弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Bの弁護人佐々木良一、同坂野英雄上告趣意第一点、同被告人の弁護人片
山通夫の上告趣意第二点について。
 所論の公職に関する就職禁止、退官退職等に関する改正勅令第一五条第一項は、
候補者の届出又は推薦届出に関する連署行為自体を候補者の推薦届出と同様に取扱
い、これを政治上の活動に含めたことは同条の文理解釈上明かである。しかも、同
条の規定の趣旨は、覚書該当者自身の政治上の活動行為を禁止するにあるのである
から、いやしくも覚書該当者が公選による公職の候補者の届出又は推薦届出に関す
る連署をした以上、政治上の活動を行つたものであつて、その連署について覚書該
当者でない第三者の行為である届出がなされたかどうか、その連署が後日取消され
たかどうかは、犯罪の成否には関係がなく、従つて犯罪の構成要件を組成する事実
ではないのである。
 されば、原審が被告人の署名捺印した推薦連署表が教育委員候補者Aの推薦届出
に添附使用されたことを判示しなかつたからといつて、原判決には所論のような理
由不備の違法はない。また、原審がCの証人訊問と推薦連署表の取寄せ請求を却下
したからといつて、犯罪の成否に重要な関係ある事項について審理を尽さなかつた
ものではなく、その他所論のような違法があるものでもない。それ故、論旨は理由
がない。
 被告人Bの弁護人佐々木良一、同坂野英雄上告趣意第二点について。
 原判決の引用している証拠によれば、被告人は昭和二三年一〇月五日施行される
和歌山県教育委員選挙に関して、委員候補者Aの推薦連署表であることを認識して
これに署名捺印したことが認め得られるのであるから、原判決には犯意の点につい
て所論のような違法はない。けだし、所論の勅令は、政治上の活動の一つとして、
公選による公職の候補者の推薦届出又は届出に関する連署自体を覚書該当者に禁止
しているのであつて、覚書該当者がかかる行為であることを認識してその行為にい
でた以上、その行為の社会的影響を意識しているものと推断し得られるのであるか
ら、たといそれが政治上の活動であるとまでは自覚していなくても犯意があるもの
と言わねばならないからである。
 被告人Bの弁護人片山通夫の上告趣意第一点について。
 所論の点に関しては、被告人が覚書該当者であることを判示すれば足りるのであ
つて、いかる手続によつて覚書該当者となつたかということまで判示する必要はな
いのである。また、被告人が覚書該当者であることを認定するには、所論のように、
「本指定書」によらなければならないものではない。原審は、被告人の原審公判廷
における供述によつて、その事実を認定したことは判文上明かであるが、犯罪事実
のその他の点については、他の証拠をも引用しているのである。そして、犯罪事実
の一部の証拠が被告人の自白だけであつても、憲法第三八条第三項に違反するもの
でないことは、当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第一五三号同二三年六月九日大
法廷判決)とするところであるから、論旨は理由がない。
 同第三点について。
 被告人が所論の推薦連署表に署名捺印した事実を認定するには、必ずしも所論の
ように、推薦連署表によらなければならないものではなく、他の証拠による認定を
妨げるものではない。原審は、被告人の原審公判廷における供述のほか、Dに対す
る司法警察官の聴取書中の供述記載をも証拠に引用しているのであるから、原判決
には所論のような違法はなく論旨は理由がない。
 同第四点について。
 憲法第三七条第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは、偏頗や不公平のお
それのない組織と構成とをもつた裁判所による裁判という意味であつて、必ずしも
個々の事件につきその内容実質が公正妥当な裁判という意味ではないことは、当裁
判所の判例(昭和二二年(れ)第一七一号同二三年五月五日大法廷判決、昭和二二
年(れ)第四八号同二三年五月二六日大法廷判決、昭和二三年(れ)第五九号同年
六月二日大法廷判決)として示すところであつて、所論を検討しても、いまだこれ
を変更する必要を認めることができない。されば、論旨は採用することができない。
 被告人両名の弁護人平田武之の上告趣意第一点について。
 所論は、原判示第一事実について被告人の表示を欠き被告人が何びとであるか不
明であるというのであるが、原判決は第一事実の冒頭に「被告人Bは云々」と明記
し、その部分の犯罪事実が同被告人の所為であることを明示しているのであるから、
原判決には所論のような違法はない。論旨は、原判決文の誤読による非難であつて
採用することができない。
 同第二点について。
 いやしくも、覚書に掲げる条項に謀当する者としての指定を受けた者はその指定
が適法に取消されない限り、覚書該当者であることの意識があるのが通常である。
されば、原判決が論旨摘録のように判示したのは、被告人等においてその認識のあ
つたことを判示した趣旨と解されるのであるから、原判決には所論のような違法は
なく、論旨は理由がない。
なお、弁護人平田武之の追加上告趣意書は法定期間経過後の提出にかかるので、こ
れに対しては判断を与えない。
 よつて、最高裁判所裁判事務処理規則第九条第四項旧刑訴法第四四六条に従い主
文のとおり判決する。
 以上は、裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二四年五月二四日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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