弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件公訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人後藤孝典、同鈴木一郎、同山口紀洋及び同錦織淳が連
名で提出した控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は検察官大
津丞が提出した答弁書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。
 第一 控訴趣意中事実誤認の主張について
 一 B1に対する傷害
 原判決挙示の関係証拠によれば、水俣病による損害の補償を求め、A1株式会社
社長ら同社首脳と直接交渉をするため、A4本社に赴き面会を要求していた水俣病
患者及びその支援者と、これを阻止しようとする同社社員及び子会社の従業員との
間で昭和四六年一二月以降しばしばこぜりあいが繰り返されていたが、A2A3工
場の従業員で警備を命ぜられていたB1は、昭和四七年七月一九日同僚四〇数名と
共に午前八時ころから原判示のC2ビル内の本社で待機し、八時五〇分ころ北側階
段四階踊り場付近で社員が出勤を妨害されているとの報せを受けて同所へ赴いたと
ころ、四、五名の社員が一七、八名の患者や支援者に取り囲まれていたので近ずく
と反対に押し返され、さらに支援者の一人に胸ぐらをつかまれて引つ張られそうに
なつたので防いでいると、左前にいた被告人がきて右腕をつかみ肩のつけねの下の
内側あたりに咬みついてきたこと、B1は咬みついているのをはずして再び支援者
の方に押し入つたところまた押し戻されたうえ、班長の海老名が引きずりこまれた
のに続いてB1も支援者の一人に右足を引つ張られ、引きずりこませまいとして同
僚が後ろから抱えている時、被告人が支援者の一人と一緒になつてB1の左足首を
つかんで引つ張り、宙ずりになつたB1の左側にきて胃のあたりを手拳で二度続け
ざまに殴つたこと、同人はその日のうちに目黒区内のC1病院で治療を受け、右上
腕部咬傷等の傷名で加療約二週間との診断を受け、この傷が癒えるまで約二週間か
かつたこと、以上の事実が認められ、右事実によれば原判決の認定は正当である。
 二 B2に対する傷害
 原判決挙示の関係証拠によれば、A2A3工場の従業員B2は、昭和四七年七月
二〇日午前八時ころから約四〇名の同僚と共にC2ビル五階廊下の北側階段付近で
五列の隊列を組んで警備についていたが、八時二〇分ころ被告人が支援者四、五名
ときて前列の者を引き抜こうとしたので、B2が引つ張り返せと言うと、被告人に
腕をつかまれ、互いに引つ張り合ううち隊列がくずれてB2か六階の方へ逃げてい
くと、被告人が追いかけていつてB2をつかまえ、支援の者もきて同人の肩をつか
んで身動きできない状態にしたうえ、同人の左大腿部内側に被告人が咬みついたこ
と、B2が身をふりほどいて逃げ出そうとするとすぐ被告人らにつかまり、今度は
被告人から顔や頭を殴られ、支援の者にも蹴られたりして、ようやく五階廊下まで
逃げていくと、ここでも追いかけてきた被告人につかまり、後ろえり首をつかまれ
て前の壁に打ちつけられたこと、B2はそのあとC1病院で治療を受け、加療約一
週間を要する左顔面打撲症、左大腿部咬傷等との診断を受けたが、痛みかとれるま
で約一週間かかつたこと、以上の事実が認められ、右事実によれば原判決の認定は
正当である。
 三 B3に対する傷害
 原判決挙示の関係証拠によれば、A2A3工場の従業員B3は、昭和四七年七月
二一日A4本社で約四〇名の同僚と警備につき、四階から五階へいたる踊り場で約
二〇名が六、七名ずつ横になつてスクラムを組み、自らは最前列の左端にいて左手
で階段の手すりをつかんでいたところ、八時すぎころ数名の支援者が五階から降り
てきて前列の者の胸ぐらをつかんだり引つ張つたりし、その時被告人が降りてきて
副木をあてた足を手すりにのせ、どうしてくれるなどといつたあとB3に近ずいて
そこをどけといいながら手すりをつかんでいる同人の手をほどこうとしたが、でき
ないのでその前腕部に咬みつき、B3がなおも手を離そうとしないので、今度は手
首の上の方に咬みつき、同人が痛さに耐えかね手を離したすきに通り抜けて下へ降
りていつたこと、B3はそのあとすぐにC1病院へ行き、被告人に二度目に咬まれ
た個所の治療を受け、加療約一週間を要する左前腕咬傷と診断されたが、その後は
じめに咬まれた個所が痛むので同月二六日C3病院で治療を受け、全治約二週間を
要する左前腕咬傷後遺症と診断され、痛みがとれるまで二週間以上かかつたこと、
以上の事実が認められ、右事実によれば原判決の認定は正当である。
 四 Dに対する原判示第四の傷害
 原判決挙示の関係証拠によれば、A1の人事部長で警備の責任者であるDは、昭
和四七年七月二一日午前八時ころからC2ビル北側階段四階踊り場付近で他の警備
の社員とともにいたところ、午前八時一〇分ころ被告人が五階から降りてきてDに
対し、副木した足を示して文句をいい同人の胸や肩を突き、さらに踊り場の鉄格子
の扉を閉めたり、これをとめようとするDを蹴ろうとしたあと、副木をはずして手
にもち三階の方へ降りようとしてDに制止され、このとき三階の方から支援の者が
警備の者と揉み合いながら上つてきて四階の踊り場でDを取り囲み、小突いたり顔
を殴つたりし、その直後に被告人が副木でDのうしろから頭部を殴打したこと、D
は午前一〇時前C1病院で治療を受け、加療約二週間を要する後頭部打撲症と診断
されたこと、以上の事実を認めることができ、右事実によれば原判決の認定は正当
である。
 五 Dに対する原判示第五の傷害
 原判決挙示の関係証拠によれば、熊本地裁における水俣病損害賠償請求訴訟が昭
和四七年一〇月一四日結審となり、同月二五日いわゆる訴訟派の人々がA1社長と
の面会を求めてA4本社を訪れ、自主交渉派の被告人やその支援者らも加わつて面
会を拒むA1側と鉄格子をはさんで対峙し、数時間にわたつて騒然とした状態が続
いたが、社員が集団退社したあとの午後六時三〇分ころ前記Dが帰ろうとしたとこ
ろ、四階廊下で被告人や患者、支援者につかまつて廊下に座らされ、二、三〇名の
者に取り囲まれて、口々に「患者の苦しみがわかるか」「社長に会わせろ」などと
非難や罵声を浴びせられ、小突かれたり、引つ張られたりされたこと、このような
状態はDが警察官に救出される七時一五分ころまで続いたが、その間の七時すぎD
をうしろから抱きかかえていた被告人がDの左前に出てきて同人の左上くちびる付
近を手拳で一回殴打したこと、このためDはくちびるを切つて血を流し、同夜C1
