弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人大橋茹同島田武夫同鍛治利一の各上告趣意はいづれも末尾添付別紙記載の
とおりでありこれに対する当裁判所の判断は次ぎの如くである。
 弁護人大橋茹の上告趣意第一点について。
 原判示のような動機で殺人をするというようなことも有り得ないものとはいえな
いから動機の点で原判決を実験則に反する違法のものとすることはできない、そし
て右動機及び論旨にいう「心理的推移経過」を原審が被告人の自白及び警察官の供
述によつて認定したことにも何等違法はなく論旨は理由がない。
 同第二点について。
 原審は被告人の自白のみならず多くの証拠を綜合して判示事実を認定したのであ
つて、自白と原審挙示の他の証拠とを綜合すれば原審認定の犯行事実を認定するこ
とが出来る。かかる場合犯人が被告人であることの証拠が自白のみであつても違憲
違法ではない、論旨は採用し難い。
 同第三点について。
 被告人の妻であつた証人Aは被告人が先丸の地下足袋を所有し室の入口に置いて
あつた旨を証言して居る。又被告人が十一時二、三〇分頃帰宅した旨の証拠もあり、
なお被告人は犯行後非常線を張られることを恐れ大急ぎで走つて帰つたといつて居
るのである。原審がこれ等の証拠を信じ、論旨に掲げる反対の証拠を信じなかつた
ものとみれば、これ等の点に関する論旨は意味ないものになるであらう(仏壇のり
んの音の点については鍛治弁護人の上告趣意に対する説示参照)。要するに論旨は
原審の採用しなかつた証拠等を基礎として原審の事実認定を攻撃するもので上告の
理由とならない。
 同第四点について。
 所論証人の供述は原審これを証拠として採つてゐないのであるから右証人訊問の
手続に所論のような欠陥があつたとしても、それは原判決に影響ないものである。
従つて論旨は上告の理由とならない。
 同第五点について。
 所論「殺人事件取調状況について」と題する書面中論旨摘録の部分は原審これを
証拠として採つてゐないものであるし又論旨摘録の証拠だけで被告人の自白が強要
によつたものと認定することはできない、其の他にも右事実を認めるに足る資料は
ないから論旨は採用できない。
 弁護人島田武夫の上告趣意第一点について。
 被告人が所論のような供述をしたことだけで直ちに自白が強要によつたものと断
定することはできない。其の他の所論のような事実で自白強要の事実を認定するこ
とができないことは勿論である。それ故右強要の事実を前提とする論旨は採用し難
い。なお証拠調の限度を定めることは原審自白裁量の範囲に属するものであるから、
所論のようなBの情事関係其の他の事実を原審が調べなかつたことを攻撃する論旨
は上告の理由とならない。
 同第二点について。
 論旨では(一)被告人は先丸の地下足袋を有してゐなかつたというけれども、こ
れを所有してゐたという有力な証拠もあること大橋弁護人の上告趣意第三点につい
て記したとおりである。(二)被告人が被害者の寝てゐた室内を覗き見たという窓
からは被害者の寝ていた処は見えない筈だといい第二審の検証調書を証拠に引いて
居る。けれども右調書は原審これを証拠に採つてゐないのである、同じく原審が採
つてゐない証拠を見るならば第一審の検証調書には右窓から被害者の寝てゐた場所
は十分見える旨の記載がある。そして第二審の調書のよりは遥かに精密に、窓の内
にある戸は硝子戸であり其の硝子の透明部分から室内が十分に見えることを硝子戸
及び室の詳細図面迄添えて明瞭に説明してゐる。以上の如く被告人に有利な証拠も
あれば反対に不利益な証拠もある。所論鑑定書記載の傷の如きも所論のように両人
が争つたものとすれば無論その位の傷は生ずることがあるであらう、被告人の実行
行為に関する供述は自己の記憶に存するその概略を述べたに過ぎない、殺人の如き
場合両人闘争の有様を詳細に記憶して居るものでもあるまいし又自供は其の記憶の
全部を述べたものとも限らない。只犯行室内に足跡がなかつたという点は相当考え
させられるところであるが、これとても原審の認定してゐない事実であるし此の一
事で事細かに述べてゐる被告人の自白が総て警察官の誘導乃至強要によつたものと
認定することはできないのは勿論、事実審たる原審が採用してゐる自白を事実調を
