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平成12年(ネ)第1953号 特許権侵害行為差止等請求事件
原審大阪地裁平成11年(ワ)第13637号
口頭弁論終結日 平成13年3月27日
判決
控訴人・原告    ドーワテック株式会社
控訴人・原告    名果冷蔵加工株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士   牛   田   利   治
同              岩   谷   敏   昭
同              澤       由   美
上記補佐人弁理士       大   西   孝   治
同              大   西   正   夫
被控訴人・被告ラオックスエンジニアリング株式会社
上記訴訟代理人弁護士     八   掛   俊   彦
上記補佐人弁理士       岩   田   享   完
主文
     1 本件控訴をいずれも棄却する。
     2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
         事実及び理由
第1 控訴の趣旨
   原判決を取り消す。
   被控訴人は,原判決添付別紙物件目録記載のバナナ追熟加工自動制御装置を
製造し,譲渡し又は譲渡の申出をしてはならない。
   被控訴人は,控訴人両名に対し,金2億円及びこれに対する平成12年1月
13日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。 
第2 事案の概要
 1 事案の概要は,次に当審主張を付加するほか,原判決別紙「事実及び理由」
の「第2 事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。
   ただし,2頁15行目の「T2」を「T1」と,4頁18行目から5頁2行
目までを「室内温度は加工開始に際して一定温度に設定されるが,予め設定された
果肉温度X2発生予測時刻の一定時間前に果肉温度を計測し,その計測値と予め設
定されたその計測時の果肉温度x2との比較を行い,両者に差があれば,直ちに,
果肉温度X2が予め設定された発生予測時刻に発生するように室温設定値の変更を
行う。その後,果肉温度検出器のセンサーが予め設定した果肉温度設定値X2を検
知すると,直ちにバナナ熟成室の温度設定値が,右センサーがX2を検知した時の
室温設定値よりも低い温度設定値に移行するので,クーラー140が作動してバナ
ナ熟成室10の室温を下げる。そして,一定時間経過後,エチレンガス抜き信号を
出力して排気を開始することによって室内の空気を換気する。」と,9頁13行目
の「に反し」を「の原則に照らし」と改める。
 (控訴人)
  (1) 被告方法の構成の分説
   a コンピュータ運用メニューによってバナナ熟成室10の室温を一定の温
度になるように設定する。
     加熱手段としてのヒーター130又は冷却手段としてのクーラー140
を用いてバナナ熟成室を上記設定温度になるまで加熱又は冷却する。
     一方,制御開始前にバナナ熟成室10の排気方法について,予め時間を
設定しその設定された時間毎に排気を行う方法をとるか,CO2ガス濃度が予め設
定した濃度値を検出したとき排気を行う方法をとるか,を選択しておく。
     バナナをバナナ熟成室10内に搬入した後,バナナ熟成度の進み具合に
より必要があれば,上記により選択した排気方法により,バナナ熟成室10の排気
をする。
   b 果肉温度が予め設定した果肉温度設定値X1に達すると,エチレンガス
ボンベ,減圧弁及び定流量制御箱からなるエチレンガス注入手段150により,エ
チレンガスを一定時間,バナナ成熟室10内に注入する。
   c 前記果肉温度が上昇してバナナの醗酵開始温度に達すると,一定時間室
温を維持し,その後に果肉温度検出器のセンサーが予め設定したバナナの醗酵開始
温度より高い果肉温度設定値X2を検知すると,バナナ熟成室の温度設定値が,上
記センサーがX2を検知した時の室温設定値よりも低い設定値に移行するので,ク
ーラー140が作動してバナナ熟成室10の室温を下げるとともに,エチレンガス
抜き信号を出力して排気を開始することによって室内の空気を換気する(傍線部分
は被控訴人の否認する部分)。
   d 続いて,前記のとおり制御前に予め選択しておいた時間毎の排気を行う
方法又はCO2ガス濃度値の検出毎に排気を行う方法のいずれかの方法により,フ
ァン及び排気用電動弁による排気を行う。
   e 上記のようにしたことを特徴とするバナナ追熟加工自動制御方法。
  (2) 本件発明の構成要件Cと被告方法の構成cとの対比
   ア 本件発明の構成要件C「さらに前記果肉温度が上昇してバナナの醗酵開
始温度T3に達すると,一定時間室温T2を維持した後に加温を停止し室温を低下
させるとともに,室内の空気を換気し,」にいう「醗酵開始温度T3」とは,バナ
ナの追熟過程におけるクライマクテリック・オンセットの状態になった時点に相当
する温度であり,他方,被告方法の果肉温度設定値X2はクライマクテリック・マ
クシマムであるところ,被告方法でも,クライマクテリック・マクシマム(X2)
の前に,必ずクライマクテリック・オンセットの状態(T3)を経由することはい
うまでもなく,クライマクテリック・オンセットの時(果肉温度が室温を超えた
時)からクライマクテリック・マクシマム(X2)に達するまでは,室内温度が一
定に維持されている。したがって,「さらに前記果肉温度が上昇してバナナの醗酵
開始温度T3に達すると,一定時間室温T2を維持し」を充足している。
     被控訴人主張の理想時刻に「やく」が発生するように室内温度設定値を
操作するという温度補正の工程は,本件発明の果肉温度がT3に達した時(クライ
マクテリック・オンセットの時)以前に行われたならば,その後一定時間室温が維
持されるから,構成要件C「さらに前記果肉温度が上昇してバナナの醗酵開始温度
T3に達すると,一定時間室温T2を維持し」を文言上充足する。また,クライマ
クテリック・オンセットの後に温度補正が行われたのであっても,構成要件Cの
「室温を一定時間維持し」の技術的意味が極端な温度変化を行って追熟加工上のバ
ランスを失い「やく」に至ることを阻害することを避ける趣旨であるからして,ま
