弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原決定を破棄し,原々決定に対する抗告を棄却する。
抗告手続の総費用は相手方の負担とする。
理由
抗告代理人城正憲ほかの抗告理由について
1記録によれば,本件の経緯の概要は,次のとおりである。
(1)本件の本案の請求は,Aの相続人である抗告人らが,同じく相続人である
Bに対し,遺留分減殺請求権を行使したとして,Aの遺産に属する不動産につき共
有持分権の確認及び共有持分移転登記手続を,同じく預貯金につき金員の支払等を
求めるものである。上記本案訴訟においては,BがAの生前にその預貯金口座から
払戻しを受けた金員はAのための費用に充てられたのか,それともBがこれを取得
したのかが争われている。
(2)抗告人らは,BがA名義の預金口座から預貯金の払戻しを受けて取得した
のはAからBへの贈与による特別受益に当たる,あるいは,上記払戻しによりBは
Aに対する不当利得返還債務又は不法行為に基づく損害賠償債務を負ったと主張
し,Bがその取引金融機関である相手方(平田支店取扱い)に開設した預金口座に
上記払戻金を入金した事実を立証するために必要があるとして,相手方に対し,B
と相手方平田支店との間の平成5年からの取引履歴が記載された取引明細表(以下
「本件明細表」という。)を提出するよう求める文書提出命令の申立て(以下「本
件申立て」という。)をした。相手方は,本件明細表の記載内容が民訴法220条
4号ハ,197条1項3号に規定する「職業の秘密」に該当するので,その提出義
務を負わないなどと主張して争っている。
2原々審は,本件明細表が職業の秘密を記載した文書に当たると認めることは
できないとして,抗告人らの本件申立てを認容した。これに対し,原審は,次のと
おり判断して,原々決定を取り消し,本件申立てを却下した。
金融機関は,顧客との取引及びこれに関連して知り得た当該顧客に関する情報を
秘密として管理することによって顧客との間の信頼関係を維持し,その業務を円滑
に遂行しているのであって,これを公開すれば,顧客が当該金融機関との取引を避
けるなど,業務の維持遂行に困難を来すことが明らかである。金融機関は,顧客と
の取引内容を明確にする目的で取引履歴を記載した明細表を作成するのであり,取
引の当事者以外の者に取引履歴を開示することを予定しておらず,これについて顧
客の秘密を保持すべき義務があるから,この義務に反したときには,顧客一般の信
頼を損ない,取引を拒否されるなどの不利益を受け,将来の業務の維持遂行が困難
となる可能性がある。本件において,Bとの取引の全容が明らかになるような本件
明細表が職業の秘密を記載した文書に当たることは明らかである。また,文書の提
出を拒否できるか否かを検討するに際しては,真実発見及び裁判の公正も考慮され
るべきであるが,本件申立ては,探索的なものといわざるを得ないのであり,いま
だ,本件明細表が真実発見及び裁判の公正を実現するために不可欠のものとはいえ
ない。したがって,相手方は,民訴法220条4号ハ,197条1項3号に基づき
本件明細表の提出を拒否することができる。
3しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
金融機関は,顧客との取引内容に関する情報や顧客との取引に関して得た顧客の
信用にかかわる情報などの顧客情報につき,商慣習上又は契約上,当該顧客との関
係において守秘義務を負い,その顧客情報をみだりに外部に漏らすことは許されな
い。しかしながら,金融機関が有する上記守秘義務は,上記の根拠に基づき個々の
顧客との関係において認められるにすぎないものであるから,金融機関が民事訴訟
において訴訟外の第三者として開示を求められた顧客情報について,当該顧客自身
が当該民事訴訟の当事者として開示義務を負う場合には,当該顧客は上記顧客情報
につき金融機関の守秘義務により保護されるべき正当な利益を有さず,金融機関
は,訴訟手続において上記顧客情報を開示しても守秘義務には違反しないというべ
きである。そうすると,金融機関は,訴訟手続上,顧客に対し守秘義務を負うこと
を理由として上記顧客情報の開示を拒否することはできず,同情報は,金融機関が
これにつき職業の秘密として保護に値する独自の利益を有する場合は別として,民
訴法197条1項3号にいう職業の秘密として保護されないものというべきであ
る。
これを本件についてみるに,本件明細表は,相手方とその顧客であるBとの取引
履歴が記載されたものであり,相手方は,同取引履歴を秘匿する独自の利益を有す
るものとはいえず,これについてBとの関係において守秘義務を負っているにすぎ
ない。そして,本件明細表は,本案の訴訟当事者であるBがこれを所持していると
すれば,民訴法220条4号所定の事由のいずれにも該当せず,提出義務の認めら
れる文書であるから,Bは本件明細表に記載された取引履歴について相手方の守秘
義務によって保護されるべき正当な利益を有さず,相手方が本案訴訟において本件
明細表を提出しても,守秘義務に違反するものではないというべきである。そうす
ると,本件明細表は,職業の秘密として保護されるべき情報が記載された文書とは
いえないから,相手方は,本件申立てに対して本件明細表の提出を拒否することは
できない。
