弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
○ 事実
第一 申立て
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 (主位的請求)
被控訴人らが、昭和六〇年五月三〇日、被控訴人ら補助参加人・(以下「A」とい
う。)から昭和五七年度及び昭和五八年度総務部所管交際費流用に係る金員のうち
金五〇万円の提供を受けたにもかかわらず、右金員を歳入・(款)諸収入・(項)
雑入・(目)弁償金・(節)弁償金、又は、歳入・(款)諸収入・(項)雑入・
(目)雑人・(節)総務雑入として受領しないことが違法であることを確認する。
3 (予備的請求)
被控訴人らが、Aから昭和五七年度及び昭和五八年度総務部所管交際費流用に係る
金五〇万円を徴収しないことが違法であることを確認する。
4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
との判決を求める。
(なお、当審において、原審の予備的請求を主位的請求とし、原審の主位的請求を
予備的請求とする請求の変更があった。)
二 被控訴人ら
主文同旨の判決を求める。
第二 主張
次のとおり訂正するほか、原判決事実摘示「第二 当事者の主張」の記載と同一で
あるから、これを引用する。
一 原判決二枚目裏末行から三枚目表初行にかけての「被告津市助役B(以下「被
告助役」という。)は昭和六〇年度以降津市助役であり」を「昭和六〇年度以降B
が津市助役であったが、平成四年一〇月一三日からCが津市助役となり」と改め、
原判決三枚目表九行目及び七枚目表二行目の各「(被告助役)」を削除し、原判決
三枚目裏一一行目及び四枚目表四行目の各「被告ら」をそれぞれ「被控訴人市長及
びその当時の津市助役B」と改める。
二 原判決四枚目表七行目から同九行目までと同一一行目から同裏三行目までを入
れ換える。
三 原判決四枚目裏八、九行目の「請求の趣旨記載の」を「前記の」と改める。
四 原判決五枚目裏五行目から同一〇行目までと同一二行目から六枚目裏九行目ま
でを入れ換える。
五 原判決六枚目表六行目 (但し、右四の入れ換え前)の「主位的請求」を「予
備的請求」と改める。
六 原判決七枚目裏末行の「主位的請求について」を「予備的請求について」と改
める。
第三 証拠(省略)
○ 理由
当裁判所も、控訴人らの本件訴えはいずれも不適法であるからこれを却下すべきも
のと判断するが、その理由は、次のとおり訂正するほか、原判決理由説示と同一で
あるから、これを引用する。
一 原判決八枚目表一〇行目の「被告助役が昭和六〇年度以降津市助役であるこ
と」を「昭和六〇年度以降Bが津市助役であったが、平成四年一〇月一三日からは
Cが津市助役であること」と改める。
二 原判決八枚目裏一〇行目及び一一枚目表三行目の各「被告B」を「原審におけ
る控訴人津市助役(Bごとそれぞれ改める。
三 原判決九枚目裏四行目の「被告助役」を「当時の津市助役B」と、同五行目の
「同被告ら」を「同人ら」とそれぞれ改め、原判決一〇枚目表八行目の「(被告助
役)」を削除する。
四 原判決一〇枚目裏四行目及び同六行目の各「被告ら」をそれぞれ「被控訴人市
長及びその当時の津市助役B」と改める。
五 原判決一一枚目表八行目から一二枚目表三行目までを次のとおり改める。
「ところで、普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の財務会計上の行為が違
法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の
管理を怠る事実とする住民監査請求については、当該行為によって当該普通地方公
共団体のこうむった損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求する住
民監査請求と同じく、右財務会計上の行為のあった日又は終った日を基準として地
方自治法二四二条二項の規定を適用すべきものと解される。
本件についてみるに、前記認定事実によれば、本件監査請求は、被控訴人市長及び
Bが、本件支出が違法、無効であることに基づいて津市がAに対し取得した金銭債
権のうち五〇万円につき同人から弁済の提供があったのにこれを受領しなかったこ
とをもって財産の管理を怠る事実であるとし、その是正を求めるものであることが
認められるから、監査請求期間の計算においては前の監査請求と同じく本件支出の
終わった日である昭和五九年四月一九日を基準とすべきことになる。したがって、
本件監査請求は監査請求期間経過後の請求として不適法なものであったといわなけ
ればならない。