病院で傷口を一針縫うなどの治療を受け、加療約一〇日間を要する口唇部挫創との
診断を受けたこと、以上の事実が認められ、右認定は当審における事実の取調べの
結果によつても左右されない。
 所論は、Dの周りには人が密着していて同人のうしろにいた被告人が前へ出てこ
れる状況でなく、その場に居合せた者も皆被告人の暴行を目撃していないから、D
の証言は全く信用できないと主張する。
 しかし、Dの周りにいた人が時折移動していることや被告人がDの左前付近で同
人と対面している状況があつたことは、原審及び当審で取調べられた写真によつて
認められるところであり、当時の現場の状況は本件認定の妨げとなるものではな
い。また、被告人の暴行は一回きりのもので、しかもそれは数十分にもわたり周り
の多くの者が口々に非難を浴びせて小突いたり引つ張つたりする中での行為である
から、原審及び当審で当時の模様を証言した人々が被告人の暴行を目撃しなかつた
としても格別不自然ではない。Dの証言内容は明確であり、とりわけ「殴られた時
私はさすがにカツとなつたので『Eさん何をするんですか、あなたが私に乱暴した
のはこれで二回目ですよ』といつて、右手をのばして被告人のつけていたゼツケン
を引つ張つてちぎつた」との証言部分は具体的、特徴的であつてDの証言の信用性
を裏付けるものである。そして、詳細な反対尋問にも十分耐えており、ことさら虚
偽を述べたり事実を誇張して述べているとも思えず、Dの証言の信用性は十分肯定
されるところである。その他所論にかんがみ記録を検討しても、原判決に事実の誤
認はない。
 第二 控訴趣意中公訴棄却の主張について
 一 論旨と当裁判所の考え
 (一) 所論は、本件公訴は、加害者制裁、被害者救済の公害法の法理に反し、
かつ公平の原理に背き加害企業に一方的に加担してなされた差別的起訴で、違法で
あるから、棄却されるべきであるという。すなわち、水俣病発生以来その因果関係
が次第に明らかになつていたのに、国、県は被害の発生を防止し、その拡大を阻止
するための措置をとらず、水俣病による被害を一段と深刻かつ大規模なものとさせ
たが、これは行政上の怠慢というにどまらず、違法な不作為として法的に非難さる
べきであり、水俣病に対するとき国は加害者として自覚し、加害者制裁、被害者救
済という基本的責務を果たし、正義を取り戻すことが求められているのに、本件起
訴にあたつてはこれらのことが全く考慮されていない。一方、水俣病の原因物質を
排出し、多数の死傷者を出したA1関係者に対しては、因果関係が明らかになつた
後も何ら捜査がなされず、原判決後患者の告訴によつてようやく業務上過失致死傷
の罪で起訴されたにすぎず、これにひきかえ、A1に排水中止や漁業補償を求めた
被害民及びその支援者に対しては些細な事実をとらえて起訴し処罰してきた。この
ような訴追側の偏頗差別的な取扱いはこれにとどまらず、その後のA2A3工場に
おける従業員の集団暴行事件やA4本社での自主交渉の過程における従業員の数々
の暴行事件においても一貫しており、訴追側はこれら従業員に対して何の処罰も求
めなかつた。被告人に対する本件の公訴提起も右の意図のあらわれであり、それば
かりか本件起訴が自主交渉の継続中にその指導者に対してなされたことによつて、
当時重要な段階を迎えていた自主交渉を困難にさせたもので、加害企業に加担する
結果をもたらした。以上の事実のほか、自主交渉の正当性、本件行為の防衛的性
格、被害の軽微性等を併せ考えると、本件起訴が反公序、反社会的であることは明
らかで、高度の違法性を有するから、公訴は棄却さるべきであり、少くとも訴追の
裁量を逸脱した公訴権の濫用として棄却がなされるべきであるという。
 (二) いわゆる公訴権濫用を問題とする場合、通常(1)客観的嫌疑なき起訴
(2)訴追裁量を逸脱した起訴(3)違法捜査に基ずく起訴の三者に分類されてい
ることは周知のとおりである。そして、本件が右の客観的嫌疑なき起訴の場合でな
いことは、事実誤認の控訴趣意に対して判断したとおりであり、また本件各事実に
対する捜査の手続に違法不当と考えられる点がないことも記録上明らかであるか
ら、右の(3)の場合にも一応あたらないといえよう。所論は、本件起訴が単に訴
追裁量の逸脱にとどまらず、公訴の提起自体が違法であるとして独立の公訴棄却の
理由を主張するが、その趣旨は、さきに摘記したように、公訴の提起が正義と公平
に反する不当偏頗なものであるというのであるから、従来差別的訴追について論ぜ
られてきた領域、すなわち前記(2)の訴追裁量の逸脱の問題として考えることが
できるし、こうした取扱いは公訴権の行使について規定する法条(刑訴法二四八
条、三三八条四号)に即して処理できるのでより有用であろう。従つて、本件では
被告人に対する公訴の提起が訴追裁量を逸脱した公訴権の濫用であるかどうかが検
討されることになる。
 <要旨>(三) 思うに、公訴の提起は検察官の専権に属し、しかも公訴を提起す
るかどうかは検察官の裁量にゆだねられている。検察官の起訴、不起訴の処
分は、刑訴法二四八条が例示する諸事項を基礎に、種々の政策、理念を考慮してな
される合目的的判断であるから、その権限の行使にあたつては相当広範囲の裁量が
予定されている。他方、右の処分は、関係者の利害と深刻に結びついた重要な訴訟
行為であり、しかも国家を代表し正義の顕現につとめるべき検察官の行為であるか
ら、そこにはおのずから一定の制約があることも否定できない。そして、裁量によ
る権限の行使である以上、その濫用はあり得るし、場合により権限の濫用が甚だし
く、とくに不当な起訴処分によつて被告人の法の下の平等の権利をはじめ基本的人
権を侵害し、これを是正しなければ著るしく正義に反するとき、右の侵害が刑事事
件として係属することによつて現実化している以上、裁判所としてもこの状態を黙
過することは許されず、当該裁判手続内において司法による救済を図るのが妥当で
ある。従つて、公訴権濫用の問題は、刑事司法に内在し、裁判所の権限に属する判
断事項というべきで、このことは、検察官の処分も憲法八一条の「処分」に該当
し、司法による審査、抑制の対象となると解されることからも肯定されよう。検察
官の不起訴処分に対しては、準起訴手続や検察審査会の制度があり、これによつて
不当な不起訴処分は是正されようが、起訴処分に対しては、予審や大陪審の制度も
ない現行刑訴法のもとでは、直接これを抑制する刑事手続上の制度は存しない。従
つて、公訴権濫用に対する救済の方法は、起訴処分に対する応答の形式を定めた刑
訴法三二九条以下の条文に依拠して決められるが、訴追裁量を著るしく逸脱した公
