弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人大西英敏の上告理由について
 保険契約において、保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と
指定した場合は、特段の事情のない限り、右指定には、相続人が保険金を受け取る
べき権利の割合を相続分の割合によるとする旨の指定も含まれているものと解する
のが相当である。けだし、保険金受取人を単に「相続人」と指定する趣旨は、保険
事故発生時までに被保険者の相続人となるべき者に変動が生ずる場合にも、保険金
受取人の変更手続をすることなく、保険事故発生時において相続人である者を保険
金受取人と定めることにあるとともに、右指定には相続人に対してその相続分の割
合により保険金を取得させる趣旨も含まれているものと解するのが、保険契約者の
通常の意思に合致し、かつ、合理的であると考えられるからである。したがって、
保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合に、数人
の相続人がいるときは、特段の事情のない限り、民法四二七条にいう「別段ノ意思
表示」である相続分の割合によって権利を有するという指定があったものと解すべ
きであるから、各保険金受取人の有する権利の割合は、相続分の割合になるものと
いうべきである。
 これを本件についてみると、原審の確定した事実は、次のとおりである。(1) 
上告人の妻であるDは昭和六一年七月一日被上告人との間で、被保険者をD、事故
による死亡保険金を一〇〇〇万円、保険期間を五年とするなどの内容の積立女性保
険契約(以下「本件契約」という。)を締結したところ、Dは昭和六三年九月二八
日事故により死亡した。(2) 本件契約の申込書の死亡保険金受取人欄に受取人の
記入はされていなかったが、同欄には「相続人となる場合は記入不要です」との注
記がされており、また、本件契約の保険証券の死亡保険金受取人欄には、「法定相
続人」と記載されている。(3) Dの相続人は配偶者である上告人及び兄弟姉妹(
代襲相続人を含む。)の一〇名であり、上告人の法定相続分は四分の三である。
 右事実関係によれば、本件契約の申込書の死亡保険金受取人欄に受取人の記載は
されていなかったが、同欄には前記のような注記がされていたのであるから、Dは
右注記に従って保険金受取人の記載を省略したものと推認するのが経験則上合理的
であり、したがって、Dは本件契約に基づく死亡保険金の受取人を「相続人」と指
定したものというべきである。そうすると、前に説示したところによれば、上告人
は、本件契約に基づく死亡保険金につき、その法定相続分である四分の三の割合に
よる権利を有することとなる。
 原審は、本件契約の申込書の死亡保険金受取人欄に受取人の記載がないことから、
本件契約においては保険金受取人の指定がなかったものとし、仮に右の指定があっ
たと推認されるとしても、保険金の帰属割合についてまでの指定はなかったとし、
本件においては、本件契約に適用される保険約款の定めによってDの法定相続人が
死亡保険金の受取人となり、その割合は民法四二七条により平等の割合になるもの
と判断したが、右認定判断には、経験則違背ないし保険契約者の意思解釈を誤った
違法があるというべきであって、右違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明ら
かである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本件については、
被上告人の抗弁の当否につき更に審理を尽くさせる必要があるから、これを原審に
差し戻すのが相当である。
 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    木   崎   良   平
            裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治

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