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平成26年3月18日判決言渡
平成23年(行ウ)第228号法人税更正処分取消請求事件
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
麻布税務署長が原告に対して平成22年6月29日付けでした原告の平成2
0年4月1日から平成21年3月31日までの事業年度の法人税の更正処分
のうち,所得の金額556億9158万5439円及び納付すべき法人税額1
65億6606万8200円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処
分をいずれも取り消す。
第2事案の概要
1原告は,P1株式会社(以下「P1」という。)から,P1の完全子会社で
あったP2株式会社(平成21年2月2日までの商号は「P3株式会社」。以
下,商号変更の前後を通じて「P2」という。)の発行済株式全部を譲り受け
た(以下「本件買収」という。)後,同年3月30日,原告を合併法人,P2
を被合併法人とする合併(以下「本件合併」という。)を行った。そして,原
告は,原告の平成20年4月1日から平成21年3月31日までの事業年度に
係る法人税の確定申告に当たり,法人税法(平成22年法律第6号による改正
前のもの。以下「法」という。)57条2項の規定に基づき,P2の未処理欠
損金額約542億円を原告の欠損金額とみなして,同条1項の規定に基づき損
金の額に算入した。
これに対し,処分行政庁は,本件買収,本件合併及びこれらの実現に向けら
れた原告の一連の行為(原告がその代表取締役社長をP2の取締役副社長に就
任させた行為を含む。)は,法人税法施行令(平成22年政令第51号による
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改正前のもの。以下「施行令」という。)112条7項5号に規定する要件を
形式的に満たし,租税回避をすることを目的とした異常ないし変則的なもので
あり,その行為又は計算を容認した場合には,法人税の負担を不当に減少させ
る結果となると認められるとして,法132条の2の規定に基づき,P2の未
処理欠損金額を原告の欠損金額とみなすことを認めない旨の更正処分(以下
「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下,「本件
賦課決定処分」といい,本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)
をした。
本件は,原告が,本件更正処分等は同条の要件が満たされていなかったにも
かかわらずされた違法なものであると主張して,本件更正処分の一部及び本件
賦課決定処分の取消しを求める事案である。
2関係法令の定め
別紙2のとおり。なお,その要旨は,以下のとおりである。
(1)適格合併
法2条12号の8は,適格合併について,同号イからハまでのいずれかに
該当する合併で被合併法人の株主等に合併法人株式又は合併親法人株式の
いずれか一方の株式以外の資産が交付されないものをいう旨規定し,同号イ
は,その合併に係る被合併法人と合併法人との間にいずれか一方の法人が他
方の法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する関係その他の政
令で定める関係がある場合の当該合併を掲げている。
法2条12号の8イの規定を受けて,施行令4条の2第2項は,法2条1
2号の8イに規定する政令で定める関係は,同項1号又は2号に掲げるいず
れかの関係とする旨規定し,同項1号は,合併に係る被合併法人と合併法人
との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等の全部を直接又
は間接に保有する関係がある場合における当該関係を掲げている。
(2)欠損金の繰越しと適格合併等における未処理欠損金額の引継ぎ
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ア欠損金の繰越し
法57条1項は,確定申告書を提出する内国法人の各事業年度開始の日
前7年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合には,
当該欠損金額に相当する金額は,当該各事業年度の所得の金額の計算上,
損金の額に算入する旨規定する。
イ被合併法人等の未処理欠損金額の引継ぎ
法57条2項は,適格合併等が行われた場合において,当該適格合併等
に係る被合併法人等の当該適格合併等の日前7年内事業年度において生
じた欠損金額(未処理欠損金額)があるときは,合併法人等の合併等事業
年度以後の各事業年度における同条1項の規定の適用については,当該前
7年内事業年度において生じた前7年内事業年度開始の日の属する当該
合併法人等の各事業年度において生じた欠損金額とみなす旨規定する。
ウ未処理欠損金額の引継ぎ等に係る制限
法57条3項は,適格合併等に係る被合併法人等と合併法人等との間に
特定資本関係があり,かつ,当該特定資本関係が当該合併法人等の当該適
格合併等に係る合併等事業年度開始の日の5年前の日以後に生じている
場合において,当該適格合併等が共同で事業を営むための適格合併等とし
て政令で定めるものに該当しないときは,同条2項に規定する未処理欠損
金額には,当該被合併法人等の①特定資本関係事業年度前の各事業年度で
前7年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額(同条3項
1号)及び②特定資本関係事業年度以後の各事業年度で前7年内事業年度
に該当する事業年度において生じた欠損金額のうち法62条の7第2項
に規定する特定資産譲渡等損失額に相当する金額から成る部分の金額と
して政令で定める金額(法57条3項2号)を含まないものとする旨規定
する。
エ共同で事業を営むための適格合併等
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施行令112条7項は,法57条3項の規定による委任を受け,共同で
事業を営むための適格合併等は,適格合併等のうち,①施行令112条7
項1号から4号までに掲げる要件(事業の相互関連性要件,事業規模要件,
被合併等事業の同等規模継続要件,合併等事業の同等規模継続要件)又は
②同項1号及び5号に掲げる要件(事業の相互関連性要件,特定役員引継
要件)に該当するものとする旨規定する。
オ特定役員引継要件
施行令112条7項5号は,共同で事業を営むための適格合併等の要件
の1つとして,適格合併等に係る被合併法人等の当該適格合併等の前にお
ける特定役員(社長,副社長,代表取締役,代表執行役,専務取締役若し
くは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者を
いう。以下この号において同じ。)である者のいずれかの者(当該被合併
法人等が当該適格合併等に係る合併法人等と特定資本関係が生じた日前
において当該被合併法人等の役員又は当該これらに準ずる者であった者
に限る。)と当該合併法人等の当該適格合併等の前における特定役員であ
る者のいずれかの者(当該特定資本関係が生じた日前において当該合併法
人等の役員又は当該これらに準ずる者であった者に限る。)とが当該適格
合併等の後に当該合併法人等の特定役員となることが見込まれているこ
とを規定する。
(3)組織再編成に係る行為又は計算の否認
法132条の2は,税務署長は,合併等に係る①合併等をした一方の法人
又は他方の法人(同条1号),②合併等により交付された株式を発行した法
人(同条2号),③上記①及び②に掲げる法人の株主等である法人(同条3
号)の法人税につき更正又は決定をする場合において,その法人の行為又は
計算で,これを容認した場合には,合併等により移転する資産及び負債の譲
渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加,法人税の額から控除する金額
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の増加,上記①又は②に掲げる法人の株式(出資を含む。)の譲渡に係る利
益の額の減少又は損失の額の増加,みなし配当金額の減少その他の事由によ
り法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあると
きは,その行為又は計算にかかわらず,税務署長の認めるところにより,そ
の法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算す
ることができる旨規定する。
3前提事実(当事者間に争いがないか,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨によ
り容易に認定することができる事実)
(1)当事者等
ア原告
原告は,平成8年に設立され,情報処理サービス業及び情報提供サービ
ス業等を目的とする株式会社であり,「P4」ブランドで行う個人向け及
び小規模事業者向けのインターネットサービス事業を主力としている。原
告は,平成15年に東京証券取引所市場第一部に株式を上場している。原
告の資本金の額は,本件合併当時,約74億円であり,平成20年3月期
において,売上高は約2207億円,営業利益は約1219億円であった。
(甲4,107,112,乙29)
原告の議決権の所有割合は,P1が約42.1パーセント,米国のP5
Inc.(以下「P5」という。)が約34.9パーセント,多数の少数
株主を含むその他の株主が約23.0パーセントであった(甲5)。
本件合併当時,原告の取締役会長はP6(以下「P6氏」という。)で
あり,原告の代表取締役はP7(以下「P7氏」という。)であった(甲
4,107,112)。
イP1
P1は,昭和56年に設立され,コンピュータ,その周辺機器・関連機
器及びそのソフトウェアの開発,設計,製造,販売並びに輸出入業務等を
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営む会社及びこれに相当する業務を行う外国会社の株式又は持分を取
得・所有することにより,当該会社の事業活動を支配・管理することを目
的とする株式会社である。P1は,ブロードバンド・インフラ事業を営む
会社,移動体通信事業を営む会社,固定通信事業を営む会社など,多くの
グループ子会社を傘下に抱えている。本件合併当時,P1の資本金の額は
約1876億円であった。(甲7,112)
本件合併当時,P1の代表取締役社長はP6氏であり,P7氏はP1の
取締役であった(甲7,107,112)。
ウP2
P2は,昭和61年に設立され,情報通信事業用施設の保守,管理及び
運営等を目的とする株式会社である。P2の本件合併直前の資本金の額は
1億円であり,平成20年3月期において,売上高は約98億円,営業利
益は約22億円,貸借対照表上の資産合計は約181億円であった。(甲
8,15の3)
P2は,P1の完全子会社であったが,P1が,原告に対し,平成21
年2月24日,保有していたP2の発行済株式全部を譲渡したことによ
り,原告の完全子会社となり,その後,同年3月30日,本件合併により
解散した(甲8,13,14)。
エP8
株式会社P8(平成21年4月1日までの商号は「P3株式会社」。以
下,商号変更の前後を通じて「P8」という。)は,平成21年2月2日,
P2から新設分割(以下「本件分割」という。)により設立された。P8
は,P2の完全子会社であったが,P2が,原告に対し,同月20日,保
有していたP8の発行済株式全部を譲渡したことにより,原告の完全子会
社となった。P8は,本件合併当時,情報通信事業用施設の保守,管理及
び運営に関するサービス提供等を目的としていた。(甲9,乙5)
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(2)本件合併に至る経緯
ア本件提案
P1の代表取締役社長であり,かつ,原告の取締役会長でもあるP6氏
は,P7氏ら原告の常勤取締役に対し,平成20年10月27日,P2の
株式の譲渡等を提案した。その後,P1は,原告に対し,同年11月21
日,上記の提案を改めて書面により行い,①P2から新会社(P8)を新
設分割すること(本件分割に相当するもの),②P2が原告に対して新会
社(P8)の株式を譲渡すること,③P1が原告に対してP2の株式を7
00億円で譲渡すること(本件買収に相当するもの),④原告がP2を合
併すること(本件合併に相当するもの)などの組織再編成に係る手順を示
した(以下,上記の提案を「本件提案」という。)。(甲11,12,1
07,112,証人P7,証人P6)
本件提案における組織再編成の手順は4段階で構成されており,その概
要は以下のとおりである(甲12)。
(ア)ステップ①(本件分割に相当するもの)
P2は,新設分割により,簿価34億円の新会社(P8)を設立する。
(イ)ステップ②(P8株式の譲渡)
aP2は,原告に対し,新会社(P8)の発行済株式全部を174億
円で譲渡する。
bP2は,新会社(P8)の株式譲渡益140億円(譲渡価額174
億円と簿価34億円との差額)を,P2の未処理欠損金額165億円
(平成14年3月期の124億円及び平成15年3月期の41億円
の合計額)の一部と相殺する。
(ウ)ステップ③(P2株式の譲渡。本件買収に相当するもの)
P1は,原告に対し,P2の発行済株式全部を700億円(税務上資
産200億円,事業資産326億円及び現金174億円の合計額)で譲
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渡する。上記「税務上資産200億円」は,P2(本件分割後のもの)
から原告に引き継がれる未処理欠損金額約500億円に税率40パー
セントを乗じて算出した額である。
(エ)ステップ④(本件合併に相当するもの)
a原告は,平成21年3月末までに,原告を存続会社,P2を消滅会
社とする吸収合併を行う。
b原告は,P2の未処理欠損金額を承継し,原告の事業収益と相殺す
る。
イP7氏のP2取締役副社長就任
P6氏は,P7氏に対し,平成20年11月27日,P2の取締役副社
長に就任するように依頼し,P7氏はこれを了解した。そして,P7氏は,
同年12月26日,株主総会の決議及び取締役会の決議を経て,P2の取
締役副社長に選任された(以下「本件副社長就任」という。)。(甲10
7,112,乙2,3,証人P7,証人P6)
これにより,特定役員引継要件(施行令112条7項5号)が充足され
得る状態となった。
ウ本件分割
P2は,平成21年1月7日,データセンターの営業・販売及び商品開
発に係る事業に関する権利義務を新設分割により新たに設立する会社に
承継させる旨の新設分割計画を作成した(乙4)。そして,同年2月2日,
P8が本件分割により設立され,P2の取締役がP8の取締役にも就任し
た(甲8,9)。
エP8株式の譲渡
P2は,原告との間で,平成21年2月19日,原告に対して保有する
P8の発行済株式全部を115億円で譲渡する旨の株式譲渡契約を締結
し,原告に対し,同月20日,譲渡代金の支払を受けるのと引換えに,保
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有するP8の発行済株式全部を譲渡した(乙5)。
オP2株式の譲渡(本件買収)
P1は,原告との間で,平成21年2月23日,原告に対して保有する
P2の発行済株式全部を450億円で譲渡する旨の株式譲渡契約を締結
し,原告に対し,同月24日,譲渡代金の支払を受けるのと引換えに,保
有するP2の発行済株式全部を譲渡した(甲13)。これにより,原告と
P2との間には特定資本関係(法57条3項)が生じることとなった。
カ本件合併
原告は,平成21年2月25日,原告を存続会社,P2を消滅会社とす
る吸収合併を行い,原告がP2の権利義務全部を承継し,P2が本件合併
後に解散する旨の合併契約を締結し,本件合併は,同年3月30日に効力
を生じた。P7氏以外のP2の取締役は,本件合併に伴って全員退任し,
原告の取締役には就任しなかった。(甲4,14)
(3)本件更正処分等
ア法人税の確定申告書の提出
原告は,平成21年6月30日,合併法人である原告の代表取締役であ
るP7氏が被合併法人であるP2の取締役副社長に就任していたため,特
定役員引継要件(施行令112条7項5号)を満たし,かつ,事業の相互
関連性要件(同項1号)も満たすとして,法57条2項の規定に基づき,
P2の未処理欠損金額542億6826万2894円を原告の欠損金額
とみなして,同条1項の規定に基づき損金の額に算入した上,原告の平成
20年4月1日から平成21年3月31日までの事業年度の法人税の確
定申告書を処分行政庁に提出した(甲72。別表1)。
イ本件更正処分等
処分行政庁は,平成22年6月29日付けで,原告の平成20年4月1
日から平成21年3月31日までの事業年度の法人税について,本件買
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収,本件合併及びこれらの実現に向けられた原告の一連の行為(原告がそ
の代表取締役社長であるP7氏をP2の取締役副社長に就任させた行為
を含む。)は,施行令112条7項5号に規定する要件(特定役員引継要
件)を形式的に満たし,P2の未処理欠損金額を原告の欠損金額とみなし
て損金の額に算入することを目的とした異常ないし変則的なものであり,
その行為又は計算を容認した場合には,法人税の負担を不当に減少させる
結果となると認められるものであることから,P2の未処理欠損金額を原
告の欠損金額とみなさず,原告が損金の額に算入した542億6826万
2894円は,損金の額に算入されず,当事業年度の所得金額に加算する
旨の本件更正処分等をした(甲1。別表1)。
ウ審査請求
原告は,平成22年8月27日付けで,本件更正処分等に対する審査請
求を国税不服審判所長に行った(甲2。別表1)。
エ本件訴えの提起
原告は,審査請求をした日の翌日から起算して三月を経過しても裁決が
されなかったため,平成23年4月13日,本件更正処分等の取消しを求
め,本件訴えを提起した。
4被告が主張する本件更正処分等の根拠及び適法性
被告が主張する本件更正処分等の根拠及び適法性は,別紙3のとおりである
(別紙中の略語は本文においても同様に用いる。)。
被告は,本件更正処分について,本件副社長就任が原告の行為であるとして
これを法132条の2の規定に基づき否認するものである旨主張している。
5争点
本件の主たる争点は,以下のとおりである。
(1)法132条の2の意義(争点1)
すなわち,①同条に規定する「その法人の行為」で,「これを容認した場
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合には,(中略)法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる
もの」とはどのような行為をいうか。また,②同条の規定に基づき否認する
ことができる行為又は計算は,法人税につき更正又は決定を受ける法人の行
為又は計算に限られるか否か。
(2)P7氏のP2取締役副社長就任(本件副社長就任)は,法132条の2の
規定に基づき否認することができるか否か(争点2)。
すなわち,①本件副社長就任は,「その法人の行為」で,「これを容認し
た場合には,(中略)法人税の負担を不当に減少させる結果となると認めら
れるもの」に該当するか否か。また,②本件副社長就任は,原告の行為か否
か。
(3)本件更正処分に理由付記の不備があるか否か(争点3)。
6争点についての当事者の主張
別紙4のとおり
第3当裁判所の判断
1認定事実
上記前提事実,争いのない事実,文中記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,
以下の事実が認められる。
(1)P2の事業内容,未処理欠損金額の処理に関する検討等
アP2の事業内容等
P1は,平成17年2月,英国のP9グループから,P2の発行済株式
の全部を取得し,P2を完全子会社とした。P2は,同年5月,通信事業
を分割して,これをP10株式会社に対して売却し,他方,P11株式会
社から,データセンター事業を行っていたP12株式会社の株式を譲り受
け,以後,データセンター事業に特化して事業を行っていた。当時,P2
の代表取締役はP13(以下「P13氏」という。)であり,平成18年
3月期における従業員数は約115名であった(甲12,15の1,甲1
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6)。なお,「データセンター」とは,一般に,サーバー類を収容する建
物や部屋などの施設及びそこに収容されるサーバー類を一体として指し
示す言葉であるが,施設とサーバー類を別の者が整備する場合は,施設の
みを指してデータセンター(狭義のデータセンター)と呼ぶことがある。
そして,「データセンター事業」とは,サーバー類の収容のために施設を
貸し出す役務(「ハウジング」又は「コロケーション」)や,データセン
ターに収容したサーバー類を貸し出す役務(「ホスティング」)などを提
供する事業をいう(甲10の1)。
P2は,東京都や大阪府などにデータセンターを保有して,データセン
ター事業を展開し,業界3位(専業では1位)の地位を占めていた(甲1
5の1から3まで,甲17)。P2の主要な売上は,コロケーションによ
るものであって,ホスティングは少なく,P2の事業の本質は不動産賃貸
業であり,インターネットビジネスに精通した者は少なかった。また,平
成20年度において,P2の取引先のうちの25パーセントがP14グル
ープ各社であった。(甲46の3,乙10,証人P6)。
イP2の未処理欠損金額
P2には,平成14年3月期から平成18年3月期までに欠損金が発生
し,その額は,①2001年度(平成14年3月期)が124億円,②2
002年度(平成15年3月期)が41億円,③2003年度(平成16
年3月期)が106億円,④2004年度(平成17年3月期)が29億
円,⑤2005年度(平成18年3月期)が366億円であったところ,
P2の利益は,平成19年3月期以降,毎年約20億円であり,上記未処
理欠損金額を控除するには相当な期間が掛かることが見込まれていた。そ
して,上記未処理欠損金額のうち平成14年3月期に発生した124億円
については,平成21年3月末で繰り越しができなくなる状況にあった
(甲12)。
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ウP2の株式上場計画と分社化案
P2は,平成20年3月頃,データセンターに係る設備投資資金の調達
と,P1への財務面の寄与を目的として,株式公開を行うことを検討し,
これをP1財務部の一部門である関連事業室に対して説明した(甲17)。
これによれば,株式公開のメリットは,①調達した資金を活用して建設さ
れるデータセンターの利用促進により,P14グループのネット事業の拡
大,競争力確保,②P2の収益性等の拡大,③繰越欠損金の最大活用の3
点であるとされていた。そして,株式の公開に当たっては,P2を分社す
ることが予定されており,具体的には,①P2の主要な資産及び負債を承
継する新設分割設立会社を新設分割により設立する,②P2がP1に対し
て新設分割設立会社の株式の一定割合を現物配当する,③その後,新設分
割設立会社の株式上場を行うというスキームが計画されていた。この計画
において,上記未処理欠損金額は,P1への新設分割設立会社の株式の現
物配当による譲渡益などとの相殺により処理することとされていた。
上記の株式公開については,平成20年3月27日のP1取締役会にお
いて,その準備に着手することが承認されたが,株式上場の是非及び具体
的時期については再度審議することとなったことから,P2は,同年7月
16日の取締役会において,上記の分社化案に修正を加えた新たな案(7
月16日分社化スキーム案)を決定し,これをP1の取締役会に諮ること
とした。(甲17,18,19の1,2,108,130,145)
もっとも,その頃,P2は,評価算定会社に依頼して,新設分割設立会
社の事業価値を算定したところ,292億7300万円ないし357億7
900万円との報告(甲20)を受けた。そして,P1の関連事業室から
は,①P6氏は子会社の株式を上場するならば少なくとも1000億円以
上の事業価値になってから行うべきであると考えていること,②上記7月
16日分社化スキーム案では上記未処理欠損金額の全てを処理すること
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はできないと見込まれることなどの指摘を受けたことから,同案は,同年
7月29日に開催されたP1の取締役会には上程されず,再度検討するこ
とになった。(甲21,112,130,証人P6)
エP1財務部における分社化案等の検討
P1の関連事業室は,平成20年10月頃までに,上記の7月16日分
社化スキーム案に代わるものとして,事業譲渡案と単純分社化案を作成し
た。前者は,P2が新設分割により新会社を設立するが,P2には資産と
してのデータセンター設備(土地・建物等)を残し,新会社に対して営業・
販売などの事業を譲渡するというものであり,後者は,前者同様にP2に
は資産としてのデータセンター設備(土地・建物等)を残すような新設分
割を行って新会社を設立するというものであった。そして,P2の未処理
欠損金額のうち,平成21年3月末にまでに消滅する分は,事業譲渡か非
適格合併により処理し,それ以外の分は,P2とP1の他の子会社(P1
1株式会社及びP15株式会社)との適格合併により処理するという内容
であり,P14グループ内でP2の未処理欠損金額を全て処理することが
できるものであった。P1からこれらの案を示されたP2は,上記の7月
16日分社化スキーム案で進めるべき旨の意見を出したが,P1の財務部
としては,事業譲渡案又は単純分社化案のいずれかの案を採用するという
基本方針を決定した。(甲22,130)
(2)P1による本件提案と原告における検討
アP1における資金需要
P1においては,平成20年9月頃,同社の資金ミーティングにおいて,
同月15日のいわゆるリーマン・ショック後の厳しい金融情勢の下で,手
元流動性を高めておく必要があるという合意がされた(乙1)。また,P
1は,平成15年12月30日に「2015年満期ユーロ円建転換社債型
新株予約権付社債」(以下「本件CB」という。)を発行していたところ,
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本件CBは,その所持人がP1に対し平成21年3月31日にその額面金
額に償還日までの経過利息を付して繰上償還することを請求する権利を
有するものであり,同年に入ってから本件CBの市場価格が100円を下
回っているか,同年年初のP1の株価が約1100円以下の水準である場
合には,投資家から最大500億円の償還請求を受ける可能性があった。
そして,平成20年10月27日の本件CB価格の終値は90.50円,
同日のP1の株価の終値は736円となっており,同月28日に開催され
たP1の取締役会においては,同社財務部が作成した資料により,上記の
請求を受ける可能性についての報告がされた(甲23,24,乙22)。
イP6氏の発案に基づく本件提案
P6氏は,財務部担当取締役であるP16(以下「P16氏」という。)
から,平成20年10月中旬,P2に関する上記(1)エの事業譲渡案又は
単純分社化案について報告を受けた。しかし,P6氏は,P2とP11株
式会社等とを合併させるのではなく,P2をインターネットサービス企業
である原告に売却し,原告と合併させることが適切であると考えた。その
理由は,P2としては,原告から顧客の紹介とノウハウの提供を受けるこ
とで,原告との関係でより高いシナジー効果を生むことができる点,クラ
ウドコンピューティング事業(データセンターに顧客のサーバーを預かる
のではなく,データを預かり,それに付加価値を付けて顧客に役務を提供
する事業)を開始することで企業価値を増加させることができる点,原告
としても,自社で大型のデータセンターを保有することで,P17に対抗
するために安価な検索サーバーを安定的に確保することができる点など
にあった。
