弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成27年5月13日判決言渡
平成26年(行コ)第347号法人税更正処分等取消請求控訴事件
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
(主位的)
1原判決を取り消す。
2被控訴人の請求をいずれも棄却する。
(予備的その1)
原判決主文第1項ないし第4項を次のとおり変更する。
1処分行政庁が被控訴人に対し平成16年6月29日付けでした被控訴人の平
成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度の法人税の更正(た
だし,平成19年7月9日付け異議決定による一部取消し後のもの。以下「本
件更正1」という。)のうち納付すべき税額508億7211万9300円を
超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし,上記異議決定による一部取
消し後のもの。以下「本件賦課決定1」といい,本件更正1と併せて「本件更
正等1」という。)のうち過少申告加算税の税額2億4972万5000円を
超える部分を取り消す。
2処分行政庁が被控訴人に対し平成16年6月29日付けでした被控訴人の平
成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度の法人税の更正
(以下「本件更正2」という。)のうち納付すべき税額485億8414万4
800円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定2」
といい,本件更正2と併せて「本件更正等2」という。)のうち過少申告加算
税の税額1億6353万9000円を超える部分を取り消す。
3処分行政庁が被控訴人に対し平成16年6月29日付けでした被控訴人の平
成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度の法人税の更正
(以下「本件更正3」という。)のうち納付すべき税額マイナス(還付金の額
に相当する税額)16億1275万2821円を下回る部分及び過少申告加算
税賦課決定(以下「本件賦課決定3」といい,本件更正3と併せて「本件更正
等3」という。)のうち過少申告加算税の税額1462万2000円を超える
部分を取り消す。
4処分行政庁が被控訴人に対し平成16年6月29日付けでした被控訴人の平
成13年4月1日から平成14年3月31日までの事業年度の法人税の更正
(以下「本件更正4」という。)のうち納付すべき税額66億6500万81
00円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定4」と
いい,本件更正4と併せて「本件更正等4」という。)のうち過少申告加算税
の税額175万7000円を超える部分を取り消す。
(予備的その2)
原判決主文第1項,第2項及び第4項を次のとおり変更する。
1本件更正1のうち納付すべき税額499億6892万5500円を超える部
分及び本件賦課決定1のうち過少申告加算税の税額1億5940万6000円
を超える部分を取り消す。
2本件更正2のうち納付すべき税額478億0184万0700円を超える部
分及び本件賦課決定2のうち過少申告加算税の税額8530万9000円を超
える部分を取り消す。
4本件更正4のうち納付すべき税額66億6649万9000円を超える部分
及び本件賦課決定4のうち過少申告加算税の税額190万6000円を超える
部分を取り消す。
(主位的,各予備的共通)
訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要等
1事案の要旨
本件は,自動二輪車及び四輪車の製造及び販売を主たる事業とする内国法人
である被控訴人が,その間接子会社であり,ブラジル連邦共和国(以下「ブラ
ジル」という。)アマゾナス州に設置されたマナウス自由貿易地域(以下「マ
ナウスフリーゾーン」という。)で自動二輪車の製造及び販売事業を行ってい
る外国法人であるaLtda.(以下「a社」という。)及びその子会社との間で,
自動二輪車の部品等の販売及び技術支援の役務提供取引(以下「本件国外関連