4以上によれば,原審の前記判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法
令の違反がある。論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由があり,原決定は破棄
を免れない。そして,以上説示したところによれば,抗告人らの本件申立てを認容
した原々決定は正当であるから,原々決定に対する相手方の抗告を棄却することと
する。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官田原睦
夫の補足意見がある。
裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。
本件は,金融機関が顧客との取引によって得た顧客情報に係る文書の提出命令を
求める事案であり,法廷意見は,本件文書は,民訴法197条1項3号の職業の秘
密として保護されるべき情報が記載された文書に該らないとして原決定を破棄すべ
きものとしたが,原決定が,本件文書は,同号の職業の秘密を記載した文書に該る
としているところから,顧客情報と職業の秘密との関係について,以下に私の意見
を述べる。
金融機関は,顧客との取引を通じて,取引内容に関する情報や取引に関連して顧
客の様々な情報を取得する(以下,これらを併せて「顧客情報」という。)。これ
らの顧客情報は,おおむね次のように分類される。①取引情報(預金取引や貸付取
引の明細,銀行取引約定書,金銭消費貸借契約書等),②取引に付随して金融機関
が取引先より得た取引先の情報(決算書,附属明細書,担保権設定状況一覧表,事
業計画書等),③取引過程で金融機関が得た取引先の関連情報(顧客の取引先の信
用に関する情報,取引先役員の個人情報等),④顧客に対する金融機関内部での信
用状況解析資料,第三者から入手した顧客の信用情報等。このうち,①,②は,顧
客自身も保持する情報であるが,③,④は金融機関独自の情報と言えるものであ
る。
ところで,金融機関は,顧客との間で顧客情報について個別の守秘義務契約を締
結していない場合であっても,契約上(黙示のものを含む。)又は商慣習あるいは
信義則上,顧客情報につき一般的に守秘義務を負い,みだりにそれを外部に漏らす
ことは許されないと解されているが,その義務の法的根拠として挙げられている諸
点から明らかなように,それは当該個々の顧客との関係での義務である。時とし
て,金融機関が,顧客情報について全般的に守秘義務を負うとの見解が主張される
ことがあるが,それは個々の顧客との一般的な守秘義務の集積の結果,顧客情報に
ついて広く守秘義務を負う状態となっていることを表現したものにすぎないという
べきである。その点で,民訴法197条1項2号に定める医師や弁護士等の職務上
の守秘義務とは異なる。
そして,この顧客情報についての一般的な守秘義務は,上記のとおりみだりに外
部に漏らすことを許さないとするものであるから,金融機関が法律上開示義務を負
う場合のほか,その顧客情報を第三者に開示することが許容される正当な理由があ
る場合に,金融機関が第三者に顧客情報を開示することができることは言うまでも
ない。その正当な理由としては,原則として,金融庁,その他の監督官庁の調査,
税務調査,裁判所の命令等のほか,一定の法令上の根拠に基づいて開示が求められ
る場合を含むものというべきであり,金融機関がその命令や求めに応じても,金融
機関は原則として顧客に対する上記の一般的な守秘義務違反の責任を問われること
はないものというべきである。
また,この守秘義務は,上記のとおり個々の顧客との関係で認められるものであ
るから,当該顧客が自ら第三者に対して特定の顧客情報を開示している場合や,第
三者に対して自ら所持している特定の顧客情報につき開示義務を負っている場合に
は,当該顧客は,特段の事由のない限り,その第三者との関係では,金融機関の当
該顧客情報の守秘義務により保護されるべき正当な利益を有さず,金融機関が当該
情報をその第三者に開示しても,守秘義務違反の問題は生じないものというべきで
ある。
したがって,民事訴訟手続において,顧客に対して裁判所より特定の顧客情報の
提出が求められた場合に,当該顧客においてそれに応ずべきものであるときは,金
融機関が裁判所の求めに応じて当該顧客情報を提出したとしても,特段の事情のな
い限り,守秘義務違反の問題は生じないものというべきである。このような顧客情
報としては,前記の①,②に分類される顧客情報が該当するといえる。本件で提出
が求められている文書は,前記の①に分類される文書であるところ,法廷意見にて
指摘しているとおり,相手方の顧客たるBが所持している場合には,同人は本案訴
訟の当事者として,その文書提出命令の申立てを受けた際には,同人には,民訴法
220条4号所定のいずれの事由も認められないところから,その提出義務を負う
文書である。したがって,相手方が本件提出命令に応じても,上記の正当な理由の
有無を問うまでもなく,守秘義務違反の問題は生じないというべきである。
他方,金融機関に対して文書提出命令が申し立てられた対象文書が,上記の①,
②に分類される文書であっても,当該顧客が訴訟当事者として提出義務を負う文書
以外の文書や,対象文書の顧客情報が訴訟当事者以外の第三者に係るものである場
