弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
一 被告国は、原告Aに対し金一九九万三九八二円及びこれに対する昭和五一年四
月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告国は、原告Bに対し金一八四万四三二八円及びこれに対する昭和五一年四
月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らの被告国に対するその余の請求並びに被告C及び被告Dに対する請求を
棄却する。
四 訴訟費用中、原告らと被告国との間に生じた部分は、これを二分し、その一を
原告らの負担、その余を被告国の負担とし、原告らと被告C及び被告Dとの間に生
じた部分は全部原告らの負担とする。
五 この判決は原告ら勝訴の部分にかぎり仮に執行することができる。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、各自原告Aに対し、金五五一万九九八九円及びこれに対する被告国
は昭和五一年四月九日から、被告Cは同年同月七日から、被告Dは同年同月一〇日
から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、各自原告Bに対し、金五七四万二四一七円及びこれに対する被告
国、同Cは昭和五一年四月二日から、被告Dは同年同月三日から、各支払ずみまで
年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、被告らの負担とする。
4 仮執行宣言(第1、2項につき)
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 担保を条件とする仮執行免脱宣言
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 昭和四四年一一月当時原告A(以下原告Aという。)は福岡中央郵便局第一集
配課、原告B(以下原告Bという。)は同局普通郵便課に各勤務する郵政事務官、
被告C(以下被告Cという。)は熊本郵政監察局福岡支局に勤務する郵政監察官、
被告D(以下被告Dという。)は熊本郵政局人事部管理課に勤務し、かつ福岡中央
郵便局に兼務を命ぜられていた郵政事務官の地位に、それぞれあつた者である。
2 原告両名は、昭和四四年一二月二〇日、福岡警察署(現在は福岡中央警察署)
警察官により、公務執行妨害、傷害の被疑事実で逮捕され、同月二二日福岡地方検
察庁検察官Eにより、公務執行妨害、傷害の訴因で福岡地方裁判所に公判請求をさ
れた。その公訴事実は次のとおりである。(以下本件刑事事件という。)
「被告人ら(本件原告ら)は福岡市<以下略>所在福岡中央郵便局勤務の郵政事務
官(ただし、同Bは昭和四四年一〇月一日より向う三か月間の停職中)で、同Bは
普通郵便課、同Aは第一集配課に各配置されている者であるが、全逓信労働組合所
属の同郵便局員がいわゆる「物だめ闘争」を行なつた際、昭和四四年一一月二六日
午後一時三〇分頃同郵便局二階の第一集配課室西側出入口において、同郵便局の業
務運行の確保、労務管理事務処理等のため熊本郵政局から派遣され、同郵便局兼務
を命ぜられた郵政事務官D(当三三年)ほか四名、同郵便局の業務運行状況の調
査、並びに非違等の調査、処理等にあたつていた熊本郵政監察局福岡支局員郵政監
察官C(当四七年)ほか一名、同郵便局課長代理一名らが同所に警戒線を張つてい
たところ、被告人Bが同課室内に入ろうとしたのに制止されたため、両名共謀のう
え、被告人Bが先になり同Aが同Bの後ろに連なり、両名一団となつて右警戒線に
突入し、右D並びにCに突きあたつて両名を転倒させる暴行を加え、右両名の職務
の執行を妨害するとともに、右暴行によりCに対し全治三日位を要する右手関節部
擦過傷、右下腿打撲の傷害を負わせたものである。」
3 福岡中央郵便局長Fは原告らに対する前記起訴を理由に、原告Aに対しては昭
和四四年一二月二七日付で、原告Bに対しては、昭和四五年一月二日付で、国家公
務員法(以下国公法という。)七九条二号に基づき原告らを休職処分に付し、同日
以降原告らに対し、給与の六〇パーセントを支給する措置をとつた。(以下本件起
訴休職処分という。)
4 前記公判請求を受けた福岡地方裁判所は審理の結果、昭和四九年五月二九日原
告らに対し、公訴事実を認めるに足りる証拠がないとして無罪判決を言い渡した
が、福岡地方検察庁検察官は、同年六月一二日、右判決に対し控訴を申し立てた。
 右無罪判決があつたにもかかわらず、福岡中央郵便局長は原告らに対する本件起
訴休職処分を取り消さないばかりか、検察官が控訴を申し立てたことを理由に、逆
に同年六月一三日付をもつて、原告らに支給する起訴休職給を給与等の三〇パーセ
ントに減額する措置をとつた。
 そして、福岡高等裁判所が昭和五〇年六月一二日右検察官控訴に対し、控訴棄却
の判決を言い渡し、同月二七日をもつて右原告らの無罪が確定してはじめて、右郵
便局長は本件起訴休職処分を取り消し、原告らを復職させた。
5 検察官の公訴提起、公判維持の違法
(一) 検察官が原告らに対し、前記公訴提起を行ない、かつ一、二審を通じてそ
の公判維持を図つた主要な根拠は、被告Cの捜査が階以来の「B、Aがいずれも前
かがみの姿勢で前後につながり、Bを先頭にして両名一団となつて私の腹部に頭突
きを加え、私は二、三歩後退してあおむけに転倒し負傷した」旨の供述、及び被告
Dの同じく捜査段階以来の「BがCの腹部に頭からぶつかり、同人をあおむけに転
倒させ、そのはずみで私もCと一緒に床に転倒した」旨の供述である。
(二) しかし、原告らが、右供述にあるような行為をした事実はなく、右供述は
いずれも虚偽のものであり、現に、前記第一審の福岡地裁の無罪判決は、捜査及び
公判段階における右供述につき、「C及びBの各成傷の部位にかんがみ、またその
間の情況をよく注視していた前記証人Gの供述記載に照らし、いずれも信用するこ
とができない」と判示し、この判断は、前記第二審の福岡高裁判決によつて支持さ
れている。
(三) もともと、被告C、同Dの捜査段階における供述内容は、それ自体一貫性
を欠いているのみならず、検察官が本件公訴提大の時点までに収集しえた証拠に照
らせば、前記供述内容には重大な矛盾不合理が存し、客観的にみて到底信用できな
いものであり、結局前記公訴事実を立証するに足りる証拠は何も存在しなかつたの
である。にもかかわらず、検察官は、組合活動家であつた原告らに対する弾圧的意
図から、客観的にみて到底信用に値しない被告C、同Dらの虚偽の供述に安易に依
拠して、原告らを起訴し、原告らを有罪にすべく第一審の公判維持を行なつたもの
で、この行為は、明らかに公訴権の濫用であり、違法というべきである。
(四) また、第一審において、無罪の判決がなされたのに対し、同判決の事実誤
認を主張すべき根拠は全く存しないのに、検察官はあえて控訴し、控訴審の公判維
持を図つたものであり、これは検察官に付与された公訴権の合理的な裁量範囲を著
しく逸脱して濫用した違法なものというべきである。
6 被告C、同Dの職務執行の違法
 被告C、同Dの前記虚偽の供述は、それぞれ国家公務員たる郵政監察官、郵政事
務官としての職務を行なうにつきなされたものである。
 すなわち、昭和四四年一一月二六日の事件当時、被告Cは、郵政監察官として、
