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平成17年4月18日宣告 脅迫,逮捕監禁,殺人被告事件
平成15年刑(わ)第4522号,同第4780号,平成16年合(わ)第54号
主文
被告人を懲役16年に処する。
未決勾留日数中400日をその刑に算入する。
理由
(認定事実)
第1 犯行に至る経緯
 1 被告人は,昭和36年に出生し,高校を中退した後,飲食店でアルバイトを
するなどして単身生活をしていたが,23歳のころ恐喝未遂事件を起こして服役
し,27歳のころ強盗致傷事件を起こして服役するに至った。被告人は,服役を終
えた平成5年以降,飲食店,病院等で稼働した後,平成9年ころ,鍵の技術者の育
成を目的とする会社を設立して「鍵の学校」を経営するとともに,同年11月,鍵
関係の業務を行う有限会社I(後に株式会社に組織変更。)を設立して,東京都新
宿区内等に出店するなどしていた。また,被告人は,シリンダー錠の開発・製造・
販売を行う株式会社Jに多額の資金援助を行うなどしていた。被告人は平成12年
に結婚して一女をもうけたが,その後別居していた。
   Aは,一時期自衛隊に所属したことがあったが,本件当時は開錠工具を取り
扱うなどしていた。潜水士と一級小型船舶操縦士の資格を保有している。
   Bは,本件当時,海外で服やバッグなどを買い付けて国内の地方の店で販売
する仕事をしていた。
   Cは,高校を卒業後,いくつかの職を経て,平成2年ころからフリーのルポ
ライター及びカメラマンとして稼働し,雑誌の特集記事を執筆したり,鍵関係の雑
誌を出版するなどしていた。
   Dは,平成2年1月に鍵の販売・修理等の業務を行う有限会社Kを設立し
(その後,K株式会社に組織変更。),イスラエルからシリンダー錠「L錠」を輸
入して販売するなどしていた。
 2 被告人は,平成8年ないし9年ころ,鍵の展示会でDと知り合い,鍵の学校
で「L錠」を取り扱うようになったことから親しく付き合うようになった。しか
し,平成13年3月ころ以降,Dが陰で被告人の悪口を言っているとの話を聞いて
Dと距離を置くようになり,同年8月ころには,これまで被告人が「L錠」をテレ
ビ番組などで宣伝し,売上げが飛躍的に伸びたにもかかわらず何の謝礼もないなど
とDに怒鳴り散らしたことがあった。
   Dは,平成12年ころ,「L錠」に関する取材を受けたことからCと知り合
い,Cが鍵業界に詳しく情報を得られると考え,Cとの付き合いを継続していた。
   また,被告人は,平成13年8月ころ,Cが執筆した鍵関係の本を見て,出
版社を通してCと知り合い,その後,鍵業界に詳しいCと付き合えば仕事上役立つ
だろうと考え,共に酒を飲みに行ったり,資金を援助したりしていた。
 3 平成14年2月上旬ころ,Dは,Cから,D自身が記入した覚えのない取引
先に対するDの評価が記入されたK株式会社の顧客名簿が流出しているとの情報を
得,同年3月ころ,取引先を中傷する内容の当該文書の写しを入手した。Dは,当
該文書が,かつて,Cから被告人のスパイであると聞かされており,当該文書が出
回る直前に退職した元従業員Eの担当先に関して詳しく書かれていたことなどか
ら,E,被告人,被告人と関係のあるCらがその発出の犯人ではないかと疑い,更
に「内部告発」と題するDらを中傷する文書が出回ったことから,調査会社に犯人
を突き止めるよう依頼し,K株式会社の社内や取引先の何人かに対して,「犯人は
被告人だと思う。」などと話したことがあった。すると,被告人がこれを聞きつけ
てDに電話をし,当該
文書発出の犯人は自分ではない旨告げ,以降,被告人はDとの連絡を絶った。同年
8月ころ,Dは,Cから,Eが名簿を持ち出して改ざんし,これが被告人の手に渡
