弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
柏税務署長が原告に対し平成17年7月1日付けでした原告の平成15年分
の所得税の更正処分(ただし,平成17年10月31日付け再更正処分により
取り消された後のもの)のうち課税総所得金額が1465万2000円,課税
分離短期譲渡所得金額が0円をそれぞれ超え,還付金の額に相当する税額が2
万2694円を下回る部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし,上記
再更正処分により取り消された後のもの)をいずれも取り消す(以下,平成。
17年7月1日付け更正処分を「本件更正処分,同日付け賦課決定処分を」
「本件賦課決定処分」という)。
第2事案の概要
本件は,原告が,割賦購入した自宅マンションに係る譲渡所得について,割
賦金支払額等を取得費(所得税法33条3項,38条1項)に含めて所得税の
確定申告をしたところ,処分行政庁が,割賦金支払額等を取得費として認めず,
本件更正処分及び本件賦課決定処分をしたことから,原告が,本件更正処分
(再更正処分で取り消された後のもの)について確定申告に係る金額を超える
部分の取消しを,また,税務相談官の回答に従って申告したのであるから国税
通則法65条4項の「正当な理由」があるなどとして本件賦課決定処分(再更
正処分で取り消された後のもの)についてその金額全部の取消しをそれぞれ求
めた事案である(なお,訴状の「請求の趣旨」によると,本件更正処分の取。
消しのみを求めるようにも読めるが「請求の原因」の記載等を総合し,本件,
賦課決定処分の取消しも併せて求める趣旨であると解した)。
1争いのない事実等(証拠により容易に認められる事実は,末尾にその証拠を
掲記した)。
(1)原告とその妻aは,昭和57年3月20日,住宅・都市整備公団(以下
「住宅公団」という)との間で,別紙1物件目録記載の建物及び敷地権。
(以下「本件マンション」という)について,譲渡代金を8451万11。
00円,割賦金の支払期間を昭和57年3月20日から昭和92年2月25
日までとする住宅譲渡契約を締結した(以下「本件契約」という(甲7,。)。
乙3,4)
(2)本件マンションにつき,昭和57年12月20日,原因を同年3月20
日売買,権利者を原告及び妻a,共有持分を各10分の5とする所有権移転
登記,平成15年10月17日,妻aの共有持分につき,原因を真正な登記
名義の回復,権利者を原告とする所有権移転登記がされた(乙4)。
(3)原告は,平成15年12月8日,妻aに対し,本件マンションの持分1
00分の47を代金564万円で譲渡した(乙4,7)。
(4)原告は,平成16年3月2日,平成15年分の所得税の確定申告書を柏
税務署長に提出した(以下「本件確定申告」という(乙1)。)。
2課税処分等の経緯及び所得税額等に関する当事者の主張
(1)課税処分等の経緯
原告の平成15年分の所得税に係る確定申告,本件更正処分,異議申立て,
審査請求,再更正処分及び審査裁決の経緯は,別紙2記載のとおりである。
(2)所得税額等に関する当事者の主張
原告の平成15年分の所得税額等に関して,原告の主張は別紙2記載の確
定申告欄のとおりであり,被告の主張は別紙3のとおりである。
3争点
(1)割賦払で不動産を取得した場合に割賦金等は全額取得費に含まれるか。
(2)税務相談官の回答に従って確定申告をしたから国税通則法65条4項の
「正当な理由」があるという原告の主張の当否。
4争点及びこれに関する当事者の主張
(1)争点(1)(割賦払で不動産を取得した場合に割賦金等は全額取得費に含ま
れるか)
ア原告の主張
本件契約には,借入金はもとより,割賦期間中の利息に相当する金額
(以下「利息相当額」という)も存在せず,購入代価と利息相当額が明。
らかに区分されているという事実もないから,原告が支払った譲渡代金の
全額を取得費に算入すべきである。
原告の主張する取得費の内訳は,別紙4(A欄)のとおりである。
イ被告の主張
個人が居住用不動産を購入する場合の借入金利子は,原則として,所得
税法38条1項の「資産の取得に要した金額」には該当しないが,当該不
動産の使用開始の日以前の期間に対応するものは,当該不動産を取得する
ための付随費用として「資産の取得に要した金額」に含まれる。そして,
割賦契約により取得した固定資産について,購入代価と利息相当額が明ら
かに区分されている場合,当該利息相当額は,固定資産を取得するための
借入金の利子と同様に扱うべきである。本件契約においては,譲渡代金の
うち,購入代価と利息相当額が明らかに区分されているから,取得費に算
入される利息相当額は,本件契約を締結した日(昭和57年3月20日)
から,使用開始日までの期間に対応する額が取得費となる。
