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平成17年3月29日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成15年(ワ)第611号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成16年12月14日
判          決
主文
1 被告社会福祉法人相和福祉会及び被告Aは,原告Bに対し,連帯して金2937万1
571円及びこれに対する平成14年9月18日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
2 被告社会福祉法人相和福祉会及び被告Aは,原告Cに対し,連帯して金2937万1
571円及びこれに対する平成14年9月18日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,原告らと被告社会福祉法人相和福祉会及び被告Aとの間に生じた費
用については,これを2分し,その1を被告社会福祉法人相和福祉会及び被告Aの負担
とし,その余を原告らの負担とし,原告らと被告D及び被告Eとの間に生じた費用につい
ては,原告らの負担とする。
5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告ら
(1) 被告らは,原告Bに対し,連帯して金6559万5046円及びこれに対する平成14年
9月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告らは,原告Cに対し,連帯して金6559万5046円及びこれに対する平成14年
9月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は,被告らの負担とする。
(4) 仮執行の宣言
2 被告ら
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は,原告らの負担とする。
第2 事実関係
 本件は,被告社会福祉法人相和福祉会(以下「被告法人」という。)経営のめぐみ保育
園(以下「本件保育園」という。)の園舎屋上に設置した駐車場から乗用車が転落し,園
庭にいた園児が死亡した事故(以下「本件事故」という。)につき,同園児の父母が,
① 被告法人に対して,幼児保育委託契約による安全配慮義務不履行責任,民法709
条による安全配慮義務違反の不法行為責任ないし保育士の同義務違反に関する同法
715条1項の使用者責任,上記駐車場の設置又は保存の瑕疵による同法717条1項
の土地工作物所有者責任に基づき,
② 被告法人の代表者理事D(以下「被告D」という。)及び本件保育園の園長E(以下
「被告E」という。)に対して,安全配慮義務不履行責任,民法709条による安全配慮義
務違反の不法行為責任ないし保育士の同義務違反に関する同法715条2項の監督者
責任に基づき,
③ 上記乗用車の運転者被告A(以下「被告A」という。)に対して,自動車損害賠償保障
法(以下「自賠法」という。)3条本文ないし民法709条の不法行為責任に基づき,上記
園児の損害及び原告ら固有の慰謝料として,各原告につき,連帯して金6559万5046
円及びこれに対する本件事故の日である平成14年9月18日から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実(証拠を示した部分以外は当
事者間に争いがない。)
(1)ア 原告らはF(平成11年6月26日生,以下「F」という。)の父母である。
イ 被告法人は,名古屋市a区b町cd番地f所在の本件保育園を経営しているものであ
る。
 被告Dは,被告法人の代表者理事であり,被告Eは,本件保育園の園長である。
ウ 原告らは,平成13年4月ころ,被告法人との間で,Fについて,幼児保育委託契約
(以下「本件保育委託契約」という。)を締結した。
(2) 本件事故の発生(甲3ないし21,23ないし26,証人G,同H)
ア 本件保育園は,園庭の西側に二階建ての園舎があり,園庭の北側と南側にも園舎
があり,園庭を囲んでコの字型(北が下)に園舎が配置されている状態である。 園庭の
北側が本件保育園の正面入口であるところ,平坦な園庭の南側は崖下となっている。南
側の園舎(以下「本件南側園舎」という。)はその西側部分が二階建てであり,その東側
部分が一階建てであり,その一階建て部分の屋上に駐車場(崖上の公道と接している,
以下「本件駐車場」という。)が設置されていて,本件事故当時,本件保育園の職員及び
保護者が崖上の公道(以下「本件車道」という。)を通って駐車ないし方向転換する場所
に使用されていた。
本件保育園における本件駐車場の位置関係は,ほぼ別紙図面1のとおりである(なお,
本件南側園舎の北側に面してテラス部分があるが,以下これを含めて「本件園庭」とい
う。)。本件駐車場の北端から本件園庭までは垂直に約3.6メートルある(その具体的
内容は後記のとおりである。)。
イ 被告Aが運転する自動車(登録番号名古屋34と9164,以下「A車」という。)が,平
成14年9月18日午後4時5分ころ,本件駐車場の北側からA車前部を北に向けた状態
で本件園庭に転落した。A車はフロント先端部分が先に本件園庭に着地したが(転落し
たときのA車のフロント先端部分は,本件南側園舎北側壁の基礎部分から約4.3メート
ル北の本件園庭に位置していた。),その後,同車はタイヤを下にした状態で本件園庭
に着地した。
ウ 上記転落により,A車がFの上に乗り,Fは,同車の下敷きになって,頭蓋骨陥没,
左足大腿部・下腿部骨折の傷害を負い,同日午後6時30分ころ死亡した。
(3) 被告Aの責任
ア 被告Aは,自己のためにA車を運行の用に供する者であるところ,平成14年9月18
日午後4時5分ころ,A車を本件駐車場において運転し,上記のごとき本件事故を起こし
た。
 よって,被告Aは,自賠法3条本文による損害賠償責任を負う。
イ また,被告Aは,運転操作を誤って,A車を本件駐車場から車止めを乗り越え,本件
駐車場の柵(以下「本件駐車場柵」という。)を突き破って本件園庭に転落させた過失が
あり,民法709条の不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
2 被告法人,被告D及び被告E(以下同被告3名については,「被告法人ら」という。)の
責任について
【原告らの主張】
 (1) 債務不履行責任(危険防止に配慮すべき安全配慮義務)
ア 被告法人は,本件保育委託契約に基づく義務として,保育に当たり,児童の生命,
身体及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っている。このことは,児
童福祉施設最低基準(昭和23年厚生省令第63号)5条2項が「児童福祉施設の構造
設備は,採光,換気等入所している者の保険衛生及び此等の者に対する危害防止に十
分な考慮を払って設けられなければならない。」と定めていることからも明らかである。
イ 被告Dは,被告法人の代表者理事として,同被告からその業務執行を全面的に委
任あるいは準委任されている契約関係にあった。また,被告Eは,本件保育園の園長及
び社会福祉法上の専任の管理者(同法61条)として,被告法人から同園に関する業務
の執行につき,全面的に委任あるいは準委任されている契約関係にあった。
 このような事実関係においては,被告D及び被告Eは,信義則上,保育園の園児達に
対し,安全配慮義務を負う。安全配慮義務は,「ある法律関係に基づいて特別な社会的
接触に入った当事者間において」存するものであり(最高裁第三小法廷昭和50年2月2
5日判決),安全配慮義務を認めるには,配慮義務者と要配慮者との間に直接の契約
関係は必要ない。被告D及び被告Eは,原告らと被告法人との間の本件保育委託契約
及び被告法人と被告D及び被告Eとの間の委任ないし準委任契約を媒介として間接的
に成立した法律関係に基づいて,Fと特別な社会的接触の関係に入っていたのであり,
被告D及び被告Eは,信義則上,Fに対し,本件保育委託契約に準ずる法律関係上の
安全配慮義務を負っていた。
ウ 被告法人らの債務不履行責任の具体的内容
(ア) 多くの園児達が利用する本件園庭に接した本件南側園舎の上部に屋上を利用し
た本件駐車場を設けることは,道路に面した立体駐車場以上の危険性があったのであ
り,被告法人らは,このような園児達にとって極めて危険な場所には自動車の駐車場を
設置すべきではなかった。
 しかし,被告法人らは,その義務を怠り,本件園庭に接する本件南側園舎の屋上とい
う極めて危険な場所に本件駐車場を設置した。
(イ) 少なくとも,本件駐車場では,本件事故前の平成14年2月,自動車が本件駐車場
柵(実際は本件駐車場柵根本の高さ25センチメートルのコンクリート製埋込部)に衝突
し,本件駐車場柵や根本のコンクリートが破損する事故(以下「本件駐車場2月事故」と
いう。)が発生したのであるから,被告法人らは,本件駐車場2月事故の後,本件駐車場
の使用を直ちに中止すべき義務があったが,被告法人らはその義務を怠った。
 すなわち,被告法人らには,児童福祉施設最低基準(昭和23年厚生省令第63号)に
より,保育所の構造設備を園児に対する危害防止に十分な考慮を払って設ける義務が
ある。
 本件駐車場2月事故は,自動車がゆるゆると滑るように手すりにぶつかったというもの
であり,同自動車の破損状況からもわかるように,その衝突の程度は軽微であった。そ
れにもかかわらず,本件駐車場柵やその支柱の根本のコンクリート部分が破壊され,自
動車は転落寸前であった。
 被告法人の代表者理事被告D及び園長被告Eは,本件駐車場2月事故及びその破損
状況を知っており,被告Eは,本件駐車場柵の根本のコンクリートが壊れており,本件駐
車場柵が外れているのを見ていた。被告Dは,本件駐車場2月事故の発生は聞いた
が,事故状況を確認しなかったというが,現場を見ていないはずはないし,仮に確認さえ
しなかったとすれば,確認しないことが重大な義務違反である。
(ウ) 仮に,被告法人らが本件駐車場を設置したこと自体を安全配慮義務違反とはいえ
ないとしても,被告法人らには,本件駐車場に,屋上から自動車が転落して園児に危険
が及ぶことがないような装置を設置する義務,具体的には,少なくとも,本件事故当時,
国土交通省が,立体駐車場における自動車の転落防止対策について定めていた設計
指針の基準である「立体駐車場における自動車転落事故防止対策について(昭和61年
9月1日住指発185号)・建設省住宅局建築指導課長から特定行政庁建築主務部長
宛」における「床面からの高さ60センチメートルの位置で,幅160センチメートルにわた
り,25トンの衝撃力が加わっても自動車の転落を有効に防止できるような装置等」を設
置する安全配慮義務があった。
本件事故当時,上記昭和61年9月1日住指発185号が本件駐車場を適用範囲として
いなかったとしても,上記児童福祉施設最低基準に定められている義務からすれば,最
低限,上記装置等を設置する義務があった。
 しかるに,本件駐車場柵の強度は,10キロニュートン程度の強度しかなく,自動車の
転落防止にほとんど意味をなさないものであった。
 また,本件駐車場柵以外の部分も,被告Dの指示により,建築確認申請を受けた構造
よりも更に危険な構造に変更して施工された。
 すなわち,当初,本件駐車場は,自動車4台分の駐車場として設計され,車止めの形
も通常一般的な駐車場で使用される凸型の車止めであり,本件駐車場柵の根本のコン
クリートの基礎部分(以下「本件駐車場柵の基礎」という。)の高さは35センチメートルな
いし40センチメートルで設計され,被告法人は,上記設計で建築確認を受けた。
 ところが,被告Dは,車止めを別紙図面2のように変更するように指示し,その結果,
本件駐車場柵の基礎(腰壁)の高さは25センチメートルと低くなった。さらに,自動車が
変更後の車止めに乗り上げた場合,車止めが車体前方(前進駐車の場合)又は後方
(後進駐車の場合)を持ち上げる構造になって,ステップ台のような役割を果たすことに
なってしまい,かつ,強度の弱い本件駐車場柵の上部を押し込むことになって,車両転
落事故が起こる危険性を増大させた。
 そして,被告法人らは,本件駐車場2月事故が起こったにもかかわらず,補修工事を
事故車の保険会社に任せ,補修工事に当たった株式会社I工務店(以下「I工務店」とい
う。)と補修方法につき話合いもせずに,従前よりも強い強度にしてほしいという指示もし
なかった。その結果,以前と同程度に復旧する内容の補修がされただけであった。
 なお,本件保育園は,通常の平坦な地形にある保育園と異なり,本件駐車場から見る
