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平成15年(ワ)第15702号 特許権差止請求権不存在確認等請求事件
(口頭弁論終結の日 平成15年12月22日)
          判         決
     原    告          株式会社大東貿易
     原    告          有限会社ハマ・コーポレーション
     原    告          株式会社フィールテック
     原告ら訴訟代理人弁護士     安 田 有 三
     同               井 口   博
     被    告          富士写真フイルム株式会社
     被告訴訟代理人弁護士      熊 倉 禎 男
同               吉 田 和 彦
同               渡 辺   光
同               相 良 由里子
 同補佐人弁理士         井 野 砂 里
     同               北 村   博
          主         文
    1 原告らの請求をいずれも棄却する。
      2 訴訟費用は原告らの負担とする。
          事 実 及 び 理 由
第1 原告らの請求
1 原告株式会社大東貿易及び原告有限会社ハマ・コーポレーションによる別紙
「原告製品目録」記載の製品の輸入又は販売につき,被告が第1875901号特
許権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
2 被告は,原告らの取引先に対して,前項記載の製品が前項記載の特許権を侵
害する旨を告知し,又は流布してはならない。
3 被告は,原告株式会社大東貿易に対し,800万円及びこれに対する平成1
5年7月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
4 被告は,原告有限会社ハマ・コーポレーションに対し,800万円及びこれ
に対する平成15年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
5 被告は,原告株式会社フィールテックに対し,800万円及びこれに対する
平成15年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,別紙「原告製品目録」記載の製品についての原告株式会社大東貿易
及び原告ハマ・コーポレーションの輸入・販売について,被告が特許権侵害を理由
とする差止請求権を有しないことの確認を求めるとともに,被告が原告らの上記製
品の製造・輸入・販売が特許権侵害に当たるとして取引業者に警告を行った行為
は,競争関係にある原告らに対する営業誹謗行為であり,不正競争防止法2条1項
14号所定の不正競争行為に該当するとして,同行為の差止め及び損害賠償(遅延
損害金を含む。)の請求をしている事案である。
 1 前提となる事実関係(証拠により認定する場合には,末尾に証拠を掲げ
た。)
  (1) 当事者
    原告株式会社フィールテック(以下「原告フィールテック」という。)
は,別紙「原告製品目録」記載の製品(以下「原告製品」という)を製造し,原告
株式会社大東貿易(以下「原告大東貿易」という。)は原告製品を我が国に輸入
し,原告有限会社ハマ・コーポレーション(以下「原告ハマ・コーポレーション」
という。)は我が国において原告製品の発売元としてこれを販売している。
    被告は,光学機械器具・レンズの製造及び販売等を目的とする株式会社で
ある(以上弁論の全趣旨)。
  (2) 被告は,次の特許権を有している(以下,この特許権を「本件特許権」と
いい,同特許権に係る特許公報〔甲1。本判決末尾添付〕を「本件特許公報」とい
う。)。
     特許番号   第1875901号
     発明の名称  レンズ付きフイルムユニット及びその製造方法
     出願年月日  昭和62年8月14日
     出願番号特願昭62-202876
     公開年月日  昭和64年1月5日
     登録年月日平成6年10月7日
     優先権主張実願昭61-126942(昭和61年8月20日出
願,以下「優先出願①」という。)
           特願昭61-246977(昭和61年10月17日出
願,以下「優先出願②」という。)
         特願昭61-246978(昭和61年10月17日出
願,以下「優先出願③」という。)
 特願昭62-32185(昭和62年2月14日出願,
以下「優先出願④」という。)
  (3) 本件特許権に係る特許明細書(以下「本件特許明細書」という。)の特許
請求の範囲第1項に記載された発明(以下この発明を「本件発明」という。)を分
説すると以下のとおりとなる。
   A 予め未露光フイルムを内蔵し,このフイルムに対してシャッタ手段を操
作することにより,露光付与機構を通して露光を付与するようにし,
   B 撮影後にフイルムを取り出したのちは再使用できないようにされたレン
ズ付きフイルムユニットにおいて,
   C 前記ユニット内のフイルム露光枠の一方側に未露光フイルムロールが配
置され,フイルム露光枠の反対側に回転可能な巻芯を内部に有するパトローネが配
置されており,
   D 未露光フイルムの一端と巻芯が予め固定されていること,
   E 前記パトローネ内に回転可能に支承された巻芯には,ユニットのフイル
ム巻取り操作手段を連結させ,
   F 前記シャッタ手段が操作された後に,前記未露光フイルムをパトローネ
内に巻き込み可能としていること,
   G 前記未露光フイルムロールは,該ユニットの製造工程で前記パトローネ
内に収納された状態から引き出されて形成されており,
   H 該フイルムロールの中心部が中空状態で,未露光フイルムロール収納部
に装填されている
   I ことを特徴とするレンズ付きフイルムユニット
  (4) 被告は,次の実用新案権を有していたが,同実用新案権は,平成14年1
月19日にその権利期間が満了した(以下,この実用新案権を「本件実用新案権」
といい,同実用新案権に係る実用新案登録公報〔甲3。本判決末尾添付〕を「本件
実用新案公報」という。)。
      登録番号     第2564847号
      考案の名称    レンズ付きフイルムユニット
      出願年月日    昭和62年1月19日
      出願番号  実願平8-3002
      公開年月日    平成8年10月11日
      登録年月日 平成9年11月28日
    本件実用新案権に係る明細書(甲3,以下「本件実用新案明細書」とい
う。)における実用新案登録請求の範囲の記載(本件実用新案公報発行後の平成1
1年2月1日に訂正がされた後のものは,次のとおりである(以下,上記実用新案
登録請求の範囲記載の考案を「本件考案」という。)(乙2,弁論の全趣旨)。
    「撮影レンズ及びシャッタを含む撮影機構が組み込まれたユニット本体
に,写真フイルムの一端を係止した回転自在なスプール軸を有するパトローネを収