控訴人らは、本件監査請求は単なる実体上の請求権の不行使を問題とするものでは
なく、Aから五〇万円の弁済提供を受けたにもかかわらず受領を拒否した行為を問
題にするものであるから、監査請求の対象を異にする旨主張するが、控訴人らが本
件監査請求の理由としたところは、本件支出が違法、無効であることに基づいて津
市がAに対し金銭債権を取得したことを前提としていることにおいで前の監査請求
の理由と同じであり、弁済の提供に対し受領を拒否することも当該債権の不行使の
一態様とみるべきものであるから、本件監査請求の対象は、本件支出が違法、無効
であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使を違法、不当とする財産
の管理を怠る事実にほかならないというべきである。
そして、普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の財務会計上の行為を違法、
不当としてその是正措置を求める住民監査請求は、特段の事情がない限り、、当該
行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使を違
法、不当とする財産の管理を怠る事実についての監査請求をもその対象として含む
ものと解すべきであり、前記認定事実によれば本件において右特段の事情があると
は認められないから、本件監査請求は前の監査請求において対象とした事項につき
再度監査請求をしたものというべく、この点においても本件監査請求は不適法なも
のといわなければならない。
したがって、控訴人らの主位的及び予備的請求に係る訴えは、いずれも不適法な監
査請求を前提とするものとしてそれ自体不適法というべきであり、その余の点につ
いて判断するまでもなく、却下を免れない。」
よって、右と同旨の原判決は相当であり本件控訴は理由がないからこれを棄却し、
控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判
決する。
(裁判官 渡邊 惺 清水信之 河邊義典)
(原裁判等の表示)
○ 主文
本件訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主位的請求
被告らが、補助参加人Aから昭和五七年度及び同五八年度総務部所管交際費流用に
係る金五〇万円を徴収しないことが違法であることを確認する。
2 予備的請求
被告らが、昭和六〇年五月三〇日、Aから昭和五七年度及び同五八年度総務部所管
交際費流用に係る金員のうち金五〇万円の提供を受けたにもかかわらず、右金員を
歳入・(款)諸収入・(項)雑入・(目)弁償金・(節)弁償金、又は、歳入・
(款)諸収入・(項)雑入・(目)雑入・(節)総務雑入として受領しないことが
違法であることを確認する。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
(本案前の答弁)
主文同旨
(本案の答弁)
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(1) 原告らはいずれも津市の住民である。
(2) 被告津市市長D(以下「被告市長」という。)は昭和六〇年度以降津市市
長であり、被告津市助役B(以下「被告助役」という。)は昭和六〇年度以降津市
助役であり、Aは昭和五七、五八年度津市市議会議長であった。
2 本件支出の経過
(1) A、昭和五七、五八年度において別表「支払先」欄記載の飲食店で同「金
額」欄記載の代金額の飲食をした。
(2) 昭和五七、五八年度津市一般会計予算における議会費中の交際費はいずれ
も金三五〇万円であるところ、右飲食は右交際費の額を超えるものであった。
(3) A、昭和五七年度津市総務部長であったB(被告助役)、昭和五八年度津
市総務部長であったE、昭和五七年度津市財政課長であったF及び昭和五八年度津
市財政課長であったGは、右飲食代金を総務部所管の食糧費から支出することを計
画し、別表記載のとおり昭和五七年度に金四一万六一四三円、同五八年度に金七七
万八三九七円を支出した(以下「本件支出」という。)。
3 本件支出の違法性及び津市のAに対する債権の存在
(1) Aの右飲食は、議長としての職務に関しない個人的なものであって、その
支払のために公金を支出すること自体違法である。
(2) 仮に、右飲食が議会交際費として正当なものであったとしても、これを総
務部所管の食糧費から支出することは科目の款を超えた支出であるから違法であ
る。
(3) よって、津市はAに対し、合計金一一九万四五四〇円の不法行為による損
害賠償請求権又は不当利得返還請求権を有している。
4 Aの弁済提供と被告らの受領拒絶