と,本件園庭がすり鉢の底のような地形にあり,本件駐車場は上記のとおり大変危険な
場所にあったが,他方,本件保育園は,北側の正面から見ると高低差4.6メートルの階
段を上り下りしなければ保育園内と行き来できないという,保育園としては極めて不合
理な地形,構造の保育園であった。そのため,被告Aのような身体に障害を持つ者が,
本件駐車場の利用を希望することになったのである。
(エ) 上記のとおり,被告法人らは,本件南側園舎の屋上に本件駐車場を設置する際,
駐車場から園庭に自動車が転落するのを防止するに足りる装置を設置せず,しかも,
本件駐車場では,自動車が本件駐車場柵に衝突して本件駐車場柵やその支柱の根本
の本件駐車場柵の基礎コンクリートが破損するという本件駐車場2月事故が起こってい
た。
 そうであれば,仮に,被告法人らに上記の義務がなかったとしても,被告法人らには,
本件園庭のうち,本件駐車場から自動車が落下した場合に園児達に危険が及ぶ範囲
内には,園児達が立ち入れないようにするために,①緑地帯や花壇にしたり,柵等を設
ける,②保育士らに対して,少なくとも保護者らの送迎時間帯には,上記危険が及ぶ範
囲内に園児達を近づけないように指導する等して,未然に園児の危険を防止すべき義
務があった。
 しかし,被告法人らは,その義務を怠り,保育士のH(以下「H保育士」という。)は,午
後4時ころという保護者が園児の迎えに来る時間帯に,園児達に対し,本件駐車場のす
ぐ近くの本件園庭に,本件南側園舎を背にして,腰を床面につけて座るよう指示した。
(オ) 本件駐車場では,本件駐車場2月事故が起こっていたのであるから,被告法人ら
は,本件駐車場柵強度が上記昭和61年9月1日住指発185号の基準を満たしていた
か否かにかかわらず,本件駐車場の利用者及び利用方法に関して,安全配慮のための
制限をするなどして,園児達の生命及び身体を危険から保護し,危険防止に配慮すべ
き義務があった。
 すなわち,被告法人らは,本件駐車場の利用者に対し,少なくとも軽自動車より大きい
自動車の駐車を禁止し,かつ,高齢者や身体障害者等運転ミスを起こす可能性の高い
者が運転する自動車の駐車を禁止し,かつ,その必要性を保護者会を通して説明する
などしてその指示を徹底させるなどの安全配慮をして,事故の発生を未然に防止すべき
義務があった。
 ところが,被告法人らは,上記義務を怠り,本件駐車場のうち,A車が転落した場所を
単なる駐車場より更に危険な「方向転換場所」に指定した。
 本件駐車場は,自動車4台分の駐車場として設計され,また,車止めの形も駐車台数
と場所が事実上指定される通常の凸形の車止めで設計されていたところ,被告Dが,車
止めを別紙図面2のように変更するよう指示した。この変更により,4台以上の自動車の
駐車が可能になり,被告E及び保育士主任のO(以下「O主任」という。)らが勝手に線を
引いて7台分の駐車場又は5台分の駐車場及び方向転換場所として使用しようとした。
 その結果,本件駐車場では方向転換することも容易でなく,平成13年6月には近所の
人から,本件保育園の保護者が近所の花壇に車を乗り入れて方向転換しているという
苦情が寄せられた。
 本件事故当時,本件駐車場は狭く,方向転換場所も狭いため,本件駐車場の一部で
あっても自動車が止まっていれば,方向転換が困難となるため,その手前で停車し,本
件駐車場が空いてから移動するしかない状況であった。被告法人らは,そのような狭い
駐車場において,本件現場を単なる駐車場所より更に危険な方向転換場所に指定した
のである。
 被告法人らは,75歳という高齢であり,右目の視力がなく,左耳の聴力がなく,右耳も
補聴器を必要とし,高血圧で,右足が不自由な身体障害者である被告Aに対し,被告A
が日産ラルゴという車両重量1530キログラムの大きなA車に乗っているのを知りなが
ら,平成14年6月下旬ころ,同車を本件駐車場に駐車することを許可した。そして,高齢
で足が不自由な被告Aが,日産ラルゴ(A車)を運転していることを知りながら,被告Aに
対して本件駐車場の使用許可を検討するとすれば,その際,被告法人らは,被告Aの身
体状況や健康状況を十分調査すべき義務があったのに,これを怠った。
 また,本件駐車場の利用方法について,軽自動車やトヨタヴィッツ,日産マーチ程度の
小型乗用車に限定したようであるが,保護者会を通して園児たちの安全面配慮からの
必要性を伝え,徹底することをしなかったため,保護者にはきちんと伝わっておらず,利
用方法についての管理も事実上していなかった。駐車許可証の交付や利用方法の確実
な管理も怠っていた。これは,本件駐車場の駐車位置や方向転換場所の指定について
園児たちの危険防止に十分配慮すべき義務を怠る行為である。
エ 保育士らの義務違反による被告法人の債務不履行責任
(ア) 保育士らには,以下の注意義務違反があり,保育士は被告法人の履行
補助者であるから,同義務違反について責任を負う。
ⅰ 本件保育園では,本件駐車場2月事故が起こっており,H保育士は,同事故現場を
見て,本件駐車場柵及び本件駐車場柵の基礎であるコンクリートの破損状況を知って
いた。
 また,同破損状況は本件園庭からも見える位置にあったので,保育士のJ(以下「J保
育士」という。),同K(以下「K保育士」という。),同L(以下「L保育士」という。)らも,同
破損状況を容易に確認できた。
 したがって,同保育士らは,本件事故の危険性を予見でき,園児らに対し,本件園庭
のうち園舎の屋上から車が落下した場合に危険が及ぶ範囲内には近づかないように配
慮して,園児らの危険を未然に防止すべき義務があったのに,同保育士らはその義務
を怠った。本件事故当日,H保育士は,園児らに対し,午後4時ころという保護者が園児
の迎えに来る時間帯に,本件駐車場に近い本件園庭で,本件南側園舎を背に,床に腰
を下ろさせて園児らを整列させるという危険な指示をした。
ⅱ 保育士らは,本件駐車場において,異常な音,振動又は駐車場施設の異変が発生
した場合には,直ちに園児達の安全を確保するための対処をする義務があった。
 本件事故について,A車は本件駐車場柵に一度しか衝突していないが,仮に,二度衝
突したとすれば,一度目の衝突と二度目の衝突までの間に20秒ないし30秒の時間は
あった。したがって,保育士らは,一度目の衝突の後,直ちに危険を察知し,園児達に
対し,本件事故現場からできるだけ離れて避難するよう指示し,又は救助する義務があ
ったにもかかわらずその義務を怠った。
(2) 不法行為責任(安全配慮義務違反)及び使用者責任
 被告法人らは,保育にあたり,園児達の生命,身体及び健康等の危険防止に十分な
配慮をすべき義務がある。
 被告法人らは,Fに対して安全配慮義務があるにもかかわらず,上記第2,2原告らの
主張(1)のとおり,これを怠った過失があり,民法709条の不法行為責任を負う。
 また,被告法人は,その事業の執行について被用者である保育士らの上記第2,2原
告らの主張(1)エのとおりの注意義務違反の過失につき,同法715条1項の使用者責任
を負う。
(3) 不法行為責任(工作物責任)
 被告法人は,本件駐車場を含む本件保育園園舎の所有者であるところ,上記第2,2
 原告らの主張(1)ウ(ア)ないし(ウ)記載のとおり,本件駐車場の設置又は保存上の瑕疵
により本件事故が発生したものであるから,民法717条1項の土地の工作物所有者責
任を負う。
【被告法人らの主張】
(1) 被告法人らが安全配慮義務を負う点について
 被告D及び被告E個人は,原告らとの間に,Fに対する幼児保育委託契約を締結して
いないから,代表者理事又は園長であるからといっても,同契約の当事者と同等の安全
配慮義務を負うことはあり得ない。
(2) 本件駐車場の設置,構造上の責任について
ア 本件駐車場は,その下の本件南側園舎と一括で下記のとおり建築確認申請がさ
れ,園舎の計画及び工事とも,建築基準関係規定に適合している。本件駐車場の設
計,施工過程で,駐車場スペースの形状,台数,車止めの形状と腰壁の高さ等が契約
書添付図面から変更されているが,これらは建築基準法関連規則で規制されていない
事項に関して,数値が与えられていなかった箇所に数値を具体的に与えたり,変更した
ものであって,建築基準法に抵触する行為ではない。

園舎の建築確認申請日 平成11年10月22日
同確認済証交付日   同年11月25日
同完了検査日     平成12年3月30日
同検査済証交付日   同年3月31日
使用開始日      同年4月1日
イ 本件事故当時の本件駐車場の構造は,次のとおりである。
本件駐車場の南側である本件園庭側には鉄製の本件駐車場柵が設置され,本件駐車
場柵の基礎との接合部には高さ25センチメートルの埋め込み部分がコンクリートの腰
壁として設置され,更にその1メートル手前まで駐車床面より15センチメートル高くなっ
たコンクリートの段差状態の車止めが設置されていた。そして,本件駐車場柵は鉄製の
支柱と笠木とこれらを結ぶ鉄棒とが相互に作用してネットのようになり,車両の転落を防
止する安全装置となっていた。
ウ 原告らは,本件事故当時,国土交通省が定めていた立体駐車場における自動車の
転落防止対策について定められていた設計基準である「立体駐車場における自動車転
落事故防止対策設計指針」における「床面からの高さ60センチメートルの位置で,幅1
60センチメートルにわたり,25トンの衝撃力が加わっても自動車の転落を有効に防止
できるような装置等」を設置する安全配慮義務がある旨の基準が本件駐車場に妥当す
ると主張する。しかし,その基準は立体駐車場に対するものであり本件駐車場には適用
がないものである。同基準における義務は極めて具体的な装置の設置義務をうたって
おり,極めて詳細な数値が規定されているが,このような数値を伴う安全装置の強度
(設置義務)は,そのような基準が適用されていると認識する者にとっては意味がある
が,適用されていないと認識する者にとっては意味がなく,上記具体的な数値どおりの
強度の装置を設置する義務の根拠とはならない。このような具体的な数値的強度を備
えた装置を本件駐車場のような駐車場に設置する義務を根拠づける規定としては,本
件事故後の通達として平成15年2月25日付けの国土交通省住宅局建築指導課長の
都道府県建築主務部長宛の通達「駐車場における自動車転落事故防止対策について
(技術的助言)」(国住指発8290号)が存在するが,平成12年3月の本件駐車場設置
当時及び本件事故当時において,具体的な数値どおりの強度の装置を設置すべき義務
の根拠とはならない。
エ 本件駐車場柵の強度については,本件駐車場2月事故の際も,本件事故のうち一
度目のA車による衝突の際も,本件駐車場柵が車両を受け止めて転落を防止したので
あり,本件駐車場柵の強度は十分であった。
 本件事故は,被告Aが二度にわたって連続して本件駐車場柵に強烈な衝撃を加えると
いう予測不可能な過失行為により発生したものであり,仮に,「床面からの高さ60セン
チメートルの位置で,幅160センチメートルにわたり,25トンの衝撃力が加わっても自
動車の転落を有効に防止できるような装置等」を設置する安全配慮義務の存在及び被
告法人らの同義務違反が認められる場合でも,当該義務違反と結果との間には相当因
果関係がない。
(3) 上記第2,2原告らの主張(1)ウ(エ)について
H保育士において,保護者が園児の迎えに来る時間である午後4時ころ,園児らに対し
て,上記記載のごとき指示をしたことは認めるが,本件南側園舎の屋上から自動車が落
下した場合に園児らに危険が及ぶ範囲内には,園児らが立ち入れないようにするため
に,緑地帯や花壇にしたり,柵等を設けること,保育士らに対し,少なくとも保護者らの
送迎時間帯には,上記危険が及ぶ範囲内に園児らを近づけないように指導する等の義
務の存在は争う。
 本件事故の原因は,二度にわたる連続した車両の激突という予測不可能な被告Aの
過失行為に基づくものであり,安全帯を設ける等の義務はなかった。
(4) 上記第2,2原告らの主張(1)ウ(オ)について
本件駐車場の本件現場を方向転換場所に指定したことは認めるが,方向転換場所に指
定したこと自体が危険な行為であるということは争う。本件駐車場には方向転換場所を
含めて車止めと本件駐車場柵があり,本件駐車場の設置と同様に方向転換場所の指
定にも安全配慮義務違反ないし過失はない。
 また,被告AにA車である日産ラルゴの駐車を許可したことは認めるが(許可したのは
本件駐車場の東側に接続した本件車道と接する狭い駐車場部分),安全配慮義務違反
ないし過失の主張は争う。被告法人は,本件駐車場には車止め及び本件駐車場柵を設
置していた。本件駐車場2月事故は自動車が転落しなかったものであり,車止めや本件