同Dは熊本郵政局人事部管理課の職員として、それぞれ福岡中央郵便局に派遣され
ていたのであるが、その主要な職務内容は、いずれも同局内における職員の非違行
為等の現認、調査並びにそれに対する対策であつて、原告らから暴行を受けた旨の
捜査機関に対する虚偽の申告、供述は、右被告らの職務行為の一環としてなされた
ものであることは明らかである。
7 原告らに対する起訴休職処分の違法
(一) 国家公務員が刑事事件で起訴された場合、国公法七九条二号の起訴による
休職処分を行なうか否かは、任命権者の自由な裁量を許すものではなく、起訴休職
制度の趣旨、目的、起訴にかかる事案の内容、被処分者に与える実際上の不利益等
に照らし、合理的理由が存する場合にはじめて休職に付することが許されると解す
べきである。
 そして、起訴休職処分の具体的運用については、本件起訴休職処分の発令当時、
原告らの所属していた全逓信労働組合と郵政省との間には「休職の取扱に関する協
約」(昭和四三年一二月締結)が存し、また、「職員の休職の取扱いについて」と
題する人事部長通達が発せられており、これによつて起訴休職の実際の運用が行な
われていたところ、同協約二条二項は「起訴にかかる休職は、その事実によりこれ
を行なわないことができる」と規定し、更に同通達によると、同協約において「休
職を行なわないことができる場合とは、当該事案が職務上と否とにかかわらず軽微
であつて、その情が軽いか、あるいは本人が当該事案を否認する等して裁判の結果
を待つ要があり、かつ、いずれも本人を引き続き職務に従事せしめても支障がない
と客観的に認められる場合に限るものとする」「刑事事件に関し起訴された者につ
いてはあらかじめその事案の内容をは握するため、本人及び検察庁その他関係方面
について十分調査検討のうえ、休職を発令するかどうかを決定する」ものとしてい
る。
(二) このように、右協約及びその解釈運用基準としての通達は、起訴休職を行
なうか否かは、事案に応じて客観的に決定されるべきことを明言するとともに、処
分の発令にあたつてはあらかじめ事案の内容を処分者側において独自の立場から十
分調査検討することを義務づけ、特に本人が起訴事実を否認する等して、事案の真
相を知るためには裁判の結果を待つ必要があり、かつ本人を引き続き職務に従事さ
せても支障がない場合には、休職処分を行なわないことができることを明らかにし
ている。
(三) ところで原告らに対する本件起訴休職処分は、もともと郵政省の職員であ
る被告C、同Dが、その職務執行につき、虚偽の被害事実を捜査機関に申告、供述
した結果生じた公訴提起を理由になされたものであり、かつ、右被告両名の職務行
為としてなされた虚偽の事実報告に基づくものであるから、それ自体郵政当局によ
る権限の濫用であることは明らかであつて、この一事をもつてしても、本件起訴休
職処分は違法というべきである。
(四) しかも、原告らは、本件起訴にかかる事実については捜査の段階から一貫
して否認しており、また起訴にかかかる事案の内容は当時の労使関係の内部におい
て生じたトラブルであること、原告らの従事していた職務が郵便取扱い業務という
単純な機械的作業にすぎないこと、起訴後は原告らに対する身柄拘束はなく、公判
廷へれ出頭が原告らの職務専念義務の遂行を困難にさせるとは考えられないこと等
の事情に照らせば、本件起訴がなされたからといつて、原告らを引き続きその職務
に従事させることになんら支障はなかつたものと認められ、この意味においても本
件起訴休職処分は、合理的理由を欠き、違法というべきである。
(五) ことに、前記第一審の無罪判決にもかかわらず、本件起訴休職処分を取り
消さないばかりか、控訴審係属を理由に逆に起訴休職給の支給を従来の六〇パーセ
ントから三〇パーセントに減額した郵政当局の措置は、あまりにも不合理であり、
いかなる意味においても合法性の余地を見出すことはできない。
 すなわち、国公法八〇条二項において起訴休職の期間を「その事件が裁判所に係
属する間とする」と定めているのは、公務員の身分保障の見地から休職の最長期間
を制限した趣旨と解すべきであつて、任命権者が事件係属中に休職処分を取り消す
ことまで禁止をしているものとは到底考えられない。また、起訴休職処分はもとも
と任命権者の権限と責任においてなされるものである以上、一旦処分が発令された
としても、その後の事情変更により休職処分をすべき実質的理由が消滅したり、あ
るいは休職処分をすべき実質的理由がなかつたことが事後に判明した場合、任命権
者がそれを認め、自らの権限と責任において裁判確定前に処分自体を取り消すこと
はなんら差支えなく、これを許されないとする法的根拠は見出し難い。国公法八〇
条二項は、右のような処分の取消しが任命権者によつてなされないかぎり休職は裁
判確定の時まで継続するという意味であつて、任命権者自身による処分取消しの措
置まで制限しているものではない。
 およそ、刑事事件の一審判決において無罪が宣告された場合、たとえ起訴の時点
では休職にすべき合理的理由があつたにせよ、その理由は消滅すると考えるべきで
ある。控訴審においては被告人は原則として出頭義務はなく、職務専念義務との関
係はほとんど問題となりえない。また、起訴されたこと自体によつて生じた当該公
務員の職務執行の公正についての信頼の喪失も、一審の無罪判決によつて十分回復
されたものとみるべきは当然である。検察官の起訴の権威が裁判所の判決の権威よ
り高いなどということは、そもそもあつてはならないことである。一審で無罪判決
のあつた以上、検察官控訴があろうとも、控訴審の事後審としての構造からして、
当該被告人は最終的に無罪となる公算が高いことを確認されたことであつて、有罪
判決による公務員の資格喪失の蓋然性も飛躍的に低くなつたことを意味し、休職処
分を維持すべき合理的理由は消滅すると言つてよい。
 したがつて、一審の無罪判決は、原則として任命権者にとつて休職処分を取り消
すべき事由となり、これに反して任命権者が休職処分を取り消さない行為は、特別
の理由のないかぎり権限の濫用であり違法と評価すべきである。
8 被告国の責任
 前記5の検察官の原告らに対する違法な公訴提起、及び公判維持、6の被告C、
同Dの職務執行についての虚偽の供述、7の郵政当局(具体的には福岡中央郵便局
長)の違法な休職処分の発令とその継続は、それぞれ、被告国の公務員がその職務
の執行につき故意もしくは過失によりなした不法行為であるから、被告国は国家賠
償法一条に基づき、原告らが本件起訴及び起訴休職によつて受けた全損害を賠償す
る責任がある。
9 被告C、同Dの責任
 被告C、同Dの前記捜査機関に対する虚偽の供述及び公判廷における同趣旨の虚
偽の証言は、検察官の違法な公訴提起及び公判維持並びに本件起訴休職処分に決定
的な根拠原因を与えたものであるから、右被告らは、民法七〇九条、同七一九条に
基づき、原告らが本件起訴及び休職処分によつて受けた全損害につき、被告国と連
帯して賠償責任を負うことは明らかである。
10 原告らが本件起訴及び起訴休職によつて受けた損害は多岐にわたるが、とり
あえず左記の損害の賠償を被告らに求める。
(一) 起訴休職による給与等の損失
(原告Aについて)
 本件起訴休職処分がなければ、昭和四四年一二月より昭和五〇年六月までの期間
中原告Aが得られた本俸、調整手当暫定手当、夏季、年末、年度末の各手当の総額
は、金六五七万二一六八円であるところ、本件起訴休職処分により、右期間中の定
