5,乙1の41,4の1,被告A本人)
カ被告Aらは,本件社債の販売名目で,延べ約1000名から総額約10
0億円の出資を受けていたとされている。(甲全1,2)
Lにおける顧客に対する社債の具体的な販売態様等
ア従業員らの雇用形態等
Lにおいて社債販売に係る営業活動に従事する従業員は,Oからの出向
者を充てることとされており,L自身が,社債販売を行う従業員を直接雇
用しているわけではなかった。
イ社債販売に係る営業態様等
そして,Lにおいては,顧客に対する社債販売に関して,トークマニ
ュアル等が作成されており,テレフォンアポインター(電話勧誘者)及
び個別の顧客に対する営業担当者において,概ね次のような説明を行い,
営業活動を行うこととされていた。
すなわち,まず,テレフォンアポインター(電話勧誘者)において,
電話帳等をもとに,不特定多数の客に電話をかけ,Lが発行する社債に
ついて,営業トークとして決められたとおり,「今回ご紹介させていた
だいているのが毎月分配型社債と申しまして,年率●パーセントをお約
束させて頂いている社債になります。」,「元金の変動がない元本確保
型となっておりまして,例えば毎月100万ご運用でしたら毎月約●●
●●円ずつ配当が出るんです。」などと説明を行い,社債に関する資料
の送付について了解を取る。そして,資料送付に応じた顧客に対し,資
料送付後に営業担当者から電話をする旨を伝え,営業担当者による営業
につなげる。
そして,営業担当者は,テレフォンアポインターから引き継いだ顧客
について,「見込みカード」という顧客に関する情報が記載されたカー
ドを受け取り,これをもとに顧客に電話を掛け,顧客の元に訪問するな
どして,営業活動を行う。その際には,償還日には必ず元本が返還され
る「元本確保の社債」である旨,違約金が取られる場合があるが途中解
約も可能である旨を伝えて,社債の販売を行っていた。(甲全33ない
し36,52,54,57,被告A本人)
なお,Lにおいては,個々のテレフォンアポインター及び営業担当者
に対し,社債に係る元本返還の可能性に関し,「元本保証」という言葉
は使用してはならないとの指導がされていたが,「元本確保」という言
葉は積極的に使われていた。社債販売に際して,「元本確保」という言
葉が使われるようになったのは,遅くともMによる社債販売を開始した
頃であり,この頃には,会社がつぶれた場合には,会社が持っているク
レジット債権等を現金化して元本を返還できる旨を説明するよう,被告
Eによる指導がされていた。以上を踏まえ,営業担当者等は顧客に対し
て,「毎月分配型社債で,元本確保型です」,「元本割れをすることは
ありません。」,「年率●パーセントで,毎月10日に決まった額の配
当を受け取れます。」,「償還日には,必ず元本をお返しします」など
と述べ,「元本確保」型である旨の説明を行っていた。また,平成22
年11月5日にLで実施された営業会議(被告Aらも出席し,1月に1
回行われる社債販売に関する会議)においては,「商品元本確保を謳え
るのか」という質問が営業担当者から出されたが,これに対して被告A
は,「謳える」旨を回答した。
さらに,Lが見込み客に対して送付していた全店舗共通のリーフレッ
トにおいては,「当社の元本確保型社債は,資産の『安定性』『収益性』
『継続性』に優れた商品として皆様にご好評を得ています」旨が記載さ
れていた。また,Lが顧客に送付するパンフレットにおいては,実際に
は提携関係にないΔ債権回収株式会社を「弊社提携サービサー」として
紹介するなど,その事業内容に関する説明には虚偽の内容も含まれてい
た。そのほか,Lのパンフレットには,Lには韓国のソウル,中国の深
圳,ベトナムのハノイ,シンガポールに海外拠点があるかのように記載
されていたが,これらはいずれもLの海外拠点ではなかった(なお,被
告Aは,本人尋問においてΔ債権回収株式会社に対する債権回収委託は
事実である,海外にLの海外拠点はあったと供述しているが,これを裏
付ける客観資料は提出されておらず,甲全8及び16に照らし,信用す
ることができない。)。(甲全8,12ないし14,16,33ないし3
6,52,54,57,甲8の4,31の6,50の6,69の4の4,
被告A本人,被告E本人)
ウ営業担当者に対する加給金の支払等
Lの営業担当者の給与は雇用主であるOから支払われていたものの,賞
与及び「加給金」と呼ばれる金銭が,給与とは別にLから支払われていた。
「加給金」とは,Lにおいて定められた「加給金支給規程」に基づき,
営業職等に支給される金銭のことであり,各営業担当者の営業成績に基づ
き,同規定に定められた算定基準により算出されることとされており,勧
誘した顧客に係る証拠金の0.8パーセントないし1.8パーセント(営
業成績により率は変動し,営業成績が良いほど,この率は上がる。)が支
給されることとされていた。
OからLに出向している従業員に支払われる給与(基本給)は,月額1
5万円ないし34万5000円とされていたが,加給金の額は,最も多く
て,月額305万4600円(被告Kに対して平成23年11月に支払わ
れた分)に及ぶことがあった。(甲全34,37,44,45,47)
Lにおける事業内容等及び資金の動き
ア当時,Lにはテレフォンアポインターも含めて40名前後の従業員がい
たが,従業員を用いて営業活動を行っていたのは,Lの社債の販売事業の
みであり,Lが社債の発行により顧客から集めた金銭を用いて行う投資事
業に関しては,従業員はおろか,Lの取締役らも全く関与していなかった。
(甲全33,37,45,乙1の41,2の2,5,6の2,被告A本人,
被告D本人,被告E本人,被告F本人)
イ顧客から社債購入により得た金銭は,被告Fのもとに集められ,被告F
において,被告Aの指示に基づき,送金等の管理を行っていた。顧客から
集めた資金の使途は,被告Aの専決事項とされており,被告Aは,被告F
に対して,被告Cなど他の会社の口座への振込みを指示したり,顧客に対
する社債元本の償還や利息の支払に充てさせたりすることがあったほか,
簿外処理として現金を被告Aに交付させることも度々あった。被告Fが被
告Aに一度に交付した現金は,多いときで5000万円程度に及ぶことも
あった。(甲全30,43,54,56,被告A本人,被告F本人)
ウLは,その損益計算書上,第1期(平成21年10月1日から平成22
年9月30日)こそ5億7445万円余の利益を上げたことになっている
が,第2期(同年10月1日から平成23年9月30日)には9億241
1万円余の損失を出し,第3期(同年10月1日から平成24年9月30
日)には6億3318万円余の損失を出し,貸借対照表上,22億963
4万円余の債務超過となっていた。(甲全27ないし29)
L破産後の債権回収の状況等
Lが破産手続開始決定を受けた後,Q管財人は,帳簿上Lが有しているは
ずの約41億円のクレジット債権等の内容等について確認し,その取立てを
行うために,Lの顧問税理士から会計書類を回収するなどしたほか,Lにお
いて債権購入等に従事していた被告Aに対し,投資先等に関する聴取を行っ
た。
しかしながら,被告Aは,Q弁護士が申し立てた役員責任査定申立事件に
おける答弁書において,クレジット債権等の購入依頼を行った者の氏名を明
らかにしたものの,資料が手元にないため住所も電話番号もわからない旨述
べ,Q管財人が上記の者らと接触することはできなかった。また,被告Aは,
東京の司法書士に約10億円分,東京の弁護士に約170億円分の債権回収
を依頼したが,上記弁護士の氏名・連絡先は忘れた旨を説明し,Q管財人は
上記司法書士及び弁護士の調査を試みたものの,上記司法書士からは被告A
からの債権回収委託業務は存在しなかったとの回答を受け,上記弁護士につ
いては該当する法律事務所すら確認できなかった。さらに,被告Aは,購入
した債権の債務者・金額・契約内容等の情報を保存したUSBメモリは警察
に差し押さえられたと説明したが,警察の差押目録には記載がなく,警察も
東海財務局も,上記USBメモリについて把握をしていなかった。
以上の調査の結果,Q管財人において,被告Aの説明を裏付ける資料を発
見することはできず,被告A及び被告Dに対する刑事事件の確定記録からも,
クレジット債権等の所在の探索の端緒となる資料は発見されなかった。(甲
全29,37ないし39,42,43)
2争点①(本件社債の販売の違法性)について
本件社債の内容
ア前記1のオによれば,L等は,顧客である原告らに対して社
債を販売するに当たり,顧客から得た資金を,①クレジット債権等の取得
・回収,②Lのグループ企業を通じたレストランなどの店舗経営,出版事
業やシステム開発事業等の事業に充て,これにより元本償還と配当を行う
旨の説明を行っていたものと認められる。しかしながら,本件社債は,そ
れ自体が年率6パーセントを超える極めて高利の利息支払を約するもので
ある上,Lは,40名前後の従業員及び5カ所の本店・営業所を抱え(平
成24年4月の役員報酬・給与は1か月で総額1500万円余にのぼる。
甲全45の1),さらには社債を販売した営業担当者に対して証拠金の0.