駐車場柵の存在にもかかわらず自動車が転落する事故を連想させるものではなかっ
た。高齢者や身体障害者であるという理由のみにより二度にわたって連続して車両が激
突するという過激な過失行為を連想させることはなく,被告Aに駐車許可をしたこと自体
が安全配慮義務違反ないし過失を構成するとは考えられない。
 本件駐車場に保護者の駐車を許可し,方向転換場所を指定した行為は,園児の保護
者又は近隣の住民から感謝されることはあっても,非難されるべき行為ではない。本件
保育園設立時には想像できなかったほど自動車で登降園する保護者が増えたことか
ら,従来の施設のみではこのような自動車の増加に対応することができず,路上駐停車
が増えて近隣住民の車両運行に多大の迷惑をかけてきた。そのような状況を一刻も早く
解消するために計画されたのが本件駐車場である。当初は本件駐車場部分は職員専
用とし,本件車道との境界近くの余地を保護者用に開放したが,それでも近隣に対する
迷惑な状態が続いていることが明らかになったために,職員用の駐車場部分を方向転
換場所又は駐車場として保護者に開放してきたのである。
 本件駐車場は,当初,職員専用としており,その当時は,軽自動車や小型の乗用車専
用ではなかったが,保護者の意見により,保護者のためにも使用を許可することになっ
た。その際,軽自動車や小型の乗用車専用とすることにした。したがって,本件駐車場を
使用できる保護者は,軽自動車や小型の乗用車で登降園する保護者に限るという方針
にしていたため,被告Aに使用許可を与える予定ではなかったが,保護者懇談会の際
に,被告Aの親族から窮状を訴えられたことから特別に検討し,被告Aにも本件駐車場
の使用を許可したのである。
 このように開放する過程では,被告Aが本件事故のような第一,第二の衝突を連続し
て発生させるような運転ミスを犯すことは予測不可能であったから,被告Aに対して本件
駐車場を開放してはならないという注意義務を課する前提としての,予見可能性がなか
った。
(5) 上記第2,2原告らの主張(1)エの保育士らの義務違反について
 H保育士が父母が園児の迎えに来る時間帯である午後4時ころ,本件駐車場を屋上と
する本件南側園舎に近い場所の本件園庭で,同園舎を背に,床に腰を下ろさせて園児
達を整列させる指示をしたことは認めるが,保育士らが本件事故の危険性を予見できた
こと,H保育士が危険な指示をしたことは争う。保育士らが避難,救助義務を怠ったこと
も争う。
 本件事故当時,本件事故現場付近にいた保育士らに,園児らを救護する義務が一般
論として課せられるとしても,以下に述べるように個別具体的な問題として本件A車の転
落は予見不可能であり,義務の前提となる予見可能性がないから義務違反又は過失を
問うことはできない。
 A車の第一衝突以前の段階で,A車が駐車場にほとんどノーブレーキで進入してくるこ
とに気付いている者は,ほとんどいなかった。遊戯室の出入口付近で本件駐車場を比
較的見渡せる位置にいたL保育士ですら,A車に気付いたのは第一衝突の直前であり,
気付いた直後に第一衝突を目撃している。同人が気付く以前にA車に気付き,第一衝突
を予見することは,その場に立ち会っただれにとっても不可能であった。したがって,こ
の時点では予見可能性がなかった。
 このように突然発生した第一衝突は,本件駐車場柵によって転落に至らなかった。そ
してA車が後退して行ったため,その場に立ち会って第一衝突を目撃しただれもが「ホ
ッ」と安心して,第二衝突があり得るとは全く予想することはできなかった。本件園庭に
いて園児らに指示を与えていたH保育士は,一度目の衝突による激しい音を耳にしたも
のの本件駐車場は死角であった。しかも,同保育士はそれ以前にそのような音を聞いた
経験がなく,A車が鉄柵に衝突した音であると理解する間もなく二度目の衝突とA車の
転落事故が発生した。したがって,二度目の衝突以前の時期における避難誘導の義務
についても,その前提となる予見可能性がなかった。
 本件事故が予見可能となる時期があるとすれば,それは後退したA車が再度猛烈に
加速した瞬間以降である。しかし,猛烈に加速したA車が本件駐車場柵に激突するまで
に要する時間はわずかである。この一瞬の間に,A車の加速の程度から最高到達時速
を予測し,第二衝突から転落に至る危険性を認識予見することは極めて困難なことであ
る。したがって,後退したA車が第二衝突に向けて再度加速を始める以前はもちろん,
再度加速を始めた後であっても救護の必要を予見することは極めて困難であり,予見可
能性はA車が転落し始めた後に生じた。
 一度目の衝突と二度目の衝突及び二度目の衝突とA車転落までの時間的間隔はわ
ずかであったため,本件事故の結果回避可能性もなかったが,保育士らはこの異常事
態の中で可能な限りの避難誘導を行った。
 A車が転落を開始してからは,本件事故の予見が可能になったので,一部の保育士は
A車の転落現場の方向に向けて走り始めた。
 K保育士は,比較的近くにいたため,A車が前部を地面に激突させた状態で立ってい
たときに,A車の右中央部を手で支えて転倒を防止しようとしたが,A車は同保育士が支
えられる重量をはるかに超えており,転倒を防止できなかっただけでなく,同保育士の
下半身はA車が転倒したときにその下に入って,同保育士が被害に遭うところであった。
 H保育士は,A車が転落を開始するときまでA車の激突地点とほぼ同じ場所で園児を
指導していたが,同保育士は,自分の身を守ると同時に,園児を危険から守るため,右
の方向へ逃げながら可能な限りの園児を抱きかかえるなどして走った。このような状況
では数人の園児を避難させるのが精一杯であり,A車が転倒するまでのわずかな時間
にA車の下に戻って,逃げ遅れた園児を救護することは不可能であった。
 L保育士は,20メートルないし30メートル離れた遊戯室の出入口付近でA車が転落を
開始することに気付き,本件転落現場に向かっていち早く走り始めたが,距離的に遠す
ぎて本件事故現場に到着したときには既にA車はタイヤを下にして転倒した後であり,
本件事故の結果を回避することは不可能であった。
 M保育士は,本件南側園舎前の本件園庭のテラスに腰掛ける形で12名ほど整列して
いた園児の最も西側寄りの場所に中腰になって園児を指導していた。A車が転落してき
てから本件事故に気付いたが,そのときには園児は一斉に同保育士の方向に向かって
走ってきたため,本件事故現場に近づくこと自体が不可能であり,結果回避可能性がな
かった。
 その他の保育士にとっても,各保育士と園児との間にA車が転落してきたため,このA
車を回り込んで園児を救護することは上記時間の間には不可能であった。
 このようにすべての保育士にとって,本件事故による結果を回避して園児を救護でき
た可能性はなく,救護義務の前提である結果回避可能性がない。
 さらに,いずれの保育士にとっても,転落を開始したA車に駆け寄って,立っているA車
の転倒を防止したり,A車が転落するまでのわずかな時間の間にA車を回り込んで園児
を救護し安全に避難させることは極めて困難又は不可能なことであり,現実にこれを行
えば保育士自身が被害者となる危険があったから,このような状態で,全ての園児を救
護するべきことを期待するのは困難であり,期待可能性もない。
(6) 上記第2,2原告らの主張(2)の不法行為責任(安全配慮義務違反)及び使用者責
任について
 民法709条ないし同法715条1項の不法行為責任ないし使用者責任については,上
記のとおりであるから,過失が認められず,責任がない。
(7) 上記第2,2原告らの主張(3)の不法行為責任(工作物責任)について
 被告法人が本件駐車場を含む本件保育園園舎の所有者であることは認めるが,本件
駐車場の設置又は保存の瑕疵により本件事故が生じたことは否認し,被告法人が民法
717条1項の土地の工作物所有者責任を負うことは争う。
ア 本件駐車場柵は,A車による一度目の衝突があったが,これを受け止めて転落を防
止した。このこと自体からして本件駐車場柵の強度が十分であったことは明白である。
イ 本件駐車場の安全性は,本件駐車場柵のみで保たれているわけではない。本件駐
車場には高さ15センチメートルのコンクリートの段差状態となった車止めが設置され,
通常の運転操作であればこの車止めにより車両の移動は阻止される。この車止めに乗
り上げる際に位置エネルギーが吸収されるため,乗り上げること自体にエネルギーが必
要であって相当程度の速度がなければこの車止めに乗り上げること自体が困難な構造
となっている。
 そして,車止めの奥1メートルの位置には,高さ25センチメートルの腰壁(本件駐車場
の基礎)が設置されている。乗用車の最低地上高は15センチメートル程度であるのが
普通であり,高さ25センチメートルの腰壁があれば,車両のバンパーがこれに衝突して
移動を阻止される。さらに,この腰壁があれば,通常はこれを乗り越える際にかなり大き
なエネルギーが必要になり,乗り越えること自体が不可能である。万が一乗り越えたとし
ても,車両の下部がこの腰壁と摩擦を起こして移動が困難となり,車両の転落が阻止さ
れるのが通常生ずべき事態である。
 最終的には本件駐車場柵(腰壁に埋め込まれた支柱,笠木及びこれらを相互に溶接
により連結している鉄棒が全体としてネットのような構造となっている。)が,車両の転落
を阻止するようにできている。
ウ 通常は,何らかの事故により本件駐車場柵や腰壁などが不可逆的な損傷を受けた
場合でも,復旧工事を行うことにより予定された強度は回復される。本件事故は,一度
目の衝突により受けた損傷を復旧することなく二度目の衝突が加えられたために発生し
たものであり,二度目の衝突以前に復旧工事がされていたならば,一度目の衝突から
の転落が阻止されたのと同様,二度目の衝突による転落も阻止されたものである。
エ 以上のとおりであるから,本件駐車場は通常有するべき安全性を欠いていた事実は
なく,瑕疵はなかった。
(8) 相当因果関係がないことについて
 本件事故は,被告Aが二度にわたって連続して本件駐車場の鉄柵に激しくA車を激突
させるという通常では予想できない異常な運転操作ミスを犯したことによって発生したも
のである。したがって,仮に被告法人らに何らかの債務不履行,過失,本件駐車場につ
いての瑕疵があったとしても,それらと本件事故の結果との間には相当因果関係がな
い。
 すなわち,被告Aが一度目の運転ミスにより本件駐車場柵に激しく激突したものの転
落することなく本件駐車場柵により前進を止められた。この一度目の衝突自体通常生じ
うることではなく,相当因果関係の存否について疑いがある。その後,本件駐車場柵に
転落を防止された車両が後退することはありうることである。ところが,その後再度猛ス
ピードで加速して修復されていない本件駐車場柵に二度目の衝撃を加えるという事態に
至っては,到底通常生じうる事態とはいえず,しかも何人もこれを予測することは不可能
である。よって,二度目の衝突に向けてA車が加速進行してからは相当因果関係の範
囲外の出来事である。
3 損害について
【原告らの主張】
(1) 治療費                       6230円
(2) 葬儀費用                   78万1564円
 原告らは,Fのための葬儀に,328万1564円を費やしたが,これに対しては,被告A
から250万円を受領したので,残金は78万1564円である。
(3) Fの死亡逸失利益            8040万2299円
ア 平成12年度賃金センサス全労働者平均賃金年497万7700円を基礎とし,就労可
能年数を18歳から67歳まで49年間とする。そして,生活費割合を30パーセントとして
中間利息を年2パーセントの割合で控除すると,Fの死亡による逸失利益は8040万22
99円となる。
計算式 497万7700円×(1-0.3)×(35.925-12.85)
=8040万2299円
イ 中間利息の控除率について
(ア) 交通事故によって生じた逸失利益の現在価値を算定する方法については,法定の
計算方法が定まっていないところ,逸失利益算定の基礎収入を被害者の死亡時に固定
した上で将来分の逸失利益の現在価値を算定する場合には,中間利息の控除利率を
裁判時の実質金利に従って計算するのが相当である。
(イ) そして,経済的利益において不利益がないと一般的に肯定されるためには,被害
者が中間利息控除後の一括金を受領することによって,少なくとも名目金利と賃金上昇
率又は物価上昇率との差にあたる実質金利相当の資金運用が可能であると一般的に
判断し得ることを要するというべきである。
(ウ) なお,民法404条を考慮して合理性を見いだすことはできない。
 また,破産法46条5号ほかの倒産法や民事執行法88条2項が弁済期未到来の債権