た,文言としても「一定時間」と表現されていて,「すべての時間」とはいってお
らず,クライマクテリック・オンセットの後の被控訴人がいう温度補正のような例
外的処理をも許さない趣旨ではないから,補正後の室温が一定時間維持されること
に変わりがなく,構成要件Cにおける「一定時間室温T2を維持し」を充足してい
る。乙23ないし乙26(温度を上昇させる補正の場合)においても,乙27ない
し乙32(温度を降下させる補正の場合)においても,室温が補正された後,一定
時間その補正後の室温が維持され,「やく」(X2=クライマクテリック・マクシ
マム)に至っているから,被告方法は構成要件Cを充足している。
     問題の要点は,被告方法が自動制御により本件発明と同一の方法を採用
しているという点にあり,果肉温度の検出時点の如何という点にあるのではない。
本件発明も被告方法も自動制御によりバナナの追熟を行なうものであり,果肉温度
の検出時点が相違していても,結局はすべて同一工程を実現しているのであるか
ら,畢竟,同一の自動制御方法により同一の工程を実行し,同一の効果を得ている
ものであって,侵害が成立する。
   イ また,被告方法は次のような過程を経る(甲10)。
    ① バナナ熟成加工開始 10月10日17時22分
    ② エチレン投入    10月10日23時41分(0日6時間19分
後)
    ③ 「やく」発生理想時刻  加工開始から1日1時間~1日7時間
    ④ 「やく」発生時刻    10月11日18時45分(1日1時間2
3分後)
    ⑤ 「やく」発生時果肉温度設定 22.0℃
    ⑥ 「やく」発生時室温     20.8℃
    ⑦ 「やく」発生直後室温    20.0℃
    ⑧ エチレンガス抜き時間  3時間
    ⑨ エチレンガス抜き時刻  10月11日21時47分(1日4時間2
5分後)
    ⑩ エチレンガス抜き後室温 16℃
     すなわち,被告方法では,エチレン投入後,「やく」発生(④)の段階
で直ちにエチレンガス抜きを行わず,一定時間,エチレンガスを充填したままクラ
イマクテリックライズを継続しており,被告がいう「やく」は,実はクライマクテ
リック・マキシマムではなく,その手前の状態である。そして,室温の測定誤差が
0・5℃程度であって,被告のいう「やく」発生後に室温をわずか0・8℃低下させ
ている(⑥から⑦)だけで,室温低下というに値せず,エチレンガス抜き後に初め
て室温が16℃にされて(⑩)実質的な室温低下が行われているところ,構成要件
Cは「さらに前記果肉温度が上昇してバナナの醗酵開始温度T3に達すると,一定
時間室温T2を維持した後に加温を停止し室温を低下させるとともに,室内の空気
を換気し,」であり,室温低下と室内の換気(エチレンガス抜き)は同時に行われ
るから,構成要件Cの「室温を低下させるとともに,室内の空気を換気し,」にい
う「室温の低下」に該当するのは,⑩の室温16℃への低下であり,⑦の0・8℃
の低下ではない。したがって,被告方法は,「やく」発生時からエチレンガス抜き
時(クライマクテリック・マキシマム時)までの間,一定時間室温が維持されてお
り,「やく」が発生すると直ちに室温を低下させているものではない。
     したがって,構成要件Cを充足している。
  (3) 先使用
    乙21には,単に自動化された追熟加工のシステムの外形が記載されてい
るにすぎず,本件発明の各構成要件の全部が記載されているものではないから,同
号証をもって先使用が立証されるものではない。
 (被控訴人)
  (1) 被告方法の構成の分説
    a,b及びcのうち傍線部分を除く部分並びにd,eは控訴人の主張を認
め,cのうち傍線部分は否認する。
    cの構成は次のとおりである。
    室内温度は加工開始に際して一定温度に設定されるが,予め設定された果
肉温度X2発生予測時刻の一定時間前に果肉温度を計測し,その計測値と予め設定
されたその計測時の果肉温度x2との比較を行い,両者に差があれば,直ちに,果
肉温度X2が予め設定された発生予測時刻に発生するように室温設定値の変更を行
う。
    その後,果肉温度検出器のセンサーが予め設定した果肉温度設定値X2を
検知すると,直ちにバナナ熟成室の温度設定値が,上記センサーがX2を検知した
時の室温設定値よりも低い設定値に移行するので,クーラー140が作動してバナ
ナ熟成室10の室温を下げる。そして,一定時間経過後,エチレンガス抜き信号を
出力して排気を開始することによって室内の空気を換気する(傍線部分は控訴人が
争う部分)。     
  (2) 本件発明の構成要件Cと被告方法の構成cとの対比
   ア 構成要件Cにおけるバナナ熟成室の室温は次のようになる。
    ① 室温をT2と設定し,いったんT2に達すればその温度を維持し,
    ② バナナの果肉温度が上昇してバナナの醗酵開始温度T3に達した後も
一定時間室温を維持し,
    ③ しかる後に加温を停止し室温を低下させる。
     これに対して,被告方法におけるバナナ熟成室の室温は次のようにな
る。
    ① 加工開始に際して一定温度に設定されるが,
    ② 予め設定された果肉温度X2発生予測時刻の一定時間前に果肉温度を
計測し,その計測値と予め設定されたその計測時の果肉温度x2との比較を行い,
両者に差があれば,直ちに,果肉温度X2が予め設定された発生予測時刻に発生す
るように室温設定値の変更を行う。
    ③ その後,果肉温度検出器のセンサーが予め設定した果肉温度設定値X
2を検知すると,直ちにバナナ熟成室の温度設定値が,上記センサーがX2を検知
した時の室温設定値よりも低い設定値に移行するので,クーラー140が作動して
バナナ熟成室10の室温を下げる。
     したがって,本件発明の構成要件Cと被告方法の構成cとは,次の2点
において明らかに相違している。
     本件発明においては室温がいったんT2に達すれば,最終的に室温を下
げて換気する時期まで,その温度をずっと変更せずに維持する。
     他方,被告方法においては,加工開始に際して室温が一定温度に設定さ
れるが,果肉温度がX2となる時刻として予め設定された時刻の一定時間前に果肉
温度を計測して,果肉温度X2が予め設定された発生予測時刻に発生するように室
温を上げるか下げるかして変更する。
     また,本件発明においては,バナナの果肉温度が上昇してバナナの醗酵