8パーセントから1.8パーセントにも及ぶ加給金をも支払うこととして
いたのであるから,社債販売で集まった資金により上記経費等を賄うこと
ができるほどの高い収益を継続的に上げることができなければ,本件社債
の販売は破綻必至といわざるを得ないものであった。
イしかるに,Lにおいては,社債を発行して集めた資金をどのような事業
に用いるかについては,Lの従業員はおろか,Lの取締役すら全く関知せ
ず,Lを実質的に支配・経営する被告Aが独りで決定していたところ(前
記1の被告Aは,本件訴訟において,誰からいくらクレ
ジット債権等を購入し,その債権回収を誰にどのような条件で委託したの
かに関し,裏付けのある具体的立証を何らしていない。また,被告Aは,
Lの破産手続や警察での捜査において,本当に債権回収を委託したのであ
れば回答できてしかるべき委託先弁護士の氏名・連絡先を忘れたと述べ,
さらには,弁護士との契約書類は見当たらない,弁護士に債権回収を委託
した後にその回収状況を確認したこともないなどと説明しているのであっ
て,その説明内容はおよそ信じ難いといわざるを得ない(甲全55)。そ
して,Q管財人が調査を尽くしてもなお,Lの会計書類上に計上された約
41億円ものクレジット債権等の存在は認められなかったこと(前記1の
認定事実),顧客から集めた出資金が現金で被告Aに度々手渡されるな
ど,正常な事業が行われていれば通常あり得ない資金移動がされているこ
と(前記1の,Lのパンフレットにおいて提携サービサー
として掲載されているΔ債権回収株式会社はLとの関係を否定しているこ
と(甲全16)などの事情を併せ考えると,Lに会計帳簿上計上されただ
けのクレジット債権等が存在したとは考えられず,Lが社債の元本償還と
高利配当を見込むことができるような債権回収事業を営んでいた事実は当
初からなかったと推認するのが相当である。
続いて,Lの投資事業について見るに,同社の投資先とされている会社
は,①出版事業を営む株式会社ε(被告D,被告A及び被告Fが元取締役
に就任。甲全23),②ソフトウエア開発を業とする株式会社Y(被告A
の兄であるSが取締役に就任。甲全26),③大学受験等向けの学習アプ
リ開発を業とする株式会社Z(被告D及び被告Aが取締役に就任。甲全2
1),④FX取引を業とするN(被告G,Sが元取締役に,被告Fが元監
査役及び代表清算人に就任。甲全25),⑤被告Cが投資等のために現地
法人として設立したCシンガポール・Cマレーシア・Cソウル・C深圳・
Cハノイなどであるが(甲全9,10,27ないし29,乙1の2),本
件証拠資料を精査しても,上記各会社の事業が投資に値するものであった
ことを客観的に裏付ける証拠は出されていない。また,投資事業により利
益を上げようとすれば,投資先の財務状況等や市場動向の調査等をはじめ
として,投資先の取捨選択及びその後の動向把握に相当の人的資源を要す
るはずであるが,Lにおいて投資事業に関与している者は被告A以外に誰
もいなかったことが認められる(前記1の認定事実ア)。以上に加え,
各会社が,本件被告ら及びその親族が役員を務めていた会社であることを
併せ考えると,Lが,社債の元本償還と高利配当を見込むことができるよ
うな投資事業を営んでいたとは到底考えられず,上記事実は当初からなか
ったと推認するのが相当である。そのほか,Lが融資を行っていたとする
会社(被告Aが設立時から代表取締役を務め,現在はSが代表取締役を務
める株式会社Tなど。甲全10,22)についても,実態が不明であるこ
とは同様である。
上記のとおり,Lが社債の元本償還と高利配当を可能にするような事業
を営んでいなかったことは,同社が第2期から早くも大幅な損失を出して
いることからも裏付けられる(前記1の認定事実ウ)。
ウ以上によれば,Lは社債権者に対する元本償還及び高利配当を見込むこ
とができるような事業を当初から営んでおらず,少なくとも同社を実質的
に支配・経営していた被告Aは,早晩,顧客に対して高利配当はもちろん
のこと元本償還もできなくなるであろうことを知りながら,顧客らに本件
社債を販売し続けたことが認められる。したがって,本件社債の販売は詐
欺行為であると認められる。
エこれに対し,被告Aらは,①Lが設立されて以降,平成24年7月まで
の約3年間,何の問題もなく償還及び配当を行い,配当については平成2
5年4月まで滞りなく行っていたこと,②被告Aは,社債購入者から返金
の申入れがあったときには返金を行っていたこと,③被告Fにおいて被告
Aによる資金管理を不審に思わなかったと供述していることからすれば,
Lがその利益をもって本件社債の元本償還及び利息支払を行っていたこと
は明らかである旨を主張する。
しかしながら,Lは,平成24年7月頃に至るまでは社債販売を継続し
ており,いわば自転車操業により,新たに顧客から支払われた社債金を他
の顧客らに対する償還や配当に充てることが可能な状況にあったことが認
められるから,被告Aらが指摘する①②の事情は上記認定判断を覆すもの
ではない。また,被告Fは,本件訴訟において相被告として責任を追及さ
れており,被告Aによる資金管理に不信感を抱いていたと供述すれば,自
らも責任を負うことになる立場にあるのであるから,本人尋問の際に上記
③のような供述をしたからといって,その信用性を高いものと評価するこ
とはできない。被告Aらの上記主張はいずれも採用することができない。
オしたがって,本件社債の販売は詐欺行為に当たるということができる。
本件社債の勧誘態様
ア本件社債の危険性
上記のとおり,本件社債の販売スキームは,破綻必至のものとして詐欺
に当たると認められるが,破綻必至かどうかをさて措いても,以下の点に
おいて,本件社債の販売に当たり行われた勧誘は違法である。
すなわち,社債は,償還期限に元本全額を弁済するほか,約定の利息
を支払うことを前提とした債権ではあるものの,社債発行会社が行う事
業の失敗等に起因する信用リスクを負担する金融商品である。また,分
割弁済が通常である金融機関からの借入れとは異なり,社債の場合には,
償還日に一括償還することが通常である(本件社債も同様である。)か
ら,社債発行会社にとって元本償還の負担は重く,それだけリスクが内
在する金融商品といえる。
そして,本件社債は,クレジット債権等の購入や各種会社への投資な
ど,Lが行う事業そのものの資金調達名目で募集されたものであるとこ
ろ,Lの資本金が5000万円にとどまること,同社の資産は同社が事
業のために取得したクレジット債権等や出資金等に限られることに照ら
せば,L自身が行う事業のリスク(クレジット債権等に係る債務者の倒
産リスクや飲食店経営等に係るリスクなど)が顕在化した場合に,同社
に社債償還の引き当てとなるものは他にほとんどなく,本件社債は,そ
の購入者である顧客において,Lが行う事業自体が負うリスクを直接負
担する性質のものであった。
また,前記アのとおり,本件社債の償還を継続するためには,顧客
から払い込まれた金銭を用いてかなりの高収益を継続的に上げる必要が
あったところ,特別な新規性のある事業でもない限り,一般的にはその
ような高収益は確実に見込めないところであって,単なる債権回収や投
資事業による収益を前提とする本件社債は,破綻必至とまでいうかはさ
ておいても,元本欠損のおそれが相当高い危険な金融商品であったと認
められる。
イ本件社債の販売に関するL従業員らの説明態様
ところが,前記1のLにおいては,営業用マニ
ュアルを作成した上で,「元本確保」を強調した勧誘を行わせていたもの
であり,顧客に対する本件社債の説明に際し,本件社債は,安定性,収益
性,継続性に優れた商品であって,元本が確実に返済されるものと誤信さ
せる説明を行っていたと認められる(原告らの陳述書によれば,勧誘文言
は様々であり,「元本確保」なる文言を明示的に説明された者もいれば,
そうではない者もいることがうかがわれるが,元本が確実に返済される旨
を誤信させられたことは全原告らについて共通である。)。
また,Lの営業担当者らは,顧客からの質問に対して,会社が倒産して
もクレジット債権等を現金化して元本を償却できる旨の説明することがあ
ったが(前記1の認定事実イ),債務のほとんどを社債償還債務が占め
るLにおいて,社債元本を全額償却できるほどの価値を有するクレジット
債権等を保有していればそもそも会社は倒産しないのであって,上記説明
は明らかに論理矛盾であった。そのほかにも,提携サービサーや海外拠点
等の点において,Lのパンフレットには虚偽の説明が含まれており(前記
1の認定事実イ),その内容は本件社債が安全であるとの顧客らの誤信
を助長するものであった。
そうすると,Lの営業担当者らが原告らに対して,前記のように,本件
社債の有する元本欠損のリスクを殊更に過少視し,本件社債は元本が償還
されることが確実な安全な金融商品であるとの説明を行っていたことは,
商品のリスクにつき著しく正確性を欠き,その安全性を顧客らに誤信させ
る説明であり,詐欺的要素をはらむ違法な勧誘であったというべきである。
なお,以上は,同様の社債販売事業を営んでおり,資本金が3000万円
に過ぎなかったM(,前記1の)に
ついても同様であった。
小括
そこで,以上の本件社債の内容及び従業員による勧誘態様に関する認定判
断を前提として,各被告の責任について以下検討することとする。
3被告A関係
争点④(被告Aは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか)
について
前記2Aは,Lが社債権者に対する元本償還及び高利配
当を維持できるほどの事業を営んでおらず,早晩,顧客に対して高利配当は
もちろんのこと元本償還もできなくなるであろうことを知っていたにもかか
わらず,Lを実質的に支配・経営する者として,営業担当者らをして本件社
債を販売させ続けたのであり,本件社債の販売という詐欺行為を中心的に行
っていたものであると認められる。したがって,詐欺行為に欺罔されて本件
社債を購入した顧客である原告らに対し,本件社債の販売に関して,他の不
法行為者との共同不法行為責任を負う。