取引」という。)を行い,それにより支払を受けた対価の額を収益の額に算入
して,平成10年3月期(平成9年4月1日から平成10年3月31日までの
事業年度をいう。以下,他の事業年度についても同様である。),平成11年
3月期,平成13年3月期,平成14年3月期及び平成15年3月期(以下,
これらの各事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)の法人税の確定申
告をしたところ,処分行政庁から,上記の支払を受けた対価の額が租税特別措
置法(平成10年3月期,平成11年3月期及び平成13年3月期については
平成13年法律第7号による改正前のもの,平成14年3月期については平成
14年法律第79号による改正前のもの,平成15年3月期については平成1
8年法律第10号による改正前のもの。以下,これらの改正前のものを包括し
て「措置法」という。)66条の4第2項1号ニ及び2号ロ,租税特別措置法
施行令(平成10年3月期,平成11年3月期及び平成13年3月期について
は平成13年政令第141号による改正前のもの,平成14年3月期及び平成
15年3月期については平成16年政令第105号による改正前のもの。以下,
これらの改正前のものを包括して「措置法施行令」という。)39条の12第
8項に定める方法(以下「利益分割法」という。)により算定した独立企業間
価格(以下「本件独立企業間価格」という。)に満たないことを理由に,措置
法66条の4第1項の国外関連者との取引に係る課税の特例(以下,この特例
に基づく税制度を「移転価格税制」という。)の規定により,本件国外関連取
引が本件独立企業間価格で行われたものとみなし,本件各事業年度の所得金額
に本件独立企業間価格と本件国外関連取引の対価の額との差額を加算すべきで
あるとして,本件更正等1ないし4並びに,平成16年6月29日付けでされ
た被控訴人の平成14年4月1日から平成15年3月31日までの事業年度の
法人税の更正(ただし,平成17年4月27日付け更正による一部取消し後の
もの。以下「本件更正5-1」という。)及び過少申告加算税賦課決定(ただ
し,同日付け変更決定による一部取消し後のもの。以下「本件賦課決定5」と
いい,本件更正5-1と併せて「本件更正等5-1」という。),さらに平成
18年3月28日付けでされた被控訴人の平成14年4月1日から平成15年
3月31日までの事業年度の法人税の更正(以下「本件更正5-2」という。)
を受けたため,処分行政庁の所属する国を被告として,本件更正等1ないし本
件更正等5-1並びに本件更正5-2(以下「本件各更正等」という。)の一
部又は全部の取消しを求める事案である。ただし,被控訴人は,本件更正5-
1と本件更正5-2については,選択的に取消しを求めている。
被控訴人は,処分行政庁がした本件独立企業間価格の算定(本件では,利益
分割法のうちの残余利益分割法を用いている。)は,a社及びその子会社(以
下「a社等」という。)がマナウスフリーゾーンで事業活動を行うことにより
享受している税制上の利益(以下「マナウス税恩典利益」といい,その基礎と
なる税制度を「マナウス税恩典」という。)が,本来a社等が事業活動を行う
市場の条件に基づくものであるからa社等に帰属すべきものであるのに,それ
が被控訴人にも配分されるべきものであることを前提としている点で既に誤っ
ており,また,そのほか,被控訴人の貢献を過大に評価していて本件独立企業
間価格の算定が高額に過ぎるなどとして,本件各更正等は違法である旨主張し
ている。
本件の当事者等及び本件国外関連取引の概要は,原判決別図(b㈱取引関係
図)のとおりであり,また,本判決の本文及び各別紙において用いる略語のう
ち主要なものは,原判決別紙1(略語一覧)のとおりである。
原判決は,本件各更正等は,マナウス税恩典利益がa社等に属することの影
響を考慮せずに残余利益分割法を適用して算定した本件独立企業間価格に基づ
くものであるところ,本件国外関連取引の対価が独立企業間価格に満たないと
の立証があるとは認められないから,その余の点について判断するまでもなく
違法であるとして被控訴人の各請求をいずれも認容したので,これを不服とす
る控訴人が,原判決を取り消して被控訴人の各請求を全て棄却することを求め
て控訴した。なお,控訴人は,当審において,残余利益分割法の適用における