ったなどと聞かされた。
   同年11月ころ,Dは,Cから新たな鍵関連の本の出版につき資金援助の依
頼を受け,引き続きCから情報を得ることを考えてこれに応じたが,その後,Cが
本を書いている様子はうかがわれなかった。
   平成15年1月から2月にかけて,再度Dを中傷する文書がまとめて出回っ
たため,Dは再び調査会社に調査を依頼したが,結局上記文書を発出した犯人に関
する証拠は得られなかった。
 4 ところで,平成14年3月ころ,Cは,Dと株式会社Jの双方から資金援助
を受けて,「Q」と題する鍵に関する雑誌を出版した。その内容は,Dが扱う「L
錠」よりも,株式会社Jが開発したシリンダー錠「M錠」を評価するものとなって
いた。
   同年4月ないし5月ころ,被告人は,Cに株式会社Jの商品を特集する鍵の
パンフレットの作成を依頼し,同年夏ころまでに株式会社Jとともに合計170万
円を支払ったが,Cはその仕事を進めず,被告人がそのことにつきCを難詰する
と,以降,次第にCとの連絡が取れなくなった。このため,被告人はCに逃げられ
たと思い,その行方を捜すことにした。
 5 Bは,平成14年1月ないし2月ころCと知り合い,Cが企画していたファ
ッション雑誌発刊の仕事を手伝うこととなったが,発刊時期の変更が相次いだこと
から,同年8月末ころには手を引くことに決めた。同年9月,Bは,雑誌発刊の仕
事で立て替えた経費約19万円をCから回収するため,同雑誌の広告代金として1
50万円を渡して使い込まれていたFらと共にC宅を訪れ,Cに念書と借用書を作
成させたが,返済は実行されなかった。
 6 被告人は,平成14年秋ころ,以前Cの紹介で顔見知りとなっていたBに連
絡をして,当時連絡が取れなくなっていたCを共に捜すことで合意した。同年11
月ころ,被告人とB,Fらは,Cの行きつけであったスナック「N」で待ち伏せを
してCを捕らえ,C宅において,Cに対し,被告人は依頼した仕事をするよう強く
言い,Fは毎月10万円ずつの返済を求め,Cにこれらを約束させた。
   Fは,翌12月以降,Cから約束通り返済を受けていたが,被告人は,平成
15年1月ないし2月(以下,特に断りのない場合には平成15年を指す。)以
降,再びCと連絡が取れなくなったことに加え,被告人とBに対して,頻繁にいた
ずら電話がかかってくるなどしたことから,被告人らは,Cが約束を守らないまま
嫌がらせをしてきたと立腹し,3月ころから,本格的にCを捜すようになり,C宅
に石を投げ入れたり,玄関ドアに張り紙をしたりするようになった。
   被告人らは,Cの原稿執筆料から金員を回収することを考え,6月上旬こ
ろ,Bが他の債権者を伴って,Cが原稿を執筆している出版社に行ったものの,担
当者から,執筆者以外の者に報酬を支払うことはしない旨告げられた。このころ,
被告人は,Cが雑誌「R7月号」に,鍵業界関係者には被告人を指していることが
すぐに分かる表現や仮名を用いて,被告人が依頼を受けて規制薬物や銃を復しゅう
相手の家に置いてきて警察に通報する等の復しゅう請負人を生業としている人物で
あるとして,被告人を中傷する文章を執筆掲載していることを知り,日々かかって
くるいたずら電話に対する腹立ちと併せ,Cに対する不満,怒り,うっとうしさを
うっ積させていき,Bとの間で,Cをら致してしまおうなどという話をしていた。
なお,被告人は,この
ころ,知人を通じて偶然Cの引っ越し先が東京都豊島区内のマンションOであるこ
とを知るに至った。
 7 7月下旬ころ,被告人は,知人を介してAと知り合った。Aは被告人に対
し,潜水士と一級小型船舶操縦士の資格を持っていて,傭兵経験がありナイフが好
きであるなどと語り,鍵業界のことも知っていたため,被告人はAに興味を持ち,