納するためのパトローネ収納室と,前記パトローネから引き出した写真フイルムを
ロール状に収納するためのフイルム収納室とが設けられており,製造時にパトロー
ネ及び写真フイルムのロールが予め装填され,撮影毎に前記スプール軸を回転する
ことによって露光済みの写真フイルムをパトローネに巻き込んでゆくようにしたレ
ンズ付きフイルムであって,前記ユニット本体には,前記スプール軸と直接係合
し,回転操作によりスプール軸を写真フイルムの巻込み方向に回転させるための円
形をした巻上げノブが組み込まれ,前記巻上げノブは,前記ユニット本体の上板の
下方にあって一部が前記上板の背面側縁部を越えて後方に露呈されており,前記ユ
ニット本体はその背面の全体が開口しており,この背面の全体を覆って,レンズ付
きフイルムユニットの背面を構成するとともに,ユニット本体内に装填された写真
フイルムを光密に保つための裏蓋が取り付けられ,この裏蓋を前記ユニット本体の
背面側から取り付ける際に,前記巻上げノブの一部が前記裏蓋から突出するように
嵌まり込んで前記巻上げノブの回転操作を可能とするための開口部を前記裏蓋に形
成したことを特徴とするレンズ付きフイルムユニット。」
  (5) 被告は,平成15年1月15日ころ,原告製品を販売していた株式会社ニ
ッドに対して,<レンズ付フィルム詰替品販売中止のお願い>と題する書面(以下
「本件警告書」という。)を送付した。
    同書面には,「貴社にてご販売中のレンズ付フィルム詰替品の販売を中止
して頂きたく,この度書面にてお願い申し上げます。ご承知のように,平成12年
8月31日東京地裁判決にて,『レンズ付フィルム詰替品の輸入,製造,販売は
(当社の)特許権,実用新案権,意匠権を侵害する』旨の勝訴判決を得ておりま
す。………つきましては,当社は貴社に対して,直ちに貴社取り扱い詰替品の販売
行為を中止していただきたく,本書面にてご通知申し上げます。」との内容が記載
されていた(甲2,弁論の全趣旨)。
2 争点及び当事者の主張
  (1) 本件特許権には二重特許禁止の原則に反する無効事由があるか
   (原告らの主張)
    被告は,本件特許権の先願として本件実用新案権を有していたものであ
る。すなわち,本件実用新案公報記載の図2,図1及び図3は,それぞれ,本件特
許公報の第7図,第8図及び第9図と同一のものであり,本件考案と本件発明とは
実質的に同一な考案ないし発明である。しかるに,本件発明の特許出願は本件考案
の実用新案登録出願に後れてされたものであるから,本件発明の特許出願は,特許
法39条3項に違反したものであったことが明らかであり,本件特許権には明白な
無効事由が存し,被告による権利行使は権利の濫用である。
    そして,原告製品は,本件考案の技術的範囲に属するものであるところ,
本件実用新案権は,その権利期間が満了しているから,本件考案は,自由な万人共
有の財産であり,何人も自由に利用することができるものである。
    よって,原告大東貿易及び原告ハマ・コーポレーションは,原告製品の輸
入販売につき,被告が第1875901号特許権に基づく差止請求権を有しないこ
との確認を求める。
   (被告の主張)
   ア 原告らの主張は争う。次に述べるとおり,本件特許権に無効事由はな
い。
    (ア) 原告らは,本件考案に係る実用新案登録出願(以下「本件実用新案登
録出願」という。)が本件発明に係る特許出願(以下「本件特許出願」という。)
の先願であると主張するが,誤りである。
       本件特許出願に係る各発明は,本件優先出願①ないし④に基づいて
平成5年法律第26号による改正前の特許法42条の2(以下,同条については同
様である。)に規定された優先権を主張して出願されたものである。したがって,
本件特許の特許請求の範囲に記載された各発明のうち,優先権主張の基礎とされた
発明又は考案についての特許法39条の適用については,本件特許出願は,当該先
の出願の時にされたものとみなされることになる。
    (イ) 優先出願③の願書に最初に添付した明細書(以下「優先出願③明細
書」という〔乙3,本判決末尾添付〕。)に記載されている発明の構成を構成要件
に分説すると,
     (a) 予め未露光フイルムを内蔵し,このフイルムに対して,シャッタ手
段(レリーズボタン6)を操作することにより,露光付与機構(シャッタ35)を
通って,フイルムの撮影駒(フイルムの展延部分26)に露光を付与し,
     (b) 撮影後にフイルム(撮影済みのパトローネ20)を取り出したのち
は,再使用されないようにされたレンズ付きフイルムユニットにおいて,
     (c) ユニット内(ユニット本体1の本体基部2)のフイルム露光枠10
の一方側に(挾むように)フイルムロールが配置され,フイルム露光枠の反対側に
回転可能(自在)な巻芯(パトローネ軸28)を内部に有するパトローネが配置さ
れており, 
     (d) 未露光フイルムの一端と巻芯(パトローネ軸28)が予め固定(係
着)され,
     (e) 前記パトローネ内に回転可能に支承された巻芯(パトローネ軸2
8)には,ユニット10のフイルム巻取り操作手段(巻き上げノブ8)の操作に連
動し,図中反時計方向に回動するフイルム巻き上げ用のフォーク14を連結(係
合)させ,
     (f) 前記シャッタ手段(レリーズボタン6)が操作された後に,(巻き
上げノブ8を回動操作すると,フォーク14を介してパトローネ軸28が回動する
から,)前記未露光フイルムをパトローネ内に巻き込み可能としていること,
     (g) 未露光フイルムロールは,ユニットの製造工程(組立時)でパトロ
ーネ内に収納された状態から引き出されて形成されており,
     (h) (フイルムロール23を巻軸22ごとフイルムロール室に装填した
後,巻軸22だけを引き抜くと,フイルムロール23はそれ自身のカーリング習性
によって巻ほぐれて)フイルムロールの中心部が中空状態で,未露光フイルムロー
ル収納部に装填されている
     (i) ことを特徴とするレンズ付きフイルムユニット
     ということになる。
    (ウ) 上記(イ)の構成要件を本件発明の構成要件AないしIと対比すると,
優先出願③に係る発明の構成要件(a)は,本件発明の構成要件Aに相当し,同構成要
件(b)は,本件発明の構成要件Bに相当し,同構成要件(c)は,本件発明の構成要件
Cに相当し,同構成要件(d)は,本件発明の構成要件Dに相当し,同構成要件(e)
は,本件発明の構成要件Eに相当し,同構成要件(f)は,本件発明の構成要件Fに相
当し,同構成要件(g)は,本件発明の構成要件Gに相当し,同構成要件(h)は,本件
発明の構成要件Hに相当し,同構成要件(i)は,本件発明の構成要件Iに相当する。
    (エ) したがって,本件発明についての特許法39条の適用については,本
件特許出願は,当該先の出願の時(昭和61年10月17日)に出願されたものと
みなされることになるから,本件考案に係る出願(出願日:昭和62年1月19
日)より先願であり,有効な出願である。
   イ 原告らの主張に対する反論
     原告らは,本件発明の構成要件Fは,本件特許明細書に記載された第3