必要な差異調整を行うなどすると,本件各更正等を一部取り消すことになるの
で,そのように原判決を変更することを求めるとの予備的主張1及び2を追加
した。
2法令等の定め,前提事実,課税処分の根拠,争点及び当事者の主張の要旨
法令等の定め,前提事実,課税処分の根拠,争点及び当事者の主張の要旨は,
下記のとおり原判決を補正し,下記第3の2のとおり控訴人の当審における補
充主張及び予備的主張並びにこれらに対する被控訴人の反論を摘示するほかは,
原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の1ないし5に記載のと
おりであるから,これを引用する。
(原判決の補正)
(1)16頁17行目,同18行目,170頁17行目及び同18行目の各「過
少申加算税」をいずれも「過少申告加算税」に改める。
(2)324頁5行目の「通常の事業状況にない」を「関連会社との取引割合の
大きい」に改める。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,原審と同様に被控訴人の各請求はいずれも理由があると判断す
る。その理由は,下記2のとおり控訴人の当審における補充主張及び予備的主
張並びにこれらに対する被控訴人の反論を摘示し,下記3のとおりこれらに対
する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所
の判断」に説示するとおりであるから,これを引用する。
2控訴人の当審における補充主張及び予備的主張並びにこれらに対する被控訴
人の反論
(1)控訴人の当審における補充主張
①残余利益分割法の基本的利益の額の算定における検証対象法人と比較対
象法人との間の事業活動を行う市場の類似性の判断は,総費用営業利益率
に基づき行われるべきところ,マナウス税恩典利益の享受の有無は,総費
用営業利益率に重要な影響を与えるものではない。仮に与えているとして
も,重要な無形資産の寄与によるところが大きいものである。したがって,
マナウス税恩典利益の享受は,本件におけるa社等と本件のブラジル側比
較対象企業との間の市場の類似性を否定するものではない。
ア原判決は,要旨以下のとおり判示する。
マナウス税恩典利益を享受する法人は,その輸入税(連邦税)及びI
CMS(州税)の負担が減免され,それにより売上原価が低減して,利
益を増大させることができる。そうするとマナウス税恩典利益を享受し
ている検証対象法人と,マナウス税恩典利益を享受していない比較対象
法人とでは,市場の類似性はない。
本件でも,マナウス税恩典利益の享受がa社等の営業利益に大きな影
響を及ぼしたことは明らかであるのに対し,控訴人がブラジル側比較対
象法人としたブラジル側比較対象企業は,いずれもマナウスフリーゾー
ン外で事業をしており,マナウス税恩典利益を享受していないのである
から,両者の間に市場の類似性はなく,a社等との比較可能性を欠く。
控訴人が,そのことについて何らの差異調整をしないまま,ブラジル側
比較対象企業に基づきブラジル側基本的利益を算定し,本件独立企業間
価格を算定したことは誤りである。
イしかし,上記判断には誤りがある。
まず,残余利益分割法は,基本三法が使えない場合に適用される最後
の手段(ラストリゾート)であるから(措置法66条の4第2項1号ニ
及び2号ロ),その基本的利益の算定において,比較対象法人に求めら
れる比較可能性の程度は,基本三法におけるそれより緩やかなものであ
り,検証対象法人と比較対象法人との間の市場の類似性を否定する理由
となる差異は,比較の信頼性に重要な影響を与えることが客観的に明ら
かな差異に限られるべきである。
ウ基本的利益の額の算定上,事業活動を行う市場の類似性の判断は,マ
ナウス税恩典の利益の多寡や営業利益に占める割合ではなく,総費用営
業利益率で判断すべきである。そして,以下の理由から,マナウス税恩
典は,ブラジル側比較対象企業の総費用営業利益率に重要な影響を与え
ることが明らかであるとはいえない。
(ア)マナウス税恩典は,輸入税やICMSの減免により売上原価の低減
をもたらすものの,その低減額は,部品の輸入割合の多寡や,アマゾ
ナス州以外の州からの部品や原材料の購入額の多寡といったような事
業形態等により大きく異なるものである。
(イ)マナウス税恩典は,各種拠出金等の支出を伴う。
