弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
  弁護人吉田勇三郎の上告趣意第一点について。
  所論は違憲を主張するけれども、その実質は単なる訴訟法違反の主張を出でな
いものであつて、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。ただ原審は、本件は傷害
致死と認定するを相当とするとして、殺人の事実を認定した第一審判決を破棄しな
がら、自判するにあたつては、第一審「判決の認めている本件罪となるべき事実に
法律を適用すると被告人の判示所為は刑法二〇五条一項に該当する」としている。
これは一見したところでは殺人の事実に傷害致死の罰条を適用したくいちがいある
ものの如くである。しかし原判決は、一方において被告人に殺意のなかつたことを
主張する吉田弁護人の控訴趣意を容認して、「記録を精査してみると被告人の本件
所為は原判決に示している証拠によつても殺人ではなく傷害致死と認定するを相当
とする」と明示しているので、これを併せ考えると、その法律適用の部分における
「原判決の認めている本件罪となるべき事実」というのは、第一審判決の認定した
事実中殺人を傷害致死と修正した事実を指し、かような事実を認定してこれに傷害
致死の法条を適用した趣旨と解される。かく解するならば、原判決の判示方法に不
備あることは固より免れないが、所論のような違法あるものということはできない。
 同第二点について。
 原審において弁護人のなした証拠調請求を全部却下していることは所論のとおり
である。しかしそれは原審において右請求にかかる証拠を取り調べる必要を認めな
かつたことによるのである。してみれば、憲法三七条二項の法意が、かように裁判
所においてその必要を認めないため、証拠調請求を却下する場合を含まないこと、
既に当裁判所屡次の判例とするところであるから、論旨は採用し難い。
 同第三点について。
 所論は必ずしも明瞭でないが、論旨として一応違憲をいつていても、その実質は、
結局、事実誤認、単なる法令違反ないしは量刑不当の主張に帰着し、刑訴四〇五条
の上告理由に当らない。なお記録について検討しても、原審が所論因果関係の中断
を認めなかつたことは相当である。
 同第四点について。
 所論は要するに、原審が認めていない事実を想定し、これを前提として判例違反
を主張するものであるから、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして原審が被
告人の本件所為を正当防衛行為と認めなかつたことは、これまた相当である。
 同第五点について。
 所論は事実誤認と単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当
らない。
 同第六点について。
 所論は量刑の非難に過ぎないのであつて、前同様刑訴四〇五条の上告理由に当ら
ない。
 なお、記録を調べたところによつても、同四一一条を適用すべきものとは認めら
れない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとお
り決定する。
  昭和三〇年一〇月二五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    島           保
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    垂   水   克   己

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