期昇給は停止されたうえ、昭和四四年一二月二六日以降昭和四九年六月一二日まで
の間は右本俸及び諸手当の六〇パーセント、同月一三日以降昭和五〇年六月二五日
までの間はその三〇パーセントしか支給されず、前記期間中現実に支払を受けた本
俸及び諸手当の総額は金三〇五万二一七九円であつた。
 したがつて、原告Aは、その差額の金三五一万九九八九円の給与等の得べかりし
利益を喪失したことになる。
(原告Bについて)
 本件起訴休職処分がなければ、昭和四五年一月より昭和五〇年六月までの期間中
原告Bが得られた本俸、調整手当暫定手当、夏季、年末年度末の各手当の総額は、
金六九二万一六〇一円であるところ、本件起訴休職処分により、右期間中の定期昇
給は停止されたうえ、昭和四五年一月二日以降昭和四九年六月一二日までの間は右
本俸及び諸手当の六〇パーセント、同月一三日以降昭和五〇年六月二五日までの間
はその三〇パーセントしか支給されず、前記期間中現実に支払を受けた本俸及び諸
手当の総額は金三一七万九一八四円であつた。
 したがつて、原告Bはその差額の金三七四万二四一七円の給与等の得べかりし利
益を喪失したことになる。
(二) 慰謝料
 原告らは、昭和四四年一二月、全く身に覚えのない嫌疑により、突然、逮捕、起
訴され、以後五年半にもわたり、理不尽にも、被告人の座にしばりつけられたう
え、職場から排除され、賃金についても四〇パーセントから七〇パーセントもカツ
トされるという苛酷な不利益を強いられてきた。その精神的苦痛と屈辱感は、はか
りしれないものがある。
 また、原告らにとつて、無罪、復職をかちとるまでの五年半余りの歳月は、将来
の身分上、生活上の不安をかかえながら、自己の潔白を立証し、刑事被告人という
いわれのない汚名を晴らすことにすべて費されたといつても過言ではなく、その労
苦と犠牲は余りにも大きい。
 更に郵政職員として五年半の勤続の空白は、将来にわたつて有形無形の人事上の
不利益取扱いを免がれない。
 こうした事情を考慮すれば、原告らに対する慰謝料としては少なくとも各金二〇
〇万円を相当とする。
11 結論
 よつて原告らは、損害賠償請求として、被告らに対し、各自、原告Aについて
は、金五五一万九九八九円、原告Bについては、金五七四万二四一七円及びこれら
に対する本訴状送達の日の翌日以降支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅
延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する被告国の認否
1 請求原因1ないし4の事実は、いずれも認める。
2 同5(一)の事実は認める。
 同5(二)の事実は否認する。福岡地方裁判所の判決は、被告Cの捜査段階以来
の「原告Bが頭突きのかつこうでCの腹のあたりに突つこんできた。それでCは
二、三歩よろめいて後退しながら、あおむけに倒れた旨の供述部分」及び被告Dの
公判段階の「同趣旨の供述部分」に対して、「これらは、C及び原告Bの各成傷の
部位にかんがみ、またその間の情況をよく注視していた証人Gの供述に照らし、い
ずれも信用することができない。」と判示したものであり、福岡高等裁判所の判決
もこれを支持したものである。
 同5(三)(四)の主張は争う。
3 同6事実のうち昭和四四年一一月二六日の事件当時、被告Cが郵政監察官とし
て福岡中央郵便局に派遣されていたこと及びその職務内容は同郵便局の業務運行状
況の調査、並びに非違等の調査、処理等であつたことは認めるが、同Dは、熊本郵
政局人事部管理課に勤務し、かつ福岡中央郵便局に兼務を命ぜられていた郵政事務
官として、同郵便局の業務運行の確保、労務管理事務処理等のため派遣されていた
ものである。その余の主張は争う。
4 同7(二)の事実は認める。同7(四)の事実のうち、原告らが捜査の段階か
ら被疑事実を否認していたこと、原告の従事していた職務が郵便取扱い業務である
こと及び起訴後原告らが身柄を拘束されていなかつたことは認めるが、その余の主
張は争う。同7(三)、(五)の主張は争う。
5 同8の主張は争う。
6 同10(一)の事実につき、本件休職処分がなければ休職期間中原告らが得た
であろう俸給、調整手当及び期末手当の推計総額は、原告Aについては金六四九万
九九八七円、原告Bについては金六〇〇万五一五九円であり、休職期間中原告らに
支給した額は、原告Aについて金三一三万九二〇四円、原告Bについて金三一五万
九〇九一円である。同10(二)の主張は争う。
三 請求の原因に対する被告C、同Dの認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実のうち、原告らが、昭和四四年一二月二二日福岡地方検察庁検察官
により、公務執行妨害、傷害の訴因で福岡地方裁判所に公判請求をされたことは認
め、その余は知らない。
3 同3の事実のうち、福岡中央郵便局長が、本件起訴を理由に国公法七九条二号
に基づき原告らを休職処分に付したことは認め、その余は知らない。
4 同4の事実のうち、福岡地方裁判所が昭和四九年五月二九日原告らに対し無罪
の判決を言い渡したこと及び福岡高等裁判所が昭和五〇年六月一二日控訴棄却の判
決を言い渡し、同月二七日原告らの無罪が確定したこと並びに福岡中央郵便局長が
原告らを復職させたことは認め、その余は知らない。
5 同6の事実について、昭和四四年一一月二六日当時被告Cは郵政監察官として
福岡中央郵便局に派遣されていたものであり、被告Cの供述が国家公務員たる郵政
監察官としての職務を行なうにつきなされたものであること及び被告Dが当時熊本
郵政局人事部管理課に勤務し、かつ福岡中央郵便局に兼務を命ぜられていた郵政事
務官の地位にあつて福岡中央郵便局に派遣されていたものであり、被告Dの供述
は、国家公務員たる郵政事務官としての職務を行なうにつきなされたものであるこ
とは認めるが、その余は争う。
6 同9の事実のうち、被告C、同Dが捜査機関に対して虚偽の供述及び公判延に
おいて虚偽の証言をしたことは否認し、その余の主張は争う。
 すなわち、原告の主張が、被告らの虚偽の供述をもつて国の公権力の行使に当る
公務員がその職務を行なうにつき違法に他人に損害を加えたものというのであれ
ば、国家賠償法一条により、原告らは公務員個人である被告らに対し損害賠償を請
求できないことは明らかである。
 仮にそうでないとしても、刑訴上、公訴の提起は、国家訴追主義がとられ(同法
二四七条)、しかもいわゆる起訴便宜主義が採用されている(同法二四八条)こ
と、及び起訴休職処分についても、任命権者が、公判請求がなされたことに基づい
て起訴休職制度の趣旨、目的から休職処分に付するのが相当と判断してなされるも
のであるから、被告らの捜査機関等に対する供述と本件公訴及び起訴休職処分によ
る原告らの損害との間には相当因果関係がない。
7 同10の主張は争う。
第三 証拠(省略)
       理   由
第一 はじめに
 請求原因1ないし4の各事実のうち、原告ら及び被告C、同Dが昭和四四年一一
月当時原告ら主張の各地位にあつたこと、原告ら主張のとおり本件刑事事件が起訴
され、第一審、控訴審とも無罪判決が言い渡され確定したこと及び原告らに対し本
件起訴休職処分の措置がとられ、右無罪判決が確定した後に取り消されたことは、
当事者間に争いがない。
 原告らは、(一)、検察官が本件刑事事件の公訴を提起し、これを追行したこ
と、及び第一審で無罪判決が言い渡されたにもかかわらず控訴したこと、(二)、