また,マナウスはブラジル北部の,アマゾンの奥地にあり,主要な
大都市が集中するブラジル南東部はもちろん,ブラジル第3の人口を
有する都市のある北東部からも遠隔の地にあって,マナウスフリーゾ
ーンで操業することにより物流コスト及び保険料(物流コスト等)の
増加がもたらされる。これは総費用営業利益率を低下させる。
a社等の物流コスト等の割合が高くないとしても,それは事業規模
が大きいため大量輸送により費用効率が高められたためであり,重要
な無形資産を有さず,一定の事業規模を達成できない法人には当ては
まらない。
(ウ)マナウス税恩典利益を享受する企業は,中長期的な視点から,通常,
市場シェアの拡大や維持を目指すという目的で,それを販売価格の低
減に用いることが合理的に予測される。すなわち,マナウス税恩典利
益は消費者に移転されることになり,これも総費用営業利益率を低下
させる要素となる。現に,マナウス税恩典利益を享受している企業の
最終製品は,そうでない企業の製品より約3割は安いとされている。
マナウス税恩典利益は事業規模に応じて増加するものであることか
ら,現にa社等も,インフレーションが進む中でも販売価格を据え置
くなどして,本件製品の販売量を増加させる事業戦略を採用してきた。
(エ)控訴人が現実に調査したところによると,マナウスフリーゾーン内
に所在する法人であっても,その総費用営業利益率が,マナウスフリ
ーゾーン外の法人のそれを常に下回っている例があることが判明した。
また,マナウスフリーゾーン内に所在する各法人において,法人ごと,
事業年度ごとに総費用営業利益率は千差万別であり,規則的な影響は
なかった。
さらに,マナウスフリーゾーン内に所在する法人と,そうでない法
人との間で,それぞれの総費用営業利益率の中位値の較差もわずかで
あった。
エ仮に,マナウス税恩典が総費用営業利益率に重要な影響を与えている
としたら,それは,重要な無形資産の寄与によるものであり,基本的利
益の算定における検証対象法人と比較対象法人との間の市場の類似性を
否定するものではない。
すなわち,マナウス税恩典利益の多寡は,その仕組みから事業の規模
と正の相関関係にあるところ,重要な無形資産を有しない法人の製品が,
短期的にはともかく,長期にわたって市場からの支持を受けて事業の規
模を拡大維持することはできない。重要な無形資産こそが,事業の規模
を拡大維持させ,享受するマナウス税恩典利益を増加させ,もって総費
用営業利益率の向上に重要な影響を与えるものである。
現に,マナウス税恩典利益を受けて自動二輪車市場で事業を行い,か
つ重要な無形資産を有しない企業の1つは,平成17年から販売台数及
び販売シェアを急速に伸ばしたものの,平成21年には大幅に販売台数
が落ち(ただしこの年は自動二輪車の総生産台数が大幅に減少してい
る。),自動二輪車の総生産台数が増加傾向になった後も同社は販売台
数を減らしたという事実がある。
以上のとおり,重要な無形資産の存在が,マナウス税恩典利益の拡大,
ひいては総費用営業利益率の向上に重要な影響を与えている以上,マナ
ウス税恩典利益は,残余利益分割法の性質上残余利益として観念すべき
であり,その反面,マナウス税恩典利益を基本的利益の算定において考
慮して,検証対象法人と比較対象法人との間の市場の類似性を否定する
ことは相当でない。
②当審における予備的主張1及び2
上記①のとおり,本件においてマナウス税恩典利益の享受の有無につき
差異調整をする必要はない。
しかし,控訴人は,予備的に,以下のとおり総費用営業利益率の差につ
いて差異調整をするなどした上での,本件各更正等の一部取消しの主張を
する。
ア予備的主張その1
(ア)マナウス税恩典利益の影響を受けている状態のa社等の総費用営業
利益率(X)と,そうでない状態の総費用営業利益率(Y)から,マ
ナウス税恩典利益がa社等の総費用営業利益率に与えている影響度
(Z)を求める。
Xは,a社等の営業利益(=売上-総費用)を,総費用(=原価+
販売管理費)で除した数値である。
Yは,上記の「(営業利益=売上-総費用)/(総費用=原価+販
売管理費)」の数式において,売上に関しては,その増加要因として
ICMS税額免除及びICMS税減免があり,低減要因として各種拠
出金等(FMPE等)があり,また,原価において,その増加要因と
して物流コスト等があり,低減要因としてICMSみなし仕入税額控