小括
以上によれば,被告Aは,原告らによる全ての社債購入に関して,共同不
法行為に基づく損害賠償責任を負うものと認められる(なお,不法行為に基
づく損害賠償請求と選択的に請求された会社法429条1項に基づく損害賠
償請求の可否(争点⑤)については,判断を要さない。)。
4被告C関係
認定事実
前記前提事実,前記1の認定事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を
総合すると,被告C設立の経緯及び被告Cの事業内容等について,次の事実
が認められる。
ア被告Aは,Mにおいて社債販売事業を行う中で,関連会社として利用で
きる法人を設立し,妻である被告Bを代表取締役に就任させようと考え,
被告Bに代表取締役の就任を依頼するとともに,前記法人として被告Cを
設立しようとした。(乙1の42,被告A本人,被告B本人)
イ被告Bは,当初,被告Cの代表取締役に就任することに難色を示したが
結局了承し,平成20年8月5日,被告Bを代表取締役として,被告Cが
設立された。被告Cの株式は,全て被告Bが保有することとされていたが,
実質は被告Aが支配・経営する会社であり,被告C設立手続のほか,被告
C設立後の事業についても,被告Aが実質的に決定し,統括していた。(乙
1の42,被告A本人,被告B本人)
ウ被告Cは,ミュージックレストラン「R」を運営していたほか,金融事
業名下で資金のやり取りをしていたところ,被告Bは,その後,遅くとも
平成21年4月頃には,被告Cにおいて被告Aが金融事業を行っているこ
とを認識し,被告Cから役員報酬として月額70万円の報酬を得ていたが,
一時期,飲食店の経営事業に関与しようとしたことを除き,被告Cの事業
に関し,被告Aに対して具体的な説明を求めたり,事業内容に関して口出
しをしたりするようなことはなかった。(乙1の5,1の11,1の12,
1の41,1の42,被告A本人,被告B本人)
エ被告Cの設立以降,被告Aからは多額の金員が同社に流入し,同社から
被告Aの支配下にある会社ないし個人にその金員の相当額が流出した。
すなわち,被告Cの預金口座に対しては,「オーナー現金借入金」「オ
ーナー出資」として,被告Aから数百万から数千万円単位の金員が度々振
り込まれており,多いときには1日で1億2000万円もの金員が入金さ
れることもあった(平成21年11月11日)。被告Aから被告Cに入金
された金員(現金で被告Cの通帳に入金された金員)は,平成21年2月
6日から平成22年4月30日までの間に6億3000万円に上るが,同
期間における被告Aへの返金額は2億8800万円にとどまった。そして,
被告Cは,被告Aからの借入金を平成22年4月30日付けで2億967
0万円の社債金として計上する旨の仕訳処理を行ったが,上記社債金は平
成25年7月31日時点で償還されていない。
他方,被告Cは,Cコリアに貸付けを行い,Cコリアはその資金で韓国
における債権回収事業に投資をしていたとされているが,Cコリアに対す
る貸付金4億5320万円のうち,返還されたのは1億7482万円余で
あり,2億7800万円余が回収不能になっている。Cコリアの代表理事
は,設立時から平成21年8月4日までが被告B,同日から平成25年8
月1日までが被告F,同日以降がSであり,被告Aが設立時から継続して
同社の社内理事を務めている。
また,被告Cは,株式会社Yに4360万円の出資をし,普通株式を取
得しているが,同社は,Sが取締役を務めている会社であり,Lの投資先
でもある。Lが株式会社Yに出資した500万円の株式は,Lの破産手続
において回収不能と判断されている。
そのほか,被告Cからは,被告Bに対する役員報酬(平成20年9月か
ら毎月70万円)に加え,被告Aに対しても,平成21年11月から平成
22年9月までと平成24年1月から同年7月までの期間,給与(役員報
酬)が支払われている(合計1080万円)。
以上のとおり,被告A(及びその支配下にある会社・個人)と被告Cと
の間では多額の資金の流入・流出があるところ,M又はLと被告Cとの間
でも,多額の資金が「仮払金」「仮受金」名目でやりとりされ,M又はLか
ら少なくとも6150万円の資金が流入し,Lに対して少なくとも2億7
140万円の資金が流出した。Lから被告Cに流入した資金の中には,顧
客がLに交付した本件社債代金がそのまま入金されたものもあった。
こうした被告Cの資金管理は,被告Aが独りで決定し,被告Fに行わせ
ていた。(甲全26,30,38,56,68,74,乙1の7,1の8,
1の12,1の18ないし1の22)
オ被告Aは,Lの顧客に配付するパンフレットにおいて,被告Cの投資先
であるCコリアを「Lkorea」として掲載し,被告Cが経営する「R」
をLの投資先であると記載するなど,被告CをLにおける本件社債販売の
促進のために利用していた。(甲全12,被告A本人)
争点⑥(被告Cは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任又は不法行
為の幇助責任を負うか)について
ア上記認定事実によれば,被告CとLとの間では,「仮払金」「仮受
金」名目で多額の金銭が不明朗な形で流出・流入しているばかりか,被告
Aから被告Cに流入した多額の金員が,被告Aが実質的に支配するCコリ
ア等の会社に流出し,あるいは被告B及び被告Aの役員報酬として同人ら
の手元に流れ,散逸していることが認められる。そして,この点について
被告Aは,同人が被告Cに入金した6億3000万円の資金は,被告Aが
U勤務時代の昭和62年から平成2年くらいの間に不動産担保ローンの手
数料で得た7億2000万円から出したものであると供述しているが,①
被告Aの供述には何らの客観的裏付けがない上,同人が説明するような方
法で3年の間に7億円以上の収入を得られるとは俄に考え難いこと,②7
億2000万円もの現金を自宅に段ボール12箱に入れてクローゼットで
保管していたという供述自体も不合理であること,③仮に被告Aがそのよ
うな多額の現金を保有していたのであれば,被告Bが幼い子供を抱えてい
る平成4年から働きに出たり(被告B本人),昭和63年9月に自宅を建
築する際に,実家からの援助以外の全額についてローン1340万円を組
んで,平成11年9月まで分割弁済を続けたりするとは考え難いこと(甲
全78の2,被告B本人)から,被告Aの上記供述は信用することができ
ない。むしろ,被告Fが,被告Aの指示により,Lの資産から多額の現金
を度々被告Aに渡していたことからすれば(前記1の認定事実イ),被
告Aが被告Cに流入させた金員は,L及びMが本件社債販売により顧客か
ら得た社債金であると推認するのが相当である。
以上によれば,L及び被告Cを実質的に統括していた被告Aは,Lが本
件社債の出資金として集めた金銭を,自己ないしその支配下にある第三者
に移転させる等の目的で被告Cを利用していたものと認められるから,被
告Cは,本件社債の違法な販売事業に関与・加担していたものとみるべき
である。被告Aが被告Cを上記のような目的で利用していたことは,被告
Aが,被告Cの存在をLの他のメンバーには秘匿し,Lの中でも「浮いて
いた存在」であった被告Fにのみ関与させていたことからも裏付けられる
(被告A本人)。
イそのほか,上記の認定事実によれば,被告Cを実質的に支配・経営し
ている被告Aは,Lのパンフレットにおいて,被告Cの投資先であるCコ
リアをLの海外拠点として紹介し,被告Cが経営するRを投資先の一つと
して取り上げるなどしており,これらの記載は顧客らに対して本件社債の
安全性・収益性を誤信させるための手段として用いられているのであるか
ら,被告Cとしても,違法な本件社債販売に係る営業活動に積極的に協力
・加担しているものとみることができる。
ウ以上によれば,被告Cは,詐欺行為である本件社債販売の実現を容易に
し,その犯罪収益を他に流出・隠匿するために利用されていたものである
から,違法な本件社債販売に関して共同不法行為責任(民法719条1項)
を負い,少なくとも幇助責任(同条2項)を負うというべきである。
エこれに対し,被告Cは,被告Cは,Lとは別個の法人であり,同社独自
の事業を行っていたのであるから,Lとの間に一体性はなく,その違法行
為を幇助したこともないと主張する。
しかしながら,Lと被告Cの実質的な支配者・経営者はいずれも被告A
であること,両社の間では「仮受金」「仮払金」名目で多額の資金が融通さ
れていること,Lのパンフレットにおいて,被告Cが経営するRを投資先
として,Cコリアを「Lグループ」としてそれぞれ紹介していることは既に
指摘したとおりであり,被告CがLと無関係の法人であるとは到底認めら
れない。
また,被告Cの独自事業なるものも,Rの経営以外はその実態が不明で
あり,頻繁な資金移動は確認できるものの,それが正当な取引であること
を裏付ける契約書類等の客観資料はほとんど提出されていない。被告Cの
最大の投資先であるCコリアに至っては,2億7800万円余の貸付債権
が回収不能となっているにもかかわらず,被告Aは,本人尋問において「こ
ういう数字ということは理解していませんでした」と供述しており,真に
投資事業が行われていたかは疑わしい。
よって,被告Cの主張は,上記アないしウの認定判断を左右するもので
はない。
小括
以上によれば,被告Cは,少なくとも,被告C及びLの両者が設立された
後である平成21年11月24日以降に購入された本件社債に関し,原告ら
に対し,共同不法行為に基づく損害賠償責任を負うものと認められる(なお,
不法行為に基づく損害賠償請求と選択的に請求された会社法350条に基づ
く損害賠償請求の可否(争点⑦)については,判断を要さない。)。
5被告B関係
争点⑨(被告Bは,被告Cの取締役として,会社法429条1項に基づく
責任を負うか)について
ア被告Bは,被告Cの設立当初から,了承した上で同社の代表取締役に就
任していたものであるところ(前記4認定事実イ),前記4のとおり,
被告CはLが行う違法行為(本件社債販売)に加担していたのであるから,