実施例(以下本件特許明細書記載の実施例については,単に「第3実施例」という
ようにいう。)の構成を採用することによって初めて達成されることになるから,
優先出願③に添付された明細書等に第3実施例の構成が記載されていない限り,構
成要件Fが記載されているとはいえず,本件発明について優先権主張をすることは
できないと主張する。しかし,次に述べるとおり,原告らの上記主張は誤りであ
る。
    (ア) 構成要件Fの解釈について
     (a) 本件発明の重要な特徴
       そもそも本件発明における重要な特徴は,本件特許明細書における
「発明が解決しようとする問題点」,「発明の効果」の記載及び出願経過における
被告の主張から明らかなとおり,レンズ付きフイルムユニットにおいて,製造段階
でパトローネから未露光のフイルムを予め引き出して中空のフイルムロールとし,
これを本体に装填しておく点にある。
     (b) 構成要件Fの意義
       上記のとおり,本件発明においては,レンズ付きフイルムユニット
において,製造段階でパトローネから未露光のフイルムを予め引き出して中空のフ
イルムロールとし,これを本体に装填しておく点が重要な特徴である以上,本件発
明に係る製品は,必ず,製造工程において未露光フイルムをパトローネから引き出
して装填しているレンズ付きフイルムユニットを構成する。それを前提とすると,
パトローネから引き出されたフイルムをパトローネ内に巻き込み可能とする構成を
採用することが必要不可欠となる。言い換えれば,本件発明に係る製品において
は,撮影済みのフイルムが「パトローネ内に巻き込み可能」であれば,それがどの
ような構成であるかを問うものではない。
       そのため,特許請求の範囲の記載においても,構成要件Fは,「前
記シャッタ手段が操作された後に,前記未露光フイルムをパトローネ内に巻き込み
可能としていること」と記載しているのみであって,それ以上の詳細な構成は何ら
限定していない。「シャッタ手段が操作された後に」という記載は,レンズ付きフ
イルムユニットをはじめとする,ほとんど全てのカメラの機構として当然に挿入さ
れた記載に過ぎない。
       このことは,本件特許明細書における「発明の詳細な説明」の記載
をみても,「問題点を解決するための手段」の欄に,特許請求の範囲の請求項1と
同一の記載が認められるのみで,その他には「発明が解決しようとする問題点」欄
にも,「発明の効果」欄にも,シャッター操作後でなければフイルムを巻くことが
できない,というようなフイルム巻き込み手段の詳細な構成については一切言及が
ないことからも,明らかである。出願経過においても,引き出したフイルムをどの
ような構成によって巻き込み可能とするかという点は,一切問題となっていない。
       以上のとおりであるから,本件発明の構成要件Fは,「前記シャッ
タ手段が操作された後に,前記未露光フイルムをパトローネ内に巻き込み可能とし
ていること」という記載どおりの構成を意味し,それ以上の限定を一切付加するも
のではない。
(c) 原告らによる解釈の誤り
       原告らは,さらに,構成要件Fは「シャッタ手段操作後に巻き上げ
ノブを回動可能にし,同操作中掌の部分あるいは身体の一部が巻き上げノブに触れ
巻き上げノブが回動しフイルムが動いてしまうと(いう)誤動作を防止したもので
ある。」と主張した上で,第3実施例の構成によらなければ上記機能を達成し得な
いと主張するようである。
       しかし,上記のような,「シャッタ手段操作中の巻き上げノブの誤
動作」を防止するための構成を採用することについては,第1実施例に関する説明
の中にも記載されており,かつ,第3実施例の構成に限定されるような記載は存在
しない。
       すなわち,第1実施例に関し,「レリーズボタン6を操作するとシ
ャッタ35が開閉し,露光枠10に位置しているフイルムの展延部分26に露光が
行われる。その後,巻き上げノブ8を回動操作するとフォーク14を介して巻芯2
8が回動するから,露光済みのフイルムはパトローネ20に巻き込まれてゆく。こ
れとともに,フイルムロール23から次のフイルムコマが露光枠10の位置に供給
され,スプロケット16がフイルムの供給に従動して回転する。そしてスプロケッ
ト16の回転によって1コマ定尺送りが検出されると,巻き上げノブ8がロックさ
れ次の撮影準備が完了することになる。このようにして撮影を繰り返してゆくこと
によって,露光済みのフイルムは順次パトローネ20に巻き込まれてゆく。」と記
載されている。このとおり,「1コマ定尺送り」が検出され,巻き上げノブがロッ
クされることによって,原告らの指摘する「シャッタ操作中の巻き上げノブの誤動
作」を防止することができるものである。第3実施例に関する記載と対比してみれ
ば,この記載は,第3実施例の上位概念として「シャッタ操作中の巻き上げノブの
誤動作」を防止する機構を記載したものであることは明白である。
       したがって,上記誤動作防止のための構成を採用することは第1実
施例に関する記載において明記されており,明細書にも特に第3実施例の構成に限
定する記載が存在しない以上,第3実施例の構成に限定される,と解釈することは
できない。
       もっとも,第1実施例に関する記載には,「1コマ定尺送り」にど
のような構成を採用するかについて,詳細な記載はないが,そもそもパーフォレー
ションのある135フイルム(すなわち35mm写真フイルム)を用いるカメラに
おいて,パーフォレーションを利用して一定量ずつフイルムを送る,いわゆる「1
コマ定尺送り」を検出して,巻き上げノブをロックする構成をカメラ一般に採用す
ること及びその構成は,周知・慣用技術であって,当業者は当然の前提としている
技術であるから,その構成について詳細な記載は不要である。したがって,原告ら
の主張する「シャッタ操作中の巻き上げノブの誤動作」を防止するような構成の開
示としては,第1実施例に関する上記引用部分の記載で足りる。
       原告らは,第1実施例に対応する第1ないし第3図には,シャッタ
手段の操作後巻き上げノブを回動可能にする機構は記載されておらず,上記第1実
施例は本件発明の実施例ではないと主張する。しかしながら,上記のとおり,原告
らの主張するところの「シャッタ手段の操作後巻き上げノブを回動可能にする機
構」は,周知・慣用技術に過ぎず,本件発明の当然の前提とされている機構であ
る。よって,上記第1ないし第3図の中に上記機構の構成部品についての詳細な記
載がないとしても,本件発明の実施例の記載としては,何ら不足するところはな
い。したがって,第1実施例は本件発明の実施例に該当する。
     (d) 以上のとおり,本件発明の本質及びそれを基づく本件特許明細書の
記載にかんがみれば,本件発明が第3実施例においてのみ開示され,支持されてい
るという原告らの解釈は採り得ない。本件発明が優先出願③明細書又は優先出願③
の願書に最初に添付した図面(以下「優先出願③図面」という。)に開示されてい
ないという原告らの主張は,そもそも前提となる本件発明の理解から誤っていると