そこで,P6氏は,平成20年10月27日,P7氏ら原告の常勤取締
役に対し,P2の買収を提案し,さらに,同年11月21日,P1は,原
告に対し,書面(「○」と題するもの)により,原告がP2を700億円
-16-
で買収する旨の提案(本件提案)をした。同書面において,本件提案に係
る買収の目的は,①原告とP2とのシナジー効果を得ること(具体的には,
オープンプラットフォームの実現,データセンター自社保有によるコスト
削減など),②P14グループ全体での税務メリットを享受することとさ
れた。また,本件提案において示された組織再編成に係る手順は前提事実
(2)アのとおりであり,P2の資産価値は,株式価値500億円に繰越
欠損金の価値200億円を加えた700億円であるとされ,P2の未処理
欠損金額のうち,平成14年3月期及び平成15年3月期の分はP2にお
いて処理し,その余のものは原告において処理することとされていた。
(甲112,130,乙1,8,証人P7,証人P6)
ウP1の資金繰り計画等
P1の財務部は,平成20年11月11日付け「P1資金繰り計画」(乙
23)を作成し,資金調達をしない場合には,同年12月の段階で659
億円の不足,翌年3月の段階で1398億円の不足となり,原告に対して
平成21年3月にP2の株式を売却することが確度の高い資金調達手段
であるとの指摘をしていた。また,同部は,同年12月11日付け「単体
資金計画サマリー」(乙24)を作成し,同年11月末時点では実質使用
可能残高が-115億円であり,以降の不足により,本年度中には100
0億円の資金調達が必要であるところ,原告に対して平成21年3月にP
2の株式を500億円で売却することが確度の高い資金調達手段である
との指摘をしていた。もっとも,これらは,P1の財務部が,保守的な判
断を示したものであった(甲146)。
エ原告における本件提案の検討
(ア)原告は,インターネットサービス事業を行うため,多数のデータセン
ターを必要としており,複数のデータセンター事業者との間で利用契約
を締結し,データセンターを確保していた。原告は,従前,データセン
-17-
ターを自社保有するよりも,複数のデータセンター事業者と利用契約を
締結するほうが,事業規模やサービスの拡大に応じて適宜サーバーの借
り増し等を行うことにより,必要な容量を確保しつつ,コストも削減で
きることから,これを事業戦略上の基本的な方針としていた。そして,
原告は,平成17年7月には株式会社P18などと契約し,同社が原告
専用に設立したデータセンターに一定の規模の容量を確保するなどして
いた。その後,更にデータセンターを確保する必要が生じたので,原告
は,P2との間で,平成19年9月に契約を締結し(甲30,31),
P2が北九州市に大規模なデータセンターを建築すること,その完成後,
P2が原告に対してデータセンターに係る役務を提供することなどを合
意した。そして,同契約に基づいて,平成20年10月頃,P19デー
タセンターに100ないし200サーバーが導入されたが,本格稼働の
状態ではなかった。なお,それ以前は,P2のデータセンターは価格競
争力が劣ることから,原告が利用することはなかった。(甲107,1
47,乙10,証人P7)
(イ)以上のとおり,原告は,平成20年頃までの時期において,データセ
ンターを自社保有しないという方針をとっていたが,上記イのとおり,
同年10月27日,P7氏は,P6氏から,P2を原告が買収すべきで
ある旨の提案を受けた。そして,その際,P6氏は,原告は自前のデー
タセンターを保有すべきであり,P5がP17に検索サービスの競争で
後れを取ったのは,データセンターへの投資が規模においても時期にお
いても遅れたからであるとの考え方を説明した。そこで,P7氏は,こ
れを検討し,当時,増加の一途を辿っていたデータセンター需要に対応
する必要が生じていた上,今後,クラウドコンピューティング事業へ参
入するに際して,データセンターを自社保有すれば,先進的なデータセ
ンターを保有するP5の運営技術を利用でき,余剰があり第三者に賃貸
-18-
すれば全体としてコスト削減できるという考え方にも合理性があると考
えたが,他方,原告においては,ROA(総資産利益率)との関係から
不動産などの資産保有を避けていたことなどから,事業戦略や経営面で
の影響や,P2の企業価値などを検討した上で,P6氏からの提案を受
けるかどうか判断することとし,関係部署に対して種々の検討をさせた。
そして,P7氏は,P1から同年11月21日時点で受けた本件提案に
おける譲渡価額700億円について,高額であると考えていた。(甲1
07,112,乙8,証人P7,証人P6)
(3)本件提案に沿った組織再編成の実行
ア本件副社長就任
P6氏は,P7氏に対し,平成20年11月27日,P2の取締役副社
長に就任するように依頼し,P7氏はこれを了解した。また,P6氏は,
P2の代表取締役であるP13氏に対し,同年12月10日頃,本件提案
を実行する旨告げたところ,P13氏は,①株式上場の可能性を担保する
こと,②P2の顧客に迷惑を掛けないこと,③P2の社員が不利益を蒙ら
ないこととするという要望を述べた上,これを了解した。また,P13氏
は,P7氏がP2の取締役副社長に就任することを了解した。そして,P
7氏は,同年12月26日,株主総会の決議及び取締役会の決議を経て,
P2の取締役副社長に選任された。(甲8,64,95,107,108,
110,112,145,147,乙8,証人P7,証人P6)
この頃,P1及び原告においては,本件合併においてP2の未処理欠損
金額を処理するためには,特定役員引継要件を満たす必要があることが認
識されており,P1の財務部長は,P6氏に対しても,その旨伝えていた
(甲108,112,130,乙1,9の1から3まで,乙18から20
まで,証人P6)。しかるに,P2の代表取締役であるP13氏や取締役
であるP20(以下「P20氏」という。)については,当時,本件合併
-19-
後に原告の特定役員となることは事業上の必要性が高くないと判断され
ていた(証人P6,弁論の全趣旨)。
イP7氏のP2における職務遂行
P7氏は,P2の取締役副社長に選任された後,主として,コスト構造
の改善と営業協力に関してP2の経営に参加したが,特定の部門を分掌し
たわけではなく,役員報酬は受領していなかった(乙10)。P7氏が,
本件副社長就任から本件買収の頃までの間に行った具体的な職務の概要
は,以下のとおりである(甲107,108,証人P7)。
(ア)P7氏は,P13氏との間で,平成21年1月7日,P2今後の事業
方針について会議を行い,原告との協業可能性を原告と一体となって検
討するようにP13氏らに指示するなどした(甲76,77,86)。
(イ)P7氏は,同月21日に開催された取締役会に出席し,議決権を行使
したほか,P2の中期計画(同日付けのもの)について意見を述べた。
この中期計画の内容には,P2と原告とが協業することや,データセン
ターを一元化することなどが含まれていた(甲65の1,2,甲76,
78・ページ13,ページ20)。なお,原告は,上記の中期計画が本
件買収を前提としないものであると主張し,これに沿う証人P7の供述
部分があるが,上記のとおり中期計画にはデータセンターを一元化する
ことが盛り込まれていたこと,また,既にP2につき新設分割を行うこ
とが決定されていたこと(後記ウ(ア))からすると,上記供述部分は採
用することができない。
(ウ)P7氏は,本件買収後である同年2月26日,P13氏らと会議を行
い,P2の設備投資計画の方針を指示したり,原告の子会社であったP
21株式会社(以下「P21」という。)にP2の取締役を就任させて
業務提携することなどを決定した(甲69,70,80,110)。
ウ本件分割とP8の設立
-20-
(ア)P2は,平成21年1月7日,データセンターの営業・販売及び商
品開発に係る事業に関する権利義務を新設分割により新たに設立する
会社(P8)に承継させる旨の新設分割計画を作成した(乙4)。そし
て,同月21日に開催された取締役会において,新設会社の成立の日を
同年2月2日とすることが決定された(甲65の1及び2)。
(イ)平成21年2月2日,P8が本件分割により設立され,P2の取締
役がP8の取締役にも就任した(甲8,9)。
(ウ)P8は,本件分割により,①P2の流動資産,②データセンターの
営業・役務提供及びサービスの開発に係る事業に係る契約(顧客との間
の契約を含む。),③事業に属する知的財産権等,④従業員との間の労
働契約を承継し,それ以外の資産(データセンターを構成する不動産)
や契約上の地位(データセンターの賃貸借,建設,運用,保守及び施設
管理に関する事業に関する契約)は,P2に残された(乙4)。また,
P8は,P2との間で,業務委託契約を締結し,従業員をP2に出向さ
せて,データセンターの設備構築,保守運用に係る事業を行わせること
とし,P2がP8に対して業務委託料を支払うこととした(甲147,
乙25,26)。
エ本件買収に係る契約の成立
(ア)本件買収に係る交渉等の状況
原告とP1との間では,P2の買収価額をめぐって交渉が続けられ,
平成21年1月6日頃に行われた担当者間の協議においては,P1側か
ら,譲渡価額を「500億円から下の線」とするとの提案がされ,また,
基本合意書の原稿が準備されることになった(甲49)。そして,P6
氏は,同月15日,原告に対し,P1としては450億円を最低譲渡価
額とすることを伝えた。P1は,同月30日及び同年2月5日に開催さ
れた取締役会において,P2の売却について協議し,最終的な金額につ
-21-
いてはP6氏に一任することとした(甲55,56,107,112)。
他方,原告は,同年1月27日に開催された取締役会において,P2
の買収の当否について協議を行い,同年2月19日に開催される取締役
会で承認を求める予定とされた(甲44の1,2)。その後,原告とP
1との間で,P2の買収の当否及び内容について更に詳細な検討が行わ
れ(甲51から54まで),P7氏は,同年1月末頃までには,本件買
収及び本件合併を行う意思を固めつつあった(証人P7)。そして,同
年2月17日,原告の大株主であるP5の取締役であり,かつ,原告の
取締役でもあったP22から,本件買収に賛同する旨の連絡があった
(甲47,107)。
そこで,原告は,同月19日に開催された取締役会において,P2か
らP8の発行済株式全部を115億円で買収すること,P1からP2の
発行済株式全部を450億円で買収することをそれぞれ正式に決定し
た。なお,同取締役会においては,実際の買収価格は450億円であり,
上記115億円は短期間で原告に戻ることが確認され,また,繰越欠損
金の活用が税務当局から否認された場合にはP1がそれを補償する旨
の条項を契約書に盛り込む予定であることが確認された。そして,同取
締役会に提出された資料においては,上記取引については4通の契約
書,すなわち,①税務リスク(繰越欠損金承継)の手当てのための差入
書,②取引のフレームワークに関する合意書,③P2株式の譲渡契約書,
④P8株式の譲渡契約書が作成される旨の記載がされていた(甲46の
1から3まで)。
なお,上記①の差入書として,P1は,原告に対し,平成21年2月
18日付け書面を交付し,同書面により,原告によるP2の未処理欠損
金額の承継が税務当局により否定され,更正の処分がされた場合には,
原告が支払を要する額の全額をP1が原告に支払う旨を約し,同書面に
-22-
基づく原告の請求は,株式譲渡契約に基づく権利とは別個の請求権とし
て独立してなしうることが確認された(甲57)。
(イ)P8株式の譲渡
P2は,原告との間で,平成21年2月19日,保有するP8の発行
済株式全部を原告に対して115億円で譲渡する旨の株式譲渡契約を
締結し,同月20日,譲渡代金の支払を受けるのと引換えに,保有する
P8の発行済株式全部を譲渡した。なお,上記契約では,P8の株式の
譲渡が実行された後,同月24日までに,P1から原告に対するP2の
発行済株式全部の譲渡が実行されなかった場合には,上記株式譲渡契約
が同日付けで自動的に解除される旨の合意がされていた(乙5)。
(ウ)P2株式の譲渡(本件買収)
P1は,原告との間で,平成21年2月23日,保有するP2の発行
済株式全部を原告に対して450億円で譲渡する旨の株式譲渡契約を
締結し,同月24日,譲渡代金の支払を受けるのと引換えに,保有する
P2の発行済株式全部を譲渡した。なお,上記契約では,上記(イ)の株
式売買契約に基づきP8の発行済株式全部の譲渡が実行されているこ
とを条件としてP2の株式の譲渡及び譲渡代金の支払の義務を履行す
る旨の合意がされていた(甲13)。
オ本件合併
(ア)原告は,平成21年2月25日に開催された取締役会において,P
2との合併を正式に決定した(甲59の1から3)。
(イ)原告は,同日,原告を存続会社,P2を消滅会社とする吸収合併を
行い,原告がP2の権利義務全部を承継し,P2が本件合併後に解散す
る旨の合併契約を締結し,本件合併は,同年3月30日に効力を生じた
(甲14)。
(ウ)P7氏を除くP2の取締役は,本件合併に伴って全員退任し,いず
-23-
れの者も,本件合併の直後の時点では,原告の取締役には就任しなかっ
た(甲4)。なお,本件合併後,P8は,データセンターに関する設備
投資案件のうち,1億円を超えるものについては,原告の承認を要する
こととされた(甲111)。
カ本件合併等に係る税務上の問題についての検討状況
(ア)原告の担当者がP7氏に対し平成20年12月8日に送信した電子
メール(乙27)には,「ご存知のとおり,P1としては適格会社分割
を利用して税務メリットを取りたいというストラクチャーを提示して
きていますが,当社側で検討を開始したところ,税務当局より租税回避
行為とみられる可能性がかなり高く,慎重な検討が必要と考えておりま
す。P1とも細かな意見交換を今後して,租税リスクはなるべく軽減し
た形で取り組みたいと思っています。」と記載されていた。
また,P1の担当者が原告の担当者に対し平成20年12月10日に
送信した電子メール(乙9の1)には,「税務ストラクチャー上の理由
でP7CEOあるいはP23CFOにP3取締役に入っていただく必
要があるとのことで,その件について等,何点かご相談させていただき
たく考えております。」と記載されており,原告の担当者がP1の担当
者に対し同月17日に送信した電子メール(乙9の3)には,「○取締
役就任の件ですが,弊社CEOP7が就任する方向で進めさせていただ
きたく存じます。」と記載されていた。
さらに,平成20年12月16日付け「ディスカッション・ペーパー
~DDの進め方について~」(乙19)のスケジュール案には,「○役
員を送り込む日」という書き込みがされていた。
(イ)原告とP1の担当者が平成21年1月20日頃に行った協議(甲5
1)においては,原告側から,「現在の事業計画で価格の合理性を説明
するには,250億(DCF法によるもの)+200億(NOL,すな
-24-
わち未処理欠損金額)=450億とし,NOL分を明確にして算定する
しかない。DCFで保守的に計算すると100億程度の価値にしかなら
ない。」旨の意見が出され,P1側からは,「企業価値が100億とい
うことはあり得ない。」「表明保証でNOLの200億分を明確には記
載したくない。契約で担保する方針であるが,契約書への表現方法につ
いては現在考えている。」などの意見が出された。
(ウ)原告が監査法人から提出を受けた平成21年2月18日付け株式価
値算定に関する報告書には,税務上の繰越欠損金については,原告にお
いて全額引継ぎ可能であるとの前提の下,価値算定を行っているが,税
務当局の判断により,繰越欠損金の引継ぎに制限が加えられた場合,本
評価結果と異なる結果となる可能性がある点,御留意いただきたいなど
という記載があった(甲58)。
2法132条の2の意義(争点1)について
(1)組織再編税制の基本的な考え方(乙6,14)
経済の国際化が進展するなど,我が国企業の経営環境が急速に変化する
中,企業の競争力を確保し,企業活力が十分発揮できるよう,旧商法の見直
しが行われ,平成9年には合併法制の合理化,平成11年には持株会社創設
のための株式交換・株式移転の制度の導入,平成12年には企業の組織再編
成を容易にするための会社分割法制の創設を内容とする改正が行われた。
税制においても,これらの法整備に則した対応が求められることとなった
ところ,政府税制調査会は,企業の組織再編成に係る税制について法人課税
の在り方を検討し,平成12年10月,その基本的な考え方を明らかにした
(「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」)。そ
の概要は以下のとおりである。
ア現行の現物出資,合併等に係る税制を改めて見直し,全体として整合的
な考え方に基づいて整備する必要がある。第一に,例えば分割型の吸収分
-25-
割と合併では法的な仕組みが異なるものの実質的には同一の効果を発生
させることができるところ,同じ効果を発生させる取引に対して異なる課
税を行うこととすれば,租税回避の温床を作りかねないなどの問題があ
る。第二に,現行の税制においては,営業譲渡により企業買収を行う場合
には,資産の時価取引として譲渡益課税が行われるが,他方,合併により
企業買収を行う場合には,課税が繰り延べられるなどの問題がある。
イ会社分割・合併等の組織再編成に係る法人税制の検討の中心となるの
は,組織再編成により移転する資産の譲渡損益の取扱いと考えられるが,
法人がその有する資産を他に移転する場合には,移転資産の時価取引とし
て譲渡損益を計上するのが原則であり,この点については,組織再編成に
より資産を移転する場合も例外ではない。ただし,組織再編成により資産
を移転する前後では経済実態に実質的な変更が無いと考えられる場合に
は,課税関係を継続させるのが適当と考えられる。したがって,組織再編
成において,「移転資産に対する支配が再編成後も継続していると認めら
れるもの」については,移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べることが考
えられる。すなわち,①企業グループ内の組織再編成により資産を企業グ
ループ内で移転した場合には,一定の要件の下,移転資産をその帳簿価額
のまま引き継ぎ,譲渡損益の計上を繰り延べることが考えられる。また,
②共同で事業を行うために組織再編成により資産を移転した場合にも,移
転の対価として取得した株式の継続保有等の要件を満たす限り,移転資産
に対する支配が継続していると考え,譲渡損益の計上を繰り延べることが
考えられる。
ウ会社分割・合併等により移転する資産の譲渡損益の計上が繰り延べられ
る場合には,その資産に関して適用される諸制度や引当金等の引継ぎにつ
いても,基本的に従前の課税関係を継続させるとの観点から,組織再編成
の形態に応じて必要な措置を考えるべきである。このうち,繰越欠損金に
-26-
ついては,合併の場合には,租税回避行為を防止するための措置を講じた
上,被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことが適当である。
エ組織再編成の形態や方法は,複雑かつ多様であり,資産の売買取引を組
織再編成による資産の移転とするなど,租税回避の手段として濫用される
おそれがあるため,繰越欠損金等を利用した租税回避行為の防止規定に加
え,企業組織再編成に係る包括的な租税回避防止規定を設ける必要があ
る。
(2)組織再編税制の概要(乙6)
平成13年度税制改正(以下「本件改正」という。)における企業組織再
編成に係る税制の構築は,上記(1)の考え方に基づいて行われ,その内容
は,これに沿ったものとなっているところ,本件に関連する部分の概要は以
下のとおりである。
ア本件改正においては,①組織再編成により移転する資産等について,原
則として,その譲渡損益を計上しなければならないこととし(法62条),
②合併・分割・現物出資及び事後設立という4種類の組織再編成のうち,
「企業グループ内の組織再編成」及び「共同事業を行うための組織再編成」
であって一定の要件を満たすもの(適格組織再編成)について,帳簿価額
の引継ぎによる課税の繰り延べが認められた(法62条の2以下)。
イまた,本件改正においては,欠損金の繰越控除について,従来の規定(法
57条1項,58条1項)をほぼそのまま存続させることとした上で,組
織再編税制の一環として,新しい規定を設け,適格合併又は合併類似適格
分割型分割が行われた場合において,一定の範囲で繰越欠損金額(未処理
欠損金額)等を引き継ぐこととができることとした(法57条2項)。も
っとも,共同で事業を行うことを目的としないグループ内適格合併等につ
いて,グループ関係が生じる前に生じた被合併法人等の欠損金額等を繰越
控除の対象から除外することによって,租税回避に対処することとした
-27-
(法57条3項)。
ウ法人の組織再編成においては種々の租税回避行為が行われることに鑑
み,組織再編成に関する行為・計算の包括的否認規定が設けられた(法1
32条の2)。
すなわち,組織再編成を利用した租税回避行為の例として,①繰越欠損
金や含み損のある会社を買収し,その繰越欠損金や含み損を利用するため
に組織再編成を行う,②複数の組織再編成を段階的に組み合わせることな
どにより,課税を受けることなく,実質的な法人の資産譲渡や株主の株式
譲渡を行う,③相手先法人の税額控除枠や各種実績率を利用する目的で,
組織再編成を行う,④株式の譲渡損を計上したり,株式の評価を下げるた
めに,分割等を行うなどの方法が考えられるところ,このうち,繰越欠損
金や含み損を利用した租税回避行為に対しては,個別に防止規定(法57
条3項,62条の7)を設けるが,これらの組織再編成行為は上記のよう
なものにとどまらず,その行為の形態や方法が相当に多様なものと考えら
れることから,これに適正な課税を行うことができるように包括的な組織
再編成に係る租税回避防止規定が設けられた。
(3)法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認
められるもの」(以下「不当性要件」という。)の解釈について
ア上記(1)及び(2)のとおり,①法132条の2は,組織再編税制の導入と
共に設けられた個別否認規定と併せて新たに設けられた包括的否認規定
であること,②組織再編税制において包括的否認規定が設けられた趣旨
は,組織再編成の形態や方法は複雑かつ多様であり,ある経済的効果を発
生させる組織再編成の方法は単一ではなく,同じ経済的効果を発生させ得
る複数の方法があり,これに対して異なる課税を行うこととすれば,租税
回避の温床を作りかねないという点などにあることが認められる。そし
て,組織再編税制に係る個別規定は,特定の行為や事実の存否を要件とし
-28-
て課税上の効果を定めているものであるところ,立法時において,複雑か
つ多様な組織再編成に係るあらゆる行為や事実の組み合わせを全て想定
した上でこれに対処することは,事柄の性質上,困難があり,個別規定の
中には,その想定外の行為や事実がある場合において,当該個別規定のと
おりに課税上の効果を生じさせることが明らかに不当であるという状況
が生じる可能性があるものも含まれているということができる。
以上のような法132条の2が設けられた趣旨,組織再編成の特性,個
別規定の性格などに照らせば,同条が定める「法人税の負担を不当に減少
させる結果となると認められるもの」とは,(ⅰ)法132条と同様に,
取引が経済的取引として不合理・不自然である場合(最高裁昭和50年(行
ツ)第15号同52年7月12日第三小法廷判決・裁判集民事121号9
7頁,最高裁昭和55年(行ツ)第150号同59年10月25日第一小
法廷判決・裁判集民事143号75頁参照)のほか,(ⅱ)組織再編成に
係る行為の一部が,組織再編成に係る個別規定の要件を形式的には充足
し,当該行為を含む一連の組織再編成に係る税負担を減少させる効果を有
するものの,当該効果を容認することが組織再編税制の趣旨・目的又は当
該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるものも含むと解する
ことが相当である。このように解するときは,組織再編成を構成する個々
の行為について個別にみると事業目的がないとはいえないような場合で
あっても,当該行為又は事実に個別規定を形式的に適用したときにもたら
される税負担減少効果が,組織再編成全体としてみた場合に組織再編税制
の趣旨・目的に明らかに反し,又は個々の行為を規律する個別規定の趣
旨・目的に明らかに反するときは,上記(ⅱ)に該当するものというべき
こととなる。
イこれに対し,原告は,法132条の2の不当性要件は,法132条と同
様に,上記(ⅰ)の場合,すなわち,私的経済取引として異常又は変則的
-29-
で,かつ,租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認め
られる場合に限られる旨主張し,その理由として,①法132条の枝番と
して132条の2が規定され,両者の規定ぶりが酷似し,否認の要件の文
言も同様であることなどから,両者を別異に解すべき理由はないこと,②
租税回避の概念は,私法上の選択可能性を利用し,私的経済取引として合
理性がないのに,通常用いられない法形式を選択するものとして定義され
ており,法の定める課税要件自体を修正するものは含まれず,法制度の濫
用はこれとは別の概念であるというべきこと,③上記(ⅱ)を含めるとい
う解釈は,個別規定の要件を実質的に拡張して適用するものであり,納税
者の予測可能性を著しく害し,租税法律主義に反することを指摘し,これ
に沿う意見書を提出する(甲113(P24意見書),甲114(P25
意見書),甲115(P26意見書),甲122(P27意見書),甲1
2,142(P28意見書),甲148(P37意見書),甲149(P
29意見書))。
しかしながら,上記(2)ウのとおり,法132条の2により対処する
ことが予定されている第1の類型は,繰越欠損金等を利用する組織再編成
における租税回避行為であるところ,そもそも,繰越欠損金自体には資産
性はなく,それが企業間の合併で取引の対象となり得るのは,租税法がそ
の引継ぎを認めることの反射的な効果にすぎないのであり,企業グループ
内における繰越欠損金の取引を含む組織再編成それ自体についていかに
正当な理由や事業目的があったとしても,法57条3項が定める要件を満
たさないのであれば,未処理欠損金額の引継ぎは認められない。したがっ
て,上記の類型に属する租税回避行為の不当性の有無については,経済合
理性の有無や事業目的の有無といった基準によって判断することはでき
ず,「租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められ
る」か否かという基準は,それのみを唯一の判断基準とすることは適切で
-30-
はないといわざるを得ない。
また,上記基準を採るべき理由として挙げられている①の点について検
討するに,法132条は,同族会社においては,所有と経営が分離してい
る会社の場合とは異なり,少数の株主のお手盛りによる税負担を減少させ
るような行為や計算を行うことが可能であり,また実際にもその例が多い
ことから,税負担の公平を維持するため,同族会社の経済的合理性を欠い
た行為又は計算について,「不当に減少させる結果となると認められるも
の」があるときは,これを否認することができるものであるとしたもので
あり,法132条の2とはその基本的な趣旨・目的を異にする。したがっ
て,両者の要件を同義に解しなければならない理由はなく,原告の上記①
の主張は採用することができない。
次に,②の点について検討するに,法132条の2により対処すること
が予定されている第2の類型は,複数の組織再編成を段階的に組み合わせ
ることなどによる租税回避行為であるところ,組織再編成の形態や方法
は,複雑かつ多様であり,同一の経済的効果をもたらす法形式が複数存在
し得ることからすると,そもそも,ある経済的効果を発生させる組織再編
成の方法として何が「通常用いられるべき」法形式であるのかを,経済合
理性の有無や事業目的の有無という基準により決定することは困難であ
り,これらの基準は,上記の類型に属する租税回避行為の判定基準として
十分に機能しないものといわざるを得ない。他方,組織再編税制に係る個
別規定は,特定の行為や事実の存否を要件として課税上の効果を定めてい