開始温度として設定したT3に達した後も,室温の方はさらに一定時間当初の室温
T2を維持し続ける。他方,被告方法においては,バナナの果肉温度が設定値X2
になると直ちに室温を下げる。
     上記のとおり,被告方法は,果肉温度がX2に達する一定時間前に室温
を変更し,また,果肉温度がX2に達した後は直ちに室温を下げるのであるから,
本件発明の構成要件Cの「バナナの醗酵開始」という用語の意味をどのように解し
ようとも,「バナナの醗酵開始温度T3に達すると,一定時間室温T2を維持した
後に加温を停止し室温を低下させる」を充足しない。
     被告装置においては,加工開始前に,加工のための制御パターンを最大
50種類登録することができるようになっている。この50種類の制御パターンに
加工日数,バナナ熟度,加工時期及びブランド番号等の連結情報を対応させて加工
パターンが選択されるので,加工例は千差万別となる。乙22の1及び2の加工例
では室温設定値が21・5℃から16℃まで下げられている。すなわち5・5℃室
温が低下している。0・8度室温が低下している甲10という1実施例の数値をも
って制御方法一般に関する議論の根拠とすることはできない。
   イ 控訴人は,「果肉温度T3=クライマクテリック・オンセット」,「そ
の後室温を維持したまま一定時間経過=クライマクテリック・マキシマム」という
定義をし,この定義の「クライマクテリック・オンセット」及び「クライマクテリ
ック・マキシマム」に被告方法の工程を当て嵌めて本件発明と構成が同じであると
するが,上記各定義自体本件明細書のどこにも記載されていない上,本件発明にお
いてクライマクテリック・オンセットからクライマクテリック・マキシマムに至っ
たバナナをどのような状態でどのように処理するかという点は本件明細書に全く触
れられていない。明細書に記載されているのは「時刻t4において,果肉温度T3
で『やく』が発生する」,「このとき果肉温度TBが最高になる」,「『やく』発
生温度T3はバナナ自体の発熱もあって,室内温度T2よりも若干高温となる」と
いうものである(以上,本件公報6欄20行目ないし29行目)が,これらは,い
ずれも,「果肉温度T3に至った時点」に関するものである。本件発明の明細書第
2図の記載には,控訴人がクライマクテリック・オンセットであるとする「果肉温
度T3の時点」も,クライマクテリック・マキシマムであるとする「それから一定
時間室温T2を維持した後の時点」も,果肉温度の状態はあまり変わらず「室温設
定値T2より若干高め」であることが示されている。しかし,これでは,呼吸の高
まりのピークを意味するクライマクテリック・マキシマムの時点における果肉温度
が,呼吸の高まりの始まりを意味するクライマクテリック・オンセットの時点のそ
れと同じであるということになってしまう。つまり,「クライマクテリック・オン
セット」というバナナの追熟加工における説明的概念が,控訴人によって,「果肉
温度T3」=「クライマクテリック・オンセット」という操作を経て,本件発明の
構成要件でないにもかかわらず「クライマクテリック・オンセットの後一定時間室
温設定値T2を維持する」という形で構成要件化している。
     また,控訴人は,「果肉温度が室温設定値を越えたとき」=「クライマ
クテリック・オンセット」であるとしながらも,被告方法が室温設定値を越えてい
ないにもかかわらず,変更前の室温設定値と対比してそれより高温になったのだか
らクライマクテリック・オンセットになったとするが,果肉温度が室温設定値を越
えない被告方法ではクライマクテリック・オンセットに至らず,したがってクライ
マクテリック・マキシマムにも至らないことになってしまい,一般に認められるバ
ナナの熟成加工工程に矛盾する。この矛盾が生じる原因は「果肉温度が室温設定値
を越えたとき=クライマクテリック・オンセット」という定義をしたところにあ
り,そのような定義があらゆるバナナの熟成加工工程に通用する普遍的な定義でな
いということを示す。
     本件発明において,果肉温度T3は,室温設定値T2より高温であると
され,また,室温設定値を越えなければならないとされている。しかし,被告方法
においては,果肉温度は,必ず室温より高くなるようには設定されていないし,ま
た,「果肉温度X2が予め設定された発生予測時刻(理想時刻)に発生するように
室温を上げるか下げるかして変更する」操作が,本件発明におけるT3に該当する
時点の前に行われるようになっているものでもなく,室温変更前も変更後も,室温
を越えることはない。したがって,本件発明の構成要件を充足しない。
第3 争点に対する判断
 1 争点(1)(被告装置の構成)について
   被告方法の構成の分説のうち,a,b,cのうち「その後,果肉温度検出器
のセンサーが予め設定した果肉温度設定値X2を検知すると,バナナ熟成室の温度
設定値が,上記センサーがX2を検知した時の室温設定値よりも低い設定値に移行
するので,クーラー140が作動してバナナ熟成室10の室温を下げる。エチレン
ガス抜き信号を出力して排気を開始することによって室内の空気を換気する。」と
の部分,d,eは当事者間に争いがなく,cのうちその余の部分(控訴人主張の構
成cのうちの傍線部分)は,これを認めるに足りる証拠がなく,甲20,乙6,2
2ないし32によれば,被控訴人主張の構成(同主張の構成cのうちの傍線部分)
が認められ,かつ,被控訴人主張の構成の「果肉温度設定値X2」とは,「やく」
発生の理想果肉温度であってバナナの生化学反応のピークとなる時点の果肉温度を
意味すると認められる(甲20の1の21頁,11頁,23頁)。
   すなわち,甲10,17ないし19は,控訴人主張の構成に沿うがごときで
もあるが,控訴人の主張「醗酵開始温度」の具体的内容が必ずしも明らかでなく,
控訴人の主張を考慮すると,択一的主張①のクライマクテリック・オンセットの時
点での温度や,②のクライマクテリック・オンセット後クライマクテリック・マキ
シマムまでの間の時点での温度を意味するものと考えられるが,被告方法を明らか
にしていると考えられる甲20に「醗酵開始温度」という用語,概念の具体的内容
の記載がなく,また,択一的主張①のクライマクテリック・オンセットや,②のク
ライマクテリック・オンセット後クライマクテリック・マキシマムまでの間の時点
での温度を意味する記載もないのであり,したがって,また,X2が醗酵開始温度