いわざるを得ない。
    (イ) 優先出願③明細書に構成要件Fが記載されていること
 上記のとおり,原告らによる構成要件Fの解釈は誤りである。構成要
件Fは優先出願③明細書にすべて記載されている。
      すなわち,「レリーズボタン6を操作するとシャッタ35が開閉し,
露光枠10に位置しているフイルムの展延部分26に露光が行われる。その後,巻
き上げノブ8を回動操作すると,フォーク14を介してパトローネ軸28が回動す
るから,露光済みのフイルムはパトローネ20に巻き込まれてゆく。これととも
に,フイルムロール23から次のフイルムコマが露光枠10の位置に供給され,ス
プロケット16がフイルムの供給に従動して回転する。そしてスプロケット16の
回転によって1コマ定尺送りが検出されると,巻き上げノブ8がロックされ次の撮
影準備が完了することになる。このようにして撮影を繰り返してゆくことによっ
て,露光済みのフイルムは順次パトローネ20に巻き込まれてゆく。」との記載か
ら明らかである。
      また,上記(ア)(c)において述べたとおり,パーフォレーションのある
135フイルム(すなわち35mm写真フイルム)を用いるカメラにおいて,パー
フォレーションを利用して一定量ずつフイルムを送る,いわゆる「1コマ定尺送
り」は,周知・慣用技術であり,さらに,「シャッタ操作中の巻き上げノブの誤動
作」を防止するために,「1コマ定尺送り」を検出して,巻き上げノブをロックす
る構成も周知・慣用技術に過ぎないから,構成要件Fの開示としては,上記引用部
分の記載程度で十分である。
 (原告らの再反論)
ア優先権制度について
     特許法42条の2第2項の定める優先権制度は,特許出願の明細書又は
図面中に含まれている優先権主張の基礎とされた出願に添付された明細書等に記載
された発明の部分についての特許法39条等の規定の適用については,優先権主張
の基礎とされた出願の時にされたものとみなす,ということである。
     被告は,本件発明のうち,優先権主張の基礎とされた出願の当初明細書
等に記載された発明を特定するとしてその論旨を展開している。しかし優先権制度
に誤解がある。すなわち,優先権制度は,第2出願発明が第1出願発明とは異なる
ことを想定している。両発明に同一性は要求されていない。したがって,「先の出
願発明を特定すること」は,本件発明を特定するものではなく,また本件発明の優
先日を決めるものでもない。
     優先権主張を伴う出願発明は,当該発明の要件をすべて開示した時点,
すなわち本件では優先出願①ないし④のいずれかの優先日あるいは本件特許出願日
によって,新規性の有無,先後願,先使用権の有無などが判断される。
   イ 構成要件Fを含む本件発明の要件が開示された時点について
    (ア) 構成要件Fの解釈について
      本件発明の構成要件Fは「前記シャッタ手段が操作された後に,前記
未露光フイルムをパトローネ内に巻き込み可能としていること」というものであ
る。ここにいう「前記未露光フイルム」は,シャッタ手段操作(露光)後は露光済
みフイルムになっている。構成要件Fを含む本件発明の構成要件AないしIは不可
分一体のものとして結合し,本件発明を成り立たせているものである。この構成要
件Fは,シャッタ手段操作後に巻き上げノブを回動可能にし,同操作中掌の部分あ
るいは身体の一部が巻き上げノブに触れ巻き上げノブが回動しフイルムが動いてし
まう誤動作を防止したものである。
    (イ) 第3実施例について
      本件特許公報には,第3実施例に関し,次の記載がある。
     (a) 「巻き上げノブ60は図中の矢印方向に回動操作することによっ
て,撮影済みのフイルム21をパトローネ20内に引き込む方向に巻芯28を回転
させる。なお,巻き上げノブ60の外周には歯列60aが形成され,この歯列60
aには板ばねからなる逆止爪60bが係合している。この逆止爪60bは,巻き上
げノブ60が時計方向に回動することを阻止するためのものである。」(本件特許
明細書14欄30行ないし38行)
       この構成によって,巻き上げノブ60は図中反時計方向(フイルム
21をパトローネ20内に引き込む方向)にしか回動できない。
     (b) 「本体基部50には,さらに枚数表示板61,係止レバー62,シ
ャッタ駆動レバー63,シャッタ羽根64,従動スプロケット65(第9図)等か
らなるシャッタ機構が設けられている。」(同欄39行ないし42行)
     (c) 「シャッタボタン66を押し下げると,係止レバー62はロッド6
9を介して反時計方向に回動される。また係止レバー62には,巻き上げノブ60
の外周に形成された歯列部60aに係合し,巻き上げノブ60の回動を阻止する巻
止め爪62bが設けられている」(同15欄10行ないし15行)
       この構成によって,シャッタを押し下げている間(シャッタ操作
中),巻き上げノブ60の回動が阻止されている。
     (d) 「第10図Cに示したように,シャッタ駆動レバー63の突起63
dが係止レバー62の突起62dの上縁に係合し,これにより係止レバー62は,
ばね72の付勢に抗してそのままの位置に保持される。また,係止レバー62の爪
62bは巻き上げノブ60の外周に形成された歯列61aから退避するため,巻き
上げノブ60の回動操作が許容されるようになる。」(同18欄2行ないし9行)
(e) 上記(a)ないし(d)の構成によって,シャッタ操作後,巻き上げノブ
60により露光済みフイルムをパトローネ内に巻き込むことが可能となる。
       結局,本件発明は,第3実施例のみによって開示され支持されてい
るものである。
(ウ) 優先出願③について
      本件発明の構成要件Fは,優先出願③明細書及び同図面には記載され
ていない。詳細は以下に述べるとおりである。
     (a) 第3図中,レリーズボタン6がシャッタ手段であり,第1図中に巻
き上げノブ8が記載されている。しかし,レリーズボタン6と巻き上げノブ8の関
連性は何も記載されていない。
     (b) 優先出願③明細書には,「ユニット本体1には,詳しくは後述する
ように,パトローネから引き出されてロール状にされた135タイプのフイルムロ
ールと,これを巻き込むためのパトローネが装填されており,これを購入したユー
ザはそのままレリーズボタン6を操作して写真撮影を行うことができる。撮影を行
うごとに巻き上げノブ8(第1図参照)を操作することによって,露光済みのフイ
ルムはパトローネに巻き込まれる」と記載されている。
       被告は,この記載その他を引用し,優先出願③明細書には,本件発
明の構成要件Fが開示されていると主張している。しかし,上記記載は,購入者の
操作手段を記述したものにすぎない。
     (c) したがって,優先出願③明細書及び同図面には,シャッタ手段が操
作された後に,前記未露光フイルムをパトローネ内に巻き込み可能とした構成は記
載されていない。
    (エ) 本件特許公報記載の第1,第2及び第4実施例について
      本件特許公報記載の第1,第2及び第4実施例には,以下に詳述する