るものであるところ,立法時において,複雑かつ多様な組織再編成に係る
あらゆる行為や事実の組み合わせを全て想定した上でこれに対処するこ
とは,事柄の性質上,困難があり,想定外の行為や事実がある場合には,
当該個別規定を形式的に適用して課税上の効果を生じさせることが明ら
かに不当であるという状況が生じる可能性があることは上記アで判示し
-31-
たとおりである。組織再編成とそれに伴い生じ得る租税回避行為に係るこ
れらの特性に照らすと,同条の適用対象を,通常用いられない異常な法形
式を選択した租税回避行為のみに限定することは当を得ないというべき
である。したがって,原告の上記②の主張は採用することができない。
さらに,③の点について検討するに,一般に,法令において課税要件を
定める場合には,その定めはなるべく一義的で明確でなければならず,こ
のことが租税法律主義の一内容であるとされているところ,これは,私人
の行う経済取引等に対して法的安定性と予測可能性を与えることを目的
とするものと解される。もっとも,税法の分野においても,法の執行に際
して具体的事情を考慮し,税負担の公平を図るため,何らかの不確定概念
の下に課税要件該当性を判断する必要がある場合は否定できず(法132
条がその典型例であるということができる。),このような場合であって
も,具体的な事実関係における課税要件該当性の判断につき納税者の予測
可能性を害するものでなければ,租税法律主義に反するとまではいえない
と解されるところである。しかるところ,法132条の2は,上記(ⅱ)
のとおり,税負担減少効果を容認することが組織再編税制の趣旨・目的又
は当該個別規定の趣旨・目的に反することが明らかであるものに限り租税
回避行為に当たるとして否認できる旨の規定であると解釈すべきもので
あり,このような解釈は,納税者の予測可能性を害するものではないから,
これをもって租税法律主義に反するとまではいえないというべきである。
この点に関する原告の上記③の主張は採用することができない。
なお,法132条の2を上記のように解釈するとしても,その具体的な
適用の在り方(すなわち,包括的否認規定の適用を行えるかどうか)は,
当該事案において否認された行為を規律する個別規定の趣旨・目的に応じ
て定まるものであるというべきであり,当該個別規定の趣旨・目的の内容
によっては,形式的な適用を貫くべき場合もあるということができる。本
-32-
件で問題となる個別規定については,後記3(1)から(3)までにおいて
検討する。
(4)「その法人の行為又は計算」の意義について
ア法132条の2は,税務署長は,合併等(合併,分割,現物出資若しく
は事後設立又は株式交換若しくは株式移転)に係る「次に掲げる法人」の
法人税につき更正又は決定をする場合において,「その法人の行為又は計
算」で,これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果と
なると認められるものがあるときは,その行為又は計算にかかわらず,税
務署長の認めるところにより,「その法人に係る法人税」の課税標準若し
くは欠損金額又は法人税の額を計算することができる旨規定する。
同条の適用対象は,合併,分割,現物出資若しくは事後設立又は株式交
換若しくは株式移転という各種の組織再編成が行われ,これらの合併等を
した一方の法人又は他方の法人(同条1号),これらの合併等により交付
された株式を発行した法人(同条2号),前二号に掲げる法人の株主等で
ある法人(同条3号)に対して更正又は決定がされる場合とされていると
ころ,同条3号との関係においては,合併等をした一方又は他方の法人の
行為を否認して,その株主等(法2条14号)の法人税につき更正又は決
定をする場合を予定していると解される。したがって,同条の規定は,否
認することができる行為又は計算の主体である法人と法人税につき更正
又は決定を受ける法人とが異なる場合も予定しているということができ
る。
また,同条の文言上,否認の対象とすることができる「その法人の行為
又は計算」の「その法人」とは,その前の「次に掲げる法人」を受けてい
ると解釈することができるから,「その法人の行為又は計算」とは,「次
に掲げる法人」の行為又は計算,すなわち,同条各号に掲げられている法
人の行為又は計算を意味するものと解される。そして,その後の「その法
-33-
人に係る法人税」の「その法人」は,同条各号に掲げられている法人であ
って,法人税につき更正又は決定を受けるものを意味するものと解釈する
ことができるから,「その法人に係る法人税」は,更正又は決定を受ける
法人に係る法人税を意味するものと解される。
さらに,平成19年法律第6号による改正前の法人税法132条の2
は,税務署長は,合併等をした一方の法人若しくは他方の法人又はこれら
の法人の株主等である法人の法人税につき更正又は決定をする場合にお
いて,「これらの法人」の行為又は計算で,これを容認した場合には,法
人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき
は,その行為又は計算にかかわらず,税務署長の認めるところにより,そ
の法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算
することができる旨規定していた。上記の改正により,同条の規定の対象
となる法人に,いわゆる三角合併の場合における合併法人の親法人等が追
加され,同条の規定の対象となる法人が同条各号において掲げられること
となったものであるが,上記の改正が,同条の規定により否認することが
できる行為又は計算の主体である法人と法人税につき更正又は決定を受
ける法人との関係を変更することを意図してされたことはうかがわれな
い。
以上の点に加え,組織再編成の形態や方法の多様化に対応するために設
けられたという同条の趣旨に鑑みれば,法132条の2の「その法人の行
為又は計算」の「その法人」は,その前の「次に掲げる法人」を受けてお
り,「その法人の行為又は計算」は,「次に掲げる法人」の行為又は計算
と読むべきであって,同条の規定により否認することができる行為又は計
算の主体である法人と法人税につき更正又は決定を受ける法人とは異な
り得るものと解すべきである。
イこれに対し,原告は,同条の規定により否認することができる行為又は
-34-
計算は,「法人税につき更正又は決定」を受ける法人の行為又は計算のみ
であると主張する。
しかしながら,同条の文言について,原告の主張のとおり解釈しなけれ
ばならないものではないことは上記アで判示したとおりである。また,同
条は,同族会社に関する法132条とはその基本的な趣旨・目的を異にす
ることは上記イで判示したとおりであるから,法132条の適用上,否
認対象が同族会社の行為に限定されると解釈すべきであるとしても,法1
32条の2についてこれと同一の解釈をしなけばならないとまではいえ
ない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
3施行令112条7項5号の要件を充足する本件副社長就任について,法13
2条の2の規定に基づき否認することができるか否か(争点2)について
(1)法57条2項及び3項の趣旨
ア法57条1項は,確定申告書を提出する内国法人の各事業年度開始の日
前7年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合には,
当該欠損金額に相当する金額は,当該各事業年度の所得の金額の計算上,
損金の額に算入する旨規定する(青色申告書を提出した事業年度の欠損金
の繰越し)。
この欠損金額の繰越しは,本件改正以前から,1つの法人において各事
業年度の所得に対する課税の原則を貫いたときには税負担が加重になる
ことを緩和するために設けられていた制度であるが,本件改正前において
は,被合併法人が有する欠損金額を合併法人が引き継いで,これを合併法
人の所得から控除することは認められていなかった。すなわち,最高裁昭
和39年(行ツ)第32号同43年5月2日第一小法廷判決・民集22巻
5号1067頁は,「欠損金額の繰越控除は,それら事業年度の間に経理
方法に一貫した同一性が継続維持されることを前提としてはじめて認め
-35-
るのを妥当とされる性質のものなのであつて,合併会社に被合併会社の経
理関係全体がそのまま継続するものとは考えられない合併について,所論
の特典の承継は否定せざるをえない。合併会社とは無関係な経営のもとに
生じた被合併会社の既往の欠損金額を合併によりこれと経営を異にする
合併会社に承継利用させる合理的な理由は,通常の場合見いだしがたく,
また被合併会社の欠損金額は,合併会社において受入資産の価額の定め方
によつて当然調整できるものであるから,普通には欠損金額の引継などを
考慮する要もないのである。結局,合併による欠損金額の引継,その繰越
控除の特典の承継のごときは,立法政策上の問題というべく,それを合理
化するような条件を定めて制定された特別な立法があつてはじめて認め
うるものと解するのが相当である」と判示していた。
イこれに対し,本件改正においては,①企業グループ内の適格合併(法2
条12号の8イ,ロ)及び②共同事業を営むための適格合併(法2条12
号の8ハ)について,被合併法人の有する未処理欠損金額の引継ぎを認め
ることとした。すなわち,法57条2項は,適格合併等が行われた場合に
おいて,当該適格合併等に係る被合併法人等の当該適格合併等の日前7年
内事業年度において生じた欠損金額(未処理欠損金額)があるときは,合
併法人等の合併等事業年度以後の各事業年度における同条1項の規定の
適用については,当該前7年内事業年度において生じた前7年内事業年度
開始の日の属する当該合併法人等の各事業年度において生じた欠損金額
とみなす旨規定した。
もっとも,上記②の共同事業を営むための適格合併に比べて,上記①の
企業グループ内の適格合併については,適格合併に該当するための要件が
緩和されており,例えば,未処理欠損金額を有するグループ外の法人を買
収して当該法人を完全子会社として取り込んだ上で,当該法人を吸収する
適格合併を行うことにより,容易に,当該法人の未処理欠損金額を引き継
-36-
ぐことができることとなる。しかるに,企業グループ内の合併では,親会
社の意向次第では異常な取引が行われる可能性があること,また,合併後,
当該法人が行っていた移転対象事業について継続の見込みがなく,移転資
産に対する支配が継続することもなく,単に資産の売買にとどまるような
場合など,未処理欠損金額の引継ぎを認める実質的な根拠を欠く場合が生
じる可能性があるということができる。このように,企業グループ内の適
格合併については,未処理欠損金額の引継ぎを無制限に認めることには課
税上の弊害があるという見地から,その範囲につき制限が加えられること
とされた(乙6(平成13年改正税法のすべて),11,15)。
すなわち,法57条3項において,適格合併等に係る被合併法人等と合
併法人等との間に特定資本関係が発生してから5年以内に行われる適格
合併については,「共同で事業を営むための適格合併等」として政令で定
めるものに該当するときに限り,被合併法人等の未処理欠損金額を合併法
人等が引き継ぐことを認めることが定められた。このように,同項は,繰
越欠損金額が租税回避に利用されることを防止するために設けられた個
別否認規定であると解される(乙6)。
(2)施行令112条7項5号の趣旨
ア法57条3項を受けて定められた施行令112条7項は,未処理欠損金
額の引継ぎが認められるような「共同で事業を営むための適格合併等」に
当たるか否かを判定するため,2つの類型を設け,(A)同項1号から4
号までに掲げる要件,すなわち,事業の相互関連性要件(同項1号),事
業規模要件(同項2号),被合併等事業の同等規模継続要件(同項3号)
及び合併等事業の同等規模継続要件(同項4号)のいずれをも満たす場合
か,(B)同項1号及び5号に掲げる要件,すなわち,事業の相互関連性
要件(同項1号)及び特定役員引継要件(同項5号)のいずれをも満たす
場合については,「共同で事業を営むための適格合併等」に当たる旨を規
-37-
定している。
同項の規定は,企業グループ内の適格合併については一切未処理欠損金
額の引継ぎを認めないとした場合には,本件改正当時に実際に想定されて
いた金融機関等の組織再編成に不都合を来すおそれがあるとの指摘があ
ったことから,そのような現実の要請に合わせて設けられたものであり,
「みなし共同事業要件」と称されている(乙15)。
イ同項の定める要件のうち,上記(A)の類型においては,事業の相互関
連性要件(同項1号)のほか,①被合併法人等の被合併事業と合併法人等
の合併事業の事業規模(売上金額,従業員数,資本金など)の差がおおむ
ね5倍を超えないこと(同項2号),②双方の法人において被合併事業又
は合併事業が特定資本関係発生時から合併等の直前まで継続して営まれ,
かつ,その間の事業規模の差がおおむね2倍を超えないことが要件とされ
ている。上記①の要件は,一般に,大規模な会社が小規模な会社を合併す
る場合,共同で事業を営むことを目的とするものとは考えられず,むしろ,
当該合併は小規模な会社が有する未処理欠損金額を取り込むことによっ
て租税負担を軽減することを目的とするものと考えられることから,その
ような合併を租税回避に利用することを防止する趣旨で設けられた「事業
規模要件」であると解され,また,上記②の要件は,一般に,特定資本関
係発生後,合併に至るまでの間,双方の法人の事業の経済実態に実質的な
変更がある場合は,未処理欠損金額を含め従前の課税関係を継続させるべ
き基礎を欠くものとなると考えられることから,そのような合併を租税回
避に利用することを防止する趣旨で設けられた「事業継続要件」であると
解されるところであり(乙15),これらの要件を満たせば,双方の法人
の従来の事業が合併の前後において継続しており合併後には共同で事業
が営まれているとみることができ,特定資本関係発生時から5年以内に行
われる適格合併であっても,課税上の弊害が少ないということができるこ
-38-
とから,未処理欠損金額の引継ぎを認めることとしたものと解される。
また,上記(B)の類型においては,事業の相互関連性要件(同項1号)
のほか,被合併法人等の特定役員のいずれかの者と合併法人等の合併等の
前における特定役員のいずれかの者が合併後においても特定役員となる
ことが見込まれていることが要件とされている(「特定役員引継要件」)。
これは,事業規模要件及び事業継続要件の点において施行令112条7項
2号から4号までの要件が充足されない場合であっても,一般に,合併法
人のみならず被合併法人の特定役員が合併後において特定役員に就任す
るのであれば,合併の前後を通じて移転資産に対する支配が継続している
と評価することが可能であって,合併後も共同で事業が営まれているとみ
ることができ,特定資本関係発生時から5年以内に行われる適格合併であ
っても,課税上の弊害が少ないということができることから,未処理欠損
金額の引継ぎを認めることとしたものと解される。
(3)施行令112条7項5号に係る法132条の2の適用の在り方
ア以上で判示した法57条2項及び3項並びに施行令112条7項5号
の趣旨に鑑みると,本件改正により導入された組織再編税制においては,
従来は認められていなかった合併における未処理欠損金の引継ぎを一定
の範囲で認めることとしたが,企業グループ内の適格合併における未処理
欠損金額の引継ぎについては,租税回避に利用され得ることを念頭におい
て,なお制限的に認めるにとどめ,適格合併等に係る被合併法人等と合併
法人等との間に特定資本関係が発生してから5年以内に行われる適格合
併については,「共同で事業を営むための適格合併等」として政令で定め
る例外要件(みなし共同事業要件)に該当しない限り,被合併法人等の未
処理欠損金額を合併法人等が引き継ぐことはできないこととした上,企業
グループ内の適格合併が,双方の法人の従来の事業が合併の前後において
継続しており合併後には共同で事業が営まれているとみることができる
-39-
ものであるか否かを判定するため,みなし共同事業要件として,事業関連
性要件のほか,規模要件及び事業継続要件を要求する上記(A)の類型と,
特定役員引継要件を要求する上記(B)の類型を設けて,被合併法人等の
未処理欠損金額を合併法人等が引き継ぐことを認めたものということが
できる。
そして,上記判示のとおり,特定役員引継要件は,一般に,合併法人の
みならず被合併法人の特定役員が合併後において特定役員に就任するの
であれば,合併の前後を通じて移転資産に対する支配が継続していると評
価することが可能であるという考え方を基礎として設けられたものと解
される。
しかしながら,特定役員引継要件は,単に,役員又は特定役員への就任
の有無及びその特定資本関係発生等との先後関係のみを問題とするにす
ぎないものであり,合併の前後を通じて移転資産に対する支配が継続して
いるか否かの指標として,常に十分にその機能を果たすものとまではいい
難い。また,①法57条3項は,特定資本関係の発生後5年を経過するこ
となく合併等を行った場合には被合併法人の未処理欠損金額を引き継ぐ
ことを原則として制限しているのに,単に特定役員引継要件さえ充足すれ
ばその制限を解除することができるとすれば,具体的事情如何によっては
均衡を欠く場合も生じ得ること,②共同で事業を営むための適格合併等に
ついては,法57条2項により,未処理欠損金額を引き継ぐことが認めら
れているが,その場合は,役員引継要件のほか,従業者に関する要件,事
業の継続に関する要件などの充足が求められているのに(法2条12号の
8ハ,施行令4条の2第4項),みなし共同事業要件においては,特定役
員引継要件のみで足りることとされ,この点でも具体的事情如何によって
は均衡を欠く場合も生じ得ることからすると,特定役員引継要件を形式的
に適用するだけでは,課税の公平を実現することができないおそれがある
-40-
ということができる。加えて,①みなし共同事業要件に係る特定役員引継
要件と同様の文言が用いられている共同事業を営むための適格合併の要
件に関連して,立法担当者らは,本件改正に合わせて出版された「企業組
織再編成に係る税制についての講演録集」(同書90頁)において,「共
同事業を行うための分割の要件の一つに,役員の引継ぎの要件があります
が,具体的な任期の目安はあるのでしょうか」との質問に対し,「法令上,
具体的な任期や期間が示される予定はありません。課税の特例の適用を受
けるために,短期間だけ役員にするといったような不自然,不合理なもの
は別にして,通常の法人と役員との関係を念頭に置き,判断されるべきも
のと考えられます。」との回答をしていたこと(乙11・14頁,弁論の
全趣旨),また,②税制調査会の構成員が帰属する財界団体の実務担当者
は,本件改正当時に行った「改正の経緯と残された課題」と称する講演に
おいて,共同で事業を営むための適格合併等の要件として設けられた役員
引継要件に触れ,「小さい方からも常務になる人が出て,通常の役員任期
である一期二年を勤めればよいのです」と発言していたこと(乙15),
③税務関係雑誌においても,特定役員引継要件については「形式的に基準
をクリアすればいいというものではないと考えられている」旨の記事が掲
載されていること(甲118)からすると,役員引継要件の意味するとこ
ろについては,本件改正当時から,議論の余地が少なからず残されており,
単にそれを形式的に満たすだけでは否認される可能性があることが明ら
かにされていたということができる。
これらのことを勘案すれば,みなし共同事業要件に係る特定役員引継要
件が,特定役員引継要件に形式的に該当する事実さえあれば,組織再編成
に係る他の具体的な事情を一切問わずに(すなわち,例えば,①特定資本
関係発生以前の時期における当該役員の任期,②当該役員の職務の内容,
③合併後における当該役員以外の役員の去就,④合併後における事業の継
-41-
続性や従業員の継続性の有無,⑤合併により引き継がれる事業自体の価値
と未処理欠損金額との多寡,⑥被合併法人と合併法人の事業規模の違いな
どの事情を一切問わずに),未処理欠損金額の引継ぎを認めるべきものと
して定められたとはいえず,特定役員引継要件に形式的に該当する事実が
あるとしても包括否認規定を適用することは排除されないと解すること
が相当である。
以上の点と,上記2(3)で判示したところを総合すれば,施行令112
条7項5号が定める特定役員引継要件については,それに形式的に該当す
る行為又は事実がある場合であっても,それにより課税上の効果を生じさ
せることが明らかに不当であるという状況が生じる可能性があることを
前提に規定されたものであるというべきであるから,組織再編成に係る他
の具体的な事情(上記で例示したもののほか,事案によってはそれ以外の
事情も含まれ得る。)を総合考慮すると,合併の前後を通じて移転資産に
対する支配が継続しているとはいえず,同号の趣旨・目的に明らかに反す
ると認められるときは,法132条の2の規定に基づき,特定役員への就
任を否認することができると解すべきである。
イこれに対し,原告は,施行令112条7項5号は,特定役員と被合併事
業との結び付きを一切要求しておらず,特定役員と被合併事業との結び付
きを認める解釈は認める余地がないと主張し,これに沿うものとして,P
25意見書(甲114)がある。
しかしながら,同号の趣旨は,合併の前後を通じて移転資産に対する支
配が継続していると評価できる場合には,未処理欠損金額の引継ぎを認め
ても課税上の弊害が少ないことから,引継ぎを認めることとしたものであ
り,同号の定める特定役員引継要件は,合併の前後を通じて移転資産に対
する支配が継続していると評価するための指標として定められたもので
あると解すべきことは上記アで判示したとおりである。これと異なる原告
-42-
の上記主張は採用することができない。
また,原告は,法57条3項及び施行令112条7項5号のような個別
否認規定(租税回避行為の防止規定)は,租税回避行為を防止するために,
立法者が様々な政策判断の結果として設定した要件を規定するものであ
るから,課税要件を充足しないため否認できない取引に対して,重ねて包
括的否認規定を適用し,当該取引を税務上否認することは許されないとい
うべきであると主張する。
この点,確かに,個別否認規定が定める要件の中には,法57条3項が
定める5年の要件など,未処理欠損金額の引継ぎを認めるか否かについて
の基本的な条件となるものであって,当該要件に形式的に該当する行為又
は事実がある場合にはそのとおりに適用することが当該規定の趣旨・目的
に適うことから,包括的否認規定の適用が想定し難いものも存在すること
は否定できない。しかしながら,施行令112条7項5号はそれと異なる
性格を有するものと解すべきであることは上記アで判示したとおりであ
る。これと異なる原告の上記主張は採用することができない。
さらに,原告は,本件副社長就任のような行為が行われることは予め想
定できるにもかかわらず,施行令112条7項5号においてそれが規制さ
れていないとすれば,立法者が規制対象とすべきではないという政策判断
の下に立法したか,又は立法に至らない点があったかのいずれかであるこ
とを意味し,後者の場合,個別否認規定の文言を拡張し又は縮小し書き換
える形で法132条の2を適用することは違法であり,納税者にその不利
益を帰することは許されない旨主張する。
しかしながら,本件副社長就任のような行為を含む本件における一連の
組織再編成が行われる可能性を念頭において特定役員引継要件が設けら
れたことを認めるに足りる的確な証拠はない。他方,施行令112条7項
5号が定める特定役員引継要件を形式的に適用するだけでは課税の公平
-43-
を実現することができないおそれがあるという懸念は本件改正当時から
明らかにされていたことは上記アで判示したとおりであること,そして,
本件改正では組織再編成を利用した租税回避行為の代表例として未処理
欠損金額の引継ぎによるものが念頭に置かれて法132条の2の包括的
否認規定が設けられたことは上記2(2)ウのとおりであることからする
と,同条の適用による結果として,施行令112条7項5号が定める要件
を形式的に充足する場合にその充足による効果が否定されることになる
としても,これをもって違法であるということはできない。したがって,
原告の上記主張は採用することができない。
(4)本件の組織再編成における不当性要件の充足の有無について
ア本件の組織再編成に係る具体的な事情をみると,上記1の認定事実によ
れば,①P2は,データセンター事業を行っていたところ,平成20年3
月頃,その設備資金の調達と,未処理欠損金額の有効利用を行うことを目
的として,分社を含む株式上場計画を策定したこと(上記1(1)イ,ウ),
②これに対し,親会社であるP1は,P2には上場するのに適切な企業価
値が不足している上,上記計画では未処理欠損金額の一部しか利用できて
いないとの指摘を行い,財務部において,未処理欠損金額の全額を有効に
利用できるよう,P1の子会社間における非適格合併等と適格合併を併用
した組織再編成(事業譲渡案,単純分社化案等)の手順を案出したこと(同
エ),③P6氏は,同年10月中旬頃,上記手順の説明を受けたが,P1
の子会社間でデータセンターを集約するのではなく,P2のデータセンタ
ーを原告の自社保有とすることにより原告のインターネットサービスの
競争力を向上させることが適切であることなどから,原告にP2を売却す
べきであるとの考えを表明し,このことを前提として,P1において,原
告による本件買収,本件合併などから構成される本件提案を作成したとこ
ろ,本件提案は,P1の資金需要の一助となるものであり,また,P2の
-44-
未処理欠損金額を有効に利用し尽くすことができるものであったこと(上
記1(2)アからウまで),④P1は,原告に対し,同月27日,本件提
案を行い,原告は,これを受けて,従前の方針を転換してデータセンター
を自社保有するかどうかの検討を開始したこと(同エ),⑤P7氏は,P
6氏から,同年11月27日,P2の取締役副社長に就任するように依頼
を受け,これを了解し,P13氏も,同年12月10日頃,P7氏がP2
の取締役副社長に就任することを了解したこと,そして,P7氏は,同月
26日,P2の副社長に就任したところ,これにより,本件合併において
原告がP2の未処理欠損金額を引き継ぐために充足することが必要な特
定役員引継要件を満たし得る状態となったこと,他方,P13氏やP20
氏については,当時,原告の役員に就任する事業上の必要性がないとされ,
本件合併直後に原告の取締役となることは予定されていなかったこと(上
記(3)ア),⑥P7氏は,副社長就任後,本件提案の内容に沿って,P
2に関する職務を一定程度遂行したこと(同イ),⑦P6氏は,平成21
年1月15日,本件買収におけるP1としての最低譲渡価額が450億円
であることを伝え,同月中には,P1及び原告の双方の取締役会で本件提
案についての詳細な検討が行われ,P7氏は,同月30日頃までには,本
件買収及び本件合併を行う意思を固めつつあったこと(同エ),⑧同年2
月2日に効力を生じた本件分割により,P2は,データセンターを構成す
る不動産やそれに関連する契約上の地位の主体となり,データセンターの
営業や開発はP8が担うこととなり,P2の従業員は全てP8に雇用され
ることとなったこと(同ウ),⑨原告は,同月24日,P2株式の譲渡を
受け,本件買収を行ったところ,原告とP1との間において,本件買収金
額450億円のうち200億円は繰越決算金の価値と認識されていたこ
と(同エ,カ),⑩さらに,原告は,同年3月30日,本件合併を行い,
P2の権利義務を全部承継したが,P13氏やP20氏は原告の取締役に
-45-
就任することはなく,データセンターに関する設備投資案件についてのP
8の権限も限定されることとなったこと(同オ)が認められる。
イ以上で認定した本件の組織再編成に係る具体的な事情を検討すると,以
下の点を指摘することができる。
まず,特定役員引継要件(施行令112条7項5号)の観点からみると,
①P7氏が副社長に就任してから本件買収により特定資本関係が発生す
るに至るまでの期間はわずか約2か月であり,極めて短い。また,②P7
氏がP2の副社長に就任したのは本件買収及び本件合併に係る本件提案
を受けた後であること,P7氏がP2の副社長として実際に行った職務の
内容は本件提案に沿ったものであり,本件提案と離れて,P2における従
