弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告に対し,別紙物件目録記載1の土地(別紙物件目録は省略)
について,平成28年3月6日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
2被告は,原告に対し,別紙物件目録記載2の建物について,平成28年3
月6日贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
3被告は,原告に対し,700万円及びこれに対する平成28年5月1日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,原告が,同性パートナーであったA(以下「A」という。)
との間で,先に死亡した者の全財産を生存する相手方に譲渡するとの死因贈与契
約を締結していたところ,Aが死亡したと主張して,Aの遺産を相続し
た被告に対し,同契約に基づき,Aの遺産である別紙物件目録記載の各不動
産(以下「本件各不動産」という。)について贈与を原因とする所有権移転登記
手続を求めるとともに,被告が①Aの葬儀の喪主を務めたいとの原告の申出
を拒否するなどして,同性パートナーとしてAをねんごろに弔う機会を奪い,
②原告の意に反して原告とAの住居の賃貸借契約を解約し,同住居からA
の荷物を持ち出し,③Aが使用していた原告所有のスマートフォンの返還を
正当な理由なく拒否するなどして,原告とAの同性パートナー関係を否定し
たとの不法行為及び④A名義で賃借していた事業用事務所の賃貸借契約を無
断で解約するなどして原告の事業を廃業に追い込んだとの不法行為を行ったこと
により,精神的苦痛を受けたと主張して,各不法行為に基づく損害賠償として,
上記①の不法行為について200万円,上記②の不法行為について150万円,
上記③の不法行為について150万円,上記④の不法行為について200万円の
慰謝料合計700万円及びこれに対する各不法行為日の後の日である平成28年
5月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求
める事案である。
なお,原告は,上記④の不法行為に基づく損害賠償請求(一次請求)と選択的
に,Aの事業の資金やAが負担すべき原告とAの共同生活の費用と
して合計2276万4706円を立て替えたと主張して,Aの相続人である
被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,上記金額の一部である200万円及
びこれに対する訴え提起日である平成30年4月26日から支払済みまで民法所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払(二次請求)を求めている。
2前提事実(証拠を付記しない事実は,当事者間に争いがないか弁論の全趣
旨により容易に認められる。)
(1)当事者
ア原告は,昭和▲年▲月▲日生まれの男性である(甲1)。
イ被告(昭和△年生まれ)は,A(昭和●年●月●日生まれ)の妹
である。
(2)Aは,遅くとも昭和49年頃から,大阪府g市h町所在の
一戸建建物(以下「本件住居」という。)を賃借し,同建物において原告と同居
していた(以下,本件住居に係るAを賃借人とする賃貸借契約を「本件住居
賃貸借契約」という。)。
(3)昭和50年頃,Aを代表者とし,屋号を「E」とするデザイン
事務所(以下「本件事務所」という。)が設立され,原告は同事務所のデザイナー
として稼働し始めた。
なお,本件事務所は,平成28年3月当時,i所在のビルの一室をA名
義で賃借して使用していた(以下,A名義の同賃貸借契約を「本件事務所賃
貸借契約」という。)。
(4)Aは,平成28年3月6日に急死し,その遺体は,翌7日にa警
察署に移された。
(5)Aの葬儀は,平成28年3月9日,被告を喪主として行なわれ,原
告は,同葬儀に一般参列者として参列した。なお,原告は,被告から火葬場の場
所を教えられず,火葬には同席できなかった。
(6)被告訴訟代理人弁護士C(以下「C弁護士」という。)及び弁
護士D(以下「D弁護士」といい,C弁護士と併せて「被告代理人
ら」という。)は,被告の依頼を受け,平成28年3月中旬,本件事務所の取引
先に対し,Aの死亡の通知及びAとの取引内容の照会を内容とする文書
を送付したほか,同月下旬以降,本件事務所の経営,本件事務所及び本件住居内
のAの荷物の処理等を協議するため,原告と面談した。
(7)被告は,平成28年3月27日,本件事務所の取引先に対し,Aの
死亡により本件事務所の事業を廃業する旨,被告が行う事務処理をC弁護士
に依頼した旨通知した(以下「本件廃業通知」という。)。また,被告は,同年
4月27日,本件事務所賃貸借契約を解約し,Aの荷物を搬出した。
(8)被告は,本件住居賃貸借契約を解約し,平成28年4月26日,本件住
居からAの荷物を搬出した。
(9)原告所有のスマートフォンの返還要求と被告による返還
ア原告は,平成28年3月下旬頃,D弁護士に対し,Aが生前使
用し,死亡当時に所持していた原告所有のスマートフォン(以下「本件スマート
フォン」という。)を返還するよう求めた(乙3)。
イ被告は,平成28年6月30日,原告に本件スマートフォンを返還し
た。
(10)Aの相続に関する遺産分割協議
アAの法定相続人は,被告,Aの姉であるF(以下「F」
という。)の子であるG(以下「G」といい,Hと併せて「Gら」
という。)及びHの3名であったところ,同人らは,平成28年5月26日
付けで,本件各不動産を含むAの全財産を被告が取得するとの内容の遺産分
割協議(甲5)を成立させた。
イ平成28年5月18日,本件各不動産について,同年3月6日相続を
原因とする被告への所有権移転登記がされた(甲13,14)。
3争点及び争点に関する当事者の主張
(1)原告とAが相互に全財産を死因贈与するとの合意をしたか(争点
1)
(原告の主張)
原告とAは,昭和46年頃から長年,同性パートナーとして同居し,同一
の家計を営んでいたところ,互いに高齢となり,がんに罹患するなどしたことか
ら,余生の過ごし方ついて話合いを持つようになり,遅くとも平成28年1月1
7日までに,従来どおり原告とAの財産を共有して生活すること,原告とA
のどちらかが先に死亡した場合には,死亡した者の全財産を生存している相手方
に全て譲渡するとの相互の死因贈与を口頭で合意した。
なお,原告とAは,医療に関する同意を可能とし,相続に関し紛争が起き
ないよう同年3月には養子縁組をする予定をしていたのであり,上記死因贈与の
合意をしていたことは明らかである。
(被告の主張)
Aは,生前,姪のGらに対し,遺産は全て被告に相続させると述べてい
たのであり,同発言と矛盾する原告への死因贈与の合意をしたことはない。
原告は,平成27年当時,自らが希望するAとの養子縁組についてAに
話しておらず,Aは原告との養子縁組の意思を否定していたし,Aの死
後に被告代理人らと協議する中では,Aの遺産は相続人が相続すればよいな
どと述べ,自らの遺産取得の要望は述べておらず,死因贈与についても言及して
いなかった。これらの事実は,原告主張の死因贈与合意がないことを示すもので
ある。
(2)Aの葬儀等に関する被告の原告への対応が不法行為を構成するか
(争点2)
(原告の主張)
ア死者の近親者は,死者に対して,敬愛追慕の念を抱き,死者を懇ろに
弔い,偲びたいという宗教的感情を有しており,この感情を実現する機会を奪う
行為は,近親者の死者に対する敬愛追慕の念を侵害し,精神的苦痛を与える行為
であり,社会通念上許容できない行為として不法行為に該当する。そして,この
ことは,死者と長年にわたって共に生活していた同性パートナーの場合も同様で
ある。
イ被告は,Aの生前から,原告とAが同性パートナーシップ関
係にあり,夫婦と同視すべき関係であることを認識していたにもかかわらず,①
a警察署の遺体安置室に安置されていたAの遺体と面会したいとの原告
の申出を拒否し,②Aの葬儀の喪主を務めたいとの原告の申出も拒否した上,