Aは、昭和六〇年五月三〇日、津市に対し、右損害賠償債務又は不当利得返還債務
の弁済として右飲食代金のうち自己の飲食に相当する分である金五〇万円を津市議
会議長H及び津市議会副議長Iを通じて現実に提供したが、被告らはその受領を拒
否した。
5 津市は、以下のとおり財産の管理を違法に怠っている。
(1) 主位的請求関係
津市は、Aに対し、前記3のとおり損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を有し
ているにもかかわらず、Aから提供のあった金五〇万円を徴収しないことは違法に
財産の管理を怠る事実に該当する。
(2) 予備的請求関係
津市には、右4のとおりAから現実に弁済の提供を受けた場合には、津市としては
歳入・(款)諸収入・(項)雑入・(目)弁償金・(節〉弁償金、又は、歳入・
(款)諸収入・(項)雑入・(目)雑入・(節)総務雑入としてこれを受領すべき
義務があり、それにもかかわらず受領を拒否する行為は違法に財産の管理を怠る事
実に該当する。
6 本件監査請求
原告らは津市監査委員に対して、昭和六一年一月三〇日右につき監査請求(以下
「本件監査請求」という。)を行ったが、同委員は同年三月二五日原告らの右請求
を棄却した。
7 よって、原告らは、地方自治法二四二条の二第一項三号に基づき請求の趣旨記
載のとおり怠る事実の違法確認を求める。
二 本案前の主張
1 本件監査請求について
(1) 地方公共団体における特定の財務会計上の行為が違法・無効であることに
よって発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実であると
構成している住民監査請求については、右実体法上の請求権の発生原因たる行為が
あった日又は終わった日を基準として地方自治法(以下「法」という。)二四二条
二項の規定を適用すべきである。本件監査請求は、津市が、違法に本件支出をした
ことにより取得したAに対する支出額相当の損害賠償請求権又は不当利得返還請求
権のうち金五〇万円を徴収しないことを怠る事実と構成するものであるから、右実
体法上の請求権の発生原因たる本件支出の終わった日である昭和五九年四月一九日
を基準として右規定を適用すべきである。よって、本件監査請求は住民監査請求提
起期間経過後の不適法なものである。
(2) 仮に、本件監査請求が、Aの弁済提供に対する津市の受領拒絶をもって怠
る事実であると構成するものであるとしても、右も本件支出が違法・無効であるこ
とによって発生した実体法上の請求権の不行使の一態様に外ならないから、右
(1)と同様、住民監査請求提起期間経過後の不適法なものである。
2 主位的請求について
右請求は、津市が、違法に本件支出をしたことにより取得したAに対する支出額相
当の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権のうち金五〇万円について、Aから徴
収しないことの違法確認を求めるものであるところ、法二四二条の二第一項三号所
定の違法確認請求の対象たる財産の管理を怠る事実にいう財産には公金支出の変形
物たる債権は含まないものと解するべきであるから不適法である。
3 予備的請求について
右請求が、実体法上の請求権の不行使をもって怠る事実とするものではなく、津市
の積極的な受領拒否をもって独立の行為であるとし、これを違法確認の対象とする
ものであるならば、以下の理由により不適法である。
(1) 右請求は、法二四二条の二第一項三号請求の対象として法定されている公
金の賦課・徴収を怠る事実及び財産の管理を怠る事実以外の行為を対象とするもの
であるから不適法である。
(2) 右請求の対象が、主位的請求の対象である実体法上の請求権の不行使とは
別個独立の行為であるとする以上、訴え変更の書面が裁判所に提出された日を基準
として法二四二条の二第二項を適用すべきところ、本件で原告らから訴え変更の書
面が提出されたのは昭和六三年三月二九日であり、原告らが本件監査結果の通知を
受けてから二年以上経過しているから、右請求は訴え提起期間経過後の不適法なも
のである。
(3) 法二四二条の二第一項三号請求の対象は現に財産の管理等を怠っている事
実であり、過去に職務懈怠行為があったとしても口頭弁論終結時までにその不作為
の違法状態を除去する余地がなくなって単なる過去の事実となったときは右法定の
対象から逸脱することとなって、これを対象とする訴えは不適法となる。右請求
は、市が昭和六〇年五月三〇日にHを通じてAから提供された金五〇万円を受領し
なかったとの過去の事実の違法確認を求めるものであり、かつ、右金員が同日午後
三時過ぎに右HからAに返還されたことにより右受領しないという不作為の違法状