来のデータセンター事業に固有の業務に関与していたとは認められない
こと,P7氏は,副社長就任の約1か月後には本件買収及び本件合併を行
う意思を固めつつあったことに照らすと,P7氏は,上記の2か月の間,
本件買収後に予定されていた事業の経営とは無関係に,P2の従来のデー
タセンター事業に固有の経営に関与していたと評価することはできない。
③他方,P2がデータセンター事業を開始して以来,P2の経営を担って
きたP13氏などの役員は,いずれも,本件合併後,原告の役員には就任
することが予定されておらず,原告の役員に就任する事業上の必要性がな
いとされ,実際にも就任せず,データセンターの設備投資に関する権限も
縮小されたことが認められる。以上の諸点からすると,本件においては,
特定役員引継要件が形式的には充足されてはいるものの,役員の去就とい
う観点からみて,「合併の前後を通じて移転資産に対する支配が継続して
いる」という状況があるとはいえず,施行令112条7項5号が設けられ
た趣旨に全く反する状態となっていることは明らかである。
また,法57条3項にいう「共同で事業を営むための適格合併等」に当
たるとされる施行令112条7項の2号から4号までとの関係でみると,
-46-
④本件合併により原告が承継したのは,本件分割後のP2であるところ,
承継された資産等の内容は,データセンターを構成する不動産やそれに関
連する契約上の地位に限られ,従業員との契約は承継されず,営業・開発
部門もないものであることからすると,本件合併により,本件分割前のP
2が従来行っていたデータセンター事業が事業として承継された(すなわ
ち,その経済実態に変更がない)とみることは困難である。また,⑤本件
買収の対価は450億円であるところ,そのうちの200億円が未処理欠
損金額の価値とされるものであって,事業自体の価値とはいえない部分が
約半分を占めるものである。さらに,⑥原告とP2とでは,企業規模に大
きな差があり,資本金で70倍以上,営業利益で50倍以上,売上高で2
0倍以上の格差があって,共同の事業を営むための適格合併等において求
められる規模要件(施行令112条7項2号)を満たしようもない状況に
ある。以上の諸点からすると,本件合併は,その実質において,共同で事
業を営むためのものとはいえず,単なる資産の売買にとどまるものと評価
することが妥当なものであって,法57条3項にいう「共同で事業を営む
ための適格合併等」としての性格が極めて希薄であることが明らかである
といわざるを得ない。
加えて,⑦本件合併を含む本件提案は,その出発点において,P2の未
処理欠損金額を余すことなく処理することを1つの目的にしたものであ
ること,⑧本件合併に当たり,原告とP1との間では,税務上,本件合併
により未処理欠損金額の引継ぎが認められるかどうかについて明示的な
検討が行われ,取引に係る契約書のほかに,差入書が作成されて,未処理
欠損金額の引継ぎが認められない場合の対処方法が合意されていたこと
に照らすと,原告とP1においては,未処理欠損金額の引継ぎが認められ
ない可能性が相当程度あることを認識していたということができる。
以上のような本件における諸事情を総合勘案すると,本件副社長就任
-47-
は,特定役員引継要件を形式的に充足するものではあるものの,それによ
る税負担減少効果を容認することは,特定役員引継要件を定めた施行令1
12条7項5号が設けられた趣旨・目的に反することが明らかであり,ま
た,本件副社長就任を含む組織再編成行為全体をみても,法57条3項が
設けられた趣旨・目的に反することが明らかであるということができる。
したがって,本件副社長就任は,法132条の2にいう「法人税の負担を
不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当すると解すること
が相当である。
ウこれに対し,原告は,上記イ②の点に関し,P7氏はP2の副社長に就
任した後,P2の事業に係る職務を行っていたものであると主張し,これ
に沿う証人P7の供述部分がある。
確かに,P7氏の副社長としての職務は,本件合併後に予定されている
原告とP2(P8)との事業に向けられたものであり,P2の従来のデー
タセンター事業もそのうちの1つに含まれるから,その意味において,P
2の事業に係る職務を行っていたということは可能である。しかしなが
ら,上記のとおり,P7氏は,本件提案を受けた後に副社長に就任してお
り,副社長に就任してから約1か月後には本件合併を行う意思を固めつつ
あったこと,原告が本件買収を行う主要な事業目的のうちの1つはデータ
センターを原告の自社保有してコスト削減を行うことであったこと,当時
のP2の資産のうちデータセンターについては本件合併により原告の資
産となることが予定されていたことを総合勘案すると,P7氏の副社長と
しての職務の実質は,P2における従来のデータセンター事業の経営を行
うものとはいえず,P7氏が本件買収の前にP2の副社長に就任したとし
ても,合併の前後を通じて従来のデータセンター事業に対する支配の継続
があると評価することはできないといわざるを得ない。したがって,P7
氏がP2の事業に係る職務を行っていたといえるとしても,そのことは,
-48-
施行令112条7項5号が設けられた趣旨に全く反するという上記の判
断を左右するものではない。したがって,原告の上記主張は採用すること
ができない。
また,原告は,上記イ⑥の点に関連して,本件においては施行令112
条7項2号の規模要件は一切関係がないと主張する。しかしながら,上記
(3)アで判示したとおり,同項5号の特定役員引継要件に関して法13
2条の2を適用する場合,組織再編成に係る他の具体的な事情を考慮すべ
きであるところ,法57条3項にいう「共同で事業を営むための適格合併
等」が問題となっている本件では,施行令112条7項の他の号の定める
要件の充足状況についても上記の具体的な事情として考慮することが適
切であるということができる。したがって,原告の上記主張は採用するこ
とができない。
(5)本件副社長就任が否認の対象となる行為か否かについて
ア上記前提事実(2)イのとおり,P7氏は,P2の臨時株主総会における
株主総会の決議及びP2の取締役会における取締役会の決議により,P2
の取締役副社長に就任したものであるところ,これらに関する法律行為の
主体は,いずれも,P2又はP7氏であり,原告ではない。
これに対し,被告は,原告の内部においては,特定役員引継要件を満た
すべく,原告の特定役員のうちの誰かを本件買収前にP2の特定役員に就
任させる必要があることについて認識した上で,P7氏をP2の特定役員
に就任させる旨決定したことが明らかであり,また,P7氏のP2の取締
役副社長就任は,原告の代表取締役であるP7氏が,原告としての意思決
定を行い,原告の意思決定に基づき,原告の業務執行として,自らを,将
来的に合併することが想定されていたP2の取締役副社長に就任させた
ものと認められ,原告の行為又は原告の行為と同視し得る行為であると主
張する。
-49-
しかしながら,原告の機関においてP7氏をP2の取締役副社長に就任
させるという意思決定がされたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
また,P7氏の本件副社長就任が,P7氏の個人的な利益とは無関係に,
もっぱら原告の利益のために行われたものであったとしても,原告の企業
規模や資本構成に照らせば,そのことのみをもってして,P7氏の行為を
原告の行為と同視することには困難があるといわざるを得ない。したがっ
て,被告の上記主張は採用することができない。
イもっとも,上記2(4)のとおり,法132条の2の規定に基づき否認
することができる行為又は計算は,法人税につき更正又は決定を受ける法
人の行為又は計算に限られず,同条の規定により否認することができる行
為又は計算には,法人税につき更正又は決定を受ける法人以外の法人であ
って,同条各号に掲げられているものの行為又は計算が含まれるものと解
される。
そうすると,P7氏は,P2の臨時株主総会における株主総会の決議及
びP2の取締役会における取締役会の決議により,P2の取締役副社長に
就任したものであって,これらがいずれもP2の行為であることを前提と
しても,同条に規定する「これを容認した場合には,(中略)法人税の負
担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に該当する場合に
は,同条の規定により,P2の行為を否認し,原告の法人税につき更正を
することができるものと解される。
(6)小括
以上のとおりであるから,本件副社長就任は,「その法人の行為(中略)
で,これを容認した場合には,(中略)法人税の負担を不当に減少させる結
果となると認められるもの」(法132条の2)に該当し,同条の規定に基
づき否認することができるというべきである。
4本件更正処分に理由付記の不備があるか否か(争点3)について
-50-
法130条2項は,青色申告に係る法人税について更正をする場合には,更
正通知書に更正の理由を付記しなければならないと規定する。
これは,法人税法が青色申告制度を採用し,青色申告に係る所得の計算につ
いては,それが法定の帳簿書類による正当な記載に基づくものである以上,そ
の帳簿の記載を無視して更正されることがないことを保障した趣旨に鑑み,処
分庁の判断の慎重,合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,更正の理
由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨であるというべきであ
る。したがって,帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合に
は,その更正は納税者による帳簿の記載を覆すものではないから,更正通知書
記載の更正の理由が,そのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信憑
力のある資料を摘示するものでないとしても,更正の根拠を上記の理由付記制
度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り,法人税法の
要求する更正理由の付記として欠けるところはないと解するのが相当である。
(最高裁昭和56年(行ツ)第36号同60年4月23日第三小法廷判決・民
集39巻3号850頁参照)
これを本件についてみると,本件更正処分の更正通知書(甲1)には,上記
前提事実(3)イのとおり,そのような判断をした理由を含めて記載されており,
本件更正処分は,原告の行為又は計算を容認した場合には,法人税の負担を不
当に減少させる結果となると評価して否認し,P2の未処理欠損金額を原告の
欠損金額とみなさないとしてしたものであって,帳簿書類の記載自体を信用す
ることができないとして否認するものではない。
そして,上記記載によれば,本件更正処分は,原告の行為又は計算を否認し
た根拠となる法人税法上の規定を明記してはいないものの,本件買収,本件合
併及びこれらの実現に向けられた原告の一連の行為(原告がその代表取締役社
長であるP7氏をP2の取締役副社長に就任させた行為を含む。)又は計算を
容認した場合には,法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる
-51-
として,法132条の2の規定に基づき,P2の未処理欠損金額を原告の欠損
金額とみなすことを認めず,原告が損金の額に算入した542億6826万2
894円を損金の額に算入しない旨記載したものであると解することができ
る。
そうすると,本件更正処分の更正通知書に記載された更正の理由は,更正の
根拠を上記の理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するも
のであるということができるから,法130条2項の要求する更正理由の付記
として欠けるところはないものというべきである。
5本件更正処分等の適法性について
以上によれば,P7氏がP2の取締役副社長に就任した行為及びP2の未処
理欠損金額を原告の欠損金額とみなして損金の額に算入する計算は,法132
条の2の規定に基づき否認することができ,これまでに述べたところ及び弁論
の全趣旨によれば,本件更正処分等は,別紙3のとおりいずれも適法なものと
認められる。
6結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用
の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のと
おり判決する。
東京地方裁判所民事第38部
裁判長裁判官谷口豊
裁判官竹林俊憲
-52-
裁判官貝阿彌亮
-53-
別紙2
関係法令の定め
第1平成22年法律第6号による改正前の法人税法
12条(定義)
この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるとこ
ろによる。
一から九まで(略)
十同族会社会社の株主等(その会社が自己の株式又は出資を有する場合の
その会社を除く。)の3人以下並びにこれらと政令で定める特殊の関係のあ
る個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資(その会社が有する自己の
株式又は出資を除く。)の総数又は総額の100分の50を超える数又は金
額の株式又は出資を有する場合その他政令で定める場合におけるその会社
をいう。
十一被合併法人合併によりその有する資産及び負債の移転を行つた法人を
いう。
十二合併法人合併により被合併法人から資産及び負債の移転を受けた法人
をいう。
十二の二から十二の七の五まで(略)
十二の八適格合併次のいずれかに該当する合併で被合併法人の株主等に合
併法人株式(合併法人の株式又は出資をいう。)又は合併親法人株式(合併
法人との間に当該合併法人の発行済株式又は出資(自己が有する自己の株式
又は出資を除く。以下この条において「発行済株式等」という。)の全部を
保有する関係として政令で定める関係がある法人の株式又は出資をいう。)
のいずれか一方の株式又は出資以外の資産(当該株主等に対する剰余金の配
当等(株式又は出資に係る剰余金の配当,利益の配当又は剰余金の分配をい
う。第12号の11において同じ。)として交付される金銭その他の資産及
-54-
び合併に反対する当該株主等に対するその買取請求に基づく対価として交
付される金銭その他の資産を除く。)が交付されないものをいう。
イその合併に係る被合併法人と合併法人(当該合併が法人を設立する合併
(以下この号において「新設合併」という。)である場合にあつては,当
該被合併法人と他の被合併法人)との間にいずれか一方の法人が他方の法
人の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する関係その他の政令で
定める関係がある場合の当該合併
ロその合併に係る被合併法人と合併法人(当該合併が新設合併である場合
にあつては,当該被合併法人と他の被合併法人)との間にいずれか一方の
法人が他方の法人の発行済株式等の総数(出資にあつては,総額。以下第
12号の16までにおいて同じ。)の100分の50を超え,かつ,10
0分の100に満たない数(出資にあつては,金額。以下第12号の16
までにおいて同じ。)の株式(出資を含む。以下第12号の16までにお
いて同じ。)を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定める関係が
ある場合の当該合併のうち,次に掲げる要件のすべてに該当するもの
(1)当該合併に係る被合併法人の当該合併の直前の従業者のうち,その総
数のおおむね100分の80以上に相当する数の者が当該合併後に当
該合併に係る合併法人の業務に従事することが見込まれていること(当
該合併後に当該合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見
込まれている場合には,当該相当する数の者が,当該合併後に当該合併
法人の業務に従事し,当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人の
業務に従事することが見込まれていること。)。
(2)当該合併に係る被合併法人の当該合併前に営む主要な事業が当該合
併後に当該合併に係る合併法人において引き続き営まれることが見込
まれていること(当該合併後に当該合併法人を被合併法人とする適格合
併を行うことが見込まれている場合には,当該主要な事業が,当該合併
-55-
後に当該合併法人において営まれ,当該適格合併後に当該適格合併に係
る合併法人において引き続き営まれることが見込まれていること。)。
ハその合併に係る被合併法人と合併法人(当該合併が新設合併である場合
にあつては,当該被合併法人と他の被合併法人)とが共同で事業を営むた
めの合併として政令で定めるもの
十二の九から四十八まで(略)
257条(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し)
(1)1項
確定申告書を提出する内国法人の各事業年度開始の日前7年以内に開始し
た事業年度において生じた欠損金額(この項の規定により当該各事業年度前
の事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの及び第80条
(欠損金の繰戻しによる還付)の規定により還付を受けるべき金額の計算の
基礎となつたものを除く。)がある場合には,当該欠損金額に相当する金額
は,当該各事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入する。ただし,
当該欠損金額に相当する金額が当該欠損金額につき本文の規定を適用しな
いものとして計算した場合における当該各事業年度の所得の金額(当該欠損
金額の生じた事業年度前の事業年度において生じた欠損金額に相当する金
額で本文又は第58条第1項(青色申告書を提出しなかつた事業年度の災害
による損失金の繰越し)の規定により当該各事業年度の所得の金額の計算上
損金の額に算入されるものがある場合には,当該損金の額に算入される金額
を控除した金額)を超える場合は,その超える部分の金額については,この
限りでない。
(2)2項
適格合併等(適格合併又は合併に類する分割型分割として政令で定めるも
ののうち適格分割型分割に該当するもの(以下この条において「合併類似適
格分割型分割」という。)をいう。以下この項及び次項において同じ。)が
-56-
行われた場合において,当該適格合併等に係る被合併法人又は分割法人(以
下この項及び次項において「被合併法人等」という。)の当該適格合併等の
日前7年以内に開始した各事業年度(以下この項及び次項において「前7年
内事業年度」という。)において生じた欠損金額(当該被合併法人等が当該
欠損金額(この項又は第6項の規定により当該被合併法人等の欠損金額とみ
なされたものを含み,第5項又は第9項の規定によりないものとされたもの
を除く。次項,第4項及び第8項において同じ。)の生じた前7年内事業年
度について青色申告書である確定申告書を提出していることその他の政令
で定める要件を満たしている場合における当該欠損金額に限るものとし,前
項の規定により当該被合併法人等の前7年内事業年度の所得の金額の計算
上損金の額に算入されたもの及び第80条の規定により還付を受けるべき
金額の計算の基礎となつたものを除く。以下この項において「未処理欠損金
額」という。)があるときは,当該適格合併等に係る合併法人又は分割承継
法人(以下この項及び次項において「合併法人等」という。)の当該適格合
併等の日の属する事業年度(以下この項及び次項において「合併等事業年度」
という。)以後の各事業年度における前項の規定の適用については,当該前
7年内事業年度において生じた未処理欠損金額は,それぞれ当該未処理欠損
金額の生じた前7年内事業年度開始の日の属する当該合併法人等の各事業
年度(当該合併法人等の合併等事業年度開始の日以後に開始した当該被合併
法人等の当該前7年内事業年度において生じた未処理欠損金額にあつては,
当該合併等事業年度の前事業年度)において生じた欠損金額とみなす。
(3)3項
適格合併等に係る被合併法人等と合併法人等(当該合併法人等が当該適格
合併等により設立された法人である場合にあつては,当該適格合併等に係る
他の被合併法人等。第1号において同じ。)との間に特定資本関係(いずれ
か一方の法人が他方の法人の発行済株式又は出資(当該他方の法人が有する
-57-
自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額の100分の50を超える数
又は金額の株式又は出資を直接又は間接に保有する関係その他の政令で定
める関係をいう。以下この項及び第5項において同じ。)があり,かつ,当
該特定資本関係が当該合併法人等の当該適格合併等に係る合併等事業年度
開始の日の5年前の日以後に生じている場合において,当該適格合併等が共
同で事業を営むための適格合併等として政令で定めるものに該当しないと
きは,前項に規定する未処理欠損金額には,当該被合併法人等の次に掲げる
欠損金額を含まないものとする。
一当該被合併法人等の特定資本関係事業年度(当該被合併法人等と当該合
併法人等との間に当該特定資本関係が生じた日の属する事業年度をいう。
次号において同じ。)前の各事業年度で前7年内事業年度に該当する事業
年度において生じた欠損金額(当該被合併法人等において第1項の規定に
より前7年内事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されたもの
及び第80条の規定により還付を受けるべき金額の計算の基礎となつた
ものを除く。次号において同じ。)
二当該被合併法人等の特定資本関係事業年度以後の各事業年度で前7年内
事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額のうち第62条の
7第2項(特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入)に規定する特定資
産譲渡等損失額に相当する金額から成る部分の金額として政令で定める
金額
(4)4項から12項まで(略)
3132条(同族会社等の行為又は計算の否認)
(1)1項
税務署長は,次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合
において,その法人の行為又は計算で,これを容認した場合には法人税の負
担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは,その行為
-58-
又は計算にかかわらず,税務署長の認めるところにより,その法人に係る法
人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。
一内国法人である同族会社
二イからハまでのいずれにも該当する内国法人
イ3以上の支店,工場その他の事業所を有すること。
ロその事業所の2分の1以上に当たる事業所につき,その事業所の所長,
主任その他のその事業所に係る事業の主宰者又は当該主宰者の親族そ
の他の当該主宰者と政令で定める特殊の関係のある個人(以下この号に
おいて「所長等」という。)が前に当該事業所において個人として事業
を営んでいた事実があること。
ハロに規定する事実がある事業所の所長等の有するその内国法人の株式
又は出資の数又は金額の合計額がその内国法人の発行済株式又は出資
(その内国法人が有する自己の株式又は出資を除く。)の総数又は総額
の3分の2以上に相当すること。
(2)2項及び3項(略)
4132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)
税務署長は,合併,分割,現物出資若しくは事後設立(第2条第12号の6
(定義)に規定する事後設立をいう。)又は株式交換若しくは株式移転(以下
この条において「合併等」という。)に係る次に掲げる法人の法人税につき更
正又は決定をする場合において,その法人の行為又は計算で,これを容認した
場合には,合併等により移転する資産及び負債の譲渡に係る利益の額の減少又
は損失の額の増加,法人税の額から控除する金額の増加,第1号又は第2号に
掲げる法人の株式(出資を含む。第2号において同じ。)の譲渡に係る利益の
額の減少又は損失の額の増加,みなし配当金額(第24条第1項(配当等の額
とみなす金額)の規定により第23条第1項第1号(受取配当等の益金不算入)
に掲げる金額とみなされる金額をいう。)の減少その他の事由により法人税の
-59-
負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは,その行為
又は計算にかかわらず,税務署長の認めるところにより,その法人に係る法人
税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。
一合併等をした一方の法人又は他方の法人
二合併等により交付された株式を発行した法人(前号に掲げる法人を除く。)
三前二号に掲げる法人の株主等である法人(前二号に掲げる法人を除く。)
第2平成22年政令第51号による改正前の法人税法施行令
14条の2(適格組織再編成における株式の保有関係等)
(1)1項
法第2条第12号の8(定義)に規定する全部を保有する関係として政令
で定める関係は,合併の直前に当該合併に係る合併法人と当該合併法人以外
の法人との間に当該法人による直接完全支配関係(二の法人のいずれか一方
の法人が他方の法人の発行済株式等(同号に規定する発行済株式等をいう。
以下この条において同じ。)の全部を保有する関係をいう。以下この項にお
いて同じ。)があり,かつ,当該合併後に当該合併法人と当該法人(以下こ
の項において「親法人」という。)との間に当該親法人による直接完全支配
関係が継続すること(当該合併後に親法人を被合併法人とする適格合併を行
うことが見込まれている場合には当該合併後に当該合併法人と当該親法人
との間に当該親法人による直接完全支配関係があり,当該適格合併後に当該
適格合併に係る合併法人と当該合併に係る合併法人との間に当該適格合併
に係る合併法人による直接完全支配関係が継続することとし,当該合併後に
当該合併に係る合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込ま
れている場合には当該合併の時から当該適格合併の直前の時まで当該合併
法人と親法人との間に当該親法人による直接完全支配関係が継続すること
とする。)が見込まれている場合における当該合併に係る合併法人と親法人
との間の関係とする。
-60-
(2)2項
法第2条第12号の8イに規定する政令で定める関係は,次に掲げるいず
れかの関係とする。
一合併に係る被合併法人と合併法人(当該合併が法人を設立する合併(次
項及び第4項において「新設合併」という。)である場合にあつては,当
該被合併法人と他の被合併法人。以下この項において同じ。)との間にい
ずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に
保有する関係がある場合における当該関係(次号に掲げる関係に該当する
ものを除く。)
二合併前に当該合併に係る被合併法人と合併法人との間に同一の者(当該
者が個人であるときは,当該個人及びこれと前条第1項に規定する特殊の
関係のある個人)によつてそれぞれの法人の発行済株式等の全部を直接又
は間接に保有される関係があり,かつ,当該合併後に当該者によつて当該
合併法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に継続して保有されるこ
と(当該合併後に当該者を被合併法人とする適格合併を行うことが見込ま
れている場合には当該合併後に当該者によつて当該発行済株式等の全部
を直接又は間接に保有され,当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法
人によつて当該発行済株式等の全部を直接又は間接に継続して保有され
ることとし,当該合併後に当該合併に係る合併法人を被合併法人とする適
格合併を行うことが見込まれている場合には当該合併の時から当該適格
合併の直前の時まで当該者によつて当該発行済株式等の全部を直接又は