福岡中央郵便局長が本件起訴休職処分の措置をとつたこと、また第一審で無罪判決
が言い渡された後も本件起訴休職処分を継続したこと、(三)、被告C、同Dが虚
偽の被害事実を捜査機関に供述しかつ公判廷において同趣旨の証言をしたことは、
いずれも故意もしくは過失による違法な行為であると主張し、被告国に対しては国
家賠償法に基づき、また被告C、同Dに対しては不法行為に基づき、それぞれ、原
告らが本件起訴並びに起訴休職処分によつて被つた損害の賠償を求めているので、
以下順次検討を加える。
 なお、書証の成立につきすべて争いがないことは前記証拠欄記載のとおりである
から、理由中では書証番号のみを掲記することとする。
第二 公訴の提起、その追行について
一 本件刑事事件の経過
 前記当事者間に争いない事実、甲第五号証、第八号証、第二五号証の三、四、第
三四号証の三、第三六号証の三、第四三号証の三、第四七号証の三、第四九号証の
三、第五一号証の三、第五二号証の三、第五四号証の三、第五六号証の二、第六〇
号証の三、第六一号証の三、四、第八二号証の三、第八七号証の一、二、第九九号
証の三ないし七、第一〇三号証、第一〇四号証、乙第一一ないし三六号証、第七七
ないし第八〇号証に弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められ、右認定を左
右するに足りる証拠はない。
 福岡中央郵便局全逓信労働組合(全逓労福岡中央支部)は、当局側との労働基準
法三六条による超勤協定(いわゆる三六協定)が昭和四四年一一月一五日の経過に
より失効し、全逓労中央本部から、年末闘争の内容としての勤務時間短縮、合理化
反対などの諸要求の実現をはかるため再協定を結ぶな、との指令もあつて、同月一
六日から遵法闘争の一環としていわゆる物だめ闘争を実施し、その結果同郵便局で
は郵便物が滞留しがちであつた。
 右闘争に対処するため、福岡中央郵便局は、同月二〇日以降当時の熊本郵政局
(現在の九州郵政局)に応援を求め、右郵政局などから管理職者及び非組合員の職
員が数十人派遣され、福岡中央郵便局兼務として、同郵便局の管理職者らとともに
郵便現場職員の指導、集団抗議の制止など職場規律の確立の任務に従事した。右管
理職者らは、郵便業務に従事中の職員の後ろでストツプウオツチなどを用いて職員
の仕事ぶりを管理したり、各課室の出入口に警戒線を張つて勤務者の出入りをチエ
ツクしたり、勤務者以外の者の入室を阻止したりした。また、右出入口などの壁に
は、勤務関係者以外の者の無断入室を禁止する旨の張り紙が貼られてあつた。そし
て、同月二六日ころは、右のように、全逓労福岡中央支部の闘争と、管理職者らの
業務遂行確保、労務管理のための活動により、右郵便局内は騒然とした状態であつ
た。
 右のような状態の中で、同日午後一時三〇分ころ、同郵便局二階の第一集配課西
側入口付近において本件刑事事件(請求の原因2の事実)が発生したとして、福岡
警察署(現在福岡中央警察署)及び福岡地方検察庁は、捜査を開始し、被害者たる
被告C及び同Dをはじめとして、事件当時同人らと一緒に警戒線を張つていた訴外
H、同I、同J、同Gらから事情を聴取し、供述調書を作成するとともに、福岡中
央郵便局庁舎の実況見分を施行する等の捜査活動を行なつた後、同年一二月二〇日
原告ら両名を逮捕し、取り調べ、供述調書を作成したうえ、福岡地方検察庁検察官
は同月二二日福岡地方裁判所に対し、請求原因2に記載のとおりの訴因で公訴を提
起し、同時に職権による勾留を求めたが、同裁判所は職権を発動せず、結局原告ら
は、身柄不拘束の状態で公判に臨むことになつた。
 起訴後、被告人両名(原告ら)は、その所属する労働組合を異にしたため弁論が
分離され、個別に審理されたが、一方で取り調べた証人を他方に対してはその尋問
調書を書証として取り調べる等の方法により、ほぼ同時に併行して審理が進めら
れ、ともに昭和四九年五月二九日無罪の判決が言い渡された。
 第一審の無罪判決に対し、検察官は、同年六月一二日福岡高等裁判所に控訴の申
立てをなし、控訴審においても第一審と同様の審理方法がとられ、第一審で取り調
べられた証拠のほか、新たに検察官の請求により四名の証人尋問がなされたが、福
岡高等裁判所は、昭和五〇年六月一二日控訴棄却の判決を言い渡し、同月二六日の
経過をもつて原告らの無罪が確定した。
二 検察官の起訴及び公訴追行の違法について
1 右に述べたように、原告らに対する本件刑事事件においては、無罪の判決が確
定した。
 しかしながら、一般に刑事事件において無罪の判決が確定したということだけ
で、直ちに公訴の提起、追行が違法となるというべきではない。けだし、公訴の提
起は、検察官が裁判所に対して犯罪の成否、刑罰権の存否につき審判を求める意思
表示にほかならないのであるから、起訴時あるいは公訴追行時における各種証拠資
料を総合勘案して、合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りる
ものと解されるからである(最高裁判所昭和五三年一〇月二〇日判決、民集三二巻
七号一、三六七頁)。
 したがつて、客観的に犯罪の嫌疑が十分であり、有罪判決を期待しうる合理的根
拠があるかぎり、検察官の公訴提起、追行等の行為を違法ということはできず、右
のような合理的な根拠がないにもかかわらずあえて公訴を提起、追行した場合には
じめてこれらの行為が違法の評価を受けるものというべきである。
 そこで、右の見地から本件について検討を加える。
2 検察官が起訴当時有していた証拠資料に基づき、本件刑事事件において証明し
ようとした被告人らの具体的被疑事実は検察官の冒頭陳述書(甲第一八号証の五、
第二九号証の三)第三項によれば次のとおりである。
(1) 被害者等の具体的職務権限
 熊本郵政局から派遣され、福岡中央郵便局兼務を命ぜられたH、J、G、K、D
(被告)の五名及び同局郵便課長代理Iは福岡中央郵便局長の有する庁舎管理権に
基づき、同局長の命により、昭和四四年一一月二六日午前七時三〇分以降、第一集
配課西出入口付近において、当該職務遂行以外の目的をもつて第一集配課に入室し
ようとする者を見張り、入室しようとする者がいた場合には、これに警告を与え、
又は制止し、もつて第一集配課の業務の運行を確保する職務に従事しており、郵政
監察官C(被告)、Lの両名は室内にあつて、第一集配課の業務の運行状況及び非
違等の調査並びに資料収集業務に従事していた。
(2) 犯行状況
 同日午後一時三〇分頃第一集配課に赴いた被告人B(原告)は同所入口において
見張りをしていたJと「通せ通されん」の押し問答をしていた際、第一集配課課員
で、同室内にいた被告人A(原告)が「どけどけ通さんか」と言いながら、室外に
出て被告人Bと何か耳打ちをした後、便所に行き、便所のドア付近から被告人を呼
び寄せ、やがて両名相伴なつて便所に入つたが、間もなく便所から出てきた両名は
右入口付近において、被告人B、同Aの順で、縦一列に並んだが、その際第一集配
課課員で同室内にいたMが、「どけどけ」と言いながら室外に出てきて、同室に対
面して右被告人らの前に立ち、お互いに縦に並び、頭を低く下げて、前者の腰を両
手で抱き、前記J、Hの間隙を縫つて同室内に入ろうとし、これを阻止しようとし
た右Jと暫時もみ合つたが、突然被告人らは方向を変え、被告人Bの入室を阻止し
ようとしていた前記Dの肩に触れるようにして室内に侵入し、同人の左後方で、右