とおり,本件発明の構成要件Fは記載されていない。すなわち,実施例との用語が
あるとしても,これらは「本件発明の実施例」ではなく,優先権主張との関係で意
味を持つものではない。
(a) 第1実施例は,本件特許公報記載の第1図ないし第3図に示されて
いる。ここには,シャッタ手段の操作後巻き上げノブを回動可能にする機構は記載
されておらず,構成要件Fについての記載はない。
       なお,本件特許公報の第1ないし第3図は,優先出願③図面の第1
ないし第3図に対応するものである。しかしながら,優先出願③図面の第1及び第
3図では巻き上げノブ8がユニット本体1の上板で覆われているのに対し,本件特
許公報記載の第1及び第3図では巻き上げノブ8は同本体1で覆われていないの
で,両者の第1図及び第3図はいずれも異なる。したがって,本件特許公報の第1
図及び第3図は優先出願③に係る優先権主張とは関係しないものである。
     (b) 第2実施例は,第4ないし第6図に示されている。この第4ないし
第6図は優先出願②の願書に添付されている。また,シャッタ手段の図示も説明も
ないので,本件発明の構成要件Fについての記載はない。
     (c) 第4実施例は第12ないし第22図に示されている。第4実施例の
巻き上げノブは,第12,第14図では巻き上げノブ103がカメラ前面の下部に
あり,一方,第15,第18図では巻き上げノブ8は背面にあり,上板で覆われ,
裏蓋3から後方に露呈していない。いずれも,本件発明の構成要件Fの作用効果を
奏するものではない。この第12ないし第22図のうち第15ないし第22図が優
先出願④の願書に添付され,「フイルム自動装填装置」の発明が記載されている。
なお,第4実施例に関する第12ないし第14図は優先出願②ないし④のいずれに
も記載されていない。
    (オ) 以上のとおり,構成要件Fを含む本件発明は具体的には第3実施例で
ある。同発明は優先出願③明細書及び同図面には記載されていない。特許法39条
の適用について,優先出願③の出願日を基準として判断されるという被告の主張は
認められない。上記のとおり,本件発明は,第3実施例及びそれに対応する本件特
許公報記載の第7ないし第11図のみによって開示,支持されたものであるとこ
ろ,上記第7ないし第11図は,優先出願①ないし④の時ではなく,本件特許出願
時に添付されたものであるので,本件発明についての特許法39条の適用に関する
基準時については,特許法42条の2第2項は適用されず,本件特許の現実の出願
日である昭和62年8月14日となる。
   ウ 特許法39条における「発明の同一性」
特許法39条における同一性の判断は,両発明(又は考案)の特許請求
の範囲(又は実用新案登録請求の範囲)の記載によって判断することが原則といえ
る。
     しかしながら,同条の趣旨は,特許法の基本原則の一つである二重特許
禁止にある。この基本原則に照らせば,両発明(又は考案)の特許請求の範囲(又
は実用新案登録請求の範囲)の記載に相違があるとしても,発明(又は考案)とし
て実質的に同一であれば,同条における同一性があると判断すべきである。
     本件でみれば,本件考案の明細書の「考案の詳細な説明」の記載のすべ
てが,本件考案だけではなく第3実施例によって支持された本件発明についての
「発明の詳細な説明」にもなるものであるし,逆に,第3実施例に関する「発明の
詳細な説明の記載」のすべてが本件考案についての「考案詳細な説明」にもなると
いうことができるのであって,本件発明と本件考案とは,「産業上の利用分野」,
「従来技術」,「発明(考案)が解決しようとする問題点(課題)」,「問題点
(課題)を解決するための手段」,「実施例」及び「発明(考案)の効果」のすべ
ての点において一致する。したがって,本件発明は本件考案と実質的に同一であ
り,特許法39条にいう「同一性」があるというべきである。
   エ 以上のとおりであるから,本件実用新案権は本件特許権に対して先願た
る地位を有しており,かつ,本件考案と本件発明は実質的に同一であるから,本件
発明は特許法39条3項に違反して特許されたものであり,本件特許権が無効であ
ることは明らかである。
  (2) 本件特許権には新規性・進歩性を欠く明白な無効事由があるか
   (原告らの主張)
    被告による本件実用新案権の登録に対して,訴外コニカ株式会社は下記ア
ないしオの公知文献(ただし,アの文献については,異議申立てにおいては,「米
国特許896467号公報」とされているが,下記の文献の誤りと考えられる。)
を示して,実用新案法3条2項に違反するとして異議申立てをし,特許庁が取消理
由通知を被告に通知した。この取消理由通知を受けて,被告は,明細書の「実用新
案登録請求の範囲」に「前記巻き上げノブは,前記ユニット本体の前記上板の下方
にあって一部が前記上板の背面側縁部を越えて後方に露呈されており,」という要
件を加えて減縮する訂正を行い,特許庁は,この訂正を認めて,減縮した構成の新
規性と同構成による効果を認め,登録を維持したものである。
    しかしながら,下記アないしオの公知文献に照らせば,本件特許権は新規
性あるいは進歩性を欠く無効事由を有するというべきである。
     ア 米国特許3896467号公報
     イ 実願昭46-0903号(実開昭48-46622号)のマイクロ
フィルム
     ウ 実公昭34-16432号公報
     エ 特開昭48-7734号公報
     オ 特開昭49-57833号公報
    よって,原告大東貿易及び原告ハマ・コーポレーションは,原告製品の輸
入販売につき,被告が第1875901号特許権に基づく差止請求権を有しないこ
との確認を求める。
   (被告の主張)
    原告らの主張は争う。原告ら指摘の各公知文献との関係で,本件特許権が
無効事由を有するものではない。
  (3) 原告らの損害
   (原告らの主張)
    被告は,原告らの取引先に対して本件警告書を送付した。本件警告書に
は,被告のいう権利侵害を基礎付ける特許権の特許番号等の記載はない。しかし,
被告は本件特許権が問題とされた東京地裁判決を挙げていることから,本件特許権
の侵害をいうものと理解される。上記(1)及び(2)における原告らの主張から明らか
なとおり,原告らの行為が本件特許権を侵害する余地はないから,被告による本件
警告書の送付は,虚偽事実を告知ないし陳述し,原告らの営業上の信用を害したも
のである。したがって,被告の上記行為は不正競争行為に該当するところ,原告ら
は,被告による不正競争行為によって以下の損害を被った。
   ア 逸失利益
     被告による警告書の送付により,原告製品の売上げが低下した。その損
害額は原告ら合計で1400万円を下らない。
   イ 信用上の損害
     被告による本件警告書の送付によって,原告らが受けた信用上の損害は
算定することが不可能であるが,少なくとも原告ら合計で500万円を下ることは
ない。
   ウ 積極的損害
     本件のように法律問題として困難な事情を含む紛争の解決のためには,
弁護士に依頼せざるを得ず,弁護士費用として原告ら合計分として500万円を要