について,民事法定利率による中間利息の控除を認めていることについても,類推又は
各法条の趣旨を援用する前提を認めることはできない。
(エ) 将来における逸失利益の現在価値を適正に算定するために重要なのは
所得成長率や預金利率そのものではなく,その差(以下「実質割引率」という。)なのであ
る。
 実質割引率を考えるにあたり,昭和31年以降の統計データを検討すると,実際の実
質金利の動向と,年5分との法定利率は著しく乖離していることが明らかであり,将来に
おける変動率を考慮しても,中間利息控除率として年2分を採用することは十分控えめ
な率である。
 仮にそうでないとしても,少なくとも実質金利について年3分を超えることはなく,中間
利息控除率として年3分を採用すべきである。
 とりわけFのような幼児の場合には,逸失利益について定期金賠償が認定される場合
と,中間利息の控除率を5分として一時金により支払いが認定される場合との間には著
しい不均衡を生じることとなり,不合理,不公平な結果となる。
(4) Fの死亡慰謝料                 2800万円
 Fは,本件事故当時,まだ3才の幼児であり,本件事故に遭わなければ限りない可能
性を有していたはずであったのに,突然,安全なはずの保育園において,本件事故によ
り命を奪われた。その受けた傷害は,頭蓋骨陥没,左足大腿部・下腿部骨折であり,F
の全身が擦過傷の状態であった。Fの苦痛,無念さは,計り知れない。
 しかも,Fは,午後4時ころという保護者が迎えに来る時間帯に,本件保育園の保育士
らに指示されて,本件駐車場を背にして,お尻を地面(床)につけて座らされていたとこ
ろ,頭上背後から重さ1530キログラムのA車(日産ラルゴ)が落下し,その下敷きにさ
れて死亡したものであり,その態様も極めて無惨かつ残酷である。もとより,Fには何ら
責められるべき点はない。
(5) 原告らは,Fの上記(1)ないし(4)の損害賠償請求権につき,各2分の1の割合で相続
した。
(6) 原告ら固有の慰謝料                各500万円
ア 本件保育園内において,本件のような想像を超える無惨な事故を引き起こし,Fを死
亡させた被告法人らの責任は極めて重大であるが,被告法人らは,原告らに対し,その
責任を認めて謝罪することもしない。
イ また,本件事故直後に,原告らにおいて,本件事故の衝撃と慟哭の中からも,被告
法人らに対し,「Fを友達皆に見送っていただきたいので保育園葬にして下さい。」と申し
入れたが,被告法人らはこれを拒否した。
ウ 被告法人らは,本件事故がどのような状況で発生したかも全く確認しなかった。被告
Dは,Fが亡くなった場所さえ知らず,原告らに尋ねられても,誤った場所を教えた。
 原告らにとって,我が子がどんな状況で亡くなったのかを知ることは,最小限の要求で
あり,被告Aが事故当時の状況の記憶がないと述べていることもあって,原告らは,被
告法人らに,本件事故についての説明を何回も求めたが,被告法人らは何らの説明も
しなかった。
 原告らは,やむなく説明会を開催してほしいという要望書に本件保育園の他の父母た
ち84名の署名を添えて,平成14年11月1日に被告法人らに提出したが,被告法人ら
はそれを無視した。
 なお,原告らは,同年10月に入って,同年2月に本件事故と同じような事故が起こって
いたことを初めて知り,被告Dに問い合わせたが,被告Dは答えなかった。そのため,原
告ら自身が悲しみの中,同月の事故を起こした者に事情を聞きに行って,ようやく本件
駐車場2月事故の内容が分かった。
エ 原告らは,同年9月23日,被告D及び被告Eに対して,せめてFが亡くなった場所に
小さな花壇を作って欲しいと要望したところ,被告D及び被告Eは,「前向きに検討しま
す。」と回答した。本件保育園の保育士らからもFのために花壇を作ってほしいと要望が
され,被告D及び被告Eは,保育士らに対しても「作るつもりでいる。」と回答した。
 ところが,同年11月5日のFの忌明け後,被告Dは,「花壇を作る意思はない。作る必
要がないから作らない。」と回答してきた。原告らは,欺かれたに等しい状態となった(原
告らは費用を寄付する旨も述べている。)。
オ 被告法人らは,同月9日,原告らに何らの連絡もなく,本件事故現場で運動会を開
催した。
 原告らの自宅は,本件保育園から100メートルほどしか離れておらず,原告らは大き
な運動会のマーチの音をFの遺骨とともに堪え忍ぶことを強いられ,同日,原告C(以下
「原告C」という。)は錯乱状態になった。そして,原告Cは,心因反応,強いストレスで抑
うつ状態となっていると診断された。
カ 原告らは,被告Aについては,高齢で足と耳が不自由な身体障害者である上,本件
事故直後には「一生かけて償います。」と述べていたため,被告Aの言葉を信じて,Aの
刑事処分について,検察庁に対し「(被告Aの年齢,身体状況等を考えれば)厳罰は求
めていない。検察庁におまかせする。」との回答をした(原告らは罰金刑の上限が,わず
か50万円であることを知らず,一人の人間を死亡させた者に対する刑罰がそのように
軽いとは思わなかったのである。)。ところが,被告Aは,Fの一周忌以後は一度もお参り
にも来なくなった。
キ 本件事故後の不誠実極まりない被告らの対応が加わり,原告らは更なる精神的苦
痛を受け続けており,原告Cは,閉塞的な空間では呼吸困難に陥るなどの症状が続き,
パニック障害と診断されている。
(7) 弁護士費用                    各600万円
 【被告法人らの主張】
(1) 上記第2,3原告らの主張のうち,原告らがFについて各2分の1の割合で相続する
関係にあることは認めるが,その余は不知。
(2) 原告ら固有の慰謝料について
ア 原告らは,被告法人らが謝罪しなかったと主張するが,被告法人らは,本訴で争っ
ているように,当初から,本件事故の原因は被告Aが二度も連続してA車を本件駐車場
柵に衝突させるという通常では考えられない行為を行ったために発生した事故であり,
被告法人らには損害賠償義務はないと考えていた。したがって,被告法人らとしては,
謝罪しなければならない理由はないと考えている。
イ 本件事故の翌日に保護者に対する説明会を持った。原告らは,同説明会を中断した
旨主張するが,中断していない。
 本件事故の内容については,警察が調査中であり,詳細については被告法人らとして
把握できていないことからほとんど説明すべき内容がなかったが,集まった保護者から
は,家庭での園児の状況などが報告され,保護者・園児ともに事故のショックを受けてい
ることが告げられ,対策を求められた。説明会が終了した後に,「これからN様のお宅に
参ります。」という趣旨を述べたことは事実であるが,これが中断の理由と解釈されたと
すれば遺憾である。
ウ Fのために花壇を作るかどうかは,被告法人らにおいて十分検討した上での拒否回
答であった。園内に花壇を作るかどうかは,施設の使用管理の問題であり,基本的に被
告法人の自由裁量の範囲内の問題であり,損害賠償額の判断要素とされるものではな
い。
 被告法人らとしては,①花壇の設置を求められた場所は日当たりが悪く花の育ちが期
待できない,②園児のボール遊びの際にボールが飛び込みやすい場所になる,③ボー
ルが飛び込んで花が折れるたびに,園児の心を傷つける,④花が枯れるたびに植え替
えなどをすれば,長い期間ではその費用負担は膨大となりかねない,などの理由により
花壇は作らないこととした。ただし,被告法人らとしては,本件事故現場付近にプランタ
ーを設置している。
エ 運動会の開催も,本件保育園の運営上の問題であり,損害賠償問題となる行為で
はない。園児は,運動会のために練習を繰り返し行っており,年に一度の大イベントの
到来を心待ちにしていた。その運動会を中止することは,園児の心を傷つけることにな
るので考えていなかった。本件事故直後の時期に開催することは憚られたので,四十九
日過ぎに行おうとしたが,冬になり寒い中で激しい運動をすることは怪我のもとになりか
ねないので,10月に開催した。
 このように,Fと園児の双方に心を配った最善の判断として,時期をずらして開催した
運動会について,問題視される理由はない。
【被告Aの主張】
(1) 治療費については,不知。
(2) 葬儀費用については,社会通念上相当と認められる限度において損害賠償として
請求し得るものであり,本件の場合は100万円が相当と考える。
 なお,被告Aは原告らに対し250万円を支払済みであるが,これは損害金全般の内払
金である。
(3)Fの死亡逸失利益について
 基礎収入について,原告らは賃金センサス全労働者平均賃金を基礎収入とするが,
性別によって平均賃金に差があるのが現実であるから,賃金センサス女子労働者平均
賃金を採用すべきである。
 生活費控除について,原告らは30パーセントと主張するが,40パーセントが相当であ
る。なお,基礎収入を全労働者平均賃金により算定する場合は,男児と同じ50パーセ
ントと考えるべきである。
 中間利息控除については,年5パーセントとするのが従来の圧倒的多数の取扱いであ
り,本件についても同様に考えるべきである。
(4)Fの死亡慰謝料について
 本件事故状況等を勘案して,一切を含め2000万円とすべきである。
(5) 原告らの固有の慰謝料について
 被告Aは,本件事故について深く反省しており,Fの一周忌後にお参りに行かなくなっ
たのは,本件訴訟が提起されたこと,自動車を運転しなくなったことから足の便がなく,
つい遠ざかってしまったのであって,毎日自宅でFの冥福を祈っている。その他について
は,被告法人らの問題であり,被告Aとは関係がない。
第3 当裁判所の判断
1 被告Aの責任について
上記第2,1(3)のとおり,被告Aは,本件事故につき,自賠法3条本文の損害賠償責任
ないし民法709条の損害賠償責任を負う。
2 被告法人の責任について
 (1) 原告らは,被告法人に対して,①本件保育委託契約による安全配慮義務不履行
責任,②民法709条による安全配慮義務違反の不法行為責任ないし保育士の同義務
違反に関する同法715条1項の使用者責任,③本件駐車場の設置又は保存の瑕疵に
よる同法717条1項の土地工作物所有者責任による損害賠償を求めるものであるとこ
ろ,これらの各請求は,損害賠償請求としては共通しているものの選択的請求であり,
それぞれ主張,立証責任において異なる面がある。原告らは,損害賠償額に関する年5
分の遅延損害金の始期を本件事故の日である平成14年9月18日からとする裁判を求
めているが,本件保育委託契約による安全配慮義務不履行責任に関しては履行を怠っ
た日と解されるから,仮に,安全配慮義務不履行責任が認められたとしても,遅延損害
金の始期は,訴状送達以外履行の催告が窺えない本件においては,訴状送達の日の
翌日である平成15年2月21日となり,少なくともこの部分について一部認容となってし
まう。民法709条,同法715条1項の責任,同法717条1項の責任においては,そのよ
うな齟齬は生じない。そして,同法717条1項の土地工作物所有者責任は,不法行為
の特別規定の性質を有している。
 そこで,まず,被告法人の本件駐車場の設置又は保存の瑕疵による同法717条1項
の土地工作物所有者責任について,検討していくこととする。
(2) 被告法人が本件駐車場を含む本件園舎の所有者であることは,当事者間に争いが
なく,弁論の全趣旨によれば,本件園庭も被告法人の所有ないし占有にかかるものであ
ることが認められる。
 民法717条1項に規定されている土地の工作物の設置又は保存の瑕疵とは,当該工
作物が通常有すべき安全性を欠いている状態をいうものである。そして,その安全性を
欠いている状態とは,当該工作物自体の性状及び設備に存する物理的,外形的な欠陥
ないしは不備によって,他者に被害を及ぼす危険性がある状態のみならず,当該工作
物の設置された場所やその周囲の状況,用途,利用状況等の諸般の事情を考慮して,
当該工作物が他者に被害を及ぼす危険性がある場合も含むものと解すべきである。
(3) 上記第2,1の事実並びに証拠(甲2の1ないし3,3ないし26,29の1ないし4,3
0,31,32の1・2,33,34の1・2,35,36,38,51の1・2,52の1・2,53ないし5
5,57,58,59の1・2,乙1ないし3,4の1ないし5,5の1・2,6,7の1ないし3,8の
1ないし4,9,10の1・2,11ないし13,14の1・2,15の1・2,16ないし28,32,丙
1,証人G,同O,同H,同L,同I,原告C,被告D(本人兼被告法人代表者),被告E,被
告A)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(なお,認定の便宜上,被
告D及び被告Eの責任に関する事実についても認定する。)。