毎晩のようにAを連れて飲み歩くなど親しく付き合うようになった。Aも,被告人
の人柄にほれ込んで,次第に被告人の力になりたいと思うようになっていった。
   8月上旬ころ,被告人がAに対し,Cに怒りを募らせていることを語ると,
Aは,以前自分もCから高圧的に取材を申し込まれた上,「Q」の中で詐欺師扱い
されたことがあったことから,Cをら致するという被告人の考えにつき被告人と意
気投合した。さらにこのころ,被告人は,Cが執筆した書籍「S」の中に,鍵業界
関係者には被告人を指していることがすぐに分かる身上経歴の男性が,前科のある銃
を他人の家などに入れておいて警察に通報して他人を社会的に抹殺できる旨語った
などと,被告人を中傷する内容の文章が書かれていることを知り,自己の社会的信
用が失われてしまうとの危機感を覚えるとともに,このような本を書いたCに対し
て,強い怒りと憎しみの感情を抱くようになった。そして,被告人がこのことをA
に言うと,Aは,
「会長,やっちまいましょう。ぶちのめしましょう。」などと威勢のいいことを言
ったため,被告人は,次第にCをら致して痛めつける計画を,本気で実行する気持
ちになっていった。
   8月下旬ころ,被告人は,BとAを引き合わせ,被告人ら3人で,Cをら致
して監禁し,暴行することを計画し,スナック「N」の前でCをら致することにし
た。9月2日ころ,Bが同店従業員からCが9月5日に来店するとの情報を得たた
め,被告人ら3人は,9月5日にCを同店の近くでら致することを決めた。そし
て,被告人は,同日ころまでに,Cを株式会社Iの倉庫として使用されていた東京
都新宿区内のマンションPに監禁することにした。
 8 9月5日午後8時過ぎころ,Bがスナック「N」にCが入店したことを確認
し,その後,同店前に到着した被告人の指示でBがレンタカー(ワンボックスカ
ー)を借り,Aも,同日午後10時30分ころに手錠,プッシュダガーナイフ,ス
ラッパーなどを持参して被告人らと合流してCを待ち伏せた。しかし,日付が変わ
った9月6日午前零時ころになっても,Cが姿を見せなかったことから,被告人は
同店内に入り,Cらしき人物を確認したものの,Cは被告人がトイレに入った隙に
同店を出て非常階段から逃走した。被告人らは,周囲を捜すなどしたがCを発見で
きず,Cが自宅に戻っているかもしれないと考えて,車で向かうことにした。その
車中,被告人は何度か無言電話を受け,4度目の電話を受けてCと会話をした際
に,Cから「捜せるもん
なら捜してみな。地球のどこかにはいるよ。」などと言われ激こうした。
   同日午前1時20分ころ,被告人らはCが居住するマンションOに到着し,
Aが雨どいを伝って3階のCの部屋まで登って開いていた窓からC宅居室内に入
り,玄関ドアを開けて被告人及びBを室内に招き入れた。
第2 罪となるべき事実
 1(平成15年12月19日付け追起訴状記載の公訴事実)
   被告人は,A及びBと共謀の上,平成15年9月6日午前1時35分ころ,
上記マンションO3階311号室C宅において,被告人が中心となって,C(当時
38歳)に対し,その頭部,背部等を手けん及びスラッパーで殴打するなどの暴行
を加えて,同室からCの両腕をつかみ同マンション1階玄関前まで連行し,もって
不法にCを逮捕した上,同日午前1時50分ころ,Cを同マンション玄関前路上に
停車させていた上記普通乗用自動車(ワンボックスカー)の後部座席に押し込んで
同車を発進させて上記前路上まで疾走させ,引き続き,上記マンションP106号
室内にCを連れ込んだ上,同室内において,Cの両手に手錠を掛け,その両手及び
両足をそれぞれロープで縛るなどするとともに終始Cを監視し,さらに,同日午後
10時ころ,Cをそ
の両わきを抱えて同室から連れ出すと,あらかじめBに指示して借り受けさせて同