より高い果肉温度設定値であることを意味する記載もないのであって,前,後記の
とおり,X2は,「やく」発生の理想果肉温度であってバナナの生化学反応のピー
クとなる時点の果肉温度を意味する旨の記載があり,いずれにしても,甲10,1
7ないし19は控訴人主張の構成を認めさせるに足りる証拠とならない。
   そして,被告方法を明らかにしていると考えられる甲20,乙6には被控訴
人主張の構成及びX2が「やく」発生の理想果肉温度であってバナナの生化学反応
のピークとなる時点の果肉温度を意味する旨が明らかに記載されており,実際の稼
働例を示す乙22ないし32にはX2が「やく」発生の理想果肉温度であってバナ
ナの生化学反応のピークとなる時点の果肉温度である被控訴人主張の構成による方
法が行われていることを示す記載があるのであって,前記のとおり認めるのが相当
である。
 2 争点(2)(被告装置は本件発明の実施にのみ使用する物か。)について
  (1) 争点(2)ア
    被告装置は本件発明の構成要件Aの方法の実施にのみ使用する物か。
    被告方法は,前記構成aにあるとおり,「加熱手段としてのヒーター13
0又は冷却手段としてのクーラー140を用いてバナナ熟成室を上記設定温度にな
るまで加熱又は冷却する。一方,制御開始前にバナナ熟成室10の排気方法につい
て,予め時間を設定しその設定された時間毎に排気を行う方法をとるか,CO2ガ
ス濃度が予め設定した濃度値を検出したとき排気を行う方法をとるかを選択してお
く。バナナをバナナ熟成室10内に搬入した後,バナナ熟成度の進み具合により必
要があれば,上記により選択した排気方法により,バナナ熟成室10の排気をす
る。」という方法を取る。
    したがって,被告装置は,バナナ熟成度の進み具合により必要があればバ
ナナ熟成室10の排気をし,必要がなければバナナ熟成室10の排気をしないとす
る被告方法に使用することができるから,バナナ熟成室を加温する前に必ず換気を
することとされている構成要件Aの方法の実施にのみ使用する物といえず,加熱手
段としてのヒーター130又は冷却手段としてのクーラー140を用いてバナナ熟
成室を上記設定温度になるまで加熱又は冷却する被告方法に使用することができる
から,バナナ成熟室を加温することとされている構成要件Aの方法の実施にのみ使
用する物といえない。
    したがって,被告装置は,本件発明の構成要件Aの実施にのみ使用する物
といえない。
  (2) 争点(2)イ 
    被告方法は本件発明の構成要件Cを充足するか(被告装置は本件発明の構
成要件Cの実施にのみ使用する物か。)。
   ア 本件発明の特徴について
     原判決別紙「事実及び理由」の20頁12行目から31頁18行目まで
のとおりであるから,これを引用する。
     ただし,20頁13行目の「後掲各証拠」を「甲12,乙1,2,3の
2,7の2」と,21頁6行目の「甲15」を「乙2」と,8行目の「果肉」を
「果皮」と,9行目の「乙2」を「乙1」と,14行目の「乙2」を「甲12」
と,25頁1行目の「誘導時間」を「誘導期間」と改め,28頁3行目の次に改行
して,「また,バナナの醗酵のための措置開始時期や貯蔵室の換気時期等の決定を
バナナの果肉温度により行うことは,甲15(特開昭和52ー94444号公
報),甲16(特開昭和60ー217859号公報)記載の技術が出願前公知であ
った。甲15(特開昭和52ー94444号公報)は,特許請求の範囲によれば,
『未成熱のバナナを徐々に加温し,バナナの果肉温度が17℃~19℃に達したと
ころで,このバナナを無水エタノール等のアルコール類の水溶液,(例えば,無水エ
タノール換算にてエタノール90%~35%,水10%~65%の比率で混合)に短
時間浸漬し若しくは噴霧処理を施した後,再び熟成加工室内に果肉温度を18℃~
22℃に保って30~48時間密閉放置し果肉の熟成を進行させる。次いで前記熟
成時間の経過後に熟成加工室を全面的に換気し,更に加工室の温度を16℃~22
℃になるよう保ちながら熟成を完了させるバナナの脱渋,熟成方法。』であり,甲
16(特開昭和60ー217859号公報)は,特許請求の範囲によれば,『包装
用箱の蓋を開放し若しくは蓋を施したままの箱詰めされた未成熟のバナナを加工室
内に積み上げた後加工室内に少量の撒水を施して湿度を高めた密閉加工室内におい
て被加工バナナを所定時間加温熟成させ,果肉が一定の温度に達したところで一旦
換気した後前記と同様に撒水によって湿潤させた加工室内の雰囲気中にエタノール
溶液を噴霧してこの加工室内を浮遊する加工液をバナナに順次吸収させながら一定
時間放置することによって脱渋熟成の進行を図り,次いで所定時間経過後の加工室
内温度を調整して室出し時間を所望時期に調整することを特徴とするバナナの脱渋
熟成方法。』である。」を加え,31頁3行目から18行目までを「オ 本件発明
の構成要件Dは,(e)の『換気しながら徐々に降温』に対応するものであるといえ
る。(1)(2)に照らせば,これも,換気をCO2ガス発生量に基づいて行う点を含め
て,公知技術を自動制御に適用したものにすぎないと認められる。」と,更に改行
の上,「(5) まとめ」と,更に改行の上,「以上の検討からすると,本件発明の特
徴は,構成要件Cで『さらに前記果肉温度が上昇してバナナの醗酵開始温度T3に
達すると,一定時間室温T2を維持した後に加温を停止し室温を低下させるととも
に,室内の空気を換気し,』とする構成の方法を採用し,エチレン注入後の室温の
維持と加温停止による室温の低下及び室内空気の換気のタイミングを果肉温度の検
出を基に決定する具体的な自動制御方法を開示した点にあると認めるのが相当であ
る。」と改める。
    【上記加除訂正後のものを含め引用部分を便宜まとめて掲記する。
     (1) 背景技術
       甲12,乙1,2,3の2,7の2によれば,本件発明が対象とす
るバナナの追熟加工については,本件発明の特許出願当時,本件発明の属する技術
の分野における通常の知識を有する者において,以下の事項が知られていたと認め
られる。
      ア バナナの追熟の意義について
        多くの果物や果菜類は,収穫後も成熟を続け,色,テクスチャ,
硬さ,化学成分などに変化を生じる。このような収穫後の成熟現象を追熟という
(乙1)。それらの果実は収穫後に呼吸が急激に増加し,これに伴って果色(果皮