被告の主張する取得費の内訳は,別紙4(B欄)のとおりである。
(2)争点(2)(税務相談官の回答に従って確定申告をしたから国税通則法65
条4項の「正当な理由」があるという原告の主張の当否)
ア原告の主張
原告は,平成15年3月4日,東京国税局税務相談室市川分室のb相談
官(以下「b相談官」という)に対し,住宅公団から35年の長期割賦。
により住宅の譲渡を受けたが,同公団の長期特別分譲住宅譲渡契約書に書
かれている譲渡代金の額は,所得税法38条1項の『資産の取得に要した
金額』に当たるかどうか」と質問したところ,同相談官は,これに当たる
旨明確に回答したから,原告は,本件確定申告をしたものであり,国税通
則法65条4項にいう「正当な理由」がある。
イ被告の主張
国税通則法65条4項の「正当な理由」とは,真に納税者の責めに帰す
ることができない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らして
も過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいい,具体的
には,納税者側の主観的な事情や法の不知や解釈の誤りは含まれず,納税
者に正しい申告をする契機が客観的に与えられていなかった場合に限られ
る。したがって,そもそも税務相談における助言や回答に誤りがあったこ
とをもって同条項の「正当な理由」に当たるということはできず,また,
本件においては,b相談官は結論を示さず,税務署の担当部門に対する相
談を勧めたのであるから,原告に同条項にいう「正当な理由」はない。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(割賦払で不動産を取得した場合に割賦金等は全額取得費に含まれるか)
(1)譲渡所得の金額について,所得税法は,総収入金額から資産の取得費及
び譲渡に要した費用を控除するものとし(同法33条3項,資産の取得費)
は,別段の定めがあるものを除き,当該資産の取得に要した金額並びに設備
費及び改良費の額の合計額としている(同法38条1項。そして「資産),
の取得に要した金額」には,当該不動産の客観的価格を構成すべき取得金額
のほか,登録免許税等の当該資産を取得するための付随費用が含まれるが,
当該資産の維持管理に要する費用等居住者の日常的な生活費ないし家事費に
属するものはこれに含まれないと解すべきところ,一般に,当該資産を取得
するための借入金の利子は,当該不動産の客観的価格を構成するものではな
く,当該資産を取得するための付随費用にも該当せず,むしろ,個人が他の
種々の家事上の必要から資金を借り入れる場合の当該借入金の利子と同様,
当該個人の日常的な生活費ないし家事費にすぎず,借入金の利子は,原則と
して同法38条1項にいう「資産の取得に要した金額」に該当しないという
べきである。
しかしながら,借入れの後,個人がその居住の用に供するまでには時間を
要する場合があり,その場合は当該不動産を使用することなく利子の支払を
するものであるから,借入金の利子のうち,居住のため当該不動産の使用を
開始するまでの期間に対応するものは,当該不動産をその取得に係る用途に
供する上で必要な準備費用ということができ,当該不動産を取得するための
付随費用に当たるものとして「資産の取得に要した金額」に含まれると解,
するのが相当である(以上につき最高裁判所平成4年7月14日第三小法廷
判決民集46巻5号492頁参照。。)
そして,割賦契約において,購入代価と割賦払期間中の利息に相当する部
分とが明らかに区分されている場合,その利息は,譲渡資産の取得のために
借り入れた資金の利子と経済的実質において変わりないことに鑑みると,当
該利息相当額のうち,当該資産の使用を開始するまでの期間に対応するもの
は「資産の取得に要した金額」に含まれると解するのが相当である。,
(2)これを本件についてみるに,たしかに本件契約の契約書(甲7,乙3)
には「譲渡代金の額」として8451万1100円と記載されており,,
「使用料相当額の算定基準となる額」として3160万円と記載されている
ことが認められる。しかしながら,本件契約の対象物件の分譲希望者に対す
る募集案内書(以下「本件案内書」という。乙5)には「分譲住宅の申込,
資格・方法等「申込書記載例「募集方法および住宅選定」などの詳し」,」,
い手続案内と共に「価格表「譲渡代金の支払方法」などの記載があり,,」,
「価格表」には,全室の価格が一覧表にして記載されているところ,原告が
購入した×号棟×××号室の価格としては「3160万円」と記載され,ま
た「譲渡代金の支払方法」には「即金払いの場合」として「譲渡契約締,,
結時までに全額お支払いいただきます」との記載が「割賦払いの場合」。,
として35年,30年,25年及び20年の割賦償還が選択でき,割賦金の