被告Bには,これを阻止し,被告Cの業務が適正・適法に行われるように
監督・是正すべき義務があったものといえる。しかるに,被告Bは,前記
4認定事実のイ及びウのとおり,被告Cの代表取締役としての業務を何
ら行わず,漫然と被告Cの経営を被告Aに一任していたのであるから,被
告Cの取締役としての任務を懈怠したものと認められる。
イそして,前記4認定事実ウによれば,被告Bは,被告Cが金融事業
名下で資金を扱っていることを認識していたのであるから,被告Aにおけ
る事業内容に関して監督を行う端緒は十分にあったものといえる。加えて,
被告Bは被告Aと同居していた配偶者なのであるから,被告Aに事業内容
を質問するなどして,監督を行うことも容易であった。
また,被告Bが被告Cの代表権を有し,業務に関する一切の権限を有す
る唯一の代表取締役の地位にあったことや(会社法349条1項,4項),
被告Cから取締役報酬として月額70万円を受給しており,取締役として
の職務を適正に果たすことが期待されるべき立場にあったことに照らせば
(前記4認定事実ウ),被告Bが被告Cの取締役として,実質上経営
を支配する者である被告Aに対する監督を行うべき要請は,強かったとい
える。
以上によれば,被告Cの代表取締役として何らの職務も行わず,漫然と
被告Aに経営を一任していた被告Bの注意義務違反の度合いは著しいとい
え,被告Bは,被告Cの取締役としての任務懈怠に関して,少なくとも重
大な過失があるといえる。
ウそして,被告Cの地位・役割は,L(被告A)が構築した本件社債販売
スキームの欠くことのできない重要部分の一角を占めていたのであるか
ら,被告Bの上記任務懈怠と原告らの損害との間には相当因果関係がある
と認められる。
エこれに対し,被告Bは,①被告Aに依頼されて名目上被告Cの代表取締
役に就任したにすぎないから,任務懈怠についての悪意又は重過失が存在
しない,②被告Cの業務内容や決算書類のみをみても,Lの事業内容等を
確認することはできず,本件社債の販売が違法行為に該当することを認識
することは困難であるし,仮に認識し得たとしても被告Cの取締役である
にすぎない被告BにはLの社債販売を中止させることは不可能であるか
ら,被告Bの任務懈怠と原告らの損害の間には因果関係がないと主張する。
しかしながら,①そもそも被告Bは,被告Cの代表権を有する唯一の代
表取締役に就任していたものであるところ,月額70万円にも及ぶ役員報
酬を受給していた上,被告Cにおいて飲食店を経営しようした時期もあっ
たというのであるから(被告A本人,被告B本人),何ら実質的な権限や
責任を有しない名目的取締役であるとは認め難い。被告Bは,役員報酬を
被告Aにそのまま渡していたと供述するが,役員報酬が振り込まれる通帳
は被告Bが管理していたこと,被告Bが被告Aから毎月生活費を40万円
ないし80万円受け取っていたこと(被告A本人,被告B本人)に照らせ
ば,被告Bが被告Cの役員報酬により何らの利益も享受していないとは認
められない。
また,②被告Bは,被告Cの取締役として,同社の決算書類等を確認す
ることは可能であったほか,配偶者である被告Aに対して,被告Cの事業
内容等を質問することも可能であったところ,これらの確認をすれば,被
告CとLが密接な関連性を有することや,被告CとLや被告Aとの間で不
明朗な金銭のやりとりがあることは容易に認識可能であった。そして,被
告Aに確認をすれば,Lが高利配当と元本確保を謳って多額の社債販売を
行っていることも認識可能であり,一般的な金融商品と比較して著しく高
利を約束する社債販売が,極めて高い破綻リスクを抱えるものであること
を認識することは,社会一般常識に照らして十分可能であったといえる。
以上によれば,被告Bが適正な職務執行をしていれば,被告CとLの取引
を是正することは可能であり,被告Cの本件社債販売における役割に照ら
せば,上記是正がされなかったことと原告らの損害との間には因果関係が
ある。なお,被告Bは,金融事業に関する知識も能力もなかったとも主張
するが,役員報酬など取締役としての利益を享受しながら,知識能力がな
いとして責任だけを免れることはできないのであって(責任を負うだけの
知識能力がないのであれば取締役に就任すべきではない。),上記主張は
採用できない。
したがって,被告Bの上記主張は,いずれも上記アないしウの認定判断
を左右するものではない。
オよって,被告Bは,被告Cの取締役として,会社法429条1項に基づ
き,原告らに対する損害賠償責任を負う。
小括
以上によれば,被告Bは,少なくとも,被告C及びL設立後である平成2
1年11月24日以降に購入された本件社債(いずれも被告Cが加担してい
る。)に関し,会社法429条1項に基づき原告らに対する損害賠償責任を
負うものと認められる(なお,会社法429条1項に基づく損害賠償請求と
選択的に請求された不法行為に基づく損害賠償請求の可否(争点⑧)につい
ては,判断を要さない。)。
6被告D関係
認定事実
前記前提事実,前記1の認定事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を
総合すれば,本件社債の販売及びLの事業に関する被告Dの関与等に関し,
次の事実が認められる。
ア被告Dの経歴など
被告Dは,昭和59年4月頃,Uに入社し,同社で上司である被告Aと
出会った。その後,被告Dは,Uを退職して,先物取引の会社やFX取引
の会社を転々とし,平成15年頃からは,FX取引を扱うVにおいて,常
務として業務に携わっていた。(甲全54,62,64,乙2の2,被告
D本人)
イ被告Dが本件社債の販売に関与するに至った経緯等
被告Dは,平成18年頃,被告Aと再会し,一緒に会社をやらないかと
誘われたため,Vを退職し,同社の従業員らを引き連れて被告Aとともに
事業を開始した。そして,被告Dは,Pにおいては理事として,Pの少人
数私募債の勧誘に関与したほか,平成19年12月28日以降,同事業を
引き続き行うために設立されたMにおいては代表取締役に就き,平成22
年3月19日以降はLに従業員の派遣を行うOの取締役(同年8月4日か
らは代表取締役)に就任した。また,平成21年11月24日に設立され
たLでも本件社債販売に関与し,平成23年9月30日以降は,Lの代表
取締役を務めていた。(甲全17ないし19,54,62,64,乙2の
2,被告D本人)
ウ被告DのLにおける業務内容等
被告Dは,Lにおいて,本社,本店営業部及び各支店を統括する者とし
て位置づけられており,Lの実質的な統括者である被告Aに次ぐ地位にあ
った。被告DがLの代表取締役に就任したのは,上記のとおり,平成23
年9月であったが,被告Dの前の代表取締役である被告G及びαは名目的
な代表取締役であったことから,被告DのLにおける業務自体は代表取締
役就任前後で特に変わるところはなかった。
被告Dは,平日は毎日朝から夕方まで出社して勤務し,朝礼に参加した
り,Lにおいて月1回開催される営業全体会議の司会進行を行い,従業員
を激励したり,その勧誘方法等に関してコメントをした。また,各店舗の
営業責任者から営業成績に関する報告を受けた上で,営業成績の向上を図
るように指示を行うなどして営業部門を管理監督するほか,従業員の採用
面接に立ち会っており,本件社債の販売勧誘業務全般において被告Aを補
佐していた。自ら顧客に対して本件社債の販売勧誘に当たることもあった。
なお,被告Dは,Oから月額120万円の給与を受けていたほか,平成
22年4月から平成24年4月までの間に合計794万5525円(月額
平均31万7821円。最高額は平成22年12月の90万5040円)
の加給金を受け取っていた。(甲全45,47,51,54,62,67,
甲1の2,2の2,50の2,50の4,64の2,64の5,乙2の2,
被告A本人,被告D本人)
エ本件社債の販売態様及び資金の流れに関する被告Dの認識
Lにおいては,本件社債の販売によって顧客らから得た社債金の運用等
は全て被告Aが独りで行っていたために,被告Dは,被告Aから資金運用
方法の概略に関して説明を受けてはいたものの,その運用先などの詳細は
把握していなかった。
一方で,被告Dは,Lにおいて,本件社債が年6パーセントを超える高
利の配当を謳った上で,従業員に対する加給金の支払も約束しているにも
かかわらず,本件社債の勧誘に際しては,「元本確保型」と称して,元本
は確実に償還される商品である旨の説明をするよう指導されていることは
認識しており,実際に従業員らが顧客に対してこのような勧誘を行ってい
ることも認識していた。(甲全35,52,54,60,62,乙2の2,
被告D本人)
争点⑩(被告Dは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか)
について
ア上記Dは,Lにおいて,被告Aに次ぐ地位
にあり,営業活動全体を統括していた者であるところ,本件社債の販売を
促進するために従業員らに対する指導監督を行い,実質的な支配・経営者
である被告Aの指示を従業員らに伝達するという重要な役割を担っていた
ものと認められ,Lにおける本件社債の販売に関して,Lの代表取締役と
いう役職にふさわしい重要な役割を担っていたといえる。
加えて,少なくとも平成22年4月以降は,O又はLから加給金を含め
て月額百数十万円にも及ぶ高額な報酬を受けていたことなども併せ考える
と,被告Dは,本件社債の販売勧誘に関し,積極的に関与し,加担したも
のであると認められる。
イそして,被告Dは,上記のようにLの中心的人物に位置し,本件社債の
販売スキームにおいても主導的な地位を果たしていたのであるところ,本
件社債による資金調達は,極めて高利な利息負担や加給金の支払負担を伴
うものであるから,前記
を受けられない危険性の高い商品であるといえ,その点は被告Dにおいて
も当然認識していたものといえる。しかるに,顧客に対して元本の償還が
確実であるかのような勧誘を行うことは,顧客らに本件社債がリスクのな
い安全な商品であると誤信させる説明であるところ,上記
のとおり,被告Dは,従業員らがこのような説明を行うことを容認してい