の色)の変化,果肉の変化や芳香の出現などが起こり,可食状態になる。この追熟
に伴う果実の呼吸の変化を,呼吸のクライマクテリック・ライズと呼ぶが,バナナ
はこのクライマクテリック・ライズの現象を持つ代表的な果実の1つである(乙
2)。すなわち,バナナは,呼吸の高まりとともに,果皮は黄味を帯び初め,果肉
は軟化し,また芳香を増す。また果皮の黄化に伴い,果肉の澱粉が糖に分解し甘み
を増す(乙1)。この呼吸の上昇前をプレ・クライマクテリック・ステージ,呼吸
の上昇開始期をクライマクテリック・オンセット,呼吸の最大期をクライマクテリ
ック・マキシマム,呼吸の下降時をポスト・クライマクテリック・ステージと呼ぶ
(甲12)。
        バナナは緑熟の状態で生産国で収穫され,11ないし14℃で海
上輸送されるので,輸入国に陸上げ後,この呼吸のクライマクテリック・ライズを
引き出して可食状態にしなければならない。この呼吸のクライマクテリック・ライ
ズの引出処理こそがバナナ熟成加工の本質である(乙2)。
      イ バナナの追熟過程における澱粉質の変化について
        プレ・クライマクテリック・ステージでは,バナナの果肉のうち
18.5ないし22.5%が澱粉質で,糖分は0.3ないし1.5%にとどまる
が,クライマクテリック・ライズの発生とともに澱粉質が糖分に変化し,クライマ
クテリック・マキシマムの時点では,バナナの果肉のうち2.9ないし6.9%が
澱粉質で,10.6ないし17.5%が糖分となり,この変化はポスト・クライマ
クテリック・ステージでも一層進む(乙2)。
      ウ 呼吸のクライマクテリック・ライズの出現に影響を与える諸要素
について
       (ア) エチレンガス
         エチレンは,植物ホルモンとして追熟促進効果があり,ある濃
度を越えて存在すると,緑熟果はクライマクテリック・ライズが誘発され追熟が進
む(甲12)。エチレンはバナナ果実自体からも発生されるガスで,古くはバナナ
果実が生成するエチレンを呼吸のクライマクテリック・ライズの誘発に利用してい
たが,現在では,追熟期間を短縮すること,熟度をそろえることの目的のために,
追熟過程でエチレンを人工的に注入して呼吸のクライマクテリック・ライズを誘発
することが行われている(甲12)。
       (イ) 温度
         15ないし30℃の温度範囲では,温度が高いほど,呼吸のク
ライマクテリック・ライズが早くなり,それだけ早く追熟することになる。バナナ
のクライマクテリック・ライズは,直接的にはエチレンによって引き出されるが,
エチレンの植物に対する作用は,18ないし28℃で効果が大きいので,実際の追
熟加工はこの温度範囲でスタートする。この場合,高温の場合ほど追熟が早く完了
するが,高温下では果肉の軟化が進みやすく,果肉の首が折れやすくなる。温度は
また呼吸熱にも影響し,温度が高いほど呼吸熱の発生量が多く,品温も上昇しやす
い(甲12)。
       (ウ) 酸素・二酸化炭素
         酸素濃度が減少すると,クライマクテリック・ライズの開始が
遅れ,追熟が抑制される(甲12)。
         他方,二酸化炭素濃度の増加は果実の追熟に抑制的に働く。実
際のバナナの追熟加工は,気密性の高い定温倉庫(「むろ」と呼ばれる。)内で行
われるので,バナナの呼吸によって庫内の酸素が減少し,二酸化炭素が増加してく
ることから,一定時間毎に扉を開け,新鮮空気を入れて二酸化炭素を除去し,酸素
を補う必要がある(甲12)。
       (エ) 環境の調節
         バナナの加工工程は,半密閉のむろ内で行われるので,果実の
呼吸,呼吸熱,エチレン生成によって,むろ内の酸素,二酸化炭素,エチレン濃度
が連続的に変化していき,呼吸熱によって品温が影響を受ける。この環境変化は果
実の生理に影響を与えるので,良品質の黄熟バナナを生産するためには,これらの
環境を巧みに調節することが必要である(甲12)。
      エ 具体的な追熟工程について
        バナナの追熟加工室は,保温性と気密性が要求されるので,前記
のとおり「むろ」と呼ばれる気密性の高い温度可変恒温倉庫が利用される。
        バナナの追熟加工は,まずバナナをむろに収庫してバナナの品温
を上昇させ,品温を温度計で確かめて,所定の温度に達したのを確認した後,むろ
の扉を閉じ密閉し,むろ内の空気容量に対し一定の濃度になるようにエチレンガス
を封入する。エチレン封入後,バナナの品温とエチレンを均一にするためにファン
を利用してむろ内を攪拌する。エチレンによるバナナのクライマクテリック・ライ
ズの促進には,一定時間の誘導期間が必要であり,普通15ないし25時間(又は
20ないし30時間ともされる。)である。この誘導期間の後,むろの主扉を開
き,ファンを使ってむろ内に蓄積した二酸化炭素を追い出して新鮮空気を取り入れ
る。この際品温が激しく変化しないことが必要である。その後は,呼吸熱を考慮
し,追熟予定日数によって一定のスケジュールで品温を降温させていく。この際に
は,バナナは低温耐性が弱く,冷気によって低温障害を受けるので,過冷却しない
ように降温速度は0・5ないし0・1℃/hrを越えないようにする(甲12)。この
ように,普通,バナナの追熟においては,初めは追熟を促進する目的で温度を高く
するが,追熟が進むにつれて,色つきをよくする,あるいは,果肉の軟化を防止す
るという目的から,追熟温度を下げていく(乙1)。
      オ 「やく」について
        以上のようなバナナの追熟過程におけるある段階を「やく」と呼
ぶ。しかし,公知文献の上では,「やく」の意義については一定しておらず,「エ
チレンを加えると20ないし30時間ドアを密閉してあけないようにする。業界で
はこれを”やく”と呼んでいる。」(乙3の2)とされたり,古くエチレンを人工
的に注入せず,バナナが発するエチレンの効果で追熟を促す地下むろによる追熟方
法の場合には,「バナナから充分量のエチレンが生成されるようになった状態を”
やくがきた”と称し,この時を見計らってむろ内に入り,むろの香,息苦しさ,バ
ナナの硬さ,弾力性などから官能的に判断して換気の時期を決め以後冷却する」
(乙7の2)などとされている。
      カ まとめ
        バナナの追熟工程は,エチレンの作用によって呼吸のクライマク
