弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人上山武の控訴の趣意は末尾に添えた書面記載のとおりである。
 控訴趣意第一点(訴訟手続の違背)について
 一、 原審第五回公判期日において証人Aの取調が行われたこと右取調にあたつ
て原審裁判官は訴訟関係人の意見を聞いた上交互尋問の方法にて取調をなす旨決定
し、その直後先ず検察官に同証人を尋問するよう促し検察官の尋問終了後弁護人に
対し反対尋問を促したこと、然るに右A証人は原審第一回公判期日におい<要旨>て
弁護人よりその取調を請求したものであることは本件記録により明白である。従つ
て原審裁判官は刑事訴訟法第三百四条第二項後段に則り先ずA証人の取調を
請求した弁護人より尋問せしめその終了後相手方たる検察官の尋問を促すべきに拘
らず反対に検察官を促して先に尋問せしめその終了後弁護人に反対尋問をなすべき
旨促しているのは多分右証人が弁護人の請求にかかるものであることを失念したた
めと思われ、かかる処置は法律に定める尋問の順序に従わずして証人の取調をした
ものであつて訴訟手続の法令に違反せるものといわねばならない。しかしながら本
件記録によると右の如き尋問方法が行われた際弁護人よりこれに対し異議を述べた
形跡はなく却つて検察官の尋問終了後原審裁判官より反対尋問を促されて弁護人は
裁判官に対し何等尋問する点はないと答えているのであつてかかる点より考えると
弁護人においてはむしろ右の如き尋問方法を容認していたものと認められる。従つ
て右証人尋問手続の違法は弁護人の責問権の抛棄により治癒せられたものというべ
く、今にして右手続の違法を主張することは到底許されない。論旨は理由がない。
 二、 原判決が判示第二の事実認定の証拠として挙示しているBの検察官に対す
る第一回供述調書の内容に伝聞部分の存すること弁護人所論のとおりである。しか
しながら本件記録によると右供述調書は原審第四回公判期日において検察官が証拠
としてその取調を請求したものでその際弁護人においてこれを証拠とすることに同
意しその結果原審においてその証拠調が行われたものである而して弁護人は右供述
調書の記載内容を熟知の上これを証拠とすることに同意したものと認められるから
同供述調書中の所論のような伝聞部分についてもこれを証拠とすることに同意した
ものと認めねばならたい。従つて右供述調書を証拠とすることにつき同意のあつた
以上右伝聞部分を証拠となし得るものといわねばならない。
 右供述調書を証拠として事実認定をした原判決には何等法令違反の違法なく論旨
は理由がない。
 第二点(事実誤認)について
 思うに権利を有するものがその権利を実行する目的で他人に対し恐喝手段を用い
た場合このような方法でその権利を実行することが社会観念上被害者において認容
すべきものと一般に認められる程度のものであれば権利の行使として違法性が阻却
せられ恐喝罪の成立なきものというべきであるが、その程度を超ゆるときはその行
為は権利の行使たる性質を喪い恐喝罪を構成するものといわねばならない。本件に
つき見るに原判決引用の証拠により認められる被告人の判示第一の各所為はそれが
たとえ債権者Aの代理人としてその債権を行使するためになされたものであつたと
しても社会観念上被害者において認むべきものと一般に認められる程度を超したも
のというべきであるから恐喝罪を構成するものといわねばならない。従つて原判決
が被告人の所為を恐喝罪にあたるものと認定したのは相当であつて何等事実誤認の
違法はない。論旨は理由がない。
 第三点(量刑不当)について (省略)
 よつて刑事訴訟法第四百九十六条により主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 伏見正保 判事 大賀遼作 判事 小竹正)

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