間接に保有されることとする。)が見込まれている場合における当該合併
に係る被合併法人と合併法人との間の関係
(3)3項
法第2条第12号の8ロに規定する政令で定める関係は,次に掲げるいず
れかの関係(前項各号に掲げる関係に該当するものを除く。)とする。
-61-
一合併に係る被合併法人と合併法人(当該合併が新設合併である場合にあ
つては,当該被合併法人と他の被合併法人。以下この項において同じ。)
との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等の総数(出資に
あつては,総額。以下この条において同じ。)の100分の50を超える
数(出資にあつては,金額。以下この条において同じ。)の株式(出資を
含む。以下この条において同じ。)を直接又は間接に保有する関係がある
場合における当該関係(次号に掲げる関係に該当するものを除く。)
二合併前に当該合併に係る被合併法人と合併法人との間に同一の者(当該
者が個人であるときは,当該個人及びこれと前条第1項に規定する特殊の
関係のある個人)によつてそれぞれの法人の発行済株式等の総数の100
分の50を超える数の株式(以下この号において「支配株式」という。)
を直接又は間接に保有される関係があり,かつ,当該合併後に当該者によ
つて当該合併法人の支配株式を直接又は間接に継続して保有されること
(当該合併後に当該者を被合併法人とする適格合併を行うことが見込ま
れている場合には当該合併後に当該者によつて当該支配株式を直接又は
間接に保有され,当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人によつて
当該支配株式を直接又は間接に継続して保有されることとし,当該合併後
に当該合併に係る合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見
込まれている場合には当該合併の時から当該適格合併の直前の時まで当
該者によつて当該支配株式を直接又は間接に保有されることとする。)が
見込まれている場合における当該合併に係る被合併法人と合併法人との
間の関係
(4)4項
法第2条第12号の8ハに規定する政令で定めるものは,同号イ又はロに
該当する合併以外の合併のうち,次に掲げる要件(当該合併に係る被合併法
人の株主等の数が50人以上である場合又は当該合併に係る被合併法人の
-62-
すべて若しくは合併法人が資本若しくは出資を有しない法人である場合に
は,第1号から第4号までに掲げる要件)のすべてに該当するものとする。
一合併に係る被合併法人の被合併事業(当該被合併法人の当該合併前に営
む主要な事業のうちのいずれかの事業をいう。以下この項において同じ。)
と当該合併に係る合併法人の合併事業(当該合併法人の当該合併前に営む
事業のうちのいずれかの事業をいい,当該合併が新設合併である場合にあ
つては,他の被合併法人の被合併事業をいう。次号及び第4号において同
じ。)とが相互に関連するものであること。
二合併に係る被合併法人の被合併事業と当該合併に係る合併法人の合併事
業(当該被合併事業と関連する事業に限る。)のそれぞれの売上金額,当
該被合併事業と合併事業のそれぞれの従業者の数,当該被合併法人と合併
法人(当該合併が新設合併である場合にあつては,当該被合併法人と他の
被合併法人)のそれぞれの資本金の額若しくは出資金の額若しくはこれら
に準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと又は当該合併
前の当該被合併法人の特定役員(社長,副社長,代表取締役,代表執行役,
専務取締役若しくは常務取締役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従
事している者をいう。以下この条において同じ。)のいずれかと当該合併
法人(当該合併が新設合併である場合にあつては,他の被合併法人)の特
定役員のいずれかとが当該合併後に当該合併に係る合併法人の特定役員
となることが見込まれていること。
三合併に係る被合併法人の当該合併の直前の従業者のうち,その総数のお
おむね100分の80以上に相当する数の者が当該合併後に当該合併に
係る合併法人の業務に従事することが見込まれていること(当該合併後に
当該合併法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている
場合には,当該相当する数の者が,当該合併後に当該合併法人の業務に従
事し,当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人の業務に従事するこ
-63-
とが見込まれていること。)。
四合併に係る被合併法人の被合併事業(当該合併に係る合併法人の合併事
業と関連する事業に限る。)が当該合併後に当該合併法人において引き続
き営まれることが見込まれていること(当該合併後に当該合併法人を被合
併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には,当該被合併
事業が,当該合併後に当該合併法人において営まれ,当該適格合併後に当
該適格合併に係る合併法人において引き続き営まれることが見込まれて
いること。)。
五合併の直前の当該合併に係る被合併法人の株主等で当該合併により交付
を受ける合併法人の株式又は法第2条第12号の8に規定する合併親法
人株式のいずれか一方の株式(議決権のないものを除く。)の全部を継続
して保有することが見込まれる者(当該合併後に当該者を被合併法人とす
る適格合併を行うことが見込まれている場合には当該合併後に当該者が
当該株式の全部を保有し,当該適格合併後に当該適格合併に係る合併法人
が当該株式の全部を継続して保有することが見込まれるときの当該者と
し,当該合併後に当該合併に係る合併法人(当該合併に係る被合併法人の
株主等が当該合併により同号に規定する合併親法人株式の交付を受ける
場合にあつては,同号に規定する全部を保有する関係として政令で定める
関係がある法人)を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれてい
る場合には当該合併の時から当該適格合併の直前の時まで当該株式の全
部を継続して保有することが見込まれるときの当該者とする。)及び当該
合併に係る合併法人(当該合併に係る被合併法人の株主等が当該合併によ
り同号に規定する合併親法人株式の交付を受ける場合にあつては,同号に
規定する全部を保有する関係として政令で定める関係がある法人を含
む。)が有する当該合併に係る被合併法人の株式(議決権のないものを除
く。)の数を合計した数が当該被合併法人の発行済株式等(議決権のない
-64-
ものを除く。)の総数の100分の80以上であること。
(5)5項から24項まで(略)
2112条(適格合併等による欠損金の引継ぎ等)
(1)1項から3項まで(略)
(2)4項
法第57条第3項に規定する政令で定める関係は,次の各号に掲げるいず
れかの関係とする。
一二の法人のいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式又は出資(自
己が有する自己の株式又は出資を除く。次号及び次項において「発行済株
式等」という。)の総数(出資にあつては,総額。次号及び次項において
同じ。)の100分の50を超える数(出資にあつては,金額。次号及び
次項において同じ。)の株式(出資を含む。次号及び次項において同じ。)
を直接又は間接に保有する関係
二二の法人が同一の者(当該者が個人である場合には,当該個人及びこれ
と第4条第1項(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人)
によつてそれぞれの法人の発行済株式等の総数の100分の50を超え
る数の株式を直接又は間接に保有される関係
(3)5項及び6項(略)
(4)7項
法第57条第3項に規定する政令で定めるものは,適格合併等のうち,第
1号から第4号までに掲げる要件又は第1号及び第5号に掲げる要件に該
当するものとする。
一適格合併等に係る被合併法人等の被合併等事業(当該被合併法人等の当
該適格合併等の前に営む主要な事業のうちのいずれかの事業をいう。第3
号までにおいて同じ。)と当該適格合併等に係る合併法人等(当該合併法
人等が当該適格合併等により設立された法人である場合にあつては,当該
-65-
適格合併等に係る他の被合併法人等。以下この項において同じ。)の合併
等事業(当該合併法人等の当該適格合併等の前に営む事業(当該合併法人
等が当該適格合併等により設立された法人である場合にあつては,当該適
格合併等に係る他の被合併法人等の被合併等事業)のうちのいずれかの事
業をいう。次号において同じ。)とが相互に関連するものであること。
二被合併等事業と合併等事業(当該被合併等事業と関連する事業に限る。
以下この号及び第4号において同じ。)のそれぞれの売上金額,当該被合
併等事業と当該合併等事業のそれぞれの従業者の数,適格合併等に係る被
合併法人等と合併法人等のそれぞれの資本金の額若しくは出資金の額又
はこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと。
三被合併等事業が当該適格合併等に係る被合併法人等と合併法人等との間
に特定資本関係(法第57条第3項に規定する特定資本関係(当該合併法
人等の同項の合併等事業年度開始の日の5年前の日以後に生じたものに
限る。)をいう。次号及び第5号において同じ。)の生じた時(当該被合
併法人等が,その時から当該適格合併等の直前の時までの間に合併法人,
分割承継法人又は被現物出資法人となる適格合併,適格分割又は適格現物
出資(以下この号及び次号において「直前適格合併等」という。)を行い,
かつ,当該直前適格合併等により被合併等事業の全部又は一部の移転を受
けている場合には,当該直前適格合併等の時。以下この号において「被合
併法人等特定資本関係発生時」という。)から当該適格合併等の直前の時
まで継続して営まれており,かつ,当該被合併法人等特定資本関係発生時
と当該適格合併等の直前の時における当該被合併等事業の規模(前号に規
定する規模の割合の計算の基礎とした指標に係るものに限る。)の割合が
おおむね2倍を超えないこと。
四合併等事業が当該適格合併等に係る合併法人等と被合併法人等との間に
特定資本関係が生じた時(当該合併法人等が,その時から当該適格合併等
-66-
の直前の時までの間に直前適格合併等を行い,かつ,当該直前適格合併等
により合併等事業の全部又は一部の移転を受けている場合には,当該直前
適格合併等の時。以下この号において「合併法人等特定資本関係発生時」
という。)から当該適格合併等の直前の時まで継続して営まれており,か
つ,当該合併法人等特定資本関係発生時と当該適格合併等の直前の時にお
ける当該合併等事業の規模(前号に規定する規模の割合の計算の基礎とし
た指標に係るものに限る。)の割合がおおむね2倍を超えないこと。
五適格合併等に係る被合併法人等の当該適格合併等の前における特定役員
(社長,副社長,代表取締役,代表執行役,専務取締役若しくは常務取締
役又はこれらに準ずる者で法人の経営に従事している者をいう。以下この
号において同じ。)である者のいずれかの者(当該被合併法人等が当該適
格合併等に係る合併法人等と特定資本関係が生じた日前(当該特定資本関
係が当該被合併法人等となる法人又は当該合併法人等となる法人の設立
により生じたものである場合には,同日。以下この号において同じ。)に
おいて当該被合併法人等の役員又は当該これらに準ずる者(同日において
当該被合併法人等の経営に従事していた者に限る。)であつた者に限る。)
と当該合併法人等の当該適格合併等の前における特定役員である者のい
ずれかの者(当該特定資本関係が生じた日前において当該合併法人等の役
員又は当該これらに準ずる者(同日において当該合併法人等の経営に従事
していた者に限る。)であつた者に限る。)とが当該適格合併等の後に当
該合併法人等(当該適格合併等が法人を設立するものである場合には,当
該適格合併等により設立された法人)の特定役員となることが見込まれて
いること。
(5)8項から20項まで(略)
-67-
別紙3
本件各更正処分等の根拠及び適法性
1本件更正処分の根拠
被告が本訴において主張する,原告の本件事業年度の所得金額及び納付すべ
き法人税額は,次のとおりである。
(1)所得金額(別表2④欄)1098億8807万0129円
上記金額は,次のアの金額にイの金額を加算し,ウの金額を控除したもの
である。
ア確定申告における所得金額(別表2①欄)
556億9158万5439円
上記金額は,原告が,処分行政庁に対し平成21年6月30日に提出し
た本件事業年度の法人税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)
の「所得金額」欄に記載された金額である。
イ損金の額に算入しない欠損金の額(別表2②欄)
542億6826万2894円
上記金額は,原告が,平成21年3月30日に,原告を合併法人,P2
株式会社(以下「P2」という。)を被合併法人とする合併(以下「本件
合併」という。)を行い,P2の未処理欠損金額(別表3参照)を法人税
法(平成22年法律第6号による改正前のもの)57条2項の規定に基づ
き原告の欠損金額とみなして,同条1項の規定により損金の額に算入した
ものであるが,その欠損金額を原告の損金の額に算入することを容認した
場合には,法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められること
から,法人税法132条の2第1項の規定により損金の額に算入されない
金額である。
ウ一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度超過額の過大額(別表2
③欄及び別表4⑲欄)7177万8204円
-68-
上記金額は,原告が一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度超過
額として所得金額に加算した次の(ア)の金額と,次の(イ)により計算さ
れる所得金額に加算すべき正当な繰入限度超過額との差額であり,所得金
額に過大に加算されていることから,所得金額から減算されるものであ
る。
(ア)確定申告における一括評価金銭債権に係る貸倒引当金繰入限度超過
額(別表4⑱欄)1億2122万6730円
上記金額は,原告が本件確定申告書において,一括評価金銭債権に係
る貸倒引当金繰入限度超過額として所得金額に加算した金額である。
(イ)一括評価金銭債権に係る貸倒引当金繰入限度超過額(別表4⑰欄)
4944万8526円
上記金額は,次のaの金額からbの金額を控除した金額である。
a確定申告における一括評価金銭債権に係る貸倒引当金繰入額(別表
4①欄)15億2090万1705円
上記金額は,本件確定申告書に記載された一括評価金銭債権に係る
貸倒引当金の当期繰入額である。
b一括評価金銭債権に係る貸倒引当金繰入限度額(別表4⑯欄)
14億7145万3179円
上記金額は,原告の期末一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額39
8億7677万9938円(別表4②欄参照)に貸倒実績率0.03
69(別表4⑮欄参照)を乗じた金額であり,本件事業年度の一括評
価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度額に相当する金額である。
(2)所得金額に対する法人税額(別表2⑤欄)
329億6642万1000円
上記金額は,上記(1)の所得金額(国税通則法(以下「通則法」という。)
118条1項の規定に基づき1000円未満の端数を切り捨てた後の金額
-69-
である。)に法人税法66条に定める税率を乗じて計算した金額である。
(3)法人税額の特別控除額(別表2⑥欄)8632万4543円
上記金額は,租税特別措置法(平成21年法律第61号による改正前のも
の)42条の4第1項及び2項の規定により法人税の額から控除される金額
1757万2284円と,同法42条の11第2項の規定により法人税の額
から控除される金額6875万2259円とを合計した金額であり,本件確
定申告書に記載された金額と同額である。
(4)法人税額から控除される所得税額等(別表2⑦欄)
5508万2659円
上記金額は,法人税法68条の規定により法人税の額から控除される金額
であり,本件確定申告書に記載された金額と同額である。
(5)納付すべき法人税額(別表2⑧欄)328億2501万3700円
上記金額は,上記(2)の金額から上記(3)及び上記(4)の金額を差し
引いた金額である(なお,通則法119条1項の規定に基づき100円未満
の端数金額を切り捨てた後の金額である。)。
(6)既に納付の確定した法人税額(別表2⑨欄)
165億6606万8200円
上記金額は,本件確定申告書の提出により納付の確定した法人税額であ
る。
(7)差引納付すべき法人税額(別表2⑩欄)
162億5894万5500円
上記金額は,上記(5)の金額から上記(6)の金額を差し引いた金額であ
る。
2本件更正処分の適法性
本訴において,被告が主張する原告の本件事業年度の法人税の所得金額及び
納付すべき法人税額は,それぞれ1098億8807万0129円(上記1
-70-
(1))及び328億2501万3700円(上記1(5))であるところ,こ
れらの金額は,本件更正処分における所得金額及び納付すべき法人税額と同額
であるから,本件更正処分は適法である。
3本件賦課決定処分の根拠
上記2のとおり,本件更正処分は適法であるところ,同処分により原告が新
たに納付すべき法人税額については,その計算の基礎となった事実について,
原告がこれを計算の基礎としなかったことに,通則法65条4項所定の「正当
な理由」があるとは認められない。
したがって,原告の本件事業年度の法人税に係る過少申告加算税の額は,原
告が新たに納付すべきこととなった法人税額162億5894万5500円
(上記1(7))を基礎として,通則法65条1項の規定を適用し,162億
5894万円(通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数金額を切
り捨てた後の金額である。)に対して100分の10の割合を乗じて算出した
金額16億2589万4000円となる。
4本件賦課決定処分の適法性
本訴において,被告が主張する法人税の過少申告加算税の金額は,上記3で
述べたとおりであり,本件賦課決定処分の金額は,これと同額であるから,同
賦課決定処分は適法である。
-71-
別紙4
当事者の主張
第1法132条の2の意義(争点1)について
1被告の主張
(1)法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認
められるもの」(不当性要件)の解釈について
法132条の2においては,法132条1項と同様に,「法人税の負担を
不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは」との文言が用
いられていることに鑑みれば,同項をめぐる議論を参考とすべきであって,
法132条の2の「不当」の意義についても,法132条1項の「不当」の
意義について,純経済人の行為として不合理・不自然な行為又は計算によっ
て税負担の減少が生じている場合がそれに当たると解されていることを参
考とすべきである。
もっとも,法132条の2の「不当」の解釈は当該規定の趣旨・目的を踏
まえてされるべきであるところ,同条は,平成13年度税制改正において,
企業組織再編成を租税回避の手段として濫用されるおそれがあることから,
これを防止して適正な課税をすることができるために,繰越欠損金等を利用
した租税回避行為の防止規定など各個別規定にそれぞれ防止規定を設け,併
せて,それらの防止規定をかいくぐる租税回避行為に対処するために,包括
的な租税回避防止規定として,従前から設けられていた同族会社の行為又は
計算の否認規定とは別個に,新たに創設されたものである。このような経緯
と趣旨に鑑み,法132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる結果と
なると認められるもの」の解釈・適用は,組織再編成に係る法人の行為又は
計算の特徴,組織再編税制における各個別規定の趣旨・目的について十分に
考慮をし,その実態に即して行われるべきである。
具体的には,組織再編税制における各個別規定の趣旨・目的に鑑みて,あ
-72-
る行為又は計算が不合理又は不自然なものと認められる場合をいい,租税
回避の手段として組織再編成における各規定を濫用し,税負担の公平を著
しく害するような行為又は計算と評価できる場合はこれに当たると解す
べきである。すなわち,法132条の2は,個別の否認規定により対処す
ることを想定していなかった租税回避の事態に対処するのみならず,適格
作り(適格外し)や個別規定の要件作り(要件外し)等,課税減免等に係
る規定ないし制度の逸脱・濫用があった場合に,そのような行為を許さな
いこととして適正な課税を行う否認規定なのである。
上記のような法132条の2の趣旨・目的に鑑みれば,一連の組織再編
成の過程において行われた個々の取引について,これを全体の計画から切
り離して,個別に,「私的経済取引として不合理・不自然か否か」により
判断することは相当ではない。組織再編成は,多種多様な行為を組み合わ
せることができるものであり,最終形に至るまでの過程において,行為の
順序や時期を変えることによって,課税上の効果を納税者が意図的に変更
し得ることとなるものである。かかる組織再編税制における特質を踏まえ
ると,組織再編成に係る個々の行為について,その1つ1つを個別に取り
出すと,一見すればそれ自体に何らかの事業目的があるように思われるも
のであっても,法人税の負担を減少させることを主たる目的として,組織
再編成全体を構成する一部の取引について,組織再編成上の正当な理由な
いし目的がないのに,あえて通常行われるであろう順序又は時期とは異な
る順序又は時期で行い,組織再編税制の個別規定の要件を充足させ,又は
充足させないようにしたものであれば,当該行為は組織再編成上の必要性
が認められない不自然・不合理なものであり,組織再編成の個別規定の趣
旨・目的を潜脱するものというべきである。
すなわち,法132条の2の「不当」は,法人税の負担を減少させるこ
とを目的として,組織再編成全体を構成する一部の取引について,通常行
-73-
われるであろう順序又は時期とは異なる順序又は時期であえて行い,組織
再編税制の個別規定の要件を充足させ,又は充足させないようにし,法人
税の負担を減少させる結果となる行為を含むものである。
組織再編成によって行われる資産の移転には,事業上の必要性や,事業
上の目的が全くないような場面を想定することができないことから,租税
回避防止規定の適用場面として,事業上の必要性や事業上の目的が全くな
いことを要求することは,相当でなく,当該行為又は計算について,事業
目的が完全に否定できないとしても,そのことから直ちに「不当」性が否
定されるものではなく,主たる目的が租税回避目的であると認められる場
合には,課税減免等に係る規定ないし制度の濫用があったとみて,否認さ
れるべきである。
(2)「その法人の行為又は計算」の意義について
平成13年度税制改正では,企業組織再編成により移転する資産の譲渡
損益を,一定の要件の下に繰り延べる措置を講じた一方で,企業組織再編
成を租税回避の手段として濫用されるおそれがあることから,繰越欠損金
等を利用した租税回避行為の防止規定など,各個別規定にそれぞれ防止規
定を設けるとともに,それらの防止規定をかいくぐる租税回避行為に対処
するために,包括的な租税回避防止規定として,法132条の2の規定を
創設したものである。
この場合,異常ないし変則的な行為又は計算が行われている場合でも,
必ずしもそれを行う法人と,法人税の負担が不当に減少する法人(更正対象
法人)とが同一でない場合もあり得る。
そして,法132条の2の規定は,それを包含する組織再編税制が,法
人の税務処理に関し,他の法人の行為の如何によって取扱いが変わること
がある仕組みとして構築されているものであることから,組織再編成に関
係する法人の全てを掲げた上で,これらの法人のいずれかの行為によって
-74-
当該法人だけでなく他の法人の法人税の負担が不当に減少するという事態
が生じた場合には,その法人税の負担が不当に減少した法人について更正
又は決定を行い得るように制定されたものである。
上記のような法132条の2の趣旨に鑑みれば,同条において否認の対
象となる「その法人」の行為とは,その直前にある「次に掲げる法人」の
行為,すなわち,「同条1号から3号までに掲げるいずれかの法人」の行
為と解釈することになる。
さらに,法132条の2の規定の変遷からしても,上記解釈が妥当であ
るのは明らかである。すなわち,法132条の2の「その法人」とされて
いる部分は,平成13年度税制改正による創設時には,対象法人を同条の
柱書きの文章中に規定した上で「これらの法人」としていたものであり,
平成18年度税制改正においても,このような用い方が踏襲されていたが,
平成19年度税制改正においては,三角合併に対応する改正が行われ,そ
れに伴って対象法人を各号列記とする規定の整備が行われただけであり,
従来,「これらの法人」とされていたものについて,その内容を変更し,
「更正又は決定をする法人」のみに限定するというような重要な改正は行
われておらず,平成19年度税制改正に至る過程における検討記録等にも,
そのような改正が行われることをうかがわせるものは,全く見受けられな
い。
以上によれば,法132条の2において否認の対象となる「その法人」
の行為とは,その直前にある「次に掲げる法人」の行為,すなわち「同条
1号から3号までに掲げるいずれかの法人」の行為と解釈することができ
る。
したがって,下記第2の1(7)のとおり,本件副社長就任は,原告の行為
又は原告の行為と同視し得る行為であり,法132条の2の規定により否
認することができるが,仮に百歩譲って,本件副社長就任が原告の行為と
-75-
扱うべきでないと解するとしても,それがP2の行為であることは原告も
争わないものであるところ,P2は,同条1号に掲げる「合併等をした一
方の法人又は他方の法人」に当たることは明らかであることから,P2の
行為を「その法人」の行為として同条の規定により否認したものとしても,
同条の適用を誤ったものとはいえない。
以上の点に鑑みても,本件副社長就任が原告の行為でないとして,本件
更正処分等の違法を主張する原告の主張は失当であるというべきである。
2原告の主張
(1)法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認
められるもの」(不当性要件)の解釈について
ア「法人税の負担を不当に減少させる」の要件は私的経済取引としての合
理性の観点から解釈すべきであること。
法132条の2は,法人の行為が「法人税の負担を不当に減少させる結
果となる」ことが適用要件とされている。
法132条の2の「不当」性の要件は,抽象的・多義的な概念であり,
いわゆる不確定概念である。法律又はその委任のもとに政令や省令におい
て課税要件及び租税の賦課・徴収の手続に関する定めをなす場合に,その
定めはなるべく一義的で明確でなければならないとの課税要件明確主義
(憲法84条)から,不確定概念である「不当」性の要件は,法の趣旨・
目的に照らしてその意義が明確にされなければならない。
そして,法132条の2が法人の組織再編成において種々の租税回避行
為が行われる可能性のあることに鑑み設けられた,組織再編成に関する行
為・計算の一般的否認規定であることからすれば,同条の「法人税の負担
を不当に減少させる」の要件の解釈は,租税回避行為とはいかなる行為を
指すのかについての通説的な理解を踏まえて行う必要がある。
この点,租税回避行為の意義について,租税法上明文の規定はないが,
-76-
我が国を代表する租税法研究者である金子宏東京大学名誉教授によれば,
租税回避行為とは,「私法上の選択可能性を利用し,私的経済取引プロパ
ーの見地からは合理的理由がないのに,通常用いられない法形式を選択す
ることによって,結果的には意図した経済的目的ないし経済的成果を実現