③原告が近親者としてAの葬儀に参列することを認めず一般参列者として参
列させ,④原告に火葬場の場所を教えず,Aの火葬に立ち会う機会を与えな
かった。被告の上記各行為は,原告がAを同性パートナーとして見送る機会
を奪うものであり,原告のAに対する敬愛追慕の念を侵害する違法な行為で
ある。
ウ被告はA死亡後の原告との交渉過程において,原告とAが同
性パートナーである旨記載した文書の作成を拒むなど,同性愛嫌悪の姿勢をあら
わにしていたのであり,このことは,被告が,原告とAが同性愛者であり,
両者が同性パートナーとして夫婦類似の関係にあったことを認識していたことを
示している。
(被告の主張)
ア被告を含むAの親族は,Aの生前,同人から同性愛者である
と聞かされたことはなく,Aが女性と交際していた事実を認識していた。被
告は,Aから原告が本件事務所の従業員であり,本件住居の居候であると聞
かされており,原告からもAの同性パートナーであると聞かされたことはな
かった。そのため,被告は,Aが死亡し葬儀を行った当時,原告とAが
同性パートナーであるとの認識を一切持っていなかった。
なお,被告がA死亡後の原告との交渉過程において,文書に原告とAと
が同性パートナーである旨の表記をすることを拒んだのは,原告がAの弟で
あると名乗る等したことに恐怖感を覚えていたためであり,同性愛嫌悪に基づく
ものではない。
イ被告がa警察署の遺体安置室に向かったのは身元確認のためであ
ったところ,これに同行しようとした原告を制止したのは警察官であり,被告で
はない。
ウ被告が喪主を務めたいとの原告の申出を断ったのは,生前のAが
葬儀は親族だけで行い,絶対に原告を参加させないよう述べていたことから,A
の遺志を尊重し,親族ではない原告を喪主にできないと考えたからである。原告
を親族として参列させなかったのも,Aの上記遺志を踏まえたものである。
なお,葬儀の打合せ段階から火葬場には親族のみが行くことになっていたもの
であり,当日同行しようとした原告を制止したのは,葬儀場の担当者であり,被
告ではない。
エ以上のとおり,原告主張のいずれの行為についても,被告に不法行為
は成立しない。
(3)被告が本件住居賃貸借契約を解約し,Aの荷物を搬出したことが原
告に対する不法行為を構成するか(争点3)
(原告の主張)
被告は,原告の承諾を得ずに本件住居賃貸借契約を解約した上,平成28年4
月26日,D弁護士などを伴って本件住居を訪れ,原告の意に反して本件住
居にあったAの荷物を運び出して処分することにより原告を本件住居から追
い出そうとした。被告のこれらの行為は原告に精神的苦痛を被らせるものであり
不法行為を構成する。なお,原告が被告代理人らに対し,本件住居賃貸借契約の
解約を要望したことはない。
(被告の主張)
原告は,Aの死後,被告代理人らと面談した際,本件住居賃貸借契約の解
約や賃借人名義の変更を希望していたことから,被告代理人らは,原告と協議し
ながら,本件住居賃貸借契約を解約するのみでなく,本件住居の賃貸人に対し解
約後も原告が本件住居に居住することを望んでいること等を説明し,原告が居住
を継続できるよう協力した。これにより,原告は,本件住居について,新たな賃
貸借契約を締結している。
また,本件住居からAの私物を運び出すことも原告の意思に沿うものであ
り,被告は,原告の指示どおりにAの私物と原告の私物を区別した上,原告
立会いの下,Aの私物を運び出したものである。
したがって,本件住居賃貸借契約の解約やAの荷物の搬出が原告に対する
不法行為を構成することはない。
(4)被告が本件スマートフォンの返還を拒んだことが原告に対する不法行為
を構成するか(争点4)
(原告の主張)
原告は,Aに対し,緊急連絡等のため,原告所有の本件スマートフォンを
渡して,使用させていた。原告は,Aの死後,被告代理人らに本件スマート
フォンの返還を求めたが,D弁護士はデータの所有権は被告にある等と述べ
て,正当な理由なく返還を拒否した。
さらに,D弁護士は,本件スマートフォンの全てのコンテンツ及び設定の
消去並びに本件スマートフォン以外の原告所有の全ての電子機器からのAの
写真ほか一切の記録の削除を求めた。
これらにより,原告は本件スマートフォンの所有権を侵害され,本件スマート
フォンの所有者としてもAの特別な家族としても尊重されず,Aと同性
パートナーであることを理由に差別的取扱いをされるという人格的利益の侵害を
受けた。したがって,被告が被告代理人らを通じて行った上記行為は原告に対す
る不法行為を構成する。
(被告の主張)
被告は,警察官から本件スマートフォン内のデータがAのものかもしれな
いと伝えられたこと及びAの死後の処理に必要となるかもしれないと考えた
ことから,本件スマートフォンのデータのバックアップを取りたいと考え,他方
で原告がAの弟と名乗っていると聞くなどしたことにより原告に対する恐怖
や不信感を抱いていたため,原告に対し,被告において本件スマートフォンの全
データのバックアップを取り,全データを削除して本件スマートフォンを原告に
返還する案や,本件スマートフォンを現状のまま原告に返還するが,原告におい
て連絡先のデータだけバックアップを取り,そのデータを被告に提供してもらう
案等の提案をした。しかし,原告から了承を得られなかったため,最終的に原告
に本件スマートフォンをそのまま返還した。被告の上記のような対応は,当時の
状況下では適法・妥当な交渉の範囲内のものであり不法行為を構成することはな
い。
(5)被告が本件事務所賃貸借契約を解約し,同事務所の事業を廃業したこと
が原告に対する不法行為を構成するか(争点5)【一次請求関係】
(原告の主張)
本件事務所は,テキスタイルデザイナーとしての原告の技術により取引先から
注文を受けており,受注があった場合の作業も原告のみが行えるものであった。
Aは,本件事務所の形式上の代表者として,会計管理を行っていたものの,原
告との共同の家計管理の延長にすぎなかった。このように,本件事務所の事業は
原告が行っており,その経営権は原告が有していた。
そして,被告は,本件事務所の経営権を原告が単独で有していることを知って
いた,あるいは原告も同性パートナーであるAとともに経営主体であると認
識していたにもかかわらず,Aの死後,原告の承諾を得ることなく,①本件
事務所及び本件住居から本件事務所の事業に関する書類や通帳を持ち去り,②本
件廃業通知を取引先に送付し,③本件事務所賃貸借契約を解約して原告を退去さ
せた。被告のこれらの行為により,原告は本件事務所における事業の廃業を余儀
なくされたのであり,当該行為は,原告の本件事務所の経営権を侵害するものと
して不法行為が成立する。
なお,原告が,被告代理人らに対し,本件事務所の事業を早急に廃止すること
や本件事務所賃貸借契約の早期解約を希望したことはないし,未払給与の支払や
失業保険の受給を希望したこともない。
(被告の主張)
被告は,本件事務所の起業経緯や事業内容等の詳細は知らなかったが,生前の
Aから,Aの資金で本件事務所を立ち上げ,同人が代表者として経営し,
原告を含む従業員を雇用し,Aの営業により取引先を獲得していると聞かさ
れていた。そのため,被告は,原告主張の①から③までの行為当時,本件事務所
の事業主はAであると認識しており,原告が事業主であるとは認識していな
かった。
また,原告は,早期に廃業して本件事務所を明け渡すことや失業保険を受給す
ることを希望していたのであり,被告は原告の了承を得,あるいはその希望に沿
って行動していた。したがって,被告の上記各行為が不法行為を構成することは
ない。
(6)被告の不法行為による原告の損害(争点6)
(原告の主張)
原告は,被告の同性愛嫌悪を背景とする各不法行為により精神的苦痛を被った。
この苦痛に対する慰謝料額は,上記(2)の不法行為について200万円,上記(3)
の不法行為について150万円,上記(4)の不法行為について150万円,上記(5)
の不法行為について200万円を下らない。
(7)Aの負担すべき本件事務所の事業資金あるいは原告とAの生
活費を原告が立て替えたか(争点7)【二次請求関係】