除及び輸入税の軽減があるので,これらの影響を排除して計算した数
値となる。
Zは,XをYで除した数値とする。
このZを,マナウス税恩典利益を受けていない状態である本件のブ
ラジル側基本的利益率に乗じると,マナウス税恩典利益を受けている
状態のブラジル側基本的利益率となる。この差異調整後のブラジル側
基本的利益率に,a社等の総費用から重要な無形資産の価値の指標と
なる費用の額を控除した額を掛け合わせると,差異調整後のa社等の
基本的利益の額が算出される。
(イ)以上に基づき計算すると,原判決主文第1項ないし第4項は,前記
第1の「予備的その1」のとおり変更されるべきである。
(計算過程は別紙1-1及び同1-2のとおり)
イ予備的主張その2
仮に,被控訴人が原審で主張する,マナウス税恩典利益の全額を,ブ
ラジル側基本的利益の額に加算する方法(なお,これは,残余利益分割
法における差異調整として法令の規定に整合しないものである。)を採
用したとしても,前記第1の「予備的その2」のとおり,原判決は一部
変更されることになる。
(計算過程は別紙2-1及び同2-2のとおり)
ウ被控訴人の反論に対する再反論
控訴人の予備的主張1及び2は,違法な理由の差し替えに該当しない。
課税処分取消訴訟の訴訟物は処分の違法性一般であり,当該課税処分
によって確定した税額(租税債務)が,総額において租税実体法によっ
て客観的に定まっている税額を超えていないか否かを審理の対象とする
ものであって,処分時と異なる理由を控訴人が主張しても,処分の同一
性は失われず,青色申告者に対する更正処分に更正の理由の付記を求め
た法(法人税法130条2項,所得税法155条2項)の趣旨に反しな
い理由の差し替えは認められる。
本件でも,残余利益分割法を採用していること,比較対象法人として,
同一のブラジル側比較対象企業を用いていることには変わりなく,予備
的主張1及び2で控訴人が主張した事実関係は,本件各更正等における
事実(ブラジル側比較対象企業の基本的利益の額の算定)と直接関係す
る,いわば本件各更正等の延長上にある。また,いずれも,「国外関連
者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないこと」という
同一の課税要件事実に係るものである。さらに,予備的主張1及び2は,
差異調整をすべきであるという被控訴人の各主張に対応するものである。
よって,控訴人の予備的主張1及び2は,理由付記を求めた法の趣旨
を害さず,適法な理由の差し替えとして許容されるべきものである。
(2)被控訴人の反論
ア控訴人の上記①の補充主張は,おおむね原審でした主張の繰り返しにす
ぎず,理由がない。
イ控訴人の予備的主張1及び2は,違法な理由の差し替えに該当するもの
であって許されない。
残余利益分割法において,検証対象取引と比較対象取引との間に差異が
ない旨の主張と,差異が存在するが調整することができるとの主張は,異
なる課税要件事実に係るものであり,基本的な課税要件事実の同一性があ
るとはいえない。
被控訴人は青色申告書による申告の承認を受けた法人であり,課税処分
の具体的根拠の開示を受けて,不服申立ての便宜が図られるという手続的
な権利を保障されているところ,このような理由の差し替えは,上記手続
的権利の保障の趣旨を没却するから,許されるべきではない。
ウ予備的主張1に係る差異調整は不適切なものである。すなわち,控訴人
の主張する差異調整は,a社等の全体の総費用及び営業利益について,す
なわち,重要な無形資産の寄与に係る残余利益に係るものも含めて算定し
たa社等の総費用営業利益率を算定してなされている。これでは,重要な
無形資産を持たないブラジル側比較対象企業の基本的利益についての適切
な差異調整たり得ない。
また,控訴人が用いた物流コスト等の費用の証拠(甲133)は,物流
コスト等の影響を考慮してもマナウス税恩典利益の影響が大きいことを証
明するために保守的に(被控訴人に不利に)算定された内容のものであり,
適切な差異調整に用いることができるほど精密なものではない。
予備的主張2についても,被控訴人の原審における主張は,マナウス税
恩典利益がブラジル側比較対象企業の比較可能性を否定することの論証の
ためにしたものにすぎない。また,控訴人は,被控訴人が上記論証で加味
した物流コスト等や人件費の較差について適切な差異調整を行っていない。