テリック・ライズを引き起こさせるものであるが,エチレンの効果は温度に大きく
影響を受けるので,通常低温で保存されていたバナナを追熟する際には,まずエチ
レンが効果的に作用する温度まで品温を上げる必要がある。そして,この間,バナ
ナの呼吸によって室内の酸素が減り二酸化炭素が増えて行くのを放置すると追熟が
阻害されるので,定期的に換気を行っておく。そして,バナナの品温がエチレンが
効果的に作用する温度に達したところでエチレンガスを投入するが,投入したエチ
レンがよく効くように室を密閉する。そして,そのまま一定の時間放置すると呼吸
のクライマクテリック・ライズが惹起され,バナナが熟成を始めるが,そのまま放
置し続けると熟成が進みすぎるので,ある程度まで熟成したところで,室の扉を開
けて換気し,室温を若干下げて熟成を調節する。そして,その後は,換気を繰り返
してゆっくりと熟成を仕上げることとする。
     (2) バナナの追熟加工の自動制御技術の公知技術
       本件発明は,以上のようなバナナの追熟加工を自動制御で行う方法
に関するものであるが,本件発明の特許出願当時,このような自動制御技術として
は,甲14(特開昭59-59144号公報)に記載のものが公知であった。
       甲14には,バナナの熟成程度は,熟成過程でバナナから放出され
る二酸化炭素の累積量を検出することにより知ることができるという知見に基づい
て,バナナを貯蔵している室に配設された二酸化炭素検出器の出力に基づき,所定
の演算式に従って室内の二酸化炭素の累積量を算出し,この累積量から所定のプロ
グラムに基づき一定の計算をした結果に基づいて,室内の温度を昇温又は降温せし
めるようにしたことを特徴とするバナナ追熟加工自動制御方法が記載されている。
       また,同様の自動制御技術が乙1(社団法人日本冷凍協会発行の
「冷凍」昭和60年9月号に掲載された瀬尾康久の論文)にも記載されている。
       また,バナナの醗酵のための措置開始時期や貯蔵室の換気時期等の
決定をバナナの果肉温度により行うことは,甲15(特開昭和52ー94444号
公報),甲16(特開昭和60ー217859号公報)記載の技術が出願前公知で
あった。甲15(特開昭和52ー94444号公報)は,特許請求の範囲によれ
ば,「未成熱のバナナを徐々に加温し,バナナの果肉温度が17℃~19℃に達し
たところで,このバナナを無水エタノール等のアルコール類の水溶液,(例えば,無
水エタノール換算にてエタノール90%~35%,水10%~65%の比率で混合)
に短時間浸漬し若しくは噴霧処理を施した後,再び熟成加工室内に果肉温度を18
℃~22℃に保って30~48時間密閉放置し果肉の熟成を進行させる。次いで前
記熟成時間の経過後に熟成加工室を全面的に換気し,更に加工室の温度を16℃~
22℃になるよう保ちながら熟成を完了させるバナナの脱渋,熟成方法。」であ
り,甲16(特開昭和60ー217859号公報)は,特許請求の範囲によれば,
「包装用箱の蓋を開放し若しくは蓋を施したままの箱詰めされた未成熟のバナナを
加工室内に積み上げた後加工室内に少量の撒水を施して湿度を高めた密閉加工室内
において被加工バナナを所定時間加温熟成させ,果肉が一定の温度に達したところ
で一旦換気した後前記と同様に撒水によって湿潤させた加工室内の雰囲気中にエタ
ノール溶液を噴霧してこの加工室内を浮遊する加工液をバナナに順次吸収させなが
ら一定時間放置することによって脱渋熟成の進行を図り,次いで所定時間経過後の
加工室内温度を調整して室出し時間を所望時期に調整することを特徴とするバナナ
の脱渋熟成方法。」である。
     (3) 本件明細書の記載
      ア 甲1によれば,本件明細書には,本件発明の特徴について,次の
記載があることが認められる。
       (ア) 実施例の欄(本件公報4欄17行目以下)
         「最近のこの分野の研究において,バナナの果肉温度を検出す
ることにより,またバナナから放出されるCO2ガス量又はエチレンガス量を検出
することにより,エチレンガスがバナナに最も効果的に作用する時期,バナナが醗
酵を開始する時期及び貯蔵室の換気時期を検出できることが明らかになってきた。
本発明方法は,前記成果に基づいて構成されたものである。」
       (イ) 効果の欄(本件公報7欄3行目以下)
         「本発明方法においては,果肉温度を検出してエチレンガスが
バナナの醗酵のために最も効果的に作用する温度でエチレンガスを一定時間自動的
に室内に注入するとともに,バナナが醗酵を開始する果肉温度になると,一定時間
後にエチレンガス等の換気を自動的に行っている。さらに,『やく』発生後におい
てCO2ガス発生量を検出して一定量以上になると換気するようにしてバナナの熟
成程度を調べている。従って,バナナの色付けが均一となって糖度も高く,さらに
柔らかい果肉と硬い外皮とを有するバナナの追熟加工が可能となり,より商品価値
を高めることもできる。」
      イ これらの記載からすると,本件明細書上は,次の2点に特徴があ
るとされているといえる。
       (ア) エチレンガスの注入タイミングとその後の換気タイミングを
バナナの果肉温度を基に行っている点(構成要件B及びC)
       (イ) その後の換気をCO2ガス発生量を基に行っている点(構成
要件D)
     (4) 以上を踏まえて本件発明の技術的意義について検討する。
      ア (1)エ及びカで見た通常のバナナの追熟工程を整理すると,(a)室
内での換気と加温,(b)エチレン注入,(c)一定時間室を密閉してクライマクテリッ
ク・ライズを誘発,(d)室開封による換気,(e)換気しながら徐々に降温,の各工程
に分類することができる。
      イ これに照らしてみると,本件発明の構成要件Aは,(a)の「室内で
の換気と加温」に対応する工程であるといえる。そして,前記(1)(2)からすると,
構成要件Aのうち,換気を一定時間ごとに行う点,換気を二酸化炭素ガス発生量を
検出して行う点はいずれも公知技術であり,構成要件Aはこれらの点を自動制御に
適用したにすぎないものと認められる。
      ウ 次に,本件発明の構成要件Bは,(b)の「エチレン注入」に対応す
る工程であるといえる。そして,前記(1)からすると,エチレン注入のタイミングを
果肉温度に基づいて決定する点は公知技術であるから,構成要件Bは,それを自動