(原告の主張)
本件事務所の事業主体がAである場合,その事業資金はAが負担すべ
きものであるところ,原告は,Aの求めに応じて,赤字を補てんするため,
原告の固有財産から本件事務所の運転資金を立て替えて拠出した。
また,原告とAは,2人の同居生活に係る費用は,Aが全て負担する
ことを合意していたが,原告は,Aの求めに応じて,原告の固有財産から2
人の同居生活に係る費用も立て替えて支払った。
原告が上記各立替えにより支出した金額は,平成21年2月4日時点の原告の
預金残高からAが死亡した直後である平成28年4月8日の預金残高の差額
2276万4706円であり,原告は,Aに対し同額の不当利得返還請求権
を有している。
(被告の主張)
Aは自分の力と資金で本件事務所を経営しており,原告はAの従業員で
あったから,原告が本件事務所の経費を負担し,運転資金を立て替えていたこと
はない。また,原告は,Aから給料を得ていたのであるから,原告とAと
の間で生活費をAが全て負担する旨の合意があったとは考えられず,原告が
Aの負担すべき生活費を立て替えて支出したとの事実もない。したがって,原
告のAに対する不当利得返還請求権は存在しない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
証拠(事実ごとに記載したもののほか,甲44~46,48,乙23,24,
証人I,証人J,証人K,原告本人,被告本人。なお,枝番のある
証拠について枝番を全て含む場合には,その記載を省略する。)及び弁論の全趣
旨によると,以下の事実が認められる(第2の2の前提事実を含む。)。
(1)Aの死亡までの状況
ア原告は,大学在学中の昭和45年頃,Aと知り合い,昭和46年
に大学を卒業して,大阪市内の広告会社に入社した。原告と知り合った当時,大
阪市内の企業に勤務していたAは,jに転勤した後,大阪に戻って大阪
府k市内の社宅に居住するようになり,同性愛者同士として交際していた原
告と同社宅で同居し始めた。その後,Aは,大阪府g市h町所在の
本件住居に転居し,同住居を自ら賃借して,原告と居住していた。
イ原告は,昭和49年頃,大学の同級生であったIが設立したデザ
イン事務所に転職し,テキスタイルデザイナーとして稼働していたが,昭和50
年頃,Aを代表者とする本件事務所が立ち上がってからは,同事務所におい
てテキスタイルデザイナーとして稼働するようになった。なお,Aは,本件
事務所が立ち上がる前に勤務先を退職していた。
また,昭和49年には,原告を使用者として自動車(×××××××××)が
購入されたが,原告は運転免許を有しておらず,自動車はAが使用していた
(甲17,18,乙12)。
ウAは,昭和50年頃,Oにより約1週間入院し,昭和62年
頃にはPに罹患し,bセンターにおいてQ術を受け,約1か月間入
院した。さらに,Aは,昭和63年頃,原因不明のR症に罹患し,b
センターにおいてS手術を受けて,約2か月間入院した。これらの入院の際,
被告を含むAの親族がAの見舞いに訪れており,原告もAのもとを
訪れていた。
エ被告は,昭和62年頃,Aに対して近況報告の手紙を送り,同手
紙の末尾に,原告のことを指して「Xによろしくね」と記載した(甲23)。
オAは,平成元年2月12日,Aと被告の母であるL(以
下「L」という。)が一人暮らしをしていた本件各不動産の所在地に住民票
上の住所を移した(甲3)。
カLは,平成4年○月○日死亡し,AはLの遺産である株
式等を相続した(甲11)。
キAは,平成5年□月□日,Gの結婚披露宴に出席したが,原
告も出席し,Aとともに親族席に座った。同披露宴には,被告も出席してい
た(甲24~27)。
Gは,平成8年正月に原告に年賀状を送り,平成9年正月にAに送った
年賀状では,原告がG夫婦の長男にプレゼントした手作りの積み木に言及し
た(甲28,29)。
クAは,平成12年4月,T検査のために入院した。原告は見
舞いに訪れたり,退院に備えて不要な荷物を持ち帰るなどし,他方,被告とF
も見舞に訪れ,家族としてAとともに医師の説明を受けるなどした。A
は,同月21日に退院し,本件事務所に立ち寄ったが,原告から帰宅するように
促され帰宅した(甲20)。
ケAは,平成16年頃,救急搬送されて約1週間入院した結果,U
がんに罹患していることが判明した。他方,原告は,平成17年頃,Vがん
に罹患して入院した。
コAと原告は,平成18年■月頃,Fの夫の葬儀に参列した。
同葬儀には,被告も参列していた。
サ原告は,Wがんと診断され,平成19年6月2日,c病院に
おいて,Wがんの切除手術や同手術の際の輸血及び血漿分画製剤使用につい
て説明を受けた。この時,Aが,原告の同席者として,共に説明を聞いた(甲
21)。また,原告は,平成23年頃には,Uがんに罹患し,平成24年頃
まで放射線治療を受けた。
他方,Aは,平成24年頃,α症を発症し,平成25年頃にb
センターで手術を受け約2週間入院した。また,Aは,同年頃,昭和63年
頃に受けたS手術の後遺症により,救急搬送後に8時間に及ぶ手術を受け約
2か月入院した。原告は同手術に立ち会い,手術後,被告及び被告の息子である
M及びK(以下「K」という。)とともに,医師から説明を受けた。
なお,Aの上記各入院の際,被告は見舞いに訪れていた。
シAと原告は,平成26年×月×日に死亡したFの葬儀に参列
し,同年◎月◎日の四十九日の法要にも参列した。なお,これらには被告も参列
していた。
スGは,Fから本件各不動産を相続したが,平成27年▽月▽
日,Aに対して本件各不動産を贈与し,Aは本件各不動産について所有
権移転登記を経た(甲13,14)。
セ原告は,平成27年4月30日頃には精神科に通院しており,焦燥感,
イライラ感,自責の念や将来の不安を訴え,家族やAとの関係について話し,
同年8月20日には,金銭的な問題として,A名義の財産をAが妹であ
る被告に渡す旨,Aは仕事をしていないが,本件事務所の管理をしている旨,
「任せる必要はないと言われた」ことがあり,Aとの間で上下関係がはっき
りしている旨などを述べた。
この頃,原告は,Aに対し,被告に遺産を渡しても被告の息子らが相続す
ることになる,原告が本件事務所の仕事をしてAを支えてきたのに原告より
も被告を優先するのかと述べたが,Aとの間で話合いはまとまらず,原告は,
同年9月17日に精神科を受診した際も,心配事が続いているとして,被告に養
子縁組の話をすることに言及した(甲31,34)。
ソAは,平成27年9月頃,がんが腰の骨に転移していることが判
明するとともに,βによりbセンターに2度の入院をした。
タ原告は,平成27年9月23日,大阪府k市内の喫茶店に被告を
呼出し,被告に対し,Aと養子縁組をしたい旨等を伝えるとともに,緊急時
に連絡が取れるよう携帯電話を持ってほしいと依頼した。
原告は,上記面談後,被告から連絡がないことを気に掛けており,同年12月
末頃にも,上記喫茶店に被告を呼び出し,被告に対し,Aと養子縁組をした
い旨の話をした。これに対し,被告は,養子縁組は被告が決めることではない旨
述べた。なお,原告は,同年12月中に,養子縁組届の用紙を入手していた(甲
31,34)。
被告は,原告との上記面談後,Aに対し,原告がAと養子縁組したい
と話していると連絡したが,この時点で,原告は,Aとの間で養子縁組の話
をしていなかった。
チ原告は,A及び友人であるJ(以下「J」という。)と
共に,平成28年1月17日頃,γへ旅行した。同旅行の宿泊先において,
原告とAは,養子縁組を含め今後の生活等に関する話合いをし,JはA
に対し,原告のためにちゃんと考えておかないといけない等と助言をした。なお,
この際,Aは,原告との養子縁組については,血縁のある者に話して納得さ
せなければ話は進まないだろうと発言していた。
ツAは,平成28年3月6日,大阪府a市内のδで倒れ,
d病院に救急搬送される途中で死亡した。
テAは,生前,被告を含む親族に対し,同性愛者であることを隠し
ており,常連客であった飲食店の関係者を含め,知人や友人には原告を弟である
と紹介し,原告もこれに従っていた。
(2)本件事務所の運営状況等
