弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役六月に処する。
     この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。
     押収にかかる銃剣一振(千葉地方裁判所昭和三一年領第九七号の一)は
これを没収する。
     原審及び当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人平野利、同安藤国次各作成名義の各控訴趣意書記載の
とおりであるから、これらをここに引用し、これに対して次のとおり判断する。
 平野弁護人の控訴趣意第二点、及び安藤弁護人の控訴趣意第二点について。
 原判決は、その判示一の(1)において認定した被告人の所為が脅迫罪を構成す
るものとして、刑法第二百二十二条第二項を適用しているのであるが、各所論は、
いずれも右原判示一の(1)のように、「お前等が嘘つぽ語れば、手前の家のおや
じを、一〇日でも二〇日でも豚箱に入れてやる」旨申し向けたとしても、被告人に
は、他人を豚箱に入れる(留置する)権限がないのであつて、脅迫罪を構成しない
ものであるから、原判決は、この点について法令の解釈、適用を誤つたものであ
り、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかである旨主張す<要旨>るにより、案
ずるに、刑法第二百二十二条の脅迫罪は、同条に列記してある法益に対して一般に
人を畏怖させるに足る害悪を加うべきことを不法に告知することによつて成
立する犯罪であるが、その害悪は、告知者みずから直接に加え得るものでなくと
も、第三者をして害悪を加えさせることができる場合にも同罪は成立するものであ
つて、この場合には告知者が何らかの方法をもつて害悪の発生に影響を与え得る立
場にあることを相手方に知らせる必要はあるが、しかし、ただ相手方にそう感じさ
せるように告知すれば足りるのであつて、真実そのような立場にあることや、その
害悪の実現が可能であることは、必ずしもこれを要しないものと解すべきところ、
これを本件についてみるに、被告人が古物商であつて、みずから直接他人たる原判
示Aを留置する権限を有しないことは、所論のとおりであるけれども、右被告人と
いえども、告訴、告発等の手段を用い、捜査官憲の手によつて他人の身柄を拘束さ
せることの可能な場合もあり得ないわけではないのであつて直接他人の身柄を留置
する権限を有しない一般人が、日常他人に対して、「豚箱に入れてやる。」という
ような文言を申し向ける場合にはおおむね前示のような方法により、捜査官憲の手
によつて他人の身柄を留置させることを意味するのが普通であるように考えられる
から、被告人から原判示のような文言を申し向けられた原判示Bとしては、右の文
言は、簡単ではあるけれども、あるいは、前示のような手段により、官憲の手によ
つて同人の父を留置させてやるとの趣旨に解されないこともないし、又、原判決援
用の関係証拠に徴するときは、右Bは、当時、被告人が平素出入りの所轄警察署刑
事らの歓心を買つていたものと信じていたような状況が窺われる点から考えれば、
被告人の申し向けた前示文言をもつて、平素懇意にしている右刑事らの手によつて
父Aを留置させてやるとの趣旨に受け取れないこともないのであるが、いずれにし
ても、俗に、「豚箱に入れてやる。」という文言が、他人を留置させてやることを
意味し、他人に対してかような文言を申し向けることが、人の身体や自由に対する
害悪の告知であつて、その害悪たるや一般に人の畏怖させるに足るものであること
が明らかであるから、被告人の原判示一の(1)の所為は、前示Bに対して、同人
の親族たる父Aの身体や自由等に対し害を加うべきことを告知したものと認めるの
が相当であるというべく、刑法第二百二十二条第二項の要件を具備するものといわ
なければならない。
 してみれば、原判決がこれに対して同法条を適用したことは正当であつて、原判
決には、この点につき、各所論のような法令の解釈、適用を誤つた違法があるもの
ということはできない。各論旨は、いずれもその理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 中西要一 判事 山田要治 判事 石井謹吾)

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