訴の提起は直接には起訴便宜主義を定めた刑訴法二四八条に違反するものであるか
ら、同法三三八条四号にいう公訴提起の手続の規定に違反したものとして、同条に
よる公訴棄却の判決がなさるべきであると考える。
 そこで、以下において、本件が公訴棄却を招来すべき公訴権の濫用にあたるかど
うかを検討することとなるが、本件で特有なことは、所論の骨子をなす差別の問題
が、同種他事件あるいは同一事件内の被疑者相互の比較というのではなく、公害を
契機に対立する当事者、すなわち公害のいわば加害者側と被害者側との間の取扱い
上の差別ということであり、そこには今日の社会における宿命的矛盾ともいうべき
公害の問題が介在している点に二重の特徴を有している。なお、公訴権濫用の問題
は、不当な訴追から被告人を救済することにあるから、検察官において、意図的
に、又は、著しい怠慢により、法の下の平等に反する偏頗な公訴の提起がなされた
ような場合は、右の処分は無効というべきであるけれども、そこには、やはり、検
察官の故意又は重大な過失という主観的要素が必要とされることは、いわゆる権利
濫用の一般原則から考えて、やむを得ないことであろう。しかし、検察官の公訴提
起の処分は、強大、かつ、密行性の公機関が行使する捜査権を背景とするものであ
るから、かかる主観的要素は、背景となる客観的事実の集積から、これを推認する
以外にはなく、かかる客観的外部的事実に照らし、公訴提起の偏頗性が合理的裁量
基準を超え、しかもその程度が、憲法上の平等の原則に抵触する程度に達している
と判断される場合には、事実上の推定に基ずき、検察官の故意又は重大な過失の存
在が証明されたといつて妨げない。
 二 事実
 原審及び当審て取り調べた証拠を総合すると、次の事実が認められる。
 (一) 水俣病とこれをめぐる訴追
 1 水俣病
 水俣病の発生は古く昭和二八年にさかのぼるといわれる。当初奇病としてあらわ
れた水俣病は、その後F1大学医学部水俣病医学研究班の調査により「A1A5工
場の癈液に含まれていたメチル水銀によつてG1湾及びその付近の魚介類が汚染さ
れ、これを長期かつ多量に摂取した付近住民が罹患した中毒性中枢神経疾患であ
る」旨究明され、次いで政府のいわゆる公式見解によつて認知されるまで一五年の
歳月を要した。その間もG1湾及びその周辺のG2海は汚染され続け、多数の患者
の続発とともに二〇数名の胎児性水俣病患者の発生をもみるに至つた。A1の水銀
癈液の放流は、漁民達のたび重なる抗議によつても中止されず、昭和四三年五月A
6工場において水銀を用いないエチレン法によるアセトアルデヒドの製造能力が増
加したことにより、A5工場におけるカーバイド法による製造が不要となつて停止
されたことにともない中止されたが、水銀により汚染されたへドロは除去されず、
今なおG1湾内の魚介類は食することができない状態にある。そして、水俣病とし
て認定された患者は、昭和五〇年四月現在約七〇〇名、うち死亡者は一〇〇名を超
えており、認定申請者は三〇〇〇名に及んでいる。
 2 水俣病究明の過程
 かかるA1の所為について、昭和五一年五月四日当時のA1の社長とA5工場長
が業務上過失致死罪で起訴されるに至つたが、捜査及び行政の端緒ともいうべき観
点から、水俣病の因果関係が究明されていつた過程をたどれば、次のとおりであ
る。
 (1) 熊本県水産課技師の調査
 昭和二七年八月技師B4はA5工場の癈水調査をし「G3港にカーバイト残渣が
多量に堆積し工場の重要問題となつている、汚水と残渣のため漁獲が減少してきて
いる、貯留残渣が沖へ広がるおそれがある、排水を分析して明確にすることが望ま
しい」と復命書を熊本県へ提出した。
 (2) F1大学水俣病研究班による重金属説の発表
 昭和三一年一一月回研究班は中間報告会で「水俣病はG1湾産の魚介類を摂取す
ることによつて生ずる中毒症であり、その原因物質はある種の重金属である」旨発
表した。
 (3) 参議院社会労働委員会における国立F2院疫学部長の発言
 昭和三二年三月B5疫学部長は同委員会において「F1大の研究班は工場排水も
一応疑つて研究を続ける必要があるとして土壌、海水を分析している」旨説明し
た。
 (4) 熊本県水産課技師の調査
 昭和三二年三月技師B6はG3港一帯の漁業被害の調査をし「この一帯の漁獲は
皆無で漁民はこの付近で魚介類をとることに恐怖を感じており、奇病発生が今後も
予測されることからその困窮状態は甚だしい、二九年以来海況の変調はひんぱんに
あり、奇病問題としてとりあげられる以前海岸に漂着した魚類をひろい食用に供し
た者は多いということである」と復命書を県へ提出した。
 (5) 参議院社会労働委員会における厚生省環境衛生部長の発言
 昭和三三年六月B7環境衛生部長は同委員会において「水俣病はある種の金属に
よる脳症を起こす中毒であり、発生源はA1の工場が一番推定される」旨説明し
た。
 (6) 厚生省F2局長通達
 昭和三三年七月厚生省は同局長名で通産省、熊本県知事等関係行政機関に対し
「これまでの研究成果より、A1の工場の療棄物が港湾泥土を汚染し、魚介類が癈
棄物中の化学毒物と同種のものによつて有毒化し、これを多量に摂取することによ
つて発症することが推定される」旨の通達を出して協力方を要請した。
 (7) 操業禁止の指示
 昭和三三年八月熊本県経済部長はG4海沿岸各漁協等に対し水俣病等の危険海域
での操業を行わないよう指示した。
 (8) F1大研究班の有機水銀説の発表
 昭和三四年七月同研究班は県及びA5工場関係者の出席のもとに会議を開き「水
俣病は現地の魚介類を摂取することによつて惹起される神経系疾患であり、魚介類
を汚染している原因毒物はある種の有機水銀である」と発表した。
 (9) 厚生省食品衛生調査会の答申
 昭和三四年一〇月水俣食中毒部会は同調査会に対し「水俣病は有機水銀中毒に酷
似し、G1湾底の泥中の水銀が魚介類を通じて有毒化される機序を明らかにする必
要がある」と答申し、同調査会は同年一一月厚生大臣に対し「水俣病はG1湾及び
その周辺に棲息する魚介類を多量に摂取することによつて起こる主として中枢神経
系統の障害される中毒性疾患であり、その主因をなすものはある種の有機水銀化合
物である」と答申した。
 (10) 通産省指示
 昭和三四年一〇月通産省はA1に対し癈水を水俣川口へ流出させることを即時中
止するよう指示した。
 (11) 参議院社会労働委員会における厚生省F2局環境衛生部長の発言
 昭和三四年一一月B8環境衛生部長は同委員会において前記(9)の答申の結果
を説明した。
 (12) B9教授の発表
 F1大B9教授は昭和三七年四月F3学会総会において「A5工場より排出され