ア本件事務所の事業は,顧客の依頼に応じて服地等のデザイン原画を作
成し,販売するものであり,他にも従業員が在籍していたが,主としてテキスタ
イルデザイナーである原告がデザイン画等の作成をしていた。
イAは,本件事務所の代表者として,口座管理や帳簿の作成,従業
員や外注先への支払を含む本件事務所の経理を行っていたほか,確定申告事務等
を行っていた。本件事務所の売上げが入金される預金口座の名義は,Aある
いは「E代表者A」であり,本件事務所の賃貸借契約もAが締結し
ていた(甲19,乙15~17)。
ウ本件事務所の収支は平成18年頃から赤字が続いており,平成26年
頃以降,本件事務所においてデザイン業務を行っていたのは,原告とN(以
下「N」という。)のみであった(乙3,22)。
エAは,原告やNに対し,Aを支払者とし,給与を支払っ
た旨の支払報告や源泉徴収票等を作成していた(乙18~22)。
(3)Aの葬儀の経緯等(日付は全て平成28年である。)
ア原告は,Aが死亡した3月6日,Gに対し,Aが死亡し
た旨を伝えた。原告は,d病院においてG夫妻と会ったが,a警察
署の警察官からAの遺体をa警察署に運ぶと告げられた。
他方,被告は,同日,GからAが死亡したとの連絡を受け,翌7日,
Kとともに,居住するεから大阪に向かい,その途上でa警察署に連
絡したところ,Aの所持していた本件スマートフォンが原告名義になってい
るが,内部のデータはAのものかもしれないとして原告と連絡を取るよう依
頼された。そこで,被告が原告と電話で連絡を取ったところ,原告はAの葬
儀の喪主を務めたい旨を申し出たが,被告は同申出を断った。
イ原告は,3月7日午後3時頃,被告及びKは同日午後4時過ぎ頃,
それぞれa警察署に到着し,被告及びKは同署2階の遺体安置室に安置
されていたAの遺体の身元確認を行ったが,原告は遺体安置室に赴くことが
認められなかった。なお,被告は,この際,警察から本件スマートフォンを受領
した。
ウ被告は,3月7日,原告には相談することなく,Gが手配してい
たeホールにおいて同月9日に葬儀をすることに決め,Aの遺体を同
ホールに移し,自らもKとともに同日中に同葬儀場に赴いたところ,原告も
同葬儀場に現れた。原告は,被告に対し,原告自身やAと原告の友人らも葬
儀に参加できるようにすることを求めたことから,被告は,これに応じ,家族葬
の予定を親族以外の者も参列できる葬儀とすることに変更し,原告に対し,葬儀
に参加することを希望するAの友人らや従業員であるNなどの氏名及び
電話番号を教えるように求めた。これに対し,原告は,Nが参列することを
拒むなどし,原告と被告との間では,原告の連絡で同葬儀場に来た原告の知人を
含め,葬儀場の閉館後もやりとりが続いた。
エ被告は,3月8日,事前に原告に連絡を入れた上で本件事務所を訪れ
た。被告は,Nに挨拶をした後,原告に対し,確定申告をするために必要な
書類を持ち出すこと告げたが,原告は「そんな事務的な話はしたくない」と発言
し,被告の要求を拒否した。そこで,被告は,Aの友人らで葬儀に参加予定
の者の氏名を記載した原告作成のメモを受領して辞去することとしたが,原告は
被告に最寄り駅まで同行し,その際,自らが精神科に通院している旨の発言等を
した。
オ原告は,3月9日の葬儀当日,開場時刻前の午前10時頃に葬儀場に
到着し,親族待合所に入ろうとしたため,Kが親族待合所には親族しか入れ
ない旨述べて制止した。原告は,Aとの共通の友人らとともに一般参列者と
して葬儀に参列した。また,被告は,原告に火葬場の場所を教えなかったため,
火葬場の場所を知らなかった原告は火葬に同席できなかった。
(4)Aの葬儀後の経緯(日付は全て平成28年である。)
ア被告は,原告と事前に日程を調整した上,3月11日,本件事務所を
訪れ,原告及びNの立会いの下,本件事務所にある書類から確定申告等に必
要な書類を選別して段ボールに入れ(この選別は原告が行った。),そのうち1
箱をコンビニエンスストアから送付した。この際,原告は,被告が段ボール箱を
コンビニエンスストアに運ぶのを手伝った(乙10,11)。
イKは,3月11日夜,本件事務所に赴いた被告の帰宅が遅く,連
絡も取れないことから,本件スマートフォンを操作して原告の連絡先を探し,K
の携帯電話を用いて同日午後11時38分から約12分間,原告と通話した。な
お,本件スマートフォンには,原告の連絡先が「X」と登録され,その振り
仮名が「かわいいX」と登録されていたところ,Kはこの登録内容を認
識した(乙8,11)。
ウ被告は,3月12日にも本件事務所を訪れ,原告とNの立会いの
下,前日に段ボールに入れておいた書類を持ち帰った。なお,原告は,被告が持
ち帰る前に段ボールから一部の書類を抜き出した。
エ被告は,Aの死後の処理を被告代理人らに委任し,被告代理人ら
は,3月16日頃,「EことA氏」の相続人代表である被告の代理人と
して,原告に対し,Aの生前の事業の内容や原告がAと同居している本
件住居の賃貸借契約の内容を把握してない旨,Aの相続にかかる様々な問題
を解決する必要があるが,これらの点について最も認識しており,利害関係もあ
る原告と面談し,Aの生前の状況を確認するとともに,今後の事業等につい
ての原告の考えを聞きたい旨を記載した文書を送付した(甲6,乙1)。
また,被告代理人らは,同日頃,本件事務所の取引先6社に対し,Aが死
亡し相続人代表の被告から事業の整理の依頼を受けたとして,取引内容について
回答を求める文書を送付した(乙2,3)。
オ原告は,3月23日頃,被告代理人らが所属する法律事務所において
D弁護士と面談した。原告は,D弁護士に対し,本件事務所の事業内容に
ついて,原告がデザイナーとして稼働することが主たる業務であり,Nに対
する指示も原告がしていたこと,本件事務所は約10年前から赤字が続いており,
Aが相続した株式や原告が購入した宝くじの当選金等から補てんしていたこ
と,Nに関する未払賃金や被告とNの失業保険の手続を進めてほしいこ
と,Aに使用させていた本件スマートフォンを返還してほしいこと等の要望
を伝えた(乙3,12,25)。
カD弁護士は,3月24日,C弁護士に対し,原告との面談に
ついて,上記オの内容とともに以下の内容を報告するメールを送信した(乙12)。
(ア)原告は,本件事務所の事業を早急に廃業したいとの意思を有してい
る。原告は,廃業後も個人的に取引を続けていくつもりであるが,本件事務所の
口座が凍結されていることから,取引先との信頼関係が崩れてしまうのではない
かとの懸念を有している。
(イ)本件事務所賃貸借契約はA名義となっているが,原告は解約す
ればよいと考えており,既に家主から解約通知書をもらっている。原告は,事務
所内の残置物のうち,原告が使用していたパソコン1台以外は不要であり,その
他の残置物の処理は今後協議していきたいとの意向を有している。
(ウ)原告は,原告とNの2月分の給料(支給日は3月5日)が未払
であるから支払ってほしいと要望しており,未払額は原告が約25万円,Nが
約19万円とのことである。
(エ)原告は,Aの遺産について何らの要望も意見もなく,単純に相
続人が相続すればよいと考えている。
(オ)本件住居賃貸借契約の賃借人はAになっているが,原告は今後
も本件住居に住み続けることを希望しており,契約名義を原告に変更するために
本件住居賃貸借契約を一旦解除することを求めている。原告は貸主からも原告が
住み続けることについて了解を得ており,本件住居にある自動車や荷物等の処分
については今後協議したいが,Aの私物は運び出してほしいと要望している。
(カ)原告は,Aに使用させていた原告名義の本件スマートフォンを
返還してほしいと要望している。
キ被告は,予め原告と日程を調整した上で,被告の息子ら及びD弁
護士とともに,本件住居を訪れ,原告からA名義の通帳の所在を聞いて,保
管場所である箪笥から,本件事務所の売上金が入金される口座のものを含むA
名義の通帳及びAの私物を持ち帰った。
ク被告は,3月27日頃,本件事務所の取引先6社に対し,Aが同
月6日に死亡したためAの個人事業である本件事務所が廃業となる旨,法定