合には,金融機関が顧客に対して負っている上記一般的な守秘義務との関係で,そ
の提出命令に応じることが前記の正当な理由に当たるか否かが問題となる。また,
上記の③,④に分類される文書は,金融機関が独自に集積した情報として金融機関
自体に独自の秘密保持の利益が認められるものであるが,その点は別として,当該
顧客情報に係る個々の顧客との間でも,前記の一般的な守秘義務の対象となる情報
に該当するものである。
ところで,金融機関が顧客に対して守秘義務を負う顧客情報と金融機関に対する
文書提出命令との関係について考えるに,文書提出命令は,公正な裁判を実現すべ
く一般義務として定められたものであるから,金融機関が文書提出命令に応じるこ
とは,原則として,当該顧客との一般的な守秘義務の関係では,前記の正当な理由
に該当するということができ,金融機関がその命令に応じることをもって,当該顧
客は,金融機関の守秘義務違反の責任を問うことはできないものというべきであ
る。
他方,金融機関が顧客情報につき文書提出命令を申し立てられた場合に,顧客と
の間の守秘義務を維持することが,金融機関の職業の秘密として保護するに値する
ときは,金融機関は,民訴法220条4号ハ,197条1項3号により,その文書
提出命令の申立てを拒むことができる。金融機関が民訴法197条1項3号の職業
上の秘密に該当するとしてその提出を拒むことができる顧客情報とは,当該顧客情
報が金融機関によってその内容が公開されると,当該顧客との信頼関係に重大な影
響を与え,又,そのため顧客がその後の取引を中止するに至るおそれが大きい等,
その公開により金融機関としての業務の遂行が困難となり,金融機関自体にとって
その秘密を保持すべき重大な利益がある場合であると解される(最高裁平成11年
(許)第20号同12年3月10日第一小法廷決定・民集54巻3号1073頁参
照)。当該顧客情報が上記の意味での職業の秘密に該るか否かは,当該事案ごとに
守秘義務の対象たる秘密の種類,性質,内容及び秘密保持の必要性,並びに法廷に
証拠として提出された場合の金融機関の業務への影響の性質,程度と,当該文書が
裁判手続に証拠として提出されることによる実体的真実の解明の必要性との比較衡
量により決せられるものである。
ところで,金融機関は,顧客との守秘義務契約上,第三者から文書提出命令の申
立てがなされた場合に,その契約上の守秘義務に基づき,当該文書が職業上の秘密
に該り,文書提出命令の申立てには応じられない旨申し立てるべき義務を負う場合
がある。例えば,金融機関が,M&Aに係る融資の申込みを受ける際に顧客との間
で守秘義務契約を締結した上で提出を受けたM&Aの契約書案等の顧客情報を有し
ており,これにつき文書提出命令の申立てを受けた場合等には,当該金融機関は,
同守秘義務契約に基づいて,当該情報が職業上の秘密に該ることを主張すべき契約
上の義務があるというべきである。また,文書提出命令の申立てを受けた顧客情報
に係る文書が,前記の一般的な守秘義務の範囲にとどまる文書であっても,当該文
書が当該顧客において提出を拒絶することができるものであることが,金融機関に
おいて容易に認識し得るような文書である場合には,金融機関は,当該守秘義務に
基づき,上記顧客情報が職業上の秘密に該ることを主張すべき義務が存するものと
いうべきである。
金融機関が上記義務が存するにもかかわらず,その主張をすることなく文書提出
命令に応じて対象文書を提出した場合には,金融機関は,当該顧客に対して,債務
不履行による責任を負うことがあり得るものというべきである。他方,金融機関が
かかる主張をなしたにもかかわらず,裁判所がその主張を踏まえて検討した上で,
なおその顧客情報が職業上の秘密に該らないとして文書提出命令を発したときは,
金融機関は,それに応じる義務があり,またそれに応じたことによって,顧客から
守秘義務違反の責任を問われることはないものというべきである。
金融機関が保持する顧客情報が職業の秘密に該当するものか否かは,上記のとお
り,個々の事案ごとに個別に検討されるべき事柄であるが,金融機関が顧客との間
の守秘義務の存在をもって,職業の秘密に該ると主張し得る情報としては,上記の
特別の守秘義務契約を交わしている顧客情報や当該顧客自身において提出拒絶する
ことが明らかな顧客情報のほか,前記分類の中では,②に分類される情報のうち
の,開発中の技術情報や当該顧客のM&Aや経営戦略に係る情報等,秘匿性の高い
と一般に認められる情報,③,④に分類されるもののうちの一部が含まれると考え
られる。もっとも,④に分類されるものは,顧客情報であるとともに,当該金融機
関独自の観点からの職業上の秘密が問題となり得る情報とも言えるが,その点はこ
こでの意見の枠外の事柄である。
以上,述べたところは,法廷意見に対する補足意見としての枠を超えるものであ
るが,金融機関の保持する顧客情報と文書提出命令の関係について,原決定が論及
していることを踏まえて,私の意見を敷衍したものである。
(裁判長裁判官田原睦夫裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官
那須弘平裁判官近藤崇晴)

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