所前路上に停車させていた普通乗用自動車(ステップワゴン)後部座席に押し込ん
で,同日午後11時ころまでの間,被告人が同車を運転して東京都江東区内の駐車
場まで疾走させ,Cを上記各普通乗用自動車内及び上記マンションP106号室内
から脱出することを不能ならしめ,もって不法にCを監禁した。
 2(平成16年2月6日付け追起訴状記載の公訴事実)
   被告人は,上記のとおりCを上記マンションP106号室に監禁中,Cか
ら,被告人を中傷する文章等を執筆掲載したのはDに頼まれて被告人を鍵業界から
抹殺するための布石であり,更にDから資金援助を受けて被告人の実名を出して中
傷する内容の書籍を出版する予定である旨聞かされて激こうし,上記監禁中も被告
人に対し謝罪しようとする様子を見せないCの反抗的態度から,このままCを解放
すれば,Cが被告人らに逮捕監禁されたことを警察に通報するのではないか,そし
て,Cが被告人を中傷する書籍を執筆して出版することにより被告人の社会的信用
が失墜し,被告人の関与する事業も立ち行かなくなってしまうのではないかと考
え,これらを回避するためにはCを海に沈めて殺害するしかないと決意し,その旨
A及びBに告げて両名の
承諾を得,ここにA及びBとの間でCを殺害する旨の共謀を成立させた上,Aに指
示して船を借り受けさせ,更にBに指示して普通乗用自動車(ステップワゴン)を
借り受けさせると,上記1のとおり,Cを同自動車後部座席に押し込んで上記駐車
場まで同自動車を疾走させた上,被告人及びAにおいて,睡眠薬を飲まされたこと
により自力歩行が困難となっていたCを抱え上げ,また,両わきを挟むようにして
運び,Aが借り受けて同所付近に係留中であった小型船舶「T」にCを乗せた上,
Aが操船して同船を海上に進行させ,同月7日午前零時5分ころ,東京都江東区地
先南側海上に停泊中の上記「T」船上において,Cに対し,殺意をもって,Aがそ
の背部をプッシュダガーナイフで多数回突き刺し,よって,そのころ,Cを背部刺
創による左肺損傷に
より死亡させて殺害した。
 3(平成15年12月3日付け起訴状記載の公訴事実)
   被告人は,上記のとおり,Dを中傷する文書を発出した犯人が誰であるかを
めぐるなどしてDと対立状態にあったが,平成15年9月12日にCの死体が発見
されてC殺害の事件が発覚し,D(当時47歳)が同事件に関連して警察から事情
聴取を受けていることを聞き知ると,このままDとの対立状態が続けば,Dが警察
にC殺害の犯人は被告人であるなどと告げるのではないかと考え,Dの口止めをし
たいとの意図から複数回にわたりDに電話をしてこれまでの対立状態を改める趣旨
で和解しようなどと要求したが,Dから明確な返事が得られなかったことから,同
月30日午後9時ころ,東京都新宿区内のアパート敷地内に設置された公衆電話か
ら千葉県成田市内のD宅に在宅中のDの携帯電話に電話をかけて,和解しようなど
と重ねて要求したが
,Dが上記のDを中傷する文書を発出した犯人が誰であるかにこだわったことなど
から激こうし,Dに対し,「人が悪口,陰口言っているのを全部聞いて知ってる。
人間の怖さっていうのを分かってないな。本当に怒ったときはなぁ,俺はもうめち
ゃくちゃ怖いんだよ。D,お前そこにいるんだろう。G,そこにいるんだろ。H,
そこにいるんだろ。5年経とうが10年経とうがなぁ,いつか仕返しできんだよ。
いろんな方法を使って,全員料理してやる。和解するんだったら,きっちり和解し
ろよ。俺がな,口で脅かしてなぁ,大きな声で言っているときに,もうやめとけっ
て言ってんだよ。自分が手を汚さないで金を出せば,お前,いくらでもそんなこと
動いてくれる奴はいっぱいいるんだよ。あんまり悪口,陰口言ってたらなぁ,その
吐いた言葉で命取り