相続人である被告が処理を行うことになったが,当該処理をC弁護士に依頼
したとして,同弁護士の連絡先を通知した(本件廃業通知。甲7,乙25)。
ケD弁護士は,N及び原告に対し,失業保険に関する金員を交
付した。また,同弁護士は,原告に対し,未払賃金の支払のため,原告が出勤し
た日数を教えるよう依頼した。
コ4月1日,Aの友人らにより,Aを偲ぶ会が開催され,原告
も出席した。原告は,この場で被告に対し電話をかけ,被告代理人らの対応に迷
惑しているので,考慮してほしい旨発言した。これを受けて,被告は,同月2日,
被告代理人らに対し,原告から電話があったことを報告するとともに,本件各不
動産に滞在している被告を原告が尋ねてきたり,再度電話がかかったりするので
はないかと不安を感じ,電話等があったときにどのように対応すればよいかに困
っているとして助言を求める連絡をした(乙4)。
サ被告代理人らは,4月4日,弁護士事務所において原告と面談し,本
件事務所及び本件住居の明渡し等について協議し,C弁護士は,同月6日,
被告に対し,上記面談の結果について,①本件事務所及び本件住居の明渡しに関
し,現物を確認した上,原告の所有物とAの所有物を区別して,Aの所
有物については処理業者と共に運搬すること,②賃貸人との間の協議を進め,被
告の署名捺印が必要であれば連絡すること,③原告に対し,被告に直接連絡を取
らないよう重ねて要望をしたこと等を報告した(乙5)。
シ被告は,4月8日,上記コのAを偲ぶ会に原告がAの弟とし
て参加したとの情報を得,翌9日,被告代理人らに対し,Aと血縁や法的親
族関係がない原告がAの弟であると名乗ることが「A家として」問題と
なりそうで怖い旨,原告が公私ともにAの弟と発言したり,弟であるとの立
場をとると困ったことになりそうで怖いとして,助言を求めた(乙6)。
ス4月8日,原告立会いの下で,D弁護士が同行した株式会社f
により,本件事務所の明渡費用の見積りが行われた。また,同月15日,原告立
会いの下で,D弁護士が同行した同業者により,本件住居の明渡費用の見積
りが行われた。
セD弁護士は,4月14日,原告と面談し,原告に対し,本件スマー
トフォンの返還に関し,両者合意の下,本件スマートフォン内の全てのコンテン
ツと設定を消去する旨,本件スマートフォン内あるいはその他の電子機器内に
データ(連絡先,写真その他一切のデータを含む。)が残存していた場合には原
告が直ちに被告に通知した上,当該データを全て消去し,当該データを利用しな
いものとする旨,原告がこれに違反した場合には,原告は当該違反により被告に
生じた一切の損害を賠償する旨を含む「合意書」(以下「本件合意書1」という。)
を提示し,この内容の合意を求めたが,同日,合意書は作成されなかった(甲4
2)。
ソ原告は,上記セの打合せ後の4月14日,原告訴訟代理人(以下「原
告代理人」という。)に被告代理人らとの交渉を委任した。原告代理人は,同月
21日頃,被告代理人らに対し,原告がAと「二人三脚でしてきた仕事を一
人でする」準備を進めている旨及び被告代理人との交渉を受任した旨とともに,
本件合意書1の送付及びデータの改変やバックアップ等を取得せずに本件スマー
トフォンを返還することを求める旨,同月26日及び同月27日に予定されてい
る荷物の搬出には原告のみが立ち会う旨を連絡した(甲41)。
タ被告は,4月26日,原告立会いの下,被告の息子ら及びD弁護
士とともに,原告とAの私物を区別し,本件住居からおよそトラック2台分
のAの私物を搬出した。なお,同時点では本件住居賃貸借契約は解約されて
おり,原告は,自らを賃借人とする賃貸借契約を新たに締結し,引き続き本件住
居に居住し続けた。
また,D弁護士は,本件事務所賃貸借契約を解約し,同月27日,原告立
会いの下,本件事務所の明渡作業を実施した。
チD弁護士は,4月27日頃,原告代理人に対し,被告との協議の
結果,本件スマートフォンを現状のままで原告に返還するが,今後連絡を取る必
要が生じる場合に備えて把握しておくため,連絡先のバックアップを取った上で
データを提供してほしい旨要望するとともに,2月21日から同年3月5日まで
の未払給料の支払に関し所得税及び住民税の扱いについて意見を求めた(乙7の
1)。
ツ原告代理人は,5月4日,D弁護士に対し,本件事務所及び本件
住居から搬出した動産に関し,以下の内容を含む合意書(以下「本件合意書2」
という。)を送付するとともに,本件スマートフォンの返還方法を提案した(乙
7の2)。
(ア)原告は,被告が本件事務所から搬出した動産について一切の権利を
放棄し,被告及びGらが動産を任意に処分することに異議を述べない。
(イ)原告は,被告が本件住居から搬出した動産について,原告が何らの
処分権も有さないことを相互に確認する。
テ本件合意書2には,原告がAの同性パートナーである旨の記載が
あったところ,被告は,Aの生前,原告が同性パートナーであると聞いてい
なかったため,当該記載のある合意書は作成できないと返答していた。
原告代理人とD弁護士との間では,原告への給与支払に際しての所得税等
の処理,本件スマートフォンに関する合意内容(バックアップをとることが前提
となっていた。)の修正のほか,合意書に原告をAの同性パートナーと記載
するか否かについてやり取りがされた。この過程で,原告代理人は,5月25日,
合意書締結前に本件スマートフォンを返還するよう求めた(乙7の2~6)。
D弁護士は,翌26日,原告代理人に対し,合意書に同性パートナーとの記
載をすることを了承する旨,Aの相続人の間で協議し,被告が単独相続する
旨の遺産分割協議をすることとなったため,手続に1週間から2週間を要する見
込みであり,その後に一括で合意や清算をしたい旨,そのため,本件スマートフ
ォンの返還についてもう少し時間を与えてほしい旨連絡した(乙7の7)。
トD弁護士は,6月13日頃,遺産分割協議書,原告への給与支払
明細書とともに,本件事務所及び本件住居の各動産,未払給料及び本件スマート
フォンに関する合意書として,原告と被告との間には同合意書に定めるほかに債
権債務関係がないことを相互に確認するとの清算条項(以下「本件清算条項」と
いう。)を含む文案を作成し,原告代理人に送付した(乙7の8)。
これに対し,原告代理人は,同月15日,本件清算条項を含む合意をすること
は難しい旨返答をしたが,本件住居及び本件事務所からの荷物等の引き上げ,給
与の支払,本件スマートフォンの引渡しに関する条項については異議や要望を示
さなかった(乙7の9)。
D弁護士は,同月16日,本件清算条項を含めた合意をすることを再度提案
したが,原告代理人は,代理人間で包括的な清算をするか否かについて協議して
いないとしてこれに応じず,本件スマートフォンの返還を再度求めた(乙7の1
0・11)。
ナD弁護士は,6月29日,原告代理人に本件スマートフォンの返
還を伝え,翌30日,原告代理人に対し,これを返還した(甲39,乙7の12)。
ニ原告代理人は,7月21日頃,被告代理人らに対し,原告とAと
の間の40年以上の家族としての生活がありながらその関係を否定されること,
原告の経験と技術に基づいて本件事務所の事業をしていたにもかかわらず,A
の相続財産への寄与を一切認められないことについて納得ができないとして,死
別による財産分与あるいは事業の清算として相続財産の一部を支払うよう求める
旨の文書を送付した(乙7の13)。
2争点1(原告とAが相互に全財産を死因贈与するとの合意をしたか)
について
(1)原告は,遅くとも平成28年1月17日までに,Aとの間で,原告
とAとの財産を共有して生活し,いずれかが先に死亡した場合には,死亡し
た者の全財産を生存している相手方に全て譲渡するとの相互の死因贈与の合意を
したと主張し,原告本人は,同日頃,Aとの話合いで,Aが養子縁組を
することを了承し,原告が稼いだ資産であり,原告の将来が不安であるから,A
の財産として残っている株等の財産は全て原告に譲渡する旨,Aが述べたと
供述する。
この点,上記認定事実によれば,原告とAが昭和40年代後半から同性愛
者同士として交際し,継続して同居生活を送っており,昭和50年頃に本件事務
