弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人らの負担とする。
         理    由
 被告人三名の弁護人浦田関太郎の上告趣意第一は、違憲をいうが、その実質は、
単なる訴訟法違反の主張であり、同第二は、量刑の非難で、いずれも、刑訴四〇五
条の上告理由に当らない。そして、奄美群島は、昭和二〇年一一月二六日附米国海
軍軍政布告第一号によつて、昭和二一年二月二日から日本裁判所の司法権を停止さ
れ、次で、昭和二七年条約五号日本国との平和条約三条の規定により、同年四月二
八日からその領域及び住民に対する日本国の行政、立法及び司法上の権力を行使す
る権利は停止されていたのであるが、昭和二八年条約三三号奄美群島に関する日本
国とアメリカ合衆国との聞の協定によつて、アメリカ合衆国は、昭和二八年一二月
二五日以降右群島の領域及び住民に対する行政、立法及び司法上の権力を行使する
権利を放棄すると共に、日本国は右のすべての権力を行使するための権能及び責任
を引受けることになつたのである。すなわち、前記軍令が効力を生じた昭和二一年
二月二日から右協定発効の前日である同二八年一二月二四日までの間わが国は、右
群島に対する領土権を喪失したものではなく、また、同群島に在住した日本人もわ
が国の国籍を喪失したものでもなく依然これを保有していたものであるから、わが
刑法は、右群島において罪を犯した日本人に対してもその効力を及ぼしたのであつ
たが、右期間中はこれが公訴権並びに裁判権の行使をすることを停止されていたに
過ぎないのであつて、右協定により昭和二八年一二月二五日以降その障害が除去さ
れ、わが国は、完全にその公訴権および裁判権を行使する権能を回復したのである。
されば、わが日本国の国籍を有する被告人等に対する本件公訴にかかる本件犯行は
奄美群島がわが国に復帰する前である昭和二八年八月から同年一二月二四日までの
間名瀬市所在A病院でなされたというのであるから、わが国の公訴権、裁判権の停
止中の犯罪ではあるが、該犯罪に対するわが刑法の効力は何ら害されるものでなく、
しかも、本件公訴は、わが国が公訴権および裁判権を回復した後である昭和二九年
一二月三一日であること記録上明白であるから、第一審として鹿児島地方裁判所名
瀬支部、第二審として福岡高等裁判所宮崎支部が審判をしたのは正当であつて、所
論の訴訟法違反は認められない。
 被告人Bの上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五
条の上告理由に当らない。なお、浦田弁護人の上告趣意について説明したとおり、
本件被告人の所為に対しては、わが国が公訴権および裁判権を行使することができ
るものであつて、第一、二審は被告人の所為を刑法三条により処断したものではな
い。
 被告人C、同Dの上告趣意一は、違憲をいうが、その実質は、単なる訴訟法違反
の主張であり、同四は、単なる法令違反の主張であつて、いずれも、刑訴四〇五条
の上告理由に当らない。そして、浦田弁護人の上告趣意について説明したとおり、
本件についてわが国の裁判所が裁判権を有するものであつて、原一、二審が所論の
ように刑法三条を適用して裁判権があるものとして裁判したものとは認められない。
 同二は、違憲をいうが、その実質は、事実誤認、単なる法令違反の主張であり、
同五は、事実誤認の主張であつて、いずれも、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
そして、この点に対する原判決の説示は正当として是認することができ、本件被告
人等の所為は、所論のごとき指定内の経費の流用であり、若しくは、事後承認可能
な費目の経費を流用したものとは認められない。
 同三の1は、当裁判所の判例違反をいうが、独自の見解であつて、その主張自体
刑訴四〇五条二号に当るものとは解することができない。同三の2および3は、判
例違反をいうが、その実質は、原判決の判示に副わない事項を前提とする法令違反
の主張に帰するばかりでなく、所論引用の各判例は、本件に適切でないから、刑訴
四〇五条三号に当らない。よつて、刑訴四〇八条、一八一条により裁判官全員一致
の意見で、主文のとおり判決する。
  昭和三二年三月二八日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫

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