になっちゃうぞ。」などと語気鋭く申し向け,もって,D及びその親族の生命,身体
等に危害を加えかねない旨告知して脅迫した。
(量刑の理由)
 1 本件は,被害者Cがフリーライターとして被告人を中傷する文章を執筆して
雑誌等に掲載したことなどから,自己の社会的信用が失われてしまうとの危機感と
ともに被害者Cに対する強い怒りと憎しみの感情を抱くに至った被告人が,共犯者
2名と共謀の上,被害者Cをその自宅からら致して,マンションや自動車内に監禁
した上(判示第2の1),被害者Cから更に被告人を中傷する書籍を出版予定であ
る旨聞かされたことなどから被害者Cの殺害を決意し,上記共犯者2名と共謀の
上,被害者Cを小型船舶で海上に連れ出し,その背部をナイフで多数回突き刺して
殺害し(判示第2の2),被害者Cの殺害事件が発覚した後,自己と対立状態にあ
った被害者Dが警察から事情聴取を受けていることを聞き知ると,被害者Dが警察
に被告人が被害者C殺
害の犯人であるなどと告げるのではないかと考え,その口止めを意図して,被害者
Dにこれまでの対立状態を改める趣旨で和解しようなどと要求して被害者Dを脅迫
した(判示第2の3)という各事案である。
 2 逮捕監禁,殺人について
  (1) 被告人は,判示認定のとおり,被害者Cが多額の金銭を受領したまま約束
した仕事をせずに連絡を絶ったばかりか,被告人にいたずら電話をするなどの嫌が
らせを継続していると立腹していたところ,さらに,被害者Cが,被告人が依頼を
受けて規制薬物や銃を他人の家に置いてきて警察に通報する等の復しゅう請負人を
生業としているかのような文章等を執筆して雑誌等に掲載したことなどから,自己
の社会的信用が失われてしまうとの危機感とともに被害者Cに対する強い怒りと憎
しみの感情を抱くに至り,被害者Cに対する出費を回収しようとしていたBととも
に被害者Cの所在を捜し回っていたところ,ちょうどそのころ,同じく被害者Cに
不快感を抱いていたAと出会い,Aから被告人をたきつけるような威勢のいいこと
を言われたことも手
伝って,A及びBとともに判示逮捕監禁の犯行を実行するに至ったものである。
 判示認定事実に照らせば,確かに被害者Cは多額の金銭を受領しながら依頼され
た仕事をしないといった金銭的にだらしがないところがあり,また,被害者Cが執
筆掲載した被告人を中傷する文章等の内容も不当なものであったことは否定でき
ず,本件に至る端緒についていえば,被害者Cに落ち度がなかったとはいえない。
さらに,被告人が,約1年間にもわたって被害者Cとの確執が続き,頻繁にかかっ
てくるいたずら電話と被告人を中傷する文章等を雑誌等に掲載されたことによっ
て,心の余裕がなくなり,視野が狭くなっていたなどとその心情を供述するところ
も,およそ理解できないものとまではいえない。
 しかしながら,被告人らも,被害者Cを捕らえるためにその自宅付近をはいかい
し,石を投げ入れたり,張り紙をするなどの嫌がらせ行為を行っていたのであっ
て,被害者Cとの確執の原因の一端は被告人らにもあったといえる。また,被害者
Cは,一連の事件を通じて暴力に訴えるような行為には一度も出ていないのに対
し,被告人は,被害者Cの逮捕監禁を実行し,執拗な暴行に及んだものであり,怒
りにまかせて暴力による復しゅうを図った被告人らの行為は,いかにも粗暴かつ短
絡的との非難を免れない。
 (2) 被告人らは,被害者Cを逮捕監禁するに当たって,被害者Cの動向を探り,
事前に複数回会って謀議をした上,決行日を決めると,被告人があらかじめ監禁す
る場所を用意し,Bにレンタカーを借りさせ,あるいはAにスラッパーなどの道具
を持参させるなどして,3人で被害者Cの入店が確認されたスナック「N」の前に
集合して待ち伏せており,かかる犯行態様をみても,周到に準備された計画的なも
