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平成17年(行ケ)第10247号審決取消請求事件
平成17年5月9日口頭弁論終結
判決
原告有限会社ハーベイ・ボール・スマイル・リ
ミテッド
同訴訟代理人弁護士仲村晋一
被告特許庁長官小川洋
同指定代理人早川文宏
同小川有三
同宮下正之
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告
(1)特許庁が不服2003-7722号事件について平成16年12月1
日にした審決を取り消す。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2被告
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実等
1本願商標
別紙1記載の商標(以下「本願商標」という)は,円形の図形部分と。
円輪郭の内側下部に沿って「HARVEYBALL」の欧文字を書した構成
から成り,図形部分は,円輪郭内にやや縦長の楕円形の2個の点のみで描かれ
た目と,その下部に,両端上がりの弧線により描かれた口とを,黒色で表した
ものである(以下,この図形を「本件図形」という。本願商標は,第28類。)
「遊戯用器具,囲碁用具,将棋用具,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダ
イヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,マ
ージャン用具,ビリヤード用具,おもちゃ,人形,愛玩動物用おもちゃ,運動
用具,スキーワックス,釣り具」を指定商品として出願されたものである。
2特許庁における手続の経緯
Xは,平成14年2月22日,本願商標の登録出願(商願2002-1
8502号,以下「本件出願」という)をしたが,平成15年3月20日,。
拒絶査定を受け,同月31日,これに対する不服審判請求をした。その後,原
告(当時の商号は有限会社オリンピア)は,同年7月15日付けの出願人名義
変更届により,同社から,商標登録出願により生じた権利を承継した(乙第2
号証及び第3号証。特許庁は,上記請求を不服2003-7722号事件と)
,,「,。」して審理した上平成16年12月1日本件審判の請求は成り立たない
との審決をし,平成17年1月19日(乙第1号証,審決書の謄本が原告に)
送達された。
3審決の理由
,()。,審決の理由は別紙2審決書の写し記載のとおりである要するに
本願商標は,登録第4105304号商標(平成8年5月16日登録出願,平
成10年1月23日設定登録。以下,審決と同様に「引用A商標」という,。)
登録第4135567号商標(平成8年5月31日登録出願,平成10年4月
17日設定登録。以下,審決と同様に「引用B商標」という,登録第414。)
4135号商標(平成8年5月31日登録出願,平成10年5月15日設定登
録。以下,審決と同様に「引用C商標」という)及び登録第4379715。
号商標(平成8年12月17日登録出願,平成12年4月28日設定登録,そ
の後,指定商品中「計算尺」について登録取消。以下,審決と同様に「引用D
」,「」。)商標といい引用A商標ないし引用D商標を一括して引用商標という
と類似し,指定商品も同一又は類似のものであるから,本願商標は商標法4条
1項11号に該当するものとして,その登録を拒絶すべきであるというもので
ある。
第3原告主張の審決取消事由の要点
以下のとおり,審決は,本願商標と引用商標との類似性についての判断
を誤り,商標登録についての特別の考慮を欠いたまま,本願商標が商標法4条
1項11号に該当すると判断したものであるから,取り消されるべきである。
1本件図形は「スマイリーフェイス「ニコニコマーク」などと呼ばれ,」,
て,1970年代初めに大流行したものであるが,本願商標と引用商標とは,
その目と口の描き方が異なるとともに,本願商標は,図形の内部の下段に本件
図形の創作者であるP1の名前を「HARVEYBALL」と大きく表示す
ることによって,容易に引用商標との違いが認識できる構成となっている。本
件図形は,一般的な顔のマークとして,消費者から商標というよりデザインの
一種と見られているから,本願商標は,図形の中の文字にこそ重点を置いてそ
の類否を判断すべきである。
審決が本願商標について「その構成中,図形部分と文字部分は,これら
を常に一体不可分のものとするべき格別の結び付きがあるとも理解し得ない」
,,,,,,としているのは誤りでありまた商標の類否について旧来の外観観念