ア 被告法人は,昭和55年12月25日に設立された。被告法人は,第一種社会福祉事
業として知的障害者更生施設(ひがしうらの家及びパスピ・98)の設置経営並びに第二
種社会福祉事業として本件保育園の設置経営,知的障害者短期入所事業(ひがしうら
の家及びパスピ・98)の受託及び知的障害者地域生活援助事業の合計6つの事業を
目的としている。
 理事は6名(他の理事は,被告Eを除いて被告Dとの親族関係はない。)であるが,登
記されている理事は被告Dのみであり,被告Dが代表者理事である。
 被告法人は,年3回程度開かれる理事会において本件保育園を含む事業の運営につ
いて決するが,緊急を要する修繕等代表者理事の専決権のあるものもある。
 被告法人の理事の職務は,本件保育園の経営(事業計画,事業報告及び予算決算
等)にかかる被告法人の意思決定について年3回程度の理事会を通して関わることであ
り,代表者理事はこのほかに,幹事監査,愛知県の監査及び名古屋市の施設指導監査
に立ち会うこと,被告法人の意思決定に従って被告法人の行為を機関として行うことが
ある。
 被告Dは,本件保育園には常駐しておらず,もっぱら平成10年4月から本件保育園と
は別の場所に所在するパスピ・98の施設長として勤務していたが,本件保育園の園長
被告Eの子であり,被告Eと同居していたこともあり,事実上,ドアが壊れた等の修繕の
打合せにも呼び出される等して,結果的に,本件保育園に月に1回程度は行っていた。
 被告Eは,本件保育園の園長として施設管理の責任者であった。
イ 被告法人においては,平成11年から,本件保育園の増築工事(本件駐車場の設置
も含む。)についての議題が理事会で検討され,同工事については,施行業者の選定,
入札立会,決定のための報告等のために3,4回理事会が持たれた。
 本件駐車場を施工したI工務店は,平成11年12月ころから,約6か月間をかけ,従前
の園舎の南側に本件南側園舎(その西側部分が二階建てであり,その東側部分が一階
という構造となっている。)を新築し,その一階部分の屋上を本件駐車場にするという内
容の増築工事を行った。本件南側園舎の屋上を本件駐車場にすることを発案したの
は,被告Dであった。被告Dは,車両転落の危険がないような施工をするように株式会
社P建築設計事務所(以下「P建築設計事務所」という。)に依頼した。
 本件駐車場の車止めについて,当初,凸型の車止めを床面に取り付ける予定で建築
確認申請がされて許可を得たが,被告Dにおいて,その方法の車止めでは外れてしまう
と考え,駐車床面より南側にコンクリート段差をつけて高くする方法の車止めに変更し
た。そして,被告Dは,P建築設計事務所の設計士から,本件駐車場の駐車車両につい
て,①コンクリート段差の車止めで止まること,②仮に車止めを乗り越えても,本件駐車
場柵の基礎であるコンクリート部分に車両のバンパーが当たって車両を止めることがで
きること,③更ににそれを乗り越えた場合でも,車両の腹部が本件駐車場柵の基礎とな
っているコンクリートに擦った状態で,本件南側園舎の庇で止まることができる三段階の
安全対策になっているとの説明を受けた。
 平成12年4月ころ,本件南側園舎が増築され,その一階部分の屋上に本件駐車場が
設置された。
 被告Eは,本件駐車場の造成について具体的な権限があったわけではないが,本件
駐車場の使用方法について指示しうる立場にあり,本件駐車場に線を引いてO主任とと
もに,方向転換場所の指定をした。平成13年11月ころからは,方向転換場所として,2
台分のスペースを空けるようにした。
 本件駐車場は,設置された当初は,本件保育園の職員だけが使用していた。被告法
人は,その後,本件保育園園児の保護者も使用することができるようにしたが,本件駐
車場を保護者に開放するに当たり,本件駐車場の床下にあるアスファルト防水が傷んで
本件南側園舎が雨漏りする原因となる可能性があったことから,保護者に関しては,駐
車可能な自動車を軽自動車や1300CC程度の自動車に限定した(本件保育園職員ら
については,特段の限定はされていない。)。
ウ 本件駐車場は,東西幅13メートル,南北奥行き約7メートルの長方形であり,その
南側を東西に延びる幅員3.2メートル程度の本件車道と接している。本件駐車場は,
雨水等を流すため,北から南へ向かって緩い下りの勾配が付いており,本件車道から
見ると,本件駐車場の北側奥に向かって緩やかな上りとなっているところ,平坦なコンク
リート床部分の更に北側に15センチメートル高い段差となったコンクリートの車止め部
分(幅1メートル)があり,その北側先に転落防止用の本件駐車場柵の基礎となる厚さ2
2センチメートル,高さ25センチメートルのコンクリートの腰壁がある。
 本件駐車場の北側は本件園庭に面しており,本件園庭に面した端に沿って本件駐車
場柵がある。本件駐車場柵は,直径4.27センチメートル,肉厚0.32センチメートルの
円柱である支柱が約90センチメートル間隔で本件駐車場柵の基礎に約15センチメート
ルの深さで埋め込まれて連結され(打込アンカー止であるが,後記本件駐車場2月事故
により修理された部分はケミカルアンカー止である。)ており,直径4.86センチメート
ル,肉厚0.32センチメートルの円柱である笠木により各支柱の上端を横に繋いでお
り,直径3.4センチメートル,肉厚0.32センチメートルの円柱である下継により各支柱
の下部(本件駐車場柵の基礎から10センチメートル程度上)を横に繋いでおり,各支柱
と支柱との間に縦に直径1.3センチメートルの丸棒である立子を8本,均等間隔で配置
している(長さは笠木と下継との間隔)。そして,これら各支柱,笠木,下継及び立子は,
溶接等により連結されており,本件駐車場柵の高さは,約95センチメートルである。
 本件駐車場柵の北側は,約95センチメートル突き出た本件南側園舎の庇があるのみ
で,庇の上端から垂直に2.95メートル(本件駐車場柵の基礎上端からは約3.6メート
ル)本件園庭に落ち込んでいる。
 本件駐車場柵及び車止め部分を表わす断面図は,別紙図面2のとおりであり,本件駐
車場の平面図は別紙図面3のとおりである。
エ 昭和61年9月1日住指発第185号通達「立体駐車場における自動車転落事故防
止対策について」によれば,本件事故当時,国土交通省は,立体駐車場における自動
車の転落防止対策について設計指針の基準として,床面からの高さ60センチメートル
の位置で,幅160センチメートルにわたり,25トンの衝撃力が加わっても自動車の転落
を有効に防止できるような装置等を設置することを定めている。
 この通達の目的は,「立体駐車場の内部において,通常考え得る程度の誤操作によ
り,自動車が駐車場の外壁等を突き破り転落する事故を防止すること」である。 この通
達の適用範囲は,「直下の地面からの高さが5.1メートル以上の部分(公共の用に供す
る道路,広場等に転落するおそれがある場合においては,直下の地面からの高さが2.
1メートル以上の部分)を駐車場に供する場合で,当該部分のうち,駐車の用又は車路
に供する部分が建築物の外周部分にある場合に適用する。ただし,駐車場内で操車を
行わない機械式駐車場においては,この限りでない。」とされている。
 本件事故当時,上記設計指針は,直下の地面から約3.6メートルの高さにある本件
駐車場を明示的には適用範囲としていなかった(園庭は保育園の専有庭であり,公共
の用に供する道路,広場等に転落するおそれがある場合の基準である「2.1メートル以
上」の適用がなかったと解釈されている。)。
 本件事故後,本件駐車場がこれまでの通達では想定外であったことが問題視され,同
通達が見直され,国土交通省住宅局建築指導課長から各都道府県建築主務部長宛て
の「駐車場における自動車転落事故防止対策について(技術的助言)」(平成15年2月
25日国住指発8290号)が通知された。同通知の目的は従前と変わらず,適用範囲は
「直下の地面からの高さが5.1メートル(多数の者の利用する道路,広場等に転落する
おそれがある場合は2.1メートル)以上である駐車場その他の自動車が転落することに
より重大な事故が生じるおそれのあるものに適用する。」と改められ,また,従前は,床
面からの高さ60センチメートルの位置で,幅160センチメートルにわたり,25トンの衝
撃力が加わっても自動車の転落を有効に防止できるような装置等を設置することとされ
ていたが,今回の改訂により,床面からの高さ60センチメートルの位置で,幅160セン
チメートルにわたり,250キロニュートンの衝撃力が加わっても自動車の転落を有効に
防止できるような装置等を設置することと改められた(1キログラムの質量を有する物体
に1メートル毎秒の加速度を生じさせる力の大きさが1ニュートンである。)。
 また,厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課長から各都道府県,指定都市,中核
市民生主管部(局)長宛ての「保育所に設置されている屋上駐車場での自動車転落事
故防止対策について」(平成16年7月1日雇児保発第0701001号)が通知されたが,
その内容は,「保育所においては,児童福祉施設最低基準(昭和23年厚生省令第63
号)5条2項に定められているとおり,その構造設備は入所者に対する危害防止に十分
な考慮を払って設けなければならず,また,必要に応じてその維持管理を行っていく必
要があります。特に,屋上駐車場を設置している保育所,又は隣接した屋上駐車場があ
る保育所にあっては,危機管理の観点から現状を点検し,問題点を把握することによ
り,児童の安全確保等のより一層の徹底をしてくださいますよう,管内市町村及び保育
所に対する指導方よろしくお願いいたします。」というものであった。
オ 平成14年2月,本件保育園の保護者の自動車(普通乗用車である日産リバティ,以
下「本件日産リバティ」という。)が本件駐車場において段差状態の車止めを乗り越え,
本件駐車場柵に衝突するという本件駐車場2月事故が発生した。同事故は,運転者が
ブレーキとアクセルを踏み間違えたものであるところ,同事故により,本件駐車場の北東
角から西に向かって2本目の支柱が北側にくの字に曲がり,その根本が砕けて本件駐
車場の基礎から本件園庭側に外れ,更にその西隣の支柱も変形してその根本部分が
本件駐車場の基礎と共に損傷しており,これらの支柱間の下継が切れて本件園庭側に
大きく外れ,立子も全て本件園庭側にくの字に曲がった。
 被告Dは,本件駐車場2月事故の報告は受けたが,事故を起こした保護者にも,園児
にも怪我がなく,本件駐車場柵は安全に車を止めることができたという報告を受け,年
度替わりで多忙であったこともあり,同事故の現場を直接見に行くことはせず,本件駐車
場柵の損傷状況等について写真による確認もしなかった。
 O主任,H保育士,J保育士,K保育士及びL保育士は,本件駐車場2月事故を目撃し
なかったが,事後に聞いて知った。H保育士は同事故の前後を通じて,本件日産リバテ
ィを見たことはなくその車種も知らなかったが,同事故のことは当日の朝礼で聞き,同事
故で壊れた本件駐車場柵を見たことはあった。J保育士及びL保育士は,同事故後に同
事故現場を見たことはなかった。
 本件駐車場2月事故の件は,職員会議や保護者会等において問題として提出される
ことはなく,普通乗用車である本件日産リバティが本件駐車場を使用していたことについ
ても,被告法人らは,保護者らに対して,特に,普通乗用車で本件駐車場を使用するこ
とができなくするような対応をとらなかった。
 本件駐車場2月事故による本件駐車場の損傷については,平成14年2月22日,I工
務店が「工事名 めぐみ保育園上部駐車場手摺復旧工事」,「代金 70万2075円,消
費税3万5104円」,工事明細を「1 仮設工事,2 RC腰壁解体工事,3 スチール手
摺解体工事,4 スチール手摺取付工事,5 同上塗装工事,6 RC腰壁工事,7 防水
工事(打継処理,ポリウレタン),8 防水工事(手摺足元防水処理,無収縮モルタル処
理),9 左官工事(吹付下補修),10 吹付工事」とする見積書を作成し,本件日産リバ
ティについて契約されていた保険の保険会社に提出した。
 そして,I工務店により同事故の補修工事がされたが,補修工事の具体的内容は,4か
所の支柱を補修し,それより広い範囲で笠木を取り替え,補修範囲の両端の笠木は,溶
接で固定したものであるが,同事故前の状態に補修することであることから,同事故前
の状態より本件駐車場柵の強度が増したということはかった(補修の範囲は,ほぼ別紙
図面3において「補修範囲」と記載されている部分である。)。
 補修工事については,被告法人の担当としてはO主任が主にかかわっており,被告D
は修繕するという報告を受けた以外はかかわっていなかった。