被告人らの違法状態を現認し、写真撮影をしようとしていた郵政監察官Cの腹部に
頭突きを加えて、右C及びDをその場に転倒させ、よつて右Cに対して、加療約三
日間を要する右手関節部擦過傷等の傷害を与えた。
3 一方、検察官が本件起訴当時有していた証拠資料は、少なくとも、実況見分調
書(乙第一一号証)、外科病歴票(乙第一二号証)、L撮影の写真(乙第一四号
証)のほか、N(乙第一四号証)、被告C(乙第一五、一八、二三、二四、三〇号
証)、同D(乙第一六、二五号証)、L(乙第一七、二六号証)、I(乙第一九、
三一号証)、H(乙第二〇、二七号証)、G(乙第二一、二八号証)、J(乙第二
二、二九号証)、原告A(乙第三二、三四、三六号証)、同B(乙第三三、三五)
の司法警察員ないし検察官に対する供述調書が存したことが認められる。
 そして、原告らの右供述調書によれば、原告らは、被疑者段階から一貫して、本
件起訴事実につき、共謀したことも、暴行したことも否認していることが認められ
る。
 これに対し、前掲証拠のうち被害者たる被告D、同Cの各供述調書には、本件公
訴事実どおりの被告人ら(原告ら)の暴行を体験したこと、また被害者らと一緒に
警戒線を張つていたGの供述調書には、右暴行を現認した旨の、更にL、I、H、
Jの各供述調書には、原告Bが警戒線を突破して原告Aと共に第一集配課室内に入
つた直後、被告C、同Dが仰向けに倒れ、原告Bが右倒れた被告Cの上にかぶさる
ようになつているのを現認した旨の、それぞれ相当詳細な記載があり、これらの証
拠によれば、前記冒頭陳述書の「犯行状況」記載のような事実があつたことを認め
るに難くなく、よつて本件公訴事実は、これらの証拠により十分立証しうるものと
考えられる。
 そこで、これらの供述調書の信用性が問題となるが、前記実況見分調書にL、
I、H、Jの各供述調書を総合すると、
 本件刑事事件の現場となつた第一集配課西出入口は、約一・九五メートルの幅し
かなく、そこに約八名の管理職者らによつて警戒線が張られて勤務者以外の者の入
室が阻止され、部外者が入室するのは容易ではなかつたこと、原告Bは当時停職処
分を受けており勤務者ではなかつたが、本件刑事事件発生の直前に右出入口付近に
赴き、管理職者らとの間で「入れろ」、「入れない」等の押し問答をしていたこ
と、そして右押し問答の際、勤務中の原告Aが室内から出て、原告Bに耳打ちを
し、更に出入口付近の便所のドアから原告を手招きして呼び寄せ、ともに便所に入
り、その後両名そろつて同所から出てきて、警戒線の前に原告B、同Aの順で縦一
列に並び、原告B及び同人の腰を両手で抱き後ろに続いていた原告Aが前かがみの
姿勢で室内に入ろうとしたこと、
が各認められ、これに反するような事実を認めうる資料があつたことの証拠はな
い。
 また原告Aの供述調書(乙第三三号証)によれば、同原告は、捜査段階におい
て、共謀及び暴行の故意があつた点については否認しているものの、原告Bと耳打
ちをしたことや自分の胸と原告Bの背中が接触していたかもしれないことの各事実
を認める旨の供述しており、原告Bの供述調書(乙第三三号証)にも耳打ちの事実
を認める旨の記載がある。
4 以上の事実及び本件刑事事件発生当時の福岡中央郵便局の前記一、のような状
況から考えると、被害者たる被告C、同Dの供述は、これを虚構であるとして排斥
することができにくい真実らしさを具備していたものと認めるのが相当で、しかる
ときは、検察官が右の供述に信頼を置き、他の証拠資料との関連を検討して、原告
らに犯罪の嫌疑があり、かつ適切な訴訟活動を行なえば有罪判決をうる高度の蓋然
性があるものと判断して本件刑事事件を起訴し公訴を追行したことには、一応合理
的な根拠があるものというべきで、よつてこれをもつて違法であるということはで
きない。
三 検察官の控訴の違法性について
 原告らは、第一審において無罪判決が言い渡されたのに対し、検察官が、事実誤
認を主張する根拠は全く存しないのにあえて控訴し、控訴審の公判維持を図つたの
は、公訴権の合理的な裁量範囲を著しく逸脱した違法なものである旨主張するので
検討する。
 一般に、検察官は社会秩序維持の第一線に立ち、公訴権行使の任にあたる唯一の
国家機関であるから、その権限の行使は厳正、中立であらねばならないことは当然
であるけれども、裁判所に対する関係においては、公訴権行使の正当性を主張、立
証する当事者の一方(民事的にいえば原告)の立場にあると考えられる。もちろ
ん、検察官は公益の代表者として、同時に相手方たる被告人の人権をも尊重しなが
らその職務を遂行すべきであることはいうまでもないとしても、第一審裁判所の判
断に対し不満があれば不服申立てとして控訴の手続をとることが刑事訴訟法上許さ
れているのであるから、たとえば、公訴提起後有力な反証が発見、提出されたとか
他に真犯人が検挙されたとかいつた、原審の判断が変更される可能性がなく、した
がつて控訴申立ての合理的な根拠を欠くと考えられる場合は別として、単に検察官
が提出した証拠についての価値判断を異にした結果第一審において無罪判決の言渡
しがなされたような場合には、控訴審における判断がすべて原審におけるそれと同
一であるとは限らないのであるから、検察官が既に提出した証拠及び新たに提出す
る証拠について上級裁判所の評価、判断を求めて控訴することは許されて然るべき
であり、仮に控訴審でも無罪の判断が維持されたからといつて、直ちに検察官の控
訴をもつて違法と断ずることはできない。
 本件の場合、判決書(乙第七七、七九号証)の記載によると、第一審裁判所は、
原告らが前後に連なつて警戒線を突破し第一集配課室内に入つたこと、原告Bが被
告Cの右半身に右肩から突き当たり被告C、同Dが転倒したこと、及び被告Cが負
傷した事実などは認定しているのであつて、ただ、原告Bの行動につき、第一集配
課室内に入ろうとして被告Dに前進をはばまれたので、同人を避けて同人とCとの
間を通り抜けようとしたものの、後から原告Aが原告Bの腰のあたりに両手をあて
がつて続いていたことなどのため行動が思うにまかせず、被告Cを確実に避けるこ
とができないで、同人の右半身に右肩を突き当てたのではないかという疑いをさし
はさむ余地があるとして、結局原告Bの暴行の故意を認めるに足りる十分な証拠が
ないとし、かつ原告Bと同Aの間に管理職者らを突きのけてまで入室を強行しよう
という謀議が成立していたものと推認することも出来ない旨判断して無罪の判決を
言い渡したものである。
 しかしながら、第一審の公判で書証として取り調べられた前掲被告Cの検察官に
対する供述調書(乙第二三、二四号証)及び証人として取り調べられた被告C、同
Dの各供述(甲第四七号証の三、第五四号証の三)には、「Bが頭を下げて、前か
がみのかつこうでCの腹のあたりに突つこんできた。そこでCは、二、三歩よろめ
いて後退しながら仰向けに倒れた。」という趣旨の記載ないし供述があり、また、
証人I(甲第三四号証の三)の供述も、それに副うものである。
 第一審判決は、これらの証拠に対して「C及びBの各成傷部位にかんがみ、また
その間の情況をよく注視していた証人Gの供述に照らし、いずれも信用できな
い。」と判示している。しかし、このGの供述とは、甲第八二号証によれば、要す
るに「Bは体をいくらか前方へかがめていたが、頭は上げたままだつた。そして、
Cの右半身に右肩から突き当たつたようであつた」というものであつて、頭突きの
事実を否定しているにすぎないのである。
 以上によれば、第一審裁判所は、検察官の主張する公訴事実に対し、人違いであ