しながら,通常用いられる法形式に対応する課税要件の充足を免れ,もっ
て税負担を減少させ,あるいは排除すること」をいうとされている。この
金子名誉教授による租税回避行為の意義は学説上広く受け入れられてい
る。
この租税回避行為の意義から明らかなように,ある行為が租税回避行為
の否認規定により否認されるべき租税回避行為であるか否か,本件に即し
ていえば,法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる」行
為であるか否かは,私的経済取引プロパーの見地から合理的理由があるか
否かという要素を抜きにしては判断できない。
したがって,租税回避行為の意義を踏まえると,法132条の2の「法
人税の負担を不当に減少させる」の要件は,私的経済取引プロパーの見地
から合理的理由があるか否か,すなわち経済人の行為として不合理・不自
然な行為又は計算か否かという観点から判断されるべきである。
そして,純経済人の行為として不合理・不自然とは,行為が異常ないし
変則的で,かつ,租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しない
場合をいうと解すべきである。
イ原告の主張は不確定概念の解釈の在り方として妥当であること。
不確定概念の解釈の在り方を前提とすれば,法132条の2は,課税の
公平負担の観点から,組織再編成行為に係る租税回避を否認する趣旨で定
められたものであるとしても,そのことを理由として租税法律主義の適用
を免れるということはあり得ず,課税要件明確主義の観点から,また,法
的安定性ないし予測可能性の観点から,法132条の2の「不当」性の要
-77-
件の解釈により,同条に基づく否認が許される要件については,客観的,
合理的基準が導き出されなければならない。
「不当」性の要件を,私的経済取引として不合理,不自然なものと認め
られるかどうかで判断するという原告の解釈は,客観的,合理的な基準を
提供するものである。原告の主張は,私的経済取引としての合理性,すな
わち,「純経済人としての合理性」という客観的な基準で判断するもので
あり,かつ,「経済取引に参加する法人は,全て『純経済人としての合理
性』という基準を内在していることが期待され得る」のであるから,全て
の納税者にとって「不当」性の該当性を明確に判断することを可能とする,
明確かつ客観的な基準であるといえる。すなわち,自己が行おうとする取
引が,自己の租税負担の減少という効果をもたらすとしても,およそその
行為に租税負担減少以外の正当な事業上の目的があるかを,自己が有する
純経済人としての合理性という基準に照らして判断すれば,自ずと法13
2条の2の適用の有無が判断できる。
この基準を,特定役員引継要件の充足が「不当」と認められるか否かと
いう本件で問題となっている争点に即して敷衍すると,当該の特定役員の
就任は私法上有効であるものの,その者において特定役員として職務執行
する意思もなければ職務執行の客観的事実もおよそ一切存在しない場合
かどうかという基準となると解される。この基準であれば,およそ職務執
行の意思と事実があるかどうかを判断すれば足りることであるから,全て
の納税者にとって明確かつ客観的な基準といえるものである。
また,原告の主張する基準においても,税負担の公平を達成できる。す
なわち,「純経済人の行為・計算としては不合理・不自然な行為・計算に
よって,個別の課税要件規定が充足され,又は潜脱され,その結果,関係
する法人の法人税負担が減少した場合」には,法132条の2によって否
認することが可能なのであり,組織再編成を利用した租税回避に十分対応
-78-
できる。
このことを,特定役員引継要件の充足が「不当」と認められるか否かと
いう本件で問題となっている争点に即して敷衍すると,当該の特定役員の
就任は私法上有効であるものの,その者において特定役員として職務執行
する意思もなければ職務執行の客観的事実もおよそ一切存在しない場合
について,(私法上は仮装行為とまではいえず,施行令112条7項5号
の「特定役員」該当性を事実認定として「否認」できないため,)法13
2条の2を適用して特定役員引継要件の充足を否認できれば,その立案意
図は十二分に達成できているというべきである。念のため付言すると,被
告の主張する「適格作り(適格外し)や個別規定の要件作り(要件外し)
等」についても,原告の解釈で十分に対応可能である。すなわち,被告は,
結局,何ら経済的合理性がないのに通常は用いられない異常ないし変則的
な行為を行った上で適格組織再編成(若しくは非適格組織再編成)に該当
させる又は要件を充足させる(若しくは充足させない)行為を問題視して
いるものと解されるのであり,そうであれば,端的に,当該の行為に私法
上の選択可能性ないし法形式の濫用があるか否か,つまり行為に私的経済
取引としての合理性があるか否かで判断すれば足りるものというべきで
ある。
以上のとおり,原告が主張する法132条の2の「不当」性の要件の解
釈は,同条を客観的,合理的基準に従って厳格に解釈適用するものであり,
包括的否認規定に求められる租税法律主義に合致する解釈である。
ウ原告の解釈は多数の先例,文献等により支持されていること。
この原告の解釈は,法132条1項における「法人税の負担を不当に減
少させる結果」の裁判例及び学説からも裏付けられる。すなわち,法13
2条の2の法人税の負担を不当に減少させる」の要件は,第1に,法13
2条1項は,租税回避行為の否認規定という点において,法132条の2
-79-
と趣旨及び性質を同じくすること,第2に,法132条の2は,法132
条の直後に同条の枝番として新設されたものであること,第3に,法13
2条の2は,法132条1項では同族会社でない法人の組織再編成取引に
対応できないため,新設されたものであること,第4に,法132条の2
と法132条1項は,「法人税の負担を不当に減少させる」という同一の
文言を用いていること,第5に,組織再編税制の創設が議論された税制調
査会の場において,法132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる」
の要件が,法132条1項の不当性の要件とは異なるとの解釈は,一度た
りとも議論されたことはないことなどの点からすると,法132条の2の
「法人税の負担を不当に減少させる」の要件は,法132条1項の「法人
税の負担を不当に減少させる」の要件と同様に解釈されるべきである。
そして,まず,裁判例では,法132条1項の「法人税の負担を不当に
減少させる」の要件は,「専ら経済的実質的見地において,法人の行為,
計算が経済人の行為として不合理,不自然なものと認められるかどうかを
基準として判断されるべきものである」と解されている(福岡高裁昭和5
5年9月29日判決・行政事件裁判例集31巻9号1982頁。最高裁昭
和59年10月25日判決で維持されている。)。
また,学説上,金子名誉教授は,法132条1項の「法人税の負担を不
当に減少させる」とは,「純経済人の行為として不合理・不自然な行為」
が行われること,あるいは,「ある行為または計算が経済的合理性を欠い
ている」ことをいうと解しており,行為が経済的合理性を欠いている場合
とは,「異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が
存在しないと認められる場合」をいうと解している。これは,①行為が異
常ないし変則的であるか否かを客観面で観察した上で,仮に異常ないし変
則的といえる場合は,次に,②正当な理由ないし事業目的が存在するか否
かという行為の周辺事情を観察し,それが存在しない場合に限り否認を認
-80-
めるという趣旨と解され,極めて合理的な解釈である(金子宏『租税法(第
16版)』421頁)。
このように,裁判例・学説上,法132条1項について,同項の「法人
税の負担を不当に減少させる」の要件を,私的経済取引としての合理性の
観点から判断する解釈論が確立されている。
したがって,法132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる」も,
法132条1項におけるこれらの裁判例・学説に従い,私的経済取引とし
ての合理性の観点から,純経済人の行為として不合理,不自然なもの,す
なわち,①行為が異常ないし変則的で,②租税回避以外に正当な理由ない
し事業目的が存在しない場合に限って該当すると解すべきである。
そして,法132条1項の適用が認められた近時の判例・裁判例(東京
地裁平成12年11月30日判決・税務訴訟資料249号884頁,東京
高裁平成13年7月5日判決・税務訴訟資料251号順号8942,東京
地裁平成17年7月28日判決・税務訴訟資料255号順号10091,
東京高裁平成18年6月29日判決・税務訴訟資料256号順号1044
0,最高裁平成20年6月27日決定・税務訴訟資料258号順号109
80)において,否認の対象とされた行為は,いずれも,およそ租税回避
以外に私的経済取引としての合理性が存在しない行為であった。
したがって,法132条の2についても,これらの判例・裁判例のよう
に,およそ租税回避以外の私的経済取引としての合理性が存在しない行為
のみが否認の対象となるにすぎないと解すべきである。
原告の主張は,我が国の有力な租税法研究者(P24東京大学法学部教
授,P25P30大学法学部教授,P26P31大学商学部教授,P27
一橋大学大学院法学研究科教授,P28P32大学大学院法務研究科教
授,P29P30大学法科大学院教授)によって全面的に支持されている。
エ個別否認規定が置かれている場合においては「法人税の負担を不当に減
-81-
少させる」の要件は更に厳格に解釈すべきであること。
個別否認規定は,租税回避行為を防止するために,立法者が様々な政策
判断の結果として設定した要件を規定するものである。かかる立法者の判
断は尊重されるべきであるから,個別否認規定が対象としている取引につ
いては,専ら当該個別否認規定の適用が検討されるべきであり,かかる検
討の結果,課税要件を充足しないため否認できない取引に対して,重ねて
包括否認規定を適用し,当該取引を税務上否認することは許されないとい
うべきである。
仮に個別否認規定が想定している取引に対して法132条の2が重畳的
に適用され得るとしても,同条のような包括否認規定は,納税者が現実に
行った私法上の行為を,租税法上別の通常行われる仮定の行為に引き直し
て課税するものであって,事後的に課税要件事実を生じさせるに等しいた
め,租税法律主義(課税要件法定主義)に抵触するおそれが大きい。また,
租税法律主義(課税要件明確主義)の観点からも,納税者の予測可能性や
法的安定性を害しないよう,限定的に解釈されなければならない。
判例も,法132条1項の規定について,同項は「原審が判示するよう
な客観的,合理的基準に従つて同族会社の行為計算を否認すべき権限を税
務署長に与えているものと解することができる」という理由付けにより,
同項が包括的,一般的,白地的な課税処分権限を与えるものであることを
前提とする同事件上告人の主張を排斥しており,租税回避行為の否認規定
について,客観的,合理的基準に従った厳格な解釈適用を求めている(最
高裁昭和53年4月21日判決・訟務月報24巻8号1694頁)。
したがって,個別否認規定が想定している取引の否認は,原則として,
現実に発生した具体的な事実を対象に,法57条3項のような個別否認規
定の適用による否認に委ねられるべきであって,法132条の2は,租税
負担の公平の観点からみて看過し難い具体的な不当性がある場合に限り,
-82-
発動される規定と解すべきである。そして,そのような具体的な不当性が
ある場合とは,前記のとおり,納税者の行為が純経済人の行為としての不
合理・不自然であること,より具体的には,行為が異常ないし変則的で,
かつ,租税回避以外に正当な事業目的ないし理由がないことを意味すると
解すべきである。
P28教授も,原告と同様の見解に立っている。
オまとめ
上記で述べた解釈を,特定役員引継要件を充足する事実が存在するにも
かかわらず,法132条の2の解釈適用上「不当」と評価して特定役員引
継要件の充足を否認することが許される場合について具体的に敷衍する
と,特定役員への選任が私法上適法有効にされているという事実こそ存在
するものの,特定役員として職務執行する意思もなければ職務執行の客観
的事実もおよそ一切存在しないような,いわば「形だけ」「名前だけ」に
すぎない場合のみが,法132条の2の解釈適用上「不当」と評価される
と解すべきである。
およそ自然人が特定役員に就任するときは,特定役員として職務執行す
る意思をもって,かつ,就任後は実際に特定役員として職務執行すること
が当然の前提とされている。このような特定役員への就任は,いうまでも
なく経済社会において通常行われている正常な行為であるとともに,特定
役員として職務執行する意思を伴った行為であるから,正当な理由ないし
事業目的も当然ながら伴っているものである。
そうすると,特定役員への就任が「異常ないし変則的で,かつ,租税回
避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合」と評
価される場合とは,正常な場合であれば当然に備えているべき上記のよう
な要素を全く欠いており,特定役員への就任の目的が未処理欠損金額の引
継ぎのみでしかないような場合であると解される。そして,そのような場
-83-
合とは,正に,特定役員において,特定役員として職務執行する意思もな
ければ職務執行の客観的事実もおよそ存在しないような,いわば「形だけ」
「名前」だけにすぎない場合であるものと解される。
換言すれば,特定役員が,特定役員として職務執行するというその就任
の目的に従って(主観面),実際にも会社の経営の中枢に関与し特定役員
として職務執行しており,合併後も被合併法人から承継した事業の中枢に
関与している客観的事実が存在する(客観面)ならば,その就任は,経済
社会において通常行われている正常な行為であるとともに,特定役員とし
て職務執行する意思を伴った行為であり,正当な理由ないし事業目的も伴
っているものであるから,異常ないし変則的で,かつ,租税回避以外に正
当な事業目的ないし理由がない行為,すなわち純経済人の行為として不合
理・不自然な行為であるとは到底評価できず,法132条の2の解釈適用
上「不当」と評価する余地はないものと解される。
(2)「その法人の行為又は計算」の意義について
法132条の2は,「次に掲げる法人の法人税につき更正又は決定をする
場合において」,「その法人の行為又は計算」にかかわらず,税務署長の認
めるところにより法人税の額を計算すると定めており,文理上,「その法人
の行為又は計算」という文言は,「次に掲げる法人の法人税につき更正又は
決定をする場合において」という文言を受けている。そして,「次に掲げる
法人」と「法人税につき更正又は決定」を受ける法人とが同一の法人である
ことは文言上一義的に明らかである。そうすると,「その法人」が,「次に
掲げる法人」,すなわち「法人税につき更正又は決定」を受ける法人のみを
指すことは文言上一義的に明らかである。したがって,法132条の2によ
って税務署長による否認の対象となるのは,「法人税につき更正又は決定」
を受ける法人の「行為又は計算」のみであることは明らかである。かかる文
理上の解釈を拡張する根拠はないし,この文理解釈を拡張・逸脱した解釈を
-84-
することは,租税法律主義(憲法84条)に反して許されない。
また,法132条の2は,法132条1項及び相続税法64条1項と条文
構造及び立法趣旨が共通している。したがって,法132条1項及び相続税
法64条1項と別異に解釈する合理的理由はなく,否認の対象は同様に解釈
すべきである。この点,法132条1項に関し,裁判例は,株式の資産価値
の移転が同族会社の行為によるものとは認められないことを理由に法13
2条1項の適用を否定しており(東京地裁平成13年11月9日判決・判例
タイムズ1092号86頁),法132条1項に列挙されている法人の行為
又は計算のみが否認の対象となることを明らかにしている。さらに,相続税
法64条1項に関しても,裁判例は「一定の要件のもとにおいて税務署長に
同族会社の行為又は計算を否認できる旨を定めた規定であるが,同条1項に
いう『同族会社の行為』とは,その文理上,自己あるいは第三者に対する関
係において法律的効果を伴うところのその同族会社が行う行為を指すもの
と解するのが当然である。」として,否認できるのは同族会社の行為又は計
算のみであると判断しており(浦和地裁昭和56年2月25日判決・判例時
報1016号52頁),学説もかかる解釈は妥当であるとして判決を肯定し
ている(碓井光明「本件判例評釈」判例評論280号158頁以下(甲73),
畠山武道「租税判例研究」ジュリスト778号112頁以下(甲74))。
そして,原告の解釈は,P25教授及びP26教授が同様の見解を表明され
ていることからも,その正当性は明らかである。
以上のとおり,裁判例及び学説は,共に法132条の2と条文構造及び立
法趣旨が共通である法132条1項及び相続税法64条1項について,否認
の対象となる「行為又は計算」を文理に従って解釈しているのである。
さらに,法132条の2は,「法人税につき更正又は決定」を受ける法人
と合併等の他方の当事者である法人との間に支配関係があること等を要件
としていないから,別法人の行為を否認することにより法132条の2が適
-85-
用されるとすれば,法人は,当該法人と完全に独立した第三者の行為により
法132条の2の適用を受けることになる。かかる帰結は,納税者の予測可
能性及び法的安定性を著しく害するというほかない。
よって,法132条の2は,法132条1項及び相続税法64条1項と同
様に,法132条の2各号に掲げる法人のその「行為又は計算」のみを否認
できる規定であると解釈すべきである。すなわち,本件においては,「合併
等をした一方の法人又は他方の法人」(同条1号)である原告の「行為又は
計算」のみが否認の対象となり得ると解すべきである。
第2施行令112条7項5号の要件を充足する本件副社長就任について,法13
2条の2の規定に基づき否認することができるか否か(争点2)について
1被告の主張
(1)未処理欠損金額の引継規定(法57条2項)の趣旨等
法57条1項は,確定申告書を提出する内国法人の各事業年度開始の日前
7年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合には,当該
欠損金額に相当する金額は,当該各事業年度の所得の金額の計算上,損金の
額に算入する旨規定している。
そして,法57条2項は,適格合併等が行われた場合において,被合併法
人等の未処理欠損金額があるときは,合併法人等の合併等事業年度以後の各
事業年度における同条1項の規定の適用については,当該前7年内事業年度
において生じた前7年内事業年度開始の日の属する当該合併法人等の各事
業年度において生じた欠損金額とみなす旨規定している。
平成13年度税制改正後の新しい組織再編成に係る税制は,実態にあった
課税を行うという税制の基本を踏まえ,原則として,組織再編成により移転
する資産等については,移転資産等の時価取引として,その譲渡損益の計上
を求めつつ,特例として,組織再編成により資産等を移転する前後で経済実
態に実質的な変更がないと考えられる場合,すなわち移転資産等に対する支
-86-
配が継続している場合には,その譲渡損益の計上を繰り延べて従前の課税関
係を継続させる,という基本的な考え方に基づき創設されたものである。組
織再編成に伴う各種引当金等の取扱いについては,基本的には,移転資産等
の譲渡損益に係る取扱いに合わせて,従前の課税関係を継続させることとす
るか否かを決めることとした。そして,法57条の青色欠損金の繰越控除の
規定も,上記の「各種引当金等の取扱い」に含まれ,基本的には,その組織
再編成が適格組織再編成に該当する場合には,その引継ぎ等により従前の課
税関係を継続させることとして,適格合併又は合併類似適格分割型分割(適
格合併等)においては,被合併法人等の青色欠損金額は,合併法人等に引き
継ぐことができるものとされている。ただし,一定の場合にはこの引継ぎに
制限が設けられており,また,適格合併,適格分割,適格現物出資を行った
合併法人等は,一定の場合には自己の青色欠損金の繰越控除が制限されるこ
ととなるという同趣旨の改正が行われたものであって,適格合併等の一定の
場合に限り欠損金の引継ぎを認めることとしたものである。
(2)未処理欠損金額の引継ぎ等に係る制限規定(法57条3項)
法57条3項は,適格合併等に係る被合併法人等と合併法人等との間に特
定資本関係があり,かつ,当該特定資本関係が当該合併法人等の当該適格合
併等に係る合併等事業年度開始の日の5年前の日以後に生じている場合に
おいて,当該適格合併等が共同で事業を営むための適格合併等として施行令
112条7項で定めるものに該当しないときは,同条2項に規定する未処理
欠損金額には,当該被合併法人等の,①特定資本関係事業年度前の各事業年
度で前7年内事業年度に該当する事業年度において生じた欠損金額(1号),
及び②特定資本関係事業年度以後の各事業年度で前7年内事業年度に該当
する事業年度において生じた欠損金額のうち法62条の7第2項(特定資産
に係る譲渡等損失額の損金不算入)に規定する特定資産譲渡等損失額に相当
する金額から成る部分の金額として施行令112条8項で定める金額(2
-87-
号)を含まないものとする旨規定している。
同一企業グループ内の適格合併(上記①)について,未処理欠損金額の引
継ぎを無制限に認めた場合には,未処理欠損金額を有するグループ外の法人
を買収することで,一旦,当該法人を完全子会社としてグループ内に取り込
んだ上で,当該法人を吸収する適格合併を行うことによって,当該法人の未
処理欠損金額を引き継ぐことが容易に可能となる。このような未処理欠損金
額の引継ぎは,実態として,元々同一の法人が有する限りは処理されること
がなかったであろう未処理欠損金額を,いわば,「税金を減少させる権利」
として,企業間で自由に売買する行為と変わるところがなく,このような行
為が横行することは,資産・負債の支配に係る継続性に着目して未処理欠損
金額の引継ぎを認めた法57条2項の趣旨を著しく逸脱することになるも
のと考えられた。
そこで,法57条3項により,このような実質的な未処理欠損金額の売買
を防止する趣旨から,同一企業グループ内の適格合併のうち過去5年以内に
特定資本関係(いずれか一方の法人が他方の法人の発行済み株式の総数又は
出資の総額の100分の50を超える数又は金額の株式又は出資を直接又
は間接に保有する関係その他施行令112条4項で定める関係)が発生して
いるものの未処理欠損金額の引継ぎについて,一定の制限を加えた。
すなわち,特定資本関係が発生してから5年以内に行われる適格合併につ
いては,「共同で事業を営むための適格合併等」として政令で定めるものに
該当する場合を除き,未処理欠損金額の引継ぎを制限することとしたのであ
る。
(3)みなし共同事業要件の規定内容
法57条3項は,租税回避に対処するために設けられた規定であり,特定
資本関係を有する法人間の適格合併等で,その特定資本関係が合併法人等の
合併等事業年度開始の日の5年前の日以後に生じている場合であっても,そ
-88-
の適格合併等が共同で事業を営むための適格合併等に該当するときは,適用
されない。
この共同で事業を営むための適格合併等かどうかの要件については,施行
令112条7項に委任されており,①同項1号から4号までに掲げる要件
(事業の相互関連性に関する要件,事業の相対的な規模に関する要件,被合
併等事業の同等規模継続に関する要件,合併等事業の同等規模継続に関する
要件)の全てに該当するもの,又は②同項1号及び5号に掲げる要件(事業の
相互関連性に関する要件,特定役員引継要件)のいずれにも該当するものを
いう。
みなし共同事業要件は,合併法人が被合併法人の未処理欠損金額を引き継
いで繰越控除を認めるのが妥当な場合を規定するものであるところ,合併後
の法人等において被合併法人等の事業の継続性が認められる場合に限って,
合併法人に被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎを認めるものであり,適格
合併等が行われた場合に被合併法人等の事業が継続していることに着目し
て設けられたものと解される。
そして,特定資本関係が生じた後の期間においては,特定資本関係にある
合併法人が被合併法人の事業の状態に変更を加えるといったことが容易に
行い得るから,みなし共同事業要件においては,特定資本関係の発生以後も
被合併法人の事業を組織再編成の時まで従前どおりに続けて引き継ぐこと
を求めることとしており,その間に被合併法人等の事業の状態を大きく変更
するという場合には,特定資本関係発生前の被合併法人等の欠損金を組織再
編成後の合併法人等に引き継いで控除することを認めないという考え方が
採られている。
(4)施行令112条7項2号から4号まで
施行令112条7項は,法57条3項のグループ内適格合併における欠損
金額の引継制限の例外である「当該適格合併等が共同で事業を営むための適
-89-
格合併等として政令で定めるもの」につき,(A)施行令112条7項1号か
ら4号までに掲げる要件(事業の相互関連性に関する要件(1号),事業の
相対的な規模に関する要件(2号),被合併等事業の同等規模継続に関する
要件(3号),合併等事業の同等規模継続に関する要件(4号))のすべて
に該当するもの,又は(B)同項1号及び5号に掲げる要件(事業の相互関連性
に関する要件(1号),特定役員引継要件(5号))のいずれにも該当する
ものとし,これらの要件((A)又は(B))に該当するものについては,法5
7条3項所定の企業グループ内適格合併における未処理欠損金額の引継ぎ
を認めている。
このうち,施行令112条7項2号から4号までは,合併法人等と被合併
法人等の事業規模の差が一定の範囲内にあること(2号)や合併前の事業が
合併後も継続して営まれること(3号,4号)を要件として規定している。
施行令112条7項2号から4号までは,いわゆる大会社が自己に比して
相当に小規模であるいわゆる小会社を飲み込むような合併は,一般的に共同
で事業を営むことを目的として合併するとは考えられず,むしろ,大会社が,
多額の未処理欠損金額を有している小会社を取り込むことによって大会社の
税負担を減少すべく合併することがほとんどと考えられることから,このよ
うな被合併会社の未処理欠損金額を合併会社の租税回避に利用することを防
止する趣旨で設けられたものである。
(5)施行令112条7項5号(特定役員引継要件)
施行令112条7項5号は,適格合併等に係る被合併法人等の当該適格合
併等の前における特定役員である者のいずれかの者(当該被合併法人等が当
該適格合併等に係る合併法人等と特定資本関係が生じた日前において当該
被合併法人等の役員又は当該これらに準ずる者であった者に限る。)と当該
合併法人等の当該適格合併等の前における特定役員である者のいずれかの
者(当該特定資本関係が生じた日前において当該合併法人等の役員又は当該
-90-
これらに準ずる者であった者に限る。)とが当該適格合併等の後に当該合併
法人等の特定役員となることが見込まれていることを要件として規定して
いる。
これは,規模的に見れば,大会社が小会社を買収,合併するような場合で
あっても,その小会社が,例えば特許等の知的財産権や技術者等の人的財産,
優良な得意先との関係等,何らかの独自の強みを持っているような場合には,
必ずしも未処理欠損金額を取り込むことのみが目的とはならず,その強みを
生かして共同で事業を営むことを目的として合併が行われる場合もある。そ
して,合併法人のみならず被合併法人の特定役員も合併後の特定役員に就任
するというのであれば,双方の法人の売上金額等の規模が大きく異なってい
るとしても,当該被合併法人の特定役員は合併後も被合併法人の持つ独自の
強みを生かしてその事業を推進するために,合併前後を通じて被合併法人か
ら経営に参画したものと見て,共同で事業を営むことを目的としていると認
められるから,いわば,救済措置としての意味で,施行令112条7項2号
から4号までの要件を満たさないとしても,被合併法人等の特定役員のいず
れかの者と合併法人等の合併等の前における特定役員のいずれかの者が合併
後においても特定役員となることが見込まれている場合には,同様に合併前