カ 本件駐車場2月事故の前も以後も,被告法人らは,保育士らに対し,本件駐車場の
すぐ下にある本件園庭に園児らを近づけないようにという指示ないし指導をしたことはな
い。
キ 被告Aは,本件事故の2年位前から,本件保育園に通う孫の送迎をしていた。被告
Aは,送迎を始めた当初,本件保育園正面の道路上にA車を止めて送迎していた。
 しかし,本件保育園正面側から園舎に入る際,階段が多く,急であり,足の不自由な
被告Aにとって大変であったので,被告Aは,平成14年4月ころから,階段でも上り下り
が緩やかな本件駐車場に駐車して送迎をするようになった。
 同年6月20日以前に,K保育士は,被告Aが比較的大きな車であるA車を本件駐車場
に駐車して孫の送迎をしていると他の保護者から聞き,O主任らを通して,被告Aの息
子夫婦に,A車を本件保育園正面の駐車場に駐車するよう依頼した。
 同年6月20日,本件保育園の個人懇談が実施され,K保育士は,被告Aの息子夫婦
に対し,A車について本件保育園正面の駐車場を駐車場所とする「駐車許可証」を渡し
たところ,その時,同夫婦から,送迎しているのが被告Aであり,高齢で,しかも足が不
自由であるため,本件保育園正面の駐車場からでは園児とともに階段を上り下りするこ
とには非常な困難が伴い,大変であるので,なんとか本件駐車場に駐車させてほしい旨
申し入れられた。K保育士は,その後,O主任にこの申入れを伝え,本件保育園内で主
にO主任と被告Eが相談した結果,被告Aの事情及びA車の重量による本件南側園舎
屋上の防水アスファルトの傷みのおそれを考慮し,本件駐車場東側に隣接して本件駐
車場と一体として被告法人が設置した狭い駐車場部分(本件車道に接続しており被告
法人所有に係るものである。)の別紙図面4(ほぼ別紙図面1と同じものである。)記載
○A部分に,篠原車の駐車を許可することとし,同月中に,被告Aに対し,本件駐車場の
駐車許可証が交付された。
 A車は,日産ラルゴというオートマティックの普通乗用車(車体の形状ステーションワゴ
ン)であり,長さ4.58メートル,幅1.74メートル,高さ1.83メートル,車両重量1530
キログラムである。
 被告Aは,本件駐車場の東側にある上記狭い駐車場に,本件車道に平行にA車を駐
車することにしていた。A車の駐車の方法は,本件車道を西進して前部から本件駐車場
内に進入し,方向転換のため一旦本件車道上へ後退し,上記狭い駐車場に前部を東側
に向けて,車道に平行に駐車するというものであった。被告Aは,A車を運転して,普段
は,時速約10キロメートル前後の速度で本件駐車場に進入していた。
ク 被告Aは,本件事故の直前は,本件保育園に孫を迎えに行くためにA車を運転し,
本件保育園南側の本件車道の中央付近を時速約20キロメートルの速度で西進してい
た。
 A車のサイドブレーキは,フットブレーキの左側にあり,踏み込み式のものであり,本件
事故当時,A車には積荷はなく,ハンドル,ブレーキ等の故障もなかった。
 本件事故当時の天候は晴れであり,本件車道はアスファルト舗装の平坦な道路で路
面は乾燥していた。本件車道の見通しは良く,歩行者及び車両は他になかった。
 被告Aは,いつもA車を止めている本件駐車場の東側にある上記狭い駐車場内に既
に他の車が駐車してあったので,A車の前部から本件駐車場内に進入し,一旦後退して
方向転換し,本件駐車場の南側の本件車道の脇に駐車しようとした(被告Aは,本件駐
車場に駐車することができるものと思っていたが,他の保護者らが脇に駐車するとA車
が出にくくなることから,本件車道の脇に駐車しようとした。)。
 そして,被告Aは,別紙図面4記載①の地点で,本件駐車場に進入するため,時速約
10キロメートルないし20キロメートルの速度で進行し,同図面記載②の地点から,ハン
ドルを右に切り,本件駐車場に入ろうとした。ところが,A車は,同図面記載②から③へ
と進行してその前部を本件駐車場柵に衝突させ,一旦後退した後に,更に前進してその
前部を本件駐車場柵に衝突させて,同図面記載⑥付近の本件園庭に落下した。
 このようなA車の二度の衝突状況は,本件事故直後の同車について,ギアがドライブ
に入っており,踏み込み式のサイドブレーキがかかっている状態であったこと,本件事故
直後に本件駐車場及び本件車道に印象されたタイヤ痕,H保育士,L保育士,G,J保
育士の証言や陳述書,その他被告Aに関する本件事故の刑事記録(甲3ないし26)に
より認められるところである。
 被告Aが,オートマッティック車であるA車について,上記のごとき運転をしてしまった
のは,同車の速度調節を誤って同車を本件駐車場柵に衝突させ,あわてて,ブレーキと
アクセルの誤操作,前進後退のギアの誤操作をしてしまったことによるものと推認され
る。
ケ 本件事故による本件駐車場柵の損傷状態は,3本の支柱が本件駐車場柵の基礎
から南側に外れ,これらの支柱の両脇の支柱も根本から南側に傾き,上記3本の支柱
の間の笠木と下継が一箇所切れてその切れ目が大きく南側に広がっている状態であっ
た。
コ 本件事故当時,被告Dは本件保育園に常駐していないため,また,被告Eは銀行と
郵便局に行っていたため,いずれも本件保育園にいなかった。
サ 本件園庭は,本件保育園の園児,保護者及び職員らが遊技や出迎え等で使用して
いた。
(4) 以上の事実に基づき,本件駐車場について,民法717条1項に規定されている設
置又は保存の瑕疵が認められるか否かに検討する。
 本件駐車場は,本件保育園の職員や保護者の運転する自動車の駐車や方向転換の
目的で設置されたものであるところ,本件駐車場柵の南側は,約95センチメートル突き
出た本件南側園舎の庇があるのみで,庇の上端から垂直に2.95メートル(本件駐車
場柵の基礎上端からは約3.6メートル)本件園庭に落ち込んでおり,本件園庭には多
数の本件保育園園児,保護者及び職員が存在していることが予定されているから,本
件駐車場から駐車ないし方向転換の自動車が逸脱して園庭に落下することは絶対に防
止しなければならない。とりわけ,自己防衛力のほとんどない幼い園児らに対しては,そ
の生命身体の保護に徹して,上記児童福祉施設最低基準に定められているとおり,そ
の構造設備は危害防止に十分な考慮を払って設けなければならない。本件駐車場に防
護柵がなく,運転操作の誤り等により自動車が園庭に落下した場合は,その下にいる園
児が重大な被害を被ることは明らかである。したがって,本件駐車場柵は,多数の園児
の命を守る生命線というべきものであり,その強度やこれと一体となった本件駐車場の
構造については,高度の安全性が要求されるものと解すのが相当である。そこで,この
ような観点に立って,本件駐車場の構造等について検討する。
 本件駐車場の床面が本件車道から南側に向けてかなり緩い上りとなっていることは,
本件南側園舎の屋上を兼ねており雨水等の排水上やむを得ないものと考えられるもの
の,車止めである段差は15センチメートルにすぎない。一般の自動車がブレーキをかけ
ずに勢いよく進行した場合,本件駐車場の床面が上り勾配となっていなくても,容易にそ
の車止めの段差を越えてしまうことは,本件駐車場2月事故及び本件事故に照らしてみ
ても明らかである。そして,車止めの段差を越えた自動車は,その前輪が本件駐車場の
床面より15センチメートル高くなった段差の上に上がっているから,その前部バンパー
は,高さ25センチメートルの本件駐車場柵の基礎部分に直接当たらず,本件駐車場柵
に当たり,同車が他の部分と接触することはあるものの,前進する自動車の推進力,衝
撃力をもっぱら本件駐車場柵が受けることになる。すると,本件駐車場柵の強度が問題
となるところ,本件駐車場2月事故及び本件事故による本件駐車場柵の上記各損傷状
態,原告ら提出の名古屋工業大学Q教授の鑑定書等(甲33,34の1・2)において,本
件駐車場柵の強度は10キロニュートンより若干大きめであるとされており,交通事故調
査鑑定人Rの意見書(甲35)において,本件駐車場柵は,7.6トンの衝撃力に耐え得な
かったとされていること,昭和61年9月1日住指発第185号通達「立体駐車場における
自動車転落事故防止対策について」によれば,本件事故当時,国土交通省は,立体駐
車場における自動車の転落防止対策の設計指針の基準として,床面からの高さ60セン
チメートルの位置で,幅160センチメートルにわたり,25トンの衝撃力が加わっても自
動車の転落を有効に防止できるような装置等を設置することを定めていること(本件駐
車場設置時のみならず,平成14年2月においては本件駐車場2月事故を反省して本件
駐車場柵の強度改善をする機会があったから,その時点においても同設計指針の基準
が参考とされるべきである。)等に照らすと,本件事故当時,本件駐車場柵の強度は,
駐車ないし方向転換自動車の衝突による転落を防止するには不十分であったと認めら
れる(被告法人ら提出のS技術士「機械・総合技術管理部門」の報告書等「乙4の1ない
し5,5の1・2」においてさえ,本件駐車場柵は,13.4トンないし20.8トンの衝撃力に
しか耐え得ないと受け取れる記載をしている。)。したがって,本件保育園は上記のごと
き構造となっており,本件駐車場は,本件園庭の園児らの生命身体を守る高度の安全
性を要求されることからすれば,本件事故当時,その通常有すべき安全性を欠いていた
状態であるといわざるを得ない。
 なるほど,上記昭和61年9月1日住指発第185号通達は,本件駐車場設置当時ない
し本件事故当時には,本件駐車場には適用がなかったごとく解釈されている。しかしな
がら,甲29の1ないし4に照らしても,それは,保育園は,特定の者が利用する施設で
あり,管理上の配慮も一般に可能と考えられ,多くの園児達が利用する園庭の上部に
屋上を利用した駐車場が設けられるような状況はこれまで想定していなかったことによ
るものと考えられる。そこで,同通達が見直され,上記国土交通省住宅局建築指導課長
から各都道府県建築主務部長宛ての「駐車場における自動車転落事故防止対策につ
いて(技術的助言)」が通知されて本件保育園の本件駐車場の場合も適用が明文化さ
れ,また,上記厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課長から各都道府県,指定都
市,中核市民生主管部(局)長宛ての「保育所に設置されている屋上駐車場での自動車
転落事故防止対策について」が通知され,屋上駐車場を設置している保育所にあって
は,危機管理の観点から現状を点検し,問題点を把握することにより,児童の安全確保
等のより一層の徹底をするようにとの指示がされたものである。したがって,上記昭和6
1年9月1日住指発第185号通達が本件駐車場設置当時ないし本件事故当時におい
て,本件駐車場に適用がなかったと解釈されるとしても,同通達は,本件駐車場の瑕疵
の有無を認定するに当たって参考となるものである。
 なお,本件駐車場が建築基準法による建築確認を得ているとしても,瑕疵の有無は,
客観的,実質的に判断されるものである上,本件駐車場の場合は,上記昭和61年9月
1日住指発第185号通達等も参考になるというべきであるから,上記認定を左右するも
のではない。
 そして,被告法人が,本件駐車場の瑕疵があるものの本件事故の防止のための特段
の管理上の措置を講じたということも窺えない(被告法人において,本件駐車場を保護
者に開放するに当たり,保護者に関しては駐車可能な自動車を軽自動車や1300CC
程度の自動車に限定したことがあるが,本件保育園職員らについては,特段の限定は
されていない上に,その措置は,本件駐車場の床である本件南側園舎屋上のアスファ
ルト防水が傷まないようにとのことからであり,被告法人は,普通自動車である本件日
産リバティが本件駐車場2月事故を起こした後も特段の措置をとっていない。)。
 以上によれば,土地の工作物たる本件駐車場の設置又は保存には瑕疵があったとい
うべきであり,本件事故は上記設置又は保存の瑕疵により発生したものと認められる。
 被告法人は,本件駐車場の瑕疵と本件事故との因果関係を争うが,オートマッティック
車が駐車ないし方向転換に際して,アクセルとブレーキを踏み間違えたり,前進と後退
のギアを誤操作したりすることは,本件駐車場2月事故及び本件事故のごとく,ままある
ことである。また,運転ミス等によりあわてたりパニック状態となって同じ動作,運転行動
を繰り返すことは,必ずしも稀ではなく,通常考えられないというものではない。したがっ
て,本件駐車場の瑕疵と本件事故との因果関係は認められるというべきである。
(5) 以上によれば,その余について判断するまでもなく,被告法人は,民法717条1項
の工作物所有者責任に基づき,本件事故による損害賠償責任を負うものと認められる。
3 被告Dの責任について