しない当審において採るべからざるものと断定し去ることは到底許されない。其の
他論旨は非常に多岐に亘つてゐるけれども、結局原審の採用しなかつた証拠等を基
礎として原審の事実認定を攻撃するに帰着し上告適法の理由とならないものである。
 同第三点は大橋弁護人の上告趣意第二点に対する説明で其の採用し得ないこと明
であろう。
 同第四点について。
 論旨では昭和二三年七月二六日の原審第一回公判において所論の証人申請があつ
たというのだけれども、同日の公判調書を見ると、Cを除く他の所論証人について
は一々姓名を記して其の訊問の申請があつた旨を記載してあるに拘らず、Cの訊問
申請があつたことは書いてない。されば右Cに対する申請はなかつたものと見るの
外ないので、原審がこれに対して何らの決定をしなかつたとしてもそれは当然で論
旨は理由がない。
 弁護人鍛治利一の上告趣意第一点について。
 所論の「殺人事件取調状況について」と題する書面は証人Dに対する第一審の訊
問調書の一部を為すものと認むべきである。蓋同調書の第八問答を見ると該書面は
右証人が自己の証言を補充するために差出したもので裁判長がこれを同調書の末尾
に添付する旨を告げたことがわかるばかりでなく、同調書と該書面との間には同調
書作成者の契印が押してあるからである。そして右訊問調書については原審公判に
おいて適法に証拠調が為されてゐるから論旨は理由がない。
 同第二点について。
 所論の如き事実は法律にいう「罪となるべき事実」ではないから原審は此の事実
を証拠によつて認定した理由を説明する必要はない、従つて原審挙示の証拠で其の
事実が認められなくても違法ではない。のみならず所論の事実の如きは犯罪の動機
の中でも極めて軽微且間接の遠因に過ぎないから、かかる事実についてたとえ所論
のような違法があつたとしても判決に影響を及ぼすべきものとは到底考えられない
から論旨は上告の理由とならない。
 同第三点について。
 所論被告人の自供は「仏壇のりんの音のようなもの」を聞いたというのであつて
甚だ不明瞭な感覚の供述であり、其の聞いたと思つた音が果して仏壇のりんの音で
あつたかどうかもわからない。又証人の何時頃寝たというような供述も正確なもの
と断定することはできない。時刻についての人の感覚は多くの場合相当不正確なも
のであり二、三十分ぐらいの誤をすることは間々あることだからである。そして論
旨において引用する検証調書によると映画館を出てからA家に到達する迄の歩行時
間は所論の様に一時間三五分ではない。同調書に書いてある一時間三五分というの
は映画館からA家迄の所用時間ではなく、被告人の住宅迄の時間である。映画館か
らA家迄の距離は右検証調書の示すところによると被告人の住宅迄の距離の半分乃
至其れ以下であつて(大橋弁護人の上告趣意ではA家迄の所用時間は四十三分とい
つてゐる)、時間にすれば論旨のいうところとは四、五十分の差がある筈である。
それ故被告人の自白は時間的に不合理だという論旨は全く理由がない。其の他本論
旨も要するに原審の採らなかつた証拠等によつて原審の事実認定を批難するに帰着
し上告適法の理由とならないものである。
 同第四点は大橋弁護人の上告趣意第二点、同第三点等に対する説明により其の理
由のないこと明であろう。
 同第五点について。
 論旨では「審理不尽」といつて居るけれども其の実質は結局原審の採用しなかつ
た証拠其の他によつて原審の事実の認定、証張の取捨判断を攻撃するに過ぎないも
ので、上告適法の理由とならない。
 同第六点について。
 所論弁護人に対しては第一回公判期日について適法の呼出があり、其の後の公判
期日及び証拠調期日は公判廷において適法に告知されてゐるのであるから、公判廷
に出頭しなかつた同弁護人に改めて召喚状を発しなくても所論のように弁護権を制
限した違法あるものとはいえない。論旨は理由がない。よつて上告を理由なしとし
旧刑事訴訟法第四四六条に従つて主文の如く判決する。
 以上は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 柳川真文関与
  昭和二四年一一月二日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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