3前記2の各主張に対する当裁判所の判断
(1)上記主張①について
ア残余利益分割法においては,基本三法に比較して,比較対象法人に求め
られる比較可能性の程度は緩やかであるとしても,また,総費用営業利益
率により市場の類似性の判断をしたとしても,マナウス税恩典利益は,本
件のブラジル側比較対象企業とa社等との比較可能性に重大な影響を及ぼ
すものであり,適切な差異調整をすることなくなされた本件各更正等は違
法であり取り消されるべきことは,前記引用に係る原判決の説示及び後記
当審における説示のとおりである。
イマナウスフリーゾーンで操業することは,物流コスト等の増加をもたら
し,また,各種拠出金等を負担することになって,これが総費用営業利益
率の低下をもたらすことは,控訴人の主張するとおりである。しかし,以
下に述べるとおり,これを考慮しても,マナウス税恩典利益は,a社等の
営業利益を大きく増加させることは,原判決が説示するとおりである。
(ア)各種拠出金等の額は,ICMS税軽減額の6パーセント(中小企業奨
励金,FMPE),ICMSみなし仕入税額控除額の1パーセント及び
輸入品のFOB価格の2パーセント(観光・地方開発事業基金,FTI)
並びにICMSみなし仕入税額控除額の10パーセント(アマゾナス州
立大学奨励金,UEA)であり,これらは,マナウス税恩典利益の概ね
10パーセント程度にすぎないと概算される。
(イ)物流コスト等の増加分については,a社等において,多くともマナウ
ス税恩典利益の3分の1未満であると推認することができ(甲133,
253),マナウス税恩典の総費用営業利益率に対する重要な影響を否
定するとはいえない。
なお,控訴人は,事業規模が大きくなると,物流拠点等のインフラ設
備を備えることにより物流コスト等を低減させることができるが,事業
規模が小さいとそうではないので,一般的にいって,大都市から離れて
いるマナウスフリーゾーンで操業している企業の物流コスト等は,総費
用営業利益率をより低下させる旨主張する。
しかし,物流コスト等が,一般的に物流量に比例することは明らかで
あって,本件において,事業規模の大きい企業(a社等)とそうでない
企業とで,物流コスト等により総費用営業利益率に顕著な差が生じると
認めるに足りる証拠はなく,事業規模が小さくとも,その物流コストは
マナウス税恩典利益の総費用営業利益率を押し上げる効果を大きく減殺
するものではないと推認することができる。また,仮に控訴人が主張す
るような傾向があるとしても,残余利益分割法においても,比較対象法
人の事業規模の類似は重要な選定要素の1つであり,そのことについて
の差異は(可能であれば)調整が図られるべきであるから,a社等の実
情を1つの間接事実として,マナウスフリーゾーンで操業することの物
流コスト等の総費用営業利益率における割合は大きくないと認定できる
との前記結論は左右されない。
(ウ)控訴人は,通常,事業者は販売シェアを拡大維持するために,販売価
格の低下という事業戦略を採用し,マナウス税恩典利益はそのために用
いられるから,総費用営業利益率の増加をもたらさない旨主張する。
しかし,事業者は利潤を追求しそれをできるだけ増加させようとする
ものであり,商品が市場で競争力を維持している限り,常に価格を低く
設定するという事業戦略を採用するとはいえず,また,マナウス税恩典
利益の全てを販売価格の低下に用いると認めるに足りる証拠はない。こ
の点,改訂移転価格ガイドライン(乙70)においても,「ある市場に
浸透しようとしている又は市場シェアを伸ばそうとしている納税者は,
同一市場の比較可能な製品よりも低い価格を一時的に設定するかもしれ
ない。」としており,低価格戦略は一時的なものであると考えられると
の認識が示されている。なお,マナウス税恩典利益を享受して事業者が
生産する最終製品の価格が,そうでない製品より約3割安いとする見解
(甲255,乙28)は,平成15年当時のものであり,かつ,対象製
品の限定がないものであって,本件製品に当てはまるとは認められない。
a社等が,インフレーションが進む中でも販売価格を維持していたと
しても,平成9年以降は,おおむねインフレ率に見合うように販売価格
が引き上げられており(乙27),a社等の各事業年度において,マナ
ウス税恩典利益の大部分が販売価格の低下に用いられているとは認めら