たものといえるから,こうした勧誘態様の違法性を認識していたものとい
える(なお,被告Dは,Pにおいて社債販売事業を開始した当初から,社
債販売事業に関与していたものであるから,遅くともL設立後に行われた
社債の勧誘に関しては,本件社債販売の違法性を認識していたといえる。)。
ウこれに対し,被告Dは,被告Aから資産の運用方法等について具体的な
説明があったので,本件社債の危険性を認識していなかったと主張する。
しかしながら,被告Dが供述する説明は,①デフォルト債権や美容整形業
者等の自社ローン債権を安く購入して債務者から債権回収を行い,その差
額を利益とするほか,②飲食業,出版事業やシステム開発事業等に投資を
するというものであるが,被告Aが,たった独りで何十億もの資金を運用
して,これらの事業によって高利の利息及び加給金支払の負担をカバーす
るほどの収益を上げることができるとは通常考え難い。そして,被告Dは,
被告Aから運用先の説明を受けたものの,それ以上に運用状況の結果を具
体的に確認したわけでもないというのであるから(被告D本人),金融商
品を扱う業者等で長く勤務した経験がある被告Dが,被告Aの説明を軽々
に信じたものとは考え難いというべきである。被告Dは,自らもM時代に
本件社債を購入していたと供述するが,仮に社債購入が事実であるとして
も,本件社債の販売システムが破綻する前の利益獲得を狙って購入したも
のと考えることもでき,上記認定判断を左右するものではない。
また,被告Dは,個々の営業活動は各支店に任せていたために,勧誘活
動の違法性を認識していなかったとも主張する。しかしながら,Lにおい
て,勧誘方法のマニュアルを作成し,実質的な元本保証を謳うパンフレッ
ト等を作成した上で,営業会議においても実質的な元本保証を謳うように
指導していたことを,代表取締役である被告Dが知らなかったとは考えら
れない。被告Dの上記主張は,Lの他の従業員の供述とも矛盾する上(甲
全35,52,60),被告D自ら顧客に対して直接勧誘を行っていたこ
とともそぐわないから,採用することができない。
さらに,被告Dは,権限も大きくなく,被告Aの従属的立場にあるにす
ぎなかったから,結果回避措置を採ることもできなかったと主張するが,
上記において認定した被告Dの違法行為は,結果回避義務違反(他者の違
法行為を止めなかったという不作為による違法行為)ではなく,違法な本
件社債の販売への積極的な加担(他者と共同して行った作為による違法行
為)であるから,被告らの共同不法行為と原告らの損害との間に因果関係
が認められる以上,責任を免れない。被告Dの上記主張は採用することが
できない。
したがって,被告Dの上記各主張は,いずれも前記ア及びイの認定判断
を左右するものではない。
エ以上によれば,被告Dは,少なくともL設立後である平成21年11月
24日以降に購入された本件社債については,被告Aらと共同し,その違
法性を認識しながら(故意により),違法な販売に加担したと認められる。
小括
したがって,被告Dは,少なくとも平成21年11月24日以降に購入さ
れた本件社債に関し,原告らに対し,共同不法行為に基づく損害賠償責任を
負うものと認められる(なお,不法行為に基づく損害賠償請求と選択的に請
求された会社法429条1項に基づく損害賠償請求の可否(争点⑪)につい
ては,判断を要さない。)。
7被告E関係
認定事実
前記前提事実,前記1の認定事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を
総合すれば,本件社債の販売及びLの事業に関する被告Eの関与等に関し,
次の事実が認められる。
ア被告Eの経歴など
被告Eは,昭和52年以降,株式投資のコンサルタント会社や為替・商
品オプション取引を扱う会社などで勤務した後,平成17年10月,Vに
入社し,同社で営業担当社員として働いていたところ,上司から被告Dら
とともに転職することの誘いを受け,平成19年4月頃,Pに転職した。
被告Eは,Pにおいて支店長代理の肩書で,上から6番目の地位にいたと
ころ,社債販売事業がPからMに引き継がれた後は,設立時である平成1
9年12月28日から平成22年7月31日までの間,Mの取締役の地位
にあった。また,被告Eは,Mにおいて部長職に就き,本社の営業課を統
括する立場にあるものとして,役員会議や営業全体会議に参加していた。
そして,被告Eは,Oの設立以降,同社の取締役の地位にあったほか,
本件社債の販売事業をLがMから引き継いだ後,Lの取締役には就任しな
かったものの,営業統括部長として業務を行っていた。
また,被告Eは,Pにおける社債販売が開始されて以降,自らも勧誘担
当者として,顧客に対する本件社債の販売も行っていた。(甲全18,1
9,51,64,67,乙6の2,被告E本人)
イ被告EのLにおける業務内容等
被告Eは,営業統括部長として,本社及び本店営業部の営業責任者であ
り,本社及び本店営業部に所属する勧誘担当者を指導・監督する立場にあ
った。具体的には,営業担当者の行動を把握するとともに,部下である営
業担当者らが営業ノルマを達成できるようにはっぱを掛けること,部下に
よる勧誘活動に同行し,ともに営業勧誘活動を行うほか,部下による営業
勧誘態様の問題点などを指摘すること,営業成績を被告Dに報告すること
などをその職務としていた。また,自身も担当する顧客(原告1など)に
対して,個別に勧誘を行っていた。
そして,被告Eは,従業員に対して,本件社債は「元本確保型」であっ
て元本が確実に償還される商品であること,会社が倒産したときには会社
が有している債権を売却して元本を償還できるので不安はないことを説明
して本件社債の勧誘をするよう指導しており,自らも顧客に対して同様の
勧誘を行っていたほか,他の営業担当者においても同様の勧誘を行ってい
ることを認識していた。
なお,被告Eは,Oから月額80万円の給与を受けていたほか,平成2
2年4月から平成25年5月までの間(ただし,平成24年8月を除く。)
に合計1280万円程度(月額平均約34万6000円。最高額は平成2
4年9月の137万6775円)の加給金を受け取っていた。また,被告
Eは,本件社債が年利6パーセントを超える高利で販売されていたことの
ほか,従業員らに対して所定の加給金が支払われることを認識していた。
(甲全35,36,45,47,51,67,甲1の2,5の2,12の
2,23の2,37の2,53の2,64の2,76の2,79の2,80
の2,乙6の2,被告E本人)
ウ本件社債の資金の流れ等に関する被告Eの認識
Lにおいては,本件社債の販売によって顧客らから得た社債金の運用等
は全て被告Aが独りで決定していた。そのため,被告Eは,被告Aから資
金運用方法の概略に関して説明を受けたものの,具体的な収支状況等につ
いては把握していなかった。(甲全64,被告E本人)
争点⑫(被告Eは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか)
について
ア上記Eは,Mにおいては取締役兼部長職と
して,Lにおいては営業統括部長として,本件社債の営業部門を統括する
立場にあり,勧誘担当者に対して営業方法を指導し,本件社債の販売事業
を促進させていたものであって,本件社債の販売事業において,重要な役
割を担っていたものと認められる。
加えて,被告Eは,自ら勧誘担当者としても本件社債の販売を行い,少
なくとも平成22年4月以降は,本件社債を販売し,又は本件社債の販売
事業を統括することの対価として,O又はLから加給金を含めて月額10
0万円を超える高額の報酬を受けていた。以上を併せ考えると,被告Eは,
本件社債の販売勧誘に積極的に関与し,これに加担したものであると認め
られる。
イそして,本件社債による資金調達は,極めて高利な利息負担や加給金の
支払負担を伴うものであるから,前記
その元本償還を受けられない危険性の高い商品であるといえ,その点は被
告Eにおいても当然認識していたものといえる。しかるに,被告Eは,営
業担当者らに対し,顧客に対して元本の償還が確実であるかのような勧誘
を行うように指導・奨励していたのであるところ(上記イ),
このような説明方法が,本件社債がリスクのない安全な商品であると顧客
らに誤信させる説明であることは既に説示したとおりであるから,被告E
は本件社債の勧誘の違法性を認識していたものといえる(なお,被告Eは,
Pにおいて社債販売事業を開始した当初から,社債販売事業に関与してい
たものであるから,遅くともL設立後に行われた社債の勧誘に関しては,
本件社債販売の違法性を認識していたといえる。)。
ウこれに対し,被告Eは,自身が勧誘する際に顧客に対して元本保証であ
る旨を伝えたり,従業員らに対して元本保証という説明をしないように指
導していた旨主張する。しかしながら,前記1の認定事実によれば,
Lにおいては,営業担当者に対し,「元本保証」という言葉を用いないよ
うに指導されていたが,他方で,「元本確保型」という用語を用い,元本
は確実に償還される旨の勧誘を行うよう指導されていたものである。そし
て,被告Eもこれと同様の指導をしていたことを認めており,被告Eから
勧誘を受けた顧客らも,実質的に元本が確保される旨の勧誘を受けた旨陳
述している(甲全36,甲1の2,5の2,12の2,23の2,37の
2,53の2,64の2,76の2,79の2,80の2,被告E本人)。
したがって,「元本保証」という言葉を使っていなかったことは,上記イ
の認定判断を左右しない。
また,被告Eは,被告Aから資産の運用方法等について具体的な説明が
あったので,本件社債の危険性を認識していなかったと主張する。しかし
ながら,被告Aの説明を前提としても,債権回収業や投資事業によって高
利の利息及び加給金支払の負担をカバーするほどの収益を上げることがで
きるとは通常考え難いことは,前記6で既に述べたとおりである。そし
て,被告Eは,被告Aから運用先の説明を受けたものの,収益予測の根拠
や具体的な運用状況を確認したわけではないのであるから(被告E本人),