(1) 不法行為責任(安全配慮義務違反)
ア 上記認定事実によれば,被告Dは,被告法人の代表者理事として,被告法人が経
営する本件保育園の業務について委任ないし準委任されていたこと及び原告らと被告
法人との間にはFの保育について本件保育委託契約が締結されていたことが認められ
る。このような事実関係においては,被告Dについて,抽象的な安全配慮義務が認めら
れるところ,その具体的内容は,義務の主体及び客体の各性質,法律関係の内容,そ
の具体的な状況等によって定まるべきものである。
イ 原告らは,被告法人らの安全配慮義務として,①本件駐車場の場所に本件駐車場
を設置してはならない義務ないし本件駐車場の使用を本件駐車場2月事故以降は中止
すべき義務,②本件駐車場柵の強度を十分なものにすべき義務,③本件園庭に安全帯
を設ける等をすべき義務,④本件駐車場における事故の可能性が高くなる駐車許可等
をしてはならない義務等を主張するものの,被告D個人に対する具体的義務の主張に
ついては必ずしも明確ではない。そこで,被告Dは代表者理事として被告法人と同じ事
実に基づいて同等の安全配慮義務がある旨の主張と一応解して以下検討する。
ウ 上記認定事実によれば,被告法人の理事として登記されていたのは被告Dのみで
あるが,理事は6人おり,被告法人の理事会は,年に3回程度開かれ,主に予算や経理
関係の議事を行い,本件駐車場の工事を含む本件南側園舎の増築についても3,4回
の理事会が開かれていたことが認められるところ,これら理事会において代表者理事の
意思表明のみで全てが決まったなどの事実までは認定できず,他に,被告Dと被告法人
を同一視できるような特段の事情は,その主張,立証もない本件においては認められな
い。加えて,被告Dが代表者理事を務める被告法人は,本件保育園の設置経営の外,
第二種社会福祉事業として3事業,第一種社会福祉事業として2事業を行っており,被
告Dは,もっぱら平成10年4月から本件保育園とは別の場所に所在するパスピ・98の
施設長として勤務していたのであり,本件事故当時,本件保育園には月1回赴く程度で
あった。
エ また,本件駐車場の設置又は保存に瑕疵があることは上記のとおりであるが,本件
駐車場については一応建築基準法による建築許可を得ており,その設計及び工事につ
いては,専門業者が行っているものであり,被告Dは,これら業者から本件駐車場が安
全である旨の報告を受けている。
オ すると,被告Dが本件南側園舎の屋上に本件駐車場を作るという発案をしたことは
認められるものの,被告Dが本件駐車場を設置したとまではいえないとともに,被告Dが
本件駐車場の場所に本件駐車場を設置してはならない義務を負いこれを怠った旨の原
告らの主張は採用できない。
カ 本件駐車場2月事故後の対応については,本件日産リバティに関して契約されてい
た保険会社,O主任,I工務店等が関与しており,被告Dは,同事故後,事故を起こした
保護者にも,また園児にも怪我はなく,本件駐車場柵は安全に車を止めることができた
こと及び補修工事をするとの報告を受けた(補修工事については,被告法人の担当とし
ては保育士主任のO主任が主にかかわっており,被告Dは特にかかわっていなかっ
た。)ものである。すると,本件駐車場2月事故後については,多数の者が関与して対応
しており,被告Dが報告を受けてそれ以上積極的に対応しなかったこと等を捉えて,本
件駐車場の使用を中止すべき法的義務があること及びこれを怠ったことまでも認めるこ
とは困難である。
キ 次に,本件駐車場の設置については,理事会において決められたことであり,被告
Dの専決ではない上,本件駐車場については一応建築基準法による建築許可を得てお
り,その設計及び工事については,専門業者が行っているものであり,被告Dは,これら
業者から本件駐車場が安全である旨の報告を受けていることに照らすと,被告Dが本件
駐車場柵の強度を十分なものにすべき義務がありこれを怠った旨の原告らの主張は採
用できない。
ク さらに,原告ら主張の本件園庭に安全帯を設ける等をすること及び本件駐車場にお
ける駐車許可等をすることに関しては,主張のごとき具体的問題は,もっぱら本件保育
園の園長や職員が相談して内部的に決める施設管理の問題であり,通常は,代表者理
事である被告Dの権限と責任に係るものとは考え難いところ,被告Dにおいて,原告ら主
張のごとき行為をする法的義務及びこれを怠ったことを認めるに足りる特段の事情が認
められない本件においては,これらの点について,被告Dの義務及びその違反を問うこ
ともできないといわざるを得ない。
ケ 以上によれば,被告Dについて,安全配慮義務及びその違反を認めることは困難で
ある。
(2) 保育士の安全配慮義務違反に関する民法715条2項の監督者責任
 本件全証拠によっても,本件保育園の保育士らにつき,原告ら主張のごとき不法行為
の原因となる過失(安全配慮義務違反)を認めることは困難である。したがって,被告D
に同法715条2項の監督者責任を認めることもできない。
(3) 債務不履行責任(危険防止に配慮すべき安全配慮義務)
ア 上記のとおり,被告Dは,被告法人の代表者理事として,被告法人が経営する本件
保育園の業務について委任ないし準委任されていたこと及び原告らと被告法人との間
にはFの保育について本件保育委託契約が締結されていたことが認められるところ,こ
のような事実関係においては,被告Dは,信義則上,本件保育園の園児であるFに対
し,安全配慮義務を負うものと解される。安全配慮義務は,「ある法律関係に基づいて
特別な社会的接触に入った当事者間において」存するものであり(最高裁第三小法廷昭
和50年2月25日判決),同義務を認めるには,必ずしも配慮義務者と要配慮者との間
に直接の契約関係がなければならないというものではないと解される。
 しかしながら,そのような直接の契約関係のない者に対してまでも,安全配慮義務を信
義則上認めるには,慎重に判断されるべきであり,安全配慮義務の内容が具体的で,
義務違反が明確であることを要すると解される。
イ 原告らは,被告法人らの安全配慮義務として,①本件駐車場の場所に本件駐車場
を設置してはならない義務ないし本件駐車場の使用を本件駐車場2月事故以降は中止
すべき義務,②本件駐車場柵の強度を十分なものにすべき義務,③本件園庭に安全帯
を設ける等をすべき義務,④本件駐車場における事故の可能性が高くなる駐車許可等
をしてはならない義務等を主張するものの,被告D個人に対する具体的義務の主張に
ついては必ずしも明確ではない。そこで,被告Dは代表者理事として被告法人と同じ事
実に基づいて同等の安全配慮義務がある旨の主張と一応解して検討した結果は,上記
第3,3(1)ウないしクのとおりである。
ウ 以上によれば,被告Dについて,債務不履行責任(危険防止に配慮すべき安全配慮
義務)も認められない。
4 被告Eの責任について
(1) 不法行為責任(安全配慮義務違反)
ア 上記認定事実によれば,被告Eは,被告法人経営に係る本件保育園の園長であり,
被告法人が経営する本件保育園の施設管理,人的管理等について委任ないし準委任
されていたことが認められところ,このような事実関係においては,被告Eについて,抽
象的な安全配慮義務が認められるところ,その具体的内容は,義務の主体及び客体の
各性質,法律関係の内容,その具体的状況等によって定まるべきものであることは上記
のとおりである。
 原告らの,被告E個人に対する具体的義務及びその違反の主張についても明確では
ない点があるが,上記原告らの被告Dに対する主張と同様にして検討することとする。
イ すると,まず,本件駐車場の場所に本件駐車場を設置してはならない義務について
は,本件駐車場の設置は本件保育園園長の権限でも責任でもなく,被告Eが登記され
ていないが本件法人の理事であるとしても,本件駐車場の設置は多数の理事で構成さ
れる理事会で決められたものであり,被告E単独でしたことではないこと等に照らせば,
被告Eに同義務及びその違反を認めることはできない。
ウ 次に,本件駐車場の使用を本件駐車場2月事故以降中止すべき義務について見る
に,上記のとおり,同事故後の本件駐車場については,多数の者が関与して対応したこ
と,I工務店により修理がされていること,前掲証拠によれば,同事故後も本件保育園の
保護者や職員が引続き本件駐車場を使用する必要性があったこと及び当時本件駐車
場から自動車が転落することまでも予測した者はいなかったことが認められること等に
照らすと,被告Eについて,本件駐車場2月事故以降,本件駐車場の使用を中止すべき
法的義務があること及びこれを怠ったことまでも認めることは困難であるといわざるを得
ない。
エ さらに,本件駐車場柵の強度を十分なものにすべき義務について見るに,上記のと
おり,本件駐車場の設置については,理事会において決められたことであり,被告Eが
設置したものではない上,本件駐車場については一応建築基準法による建築許可を得
て,専門業者がその設計及び工事を行っているものであり,被告Eが本件駐車場の設
計,施工に具体的にかかわったことが窺えない本件においては,被告Eに本件駐車場
の瑕疵を察知して,その強度を十分にすることを求めることはできないから,被告Eが本
件駐車場柵の強度を十分なものにすべき義務がありこれを怠った旨の原告らの主張は
採用できない。なお,本件駐車場2月事故後においても,上記のとおり多数の者が関与
して対処したものであること,本件駐車場の設計,施工に具体的にかかわっていないと
窺える被告Eは,建築基準法に従って設置された本件駐車場の強度について疑問を持
っていなかったと考えられるところ,同事故後にI工務店により本件駐車場の修理がされ
たことから本件駐車場の強度についての認識は基本的に変更しなかったものと推察さ
れること,被告Eにおける本件事故の予見可能性及び結果回避可能性の存在について
断定し難い点があること等に照らすと,原告らの上記主張は採用できないというべきで
ある。
オ そして,本件園庭に安全帯を設ける等をすべき義務及び本件駐車場における事故
の可能性が高くなる駐車許可等をしてはならない義務等について見るに,上記認定事
実によれば,被告Eにおいて,これらの法的義務及びこれらの義務を怠ったものと認め
ることは困難である。
カ 以上によれば,被告Eについて,安全配慮義務及びその違反を認めることは困難で
ある。
(2) 保育士の安全配慮義務違反に関する民法715条2項の監督者責任
 本件全証拠によっても,本件保育園の保育士らにつき,原告ら主張のごとき不法行為
の原因となる過失(安全配慮義務違反)を認めることが困難であることは上記のとおりで
あるから,被告Eに同法715条2項の監督者責任を認めることはできない。
(3) 債務不履行責任(危険防止に配慮すべき安全配慮義務)
ア 被告Eは,被告法人経営に係る本件保育園の園長であり,被告法人が経営する本
件保育園の施設管理,人的管理等について委任ないし準委任されていたことが認めら
れるところ,被告Eは,被告法人が原告らとの本件保育委託契約により預かったFに対
し,信義則上,安全配慮義務を負うものと解される。
 しかしながら,直接の契約関係のない者に対して,安全配慮義務を信義則上認めるに
は,慎重に判断されるべきであり,安全配慮義務の内容が具体的で,義務違反が明確
であることを要すると解されることは上記のとおりである。
イ 原告らの,被告E個人に対する具体的義務及びその違反の主張についても明確で
はない点があるが,上記原告らの被告Dに対する主張と同様にして検討した結果は,上
記第3,4(1)イないしオのとおりである。
ウ 以上によれば,被告Eについて,債務不履行責任(危険防止に配慮すべき安全配慮
義務)も認められない。
5 損害について
(1) 治療費                       6230円
甲27及び弁論の全趣旨によれば,Fの本件事故による治療費として上記金額が認めら
れる(なお,原告らは,本件事故による治療費としては,上記金額以外請求していな
い。)。
(2) 葬儀費用                      170万円
甲28の1ないし6及び弁論の全趣旨によれば,原告らが葬儀費用として328万1564
円を支出したことが認められるが,社会通念上許容される限度で損害と認められるもの
であるところ,本件のごとき悲惨な事故により死亡した者の冥福を祈るためにある程度
手厚い葬儀を営むことは一般的であることにかんがみると,本件事故と相当因果関係
のある葬儀費用としては170万円と認めるのが相当である。
 ところで,原告らは,葬儀費用として328万1564円支出したが,これに対し被告Aか
ら250万円を受領したため,残金が78万1564円である旨主張する。
 しかしながら,被告Aは,原告らに250万円を支払ったことは認めるものの,本件事故