適用金利は当初10年間は年利5.50パーセント,残期間は年利7.50
パーセントであることなどの記載がそれぞれされていることが認められる。
そして,本件案内書(乙5)には,前示のように申込資格・方法など手続が
詳細に定められており,分譲契約の申込みをするためには,住宅公団所定の
申込書に,本件案内書の記載例や注意事項に従って,本件案内書に記載され
ている細分化された申込区分等などを明記した上で,一定期間内に郵送で申
し込まなければならないとされているのであって,およそ本件案内書の記載
内容を十分に理解することなくしては契約を締結することはできないもので
あり,本件案内書は,一般の民間マンションの売買契約におけるパンフレッ
トやちらしの類とは大きく異なり,契約の手続や内容を示す重要な位置付け
を有するものであると認められる。
そうすると,たしかに本件契約の契約書(甲7,乙3)には,前記のよう
な記載がされているにせよ,原告が,本件案内書(乙5)の記載内容等によ
って,本件契約によって分譲取得した本件マンションの価格が3160万円
であること,割賦償還を選択する場合は,当初10年間は年利5.50パー
セント,残期間は年利7.50パーセントであることを十分に知悉した上で
本件マンションの購入を申し込み,本件契約を締結したと認められるのであ
って,およそ本件マンションの購入代価が,契約書に記載されている35年
分の割賦償還金の合計である8451万1100円であると認めることはで
きない。そして,契約書(甲7,乙3)及び本件案内書(乙5)の記載を合
わせて読むならば,本件契約においては,本件マンションの購入代価は31
60万円であり,8451万1100円のうち3160万円を超える部分が
利息相当額にそれぞれ当たるものと認められ,購入代価と利息相当額とが明
らかに区分されていると認められる。
そうすると,上記の利息相当額のうち,本件契約を締結した日である昭和
57年3月20日から本件マンション使用開始日までの期間に対応する金額
は,本件マンションの取得費に含まれ,それ以外の利息相当額については,
取得費と認めることはできないというべきところ,証拠(乙6)によれば,
原告が,本件マンションについてc株式会社との間で電気使用契約を締結し
た日が昭和57年4月3日と認められ,この日に本件マンションの使用を開
始したと推認できるところ,これを覆すに足りる証拠はない。
そして,前記争いのない事実等に証拠(乙3,5)及び弁論の全趣旨を総
合すれば,割賦金の支払期間のうち最初の5年間は元本据置期間であり,1
年目の割賦支払期間における割賦金の額は,170万5200円(月々7万
1050円,年2回のボーナス月はこれに代えて49万7350円)であっ
たことが認められるから,この170万5200円(全額が利息に相当す
る)について,本件契約の締結日から本件マンションの使用開始日までの。
期間に対応する金額を計算すると,170万5200円×15日÷365日
の計算式で算出した7万0076円となり,この7万0076円が,本件マ
ンションの使用を開始するまでの期間に対応する額,つまり「資産の取得,
に要した金額」に当たると認められる。
(3)そして,原告の主張する他の取得費について検討するに,
ア住宅公団への一時金(別紙4順号3,住宅公団への割賦支払(同順号)
4,d銀行からの借り替えに伴う収入金(同順号5,住宅・都市整備))
公団への繰上返済(同順号6)及びd銀行への返済(同順号7)について
は,いずれも譲渡代金が8451万1100円であることを前提とした主
張であるところ,前示のとおり,本件マンションの取得価額が3160万
円であることを前提とすべきであり,割賦金の利息相当額は,契約締結日
から使用を開始した日までの7万0076円の限度で取得費に含まれると
解すべきであるから,これ以上に取得費に当たるものはなく,
イ登録免許税4000円(別紙4順号10)は,証拠(乙4,7)によれ
ば,昭和62年12月1日に設定された抵当権の平成8年1月26日付け
抹消登記に伴う登記費用と認められ,本件マンションの取得に要した付随
費用とは認められないから,取得費には当たらない
と認められる。
2争点(2)(税務相談官の回答に従って確定申告をしたから国税通則法65条
4項の「正当な理由」があるという原告の主張の当否)について
(1)過少申告加算税は,過少申告による納税義務違反の事実があれば,原則
としてその違反者に対し課されるものであり,これによって,当初から適法
に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るととも
に,過少申告による納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を