金融商品を扱う会社で長く勤務した経験がある被告Eが,被告Aの説明を
軽々に信じたものとは考え難く,元本の償還が不可能になるおそれがある
ことを認識していなかったとは認められない。証拠(乙6の1)によれば,
被告Eは本件社債を購入していたものと認められるが,Lの社債販売シス
テムが破綻する前の利益獲得を狙って購入したものとも考えられるから,
上記認定判断を左右するものではない。
さらに,被告Eは,従属的立場にあったにすぎないから損害発生を回避
できなかったとも主張するが,同主張が当を得ないことは,前記6と同
様である。
したがって,被告Eの上記各主張は,いずれも前記ア及びイの認定判断
を左右するものではない。
エ以上によれば,被告Eは,少なくともL設立後である平成21年11月
24日以降に購入された本件社債については,被告Aらと共同し,その違
法性を認識しながら(故意により),違法な販売に加担したと認められる。
小括
したがって,被告Eは,少なくとも平成21年11月24日以降に購入さ
れた本件社債に関し,原告らに対し,共同不法行為に基づく損害賠償責任を
負うものと認められる(なお,不法行為に基づく損害賠償請求と選択的に請
求された民法715条2項,会社法429条1項(類推適用)に基づく損害
賠償請求の可否(争点⑬⑭)については,判断を要さない。)。
8被告F関係
認定事実
前記前提事実,前記1の認定事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を
総合すれば,本件社債の販売及びLの事業に関する被告Fの関与等に関し,
次の事実が認められる。
ア被告Fの経歴など
被告Fは,平成19年,知人による紹介などを経て,Pに入社すること
になり,同社において総務課長として仕事をすることになった。そして,
被告Fは,Mの設立時である同年12月28日から平成23年9月30日
までの間,同社の取締役の地位にあったほか,被告Cの設立時である平成
20年8月5日から同社の取締役の地位にあり,Oの設立時である平成2
2年3月19日から同社の取締役の地位にあった。また,被告Fは,Cコ
リアの設立時から社内理事を,平成21年8月4日からは代表理事を務め
ていた(いずれも平成25年8月1日に辞任)。(甲全18ないし20,
69,74,乙5の2,被告F本人)
イ被告FのL,被告Cにおける業務内容等
被告Fは,Lにおいては経理等を担当する総務部長として,被告Cにお
いては取締役として,被告Aの指示に従って,顧客らから支払われた社債
金の資金移動,社員に対する給与や加給金の支払,顧客に対する社債元本
の償還や利息の支払等を担当しており,従業員に対して高額の加給金が支
払われていることや,本件社債の利率が極めて高利であることを認識して
いた。被告Fによる資金移動は,被告Aの指示に基づいて行われていたが,
被告Aからは,多いときには現金で5000万円程度を交付するよう指示
されることもあり,本件社債の購入者からの社債金を被告Aに対して現金
で交付することもあった。また,被告Fは,被告Aから被告Cの口座管理
も委ねられていたところ,Lが本件社債の販売により得た資金を被告Cの
口座に振り込むことや,同資金を原資として,被告Cが経営する「R」の
従業員の給与を支払うことを委託されることもあった。
そして,被告Fは,Lにおいて本件社債の販売には関与していなかった
ものの,自らの身内に対して社債販売を勧誘した場合には,加給金を受領
したことがあったほか,Lにおいて毎月開催されていた営業全体会議にも
基本的に出席していた。
なお,被告Fに対しては,平成22年4月以降,Oから毎月74万41
30円の給与が支払われ,平成21年11月ないし平成22年9月の間及
び平成24年1月以降は被告Cから,平成22年10月から平成23年1
2月の間はLから,それぞれ毎月25万円の給与が支払われていたほか,
加給金としてLから合計128万2000円が支払われた。(甲全51,
68,被告F本人)
ウ本件社債の勧誘態様等に関する被告Fの認識
被告C及びLの本社の所在地は同一場所であり,被告Fは,そこで両社
に関する業務を行っていた。そして,被告Fの勤務スペースは,営業担当
者が電話において営業勧誘をしていたフロアと同一フロアであったこと
や,被告Fも営業全体会議に出席していたことから,被告Fも,営業担当
者による電話勧誘方法の概要は把握しており,営業担当者らが顧客に対し
て,必ず元本を返還して毎月の配当を支払うことを約束する方法で勧誘を
行っていることを認識していた。(甲全69,70,82,被告F本人)
争点⑮(被告Fは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか)
について
ア上記Fは,本件社債の販売によりLが募っ
た資金を被告Cに移転させ,被告Aに現金で交付するなど,Lの事業資金
名目で顧客から集めた資金を移転させるという,本件社債の販売による詐
欺行為に当たって必要不可欠な行為を行っていたものであると認められ
る。被告Fの役割が極めて重要であったことは,被告Fが平成23年11
月頃にLを退社しようとしたときに,被告Dが「お前が辞めてどうするん
だ。回っていかなくなるだろう。」と強く慰留したことからも裏付けられ
る(甲全70)。以上によれば,被告Fは,本件社債により資金を集める
前記スキームにおいて,必要不可欠な役割を果たしたものといえ,本件社
債の販売に積極的に加担したものと認められる。
イそして,被告Fは,被告Aによる要求を受けて,Lの資金移動を行って
いたものであるが,被告Aからの要求に応じて時には5000万円程度に
も及ぶ金銭を現金で交付するなど,本件社債により得た資金を事業に用い
るとは考え難い資金移動が行われていることを認識していたにもかかわら
ず,被告Aに対してその理由を問いただすこともしなかったのであるから,
被告Fは,本件社債の販売により得られた社債金がLの事業に使用されて
いなかったこと(すなわち早晩破綻必至であること)を未必的に認識して
いたものと推認され,少なくとも容易に認識し得たと認められる。
また,上記の点を措くとしても,本件社債の勧誘に当たって,その安全
性を顧客らに誤信させる違法な説明がされていたことは既に説示したとお
りであるところ,上記被告Fは,本件社債の勧
誘に当たり,顧客らに上記のような説明が行われていたことを認識してい
た。そして,本件社債による調達が極めて高利な利息負担や加給金の支払
負担を伴うものであることからすれば,被告Fは,少なくとも本件社債の
勧誘態様が違法であることを認識すべきであり,この点において過失があ
ると認められる。
したがって,被告Fは,Lの詐欺行為ないし違法な勧誘態様による本件
社債の販売に加担した点において,故意又は過失があるといえる。
ウこれに対し,被告Fは,①被告Aの指示に従って総務的な雑用を行って
いたにすぎず,機械的・従属的役割を担っていたにとどまる,②本件社債
販売の違法性を認識せず,認識し得なかったと主張する。
しかしながら,①すでに述べた通り,被告Fは被告Aから直接指示を受
けて,時には5000万円程度にも及ぶ現金を被告Aに交付していたので
あって,このような資金移動が本件社債により得た収益を隠匿する手段と
して必要不可欠であることや,被告FがLにおける資金移動全般を取り扱
っていたことに照らせば,被告Fが行った業務の重要性は否定されない(な
お,仮に,一部の業務を部下従業員に担当させたことがあるとしても(被
告F本人5頁),被告Fの役割の重要性は否定されない。)。そして,被
告Fは,本件社債の販売により得た収益の移転等に関与することの報酬と
して,相当額の報酬を得ていることも併せ考えると,本件社債の販売に積
極的に加担していたものといえる。
また,②上記のとおり,本件の資金移動の流れが債権回収等を事業とす
る会社の資金移動の方法として不自然であることや,本件社債自体が高リ
スクであるにもかかわらず,Lにおいては顧客らにその安全性を誤信させ
る違法な勧誘がされていることを,被告Fは認識していたのであるから,
被告Aから「大丈夫である」旨の説明を受けていたことによって,本件社
債販売に違法性がないと認識せず,認識することもできなかったとは到底
考えられない。
したがって,被告Fの主張によっても,上記ア及びイの認定判断は左右
されない。
エ以上によれば,被告Fは,少なくともL設立後である平成21年11月
24日以降に購入された本件社債については,被告Aらと共同し,故意又
は過失により違法な販売をしたと認められる。
小括
したがって,被告Fは,少なくとも平成21年11月24日以降に購入さ
れた本件社債に関し,原告らに対し,共同不法行為に基づく損害賠償責任を
負うものと認められる(なお,不法行為に基づく損害賠償請求と選択的に請
求された会社法429条1項に基づく損害賠償請求の可否(争点⑯)につい
ては,判断を要さない。)。
9被告G関係
認定事実
前記前提事実,前記1の認定事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を
総合すれば,本件社債の販売及びLの事業に関する被告Gの関与等に関し,
次の事実が認められる。
ア被告Gは,被告AのU勤務時代の上司であり,平成21年11月24日
から平成22年8月26日まではLの,平成22年3月19日から同年8
月4日まではOの,平成21年1月29日から会社解散決議がされた平成
23年3月31日まではNの代表取締役であった。(甲全17,19,2
5,54)
イもっとも,被告Aが被告GをLの最初の代表取締役としたのは,LがM
とは全く異なる一新された会社であることを外部に示して装うためには,
被告Dを代表取締役にすることができなかったためであり,名前だけのこ
とであった。このため,被告GがLにおいて社債販売業務を行うことはな
く,平成23年9月30日に被告DがLの代表取締役に就任する前も,実
質的には被告Dがその業務を行っていた。(甲全54,69)。
ウ被告Gは,平成22年8月26日,別の仕事がしたいと申し出てLの代
表取締役を辞任した。このため,被告Aは,名前だけの代表取締役として