態を除去する余地はなくなったから、これによって不適法となった。
三 請求原因に対する認否
1 請求原因1(1)、(2)の各事実はいずれも認める。
2 同2(2)のうち、昭和五七、五八年度津市一般会計予算における議会費中の
交際費はいずれも金三五〇万円であったことは認める。同(3)のうちB(被告助
役)、E、F及びGが原告ら主張の職にあったこと、別表記載のとおり昭和五七年
度に金四一万六一四三円、同五八年度に金七七万八三九七円が食料費から支出され
たこと(但し別表「58.4.19 光悦 76,974」とある部分の支出日は
昭和五九年四月一九日である。)は認め、Aら五名が別表記載の飲食代金を総務部
所管の食料費から支出することを計画したとの点は否認する。
3 同3(1)の事実は否認する。
4 同4、5の各事実はいずれも否認する。
5 同6の事実は認める。
四 本案前の抗弁に対する反論
1 本件監査請求の適法性について
(1) 本件は、実体法上の請求権の不行使自体ではなく、津市がAから弁済提供
を受けたにもかかわらず受領を拒絶した行為を問題としているものであるから、こ
れについて新たに第三者が権利関係に参入してくる可能性はなく、権利関係を早期
に安定させる必要はないから、怠る事実に係る請求権の発生原因たる行為があった
日又は終わった日を住民監査請求提起期間の制限の基準とすべき必要はない。
(2) 本件では、違法な公金の支出に関与しこれによって利益を得たAが、その
非を認めて損害金の一部の弁償として金五〇万円を提供してきたのに、市がその受
領を拒否したことによって津市の財産管理の懈怠はより違法性の強い法的に別個の
ものに変化したというべきであるから、右受領拒絶のときから住民監査請求提起期
間を算定するべきである。
2 主位的請求について
地方自治法二四二条の二第一項三号所定の違法確認請求の対象たる財産の管理を怠
る事実にいう財産には公金支出の変形物たる損害賠償請求権又は不当利得返還請求
権を含むものと解するべきである。
第三 証拠(省略)
○ 理由
まず、本訴の適否について判断する。
原告らが津市の住民であること、被告市長が昭和六〇年度以降津市長であること、
被告助役が昭和六〇年度以降津市助役であること、Aが昭和五七、八年当時津市議
会議長であったこと、別表記載のとおり公金の支出がなされたこと(但し別表「5
8.4.19 光悦 76,974」とある部分を除く。)は当事者間に争いがな
い。そして右別表の部分については昭和五九年四月一九日までの間に津市において
支出がなされたことが弁論の全趣旨によって認められる。
右争いのない事実等にいずれも成立に争いのない甲第一、三、五号証、第七号証の
一ないし三、第二一号証、乙第一号証の一、第二、三、五号証、第七号証の一、
二、原本の存在及びその戒立に争いのない甲第一一、一七、二四号証、証人Iの証
言により真正に成立したものと認められる甲第一二、一八号証、原告J本人尋問の
結果により原本の存在及びその真正な成立が認められる甲第二三号証の一、証人
A、同K、同Iの各証言、原告J及び被告B各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨
を併せれば、次の事実が認められる。
Iは、昭和五九年当時津市市議会議員であったところ、同年一二月一五日、第四回
津市議会定例会において市当局者に対し昭和五七、五八年度の食糧費が当初予算の
三倍余り支出されていることについて質問し、その結果、本件支出の概要が明らか
となり、Aと被告市長は、同月二二日の本会議において本件支出に不適切な点があ
った等として陳謝し、また、被告市長は当時の関係職員を戒告等の処分に付した。
また、津市議会議員各派幹事会ではAに右支出に係る金員を返還させるという動き
もあった。右経過は、広く新聞報道された。Iは、翌六〇年五月二〇日津市議会副
議長に就任し、その際前任の正副議長よりAが本件支出に係る金員を未だ返還して
いないとの引継ぎを受けたため、同月二五日、同時に議長に就任したHとともにA
に対し右返還を要求し、その際Iは右金員の津市への返還の方法として地方自治法
施行令一五九条の錯誤による戻入として処理することを提案した。これに対し、A
は右金員は個人的に費消したものではないのに、戻入として市の一般会計に入れる
と自分の非を認めることになるのでそれはしたくないとの答えだったが、結局、妥
協案として「議会対策費の名で費消した部分が突出する形になったので、このうち
自己の飲食に用いた相当額について戻入する。」ことで一応了解し、同月三〇日H
に金五〇万円を交付した。そして、同日午後、HとIが被告助役と津市総務部長K
に対し津市において右金五〇万円を受領するよう求めたが、同被告らは誤払い金と