所が設立されてからは,原告とAとの収入は,Aを代表者とし,主とし
て原告がテキスタイルデザイナーとして作成するデザイン画等を販売していた本
件事務所の売上から生ずるものであり,かつ原告はその管理をAに委ねてい
たと認められること,原告とAは年齢を重ね,共にがんに罹患するなどし,
平成27年9月にはAに骨転移が発見される状況となっており,Aに相
続等により得た本件不動産や株式等の資産があったのに対し(甲11),原告名
義では特段の資産が存在しなかったことから,原告は経済的に将来に不安を覚え
るなどし,被告にAとの養子縁組について話しに行くなどしていたこと,平
成28年1月のγ旅行の際,原告とAが養子縁組を含めて今後の生活等
について話合いをしていたこと等の事実に,同性パートナーである原告とA
の間では相手方が死亡した場合にその財産を取得するためには死因贈与や養子縁
組などの手立てが必要であることを併せ考えると,原告とAとの間に原告主
張の合意がなされたと推認できるようにも思われる。
しかしながら,上記認定事実によれば,Aは自らが同性愛者であり,原告
がパートナーであることを被告を含む親族にも隠すとともに,Lから相続し
た財産があることに感謝の気持ちを抱いており,原告と長年生活を共にしてきた
後の平成27年8月頃にも,A名義の財産は妹である被告に渡すと原告に話
していたこと,原告は同年12月末に被告に対し二度目にAとの養子縁組の
話をした際にもA自身には養子縁組の話を切り出していなかったこと,平成
28年1月のγ旅行の時点でも,Aは原告との養子縁組について血縁の
ある者に話して納得させなければ話は進まない旨の発言をしていたこと等に照ら
すと,Aが平成28年1月17日頃の原告との話合いにおいて,相続等によ
り取得した株式や本件各不動産を含め,Aの全財産を原告に死因贈与すると
の明確な意思表示をしたと認めるには疑念がある。
また,上記認定事実によると,原告は,Aの死後,被告代理人と面談を重
ね,本件住居や本件事務所からAの財産である動産を搬出するための作業が
進められていた際,Aの財産が全て原告のものであるとの主張をしておらず,
かえって,Aの遺産は相続人が取得すればよい旨の発言をしていたと認めら
れる。そして,原告が原告代理人を依頼した後にも,Aの動産の搬出を伴う
本件住居や本件事務所の明渡しについては何ら異議が述べられず,本件清算条項
を契機に当事者間で金銭給付が問題となった後の平成28年7月においても,原
告代理人を通じて原告が主張したのは,死別による財産分与あるいは事業の清算
としての金銭給付であり死因贈与合意の存在は一切主張されていなかった。この
ように,原告が原告主張の死因贈与合意の存在と矛盾した行動をとっていたとの
事実に,当該合意の存在については原告の供述等以外にこれを証する証拠がない
ことを併せ考えれば,本件において,原告主張の死因贈与合意の成立を認めるこ
とはできないというべきである。
(2)なお,原告は,被告代理人らに対し,本件住居や本件事務所の明渡し等
について,何ら異議を述べなかったのは,被告代理人らが原告に何ら断り無く本
件事務所の取引先にAの死亡等の通知をしたことから,被告代理人らに抵抗
すると仕事に支障が出るようなことをされると懸念したからであると主張する。
しかしながら,上記認定事実によれば,原告は,被告代理人らとの面談の当初
から,A名義の事業が廃業されても,原告個人で同様の事業を行う意思を有
しており,本件事務所の廃業に同意していたと認められること,原告が原告代理
人に依頼した時点では本件事務所の明渡しは行われていなかったが,代理人を依
頼した後にも事業廃止の一環である明渡しに異議が述べられていないことに照ら
すと,原告の上記主張は採用できない。
(3)以上によれば,原告とAとの間に死因贈与合意が成立したとは認め
られないから,本件各不動産の所有権は原告に帰属しておらず,本件各不動産に
関する所有権移転登記手続請求は理由がない。
3争点2(Aの葬儀等に関する被告の原告への対応が不法行為を構成す
るか)について
(1)上記認定事実によれば,①被告がa警察署に安置されていたA
の遺体と面会した際,原告は同警察署にいたのに面会できなかったこと,②被告
はAの葬儀の喪主を務めたいとの原告の申出を拒否したこと,③原告はA
の葬儀の際,被告の息子であるKから親族待合所に入ることを断られ,一般
参列者として葬儀に参列したこと,④被告は原告に火葬場の場所を教えず,原告
はAの火葬に立ち会えなかったことが認められる。
原告は,上記①から④までがいずれも,同性パートナーであるAに対する
原告の敬愛思慕の念を侵害する不法行為であると主張するところ,上記各行為が
被告の不法行為となるためには,被告が当該行為の時点で,原告とAが同性
パートナーシップ関係にあり,近親者同士,すなわち夫婦と同視すべき関係であ
ることを認識していたことが必要である(なお,原告は過失による不法行為を主
張していない。)。以下,この点について検討する。
(2)上記認定事実のとおり,Aは自らが同性愛者であることを親族や周
囲に隠しており,常連客となった飲食店の関係者を含め,知人や友人に対しては,
原告を弟であると紹介していたと認められる。また,原告が被告に対し,Aの
生前,Aと同性パートナーシップの関係にある旨を話したこともない(原告
本人)。
被告は,原告がAを代表者とする本件事務所で働いていることを認識して
おり,遅くとも昭和62年頃にはAと原告が同居していたことも認識してい
たが(認定事実(1)エ),Aから原告は本件事務所の従業員であり,居候であ
る旨聞かされていたとの供述等をする。上記のとおり,Aが周囲に対し原告
との関係について事実と異なる説明をしていたことからすると,親族である被告
に対しても,原告との関係が同性パートナーシップであると悟られないような説
明をしていたと推認されるから,被告の上記供述は信用できる。そして,被告に
とって,兄であるAの説明を疑うべき事情があったとはうかがえないから,
被告はAの上記説明を信じ,原告はAが雇用している従業員であり,A
と同居している居候であると認識していたと認めるのが相当である。
(3)この点,原告は,被告が原告とAが長年同居していたことを認識し
ていたこと,原告がAとともにAの親族の結婚披露宴・葬儀等に列席し
ていたこと,被告がAに宛てた手紙に「Xによろしくね」と記載したこ
と,Aの入院の際,頻繁に見舞いに訪れており親族と一緒に説明を受けたこ
ともあること等から,被告は原告が単なる従業員や居候ではなく,同性パートナー
であると認識していた旨主張する。
しかしながら,Aが被告に対し,長年同居している原告について,本件事
務所の従業員であり居候であると説明していたと認められることは上記認定のと
おりであるし,被告がAに宛てた手紙の記載から,被告が原告をAの説
明以上の存在であると認識していたと認めることもできない。また,原告がA
の親族の冠婚葬祭等に列席していたことについて,被告は,Aから自らの親
族に縁の薄い原告が参加したいというのでやむを得ず出席させたとの説明を受け
ていたとの供述等をし,原告が入院中のAを訪問していたことについては従
業員が報告に来る旨の説明を受けていたとの供述等をするところ,Aが原告
を冠婚葬祭等に同行したり,入院中に原告の見舞いを受けながら,被告ら親族に
は同性愛者であることを隠し続けたことからすれば,被告らに対し,その都度,
原告が同性パートナーであると悟られないような説明をしていたと推認されるの
であり,被告の上記供述等は信用できる。そして,被告にとって,兄であるA
の同説明を疑うべき事情があったとはうかがえないから,被告はAの同説明
を信じていたと認められる。したがって,原告主張の上記事実から,原告とA
が同性パートナーであるとの認識を被告が有していたとは認められない。
また,原告は,被告が原告とAが長年にわたり社会的かつ経済的に一体と
なった家族として暮らしているという客観的事実を認識していたこと,Aと
養子縁組したい旨やAを看取りたい旨を伝えていたことから,原告とA
がかけがえのない親密な家族であり,夫婦と同様の関係であると認識していた旨