図り,もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。
国税通則法65条4号は,修正申告書の提出又は更正に基づき納付すべき
税額に対して課される過少申告加算税につき,その納付すべき税額の計算の
基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とさ
れていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合
には,その事実に対応する部分についてはこれを課さないこととしているが,
過少申告加算税の上記の趣旨に照らせば,同項にいう「正当な理由があると
認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な
事情があり,上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても,なお,納税
者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解
するのが相当である(以上につき最高裁判所平成18年4月25日第三小法
廷判決民集60巻4号1728頁参照。。)
(2)これを本件についてみるに,証拠(乙13,14)及び弁論の全趣旨に
よれば,原告が,平成15年3月4日,東京国税局税務相談室市川分室に架
電し,b相談官に電話で相談をしたことは認められるものの,原告の相談内
容は,住宅公団から購入した不動産を譲渡したが,途中で銀行に借換えたの
で,実際に支払った額が契約金額よりも少なかった場合の取得費についてで
あり,これに対し,b相談官が,担当部門で相談するように回答したものと
推認される。
原告は,住宅公団との長期特別分譲住宅譲渡契約書に書かれている譲渡代
金の額は,所得税法38条1項の資産の取得に要した金額に当たるかどうか
という質問をし,b相談官が,これに該当する旨の回答をしたと主張し,原
告作成の質問回答書(甲8)にもその旨の記載がある。しかしながら,証拠
(乙15の1ないし3)によれば,所得税基本通達38−8には,割賦の契
約により購入した固定資産に係る購入代価と利息相当額とが明らかに区分さ
れている場合には,当該利息相当額を固定資産を取得するための借入金の利
子と同様に扱う旨定められていることが認められるところ,税務相談官であ
るbがこの通達を知らないか,あるいは知っていてあえてこれと異なる回答
をしたとはおよそ考えられない上,上記通達を踏まえて原告の質問に回答す
るためには,当該契約書の具体的記載内容や,購入代価と利息相当額が明確
に区分されているかどうかなどについて十分に検討することなく確答するこ
とはできないのであって,b相談官が,契約書の記載内容等を検討すること
もなしに,電話で,甲8記載のように,住宅公団との契約書記載の譲渡代金
の額は所得税38条1項の資産の取得に要した金額に該当する旨の回答をす
るとはおよそ考え難い。そうすると,b相談官が,原告に対し原告主張のよ
うな回答をしたことを前提とする主張に与することはできず,他に,原告に,
本件確定申告について,真にその責めに帰することのできない客観的な事情
や過少申告加算税を賦課することが不当又は酷な事情があると認めるに足り
る証拠はない。
3本件更正処分の適法性について
本件の譲渡所得に係る取得費については,前示のとおりであり,原告の平成
15年分の所得税額等は,別紙5「当裁判所の認定」欄に記載のとおりとなる。
これによれば,原告の平成15年分の所得税の納付すべき税額は,389万0
400円であり,本件更正処分に係る納付すべき税額387万8800円を上
回るから,本件更正処分は適法である。
4本件賦課決定処分の適法性について
前記3のとおり,本件更正処分は適法であるから,これを前提とした過少申
告加算税の額は,本件更正処分によって原告が新たに納付すべきこととなった
所得税額390万1494円(別紙2の「再更正処分(減額」欄の納付すべ)
き税額に「確定申告」欄の還付金の額に相当する税額を加えたもの)について,
別紙6「当裁判所の認定」欄記載のとおり計算した43万9000円となる。
この金額は,本件賦課決定処分の額と同額であるから,本件賦課決定処分は適
法である。
第4結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴
訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文
のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官定塚誠
裁判官古田孝夫
裁判官工藤哲郎

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