ると考えられる有機水銀と水俣病有機化機転」を発表し、さらに昭和三八年二月F
1大研究班の会議で「水俣病の原因物質と考えられる有機水銀化合物をA1の工場
より採取したスラツジより抽出した」と発表した。
 (13) 政府見解の発表
 昭和四三年九月厚生省は「水俣病はG1湾の魚介類を長期かつ多量に摂取したこ
とによつて起こつた中毒性中枢神経疾患であり、その原因物質はメチル水銀化合物
であり、A1A5工場のアセトアルデヒド酢酸設備内で生成されたメチル水銀化合
物が工場排水に含まれて排出され、G1湾の魚介類を汚染し、その体内で濃縮され
たメチル水銀化合物を保有する魚介類を地域住民が摂取することによつて生じたも
のと認められる」との公式見解を発表した。
 3 A1の不訴追
 被告人Eに対する本件起訴は昭和四七年一二月二七日に行われたものであるが、
それまでA1の所為について関係者を訴追した事実はなく、本件に対する原判決後
ようやく業務上過失致死傷罪で起訴されたことは前述のとおりである。この起訴の
内容は、前記2の(2)ないし(8)の事実関係をもとに、被告人らには工場排液
を排出しない措置を講ずべき業務上の注意義務があるとし、被告人らは右の注意義
務を怠り昭和三三年七月から昭和三五年八月ころまで工場排液を排出した結果、胎
児性患者一人を含む六名の者を水俣病に罹患させ、うち五名を死亡させたというも
ので、過失の基礎をなす事実関係は当時既に明らかにすることができたものばかり
であつて、冒頭陳述書や取調べ請求された証拠の標目を検討しても、水俣病発生後
二〇数年を経過した時点まで起訴を待たなければならない事情は見出すことができ
ない。その間の事情を知るため、当裁判所は熊本地方検察庁と熊本県警察本部へ前
記2の諸事項の覚知の有無及びこれに対する対応の仕方について照会をしたのであ
るが、実質的な回答が得られなかつたので、当時具体的に捜査がなされたと認むべ
き資料はないが、A1に対する今回の起訴が、昭和五〇年四月一七日以降A1幹部
を被疑者とする殺人等告訴、告発事件を東京地検より五回にわたつて移送受理し、
同年一一月二九日熊本県警察本部より業務上過失致死傷事件の送致を受けたことに
基ずくものである(当裁判所の照会に対する熊本地検の回答による)ことを考える
と、これまで起訴をしなかつたのは告訴、告発がなかつたからというのが理由とい
えは理由であろう。しかし、業務上過失致死傷罪が告訴、告発をまたなければ論ぜ
られない事件でないことはいうまでもない。この点捜査側の対応の一端を知る事情
として、昭和三四年ころF1大研究班班長B10が熊本地検検事正に「工場を捜索
して癈液を押収してくれ、海に毒を流して犯罪にならぬことはあるまい」と言つた
ところ、検事正は「原因物質がはつきりわからぬと捜査に乗り出すわけには」と答
えたこと、昭和三八年二月B9教授の前記発表のあと、熊本地検検事正は「今のと
ころ検察庁としてはどうするかなんともいえない、これまでは医学的なはつきりし
た原因がわからず手のつけようがなかつたが、医学的研究の結論がでれば結果しだ
いでは大いに関心をもたねばならないであろう」と語つていること、昭和四三年九
月熊本県警察本部長は県議会において「業務上過失致死傷罪はすでに時効にかかつ
ているが、新らしい事実が出た時点において詳細に検討してみたい」と答弁してい
ること等を指摘することができる。
 4 被害民の訴追
 水俣病の発生以来、G1湾及びその周辺の魚が売れなくなつたり、魚価が著るし
く低下し、漁民の生活は次第に困窮していつたが、この原因がA1の排水にあると
考えた漁民達は昭和三二年一月A1に対し汚悪水の放流中止を申し入れ、昭和三四
年にはF4漁協や周辺漁協及びF5漁協がしばしばA1に対し工場排水の中止を求
めて激しい抗議行動を行つたが、このうち昭和三四年一一月二日G2海沿岸の漁協
組合員数百名がA5工場に乱入し窓硝子や什器類を損壊した事件につき組合員三名
が執行猶予付の懲役刑に、組合員五〇数名が罰金刑に処せられた。さらに本件起訴
後ではあるが、昭和四八年八月支援者の一人がA5工場前で警察官に罵声を浴びせ
て逮捕、勾留され、拘留に処せられたことがあり、昭和五〇年九月認定申請患者と
支援者四名か熊本県議会の公害対策特別委員会委員長のニセ患者発言に関し委員会
に入ろうとして生じた事件につき、公務執行妨害罪等で逮捕、勾留され、起訴され
ている。
 (二) 自主交渉とこれをめぐる訴追
 1 自主交渉の経緯
 A1の工場癈液による被害の補償は、水俣病発見以前から漁業の被害に対して行
われていたが、昭和三二年八月水俣病患者及びその家族は水俣病患者家庭互助会を
結成し、補償を求めてA1と交渉し、熊本県や県会議員に陳情を続け、昭和三四年
一二月末熊本県のG2海漁業紛争調停委員会の調停に従い、いわゆる見舞金契約を
結んだのをはじめ以後七回にわたりA1から低額の補償を受けていた。昭和四三年
九月政府見解が発表されたのち、患者互助会は、見舞金契約を白紙に戻して新たな
補償を要求することを決め、A1と交渉を続け、厚生省へ陳情を繰り返したが、そ
の間昭和四四年初め厚生省の水俣病補償処理委員会にあつせんを任せるいわゆる一
任派とこれを拒否し熊本地方裁判所へ損害賠償請求訴訟を提起する訴訟派とに分か
れた。そして、本件自主交渉はその後昭和四六年八月七日の環境庁裁決後に認定さ
れたいわゆる新認定患者によつて行われたものである。
 被告人Eは、父を水俣病で失い、自らもその症状に苛まれながら、日雇い、臨時
工、雑役夫等をして生計をたててきたが、水俣病患者認定申請を二度にわたつて棄
却され、不服審査請求に基ずく前記環境庁裁決によつてようやく昭和四六年一〇月
六日公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法の水俣病患者に認定された。そ
こで、被告人は新たに認定された一七名とともに直接A1と交渉して被害の回復を
図ろうと考え、同月一一日から一一月一日までの間三回にわたりA5工場で交渉
し、患者一人につき一律三〇〇〇万円の補償を要求したが、A1は「新認定患者は
前の患者と趣旨が違う、補償の基準がないから国の公平な第三者機関にまかせよ
う」といつて要求に応ぜず、交渉は何ら進展しなかつた。このため、被告人らは工
場正門前で座り込みを始めたが、脱落者も出、このままでは苦しむのは患者ばかり
だと思い、このうえはA1の社長と相対で話し合つて解決しようと考え、同年一二
月六日上京し、同月七日A4本社でB11社長に面会し、補償要求に対する誠意あ
る回答を求めた。翌八日再び交渉に入つたか、B11社長は、患者の症状の程度等