のであることは明らかである。
 また,被告人らは,深夜に被害者C宅に入り込むや,被害者Cを取り囲んでその
頭部等を手けん及びスラッパーで殴打するなどの容赦のない暴行を加えた上,レン
タカーに押し込んで被告人が監禁先として用意したマンションの一室まで連れ去
り,その後,再度被害者Cをレンタカーに押し込んで上記駐車場まで連れ去ってお
り,合計約21時間にもわたって,被害者Cを監視下において監禁し,この間,被
害者Cの両手両足を緊縛したり,睡眠薬を2度飲ませたりしている。被告人は,監
禁中被害者Cは殺されることはないと高をくくり,調子にのった態度であった旨繰
り返し述べているが,突然自宅で暴行を受けて被告人らにら致され,見知らぬマン
ションの一室で上記のような態様で監禁された被害者Cが,強い恐怖と不安を感じ
ていたことは当然であ
り,仮に被害者Cが被告人の述べるとおりの態度であったとしても,被害者Cが被
った肉体的・精神的苦痛が甚大であったことは想像に難くない。
 (3) そして,被告人は,判示の監禁を継続中,被害者Cから更に被告人を中傷す
る書籍を出版予定である旨聞かされて激こうし,上記監禁中も被告人に対し謝罪し
ようとする様子を見せない被害者Cの反抗的態度から,このまま被害者Cを解放す
れば,被害者Cが被告人らに逮捕監禁されたことを警察に通報するのではないか,
そして,被害者Cが被告人を中傷する書籍を執筆して出版することにより被告人の
社会的信用が失墜し,被告人の関与する事業も立ち行かなくなってしまうのではな
いかと考え,これらを回避するために被害者Cの殺害を決意して,判示殺人の犯行
に及んだものである。この点につき被告人は,「前科等のハンディを乗り越えて苦
労して築いた現在の地位を,被害者Cのような人間に卑怯な手段でつぶされたくな
かった。被害者Cの
執念深さから逃れたかった。」などと述べて,当時の心情をそのままに語っている
が,このような事情を考慮しても,なお,逮捕監禁から殺害に至る一連の経緯にか
んがみれば,その犯行動機は,自らの社会的地位を脅かす者を力づくで排除すると
いう,被害者Cに対する怒りの情動に支配された極めて短絡的かつ自己中心的なも
のといわざるを得ない。
 (4) 被告人らは,あからじめ被害者Cの殺害を予定して逮捕監禁行為に及んだも
のではないものの,被害者Cの殺害を決意した後は,被告人の指示により,死体を
遺棄する際に用いる重りや船の用意をしたり,被害者Cを船の係留場所へ搬送する
自動車の用意をしたり,また犯行の発覚を防ぐために,被害者Cの持ち物を処分
し,関係者に被害者Cの携帯電話機から電子メールを送るなどして,自発的な失そ
うを装うなどの工作をしたりしており,判示殺人の犯行についても,判示逮捕監禁
の犯行同様,十分に計画的で,強固な犯行意思に基づくものといえる。また,殺害
方法についてみると,被告人らは,被害者Cを用意した船に乗せ,睡眠薬の影響に
より十分な動作が出来ない状態にある被害者Cに対し,重りをつけて鎖で縛った上
で,その背中をナイフ
で多数回刺して,そのまま海に投げ入れており,この間,被告人らが被害者Cの殺
害をちゅうちょした様子は何ら認められないのであって,その犯行態様は,残虐極
まりなく,非常に冷酷で悪質である。
 (5) 被害者Cは,未だ38歳と若く,その将来は可能性に満ちていた。しかし,
被告人らの行為によって突如として命を奪われ,あらゆる可能性が失われたのであ
るから,生じた結果は二度と取り返しのつかない重大なものであり,被害者Cの無
念さはたとえようもなく大きなものであると推察される。被害者Cの遺族が,「ど
んな理由があっても人を殺していいはずがありません。」,「Cは,いくつになっ
ても,私にとっては,お腹を痛め産んだ大切な子供でした。」,「犯人が憎いで