れず,反面,総費用営業利益率の向上に寄与しているといえる。
(エ)控訴人は,マナウス税恩典利益の有無は,一般的に総費用営業利益率
に影響を与えない旨主張し,これに沿う証拠であるとして,マナウスフ
リーゾーン内にある複数の企業の総費用営業利益率に関する証拠として
乙第169号証を提出する。
しかし,同証拠で掲げられている企業は,事業分野が多種多様であり,
また,その事業規模や財務内容は必ずしも明らかでない。控訴人が自ら
主張するとおり,マナウス税恩典利益の額は,部品の輸入割合の多寡や,
アマゾナス州以外の州からの部品や原材料の購入額の多寡といったよう
な事業形態等により大きく異なるものであるから,本件でも,被控訴人
と事業規模や事業形態が類似する企業の平均値をもって論ずるべきであ
って,そうでない資料(乙169)に基づく分析結果をもって,本件に
おけるマナウス税恩典利益が,総費用営業利益率に重要な影響を与える
ものではないと認めることはできない。
ウ控訴人は,マナウス税恩典利益が総費用営業利益率に重要な影響を与え
ているとしても,それは,重要な無形資産の寄与によるものであるから,
残余利益として観念すべきであり,基本的利益の算定における検証対象法
人と比較対象法人との間の比較可能性(市場の類似性)を否定するもので
はない旨主張する。
確かに,マナウス税恩典の仕組み上,事業規模が大きくなれば,マナウ
ス税恩典利益の額が増加するという相関関係が一般的に認められるのであ
り,また,販売量の拡大維持は,単に低価格であるだけでは達成できず,
製品の品質や,知名度(市場における高い評価)等に大きく影響されるこ
とがあると認められるから(乙171参照),マナウス税恩典利益の中に
は,販売量の維持拡大に寄与する重要な無形資産の寄与が含まれている場
合があるということができる。しかし,他方で,事業規模の維持拡大には,
それに必要な人的物的資本の投下や,事業の拡大をするという経営判断が
必須であり,それら自体は重要な無形資産とはいい難い。そうすると,マ
ナウス税恩典利益には,重要な無形資産の寄与による残余利益ではない部
分,すなわち基本的利益が多く含まれていることもまた明らかである。
そうすると,仮に,マナウス税恩典利益のうち,重要な無形資産が寄与
している部分が存在し得るとしても,それを直接把握することは困難ない
し事実上不可能であり,そもそも,基本的利益に係る部分は,基本的利益
の配分について考慮すべきであるから,本件でも,残余利益分割法にした
がって,マナウス税恩典利益を含む分割対象利益から,重要な無形資産を
有しないブラジル側比較対象企業を選定し算定したブラジル側基本的利益
と,日本側基本的利益を各控除し,残余利益を分割して独立企業間価格を
算定すべきである。また,このようにすれば,比較可能性のあるブラジル
側比較対象企業を選定し,適切な差異調整を行うことによって,マナウス
税恩典利益に対する被控訴人及びa社等の重要な無形資産の寄与が大きい
場合には,重要な無形資産を有さないブラジル側比較対象企業の営業利益
は低く算定されることになり,a社等の基本的利益の額も少なく算定され,
その分残余利益の額が増加して,マナウス税恩典利益のうち重要な無形資
産の寄与に係る部分は,残余利益として被控訴人及びa社等に適切に分割
され得るのであって,正に残余利益分割法の趣旨に沿う結果がもたらされ
ることになるとも考えられる(しかしながら,本件で,適切な差異調整が
行われたとはいえないことは,前記のとおりである。)。逆に,マナウス
税恩典利益を残余利益と観念して,比較対象法人の選定において考慮しな
いことは,マナウス税恩典利益に含まれる基本的利益に係る部分の配分を
誤ることになり,相当でない。
エ以上のとおりであるから,控訴人の上記主張①は理由がなく,採用する
ことができない。
(2)上記主張②について
ア控訴人の各予備的主張の適法性について(適法な理由の差し替えに該当
するか。)
控訴人は,当初は,本件各更正等において,ブラジル側比較対象企業が
マナウス税恩典利益を享受していないことについて,差異調整を行う必要
はないと主張していたものである。
これに対し,当審における控訴人の予備的主張1は,この差異調整を行
うというものである。しかし,「本件国外関連取引の対価が独立企業間価
格に満たないこと」という同一の課税要件事実に属し,ブラジル側比較対