する。 
よって,原告らは被告に対し,それぞれ上記損害額の合計2400万円の
3分の1である800万円の損害賠償及びこれに対する訴状送達の翌日である平成
15年7月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払いを請求する。
   (被告の主張)
    原告らの主張は否認ないし争う。
   ア 上記(1)及び(2)における被告の主張において論じたとおり,原告製品の
輸入又は販売は被告の本件特許権を侵害するものである。したがって,被告は何ら
「虚偽の事実」を告知したものではなく,被告の行為は不正競争行為に該当しな
い。
   イ なお,原告らは,本件警告書にいう権利侵害を基礎付ける特許権は本件
特許権のことである等と主張し,被告が本件警告書において本件特許権のことのみ
を問題としているような主張をしているが,誤りである。
     被告が本件警告書において東京地裁判決を指摘したのは,レンズ付きフ
イルムの詰替品の製造,販売が被告の権利を侵害するということを,一般論として
指摘するに過ぎず,具体的に同事件において取り上げた特許権等だけについての権
利侵害を指摘する趣旨ではない。本件警告書において,上記裁判例を指摘した箇所
のすぐ後の部分で,被告が基本特許及びその他の多くの特許を有していること,及
び(それ故に)およそレンズ付きフイルムについてはどの会社もライセンスなしに
製造,販売することはできないことに言及しているのも,警告の対象を本件特許権
の侵害に限定する意図ではないことを明確に示している。
第3 当裁判所の判断
 1 争点(1)(本件特許権には二重特許禁止の原則に反する無効事由があるか)に
ついて
  (1) 特許法42条の2は,特許出願に基づく優先権主張(以下「国内優先権主
張」という。)について規定しているところ,同条は,まず1項において,特許を
受けようとする者は,同項1号ないし4号に掲げる場合を除き,その特許出願に係
る発明について,その者が特許又は実用新案登録を受ける権利を有する特許出願又
は実用新案登録出願であって先にされたもの(以下「先の出願」という。)の願書
に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明に基づいて優先権を主張するこ
とができる旨を規定し,さらに2項において,国内優先権主張を伴う特許出願に係
る発明のうち,当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した
明細書又は図面に記載された発明についての同法39条1項ないし4項等の規定の
適用については,当該特許出願は,当該先の出願の時にされたものとみなす旨を規
定している。
    この国内優先権制度は,特許出願をする際に,我が国に既にした自己の特
許出願又は実用新案登録出願の発明を含めて包括的な発明として優先権を主張して
出願をした場合には,その包括的な特許出願に係る発明のうち,先に出願されてい
る発明につき,その特許審査等の基準の日又は時を先の出願の日又は時とし,先の
出願の日と優先権の主張を伴う後の出願の日の間にされた他人の出願等を排除し,
又はその間に公知となった情報によっては特許性を失わないという優先的な取り扱
いを認めるものである。
    上記のような国内優先権主張制度の趣旨にかんがみると,ある発明につい
て国内優先権主張に基づく特許出願が認められるためには,当該発明の明細書の特
許請求の範囲に記載された技術事項が,当該優先権主張の基礎とされた先の出願に
添付された明細書又は図面の中に,すべて記載されていることが必要というべきで
ある。
  (2) これを本件についてみるに,本件発明の特許出願に際しては優先出願③に
基づく国内優先権が主張されているものであるが,上記(1)に記載したとおり,その
ような優先権主張が許されるためには,本件発明の特許請求の範囲に記載された技
術事項がすべて優先出願③明細書又は同図面の中に記載されていることが必要とい
うことになる。
    そこで,以下この点につき,検討する。
  (3) 優先出願③明細書の「特許請求の範囲」には下記アの,「発明の詳細な説
明」には実施例につき下記イないしシの,同図面には実施例につき下記スの各記載
がある(乙3)。
   ア 「(1)撮影レンズ及びシャッタ等の撮影機構を内蔵し,予めフイルムを収
容したレンズ付きフイルムユニットにおいて,本体基部に,フイルムを巻回して光
密に収納するフイルム容器を収容するための容器収容室と,前記フイルム容器から
引き出されロール状に巻回されたフイルムの最外周に接して,これが巻きほぐれな
いように収容するフイルムロール収容室とを形成したことを特徴とするレンズ付き
フイルムユニット。
     (2)前記本体基部に,容器収容室とフイルムロール収容室との間に展延さ
れたフイルムを背面側に湾曲させるためのフイルム支持面を形成するとともに,本
体基部の背面に取り付けられる背板の内面側には前記フイルム支持面に沿って湾曲
し,フイルムを前記フイルム支持面に向けて押圧するためのフイルム規制面を形成
したことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のレンズ付きフイルムユニッ
ト。」(乙3の明細書1頁5行~2頁3行)
   イ 「本発明を用いたレンズ付きフイルムユニットの外観を示す第3図にお
いて,ユニット本体1はプラスチックの成形によって作製された本体基部2と,本
体基部1の背面側の開口を光密に閉鎖する背板3とからなる。本体基部2には撮影
レンズ4,ファインダ窓5,レリーズボタン6が設けられている他,内部にはシャ
ッタ,フイルム巻き上げ機構などの撮影機構を内蔵している。」(同8頁9行~1
6行)
   ウ 「ユニット本体1には,詳しくは後述するように,パトローネから引き
出されてロール状にされた135タイプのフイルムロールと,これを巻き込むため
のパトローネとが装填されており,これを購入したユーザーはそのままレリーズボ
タン6を操作して写真撮影を行うことができる。撮影を行うごとに巻き上げノブ8
(第1図参照)を操作することによって,露光済みのフイルムはパトローネに巻き
込まれる。」(同9頁4行~12行)
   エ 「現像所では,ユニット本体1からパトローネを取り出し,従来通りの
現像,焼き付け処理を行って,ネガ及びプリント写真がユーザーに戻される。した
がって,このレンズ付きフイルムユニットの本体1は使い捨て式となり,ユーザー
には返却されることがない。」(同9頁14行~19行)
   オ 「前記本体基部2には露光枠10を挾むように,フイルムロール室11
及びパトローネ室12が設けられている。パトローネ室12の上壁には,巻き上げ
ノブ8の操作に連動し,図中反時計方向に回動するフイルム巻き上げ用のフォーク
14が突出している。」(同10頁4行~9行)
   カ 「このフイルムユニットの本体1には,その組立時に予め135フイル
ム用のパトローネ20と,このパトローネ20から引き出されたフイルム21と
が,前記フイルムロール室11,パトローネ室12にそれぞれ装填される。……す