補償の規準が不明であるとし、すでに一一月二四日A1において申請していた中央
公害審査委員会の調停に従いたい旨答え、具体的な回答をせず、交渉は深夜に及
び、B11社長の健康状態か交渉に耐えられないとして交渉は中断されるに至つ
た。しかし被告人らはそのまま居残り、支援者多数も廊下に座り込んで交渉の継続
を求めていたが、支援者は間もなく警察官によつて排除され、被告人ら患者も一二
月二四日従業員らによつて実力て運び出された。その間水俣では二九名の患者が新
たに認定され、そのうち二〇名に対して中公審への調停申請と引換えにA1から二
〇万円が支払われ、上京した患者の中でも動揺がみられたが、これまで調停ではA
1の責任が明確にされず、低額の補償しか得られなかつたため、被告人は自主交渉
を継続することにし、同月二五日からC2ビル玄関前にテントを設置して座り込み
を始め、連日支援者らとともにA4本社に赴き、B11社長らに面会を求めたが、
A1側は社長の健康が回復しだい水俣で話し合うといつて要求に応じなかつた。昭
和四七年一月に入つてからも同様の状態が続き、同月一〇日A4本社のある四階廊
下へ押し入ろうとした支援者多数とこれを阻止しようとしたA1の従業員との間で
乱斗状態となり、相当の負傷者が出たので、A1は廊下への出入口に鉄格子を設置
し、五〇名ないし一〇〇名の従業員を動員して警備にあたらせたが、患者及び支援
者と従業員との間でしばしば衝突ないしもみ合いが繰り返され、双方に負傷者が続
出して、平和裡に交渉や面会を行うことは困難な状態になつていた。そこで、同年
二月二三日環境庁において、B12環境庁長官及びB13熊本県知事立会のもとに
B11社長との直接交渉が再開され、同年四月二一日まで六回にわたり交渉が重ね
られ、その間患者側は一律一八〇〇万円の賠償と内金の支払いを求めたが、A1側
は内金二〇万円を支払つたものの賠償額については具体的な回答をしなかつたの
で、交渉は次回の交渉が予定されていたのにそのまま中断した(なお被告人らに対
する中公審への調停申請は交渉前環境庁長官の要請により取下げられた)。この
時、自主交渉に参加していた患者は被告人を含め一二名となつていたが、被告人ら
はその後も交渉再開のあてもないまま連日A4本社へ赴き面会を要求し続け、その
都度鉄格子と従業員のピケツトにはばまれ、目的を達せず引下がるという日が続い
た。本件のうち原判示第一ないし第四の事件は、このような状況のもとで起こつた
のである。その後環境庁長官の更迭かあり、一〇月に入つて新患者認定の発表がな
され、この中から自主交渉を求める患者が出たのを機に、B14新長官立会いのも
とでA1との交渉がもたれたが、A1側は「近く出される筈の公調委の結論に従つ
て欲しい」と主張してやはり交渉は実らず、一〇月一四日熊本地裁における損害賠
償請求訴訟が終結し、訴訟派の人々が上京して同月二五日被告人ら自主交渉派の人
々と共にA4本社に赴き、社長との面会を求めた。この経緯は原判示第五の事実に
関して当裁判所が認定したとおりである。被告人は、右の件で取調へを受け、同年
一二月二七日五件の傷害罪で起訴されたが、この日新らしく就任したB15環境庁
長官を訪ね、A1との交渉再開を要請した。一方、訴訟派及び自主交渉派の患者達
は、水俣市に調査にきていた公調委の委員に民事判決前の調停案提示をひかえるよ
う申し入れていたが、昭和四八年一月公調委へ調停を申請していた患者の補償額に
関する委任状が一部偽造されていることが発覚し、このため結局調停案の民事判決
前の提示はされず、同年三月二〇日熊本地方裁判所において、損害賠償請求訴訟の
患者側勝訴の判決がなされた。右判決後、訴訟派と自主交渉派の患者が中心となつ
て水俣病患者東京交渉団がつくられ、将来の医療、生活保障を求めて交渉がはじま
り、B15環境庁長官の仲介や本社内での座り込み等により、七月九日ついにA1
との間で協定が結ばれるに至り、全患者の判決なみの補償、将来の治療費、介護
費、手当の支払いが約束された。ここにおいて、水俣病患者とA1との紛争は解決
し、昭和四九年一月二八日付でB11社長より原審宛に被告人に対し特に寛大な処
分を願う旨の上申書が提出された。
 2 被告人と支援者に対する訴追
 一年一〇か月に及ぶ自主交渉の過程において、患者及び支援者とA1従業員との
間て数多くの衝突が繰り返され、双方に多数の負傷者がでるに至つたが、Dの原審
証言によれば、A1側の負傷者は二〇〇名を越えるといい、他方患者側は、被告人
が昭和四七年七月一九日左足指を骨折したのをはじめにB16、B17が負傷し、
支援者は眼瞼部を一二針縫合する傷害を負つた者ほか多数に及んでいる。そして、
A4本社での交渉の過程で生じた事件で起訴されたのは、被告人Eに対する本件起
訴と支援者B18に対する傷害罪による起訴の二件であり、A1従業員に対するも
のはない。
 なお、自主交渉に関連して生じた事件であるが、昭和四七年一月七日、被告人
が、A1従業員の態度について労働組合としての姿勢をただすため、支援者及び報
道陣とともにA2A3工場に全A1F6協議会議長を訪ねた際、退去を求める従業
員多数から暴行を受け、被告人や支援者、写真家B19らが負傷したいわゆるA3
工場集団暴行事件については、不起訴処分がなされている。
 三 判断
 (一) 1 八年前「F7」を発表した原審証人B20の新著「F8」は、G2
海が苦海になる以前の海、海辺の人々、光に満ちた自然、山の神、土俗の神々と幼
女時代の作者との交流、交歓が描かれ、自然の匂がきわめて細密に書き綴られてい
る。しかし、その海は水銀汚染によつて今はない。国栄えて山河なしというべき
か。
 2 西洋の法哲学は、アリストテレス以来、平等をもつて「正義」であるとし
た。またこれを「各人にかれのものを」という標語によつて示した。なかでもロー
マの法学者ウルピアヌスは正義を定義して「各人にかれの権利を頒ち与えようとす
る恒常、不断の意志である」とした。すべての人間に人間たるにふさわしいかれの
ものを配分するのが正義であり、平等である。それが、法の普遍的理念であるとい
うのである。ラートブルツフは、同様のものは同様に、異るものは別様に取り扱う
のが平等であり、正義であり、法の理念であるとした。べソサムはそれを、より具
体的に「最大多数の最大幸福」を実現することであるとし、マルクスは「各人がそ
の能力に応じて寄与し、各人がその必要に応じて享有する」とした。また、フイヒ
テは理性国家の構想を描き、すべての人々に人間らしい生活を保障することが国家
の任務であるとした。彼によれば、人間の人間らしい生活は、一方では社会のため