後を通じて共同で事業を営まれているとする趣旨で,同項5号の要件が規定
されているものである。
施行令112条7項5号は,たとえ同項2号から4号までの要件を満たさ
ない場合であっても,被合併法人等の特定役員のいずれかの者と合併法人等
の合併等の前における特定役員のいずれかの者が合併後においても特定役員
となることが見込まれている場合(特定役員引継要件)には,合併の前後を
通じて共同で事業が営まれている,すなわち,同項2号から4号までの各要
件を満たす「共同で事業を営むための適格合併等」と同視できるという趣旨
で,事業の相互関連性に関する要件(同項1号)とともに,企業グループ内
-91-
適格合併における未処理欠損金額の引継ぎを認める要件としたものである。
したがって,当該特定役員引継要件が,合併の前後の合併法人と被合併法
人の事業の状況を対比していることからして,相当程度の期間,被合併法人
の経営に携わる重要な地位に就いて,同法人が持つ独自の強みを築き上げる
ことに貢献した者(すなわち合併後も被合併法人の持つ独自の強みを体現し
ていると見ることのできる者)が,合併後も特定役員に就任して経営に参画す
ることで,被合併法人の独自の強みを生かしてその事業を推進していくもの
として,合併前後の双方の特定役員が共同で事業を継続して営むことを想定
したものであると捉えなければならない。
更にいえば,特定資本関係の発生前において,被合併法人等が独自の事業
を営む中で,被合併法人等の特定役員として常務に従事し,その事業を体現
する者でなければ,特定役員引継要件が想定する特定役員とはいえないと解
すべきである。
主として未処理欠損金額の引継ぎという税制上の優遇措置を受けることを
目的とし,その手段として事業上の理由が希薄な特定役員の引継ぎをしてい
ることが明らかな場合にまで未処理欠損金額の引継ぎを認めることは,法5
7条3項の趣旨に反するというべきである。
施行令112条7項5号の特定役員引継要件が設けられた趣旨・目的を踏
まえれば,もともと特定役員引継要件を満たし得ない合併について,合併の
直前の時期に,合併法人の特定役員を被合併法人の特定役員に形式上兼任さ
せて,特定役員引継要件を充足したことにするのは,不合理・不自然という
べきである。そして,このような形での「要件作り」が,みなし共同事業要
件の立法趣旨を著しく逸脱するものであり,これに法132条の2が適用さ
れ,未処理欠損金額の引継ぎが否認される可能性があることは,一般の納税
者にとっては十分に予測可能というべきであり,納税者の予測可能性及び法
的安定性を害するものではないことは明らかである。
-92-
(6)本件の組織再編成における不当性要件の充足の有無について
ア本件合併に至る経緯の概要
P1は,英国のP9グループから,平成17年2月,P2を買収し,完
全子会社とした。
P2は,平成17年5月,通信事業を分割して,P10株式会社に売却
した時点で約695億円の未処理欠損金額(うち平成14年3月期以降発
生分は約666億円)を有していたが,毎年約20億円程度の利益しか出
していなかったため,多額の上記未処理欠損金額を控除するには相当な期
間が掛かると見込まれていた。このうちの約124億円については,平成
21年3月末で繰越期間が経過し,繰り越しができなくなる状況であった
ため,P1の税務室長であるP33(以下「P33氏」という。)は,平
成17年5月頃から,P2の多額の未処理欠損金額をP14グループ内で
有効利用できないかを検討していた。
他方,P2の代表取締役であったP13氏は,P2の株式上場を目指し,
その内容を検討していたが,P1の代表取締役であるP6氏は,1000
億円程度の企業価値にならなければIPO(株式公開ないし株式上場)を
する意味がないと考えており,P1取締役会においては,P2の株式公開
の是非等について再度審議することが確認されているものの,P2は,株
式公開せずに本件合併により解散し,新設分割により設立したP8も,株
式公開していない。
ところで,P1は,平成20年9月頃,資金ミーティングにおいて,リ
ーマン・ショック後のタイトな金融情勢の下で手元流動性を高めておく必
要があると合意しており,しかも,平成15年12月30日,「2015
年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債(CB)」を発行していたと
ころ,本件CBは,その所持人が,平成21年3月31日に,額面金額の
100パーセントに償還日までの経過利息を付して,P1に対し繰上償還
-93-
することを請求する権利を有するものであったため,同年に入ってから本
件CBの市場価格が100円を下回っていた場合,投資家から最大500
億円の償還請求を受ける可能性があることを危惧していた。
このような状況の下で,P1の財務部は,平成20年10月頃,P2を
分社させるとともに,分社後に残った未処理欠損金額を保有する会社をP
1の子会社であるP11株式会社とP15株式会社(以下「P11ら」と
いう。)に合併させるスキームを提案したが,P6氏は,P11らではな
く,原告に合併させることがP14グループ全体にとっては望ましいと考
えた。そこで,P6氏は,P33氏に,P1が原告にP2を売却し吸収合
併させることについて相談し,P33氏は,その中で未処理欠損金額を有
効利用する方法の具体的検討を始め,P2の未処理欠損金額約666億円
を余すところなく利用することとした。
P6氏は,平成20年10月27日,P1の取締役であり,かつ,原告
の代表取締役社長であったP7氏に対し,口頭でP2の株式を原告に譲渡
する旨提案し,P33氏は,同年11月21日,原告側に対し,P33氏
作成の提案書(甲12)をもって,そのスキームを説明した。
P33氏作成の提案書(甲12)にある「ストラクチャー案」には,「ス
テップ①」から「ステップ④」までとして,P8の新設分割並びに原告に
よるP2の買収及び吸収合併について記載されているところ,これは,P
2を設備を保有する会社(P2)と営業及び従業員を承継する会社(P8)
の2つに分割し,原告が,まず,P8の株式を譲り受け,その次に,P2
の株式を譲り受けた(本件買収)上で,P2を吸収合併(本件合併)するとい
うスキームであって,本件合併の期限を平成21年3月末とするものであ
った。
かかるスキームを実行することにより,原告は,平成21年3月期の末
日時点でP2の未処理欠損金額約666億円のうち,約501億円を引き
-94-
継ぎ,その余の約165億円については,P2において,同社に生じる分
割益約140億円と相殺することとされた。なお,P8には,上記分割益
と同額の資産調整勘定(法62条の8第1項)が生じることとなり,同資産
調整勘定は,5年間にわたって減額した上で,損金の額に算入されること
となるものであった(同条4項及び5項)。
本件提案によるP2の売却想定価格は700億円とされたが,そのうち
約200億円は「繰越欠損金の価値」として算出されたものである。本件
提案の後,原告とP1の間で続けられた価格交渉は,原告がP2の未処理
欠損金額を引き継ぐことができることを前提にしたものであったし,平成
21年1月15日,P2の買収価額について,P6氏から,「P1として
は450億円を最低譲渡価額とする」旨の発言があり,これを踏まえて,
原告側で更に検討した結果,同年2月19日の取締役会において,P2の
買収価格を450億円とすることに決定したが,この買収価格には,「繰
越欠損金の節税効果」として約217億円が含まれていた。
ところで,原告は,P2の未処理欠損金額を引き継ぐため,特定役員引
継要件(施行令112条7項5号)を充足し,みなし共同事業要件(施行令
112条7項)を満たす必要があったが,原告には,P1とP5との役員
比率を維持しなければならないという事情があり,P2の特定役員を原告
の特定役員に就任させると,P5側からも原告の特定役員に就任させるこ
とになるため,本件合併によって,P2の特定役員を原告の特定役員に就
任させることはできなかった。そこで,原告は,P2の未処理欠損金額を
引き継ぐために,合併法人である原告の特定役員を増員させない方法で,
形式的であるにせよ,特定役員引継要件を満たす状態を作出する必要があ
った。
P33氏は,本件提案を実行するに当たり,原告に対し,「税務上問題
となる点については,手続面で注意深くやるように」,「この買収のキモ
-95-
は特定役員の就任だから,そこだけは十分注意を払っておくように」との
指示をし,かかる指示を受けて,原告とP1との間で協議が行われ,その
結果,原告は,P7氏をP2の取締役副社長に就任させることを決定した。
P1の財務・税務部門は,本件副社長就任に向けた具体的な作業が行わ
れる以前に,P6氏に対して,P2の未処理欠損金額を原告が利用するに
は,P7氏をP2の取締役(特定役員)に就任させることが必要であること
を伝えており,P6氏は,平成20年11月27日,P7氏に対して,口
頭でP2の取締役副社長に就任することを依頼し,その承諾を得ていた。
以上の経緯を経て,P7氏は,平成20年12月26日,P2の取締役
副社長に就任した。
その後,平成21年2月2日,新設分割によりP8が設立され,P8の
発行済株式の全てが,P2に交付された。
原告は,同月20日,P2からP8の発行済株式の全部を115億円で
譲り受けて,P8を原告の完全子会社とするとともに,同月24日,P1
からP2の発行済株式の全部を450億円で譲り受けて(本件買収),P2
も原告の完全子会社とした。これにより,原告とP2との間には,特定資
本関係(法57条3項)が生じることとなった。その後,原告は,同年3月
30日,原告を存続会社,P2を消滅会社とする吸収合併(本件合併)を行
い,P2の権利義務の全部を承継した。
これらは,P33氏作成の提案書(甲12)で示された「ストラクチャ
ー案」に沿って行われたものであり,それに示された平成21年3月末ま
でに本件合併をするというスケジュールどおりに実行された。
そして,本件合併に伴い,P2の取締役は全員退任し,P7氏以外の者
は,いずれも本件合併後の原告の役員には就任していない。
イ本件副社長就任は,未処理欠損金額の引継ぎに必要な特定役員引継要件
を形式的に充足させることを目的とするものであること。
-96-
以上のとおり,P33氏は,P1において,P2の未処理欠損金額を漏
れなくP14グループ内で活用可能とするため,上記約666億円のうち
繰越期限の迫った約124億円についても活用が可能となるスキームと
して,4段階の組織再編成を内容とする平成20年11月21日付け「ス
トラクチャー案」(甲12)を作成し,その後,当該ストラクチャー案が実
行に移され,それに従って一連の組織再編成が行われた。
この一連の組織再編成においては,本件新設分割を適格分割ではなく非
適格分割とし,これによりP2の平成21年3月期に期限切れとなる未処
理欠損金額にほぼ相当する金額を新設会社の資産調整勘定として計上し,
その後5年間にわたり順次損金算入することを可能とし,もってP2の未
処理欠損金額をP14グループ内で漏れなく利用するため,新設会社であ
るP8を原告の完全子会社とするに当たり,本件新設分割後に「本件買収
及び本件合併」という2つのステップを踏めば足りるところ,あえてその
前に原告がP8を買収する(本件P8買収)という事業上必要がないステ
ップを介在させた。
本件合併に至るまでの一連の行為は,P6氏において,原告にデータセ
ンターを自社保有させるべきであるとの意向があったとしても,それ以上
に,P2が活用しきれないような巨額の未処理欠損金額を原告が引き継い
で利用することで,P14グループ内でその税負担軽減効果を享受すると
ともに,当該税負担軽減効果を分割後P2の売却代金としてP1が享受し,
同社の資金需要を満たすことも不可欠の前提とされていたことを示してい
る。
そして,P33氏ら事務方においては,これを実現するために,個々の
組織再編成行為の順序や時期を変えることによって組織再編税制の個別
規定を意図的に充足又は回避し,税負担の軽減を目的とするスキームを構
築したのである。そうすると,このようなスキームにより組織再編成を行
-97-
うこと自体には,P33氏の企図した租税回避目的以外の目的は見いだし
難いというべきである。
ウP7氏がP2の取締役副社長に就任する事業上の理由は希薄であったこ
と。
本件では,あえて,本件買収(特定資本関係の発生)に先立って,原告
(合併法人等)の社長であるP7氏がP2(被合併法人等)の取締役副社
長に,緊急に就任しなければならない必要性は何ら存在しない。すなわち,
P6氏は,平成19年以降,P2がクラウド事業に進出することの検討を
始めているとの報告を受けており,また,原告がデータセンターを持つべ
き,クラウド事業に進出すべきだということを本件提案(平成20年11
月)の1,2年ぐらい前から常々言っていたと証言しているにもかかわら
ず,本件提案に至るまでの間,P2において原告との協力及びクラウド事
業展開をするための検討を具体的に行ったという事実は認められない。
実際に,P7氏のP2の取締役副社長としての在任期間における職務執
行を見ても,いずれもP2の特定役員としてのものとは,およそ認められ
ないものであり,本件買収までの短期間において,P7氏がP2の特定役
員に就任しなければならない特別の事情があったとは認められない。すな
わち,P7氏は,原告とP2との間に特定資本関係が生ずる直前の平成2
0年12月26日に,慌しくP2の取締役副社長に就任しなければならな
かったことについて,具体的な理由を述べておらず,また,原告がP2を
買収し,両社の間に特定資本関係が発生した平成21年2月24日以前に
おいては,同年1月21日の取締役会に出席したほかは,同月7日のP1
3氏との間の事業方針の会議を行ったぐらいであり,特段,緊急性のある
職務を遂行したものとは認められない。
P7氏は,P6氏から,平成20年11月27日,初めてP2の取締役
副社長就任を要請され,そのわずか約1か月後の同年12月26日には,
-98-
P2の取締役副社長に就任している。P2のP13氏が,P6氏による本
件副社長就任の要請を知ったのは,平成20年11月27日の就任要請の
2週間後の平成20年12月10日より後であって,P2側にP7氏の取
締役副社長就任の要請について意見を聞くことなく一方的に就任が要請
されている。このような経緯から見て,本件副社長就任は,いかにも慌し
く行われたものというべきであるが,その理由は,P33氏が立案した計
画に従い,P33氏作成の提案書(甲12)の「スケジュール案」によれば,
1月中旬以降行われる予定となっていた「○(引用者注:P2を指す。)株
式譲渡」(特定資本関係発生)より前に本件副社長就任を行う税務上の必要
があったことによるものである。
上記のような本件提案以前のP6氏の対応,P7氏の証言内容及び職務
の状況に照らせば,仮にP7氏をP2の取締役副社長に就任させることに
事業上の目的が存在したとしても,特定資本関係が発生する直前の時期に
あえて就任させる事業上の必要性は乏しかったものといわざるを得ない。
エP7氏のP2の副社長という肩書にも特段の事業上の意味は認められ
ず,税務上の目的で付された役職と認められること。
P7氏は,P8の設立に伴い,P2の当初取締役8名とともに,P8の
取締役に就任している。この点,P8が,全従業員に加え,P2の事業の
うちデータセンターの営業・販売及び商品開発に係る事業など重要な部分
を引き継いでいることなどからすれば,仮にP7氏を事業上の理由のため
P2の副社長という職につける必要性があったのであれば,新設されたP
8においても副社長になることが自然であるが,P8におけるP7氏の立
場は,副社長の肩書のない一般の取締役であり,P6氏は,P7氏が新設
されたP8の役員に就任していることすらも明確に認識していない。以上
からすると,P2の副社長という肩書には,事業上の意味は極めて希薄で
あったといえる。
-99-
他方,前記のとおり,税務上の観点からは,P7氏がP2の副社長とい
う肩書を有することは,「特定役員」の要件を満たすために極めて重要で
あった。
このようにP7氏のP2における副社長という肩書に事業上の必要性は
乏しく,専ら税務上の理由から付されたものであるというべきである。
以上に述べたとおり,本件買収が,仮に原告によるデータセンターの自
社保有というP6氏の意向から原告に提案されたものであったとしても,
本件副社長就任そのものは,本件買収の不可欠の前提であったP2の未処
理欠損金額の引継ぎを実現するため,P33氏による意図的な組織再編成
スキームの一環として,P33氏から発案されたものであり,本件副社長
就任が,事業上の理由が希薄であるにもかかわらず特定役員引継要件を形
式的に充足させるという税務上の目的を達成するためにあえて行われた行
為であると認められる。
オ本件合併が共同で事業を営む目的で行われたものであるとは認められな
いこと。
本件合併においては,原告も自認するとおり,被合併法人であるP2の
当初特定役員であるP13氏及びP20氏のいずれについても,本件合併
後に原告の特定役員に就任することには「事業上の必要性が高くないと判
断され」たため,本件合併後に新たに原告の特定役員として引き継がれる
ことは検討されなかった。
このことは,本件合併が,P2の事業を体現する特定役員であるP13
氏やP20氏を大会社である原告の特定役員として引き継ぐことで,共同
で事業を行う目的でされたものでないことを明らかに示すものである。
P7氏がP2の取締役副社長に就任したのは,本件買収により原告と分
割後P2との間に特定資本関係が生じた平成21年2月24日の約2か月
前である平成20年12月26日であり,本件合併が行われた平成21年
-100-
3月30日現在でのP7氏の特定役員在任期間は,わずか3か月間にすぎ
なかった。被合併法人の特定役員として,適格合併に至るまでの就任期間
が短期であったとしても,その者が,合併法人を通じて被合併法人の事業
を共同事業として継続させる役割を担っていく場合もあり得るが,本件副
社長就任については,事業上,特段の必要性,緊急性がないにもかかわら
ず,税務上の観点からのP33氏の助言を受け,慌しく行われたものであ
り,副社長としての肩書自体も,その事業上の意味が極めて希薄であった
と認められる。
また,特定資本関係発生の直前の段階になって,合併法人等の特定役員
が被合併法人等の特定役員と「一人二役」を兼ねるということは,共同事
業を行う場合に通常行われるものではない。むしろ,一般的には,特定資
本関係発生後に,合併に向けて地ならし目的で完全子会社の特定役員に就
任してから,若しくは完全親会社の特定役員としての立場から,業務上の
指示をすれば,合併に向けた準備は容易であり,かつ,それで十分足りる
と考えられる。買収価格をめぐり,せめぎ合いの交渉が行われていた段階
で,買主として交渉している原告が,買収対象企業の取締役副社長に就任
すること自体,組織再編成上の経済取引としても不自然である。一人二役
であれば,常に特定役員引継要件を満たし得ないというものではなく,た
またま,一人の者が複数の法人の特定役員を兼任しており,それぞれの法
人の事業を体現するような立場にあると認められるような場合には,両社
が合併するに当たって特定役員引継要件を充足すると考えても,みなし共
同事業要件を設けた立法趣旨に合致すると考えられる場合はあり得る。し
かしながら,本件副社長就任のように,特定資本関係が生じる直前の時期
に,合併法人の特定役員を被合併法人の特定役員に兼任させておきさえす
れば,特定役員引継要件を充足できるとするのは,正しく,「ためにする
要件作り」であり,特定役員引継要件が想定するものではなく,むしろ,
-101-
原告が施行令112条7項5号の規定振りの盲点を突くような形で,立法
趣旨を逸脱して要件を満たす外形を作出したというべきである。
これらの点に鑑みると,P2の取締役副社長としてのP7氏が,本件合
併の時点において,同社の事業を体現するような者になっていたとは,到
底いえない。
しかも,P2の当初取締役は,本件合併に伴い全員退任し,本件合併後
の原告の役員に就任した者は1人もおらず,本件合併後に共同で事業が行
われることを担保するような分割後P2の特定役員は,一切残っていない
のであるから,施行令112条7項5号の趣旨に照らして考えれば,被合
併法人であるP2の特定役員が全員退任するような適格合併と実質的に
何ら変わりがないと評価される。
カP2の主要事業及び従業員・当初取締役の全員はP8に引き継がれてお
り,本件合併時のP2にP7氏が体現すべき共同で事業を営むべき実態が
あったとは認められないこと。
平成21年2月2日の本件新設分割により,P2のデータセンターの営
業・販売及び商品開発に係る事業に関する権利義務は,データセンターの
設備構築,保守運用に係る事業を除き,P8に承継された。
具体的には,P2は,ソリューション事業本部及びビジネス開発本部に
おいて行っていたデータセンターの営業,役務提供及びサービスの開発に
係る事業に関する契約の一切について,契約上の地位をP8に承継したほ
か,P2のデータセンターの営業・販売及び商品開発に係る事業に関する
一切の知的財産権及びノウハウ並びにこれらの使用権及び実施権をP8
に承継した。また,P2は,P8の設立により,それまでP2に在籍して
いた従業員全てについて,その労働契約をP2と同一の条件でP8に引き
継ぎ,以後はP8が同社に在籍する従業員として雇用している。
そして,P2の当初取締役のうち本件合併後,原告の取締役に就任した
-102-
者はおらず,P2の当初取締役は全員P8の役員に就任し,同社に引き継
がれている。
このように,分割後P2は,データセンターの設備そのものと多額の未
処理欠損金額を残すのみで,従来の事業のうちデータセンターの設備構
築,保守運用に必要な事業のみを行うところとなっていた。
この点,P6氏は,原告とP2の協業によるクラウド事業の推進のため,
原告によるP2買収を提案した旨述べるが,実際には,上記のとおり,P
2の主要事業,従業員及び役員はP8に引き継がれ,本件合併時のP2(分
割後P2)に原告と共同で事業を営むべき実態があったとは認められず,
この点でも,本件合併が施行令112条7項が想定するような共同事業を
行う目的で行われたものとは認められない。
すなわち,P2の取締役副社長としてのP7氏が体現すべき同社の事業
そのものが,実態を伴っていないものとなっていたというべきである。
キ本件副社長就任を容認すれば,組織再編税制の趣旨・目的に著しく反す
る結果となり,「不当」であること。
以上のとおり,本件合併に至るまでの一連の行為は,P2の未処理欠損
金額を,言わば,「税金を減少させる権利」として,原告とP1との間で
自由に売買したものと評価できるものであって,本件合併は,法57条3
項の立法趣旨に照らして,正に未処理欠損金額の引継ぎを制限すべきもの
に該当する。原告らは,同項が設けている制限を潜脱するため,事業上,
特段の必要性も緊急性もないのに本件副社長就任を行い,共同事業が行わ
れることを担保するような実質を有する特定役員が存在しないのに,本件
合併の実態とかい離した「共同で事業を営む適格合併等」の形式を意図的
に作出したものである。
このように,本件副社長就任は,組織再編税制の個別規定を形式的に充
足させることを主たる目的とした行為であり,本件副社長就任を容認すれ
-103-
ば,当該規定の趣旨・目的に著しく反する結果となる。したがって,本件
合併に至るまでの一連の行為における本件副社長就任は,組織再編税制に
おける法制度を濫用して税負担の軽減を図る行為であって,法132条の
2の適用上,法人税の負担を不当に減少させる結果をもたらすと評価され
るべきである。
(7)本件副社長就任が否認の対象となる行為か否かについて
本件副社長就任は,P14グループ全体の税務メリットの享受という目
的の下,P1の要請,ひいてはP14グループ全体の要請に応じた原告の
行為といえる。すなわち,P2の未処理欠損金額を引き継いでこれを直接
有効利用する立場にある原告が,これを実現させるべく立案されたP1の
計画に関与しないはずがない。原告の内部においては,特定役員引継要件
を満たすべく,原告の特定役員のうちの誰かを本件買収前にP2の特定役
員に就任させる必要があることについて認識した上で,P7氏をP2の特
定役員に就任させる旨決定したことが明らかである。
本件副社長就任は,原告の代表取締役であるP7氏が,原告としての意
思決定を行い,原告の意思決定に基づき,原告の業務執行として,自らを,
将来的に合併することが想定されていたP2の取締役副社長に就任させた
ものと認められる。
このように,本件副社長就任は,決してP7氏個人の行為ではなく,原
告の行為又は原告の行為と同視し得る行為であり,法132条の2の規定
により否認することができる。
2原告の主張
(1)本件副社長就任に至る経緯の概要
P2は,平成18年頃から株式上場を目標に掲げ,平成18年から平成2
0年までにかけて,データセンター事業を中心に順調に業績を伸ばしてい
た。
-104-
しかしながら,それまでのP2のデータセンター事業は,サーバの設置場
所を賃貸するビジネスモデルであり,大きな付加価値の創出が可能ではない
ため,遅くとも平成19年頃には,P2は,次の事業戦略・次世代のデータ
センター事業の在り方として,クラウドコンピューティング事業へ進出する
ことの検討を始めていた。
また,P2は,目標であった株式上場について,平成20年3月19日,
P1財務部の一部門である関連事業室に助言を求めながら進めてきた分社
化スキームによる株式上場案(甲17)をまとめた。分社化スキームとは,
P2が新設分割により,P2の事業を承継する会社と未処理欠損金額を継続
して保有する会社を分離し(すなわち,P2の事業の主要な資産・負債を新
設分割設立会社に承継させて当該新設分割設立会社を設立し),その上で,
新設分割設立会社の上場を目指すというものであり,未処理欠損金額のある
会社(すなわちP2)のままでは上場審査の過程で支障が生じる可能性があ
るために考案されたものである。そして,平成20年3月27日開催のP1
取締役会において,P1のグループ企業で,P2と類似する事業を行うイン
フラ事業会社であったP11らなどの会社との位置付けを整理することな
どを条件として,株式上場の準備開始の承認を得た。
株式上場準備を始めることについてP1の了解を得たP2は,分社化スキ
ームによる株式上場案をより具体化し,平成20年7月16日の同社取締役
会において,7月16日分社化スキーム案(甲22の「当初案」)を報告し
た。他方で,P2は,P34株式会社に上場のための事業の評価を依頼した
ところ,同社は,平成20年7月17日,未処理欠損金額による影響を含ま
ないP2の事業価値について,約293億円ないし約358億円と算定して
きた。当該事業価値は,当時P1及びP6氏が子会社の上場を認めるにあた
り最低限必要と考えていた時価総額1,000億円を大きく下回るものであ
った。
-105-
P2としては,7月16日分社化スキーム案をもって株式上場に向けた具
体的な準備に入りたかったものの,それらの報告を受けたP2取締役兼P1
取締役であるP16氏及び関連事業室としては,約350億円という事業価
値では株式上場を行うには低過ぎるため,子会社上場に必要と考えていた時
価総額1,000億円に達するためには,より成長戦略を明確にしなければ
ならないと考え,また,7月16日分社化スキーム案では未処理欠損金額の
全てを処理することは困難であったことから,7月16日分社化スキーム案
をもってP1取締役会に諮ることは見送り,引き続き検討を行うことにし
た。そこで,P2において時価総額1,000億円達成に向けた具体的な成
長戦略として描かれたのが,クラウドコンピューティング事業の具体化であ
った。
他方,P1の関連事業室においては,P2の株式上場に向けた分社化スキ
ームの検討を更に進め,税務上の観点については,P1の税務顧問でもある
P33氏にも相談の上,事業譲渡案及び単純分社化案を作成し,平成20年
9月中旬頃,両案をP2に示しスキームの検討を再開させるとともに,引き
続き,P2とP11らとの合併時期等について検討を行った。事業譲渡案と
は,基本的な分社化スキームは変更せずに,P2が新設分割によってP2が
締結している契約を承継させる新設分割設立会社を設立した後に,P2に資
産としてのデータセンター(土地・建物等)を残した上で,当該新設分割設
立会社にP2のデータセンターの営業・販売及び商品開発に係る資産・負債