るとか、そうした事実を認めるに足りる証拠が全く存しないとか判断したわけでは
なく、その事実を認めうる証拠であるところの前記被告Cら及びそれに副う証人ら
の各供述を信用できないものとし、被告人たる原告ら及びそれに副う証人らの供述
を採用したものであつて、第一審裁判所が公訴事実を認めなかつたのはひつきよう
証拠の取捨選択の問題につきるものである。(しかも、右判決の判文に照らすと、
第一審裁判所が原告らを無罪としたのは、訴因の外形的事実の存在を全く否定した
からではなく、むしろ、原告Bと被告Cとの接触の態様にかんがみ、原告らに犯行
の故意ないしその共謀の事実を認めることに疑問がある、と判断した結果であるこ
とは前示のとおりである。)
 そして、第一審で信用できるものとして採用された証人Gの証言は、事件発生後
四年三か月を経たものであり、同人は、事件直後の捜査段階においては、乙第二一
号証及び乙第二八号証によると「Bは、上半身を前かがみにして、頭付近からCの
腹部から下半身にかけて突き当たつた」旨供述していること、また右第一審判決に
おいても、原告Aが第一集配課室内から出てきて、出入口に居た原告Bになにごと
か小声でささやき、更に、付近の便所のところへ同原告を手招きして呼び寄せ、や
がて原告両名が便所から出てきて警戒線の前に原告Bを先にして縦に並んだこと、
その後前示のように原告らが連なつて警戒線を突破し、室内に入つた事実などを各
認定していること等を併せ考えると、証拠ないしそれによつて認定できる事実の評
価の如何によつては、控訴審において異なつた判断がなされる可能性があると期待
しうる状況にあつたものというべきである。
 したがつて、本件において、公訴権行使の職責を負う検察官が第一審判決を不満
として控訴申立てをしたことは、何ら合理的根拠を欠くものとはいえず、公判を遂
行するに当たつての合理的な裁量範囲を逸脱しているとは認められないから、違法
はなく、この点に対する原告らの主張も理由がない。
第三 起訴休職処分について
一 本件起訴休職処分の存在
 前記当事者間に争いのない事実、原告A、同B各本人尋問の結果によると、福岡
中央郵便局長は、本件刑事事件の起訴を理由として、原告Aに対しては昭和四四年
一二月二六日付で、原告Bに対しては昭和四五年一月二日付で、国公法七九条二号
に基づき原告らを休職処分に付し、右同日以降原告らに対し給与の六〇パーセント
を支給する措置をとつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。(以上は被
告国との関係ではすべて争いがない。)
二 本件起訴休職処分の違法性について
1 国公法七九条二号は、起訴休職処分の要件として職員が刑事事件に関し起訴さ
れたことを規定するにとどまる。しかし任命権者は、右要件が存在すれば他に何ら
の制約もなく自由裁量により起訴休職処分をなしうると解すべきでなく、右裁量権
は、後述の起訴休職制度の目的及び効果等に照らし相当な範囲に制約され、この範
囲をこえる処分は違法として取消しを免れないと解すべきである。
2 ところで証人Oの供述によれば、起訴休職処分の具体的運用については、郵政
省と全逓信労働組合(本件起訴休職処分発令当時原告らが所属していた。)との間
には「休職の取扱いに関する協約」(昭和四三年一二月締結-乙六七号証)が存し
ており、また「職員の休職の取扱いについて」と題する郵政大臣官房人事部長通達
(乙第八号証)が発せられ、これらによつて起訴休職の実際の運用が行なわれてい
たものと認められる。
 右協約二条二項は「起訴にかかる休職は、その事案によりこれを行なわないこと
ができる」と規定し、更に通達によると、同協約において「休職を行わないことが
できる場合とは、当該事案が職務上と否とにかかわらず軽微であつて、その情が軽
いか、あるいは本人が当該事案を否認する等して裁判の結果を待つ要があり、か
つ、いずれも本人を引き続き職務に従事せしめても支障がないと客観的に認められ
る場合に限るものとする。」「刑事事件に関し起訴された者についてはあらかじめ
その事案の内容をは握するため、本人及び検察庁その他関係方面について十分調査
検討のうえ、休職を発令するかどうかを決定する」ものとしており、これらにかん
がみても、職員が起訴された場合、休職処分を行なうかどうかが任命権者の自由な
裁量に委ねられているものとは認められず、そこには一定の客観的制約があるもの
と解される。
3 そこで起訴休職制度の趣旨、目的、効果について考察する。国家公務員は、国
民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、かつ、職務の遂行に当たつては
全力を挙げてこれに専念しなければならず(国公法九六条一項)、その勤務時間及
び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、政府がなすべき責めを有
する職務にのみ従事しなければならないし(同法一〇一条一項)、またその官職の
信用を傷つけ、又は官職全体の不名誉となるような行為をしてはならない(同法九
九条)のである。ところで右のような義務の遂行は、職員に対し公訴が提起される
と、次のように妨げられることがある。すなわち、刑訴法上、起訴された者は、有
罪判決が確定するまでは無罪の推定を受けるけれども、起訴された事件に対する有
罪率が著しく高いことは顕著な事実であつて、一般的にみれば、起訴された職員は
相当程度客観性のある公の嫌疑を受けたものとの社会的評価を免れ難い。そのた
め、起訴された職員が引き続き職務を遂行すれば、当該職員の地位、職務内容、公
訴事実の具体的内容、罪名及び罰条の如何等によつては、そのような者が現に職務
に従事していることによつて、職務の遂行、職場秩序・規律の維持に対する支障を
生ずることがあるのみならず、その職務遂行に対する国民一般の信頼をゆるがせ、
ひいて官職全体の信用を失墜させるおそれがある。
また、刑事被告人は、原則として公判期日に出頭する義務を負い(刑訴法二八六
条)、一定の事由があるときは勾留されることもありうる(同法六〇条)ので、そ
のことによつて前記職務専念義務を全うしえず、職務の遂行に対する支障を生ずる
おそれもある。更に、公務員で禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又
は執行を受けることがなくなるまでの者は、公務員の欠格事由に該当して当然失職
することになる(国公法七六条、三八条二号)ので、起訴されて将来失職するかも
しれない不安定な地位にある者を引き続き職務に従事させることが適当でない場合
もありうる。
 起訴休職制度は、以上のような種々の支障を生ずるおそれのある公務員を、その
身分は保有するが、一時的に職務に従事させないこととし(国公法八〇条二項・四
項)、もつて、職務の遂行、職場秩序・規律の維持に対する支障を可及的に排除
し、公務員の職務遂行に対する国民一般の信頼ひいては官職全体の信用を保持する
ことを意図するものである。
 一方、起訴休職処分が、職員の労働条件に関し多大の不利益を与えることも看過
できない。
 すなわち、起訴休職処分を受けると、本件のような郵政事業に従事する者の場
合、「休職者の給与に関する協定」により、原則として、俸給・諸手当のそれぞれ
百分の六〇を受けるにとどまり、昇格昇給についても不利益を被るのみならず、人
事院規則一一ー四「職員の身分保障」三条によれば、職員は休職事由の消滅により