にする勤労の義務を伴ない、他方では社会よりする生活の保障を受ける。ゆえに、
国家は、少数の者が豊かな生活をすることよりも、まず、すべての国民に憂ひのな
い生活を確保させることを配慮すべきである。しかも、人間の人間らしい生活は、
単に勤労をもつて経済上の生活の保障を購うというだけでは足りず、いかなる勤労
の生活の中においても、仰いで文化の蒼空から心の糧を得られる権利をもたねばな
らないとする。英米の法諺にも、良き裁判官は衡平と善に従つて裁判し、厳格法よ
りも衡平法を選ぶとあり、米連邦最高裁判所のB21対B22事件の判決は、違法
ピケのかどで黒人学生が逮捕されたことに抗議するため約二〇〇〇人の黒人学生が
アメリカ南部B22州、G5市内を通り、裁判所に至るデモ行進を行つた際、その
リーダーの一人が平穏妨害罪、公共通行妨害罪及び裁判所周辺でのピケやパレード
を禁止する法律違反の罪等に問われたのであるが、デモ行進が裁判所の近くに来た
時、取締りに当たつていた警察署長が、デモは裁判所を一〇一フイート隔てた通り
の反対側にとどまつて一定限度時間内であれば許されると述べていたことに及び、
それにもかかわらず、これを信頼して被告人が演説を始めたところ、この演説が煽
動的であるとしてデモを直ちに中止するよう命じたことを認定して、このような状
況下で被告人を処罰するのは、被告人をワナにかけることになり、憲法の保障する
正当手続を犯すとして有罪の州最高裁判決を破棄したのであるが、法の基本理念は
公正であり、フェアネスであることがよく示されている。
 具体的事件を通じて法と正義と平等とを顕現する使命を担う裁判官は上にのべた
ような哲学をもつて事に当たらなければならないのであり、その指標となるもの
は、わが国においては、現行憲法を頂点とする手続法、実体法を措いてはほかにな
い。まことに、アメリカのトライアルジヤツジのB23が先年司法研修所におい
て、いみじくも演述したように、裁判所は、国家権力が濫用されないように監視す
る義務を負うている、この義務は、有罪の者すべてが必ず罰せられるようにすると
いう義務よりも大きな義務でなければならないのである。
 (二) すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下
級裁判所に属する(憲法七六条一項)。具体的事件を通じて、一切の法律、命令、
規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定するのは裁判所を措いてほかにな
い(同法八一条)。しかして司法権が発動して司法的抑制機能を発揮するために
は、検察官によつて公訴が提起されることが当然の前提となる(不告不理)。わが
国の制度では公訴提起の権能は検察官が独占し、そのうえいわゆる起訴便宜主義が
とられていて、検察官は、犯人の性格、年令及び境遇、犯罪の軽重及び情状、並び
に犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる
(刑訴法二四八条)ことになつている。検察官が事件を起訴することも、しないこ
ともできるということは、被疑者に対していわば生殺与奪の権能をもつことを意味
し、これほど大きな権能を一手に掌握するのは世界の法制度としてみてもほとんど
類例がない。検察官の不起訴処分に対してはさきに指摘したように、限られた事件
につき準起訴手続があり、また、検察審査会の制度があつて、不十分ながら民意を
反映する道が拓かれているのに対し、検察官の公訴提起については、公訴提起後の
審理を通じて司法的抑制が加えられることとなつている。
 刑事事件にあつては、その本質上、被告人を訴追する政府(直接には検察権の行
使)もまた、正義、公平が実現されることを見守るべき義務を有するのであるか
ら、いわゆる必罰主義は右憲法上の要請(適正手続)の前に譲歩を迫られるべき例
外的な場合があることを肯定し、公訴提起を差し控えるべき義務がある場合があ
り、もしあえて公訴が提起され、それが濫用にわたると考えられる場合は、裁判所
において公訴の提起そのものに対してその価値を否定することか許されなければな
らない。
 (三) 公訴権濫用論は、検察官の訴追裁量、とくに起訴処分に対する違法性、
ことに後述の如く本件の場合には違憲性の審査を中核とするものであり、しかもそ
れが被訴追者の人権にかかわりがあるたけに、特に本件の如き差別起訴が問題とな
つているときには憲法の基本的人権の保障条項、法の下の平等保護条項を侵害する
差別的な起訴であるかとうかが重要な基準となり、これに加えて他の基本的人権、
とくにデュー・プロセスの侵害の場合をとり込んで考察が進められなければならな
い。
 差別的な起訴が法の下の平等保護条項に違背することを容認する右見解に対する
最大の反対論拠は、現に法を侵害し、犯罪を行つた者として刑事訴追を受けた被告
人が、訴追機関の不平等な措置を理由に、すなわち他の犯罪者は不当に訴追されな
かつたという理由だけで自己の刑事訴追を免れる特権を与えられてよいのか、法を
侵害する犯罪者に対しては、これを確実かつ迅速に訴追し、法の適用を確保すべき
国家的、社会的利益があり、たとえ訴追裁量上の不当があつたとしても、そのこと
によつて直ちに訴追の客観的な利益は否定されるべきではないというにあろう。し
かしながら、これについては、公正な手続、法の平等な運用を重視する見地から、
憲法違反の差別的起訴に対しては、それによる公訴権行使を訴追上抑制し、被告人
にそれ相応の訴訟上の救済権を与えるべきであり、被告人もただやみくもに処罰を
免れようとしているのではなく、違憲かつ不当な差別的起訴からの自由を請求して
いるのだと理解することによつて、右反論は成り立たないものであると解する。
 (四) そこで、検察官の起訴処分が違法な違憲の差別起訴として公訴権濫用と
なる基準を具体的に考察するのに、この場合検察官の主観的意図も必要といわざる
を得ないが、この点についても、さきに指摘したとおりであり、むしろ、客観的事
実に重点をおいて、それらの事実の積み重ねから主観的意図を推認することになら
ざるを得ない筋合いである。本件において重要なのは客観的事実そのものに重点を
指向し、それによつて差別起訴であるか否かを判断すべきもので、その根拠として
は、憲法一四条一項の平等保護条項がこれに当たるが、何が合理的差別で何が不合
理な差別なのかを解明する決め手となるのは、当然他との比較衡量である。同一事
件に関与した被疑者の間にあつて、ある者は起訴され、他の者は不起訴ないし起訴
猶予となつた場合のように、単に平面的に比較するのではなく、比較の対象が対向