などを事業譲渡し,設備保有会社となったP2を,P11らと合併させる案
(甲22の「P33先生提示案」)である。この事業譲渡案は,新設分割設
立会社が株式上場することが見込まれていたこと等から,新設分割が非適格
分割となることが想定され,非適格分割によりP2に生じるのれん等の譲渡
益と,その後の事業譲渡による譲渡益を,平成21年3月末に消滅する未処
理欠損金額に充当するとともに,P11らとの合併により,平成21年4月
-106-
以降に消滅期限が到来する未処理欠損金額を処理するという案であった。他
方で,単純分社化案とは,事業譲渡案における会社分割及び事業譲渡という
2つのステップの代わりに,P2にP11らとシナジーのある資産としての
データセンター(土地・建物等)を残した上で,P2がデータセンター事業
の営業・販売及び商品開発に係る資産・負債などを新設分割設立会社に承継
させる新設分割を行うという1つのステップしか行わない案(甲22の「そ
の他」案)である。この単純分社化案は,事業譲渡案と同様に新設分割設立
会社が株式上場することが見込まれていたこと等から,新設分割が非適格分
割になると考えられ,非適格分割によりP2に生じる税務上の評価益によっ
てP2が保有する平成21年3月末に消滅する未処理欠損金額を処理し,そ
の後のP11らとの合併で平成21年4月以降に消滅期限が到来する未処
理欠損金額を処理するという案であった。その結果,関連事業室は,これら
の両案のいずれかを採用する方向で具体的な検討を進めていくことを基本
的な方針とした。
P16氏は,平成20年10月中旬頃に,P6氏に対して,上記の基本的
な方針,すなわち,P2が,クラウドコンピューティング事業を具体的な成
長戦略と位置付けるとともに,株式上場のために新設分割をし,残った親会
社(P2)については同じデータセンター保有会社であるP11らと合併さ
せる,との方針を口頭で説明した。
P6氏は,かねてから,検索サービスにおいてシェアを拡大していたP1
7への対抗並びに近い将来において成長の見込めたクラウドコンピューテ
ィングサービスの品質確保及びデータセンターに係るコストの更なる削減
のため,原告はデータセンターを自社保有すべきであると考えていた。他方,
当時のP2の事業の本質は不動産賃貸業であり,P2はクラウドコンピュー
ティング事業を行うために必要不可欠なインターネットの経験も知見も全
く持っていない,データセンター事業会社であった。P6氏は,P16氏か
-107-
ら,上記のとおり説明を受けたが,かねてからの考えに基づき,それであれ
ば,P2のデータセンターはP11らではなく原告がP2を買収・合併して
引き継ぐ(原告が自社保有する)のが原告のビジネス及びP14グループ全
体での企業価値の向上という観点から最もプラスとなると判断し,平成20
年10月27日,P7氏に対して,本件提案を行った。
また,P6氏は,クラウドコンピューティング事業には,インターネット
ビジネスのノウハウが不可欠であるところ,P2にはインターネットビジネ
スのノウハウは蓄積されておらず,P2の当時の経営陣の中にもクラウドコ
ンピューティング事業に必要不可欠なインターネットビジネスに精通した
者がいないことを憂慮し,P1取締役の中で最もインターネットビジネスに
精通しており,またそのような知見を持った経営の第一人者として広く認識
されているP7氏がP2の経営陣として適任と考え,P1の取締役会があっ
た平成20年11月27日,P7氏に対して,上記の理由を説明した上で,
P2の取締役副社長就任を要請した。
P1取締役会の機会にP6氏から本件副社長就任の要請を受けたP7氏
は,同日,P6氏に対し,本件副社長就任を承諾する意思を伝えた。その理
由は,第一に,P1の取締役としての立場から,本件副社長就任を受ければ,
P6氏の期待に応え,クラウドコンピューティングを含むP2へのインター
ネットビジネスのノウハウの提供,同事業分野における原告との協業をP2
の内部から実行することのみならず,P2の既存のデータセンター事業にお
いてもやはりP2内部からコスト構造を改善することを通じて,株式上場に
向けたP2の企業価値の向上に貢献し,P14グループの価値最大化に資す
ることが可能であると考えたためである。また,P1取締役の中でインター
ネットビジネスの専門家として最も知見を有しており,当時,P1取締役の
中で唯一データセンター事業会社(株式会社P18)の経営にも関与したこ
とがあり,データセンターを利用してサービスを提供するP21の取締役を
-108-
務めていたこともある自分しか,就任の適任者はいないという考えもあっ
た。なお,P7氏は,原告とのP19データセンターに係る協業関係も踏ま
え,P2の既存のデータセンター事業においてP2の内部からコスト構造を
改善することができることは原告の代表取締役の立場からもメリットであ
ると感じていたが,P7氏の認識は,本件副社長就任は主にP1取締役とし
ての立場で行ったというものであった。
そこで,P7氏は,本件副社長就任の要請を受諾することとした。
平成20年12月10日,P2代表取締役社長であったP13氏は,P6
氏から,P2の株式を原告に譲渡する提案をしている旨の話を聞かされると
共に,クラウドコンピューティング事業を成長の柱として株式上場を目指す
のであれば,インターネットビジネスのノウハウが必要不可欠であり,そう
であれば,まずは原告との提携を進めるとともに,インターネットビジネス
の専門家であるP7氏にP2の経営に関与してもらった方が良いとの提案
を受けた。
これを受けたP13氏は,原告との提携を進めることで,P2は既存のデ
ータセンター事業において原告という重要な顧客を確保できるとともに,P
7氏にP2の経営に関与してもらうことにより,P7氏のインターネットビ
ジネスの経験・ノウハウを享受することができ,原告との協業を含めクラウ
ドコンピューティング事業を促進することができるという事業上のメリッ
トを感じたため,同日中に,P7氏に対し,P2の今後の事業戦略を説明す
るとともに今後の一層の協業関係の深化を示唆する挨拶をメールで行った。
なお,P1の交渉担当者は,P6氏からP7氏に対する就任要請の後の平
成20年12月上旬に,原告の交渉担当者に対して,P7氏又はP23をP
2の取締役としたい旨をメールで伝え,原告の交渉担当者は,P7氏がP2
の取締役に就任すると回答した。P1の交渉担当者が,原告の交渉担当者に
対して,上記のようなメールを送信したのは,本件副社長就任がP6氏及び
-109-
P7氏というP1の経営陣の間において平成20年11月27日には事業
上の目的で既に決まっていたことを未だ知らなかったからにすぎない。
(2)P7氏のP2取締役副社長としての職務遂行の状況
ア取締役会等への出席・発言
P7氏は,合併に伴う解散までの間P2の取締役副社長を務め,その間
に開催された同社取締役会のうち,特別利害関係のある取締役に該当する
議案が上程されており法的に出席できない取締役会を除き,文字どおり全
ての取締役会に出席又は書面による議決権を行使した。
いうまでもなく,P2の取締役会はP2の業務執行の意思決定に係る会
社法上の機関であり,任意の会議体である経営会議とは異なる。また,実
際のP2社内の位置付けとしても,経営会議は「事務的な話」(本件更正
処分に先立つ調査段階でのP13氏の処分行政庁への申述参照。)つまり
主として業務執行の実務面を議論する場であり,いわゆる経営判断を要す
る業務執行の意思決定に係る事項は全て取締役会に上程され,その審議を
要していたものである。
P7氏は,具体的には,例えば,平成21年1月21日の取締役会では,
P2の2009年度予算及び中期計画についての議案において議決権を
行使しているが,当該計画は原告からの買収及び合併を前提としないもの
であるから,少なくとも同日におけるP7氏の議決権はP2の取締役副社
長として行使されたものである。
また,平成21年2月25日に書面開催された取締役会では,P7氏は
自身の特別利害関係性について,P2の取締役会事務局に問い合わせると
共に,役員報酬額に関する議案についても質問を行い,平成21年3月1
8日にP2とP8の取締役会が連続して開催された際には,決算報告及び
今期損益見通しに関し,取締役会の席上で発言を行うなど,P2及びP8
の経営に積極的に参画した。
-110-
イP2とP8間の事業提携契約締結への関与
さらに,P2とP8が分社した平成21年2月2日以降は,P2とP8
の業務提携契約の内容についても,P2の取締役副社長として確認をし,
承認を行うなど,その職責を全うした。
ウP21とP2との業務提携への関与
当時原告が議決権の65パーセントを保有し,レンタルサーバーサービ
ス事業を展開していたP21とP2(会社分割後はP8。以下本項にて同
じ。)とのシナジーを期待して,P2とP21との間の業務提携契約の締
結をP2社内に提案したところ,P13氏はこれを承諾の上,平成21年
2月26日,P7氏との間の会談で,提携に関する人員配置等の具体的な
方針を報告し,P7氏が当該提携案を確認・了承した。そして,平成21
年3月12日付でP2・P8の取締役P35とP13氏がそれぞれP21
の代表取締役社長と取締役に就任している。
エ原告代表取締役兼P2取締役副社長としてのP2への関与
加えて,原告の代表取締役社長兼P2取締役副社長との立場からは,原
告とP2との合併準備に際しても,P8の社名決定や決裁フローの確立に
おいて,平成21年2月26日及び同年3月27日にP13氏と協議をし
つつ意思決定を行うなど,両社取締役を兼務していたことで,本件の手続
の円滑化にも寄与をしている。
オP8の取締役としての関与
なお,P7氏は,本件合併以後もP2のデータセンターの営業,販売及
び商品開発に係る事業に関する権利義務を承継したP8の取締役として,
P2の取締役副社長として経営判断に関与していたコスト構造の改善,原
告との協業等について,P8取締役会でほぼ毎回のように積極的に発言を
し,P8の事業にも貢献している。
P7氏は,P2の設備投資計画については,徹底したコスト削減を実現
-111-
した形でなければ,新規のデータセンターに対する投資は謙抑的であるべ
きの方針を示し,P7氏の方針に従い,P2における新データセンターの
投資計画はいったん凍結された。データセンターの運営を事業内容とする
P2にとって,データセンターの設備投資計画は,経営上極めて重要な判
断事項であったが,P7氏が示した設備投資計画の方針,殊にコスト面を
慎重に検討すべきという経営姿勢は,P2における設備投資計画全体につ
いても強い影響力を有するものであった。
カP2の営業方針等についての提案,営業活動への貢献
P7氏は,P2による他社との協業についても副社長として貢献したい
との考えや,P2の取締役P36らからの求めて応じて,P7氏でなけれ
ば面会の機会すらないようなIT業界の大物経営者に対して直接,P2
(P8)のサービスを利用するよう伝えるなどしており,P7氏が有する
人脈を活用して,P2(P8)の営業活動すなわち取引先・契約先の開拓
に貢献している。
さらに,P7氏は,本件副社長就任当時から,P2も早期にコロケーシ
ョン型からクラウドコンピューティング型へビジネスモデルをシフトす
べきだと考えていたこともあり,機会があるごとに,P2の役員らに対し
てその旨の意見を述べていた。
(3)本件副社長就任の事業上のメリット
アP6氏は,まずはP1取締役の中で最もインターネットビジネス及び個
人・小規模事業者を顧客とする事業に精通しており,またそのような知見
を持った経営者の第一人者として広く認識されているP7氏を,P2の取
締役副社長に選任し,主としてコスト構造の改善や営業協力といった面に
おいてP2の経営に関与させ,その上で,積極的に本件提案の合意に向け
た交渉を進めることがP1にとって望ましいと考えるとともに,原告はP
2にとって最大顧客であったところ,その優良顧客を逃がさないために
-112-
は,やはり原告の代表取締役社長であるP7氏にP2の取締役副社長に就
任してもらうのが適切であると考えた。P6氏としては,平成20年10
月27日に行った本件提案が合意に至らず,P1実務部門の原案どおりP
11らと合併することになった場合でも,P2がクラウドコンピューティ
ング事業に参入し,企業価値を高め,その結果としてP8の株式上場が実
現されれば,P14グループ全体にとって利益となるところ,クラウドコ
ンピューティング事業に参入するには,インターネットビジネスのノウハ
ウが不可欠であり,インターネットビジネスのノウハウをP2に持たせな
ければ,企業価値を高めることはおぼつかず,インターネットサービス事
業の経験・ノウハウがあり,マーケットが広大である個人・小規模事業者
を顧客基盤とするビジネスに関する知見がある者がP2の経営陣に必要
と考えていた。
イP7氏は,P1の取締役としての立場から,本件副社長就任を受ければ,
P6氏の期待に応え,クラウドコンピューティングを含むP2へのインタ
ーネットビジネスのノウハウの提供,同事業分野における原告との協業を
P2の内部から実行することのみならず,P2の既存のデータセンター事
業においてもやはりP2内部からコスト構造を改善することを通じて,株
式上場に向けたP2の企業価値の向上に貢献し,P14グループの価値最
大化に資することが可能であると考えた。また,P1取締役の中でインタ
ーネットビジネスの専門家として最も知見を有しており,当時,P1取締
役の中で唯一データセンター事業会社(株式会社P18)の経営にも関与
したことがあり,データセンターを利用してサービスを提供するP21の
取締役を務めていたこともある自分しか,就任の適任者はいないという考
えもあった。
なお,P7氏は,原告とのP19データセンターに係る協業関係も踏ま
え,P2の既存のデータセンター事業においてP2の内部からコスト構造
-113-
を改善することができることは原告の代表取締役の立場からもメリット
であると感じていたが,P7氏の認識は,本件副社長就任は主にP1取締
役としての立場で行ったというものであった。
ウP2においては,平成19年7月の覚書を受けて主に原告のために建設
した北九州の第1データセンターが平成20年10月2日に竣工するな
ど,データセンター事業者として原告との協業関係が密なものとなってい
た(原告はP2にとって最大顧客であった)一方,P1により,株式上場
という目標及びクラウドコンピューティング事業への参入計画が再検討
を促されていた。そのような中,平成20年12月10日,P13氏はP
6氏から,P2株式を原告に譲渡する提案をしている旨の話を聞かされる
と共に,P2として株式上場を目指すのであれば,インターネットビジネ
スの専門家であるP7氏に何らかの形でクラウドコンピューティング事
業を含めた今後のP2の成長戦略,事業戦略について同社の経営に関与し
てもらったほうが良いとの提案を受けた。P13氏も,P7氏のインター
ネットビジネスにおける経験及び能力を信頼し,P2にとって最大顧客で
ある原告(及びP7氏)との関係の深化は,P2の事業の安定をもたらし,
有益な影響を及ぼすと判断していた。
エP7氏は,P2の時価総額を1000億円に近付け,P2のたっての要
望であった株式上場を目標に,P2及び原告におけるクラウドコンピュー
ティング等の事業分野への進出のニーズが高まっていた当時の事業環境
の中で,経営者としての経験及びインターネットビジネスの専門知識を活
かし,本件副社長就任の直後から本件合併に至るまでの間,原告との協業
によるシナジー創出の可能性に意を払いながら,P2の経営企画,事業戦
略に直結する経営上の重要事項であった,中小企業向けインターネットビ
ジネスへの参入,中期経営計画の策定,設備投資計画への指示及び取引
先・契約先の開拓等の職務を遂行していたものである。
-114-
かかる事実関係に照らせば,本件副社長就任は,P7氏において特定役
員として職務執行する意思もなければ職務執行の客観的事実もおよそ一
切存在しない場合などとは到底いえず,「仮装的」,「名目的」,「形だ
け」,「名前だけ」といった場合とは完全にかけ離れているものであるこ
とが明白である。本件副社長就任は,経済社会において通常行われる,租
税上の考慮以外にも正当な事業目的ないし理由があることが明らかな行
為である。
オ一般に我が国の経済社会において非常勤役付役員が行っている職務は,
当該会社の常勤役付役員が行っている職務とは全く異なっており,非常勤
役付役員は,取締役会に出席して重要な業務執行に関する報告を受けて質
問を行ったり,議決権を行使したりすることによって適正な事業運営を確
保することや,常勤役付役員からの相談を受けて重要な経営課題に対して
大局的な見地から指導を行うことなどを,基本的な職務としている。その
ため,非常勤役付役員は,常勤役付役員と異なり,直属の部下や指揮命令
系統を有しないのが通常である。
P7氏は,本件副社長就任後,就任の目的であったP2のコスト削減や
原告との事業シナジーの追求を達成するため,取締役会への出席だけにと
どまらず,P2の代表取締役であったP13氏と複数回にわたりP2の経
営方針に関して会議を行うなど,経営及びインターネットビジネスの専門
知識に基づき,事業計画の策定,重要な意思決定及び営業方針の決定とい
ったP2の経営の中枢に実際に参画していたのであって,上記で述べた一
般の経済社会における非常勤役付役員の職務を十二分に務めていたもの
といえる。
P2の非常勤取締役副社長であったP20氏が,本件合併後に原告の特
定役員となることにより特定役員引継要件を問題なく満たすことができ
る人物であったことについては,被告もこれを明示的に認めているとこ
-115-
ろ,P20氏がP2において行っていた職務は,P2の取締役会に出席し,
報告事項・決議事項から重要な業務が適正に行われているかどうかをチェ
ックすることや,P2の常勤役員からでは見えにくい経営上・事業上の問
題について指摘することなどであった。このようなP20氏のP2におけ
る職務の内容と比較すると,P7氏は,P20氏と匹敵するか,それ以上
の職務を行っていたというべきである。
両者に相違点があるとすれば,P2の取締役副社長としての就任期間・
就任時期以外にない。このことからすると,被告は,P7氏やP20氏の
職務執行の具体的態様等には一切触れず,P7氏の就任期間が(被告の考
えるところの相当な期間より)短期であること(ないしは本件買収の(被
告のいう)直前に就任したこと)のみを根拠として,P7氏の特定役員該
当性を否認しようとしているとみるべきである。
そして,本件において,P7氏がP2取締役副社長に就任した平成20
年12月26日の時点では,本件買収及び本件合併が実行されるかどうか
は未定であったのである。そうである以上,本件副社長就任から特定資本
関係の発生までの期間を問題にすることは,後付けの結果論にすぎない。
本件副社長就任の後,原告において事業上のメリットについて真摯な検討
がなされ,さらに,原告及びP1において最も重要な株式譲渡契約の条件
であった譲渡価額について当事者間の対等な交渉の結果合意に達したこ
とにより本件買収及び本件合併が最終的に実行された結果,文字どおり結
果的に,P7氏の本件副社長就任から本件買収までの期間が2か月程度と
なったにすぎない。
(4)P1が原告に対して本件買収に際して差入書を作成したことは何ら不自
然ではなく,未処理欠損金額の承継の否認の可能性とは関係がないこと。
未処理欠損金額を本件買収の対価に織り込むことはM&Aの実務上当然で
あり,そのこと自体何ら不自然・不合理と評価されるべきことではない。他
-116-
方,買主である原告(の経営陣)にとっては,対価のうちの未処理欠損金額
による税効果相当分は,実現が確定した資産とまではいえないにもかかわら
ず,その対価を確定的に支払うということはリスクにほかならない。そこで,
買主としては,当該リスクを回避するため,売主に対し表明保証及びそれに
違反した場合の補償を積極的に求めることとなるのもまたM&Aにおいて
は当然である。そして,このような表明保証及び補償の合意がされることは,
M&A実務のいわば常識であり,何ら特異なことではない。
なお,原告が未処理欠損金額相当分を,経済的価値の実現が確定した資産
とまではいえないと認識していたことをもって,原告が税務上の否認リスク
が高いことを認識していたことには決してならない。すなわち,M&Aにお
ける表明保証及び補償は,たとえ買主としては買収に際し問題ない(リスク
実現の可能性は低い)と判断している事項であっても,およそ買主にとって
不確定な事項である限りは,その不確実性に対する責任に起因して生ずるこ
とが完全には否定できない損失に関するリスクを売主に転嫁するために合
意されるものであり,これがM&Aの通常の実務である。
本件についても,原告がP1から差入書を得たのは,法132条の2につ
いては公表先例が一切存在しなかったことも含め,未処理欠損金額の承継が
まさに不確定であるからというそれだけの理由であり,本件買収に係る株式
譲渡契約書において合意されているその他のP1による表明保証の事項及
び同社がこれに違反した場合の補償責任と同様,原告において特にそれが誤
りであるリスクが高いなどと認識していたからではない。むしろ差入書を得
ずに,仮に万一未処理欠損金額の承継が否定された場合,P7氏を含む原告
の経営陣は,M&Aにおいて当然のことを怠り,原告に課税相当額の損害を
与え,それこそP1を特別扱いして取引を実行したものとして,経営上の責
任を問われかねなかったのである。
本件副社長就任は,法132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる」
-117-
に該当すると評価される余地はないというべきである。
(5)本件副社長就任が否認の対象となる行為か否かについて
本件副社長就任は,①P7氏をP2の取締役に選任する旨のP2の臨時株
主総会決議及びP1による議決権の行使,②個人としてのP7氏の承諾の意
思表示並びに③P7氏を副社長に選定する旨のP2の取締役会決議のみに
より行われたものであり,本件副社長就任に関し,原告の行為はどこにも存
在しない。
すなわち,原告においては,役員が他社の役員に就任する際の決裁手続を
定めた社内規程はなく,各役員は自己の判断で他社役員に就任することにな
っている(他方,従業員が他社の役員に就任する場合には,原告内における
所定の承認手続を要することとなる。)。P7氏は,P6氏から打診を受け
た際,自己の判断で本件副社長就任を承諾し,P2の取締役副社長に選任さ
れたのであって,この間,原告(社内組織,会議体などを含む。)において
本件副社長就任の是非について議論されたことはなく,原告がそれを行う理
由もなかった。P7氏の選任手続は,P2の株主総会においてP1の議決権
行使によりされているのであり,議決権行使に関し原告が何らかの積極的な
依頼や働き掛けを行った事実もない。つまり,本件副社長就任は,P6氏が
P1代表取締役社長としてP1取締役としてのP7氏にグループ全体のメ
リットになるがゆえに依頼し,P7氏においても事業上の目的から就任を承
諾し,P1の議決権行使により実現したものである。
以上のとおり,法人としての原告がP7氏をしてP2の取締役副社長へ就
任させた行為なるものは一切存在しないのであり,本件副社長就任に対して
そもそも原告に法第132条の2を適用して否認することはできない。
第3本件更正処分に理由付記の不備があるか否か(争点3)について
1被告の主張
本件のように青色申告に係る法人税について更正処分をする場合には,更正
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処分の理由を付記しなければならないものとされているところ(法130条2
項),帳簿書類の記載自体を否認して更正処分をする場合においては,単に更
正処分に係る勘定科目とその金額を示すだけでなく,そのような更正をした根
拠を帳簿の記載以上に信憑力ある資料を摘示することによって具体的に明示
することを要するが,帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正処分をす
る場合においては,付記された理由が,そのような更正処分をした根拠につい
て帳簿の記載以上に信憑力のある資料を摘示するというものでないとしても,
処分庁の恣意の抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を
充足する程度に具体的に明示するものである限り,理由の付記として欠けるも
のではないと解される(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集3
9巻3号850頁)。
本件更正処分等は,帳簿書類の記載自体の信憑性を否認しているわけではな
く,組織再編成に係る原告の行為又は計算が法人税の負担を不当に減少させる
結果となると認められるか否かという法的評価を原告と異にして更正したも
のであるから,上記のうち,後者の場合に当たるものであるところ,本件更正
処分等に係る通知書(甲1)には,更正の理由として,原告がP7氏をP2の取
締役副社長に就任させた行為を含む,本件買収及び本件合併並びにこれらの実
現に向けられた原告の一連の行為が,施行令112条7項5号に規定する要件
(特定役員引継要件)を形式的に満たし,P2の未処理欠損金額を原告の欠損金
額とみなして損金の額に算入することを目的とした異常ないし変則的なもの
であり,その行為又は計算を容認した場合には,法人税の負担を不当に減少さ
せる結果となると認められるものであることから,P2の未処理欠損金額を原
告の欠損金額とみなさない旨を示し,「P7氏の副社長就任は,特定役員引継
要件を満たすための形式的なものであったに過ぎないと認められます。」と明
記している。その記載内容を見れば,本件副社長就任を含む原告の一連の行為
又は本件副社長就任をもって特定役員引継要件を満たしているとする原告の
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計算に対し,処分行政庁が法132条の2を適用し,P2の未処理欠損金を原
告の欠損金額とみなさないで原告の法人税の課税標準等を計算したこと及び
その法的判断に至った理由は明らかであり,もって,原告のいずれの行為が法
人税の負担を不当に減少させる結果となると認められ,未処理欠損金を原告の
欠損金額とみなさないかという法的判断に至った理由を示しており,原告には
不服申立てをするに当たって十分な理由を知らせたといえ,上記のような理由
付記制度の趣旨目的を充足する程度の理由の付記がされているものというべ
きである。
したがって,本件更正処分等には,その理由付記に不備はなく,原告の主張
は失当である。
2原告の主張
平成22年6月29日,麻布税務署長は,平成20年4月1日から平成21
年3月31日までの事業年度について原告が行った法人税の確定申告に関し,
適用法条を始め法的根拠を一切記載せず,さらには,原告のいかなる行為を租
税法上否認したのかすら示さずに,P2の未処理欠損金額を原告の繰越欠損金
とみなすことを認めない旨の更正処分(本件更正処分)を行った。
具体的には,原告は,本件更正処分が法57条2項,3項や施行令112条
7項といった個別の課税根拠規定の解釈適用を根拠としてされたものか,又は
個別の課税根拠規定を超えた包括否認規定を根拠としてされたものか,また,
包括否認規定であるとしても法132条1項によるものか,法132条の2に
よるものかといったことを,本件更正処分の更正の理由からは,文字どおり一
切了知することができなかった。
さらに,本件更正処分の更正の理由は,「本件一連の行為」というその外延
が極めて曖昧な概念を持ち出しているが,これが本件更正処分の根拠規定(こ
れ自体更正の理由からは全く不明であることは上記のとおりであるが)との関
係でいかなる意味を持つのかも全く不明であった。仮に,根拠規定が包括否認
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規定であると解した場合でも,更正の理由からは,「本件一連の行為」が否認
の対象たる行為とされているのか,また,その概念に含まれる特定の個別の行
為が否認の対象とされているのか,さらには,「本件一連の行為」とは関係な
い「計算」が否認の対象とされているのか,原告は全く了知することができな
かった。かように,本件更正処分は極めて杜撰かつ異常な内容であった。

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