による損害全般に対する支払であると主張しており,被告Aが葬儀費用のみに対して支
払ったことを認めるに足りる証拠がないから,上記250万円は,後記本件損害に対する
既払金として控除されることとなる。なお,原告らが葬儀費用として78万1564円のみ
を請求しているのが,上記のごとき理由によるものであるから,上記170万円の葬儀費
を認めることは,処分権主義に抵触するものではない。
(3) Fの死亡逸失利益2593万6913円
Fは,本件事故により死亡した当時,3歳の女児であったところ,Fのような幼女について
は,今後,多様な職業選択の可能性があるものといえ,かつ,本件事故当時幼女であっ
た者たちが就労を開始する将来の社会状況も考慮すべきと考えられる。この点,日本に
おいて,過去に比して職業選択についての男女の差がなくなりつつあり,これに応じて
収入額の差も減少している。この社会状況には,法制度上の裏付けもされ,将来におい
ても進展していくと予想される。したがって,Fのような幼女が就労を開始する十数年後
には,収入についての男女差は,現在よりもより小さくなっていると推認し得るから,Fの
逸失利益を算定するに当っては,基礎収入について,特段の事情のない限り,全労働
者平均賃金により算定するのが相当である。
 そこで,特段の事情の窺えない本件においては,平成14年の賃金センサスにおける
企業規模計・産業計・全労働者の年収額である494万6300円を基礎収入とする。そし
て,基礎収入を男女全体の年収額と考えることから,Fの生活費控除率については4割
と認めるのが相当である。
 すると,Fの逸失利益の算定に関しては,494万6300円を基礎収入とし,就労開始
年齢の18歳から就労可能年齢の67歳までの49年間,生活費控除率を4割として,ラ
イプニッツ式計算法により,年5分の割合の中間利息を控除して逸失利益の現価を算定
すると2593万6913円となる。
4,946,300×(1-0.4)×(19.1191-10.3796)=25,936,913(小数点以下切捨)
 なお,原告らは,中間利息控除について,控除利率を裁判時の実質金利に従って計
算するのが相当であり,昭和31年から現在までの日本の経済状況を考えると,将来に
おける変動率を考慮しても,利率は年2分ないし年3分を超えないと主張する。
 しかしながら,中間利息を控除する場合に,一般にその利率を年5分としているのは,
将来得べかりし収入が現在価格で一時に支払われる場合には様々な有利と思われる
運用,利殖をすることができること,他方では支払う側の負担等を考慮し,民事法定利
率を参酌したものであり,特に,本件は,就労可能年数が就労可能となる15年後から4
9年間と長期間に及ぶ事案であり,金利の変動は,世界的な政治,経済情勢や国内に
おける政治的,経済的,社会的諸要因によって影響を受けるものであり,上記15年後
から始まり49年間に及ぶ長期間に金利が変動し年5分を超える可能性も考えられるこ
と等にかんがみると,上記原告らの主張は採用できないといわざるを得ない。
(4) Fの死亡慰謝料 2400万円
 Fは,幼気ない春秋に富む3歳の幼児であり,原告らや兄,姉及び祖父らに可愛がら
れて順調に成長し,幸福な将来と限りない可能性を有していたにもかかわらず,何ら落
度がなく,突然,安全で保護されているべき本件保育園において,本件事故に遭い,無
惨にもA車の下敷きになって命を絶たれてしまったものである。Fの受傷の内容も,頭蓋
骨陥没,左足大腿部・下腿部骨折という痛ましいものであった。
 以上のごとき事情にかんがみると,Fの死亡慰謝料としては,2400万円を認めるの
が相当である。
(5) 原告らの固有の慰謝料               各300万円
ア 上記第2,1の事実並びに証拠(甲1,39ないし42,45の1ないし3,46ないし49,
60,61,65,66,68,69,乙23,原告C,被告D「本人兼被告法人代表者」,被告E)
及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) Fは,原告らの末っ子として生れ,兄や二人の姉,同居するFの
祖父にも可愛がられ,祖父にはだっこやおんぶをせがみ,「おかち買ってー。ジューチュ
買ってー。」とねだりながらも,祖父の肩たたき,原告Cの手伝いもしていた。
 原告Bは,疲れて帰ってきても,Fに出迎えられると一日の疲れも吹き飛ぶ思いであっ
た。
 原告Cがただ一度見ることになった本件保育園での発表会でFは,先生に教えてもらっ
たダンスをただ一人間違えずに踊ることができた。原告らにとって,Fは,可愛くひょうき
んな物覚えの良い自慢の娘であった。
 原告らは,一家の太陽であった愛するFを亡くし,家庭は一変し,真っ暗な闇夜に突き
落とされたような日々を送っている。
(イ) 原告Cは,平成14年9月18日午後4時過ぎ,本件保育園の保育士から早く来るよ
うにとの電話を受けた。そして,本件保育園に着いて,騒然とした中,本件保育園の本
件園庭に行ったところ,大破したA車の手前に,おびただしい血で真っ赤に染まった布団
の上に寝かされたFを見た。原告Cは,そこに座り込み,全身傷だらけのFに何度も呼び
かけたが返事はなかった。
 Fは,救急車で藤田保健衛生大学病院に搬送されたが,命だけは助かってほしいとの
原告らの必死の願いも空しく,原告らの前で冷たくなって死亡した。
(ウ) 本件事故の翌日,本件保育園で,保護者に対する説明会が開かれたが,原告ら
はそれを知らなかった。説明会の終わりに,被告Dはこれから原告ら宅へ行くと言って本
件保育園を出た。原告らはその経緯をを後日聞き,原告らの名を出して,説明会を中断
したものと感じた。
 平成14年10月21日,原告らは,本件事故について被告法人側からの説明がないの
で,被告Eに対して,原告ら宅に来てほしいと言った。同日夜,被告E及び被告Dらが原
告ら宅に来たが,具体的説明は特に聞けなかった。
 原告Bは,平成14年10月30日ころ,「要望書」と題する書面(甲39)に「平成14年9
月18日午後4時頃園舎屋上の駐車場に駐車しようとしていた自動車が落ち,運動場で
遊んでいた私の子どもが死亡し,もう一名の園児が怪我をするという事故が発生してい
ます。事故の翌日開催された保護者会でこの事故の説明があったそうですが,私はそ
の保護者会に参加していませんし,まだ園より説明を十分に受けていませんので,私を
含めた園児の保護者に対する事故に関する説明会の開催を要望します。園児の安全
性に関する重要な問題でありますので,早急に開催をお願いします。また開催しないの
であれば,その理由を私に文書で回答ください。」と記載し,原告らは,同年11月1日,
これを本件保育園に提出した。
 これに対し,同月5日,被告法人の代理人である弁護士から,原告ら宛てに,被告法
人は事故原因の解明,責任の所在等についてできる限りの協力をしたいと思っている
が,上記要望書記載の説明会については,同年9月19日に保護者説明会を開催して
おり,原告Bには個別に被告法人の知りうる情報を提供しているので,改めて開催する
予定はないこと等が記載された内容証明郵便が届いた。
 その後,本件事故に関する説明会は,行われていない。
(エ) 原告らは,被告法人らに対し,Fの葬儀を保育園葬にしてもらいた
いという希望を伝えたが,受け入れられなかった。
(オ) Fの葬儀は同年9月21日に行われたが,翌22日,原告らは,被告Dに対し,本件
事故現場に花壇を作ってほしいと要望したところ,被告Dは,前向きに検討すると回答し
た。
 原告らが,同年9月末ころ,被告法人に花壇の件について問い合わせたところ,被告D
は,「忌明けまで待って下さい。」と答えた。
 原告らは,同年11月5日の忌明けまで待ち,被告Dに連絡したが,積極的な回答はな
かった。
 その後,平成15年になって,原告らは,被告法人からの,学校健康センターからの供
花料を受領するか否かの問い合わせに対して,被告法人に,それを寄付するので,Fが
亡くなった場所に花壇を作ってほしい旨伝えた。
 これに対し,被告法人らは,原告らに対して,平成15年10月27日,原告らから寄付
を受ける意思がないこと,花壇の件は承諾しかねる旨の回答をした。
(カ) 本件保育園の運動会は,本件事故のため,開催を延期していたところ,平成14年
11月9日,本件保育園において開催されたが,運動会に関して本件保育園側から原告
らに対して連絡がなかった。そして,原告Cは,上記運動会が開催された日にパニック状
態に陥り,同日,医療法人福智クリニックにおいて診察を受けたところ,T医師から,「病
名心因反応」,「強いストレスにより,抑うつ状態となっている。就労は困難で,今後しば
らくは,休養及び加療を必要とする。」との診断を受けた。
(キ) 原告らは,被告法人らから,本件事故について,原告らに対する謝罪や責任を感
じると受取れるような言葉を聞くことはなかった。
(ク) 被告Aは,Fの初七日を迎えた日,初めて原告ら宅にお参りに来て,「一生かけても
償っていきます。」と述べた。ところが,被告Aは,Fの一周忌後は,原告ら宅にお参りに
来ることはなくなった。
イ 以上のごとき事実によれば,原告らが,最愛の我が子の命を目を覆う惨事で奪わ
れ,癒えることのない悲しみ,苦しみの極みに日々置かれていることが認められる。そし
て,本件事故後の被告法人の無理解と受取られる対応や被告Aの加害者としての反省
が疑われる変貌に,深く心を傷つけられたことも認められる。
 本件事故につき,Fの葬儀を保育園葬とすることやFの死亡した場所に花壇を作るこ
と,あるいは延期した保育園の運動会を開催すること等について,被告法人の自由な裁
量問題であり,被告法人において原告らの意向に沿うことがなかったこと自体を捉えて
法的責任を問うことは妥当ではないと考えられるものの,被告法人の損害賠償責任が
認められることは上記のとおりであり,上記第3,5(5)アの事実及びその経緯に照らす
と,被告法人において,悲嘆にくれている原告らに対する配慮を欠いた対応が見受けら
れるというべきである。
 また,被告Aにおいては,原告らにとってかけがえのないFの命を奪った者であるにも
かかわらず,Fの一周忌後の対応の変化により,更に原告らの心を傷つけたことは,原
告らに対するB意を欠いたものといえる。被告Aの上記のごとき自動車を運転しなくなっ
たことから足の便がなくつい遠ざかってしまった等の弁明は,容易には理解し難いところ
である。
 何よりも,被告Aは,基本的注意義務を怠る重大な過失によって,Fを死亡させ,原告
らに計ることのできない苦痛を与えたものである。
 したがって,これらの事情を総合考慮すると,被告法人及び被告Aに対する原告らの
本件事故による固有の慰謝料としては,各300万円を認めるのが相当である。
(6) Fの損害の相続
 甲1及び弁論の全趣旨によれば,原告らはFの父母であり,Fの本件損害賠償請求権
を各2分の1の割合で相続したことが認められるから,原告らは,上記第3,5(1)ない
し(4)の合計5164万3143円の各2分の1である2582万1571円(円未満切捨)を各
相続した。
(7) 上記第3,5(6)の金額に上記同(5)の原告ら固有の慰謝料である各300万円を加え
ると,原告らについて,各2882万1571円となる。
(8) 既払金控除後の原告らの金額      各2757万1571円
 被告Aから原告らに対し,250万円が支払われたことは当事者間に争いがないとこ
ろ,この既払金の性質については上記のとおりであるから,これを控除した後の原告ら
の金額は各2757万1571円となる。
(9) 弁護士費用 各180万円
 上記認容額及び本件事案の内容及び本件審理の経緯に照らすと,本件事故と相当因
果関係のある弁護士費用としては,原告ら各180万円と認めるのが相当である。
(10) 上記第3,5(8)の金額に上記同(9)の金額を加えた原告らの損害額合計は,各29
37万1571円となる。
第4 結論
 以上によれば,原告らの被告らに対する本件損害賠償請求は,各原告が被告法人及
び被告Aに対し,連帯して2937万1571円及びこれに対する本件事故の日である平成
14年9月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を
求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれをい
ずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官   島田周平
裁判官   城内和昭
裁判官   宮崎雅子
(別紙図面1から4省
略)

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