αを後任の代表取締役とした。(甲全17,54)
争点⑱(被告Gは,Lの取締役として,会社法429条1項に基づく責任
を負うか)について
ア代表取締役在任中の責任について
前記1の認定事実によれば,Lは設立当初の平成21年11月24日
から,Mの業務を引き継いで違法行為に当たる本件社債の販売を行って
いたものであり,被告Gは,Lの代表取締役として,これを阻止した上
でLの業務が適正・適法に行われるように監督・是正すべき義務があっ
たものといえる。しかるに,被告GLの代表取締
役としての実質的な職務を行わず,漫然とLにおいて本件社債の販売を
継続させていたのであるから,Lの取締役としての任務を懈怠したもの
と認められる。
そして,被告Gは,名目的な代表取締役であったとはいえ,その在任
中,同社において正式に選任された唯一の取締役であり(甲全17),
さらには,代表権を有し,業務に関する一切の権限を有する代表取締役
の地位にあった(会社法349条1項,4項)。
また,本件社債の販売は,Lにおいて従業員を用いて行っていたほぼ
唯一の業務であるから,被告Gが,被告Aに質問をしたり,Lに出社し
たりすれば,多額の社債が販売されている事実及びその勧誘態様は容易
に知り得るところであった。そして,資金調達に要するコスト(利子や
加給金)が極めて高額であることも,会計帳簿等から容易に把握できる
事実であるから,被告Gが,Lにおいて違法な社債販売が行われている
ことを認識し,これに対する監督を行う端緒は十分にあったといえる。
以上によれば,Lの代表取締役として何らの職務も行わず,漫然と被
告Aらに経営を一任していた被告Gの注意義務違反の度合いは著しいと
いえ,被告Gは,Lの取締役としての任務懈怠に関して,少なくとも重
大な過失があるといえる。被告Gが,その在任期間中,Lの唯一の取締
役兼代表取締役であったことを踏まえれば,名目的な取締役であったこ
とは,上記認定判断を左右しない。
以上によれば,被告GがLの取締役に在任していた間(平成21年1
1月24日から平成22年8月26日まで)に,顧客らがLの社債を購
入したことにより生じた損害は,上記被告Gの任務懈怠と相当因果関係
があるといえるから,被告Gは,前記期間に係る社債購入により生じた
損害を賠償する責任を負う。
なお,被告AがLの実質的経営者であり,オーナーであることに照ら
せば,仮に被告Gが被告Aに対して,本件社債の販売の中止あるいは販
売方法の是正を促したとしても,被告Aは直ちにこれを受け入れなかっ
た可能性がある。しかしながら,このような場合であっても,仮に中止
又は是正がされなければ捜査当局や監督官庁に通報するとの警告も交え
て,被告Aに働きかければ,被告Aが少なくとも被告Gの在任中に,そ
れまでと同様の販売方法・形態のままで本件社債の販売を続けたとは考
え難いから,被告Gによる任務懈怠と損害との間に相当因果関係は認め
られる。
また,原告らが購入した本件社債が償還不能になったのは,被告Gが
代表取締役を辞任した後のことではあるが,被告Gが在任中の本件社債
の違法な販売を監督・是正していれば,原告らはこの期間中に本件社債
を購入することはなかったのであるから,償還不能となった時期が被告
Gの代表取締役辞任後であることは上記判断を左右しない。
イ代表取締役退任後の責任について
次に,被告Gが取締役を退任した後に生じた損害については,被告Gの
後任者である取締役において,適正に職務を遂行することによって防止す
べき損害であったということができるから,被告Gの任務懈怠との間に相
当因果関係があるとはいえない。
これに対し,原告らは,被告GがLにおける違法行為を終了させずに退
任したことにも任務懈怠があるとして,取締役退任後の責任も追及するが,
被告Gは,L等における本件社債の販売スキームの構築には関与していな
かったことが認められるから(被告A本人),自らの在任中の違法行為を
阻止すべき義務を超えて,取締役退任時に,自らが積極的に関与すること
なく生じた違法状態を除去する義務まで負っていたとは解し得ない。原告
らの上記主張は採用することができない。
ウ小括
したがって,被告Gは,取締役に在任していた期間である平成21年1
1月24日から平成22年8月26日の間にLの社債が購入されたことに
より生じた損害について,会社法429条1項により損害賠償義務を負う
といえるが,その余の期間の社債購入により生じた損害を賠償する義務を
負うとはいえない。
争点⑰(被告Gは,本件社債の販売に関して共同不法行為責任を負うか)
について
被告Gが,Lの取締役在任中に会社法429条1項に基づく損害賠償責任
を負うことは上記のとおりであり,この期間について選択的に主張されて
いる不法行為責任については判断を要しない。
次に,被告GのLの取締役在任期間外の不法行為責任についてみるに,こ
の期間については,被告GはLの事業に全く関与しておらず,被告Gの在任
中の行為がその後のLの違法な社債販売に寄与したことも認められないか
ら,被告Gに不法行為責任は認められない。
小括
以上によれば,被告Gは,Lの代表取締役であった平成21年11月24
日から平成22年8月26日の間にLの社債が購入されたことにより生じた
損害について,会社法429条1項に基づき原告らに対する損害賠償責任を
負うが,その余の責任は負わないものと認められる。
10勧誘担当者関係
争点⑲(被告Hは,勧誘を担当した顧客に対し,本件社債の販売に関して
共同不法行為責任を負うか)について
ア共同不法行為責任の有無
被告Hは,平成23年2月頃にOに入社し,Lにおいて,顧客に対して
実質的に元本の返還を約束した上で本件社債の購入を勧誘していた者であ
るところ,前記本件社債勧誘に際して被
告Hやその前任者が行った説明は,本件社債の有する元本欠損のリスクを
殊更に過少視し,本件社債は元本が償還されることが確実な安全な金融商
品であると誤信させる違法な説明であったと認められる。
そして,前記2本件社債による資金調達は,極めて高利な
利息負担や加給金の支払負担を伴うものであるところ,被告Hは自らも高
額な加給金の支給を受けるなどしてこれを認識していたのであるから,本
件社債が元本償還を受けられない危険性の高い商品であることも容易に認
識し得たというべきである。にもかかわらず,被告Hは,本件社債の安全
性に関する被告Aの説明を軽信し,顧客らに対して違法な説明を行い,あ
るいは前任の勧誘担当者らが違法な説明を行ったことに乗じて本件社債の
販売を継続したというのであるから,違法な社債販売を行ったことについ
て少なくとも過失があると認められる。
したがって,被告Hは,実際に本件社債の販売を担当した顧客に対し,
共同不法行為に基づく損害賠償義務を負う。
イ勧誘を担当した顧客
そして,証拠(甲3の2ないし4,7の2ないし4,8の2,8の3,
9の2,9の3,25の2,25の3の1,44の2,44の3の2,4
4の4,68の2,68の3,72の2ないし4)によれば,被告Hは,
原告3,7ないし9,25,44,68,72に対する営業活動を行い,
社債を販売したものと認められる。
一方で,原告18,45は,自身も被告Hから勧誘を受けて社債を購入
したと主張する。しかしながら,証拠(甲18の2)によれば,被告Hが
原告18の担当者となったのは平成25年4月頃以降であると認められる
ところ,原告18は,この期間に本件社債を購入していない。また,原告
45が社債を購入したのは,被告Hが原告44(原告45の妻)に対して
本件社債の販売を開始するようになった平成24年10月頃よりも前であ
り(甲44の2,45の2),被告Hは原告45に対する本件社債の勧誘
・販売は行っていない。したがって,原告18,45による本件社債の購
入について,被告Hは損害賠償責任を負わない。
ウ小括
よって,被告Hは,原告3,7ないし9,25,44,68,72が被告
Hの勧誘に応じて社債を購入したことにより生じた損害を賠償する義務を
負うというべきである。
争点⑳(被告Iは,勧誘を担当した顧客に対し,本件社債の販売に関して
共同不法行為責任を負うか)について
ア共同不法行為責任の有無
被告Iは,平成21年1月頃にMに入社し,その後Lにおける社債販売
活動も行っていたものであるところ,前記及び10で説示したとこ
ろによれば,本件社債勧誘に際して被告Iやその前任者が行った説明は,
M時代のものも含めて違法な説明であったと認められる。また,被告Iが,
違法な社債販売を行ったことについて少なくとも過失があると認められる
ことは,上記と同様である。
したがって,被告Iは,実際に本件社債の販売を担当した顧客に対し,
共同不法行為に基づく損害賠償義務を負う。
イ勧誘を担当した顧客
そして,証拠(甲6の2,6の3の1,6の5の3)によれば,被告
Iは,原告6に対する営業活動を行い,社債(購入社債番号1・2。以
下,購入社債番号は各原告の別紙購入社債一覧表における番号をさすも
のとする。)を販売したものと認められる。そして,被告Iが原告6に
対して販売した社債はいずれも,償還日を迎えて購入社債番号3・4に
乗り換えられているが,これは実質的には償還日の延長であって,被告
Iが購入社債番号1・2を販売したことと,原告6が購入社債番号3・
4を購入してこれが未償還になっていることとの間には相当因果関係が
あると認められるから,被告Iは原告6の購入社債番号3・4の社債購
入による損害について責任を負う。
また,証拠(甲29の2)によれば,被告Iは,βとともに原告29
に対する営業活動を行い,社債(購入社債番号1)を販売したと認めら
れるところ,同社債は償還日を迎えて購入社債番号4に乗り換えられて
いるが,これは実質的には償還日の延長であって,被告Iが購入社債番
号1を販売したことと,原告29が購入社債番号4を購入してこれが未
償還となっていることとの間には相当因果関係があると認められるか
ら,被告Iは原告の購入社債番号4の社債購入による損害について責任
を負う。一方で,原告29の購入したその余の社債については,被告I
が販売したとは認められないから,被告Iは,原告29が購入したその