の主張をする。しかしながら,上記のとおり,被告が原告とAが本件事務所
で共同して働いていたこと,長年同居していたことを認識していたとは認められ
るが,それにより,原告とAが長年にわたり社会的かつ経済的に一体となっ
た家族として暮らしていると認識していたとは直ちには評価できない。また,被
告は,原告からのみAとの養子縁組の話を聞かされており,かつその時点で
原告はAと養子縁組の話をしていないと認識していたのであるから,原告の
意向を聞かされたことにより,原告とAが原告主張の上記関係にあると認識
したとは認められない。本件において他に,被告がAの葬儀の時点で,原告
とAが同性パートナーシップ関係にあり,近親者同士,すなわち夫婦と同視
すべき関係であることを認識していたと認めるに足りる証拠はない。
(4)したがって,その余の点を検討するまでもなく,上記(1)の①から④まで
について,被告の原告に対する不法行為が成立することはないから,同不法行為
を理由とする損害賠償請求は理由がない。
4争点3(被告が本件住居賃貸借契約を解約し,Aの荷物を搬出したこ
とが原告に対する不法行為を構成するか)について
(1)原告は,被告が原告の承諾を得ずに本件住居賃貸借契約を解約し,原告
の意に反して本件住居にあったAの荷物を運び出して処分することにより原
告を本件住居から追い出そうとした旨主張する。
しかしながら,上記認定事実によれば,原告は,被告代理人らとの面談の当初
から,A名義の本件住居賃貸借契約の解約と原告名義の賃貸借契約の締結を
希望し,Aの荷物の搬出も希望していたこと,その後の原告の私物とAの
私物の区別や明渡作業のための見積りなどは,全て原告立会いの下で行われたこ
と,本件住居からAの荷物の搬出が行われたのは原告が原告代理人を依頼し
た後であるところ,搬出までに同代理人から本件住居賃貸借契約の解約等につい
て異議が述べられたことはなく,その後も異議は述べられていないこと,原告は
本件住居賃貸借契約の解約後に賃貸人との間で新たな賃貸借契約を締結し,本件
住居に居住し続けていたこと等が認められ,これらによれば,本件住居賃貸借契
約の解約や本件住居からのAの荷物の搬出が原告の意に反していたとは認め
られない。
(2)なお,原告は,被告が原告とAとが同性パートナーであったことを
認識しながら,両者の同居生活があったことを否定しようとしたと主張するが,
Aの葬儀の時点において被告が同認識を有していたとは認められないことは,
上記3において認定説示したとおりである。
その後,平成28年3月11日,Kが本件スマートフォンの連絡先に原告
の登録名の振り仮名として「かわいいX」との登録があるのを認識している
ところ(認定事実(4)イ),原告は,同日,Kが原告に対し,原告とAが
同性パートナーの関係であったにもかかわらず葬儀で失礼な態度をとっていたと
して謝罪したと主張して,この頃には,被告も原告が単なる居候の従業員ではな
いことを認識していた旨主張する。
この点,原告は,Kが上記謝罪をしたのは本件スマートフォンを用いて原
告に電話を架けたときであったと主張するが,証拠(甲32の3,乙11,証人
K)及び弁論の全趣旨によると,Kは自らの携帯電話を用いて原告に電話
を架けたと認められる。このように,原告の記憶に基づく主張が事実と異なるこ
とからすると,Kの電話の内容に関する原告の供述等の信用性には疑問があ
り,Kが原告主張の謝罪をしたことを否定する供述をしていることを勘案す
ると,同供述を根拠にKが謝罪したと認めることはできないというべきであ
る。本件において,他に同事実を認めるに足りる証拠はない。
さらに,原告は,①平成28年3月16日頃に被告代理人らが原告に送付した
書面に本件事務所の事業や本件住居賃貸借契約について原告が最も認識してお
り,利害関係もあると記載されていたこと,②被告及び被告代理人らが,本件事
務所の赤字が原告の宝くじの当選金によっても補填されていたと認識しながら,
その精算に言及したことがないこと,③被告及び被告代理人らが,原告がA所
有の株式の処分や残高について言及したことに疑問を示していないこと,④被告
が作成した文書において,何ら断定しうる情報がないにもかかわらず,原告を元
従業員,同居人と記載したこと等を指摘して,原告とAとが同性パートナー
であるとの認識を被告が有していたと主張する。しかしながら,被告は原告が長
年本件事務所に勤務し,本件住居に居住していることを認識していたのであるか
ら,本件事務所の事業の整理や本件住居の明渡しに関する依頼を受けた被告代理
人らがこれを知らされた場合に,上記①の記載をすることは自然であり,それ以
上に原告とAとの関係を認識して記載したとまでは解されない。また,原告
は赤字補填について口頭説明したのみで精算を求めてはいなかったこと,原告が
本件事務所で長年稼働し,主たる業務担当者であったと説明していたことからす
れば,赤字補填の財源についてAから聞かされていたとしても不自然ではな
いことからすると,原告主張の上記②及び③も,被告が原告とAとの関係を
認識していた根拠になるとは認められない。さらに,上記④の内容は,被告が生
前のAから聞かされていた説明のとおりであり,被告がこれを信じていたこ
とは上記認定のとおりであるから,上記④も上記根拠となるとは認められない。
したがって,本件自宅明渡しまでの間に,被告が原告とAとが同性パート
ナーであるとの認識を有するに至り,これを否定しようとしたとも認められない。
(3)以上によれば,被告が本件住居賃貸借契約を解約し,Aの荷物を搬
出したことが原告に対する不法行為を構成するとは認められず,同不法行為を原
因とする損害賠償請求は理由がない。
5争点4(被告が本件スマートフォンの返還を拒んだことが不法行為を構成
するか)について
(1)原告は,被告が本件スマートフォンの返還を正当な理由なく拒否したこ
と,本件スマートフォン及び原告所有の全ての電子機器からのAの写真を含
む記録の削除を求めたことが,本件スマートフォンの所有権及びAの同性
パートナーとして尊重されるとの人格的利益を侵害するものであり,不法行為を
構成すると主張する。
そこで検討するに,本件スマートフォンは原告が契約し,Aに使用を認め
ていたものであり,その所有権は原告に帰属すると認められるが,内部にはA
が作成したデータやAの使用に伴う情報が存在したと推認される。そして当
該データや情報の内容によっては,Aの個人情報やAに帰属する何らか
の権利が問題となり得たものと解される。そうすると,Aの遺族である被告
が,本件スマートフォンの返還にあたり,本件スマートフォン内の全てのコンテ
ンツ及び設定を消去することを要望したことには合理性があるというべきであ
り,交渉の過程で当該要望をしたこと自体が原告に対する不法行為を構成すると
は認められない。
また,被告側が原告に提示した本件合意書1には,本件スマートフォン以外の
原告所有の全ての電子機器からのAの写真ほか一切の記録の削除の要望及び
違反した場合の損害賠償が提案されているところ,本件スマートフォン以外の原
告所有の全ての電子機器内の一切の記録がAに帰属するものであるとは推認
できないことから,被告の上記要望はやや過大であるとは思われるが,その要望
を受け入れるか否かは原告の判断によるのであり(実際,原告は,本件合意書1
に署名押印せず,原告代理人に依頼している。),要望すること自体が,本件ス
マートフォンの所有権や原告の人格的利益を侵害する不法行為を構成するとまで
は認められない。なお,上記3及び4において認定説示したように,被告は原告
とAが同性パートナーであるとの認識を有していなかったのであるから,上
記要望をして原告とAの関係を否定し,原告の人格的利益を侵害する意図が
あったとも認められない。
(2)原告のAに対する本件スマートフォンの使用貸借はAの死亡に
より終了しているから,a警察署から被告に返還された本件スマートフォン
を,原告の返還請求に抗して被告が保持する権原はなかったと解されるところ,
原告が最初に本件スマートフォンの返還を請求したのは平成28年3月23日で
