弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審に於ける訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人出射虎夫の控訴趣意
 論旨第一点に付
 刑事訴訟法第二九六条が証拠調のはじめに検察官は証拠により証明すべき事実を
明らかにしなければならないと規定し、原審公判調書を調査するに原審に於て検察
官が証拠調のはじめに右の陳述をしていないことは所論の通りであるが、検察官の
所謂冒頭陳述は訴訟の状況に応じ適宜或いは既に朗読した公訴事実を引用し又はそ
の冒頭陳述に代えて個々の立証趣旨を陳述するを以て足りるものと解する(昭和二
五年五月一一日最高裁判所第一小法廷判決参照)ところ、原審公判調書に依れば検
察官が個々の証拠取調の請求に当り其の立証趣旨の陳述をしたことが明らかである
から所謂冒頭陳述がなされて居なくても違法といえないばかりでなく、何等判決に
影響を及ぼさないことが明らかで、従つて論旨は理由がない。
 論旨第二点に付
 原判決が原判示事実を認定した証拠としてAの司法警察員に対する供述調書謄本
及原審に於ける証人Bの供述を挙示して居ることは所論の通りである。
 而して原審公判調書に依れば所論の様に被告人及弁護人は右Aの供述調書を証拠
とすることに同意しなかつたことが認められるが、右Aは当初検事から岡山少年観
護所又は岡山市abc番地に存住するものとして証人としての取調請求があり、裁
判所も之を許容して同人に対する召喚状を右二ク所宛に送付したところ岡山市ab
宛のものは所在不明として返送せられ、少年観護所宛のものは同所長から既にC学
校に送致し在所しない旨の回答があつて執れも送達が出来なかつたので検事は右A
は其の所在が不明で公判期日に供述することが出来ず且其の供述が本件犯罪事実の
証明に欠くことが出来ない場合に該当するとして、同人を証人として取調べること
の請求を撤回し、代りに刑事訴訟法第三二一条第一項第三号に基き右同人の供述調
書の取調べを請求したものであることが本件<要旨第一>記録に依り明らかである。
而して刑事訴訟法第三二一条第一項に基き被告人以外の者の所在が不明で公判期
に於て其の者の供述を得ることが出来ないことを理由として其の供述
録取書を証拠として取調の請求をするに当つては、原則として少くも其の供述者の
所在が不明であるとすることを相当とすると客観的に認めるに足る証左を提出すべ
き責務があるものというべく、裁判所も亦所論の様に慎重に所在不明と認めること
が相当であるか否かを検討すべく、簡単に所在不明であるとして其の者の供述録取
書を証拠として許容すべきでないことは右条項が伝聞法則の例外を規定して居るも
のであることからして明らかである。況んや本件に於ける場合の様な被告人が本件
訴因全部を争つて居り之を立証するには右Aの供述が最も重要なる資料である場合
に於ては尚更である。然るに本件に於て検事は右二ケ所宛の召喚状の送達不能の事
実のみを以て前記岡山少年観護所長よりの回答書に依りAが現在して居るかも分ら
ぬと考えられるC学校又は右回答書の末尾にAの住所として記載してある岡山県浅
口郡d町大字e町f番地に宛て更に召喚状の送達を求めるなり、或いは右の場所に
もAが現在しない旨の証左を提出するなり、其の他Aの所在不明を証する為の資料
を提出する等することなくして、直ちに右Aの所在が不明で刑事訴訟法第三二一条
第一項第三号の場合に該当するものとして其の司法警察員に対する供述録取書を証
拠として取調の請求をしたのは、未だ其の挙証責任を果したものということは出来
ず、Aの所在が不明であるとすることを相当とする客<要旨第二>観的に認めるに足
る立証があつたものということは出来ない。併し原審公判調書に依れば検事が右A
供述録取書を刑事訴訟法第三二一条第一項第三号に該当する場合とし
て其の証拠調を請求したのに対し被告人及弁護人は之を証拠とすることに同意はし
なかつたが同時にAの所在が不明であることは争わないと述べて居ることが認めら
れるから検事が前記二ク所宛のAの召喚状の送達不能の事実のみに基きAの所在は
不明なりとする主張に対して異議はなかつたものというべきで従て右供述録取書は
刑事訴訟法第三二一条第一項第三号に規定する所在不明で公判期日に供述すること
が出来ないとの点を除く其の他の条件を具備して居るならば、当然之を証拠とする
ことが出来るものということが出来る。而して右供述録取書にはAの署名拇印があ
り其の供述が本件犯罪事実の存否の証明に欠くことが出来ないものてあつて、特に
信用すべき情況の下に為されたものであることは右供述録取書謄本及本件訴因並被
告人の原審証人Bの証言に依り明らかであるから結局原審が検事の請求を許容し右
供述録取書を証拠として取調べた上之を証拠として採用し原判示事実を認定したの
は何等違法とはいえない。
 次に所論の原審証人Bの供述に付按ずるに同人の供述の主要部分がAの供述を内
容として居るものであることは所論の通りであるが、被告人以外の者の公判期日に
於ける供述で被告人以外の者の供述を其の内容とするものに付ては刑事訴訟法第三
二一条第一項第三号の規定が準用せられることは同法第三二四条第二項の規定する
ところであつて、右供述の内容となつて居るAの供述が前記のような理由により刑
事訴訟法第三二一条第一項第三号に従い証拠とすることが出来る以上原判決が之を
内容とする右Bの証言を証拠としたことに付ても何等所論の様な違法は存しない。
 論旨第三点に付て
 証拠の取捨判断は経験則に違反しない限り原裁判所り自由裁量に属するところで
あつて、原判決に挙示してある証拠に依れば原判示事実は之を認めることが出来、
何等所論の様に事案を誤認した違法はない。論旨は理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三九六条第一八一条に従い主文の通り判決する。
 (裁判長裁判官 柴原八一 裁判官 秋元勇一郎 裁判官 高橋英明)

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