なわち,パトローネ20から引き出された未露光フイルム21は,巻軸22に巻回
されてフイルムロール23となる。」(同10頁13行~11頁1行)
   キ 「これにより,パトローネ20に回動自在に設けられ,フイルム21の
一端が係着されたパトローネ軸28(第2図参照)は,フォーク14に係合す
る。」(同11頁12行~15行)
   ク 「フイルムロール23及びパトローネ20それぞれを,このようにして
フイルムロール室11,パトローネ室12に挿入した後には,グリップアーム25
の保持を解除するとともに,巻軸22を例えばスリット22aの部分で撓ませて細
径にする。これにより装填治具のそれぞれを軸方向に退避させることができる。こ
の結果,パトローネ20はパトローネ室12内に残され,またフイルムロール23
はフイルムロール室11に置かれるようになる。」(同11頁20行~12頁9
行)
   ケ 「フイルム21を上から押さえつけるようにして背板3を本体基部2に
被せ,これを固着することによって,上側に湾曲されたフイルムの展延部分26
は,第2図に示したようにフイルム支持面15に圧着され,フイルム面が浮き上が
ったり,波うったりすることなく,所定の露光位置に位置決めされる。また,この
ときスプロケット16がパーフォレーションに噛み合うようになる。」(同12頁
18行~13頁6行)
   コ 「また,パトローネ20,フイルムロール23を上述のように軸方向か
ら装填する代りに,これらを次のようにして本体基部2に装填することも可能であ
る。すなわち,パトローネ室12にパトローネ20を装填した後,フイルムロール
室11外で巻軸22によってフイルム21を巻き取ってゆく。……こうしてフイル
ム21を巻軸22に巻き取った後,フイルムロール23を巻軸22ごとフイルムロ
ール室11に装填する。そして巻軸22をスリット22aの部分で撓ませてフイル
ムロール23から外し,この巻軸22だけを開口11aから引き抜くようにすれば
よい。」(同14頁5行~18行)
   サ 「レリーズボタン6を操作するとシャッタ35が開閉し,露光枠10に
位置しているフイルムの展延部分26に露光が行われる。その後,巻き上げノブ8
を回動操作すると,フォーク14を介してパトローネ軸28が回動するから,露光
済みのフイルムはパトローネ20に巻き込まれてゆく。これとともに,フイルムロ
ール23から次のフイルムコマが露光枠10の位置に供給され,スプロケット16
がフイルムの供給に従動して回転する。そして,スプロケット16の回転によって
1コマ定尺送りが検出されると,巻き上げノブ8がロックされ次の撮影準備が完了
することになる。このようにして撮影を繰り返してゆくことによって,露光済みの
フイルムは順次パトローネ20に巻き込まれてゆく。」(同15頁2行~16行)
   シ 「これによれば,突起38に指を引っ掛けてこれを引けば,溝37に沿
った開口ができるから,この開口から撮影済みのパトローネ20を取り出せるよう
になる。しかも,これによりユニット本体1が部分的に破損されてしまうので,繰
り返し使用の精度保証のないフイルムユニット本体1が再使用されるという事態を
防止できるようになる。」(同16頁10行~17行)
   ス 図面においては,フォーク14はパトローネ軸28に係合する構造のも
のであること及びスプロケット16はフイルム21のパーフォレーションに係合す
るものであって,フイルム21の移動により当該スプロケットが回動する構造であ
ることが示されている。
  (4) 上記のような明細書及び図面の記載によれば,優先出願③明細書及び同図
面には,次の構成の発明が記載されているものと認められる。
    a 予め未露光フイルムを内蔵し,このフイルムに対して,シャッタ手段
(レリーズボタン6)を操作することにより,露光付与機構(シャッタ35)を通
して,フイルムの展延部分26に露光を付与するようにし,
    b 撮影後にフイルム(撮影済みのパトローネ20)を取り出したのち
は,再使用されないようにされたレンズ付きフイルムユニットにおいて
    c 前記ユニット内のフイルム露光枠10の一方側に未露光フイルムロー
ル23が配置され,フイルム露光枠の反対側に回転可能(自在)な巻芯(パトロー
ネ軸28)を内部に有するパトローネが配置されており,
    d 未露光フイルムの一端と巻芯(パトローネ軸28)が予め固定(係
着)されていること,
    e 前記パトローネ内に回転可能に支承された巻芯(パトローネ軸28)
にはユニット10のフイルム巻取り操作手段(巻き上げノブ8)の操作に連動し,
図中反時計方向に回動するフイルム巻き上げ用のフォーク14を連結(係合)さ
せ,
    f 前記シャッタ手段(レリーズボタン6)が操作された後に,前記未露
光フイルムをパトローネ20内に巻き込み可能としていること,
    g 未露光フイルムロール23は,該ユニットの製造工程で前記パトロー
ネ20内に収納された状態から引き出されて形成されており,
    h 該フイルムロールの中心部が中空状態で,未露光フイルムロール収納
部に装填されている
    i ことを特徴とするレンズ付きフイルムユニット
     優先出願③明細書及び同図面に記載された上記の発明の構成要件を本件
発明の構成要件AないしIと対比すると,構成要件aは,本件発明の構成要件Aに
相当し,同構成要件bは,本件発明の構成要件Bに相当し,同構成要件cは,本件
発明の構成要件Cに相当し,同構成要件dは,本件発明の構成要件Dに相当し,同
構成要件eは,本件発明の構成要件Eに相当し,同構成要件fは,本件発明の構成
要件Fに相当し,同構成要件gは,本件発明の構成要件Gに相当し,同構成要件h
は,本件発明の構成要件Hに相当し,同構成要件iは,本件発明の構成要件Iに相
当する。
(5) したがって,本件発明の特許請求の範囲に記載された技術事項は,すべて
優先出願③明細書又は同図面の中に記載されていると認められるので,本件発明に
ついての特許法39条の適用については,優先出願③の出願時点である昭和61年
10月17日が基準とされることになる。
  (6) 上記の点に関して,原告らは,優先出願③明細書及び同図面においては,
本件発明の構成要件Fが記載されていないと主張する。
    しかしながら,優先出願③の出願当時において,パーフォレーションを利
用して1コマ分のフイルムの長さを検出し,巻き上げノブをロックする構成は,周
知の技術であったと認められ(乙6ないし15),このことを前提として,上記(3)
のケ,サ及びスに記載された事項をみると,優先出願③明細書及び同図面におい
て,①レリーズボタン6を操作するとシャッタ35が開閉し,巻き上げノブ8を回
動操作すると,露光済みのフイルムがパトローネ20に巻き込まれてゆくこと,及
び,②露光済みフイルムがパトローネ20に巻き込まれてゆくとともに,フイルム
ロール23から次のフイルムコマが露光枠10の位置に供給されるが,供給される
当該フイルムコマは1コマ分の長さが検出されるとロックされるものであることが
それぞれ記載されていることは,明らかである。ここで,「レリーズボタン6」及