復職しても定員に欠員がなければなお休職にされるのである。しかも職員は休職中
も職員としての身分を保有するから国公法一〇三条、一〇四条により私企業から隔
離されこれから収入を得られない。もし職員が公訴事実を争えばなお詳細な証拠調
を必要とし公判の審理はそれだけ長期化し、休職による不利益は増大する。その結
果職員が無罪の判決を受けても既に失つた給与等は検察官の起訴が故意又は過失に
より違法とされる場合に限り国家賠償法に基づき回復されることがありうるにすぎ
ない。
 したがつて任命権者はこの処分により職員に与える労働条件上の不利益について
も考慮を払わなければならない。
 以上の見地から、本件起訴休職処分の相当性の有無を考察することにする。
4 原告らが、本件処分当時、いずれも福岡中央郵便局に勤務する郵政事務官であ
つたことは、当事者間に争いがなく、原告Aの本人尋問の結果及び弁論の全趣旨に
よると、原告らは、郵便物の集配、分類という単続な機械的作業に従事していた者
であり、裁量の範囲のない職務であつたことが認められる。
 また前述のとおり、原告らは、起訴と同時に勾留の必要性がない旨裁判所により
判断され、直ちに釈放され、身柄不拘束のまま公判に臨んでいること、本件のよう
な事案の場合、公判は、せいぜい月に一回程度であることは当裁判所に顕著な事実
であり、そうすると、公判期日が両名にとつて勤務を要する日に指定された場合で
も所定の年次有給休暇をとること(原告Aの本人尋問の結果によれば、年二〇日間
あつたことが認められる。)等によつて、職務専念義務の遂行に何ら支障を来たさ
ないことが可能であつたことが各認められる。
 加えて、原告らは、被疑者段階から一貫して本件公訴事実を否認しており、この
ような場合、検察官が提出する証拠としての供述調書群を被告人、弁護側がすべて
同意するとはとうてい考えられず、そうすると結局多数の証人調を要し、裁判が長
期化する傾向があることも裁判所に顕著な事実であり、したがつて休職処分をすれ
ば、それが長びくことが当然予想される。
 以上の事実からすれば、本件起訴休職処分をなす必要性は少なかつたのではない
かと一応はいいうる。
5 しかしながら、原告らはなるほど勾留はされていなかつたものの、公判期日に
出頭する義務を負うほか、訴訟の準備や証拠の収集の必要があり、また公判中に職
権により勾留される可能性が全くないとはいいきれない等の事情を併せ考えると、
職務専念義務に影響がないということはできない。
 また、本件刑事事件は、乙第三号証の一、二によると、当時新聞等により一般に
報道、公表されたことが認められ、前記本件刑事事件の経過において述べたよう
に、当時原告ら所属の組合が行なつていたいわゆる物だめ闘争による郵便物の遅配
と併せて、世間の耳目を引いたことは、明らかである。
 そして、本件公訴事実は、職場内において警戒線を張つていた上司に対し、暴行
を加え、傷害を与えたというものであつて、仮にそれが真実とするならば、国民一
般の強い非難に値する内容のものであり、原告らがこのような刑事事件で起訴され
たということは、原告らに信用失墜行為があつたという疑惑を世人に生じさせるよ
うなものであつたといわざるをえない。
 したがつて、公務又は官職に対する対外的信用の保持という観点から見れば、原
告らの就業を停止することもやむをえなかつたものと考えられる。
 また、本件刑事事件は、原告らの職場内で多数の職員が職務に従事している面前
で発生したものであり、その内容としては、停職中でその直前にもこれを理由に入
室を制止された原告Bが、現に勤務中の原告Aと共謀のうえ、二人で一列になつて
入室を強行し、結果として被告Cに衝突し、同人らを転倒負傷させたというもので
あつて、仮にそれが真実だとすれば、職場の秩序や規律を乱し、業務の運営に多大
な障害になることは、いうまでもない。そしてこのような行為をしたということで
起訴された原告らが、依然として職場に留まることは、他の職員の勤労意欲、作業
能率の低下を来たし、職場の秩序が混乱するだろうことは当然予想されるところで
ある。
 以上によれば、職務の遂行、職場の秩序維持、国民の信頼への影響のいずれの点
からみても、起訴当時における本件起訴休職処分は、十分な合理性、必要性がある
ものというべきであり、前記のような原告らに有利な事情を考慮しても、本件起訴
休職処分は、まことにやむをえないものというほかはなく、裁量権の範囲を逸脱し
ているということはできない。
 よつて、本件起訴休職処分を違法とする原告らの主張は失当である。
三 本件起訴休職処分を継続した違法について
1 福岡地方裁判所が昭和四九年五月二九日原告らに対し本件刑事事件につき無罪
の判決を言い渡したが検察官が控訴したこと、及び福岡高等裁判所が昭和五〇年六
月一二日右事件につき控訴棄却の判決を言い渡し、同月二六日の経過をもつて原告
らの無罪が確定したことは前示のとおりである。
 そして、原告A、同Bの各本人尋問の結果によると、右第一審無罪判決言い渡し
後も福岡中央郵便局長は、検察官が控訴したという理由で本件起訴休職処分を継続
し、昭和四九年六月一三日付で原告らに支給する起訴休職給を給与等の三〇パーセ
ントに減額する措置をとつたこと及び右控訴棄却の判決により原告らの無罪が確定
した昭和五〇年六月二七日に本件起訴休職処分を取り消し、原告らを復職させたこ
とが認められる。(以上は被告国との関係では争いがない。)
2 証人Oの供述及び弁論の全趣旨によれば、右のような措置をとつたのは、前記
通達(乙第八号証)の六条二項但書の「ただし本人が控訴しまたは控訴された場合
は、移審の効果を生じた日以降判決確定の日まで、所定給与種目のそれぞれ百分の
三〇を支給する。」という文言を根拠にしたものと認められる。(なお、国公法八
〇条二項は起訴休職の期間を「その事件が裁判所に係属する間とする。」と定めて
いる。)
3 しかしながら、前述のように、そもそも起訴休職処分は、公務員たる職員が、
起訴された時は当然になされるものというべきでなく、任命権者において、諸事情
を検討して相当であると認めたときに処分すべきものと解され、したがつて、一た
ん起訴休職処分がなされたとしても、その後の事情変更により休職処分をなすべき
実質的理由が消滅したり、あるいは休職処分をなすべき実質的理由がなかつたこと
が事後に判明したような場合には、当該刑事裁判がなお係属中であつても、任命権
者において速やかに処分の取消しをなすべきであると解するのが相当である。
(右に述べた国公法八〇条二項の規定は、休職処分の取消しがなされない限りは、
裁判確定の日まで継続するという趣旨と解すべきである。)
4 右の見地から、本件起訴休職処分の継続について検討する。
 まず、職務専念義務の観点からみると、原告らは、最初から勾留されていないこ
とは、前述のとおりであるが、加えて控訴審においては、被告人は原則として公判
期日に出頭する義務がない(刑訴法三九〇条)のであるから、この点において、起
訴休職処分を維持すべき必要性は一層低下したものと認められる。
 次に対外的な信頼への影響という観点からみるに、なるほど刑事事件で起訴され
た者の有罪率がきわめて高く、起訴されたということだけで、一般国民の信頼を低
下させることが多いことは前述のとおりである。しかしながら、第一審において無
罪の判決がなされた場合には、被告人の無罪の推定は、飛躍的に増加するものとい
える。(刑訴法三四五条によれば、無罪判決が言渡されれば、確定しなくても勾留