余の社債に係る損害を賠償する責任を負わない。結局,被告Iは,原告
29が購入社債番号4を購入したことにより被った損害を賠償する責任
を負う。
次に,原告18,30は,自身も被告Iから勧誘を受けて社債を購入
したと主張する。
しかしながら,原告18は,「被告Iが原告18宅を訪れたことがあ
る」旨を陳述するにとどまるところ(甲18の2),被告Iは本件社債
の勧誘のために原告18宅を訪れたものと推認できるが,被告Iの勧誘
の結果,原告18が社債を購入したか否かは判然としない。したがって,
被告Iの勧誘により原告18が社債を購入したことを認めるに足りる証
拠はない。
また,原告30及びその妻である原告29の陳述書(甲29の2,3
0の2)によれば,原告30に対する社債販売を担当したのはγであり,
被告Iが原告30に社債販売をしたことはないことが認められるから,
原告30の社債販売について被告Iは責任を負わない。
ウ小括
よって,被告Iは,原告6,29が被告Iの勧誘に応じて社債を購入し
たことにより生じた損害を賠償する義務を負うというべきである。
争点㉑(被告Jは,勧誘を担当した顧客に対し,本件社債の販売に関して
共同不法行為責任を負うか)について
ア共同不法行為責任の有無
被告Jは,平成20年7月頃にMに入社し,その後Lにおける社債販売
活動も行っていたものであるところ,前記10で説示したとこ
ろによれば,本件社債勧誘に際して被告Jやその前任者が行った説明は違
法な説明であったと認められる。また,被告Jが,違法な社債販売を行っ
たことについて少なくとも過失があると認められることは,上記と同様
である。
したがって,被告Jは,実際に本件社債の販売を担当した顧客に対し,
共同不法行為に基づく損害賠償義務を負う。
イ勧誘を担当した顧客
そして,証拠(甲27の2,27の7,35の2,35の3の2,35
の6,46の2,46の3の2,46の6,63の2,76の2,76の
3の2)によれば,被告Jは,原告27,35,46,63,76に対する
営業活動を行い,社債を販売したものと認められる。ただし,原告46が
請求する購入社債であって本訴請求に係る損害として認定されているもの
のうち,被告Jが勧誘を担当しているのは,購入社債番号2のみである(甲
46の2)。
ウ小括
よって,被告Jは,原告27,35,46,63,76が被告Jの勧誘
に応じて社債を購入したことにより生じた損害(原告46については,購
入社債番号2の購入により生じた損害に限る。)を賠償する義務を負うと
いうべきである。
争点㉒(被告Kは,勧誘を担当した顧客に対し,本件社債の販売に関して
共同不法行為責任を負うか)
ア共同不法行為責任の有無
被告Kは,平成19年11月頃にPに入社し,その後M,Lにおける社
債販売活動も行っていたものであるところ,前記10で説示し
たところによれば,本件社債勧誘に際して被告Kやその前任者が行った説
明は,M時代のものも含めて違法な説明であったと認められる。また,被
告Kが,違法な社債販売を行ったことについて少なくとも過失があると認
められることは,上記と同様である。
したがって,被告Kは,実際に本件社債の販売を担当した顧客に対し,
共同不法行為に基づく損害賠償義務を負う。
イ勧誘を担当した顧客
そして,証拠(甲37の2,57の2,57の3,58の2,58の3,
65の2,65の3の1,69の2,69の3の2,71の2,71の3,
78の2,78の4)によれば,被告Kは,原告37,57,58,65,
69,71,78に対する営業活動を行い,社債を販売したものと認めら
れる。そして,被告Kが原告69に対して販売した社債(購入社債番号1)
は,償還日を迎えて購入社債番号2に乗り換えられているが,これは実質
的には償還日の延長であって,被告Kが購入社債番号1を販売したことと,
原告69が購入社債番号2を購入してこれが未償還になっていることとの
間には相当因果関係があると認められるから,被告Kは原告69の購入社
債番号2の社債購入による損害について責任を負う。
ウ小括
よって,被告Kは,原告37,57,58,65,69,71,78が被
告Kの勧誘に応じて社債を購入したことにより生じた損害を賠償する義務
を負うというべきである。
11損害について
争点②(損害額)について
ア社債購入費用
別紙購入社債一覧表の「証拠」欄記載の各証拠によれば,原告らがM又
はLから購入した社債(ただし,未だ現実に元本全額の償還を受けていな
いもので,請求額に満つるまでの分に限る。)は,同別紙記載のとおりで
あると認められるところ,これらの社債の販売が違法であることはすでに
説示したとおりであるから,原告らは,少なくとも同別紙「認容額」欄の
「社債購入費用」欄記載の金額の損害(原告33訴訟承継人33の1及び
同33の2,原告43訴訟承継人43の1及び同43の2並びに原告68
訴訟承継人68の1及び同68の2については各相続人の「社債購入費用」
を合算した金額,原告73及び74については被告Aの「社債購入費用」
欄記載の金額)を被ったものと認められる。
イ弁護士費用
原告らは,本件社債の販売により,弁護士費用が損害として発生した
と主張するところ,不法行為責任を負う被告A,被告C,被告D,被告
E,被告F,被告H,被告I,被告J及び被告Kが行った不法行為との
関係では,原告らが負担することとなった弁護士費用も,相当と認めら
れる額の範囲内のものは,相当因果関係のある損害である。
また,被告Bは被告Cの取締役として,被告GはLの取締役として,
それぞれ会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負うにとどまるも
のであるが,取締役の行為によって損害が被ったとして第三者が会社法
429条1項に基づく損害賠償請求をする場合に主張立証すべき事実
は,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と重なる部分が大きいか
ら,会社法429条1項に基づく損害賠償請求権は,第三者がこれを訴
訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をするこ
とが困難な類型に属する請求権であるということができる。したがって,
原告らが負担することとなった弁護士費用は,相当と認められる額の範
囲内のものである限り,被告B及び被告Gの任務懈怠との関係でも相当
因果関係を有する損害であると認められる(最高裁平成23年第10
39号同24年2月24日第二小法廷判決・集民240号111頁参
照)。
そして,原告らは,弁護士に依頼して本訴を提起しているところ,本
件事案の内容,認容額,訴訟の経過などの本件に顕れた一切の事情を考
慮すると,被告らの違法行為又は任務懈怠と相当因果関係のある弁護士
費用は,各原告について,別紙購入社債一覧表の「認容額」欄の「弁護
士費用」欄記載の金額のとおりと認めるのが相当である。
争点③(原告らの損害と受領した利息との間の損益相殺の可否)について
被告D及び被告Eは,原告らが受領した利息を損益相殺すべきであると主
張する。しかしながら,社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為に該当する不
法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該反倫理的行為に
係る給付を受けて利益を受けた場合には,同利益については,加害者からの
不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく
損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害
者の損害額から控除することも許されないものというべきである(最高裁平
1488頁参照)。
そして,すでに認定説示したところによれば,本件社債の販売は,詐欺行
為ないし詐欺的要素をはらむ違法な勧誘に基づく不法行為であると認められ
る。原告らに対して配当金が交付されたのは,顧客である原告らをして,本
件社債が真にL等の事業に充てられ,元本及び配当の償還を現実に受け得る
ものであると誤信させるためであったと認められるから,原告らを誤信させ
続け,新たな取引を勧誘するなどの手段とされたにとどまるものというべき
である。
したがって,本件社債の配当金交付によって原告らが得た利益は,不法原
因給付によって生じたものというべきであり,本件請求において損益相殺な
いし損益相殺的な調整の対象とすることは許されない。また,被告D及び被
告Eは,原告らが得た配当を具体的に主張しているものでもなく,主張自体
としても失当である。
小括
以上によれば,被告らは,別紙認容額一覧表の「原告」欄記載の各原告に
対し,同表のそれぞれの「原告」及び「被告」に対応する欄記載の各金員及
び遅延損害金の支払義務を負う。
12被告らの債務相互の関係
被告B及び被告G以外は,共同不法行為に基づく損害賠償義務を負うため,
これらの被告間の債務は,いわゆる不真正連帯債務となる(民法719条1項)。
また,これらの被告らの債務と被告B及び被告Gが負う債務との関係について
みても,これらはいずれも本件社債の違法な販売行為により原告らに生じた損
害に係る損害賠償債務であって,同一の損害の賠償を目的とするものであるか
ら,金額が重複する限度でいわゆる不真正連帯債務の関係となる。
第4結論
したがって,原告らの請求は,別紙認容額一覧表記載の金額及び遅延損害
金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がな
いからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第10部
裁判長裁判官福田千恵子
裁判官小田誉太郎
裁判官川内裕登
※別紙請求額一覧表,別紙購入社債一覧表【原告請求】及び別紙購入社債一覧
表は添付省略

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