あり,返還が実現したのは同年6月30日である。
もっとも,上記認定事実によれば,原告は,最初に返還請求した後,同年4月
14日に本件スマートフォンの返還に関する本件合意書1を提示されるまでは再
度の請求をしておらず,同合意書を提示された後の同月21日に原告代理人を通
じてデータの改変やバックアップを取得せずに返還するよう求め,D弁護士
は同27日頃,本件スマートフォンを現状のままで原告に返還する旨伝えたこと,
その後,合意書における原告とAとの関係の記載,Aの法定相続人の遺
産分割協議を理由として合意書の締結が遅れ,合意書の締結と同時に本件スマー
トフォンを返還したいとの被告の要望を原告が容認していたと認められること,
本件清算条項に関し合意に至ることが困難となった後には,被告は短期間で原告
に返還を行っていることが認められる。これに,原告が本件スマートフォンの使
用を予定していなかったと推認されることを併せ考慮すると,本件スマートフォ
ンが原告に返還されたのが同年6月30日であることをもって,本件スマートフ
ォンについての原告の所有権が違法に侵害されたとまでは認められないというべ
きである。
(3)したがって,本件スマートフォンの返還に関する不法行為も成立せず,
これを理由とする損害賠償請求は理由がない。
6争点5(被告が本件事務所賃貸借契約を解約し,同事務所の事業を廃業し
たことが原告に対する不法行為を構成するか)について
(1)原告は,本件事務所の経営権が原告に単独で,あるいはAと共同し
て帰属していたことを前提に,被告が原告の承諾を得ることなく,①本件事務所
及び本件住居から本件事務所の事業に関する書類や通帳を持ち去り,②本件廃業
通知を取引先に送付し,③本件事務所賃貸借契約を解約して原告を退去させたこ
とが,原告の本件事務所の経営権を侵害する不法行為を構成すると主張する。
(2)そこで,まず,本件事務所の経営権の所在,すなわち本件事務所におけ
る事業の主体について検討する。
上記認定事実によれば,本件事務所の代表者はAであり,本件事務所の売
上金は取引先からA名義あるいは「E代表者A」名義の口座に入金
されていたこと,原告やNに対し,Aを支払者として給与が支払われた
旨の源泉徴収票や給与支払報告書が作成されていること,本件事務所賃貸借契約
はA名義で締結されていたこと,本件事務所の事業に関する税務申告はA
を事業主として行われていることが認められる。これらによれば,本件事務所の
事業から生じる債権債務の法的主体となる事業主体はAであったと認めら
れ,同事務所の経営権はAに帰属していたと認めるのが相当である。
本件事務所における主たる業務であるデザイン業務を原告が行っていたとの事
実は,法的な事業主体や経営権の所在に影響を与えるものではない。また,原告
は,源泉徴収票等が作成されていたとしても,形式的なものであり定期的に定ま
った額の給与は支払われておらず,Aから原告に対しては不定期に金員が交
付されていたのみであると主張するが,これらの事実によっても,上記認定は左
右されないというべきである。
(3)なお,上記認定事実によれば,本件事務所賃貸借契約の解約及び事務所
の明渡し等による廃業についても,本件住居賃貸借契約の解約等に関し上記4に
おいて認定説示したと同様の事情から,原告の意に反していたとは認められない。
(4)したがって,本件事務所の廃業に関する被告の行為が原告に対する不法
行為を構成することはなく,同不法行為を理由とする損害賠償請求は理由がない。
7争点7(Aの負担すべき本件事務所の事業資金あるいは原告とA
の生活費を原告が立て替えたか)について
(1)上記6で認定説示したように,本件事務所の事業主体はAであった
と認められるから,本件事務所の事業資金はAが負担すべきものであること
になる。
他方,原告とAとの共同生活の費用は,特段の合意がなければ両者が共同
して負担すべきものと解されるところ,原告は,本件事務所の売上げは全てA
が管理しており,原告はAから一定額の給与の支払は受けていなかったから,
共同生活の費用は全てAが賄う旨合意していたと主張する。
この点,上記認定事実によれば,本件事務所の売上げを全てAが管理して
いたとは認められる。また,原告とAが同性パートナーシップ関係にあり,
両者の共同生活の家計管理もAが管理していたとすれば,原告に対しては一
定額の給与が支払われず,必要なときに不定期に金員が交付されていたとの原告
の供述等には信用性があるというべきである。しかしながら,これらの事実は,
原告とAが本件事務所の売上げから本件事務所の運転資金のほか,両者の共
同生活の費用を支出していたことをうかがわせるものであるが,Aがその固
有財産を用いることも含め,原告との共同生活の費用を全て負担すると合意して
いたことまでうかがわせるものではない。そもそも原告は,一次的に共同生活の
費用の原資となっていた本件事務所の売上げについて,同事務所の事業主である
原告のものであると主張しているのであり,そうであれば,原告自身の収入で共
同生活の費用を賄っていると認識していたはずであり,このような認識を有する
原告がAとの間で上記合意をするとは思われない。本件において他に,同合
意の成立を認めるに足りる証拠はない。
したがって,仮に原告の固有財産から原告とAとの共同生活の費用が支出
されていたとしても,それにより,原告がAの行うべき支出を代わって行っ
たものとは認められない。
(2)上記(1)で検討したところから,原告の固有財産からの支出について立替
えが問題となるのは本件事務所の経費のみである。そして,証拠(甲43,46,
原告本人)及び弁論の全趣旨によると,原告は宝くじの当選金により,みずほ銀
行の預金口座(以下「本件預金口座」という。)に平成21年2月4日時点で2
510万円の預金を有していたところ,同口座からは,原告名義の別口座に11
40万円が送金されたり,クレジットカードの利用料が引き落とされたほか,現
金の出金が行われ,Aが死亡した後である平成28年4月8日時点の預金残
高は233万5294円であったことが認められる。
原告は,2510万円と233万5294円の差額に相当する金額について,
本件事務所の運転資金あるいはAとの共同生活の費用として立て替えて支払
った旨主張するが,原告が固有財産から共同生活の費用を支出したとしても,A
の支払うべきものを立て替えたと認められないことは,上記(1)で認定説示したと
おりである。
そして,原告は本件預金口座から引き落とされたクレジットカード代金が本件
事務所の備品を購入したものであると主張するが,同事実を認めるに足りる証拠
はない。原告は,本件預金口座から平成24年9月25日に引き出された300
万円は,Aから金員が必要であると依頼されて現金で交付したものであると
主張するが,同事実も認めるに足りる証拠がない。また,原告の主張によっても,
原告の固有財産はAとの共同生活の費用としても費消されているが,上記差
額に相当する金員のどれだけが本件事務所の資金に充てられたかを明らかにする
資料はない。加えて,上記認定事実によると,原告とAは同性パートナーと
して共同生活を送りながら,本件事務所を,代表者と業務の中核者の立場で協力
して運営していたと認められることからすれば,原告の固有財産が本件事務所の
資金に充てられていたとしても,原告がAに対し贈与した可能性がうかがわ
れ,直ちに立替金であるとは認められない。本件において他に,原告がAに
対し,Aの負担すべき本件事務所の資金を立て替えて負担したと認めるに足
りる証拠はない。
(3)以上によれば,原告のAに対する不当利得返還請求権が発生したと
認めることはできず,同請求権に基づく請求は理由がない。
第4結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,
主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第9民事部
裁判長裁判官倉地真寿美
裁判官竹村昭彦
裁判官安藤諒

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