状は、その効力を失うことになる。)
 そして、無罪の判決が一たびなされるとたとえそれが確定したものでないとして
も、国民一般としては、むしろ被疑事実がなかつたと考えるのが通常であつて、右
にいう信頼も大幅に回復されたものと認むべきである。
 また、職場の規律、秩序の維持という観点からみても、右に述べたように無罪の
推定が強くなつた以上、これを、職務に従事させても職場の規律、秩序が乱される
おそれは少ないものというべく、かえつて、特別の事情のない限りむしろ積極的に
職場に復帰させて他の職員らとの一日も早い融和をはかることが望ましいと考えら
れる。
 以上のどの観点からみても第一審において無罪の判決を言い渡されたという事情
は、起訴休職処分を継続する合理的理由を著しく減少せしめる要因となると認めら
れる。
 そして、原告らの職務内容や、原告らが第一審判決がなされるまで既に四年半も
の長期間本件休職処分を受けていた点をも併せ考えると、福岡中央郵便局長が、第
一審の無罪判決言渡し後も本件休職処分を継続したことは、本件事案が職場内にお
ける暴力事件である点を考慮してもなおその裁量権の客観的範囲を逸脱した違法な
ものといわざるをえない。
 それゆえ、任命権者たる福岡中央郵便局長は、第一審判決の言渡し日である昭和
四九年五月二九日付で本件起訴休職処分を取り消(徹回)し、原告らを復職させる
べきであつたのに、これを取り消さず維持継続した点に違法があると認められると
ころ、右行為が国の公務員による公権力の行使としてなされたものであることは弁
論の全趣旨により明らかであり、かつ同局長には少なくとも過失があるというべき
だから、被告国は、国家賠償法一条に基づき、これによつて生じた損害を賠償する
義務がある。
第四 被告C、同Dの行為について
 原告らが主張するように、被告C及び同Dの捜査機関等に対する供述等が、検察
官の起訴及び公訴維持並びに郵政当局の本件起訴休職処分の発令に対し、一個の資
料となつたことは、推認するに難くないところである。
 しかしながら、我国の刑事訴訟法上、公訴提起は検察官がこれを行なうという国
家訴追主義が採られている(同法二四七条)ばかりでなく、犯罪の嫌疑が十分であ
れば必ず公訴が提起されるというものではなく、「犯人の性格、年齢及び境遇、犯
罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況」等を総合勘案して検察官が起訴相当と判断
した場合に初めて公訴が提起されるという起訴便宜主義が採られている(同法二四
八条)のであり、また起訴休職処分にしても、前示のとおり、公訴提起がなされた
ということのみで直ちにこれが行なわれるものではなく、任命権者が起訴休職制度
の趣旨、目的からみて当該公訴提起を受けた者を休職処分に付すのが相当であるか
否かを判断してなすものであつて、それぞれ検察官又は任命権者に裁量権が認めら
れているのであるから、被告らの右行為と原告らが本件起訴等及び休職処分により
被つたと主張してその賠償を求める本件損害との間には、法律上の相当因果関係が
存しないといわざるをえない。
 よつて、被告C、同Dの捜査官に対する供述及び公判における供述が虚偽であつ
たかどうかなどの点につき検討するまでもなく、右各供述行為を理由とする被告ら
への本訴請求はいずれも失当というべきである。
第五 原告らの損害
 以上のとおりで、結局被告国は、福岡中央郵便局長が本件刑事事件の第一審判決
言渡し後も本件起訴休職処分を取り消さず、これを維持、継続したことにより原告
らが被つた損害を賠償すべきこととなるので、以下右損害額につき検討する。
一 原告らの給与等の損失額について
 原告らは、本件起訴休職処分のために得られなかつた給与等の総額(全休職期間
中のもの)は請求原因10(一)に記載のとおりである旨主張するが、右主張額を
認めるに足りる具体的証拠はない。
 しかしながら、被告国の主張によると(請求原因に対する答弁6)、右損失額は
原告Aにつき金三三六万〇七八三円、同Bにつき金二八四万六〇六八円となること
が計算上明らかで、そうすると、右金額の範囲内では原告らの損失額は当事者間に
争いがないものとみてよいから、右金額を基礎にして考察する。
 前述のように本件起訴休職処分が違法とされるのは第一審判決が言い渡された昭
和四九年五月二九日以降であるから、減給の割合と期間により、右全損失額のう
ち、右同日以降の分を算定することとする。
 原告Aが、昭和四四年一二月二六日に、原告Bが昭和四五年一月二日に本件起訴
休職処分をうけ、以後給与等の六〇パーセントを支給されたこと、昭和四九年六月
一三日検察官が控訴したことを理由として以後給与等の三〇パーセントを支給され
たこと、昭和五〇年六月二七日に右無罪判決が確定したことにより本件起訴休職処
分が取り消されたことは、前示のとおりである。
 したがつて、減額支給のうち、原告Aについては、昭和四四年一二月二六日から
昭和四九年五月二八日までの計一六一五日間(この間の支給率六〇パーセント)は
適法、同月二九日から同年六月一二日までの一五日間(この間の支給率六〇パーセ
ント)及び同月一三日から昭和五〇年六月二六日までの三七九日間(この間の支給
率三〇パーセント)は違法な処分であり、原告Bについては、適法な処分の期間が
原告Aより七日間少ないだけで他は、原告Aと同一である。
 右に述べた期間及び支給率を基礎として計算した、原告らが違法な休職処分の継
続によつて被つた給与等の損失金額は、別紙計算書のとおり、原告Aにつき金九九
万三九八二円、原告Bにつき金八四万四三二八円となる。
二 慰謝料について
 原告らが昭和四九年五月二九日第一審において、無罪の判決を受けたにもかかわ
らず、福岡中央郵便局長が本件起訴休職処分を継続し、同年六月一三日には更に給
与等の支給率が減らされたことは、右に述べたとおりである。
 そして、原告Aの本人尋問の結果によれば、休職処分を受けると俸給が減額され
るばかりでなく退職金の算定等につき不利益になることが認められるほか、将来に
わたり有形、無形の人事上の不利益がありうることは裁判所に顕著な事実である。
したがつて、原告らが本件起訴休職処分の継続により多大の精神的苦痛を被つたこ
とは容易に推認できる。
 そこで右認定のような事情及びその他本件に顕れた諸般の事情を考慮し、当裁判
所は、原告らの精神的苦痛に対する慰謝料として、各自金一〇〇万円をもつて相当
と思料する。
第六 結論
 以上認定説示の次第で、原告らの本訴請求は、被告国に対し、原告Aにつき金一
九九万三九八二円、原告Bにつき金一八四万四三二八円とこれらに対する違法行為
の後である原告Aにつき昭和五一年四月九日から、原告Bにつき同月二日から(い
ずれも訴状送達の日の翌日)支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金
を求める限度において理由があるからこれを認容し、被告国に対するその余の請求
並びに被告C及び被告Dに対する請求は全部失当であるので棄却することとし、訴
訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一
九六条一項を適用して(仮執行免脱宣言の申立てについては相当でないから却下す
る。)、主文のとおり判決する。
別紙計算書(省略)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