関係にあつて、平面的、微視的な観察では足りず、立体的、巨視的な観点に立つて
比較衡量することを要する場合のあることに留意しなければならない。本件はまさ
にその場合であるといつてよい。
 およそ、検察官がある事件を立件し刑事処罰を求めるに当たつては、当該犯罪の
動機、原因、背景的事実を捨象して現象面のみを見ることは皮相であり、刑訴法二
四八条に照らして、むしろ不可能であるとすらいえる。すでに上述し以下にも詳述
するとおり、水俣病の被害という比較を絶する背景事実があり、自主交渉という長
い時間と空間のさなかに発生した片々たる一こまの傷害行為を、被告人らが自主交
渉に至らざるを得なかつた経緯と切り離して取り出しそれに法的評価を加えるの
は、事の本質を見誤るおそれがあつて相当でない。
 (五) 以下、本件事案に即して検討する。
 水俣病の被害は公害史上最大のものといわれ、今なお、多くの者が有効な治療法
が見出せない状況のもとで、病苦に身を苛まれている。当裁判所は原審及び当審に
おいて提出された書物、写真、フイルムを通して水俣病に苦しむ患者の姿の一端を
見る機会を得たが、この悲惨さに対するとき、我々は語るべき言葉を持たない。胎
児性水俣病患者の仕草の一つ、四肢を硬直させ痙れん発作を起こした患者の姿は水
俣病のすべてを物語つているといえよう。公害は、民事判決も指摘しているよう
に、一方的に惹起され、一方的に被害を与えるものであり、しかも土地を離れない
かぎり逃れるすべがないばかりか、しらずしらずのうちに身体がおかされ、原因が
明らかにされた時にはすでに手遅れの場合もある。そして、被害は多数の住民に及
び地域全体に深刻な影響を与えるとともに家族全員が犠牲になることも少なくな
い。水俣病はこの典型であり、被告人自身患者である本件においては右の特殊性が
十分考慮される必要があろう。
 さて、水俣病の前に水俣病はないといわれ、その原因究明に年月を要した水俣病
であるが、はたしてこれを防ぐ手だてはなかつたであろうか。先に「水俣病究明の
過程」で指摘した事項をみるとき、患者が続発し、胎児性患者まであらわれている
状況のもとで、当初奇病といわれた段階から一五年間も水銀癈液が排出されている
状態を放置しておかなければならない理由は見出せない。態大研究班による地道に
して科学的な原因究明が行われた経過の中で、態本県警察本部も熊本地方検察庁検
察官もその気がありさえすれば、水産資源保護法、同法等に基ずいて定められた熊
本県漁業調整規則、工場排水等の規制に関する法律、漁業法、食品衛生法等弁護人
が引用する各種の取締法令を発動することによつて、加害者を処罰するとともに被
害の拡大を防止することができたであろうと考えられるのに、何らそのような措置
に出た事績がみられないのは、まことに残念であり、行政、検察の怠慢として非難
されてもやむを得ないし、この意味において、国、県は水俣病に対して一半の責任
があるといつても過言ではない。のみならず、A1の水銀癈液の放流の原因となつ
たアセトアルデヒドの製造は国家によつて容認されていたのであるから、被害民の
立場からすれば、A1と異なる意味で国家もまた加害者であるといえよう。
 A1幹部に対する業務上過失致死傷罪による起訴は、昭和三三年七月ころから昭
和三五年八月ころまで工場癈液を排出した行為が過失の内容となつているのである
から、当時速やかにこのような起訴がなされあるいはこれを前提とした捜査がなさ
れていたなら、その後の一〇年に近い排出とこれにともなう水銀汚染が防げていた
であろうことを考えると、時機を失した検察権の発動が惜しまれるのである。これ
にひきかえ、排出の中止を求めて抗議行動に立ち上つた漁民達に対する刑事訴追と
処罰が迅速、悛烈であつたことは先に指摘したとおりである。
 次に、自主交渉について考察するのに、自主交渉は水俣病による被害の補償を求
めるものである以上、これを法的に構成すれば、原判決が指摘するように損害賠償
債権の履行を求める行動ということになろうが、しかし患者とA1との間を単に債
権者、債務者の関係として平面的にとらえるだけでは、本件における自主交渉の意
義及び被告人ら患者の意図を正確に理解することができないであろう。未曽有の被
害、行政の停滞、水俣市におけるA1の占める役割と被害民に対する市民の反応、
A1の責任回避、会社幹部の被害民に対する対応の仕方の不誠実さ、各種調停によ
る低額の補償、訴訟派、一任派の分裂、新認定患者の登場等長期間にわたる複雑な
事情を背景に自主交渉が登場したわけであり、昭和四八年七月九日の協定成立まで
の交渉の経緯は、公害による被害の補償の一方法を示すものとして、民事判決とと
もに水俣事件を特徴づける重要な要素となつている。右の協定は、全患者に民事判
決なみの補償を与え、今後の治療費、手当等の支払いをも約束するもので、これま
での調停による補償とくらべ格段の内容を有するが、この協定成立にあたつては、
民事判決か最も影響を与えているとしても、被告人ら自主交渉派の努力によるとこ
ろも大きい。このような成果を得た自主交渉てはあつたが、原判示第一ないし第四
の事件の時点では、環境庁長官立会による交渉が途絶え、交渉再開のめどは全くつ
いておらず、自主交渉の患者も減少して内部的に苦しい状況にあり、原判示第五及
び起訴の時点では、熊本地裁における訴訟が終結し、訴訟派と共同して交渉にあた
ろうという動きが出、他方民事判決前の調停案提示にむけて公調委の作業か進めら
れるなと事態は重要な局面を迎えていたものであり、自主交渉派のリーダーである
被告人に対し起訴がなされたことにより、自主交渉派の患者に少なからぬ打撃を与
えたものと認められ、意図するとしないとにかかわらず本件起訴が対立する当事者
の一方に加担する結果をもたらしたことは否定できない。もつとも、自主交渉とい
えとも相手のあることであるから、無理に交渉の場につかせることはできず、最後
は民事訴訟にうつたえるほかないのてあつて、交渉を求めるには限度があろうし、
行き過ぎがあれば当然是正さるべきであり、他方A1にしてみれば業務を遂行する
ために連日従業員を動員しなければならないのは相当の負担であつて迷惑であるこ
とはいうまでもない。しかし何の落度もなく一方的に被害を被つた患者達のA1に
対する感情には容易に抜き難いものがあり、患者に対するこれまでのA1の対応の
仕方をも考慮すると、A1としては相当程度我慢しなければならないし、被告人ら
に行き過ぎがあつたとしても、これに対して直ちに刑罰で臨むのは妥当を欠くとい
わなければならない。本件の各事実については、原判決も指摘するように、被害者
の傷は日常生活において看過し得る程度のものでなく、暴行の態様も顔を殴つた