象企業の基本的利益の算定に直接関連するものであるとしても,マナウス
税恩典が差異調整を要しないものであるとする場合と,差異調整を行うと
する場合とでは,主張立証の対象となる事実が相当程度異なることになる
のであるから,納税者としては,新たな攻撃防御を尽くすことを強いられ,
かつ,その負担は軽くないというべきである。
また,予備的主張2についても,被控訴人に物流コスト等や人件費較差
について新たな攻撃防御を強いることになる。
したがって,理由付記を求めている法の趣旨に照らすと,予備的主張1
及び2は,いずれも違法な理由の差し替えに該当し許されないと解すべき
である。
なお,仮に,控訴人の予備的主張1及び2が適法な理由の差し替えとし
て許容されるとしても,いずれも理由がないものであることは下記イ及び
ウのとおりである。
イ予備的主張1について
控訴人の主張する予備的主張1は,a社等における残余利益及びそれに
係る費用も含めた総費用営業利益率をもって,マナウス税恩典利益の享受
の影響度を算定し,それをもってマナウス税恩典利益を享受する場合のブ
ラジル側基本的利益率を差異調整して,a社等の基本的利益を算定すると
いうものである。
しかし,この差異調整には,次のような問題がある。
(ア)残余利益分割法によると,重要な無形資産を有しないブラジル側比較
対象企業の基本的利益から,a社等の基本的利益を算定すべきである。
しかし,控訴人の予備的主張1では,残余利益も含めたa社等の総費用
及び営業利益を一括して総費用営業利益率を算定し,それを,マナウス
税恩典利益がない場合の総費用営業利益率で除した数値で差異調整を行
っていて,それによると,基本的利益の算定に含まれるべきでない残余
利益及びその発生に係る費用が計算式に混入していることになり,基本
的利益の差異調整として許容される範囲の較差になっているとの保証が
ない。
(イ)また,a社等におけるマナウス税恩典利益の享受の影響度を,ブラジ
ル側比較対象企業にそのまま当てはめることができるとの前提に問題が
ある。控訴人が主張するとおり,マナウス税恩典利益の多寡は,部品の
輸入割合の多寡や,アマゾナス州以外の州からの部品や原材料の購入額
の多寡といったような事業形態等により大きく異なるものであるから,
a社等における影響度が,そのまま本件のブラジル側比較対象企業に当
てはまると認めるに足りる証拠はない。
以上からは,控訴人が予備的主張1において採用している差異調整は適
切なものとはいえず,採用できない。
ウ予備的主張2について
予備的主張2について,控訴人は,原審における被控訴人の主張(差異
調整)に沿う形で差異調整を行った場合でも,本件各更正等は一部取り消
されるにとどまる旨主張するものである。
しかし,控訴人が指摘する原審での被控訴人の主張は,マナウス税恩典
利益の有無が,基本的利益の多寡に大きく影響する市場条件であり,それ
がないブラジル側比較対象企業には比較可能性がないか,少なくとも適切
な差異調整が必要である旨指摘するために,試みとして差異調整を行った
ものにすぎず,その内容は必ずしも正確なものではない。
また,a社等の部品の内製率は低くなく,その調達においては物流コス
トは高くないとうかがわれるし,また,ブラジル北部の自動二輪車の需要
は低くなく,そこに出荷する場合は,ブラジル南東部の企業より物流コス
ト上はかえって有利であるから,物流コスト等の影響について,それらを
踏まえて差異調整を要する可能性がある。さらに,大都市が多いブラジル
南東部に比べて,マナウスでは,人件費が低い可能性がある。それらにつ
いての差異調整の必要性がないとは断定できない。そして,これらの差異
調整をする場合の方法及び内容については,必ずしも明らかではない。
以上のとおりであるから,控訴人の予備的主張2において採用している
差異調整は適切なものとはいえず,採用できない。
4そのほか,控訴人が縷々主張するところは,上記原判決の結論及び当審の判
断を左右するものではない。
第4以上によれば,原判決の判断は正当として是認することができる。よって,
本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官杉原則彦
裁判官高瀬順久
裁判官朝倉佳秀

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