制御に適用したにすぎないものと認められる。前記(3)のとおり,本件明細書には,
この点を本件発明の特徴の1つとする趣旨の記載があるが,上記に照らして採用で
きない。
      エ 次に,本件発明の構成要件Cは,(c)(d)(e)の「一定時間室を密閉
してクライマクテリック・ライズを誘発」と「室開封による換気」と「換気しなが
ら徐々に降温」の一部に対応するものといえる。そして,構成要件Cでは,エチレ
ン注入後の換気と降温のタイミングを果肉温度の検出を基に決定しているが,この
点は公知技術には見られないものであり,また,その技術に基づいた自動制御技術
も公知技術には見られない。したがって,同知見に基づいて具体的な自動制御方法
を構成した点に,本件発明の特徴があると認められる。
      オ 本件発明の構成要件Dは,(e)の「換気しながら徐々に降温」に対
応するものであるといえる。(1)(2)に照らせば,これも,換気をCO2ガス発生量
に基づいて行う点を含めて,公知技術を自動制御に適用したものにすぎないと認め
られる。
     (5) まとめ
       以上の検討からすると,本件発明の特徴は,構成要件Cで「さらに
前記果肉温度が上昇してバナナの醗酵開始温度T3に達すると,一定時間室温T2
を維持した後に加温を停止し室温を低下させるとともに,室内の空気を換気し,」
とする構成の方法を採用し,エチレン注入後の室温の維持と加温停止による室温の
低下及び室内空気の換気のタイミングを果肉温度の検出を基に決定する具体的な自
動制御方法を開示した点にあると認めるのが相当である(引用部分は以上のとおり
である。)。】
   イ 文言上の充足の有無
     本件発明の構成要件Cの「バナナの醗酵開始温度T3に達すると」とい
う用語の意味を,控訴人主張の択一的主張①バナナの追熟過程において呼吸作用の
急激な上昇を開始する時点(クライマクテリック・オンセット),同②バナナの追
熟過程において呼吸作用の急激な上昇が開始された(クライマクテリック・オンセ
ット)後,呼吸作用がピークに達する(クライマクテリック・マキシマム)までの
間の時点,同③バナナの追熟過程において呼吸作用の急激な上昇がピークに達する
時点(クライマクテリック・マキシマム)のいずれであるかについては,本件明細
書において,「また,温度T2は後述する『やく』発生温度T3よりもやや低く設
定されている。」「そして,時刻t4において,果肉温度TBで『やく』が発生す
る。」「温度T3になると,果肉温度センサ22の出力が制御盤31を介してCP
U本体42に入力され,『やく』が検知される。」「前記『やく』とは,エチレン
ガス注入後,バナナが醗酵を開始する時期をいい」,「『やく』発生後にバナナの
澱粉質がぶどう糖に変化しはじめる。そして,この時果肉温度TBが最高になる。
なお,『やく』発生温度T3はバナナ自体の発熱もあって,室内温度T2よりも若
干高温となる。」と記載され(以上,本件公報6欄10行目ないし29行目),ま
た,本件明細書第2図では,果肉温度が上昇してほぼ最高となった状態の果肉温度
がT3とされており,T3は室温T2よりも若干高温に記載されていることからし
て,本件明細書の上記択一的主張②とすることはできないと考えられるものの,択
一的主張①,③のいずれに解釈することも可能であって,一義的に確定することは
できない(甲1)。
     一方,被告方法において,「果肉温度設定値X2」は,「やく」発生の
理想果肉温度であってバナナの生化学反応のピークとなる時点の果肉温度を意味
し,バナナの果肉温度が設定値X2になると直ちに室温を下げる方法を採用してい
る。
     そうすると,本件発明の構成要件Cの「バナナの醗酵開始温度T3に達
すると」という用語の意味を,控訴人主張の択一的主張①バナナの追熟過程におい
て呼吸作用の急激な上昇を開始する時点(クライマクテリック・オンセット),同
②バナナの追熟過程において呼吸作用の急激な上昇が開始された(クライマクテリ
ック・オンセット)後,呼吸作用がピークに達する(クライマクテリック・マキシ
マム)までの間の時点としても,上記のとおり,被告方法は,「やく」発生の理想
果肉温度であってバナナの生化学反応のピークとなる時点の果肉温度X2を検知し
ているにすぎず,それ以前の控訴人主張の択一的主張①バナナの追熟過程において
呼吸作用の急激な上昇を開始する時点(クライマクテリック・オンセット)や,同
②バナナの追熟過程において呼吸作用の急激な上昇が開始された(クライマクテリ
ック・オンセット)後,呼吸作用がピークに達する(クライマクテリック・マキシ
マム)までの間の時点の果肉温度,すなわち構成要件Cの「バナナの醗酵開始温度
T3」を検出していないのであるから,本件発明の構成要件Cの「バナナの醗酵開
始温度T3に達すると,一定時間室温T2を維持した後に加温を停止し室温を低下
させる」という要件を充足しない。
     次に,本件発明の構成要件Cの「バナナの醗酵開始温度T3に達する
と」という用語の意味を,控訴人主張の択一的主張③バナナの追熟過程において呼
吸作用の急激な上昇がピークに達する時点(クライマクテリック・マキシマム)と
しても,果肉温度がX2に達した後は直ちに室温を下げるのであるから,本件発明
の構成要件Cの「バナナの醗酵開始温度T3に達すると,一定時間室温T2を維持
した後に加温を停止し室温を低下させる」という要件を充足しない。     
     したがって,本件発明の構成要件Cの「バナナの醗酵開始」という用語
の意味をどのように解しようとも,「バナナの醗酵開始温度T3に達すると,一定
時間室温T2を維持した後に加温を停止し室温を低下させる」という要件を充足し
ない。
     控訴人は,被告方法も,果肉温度X2を検知する前に択一的主張①,②
による「バナナの醗酵開始温度T3」(クライマクテリック・オンセットの時点や
クライマクテリック・オンセットとクライマクテリック・マキシマムの間の時点の
温度)を必然的に経由すると主張するが,バナナの追熟過程で上記状況を経由する
ことは当然であり,経由しただけでは同一の方法といえないのであって,本件発明
は,バナナの追熟加工に関する自動制御方法の発明であるから,どのような因子
が,どのような状態になったことを検出して,どのような自動実行処理を行うのか
という点が重要であり,検出すべき果肉温度の内容が異なれば,当然に異なる方法