り、腕に咬みつくなど身体に対する直接の攻撃であつて、軽視し難い面を有してい
ることは確かであり、A1の従業員であるからといつて被害者がこれらを甘受しな
ければならない理由はない。しかしながら、これらの暴行は、補償の手がかりをつ
かもうとして必死に面会を要求する者とこれを阻止しようとした者との間で生じた
出来事であつて、個人的に被害者に遺恨をもつて行つたものではない。被告人の行
為を、水俣病に苦しむ多くの患者とりわけ物言わぬあるいは物言えぬ患者の抗議で
あると思えば、被告人に対する感情の何程かは減じるのではあるまいか。
 自主交渉及び本件行為については以上のように考えるのであるが、被告人に対す
る訴追の当否を論ずるにあたつて無視できないことは、自主交渉の過程で生じた事
件についても水俣病における訴追と類似した不平等が生じていることてある。すな
わち、自主交渉の過程におけるトラフルでは、A1側のみならず被告人ら患者及び
支援者にも多数の負傷者が出たことは前に述べたとおりであり、とりわけA3工場
の事件は、面会の約束をとりつけて赴いた被告人や報道陣に対し、多数の従業員が
有無をいわさず力を振うという非常識なもので、当時各方面から非難が寄せられた
ことは周知のとおりである。そして、この事件については不起訴処分がなされた。
結局、これらを通して訴追されたのは患者側だけだったわけである。このA1従業
員の不訴追ということについて付言すると、被告人の罪責の有無を検討するに過ぎ
ない当裁判所が、A1従業員の刑責を確定したり、訴追、不訴追の当否を論ずるこ
とが許されないことは明らかであり、当裁判所もA3工場等の事件の不訴追が不当
であるというのではない。
 ただ、どちらの側にも理由のある行為によつて生じた事件で双方に負傷者が出て
いること、そして片方は全然訴追されていないという事実は、もう一方の訴追にあ
たつて当然考慮さるべき事情であると考えるのである。
 このように本件事件をみてくると、被告人に対する訴追はいかにも偏頗、不公平
であり、これを是認することは法的正義に著るしく反するというべきである。
 (六) 検察官は、こと検察事務に関して、一人ひとりが独立の官庁として、そ
の権限と責任において事を処理するものであり、検察官は、その良心と法令の命ず
るところに従つて事務を処理すべきものである。
 しかし、他面において、検察権も行政権の一作用であるから、検察権の行使が全
国的に均斉になされることは、事が国民の基本的権利義務に関する事柄であるだけ
に、極めて重要である。このような要請を満たす上に最も適切な方途の一つとして
認められているのが検察官同一体の原則である(検察庁法一条、四条、一一条、一
二条参照)。担当の検察官として、本件公訴を提起するに当たつては、現地熊本地
方検察庁と密接な連絡をとり、水俣病をめぐつて起こつた紛争に関する刑事事件の
処理状況について適確な情報を得たうえで本事件を処理すべきであつたと考える。
 当代の検察権は、すべからく時代のすう勢を達観し何が重要で、何が重要でない
か、活眼を開いてその指向すべき方向を見定め、常に清新にして溌らつ真に国民の
希求する検察の遂行を期することこそ肝要である。決して弱い者いじめに堕するこ
とかあつてはならないのである。
 原判決は、弁護人の、起訴猶予の裁量を逸脱した起訴であるとの主張を排斥する
理由として、「もつとも、所論のごとく、本件公訴の提起が、会社側に一方的に加
担し、被害患者を迫害する公訴の提起であるとすれば、検察官の故意またはこれに
相当する重大な過失により、起訴に際しての訴追裁量を誤つたものとして、公訴権
濫用による公訴無効を論ずる余地が存しないではないであろう。」といいつつ、
「本件審理にあらわれた全証拠を検討しても、検察官のかかる故意または重大な過
失を推測すべき点は全く認められないのである」という。原判決のいうとおり、公
訴権濫用の存否の判断に検察官の主観的意図も必要であることは、これを肯認すべ
きであるけれども、かかる主観的要素は、直接これを立証することが不能ないし著
しく困難であることは、前述のとおりであり、従つて、かかる要素の存在は、背景
事実から、これを推認する以外にはなく、かかる客観的外部的事情から推認するこ
とが可能な以上、これを是認するのでなければ、公訴権濫用の理論は画餅に帰すと
いつても過言でない。これを本件についてみると、既に詳述したもろもろの事実関
係、すなわち、重大かつ広範囲な被害を生ぜしめたA1の責任につき国家機関によ
る追求の懈怠と遅延、これにひきかえ、被害者側の比較的軽微な刑責追求の迅速
さ、それに加えてA1従業員の行為に対する不起訴処分等々の諸事実がある以上、
当裁判所としては、国家機関の一翼を担つている検察官の故意又は重大な過失が推
認されてもやむを得ないと判断する。すなわち、当裁判所は当審において弁護人の
請求により、この点を審理するため訴訟的事実関係について資料を追加した結果を
綜合して、本件は訴追を猶予することによつて社会的に弊害の認むべきものがな
く、むしろ訴追することによつて国家が加害会社に加担するという誤りをおかすも
のでその弊害が大きいと考えられ、訴追裁量の濫用に当たる事案であると結論する
のである。
 検察官は、原審の最終意見において被告人に懲役一年六月を求刑し、原判決は、
公訴権濫用の主張は排斥したものの、被告人を罰金五万円に処するとともに一年間
右刑の執行を猶予すべきものとした。
 このことは、被告人の有罪を認定しつつもその可罰性の程度が著しく微弱であ
り、刑はノミナルなものにとどめるべきものとしたと考えられる。当裁判所は、百
尺竿頭一歩を進め、本件は公訴を棄却することによつて結着をつけるべきものと判
断するのである。
 (七) 以上の次第で、本件公訴提起の手続は刑訴法二四八条の規定に違反し無
効であるから、同法三三八条四号によりこれを棄却すべきものである。しかるに、
原裁判所が本件公訴を受理して実体判決をしたのは、不法な公訴の受理に該当する
といわざるを得ない。それ故、その余の控訴趣意について判断するまでもなく、原
判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
 よつて、刑訴法三九七条一項、三七八条二号により原判決を破棄し、同法四〇〇
条但書に則り自判する。
 本件公訴の提起は前述の理由で無効であり、刑訴法三三八条四号によりこれを棄
却することとして、主文のとおり判決をする。
 (裁判長裁判官 寺尾正二 裁判官 山本卓 裁判官 田尾健二郎)

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