して戻入手続を取ることは困難である等と受け入れに難色を示した。そのため、H
らは、後日右金員の受入方法を検討することとして一旦右金員を持ち帰ってAに返
却した。その後もHらは津市側と右金員の受入方法を協議したが、津市は、結局同
年九月上旬までに誤払い金としての戻入はもちろん寄付金の名目でも受け入れが困
難であり、右金員をAから値接津市へではなくHらを通じて、かつ、会計上の処理
を津市に一任する前提でなければ受け取れないとの見解を示した。Iらが津市に誤
払い金として戻入手続を取ることを求めたのは本件支出が間違いであったことを明
らかにしたいとの趣旨である。
原告Jは、昭和六〇年一一月ころ、当時津市市議会議員であったLから、Aが自分
の飲食分として金五〇万円を津市に提供したが、津市が受取を拒否してそのままに
なっていると聞き、Iからも経過を聴取したうえ、議会において返還するとの約束
をしたのにそれが履行されないならば、市民の立場で解決するべきであると考え
た。そこで、原告Jは、同M、同N及びOとともに同年一二月三日、津市監査委員
に対して、被告市長、元津市議会議長A、元総務部長B(被告助役)、前総務部長
E及び元財政課長Fがした本件支出は、A個人の飲食代金合計金一二三万円を支払
い、また、禁止された科目の流用したものであるため違法・無効であり、そのため
市に損害が生じた等として、同人らに対し損害を填補させるべく適正な措置を取る
ことを求める趣旨の住民監査請求(以下「前の監査請求」という。)をした。しか
し、津市監査委員は、同月二八日、原告らに対し、右請求は住民監査請求期間を経
過しているとの理由で却下する旨の監査結果を通知した。原告らはこれに納得せず
住民訴訟を提起した。他方、原告Jは、Aが津市に金五〇万円を提供し被告らがこ
れを受け取らなかった行為については住民監査請求期間である一年以内の別個の行
為であると考えて、原告M、同N及びOとともに、翌六一年一月三〇日、津市監査
委員に対して、被告らは違法な本件支出に係る公金を回収する職務を有しているの
に、ましてや任意に提供された金員を受け取らず放置することは違法な行為である
から、その是正を求めるとの趣旨の本件監査請求をした。右請求書には「戻入」の
用語が用いられているが、それは地方自治法施行令などにいう会計処理手続上の用
語として用いたものではなく、一般的に津市に返還するとの趣旨で用いたものであ
る。しかし、津市監査委員は、同年三月二五日、原告らに対し、Aが津市に金五〇
万円を提供した事実が認められないとの理由で右請求を棄却する旨の監査結果を通
知した。
原告らはこれに納得せず本件訴訟を提起した。
以上の事実が認められ、証人A、同Kの各証言並びに被告B本人尋問の結果のうち
右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして直ちに信用できず、他に右認定を覆す
に足りる証拠はない。
右認定事実によれば、原告らの本件訴えは右本件監査請求に対する監査委員の監査
結果を前提とするものであることが明らかである。
そして右認定事実によれば、原告らは前の監査請求の時点で、すてにAが津市に対
して金五〇万円を提供したが、津市はこの受入れを拒否していることを知っていた
ことが認められるが、原告らは前の監査請求ではこの事実を主張せず、本件監査請
求のときにはじめてこの事実を主張したものであるところ、前の監査請求も本件監
査請求も、前記認定の別表記載の飲食行為について違法・不当な公金の支出があっ
たとの事実に基づく被告市長、その他の財務会計職員の財務会計上の行為を違法・
不当であるとして、その是正を求めるものであることが明らかであるから、本件監
査請求の事由も昭和五九年四月一九日から一年以内になすべきものであったものと
いうべきである。
原告らは、単なる請求権の不行使と任意に提供された金員の受領拒絶とは違法性の
程度が質的に相違すると主張するが、監査請求の同一性は住民が特定した監査請求
の対象の同一性によって判断すべきものであって、違法性の程度や違法事由の相違
によって左右されるものではないと解すべきである。
したがって、本件監査請求を前提とする本件訴えは不適法として却下を免れないも
のというべきである。
また、前記のとおり、本件監査請求は同一住民が前の監査請求と同一の被告市長そ
の他の財務会計職員の財務会計上の行為について再度の監査請求をなしたものであ
ったのであるから、本来不適法なものであったのである。
したがって、右の理由によっても本件訴えは不適法であるから、その余の点につい
て判断するまでもなく却下を免れない。よって、主文のとおり判決する。

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