となるところ,被告方法は,果肉温度X2を検知する前に択一的主張①,②の意味
による「バナナの醗酵開始温度T3」(クライマクテリック・オンセットの時点や
クライマクテリック・オンセットとクライマクテリック・マキシマムの間の時点の
温度)を検出していないのであるから,同一の方法といえない。
     なお,控訴人は,被告方法では,エチレン投入後,「やく」発生として
いる「果肉温度設定値X2」検知の段階で直ちにエチレンガス抜きを行わず,一定
時間,エチレンガスを充填したままクライマクテリックライズを継続しており,被
告がいう「やく」がクライマクテリック・マキシマムでなく,その手前の状態であ
るとも主張するが,上記「やく」発生の段階で直ちにエチレンガス抜きを行わず一
定時間エチレンガスを充填していることにより被告がいう「やく」がクライマクテ
リック・マキシマムに該当しないとすることを認めるに足りる証拠はない上,前記
説示のとおり,被告方法を明らかにしていると考えられる甲20,乙6には「果肉
温度設定値X2」とは,「やく」発生の理想果肉温度であってバナナの生化学反応
のピークとなる時点の果肉温度を意味する旨記載され,実際の稼働例を示す乙22
ないし32にはX2が「やく」発生の理想果肉温度であってバナナの生化学反応の
ピークとなる時点の果肉温度である被控訴人主張の構成による方法が行われている
ことを示す記載があるのであって,上記控訴人主張を明確に否定しており,現に,
控訴人自身,基本的に,被告方法の構成につき「バナナの発酵開始温度より高い果
肉温度設定値X2」といい,また,「果肉温度設定値X2」がクライマクテリッ
ク・マキシマムに該当することを前提とする侵害論をも述べているのであって,上
記弁論の趣旨に照らしても,前記主張は採用し得ない。
     控訴人は,また,構成要件Cの「一定時間室温T2を維持し」の意義
は,「やく」発生後に厳密な意味で室温を一定に保つことを要求したものではな
く,急激な果肉温度の低下を避ける趣旨であるにすぎず,多少の室温低下が行われ
ても果肉温度がさほど低下しないことからすると,「一定時間室温T2を維持し」
には,果肉温度を著しく低下させない程度に室温を低下させることも含まれると解
すべきであるとして,被告方法では,択一的主張③における「バナナの醗酵開始温
度T3」に相当する果肉温度X2を検知するとクーラー140が作動してバナナ熟
成室10の室温を下げるところ,実際の果肉温度の低下はわずかであるから,「バ
ナナの醗酵開始温度T3に達すると,一定時間室温T2を維持した後に加温を停止
し室温を低下させる」の要件を充足すると主張する。     
     しかしながら,実際の果肉温度の低下はわずかであるとの主張に沿う甲
10の例も0・8度ではあるが果肉温度が低下していることに変わりがなく,むし
ろ,乙22ないし32の例は果肉温度の低下が顕著であり,上記主張は認められな
い。
     のみならず,甲14ないし16,乙16ないし20によれば,本件発明
の出願経過において,当初明細書における特許請求の範囲の記載では,「果肉温度
が上昇してバナナの醗酵開始温度に達すると,一定時間経過後に室内の空気を換気
し」とされていたところが,拒絶理由通知において,出願前の公知文献を指摘され
て「バナナの追熟を行う際に,バナナの醗酵開始時期や貯蔵室の換気時期等の決定
をバナナの果肉温度により行うことは,引用例2,3(注・前記公知文献甲15,
16)に記載されているように出願前周知であったと認められるから,引用例1
(注・前記公知文献甲14)記載のバナナ追熟加工自動制御方法において,バナナ
の醗酵開始時期や貯蔵室の換気時期等の検知を,バナナの果肉温度を検出する果肉
温度センサの出力に基づいて行うようにすることは当業者が容易に想致し得ること
と認められる。」として,進歩性がないとされたことに対して,手続補正書(乙1
8)によって上記部分を「果肉温度が上昇してバナナの醗酵開始温度T3に達する
と,一定時間室温T2を維持した後に加温を停止し室温を低下させるとともに,室
内の空気を換気し,」と補正するとともに,意見書(乙19)を提出して,「これ
に対して本願発明は室温T2となるまで室を加温し,果肉温度が温度T1即ちエチ
レンガスがバナナの醗酵のために最も効果的に作用する温度になると,一定時間エ
チレンガスを室内に注入して醗酵を促進させている。さらに,果肉温度が上昇して
バナナの醗酵開始温度T3になると室温T2を一定時間維持した後に加温を停止し
室温を下げるようにしている。そして室温T2は前記温度T3よりやや低く設定し
ている。前記した制御方法は最近に於けるこの分野の研究成果に基づく新規性,進
歩性のある方法であり,引例1とは全く異なるものである。」と主張し,さらにそ
の後の手続補正書(乙20)において,現在の特許請求の範囲の記載にするととも
に,明細書中の「課題を解決するための手段」の記載を,前記補正に沿うように補
正し,特許査定を得たことが認められる。
     上記出願経過からすれば,構成要件Cの「一定時間室温T2を維持し」
には,果肉温度を著しく低下させない程度に室温を低下させることも含まれるとす
る控訴人の主張は,出願経過禁反言の原則により許されない。
   ウ 均等論による充足の有無
     上記本件発明の特徴と出願経過からすれば,構成要件C,すなわち,
「果肉温度が上昇してバナナの醗酵開始温度T3に達すると,一定時間室温T2を
維持した後に加温を停止し室温を低下させるとともに,室内の空気を換気し,」と
いう方法は,その前提となる技術的知見も含めて公知技術には見られないものであ
って,本件発明特有の課題解決手段を基礎付け,本件発明に係る自動制御方法にお
いて中核をなす本質的部分であるというべきである。
     したがって,被告方法は,本件発明の本質的部分において本件発明と構
成が異なるものというべきであるから,本件発明と均等とはいえない。
   エ まとめ
     そうすると,被告装置は,本件発明と異なる被告方法の実施に使用し得
るものであるから,本件発明の実施にのみ使用する物といえない。
 3 結論
   よって,控訴人らの請求は相当でなく,本件控訴は理由がないから,主文の
とおり判決する。
 大阪高等裁判所第8民事部
    裁判長裁判官若林 諒
    裁判官山田陽三
    裁判官西井和徒

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