す。犯人を許すことはできません。」などと,深い悲しみとしゅん厳な処罰感情を
示しているのも,当然である。
 (6) 逮捕監禁,殺人の犯行における被告人の役割についてみると,被告人は,共
犯者であるA及びBに慕われて同人らの面倒を見るなどしており,各犯行の間も,
ほぼ一貫して,同人らに次の手順を具体的に指示するなど,終始主導的な役割を果
たしている。また,被告人が被害者Cの殺害を決意したことにより被害者Cの殺人
の犯行が敢行されるに至ったのであり,被告人の決断こそが,被害者の死という重
大な結果をもたらしたといえる。したがって,被告人は,被害者C殺害の実行行為
こそ担当していないものの,これら一連の犯行において,主犯としての地位にあっ
たことは明らかである。この点において,被告人の責任は,他の共犯者に比しとり
わけ重い。
 3 脅迫について
 判示脅迫の犯行についてみると,被告人は,被害者Dを中傷する文書を発出した
犯人が誰であるかをめぐるなどして被害者Dと対立状態にあったが,被害者Cの死
体が発見されて被害者C殺害の事件が発覚し,被害者Dが同事件に関連して警察か
ら事情聴取を受けていることを聞き知ると,このまま被害者Dとの対立状態が続け
ば,被害者Dが警察に被害者C殺害の犯人は被告人であるなどと告げるのではない
かと考え,その口止めをしたいとの意図から,被害者Dにこれまでの対立状態を改
める趣旨で和解しようなどと要求したものの,思うように事が運ばず,激こうし
て,判示脅迫の犯行に及んだものである。このように,被告人は,自己保身のため
にさらなる犯罪行為を重ねており,その身勝手かつ短絡的な犯行動機に酌量の余地
は全くない。また,被
告人は,同趣旨の電話を数回かけた後に判示脅迫の犯行に至っているほか,被告人
に強く反論したわけでもない被害者Dに対して,一方的に強烈な言葉を向けて同人
を脅しただけでなく,同人の家族にまで危害を及ぼす旨を告げて,強い心理的圧迫
を加えており,その犯行態様は執拗かつ悪質である。被害者Dは,被害者Cの死体
が発見されてほどなく,犯人ではないかと疑っていた被告人から,自己や家族の命
をも脅かすような脅迫電話を受けたのであるから,その恐怖や不安はひときわ強
く,その後防犯装置等を購入して警戒するなど,日々の生活にも多大な影響が生じ
ている。
 4 以上のとおりであり,被告人の刑事責任は重い。
 5 しかしながら,他方,被告人は,逮捕当初からほぼ一貫して事実を供述し,
これにより本件の真相解明に相当程度寄与したと認められること,また,被告人
は,当公判廷においても,自己の心情をそのままに述べて被害者らへの怒りをあら
わにすることもままあるなど自己の立場に偏っており,被害者らの立場にも目を向
けて自己の行為を直視しその責任を自覚することができているとはいいがたいが,
なお被告人なりに反省と後悔の言葉を述べていて,そうした自覚に至る道がふさが
れているわけではないこと,その所有する複数の不動産を売却して,被害者Cの遺
族のために2500万円の示談金を準備し,弁護人を通じて示談の申入れをしてい
ることなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。
 6 そこで,以上の諸事情その他諸般の事情を総合考慮して,被告人に対して
は,主文の刑を科するのが相当であると判断した。
 よって,主文のとおり判決する。
(検察官遠藤伸子公判出席)
(求刑 懲役18年)
平成17年4月18日
東京地方裁判所刑事第7部
裁判長裁判官   小 川 正 持
   裁判官   水 上   周
   裁判官   川 尻 恵理子

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