び「露光済みのフイルム」は,本件発明の「シャッタ手段」,「前記未露光フイル
ム」に相当するものであるから,優先出願③明細書及び同図面においては,本件発
明の構成要件F「シャッタ手段が操作された後に,前記未露光フイルムをパトロー
ネ内に巻き込み可能としていること」が記載されていると認められる。
    したがって,原告らの上記主張は採用できない。
  (7) 原告らはまた,本件特許明細書記載の第1,第2及び第4実施例について
本件発明の技術的事項が記載されていないから本件発明の実施例とは認められず,
したがって,優先権主張が認められるかどうかは,第3実施例の要件が先の出願で
開示されているかどうかによって決するべきと主張する。しかしながら,本件発明
についての優先権主張が認められるかどうかは,先に述べたとおり,本件発明の構
成要件(特許請求の範囲に記載されたもの)が,先の出願に添付された明細書又は
図面に記載されているかどうかによって判断すべきものであるから,本件特許明細
書に記載されている実施例がどのようなものであるかは,優先権主張が認められる
かどうかに関係ないことである。なお,仮に,原告らの主張が,本件発明の技術的
範囲につき,第3実施例に限定して解釈すべきことをいうものであるとしても,そ
のように限定して解釈すべき理由は認められない。いずれにしても,原告らの主張
を採用することはできない。
  (8) 上記によれば,特許法42条の2第2項により,本件発明についての特許
法39条3項の適用については,国内優先権主張の基礎とされた優先出願③の出願
時である昭和61年10月17日が基準とされることになる。そうすると,本件実
用新案の出願日は昭和62年1月19日であるから,本件発明が先願ということに
なり,本件発明に特許法39条3項に違反して特許された無効事由があるというこ
とはできない。
 2 争点(2)(本件特許権には新規性・進歩性を欠く明白な無効事由があるか)に
ついて
   原告らは,①米国特許3896467号公報,②実願昭46-0903号
(実開昭48-46622号)のマイクロフィルム,③実公昭34-16432号
公報,④特開昭48-7734号公報,⑤特開昭49-57833号公報の各公知
文献に照らせば,本件特許権は新規性あるいは進歩性を欠く無効事由がある旨を主
張する(もっとも,原告らはこの点について,これ以上具体的な主張をしていな
い。)。
   しかしながら,本件全証拠によっても,本件発明が新規性あるいは進歩性を
欠くことを認めるに足る事情を見いだすことはできない。
   すなわち,本件発明は,「撮影後にフイルムを取り出したのちは再使用でき
ないようにされた」ものであることが要件であるところ,実願昭46-0903号
(実開昭48-46622号)のマイクロフイルム(上記②,甲9),③実公昭3
4-16432号公報(上記③,甲10),特開昭49-57833号公報(上記
⑤,甲12)に記載された技術的事項は,いずれも,ユーザが組立分解をしたり,
フイルムを入れ替えて再使用することが可能な構造のカメラを前提としたものであ
るから,本件発明と同一の発明が記載されているということはできないし,また,
上記の各公報等に記載された発明から本件発明が容易に想到できるということもで
きない。また,特開昭48-7734号公報(上記④,甲11)には,発明の詳細
な説明として,「予め装填されたフイルムの一箇のロールが使われてしまった後に
棄ててしまう積りのカメラに応用できる」との記載があるものの,同記載は撮影済
みコマ数の計測及びフイルムの錠止技術に関して記載されているものであって,具
体的にユーザにおいて組立分解できないようにされた構造のカメラに関する技術が
記載されているものとはいえないから,上記公報において「撮影後にフイルムを取
り出したのちは再使用できないようにされた」構成を有するカメラに関する技術が
開示されているとはいえず,本件発明と同一の発明を記載しているということがで
きないし,上記の公報等に記載された発明から本件発明が容易に想到できるという
こともできない。米国特許3896467号公報(上記①)との関係で,本件発明
の新規性あるいは進歩性を疑わせるに足りる証拠も存在しない。
   上記によれば,本件特許権に無効事由があることが明らかであるという原告
らの上記主張は,採用できない。
 3 結論
以上によれば,本件特許権に無効事由が存するとは認められない。他方,原
告らは,原告製品が本件考案の技術的範囲に属することを自白するのみならず,本
件考案と本件発明が実質的に同一である旨を積極的に自認している。そうすると,
原告製品が本件発明の技術的範囲に属することについては,当事者間に争いがない
ことに帰するから,原告製品輸入・販売につき,被告が本件特許権に基づく差止請
求権を有しないことの確認を求める原告大東貿易及び原告ハマ・コーポレーション
の請求は,いずれも理由がない。また,本件警告が不正競争行為に該当することを
理由に損害賠償を求める原告らの請求もまた,その余の点について判断するまでも
なく,理由がない。
   よって主文のとおり判決する。
     東京地方裁判所民事第46部
           裁判長裁判官   三 村 量 一
              裁判官   大須賀 寛 之
              裁判官   松 岡 千 帆
原告製品目録
 富士写真フイルム株式会社が販売したレンズ付きフイルムユニットのボディを再
使用しフイルムを詰め替えたレンズ付きフイルムユニット
原告製品説明
下記構成を有するレンズ付きフイルムユニット
a 撮影レンズ及びシャッタを含む撮影機構が組み込まれたユニット本体に,
b 写真フイルムの一端を係止した回転自在なスプール軸を有するパトローネを収
納するためのパトローネ収納室と,
c 前記パトローネから引き出した写真フイルムをロール状に収納するためのフイ
ルム収納室とが設けられており,
d 製造時にパトローネ及び写真フイルムのロールが予め装填され,
e 撮影毎に前記スプール軸を回転することによって露光済みの写真フイルムをパ
トローネに巻き込んでゆくようにしたレンズ付きフイルムユニットであって,
f 前記ユニット本体には,前記スプール軸と直接係合し,回転操作によりスプー
ル軸を写真フイルムの巻込み方向に回転させるための円形をした巻上げノブが組み
込まれ,
g 前記巻上げノブは,前記ユニット本体の前記上板の下方にあって一部が前記上
板の背面側縁部を超えて後方に露呈されており,
h 前記ユニット本体はその背面の全体が開口しており,
i この背面の全体を覆って,レンズ付きフイルムユニットの背面を構成するとと
もに,ユニット本体内に装填された写真フイルムを光密に保つための裏蓋が取り付
けられ,
j この裏蓋を前記ユニット本体の背面側から取り付ける際に,前記巻上げノブの
一部が前記裏蓋から突出するように嵌まり込んで前記巻上げノブの回転操作を可能
とするための開口部を前記裏蓋に形成した
k ことを特徴とするレンズ付きフイルムユニット。
(別紙)
明細書第1図第2図、第3図

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