称呼によって判断するのは妥当でない。
2大阪地裁の平成13年10月25日判決(平成12年(ワ)第5986
号)は,スマイルマークは長年日本で多くの人により使用されていたとして,
「商標権の禁止権の効力が及ぶ範囲は,商標に示された具体的外観(顔,目及
び口の位置,描線等)を備えるスマイルマークに限定されると解するのが相当
である」旨を判断している。
このように,本件図形は,従来から多くの人に使われており,独占する
ことはできないのであり,また,商標の登録条件としての類似性は,商標に示
された具体的外観を備えているかどうかという点に限定されるべきであって,
本願商標と引用商標が同時に登録されても不合理とはいえない。現に,特許庁
は,別件の不服審判事件(平成10年審判7673号,不服2000-898
0号,不服2000-8981号)において,スマイリーフェイスについては
他のマーク類と異なり類似範囲を狭く解釈して,非類似としている例が多いの
である。
3本件図形の創作者,著作者はP1である。同人が開始し,その遺志であ
る「スマイル活動」の遂行のため,創作・著作者を特定した本願商標の登録を
特別に認めるべきである。
4上記のとおり,本件図形は,P1が創作したものであり,引用商標は,
それを剽窃したものに過ぎない。審決は,このことを考慮しておらず,これは
先願主義の過剰な解釈の弊害の現れである。
第4被告の主張の要点
審決の認定判断は正当であり,原告の主張は失当である。
1本願商標は,図形部分と文字部分がそれぞれ分離して観察することが取
引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではないから,
これを分離観察してその部分が有する外観,称呼又は観念により類否判断すべ
きである。そして,本願商標の本件図形と引用商標とは,仔細に見れば細部に
おいて異なるところがあるとしても,これらを時と所を異にして離隔的に観察
した場合には,外観上相紛らわしい類似の商標といわざるを得ない。
2原告引用の大阪地裁判決の判示部分は,商標権の禁止権の効力が及ぶ範
囲について判示するものであって,商標登録の要件に関する本件とは事案を異
にするものである。また,原告が引用する過去の不服審判事件に係る商標とそ
の引用商標とは,本件とその態様を異にするものであるから,過去の不服審判
事件における認定判断をもって,スマイリーフェイスについては他のマークと
異なり類似範囲を特別に解釈しているとすることはできない。
3原告が主張する本件図形の創作の経緯等は,本願商標と引用商標との類
否判断を左右するものではない。なお,商標法4条1項11号の他人の先願に
係る登録商標との類否に関しては,著作権の所在を必ずしも考慮すべきではな
いから,仮に原告が本件図形の著作権について権利を有しているとしても,そ
のことをもって本願商標を登録することはできない。
4原告は,引用商標がP1の創作したマークを剽窃したものであると主張
するが,引用商標について,将来その登録を無効とする審決がされ,確定する
までは,引用商標が商標法4条1項11号にいう「他人の登録商標」に当たる
ことは当然であり,原告の主張は失当である。
第5当裁判所の判断
1本願商標と引用商標との類否について
(1)本願商標は,前記のとおり,円形の図形部分(本件図形)とその円輪
郭の内側下部に沿って「HARVEYBALL」の欧文字を書した構成から
成るものであるが,本件図形は,後記のとおり人間の笑顔と思われる表情を商
標全体に大きく表示したものであるのに対しその文字部分は図形中の下部口,(
の下部)に比較的小さく表示されているものであって,一見して本件図形部分
が見る者の注意を惹き,強い印象を与える構成となっていることからすると,
本件図形と「HARVEYBALL」なる文字とは,これらを分離して観察
することが取引上不自然であると思われるほどに不可分一体的に結合している
ものではなく,本願商標の構成中,本件図形部分は,独立して自他商品の識別
標識としての機能を果たすものと認められる。
,,(2)引用商標はそれぞれ審決書別掲のとおりの構成より成るものであり
そのうち引用A及びD商標は,いずれも円形の図形部分と欧文字部分とから成
るところ,その文字部分は,図形部分の下部に配され,見る者にとって図形部
分と分離して認識することができ,また,その図形部分と文字部分とが分離し
て観察することが取引上不自然であると思われるほどに不可分一体的に結合し
ていると理解すべき事情も認められないから,その図形部分は,独立して自他
商品の識別標識としての機能を果たすものと認められる。
(3)本願商標及び引用商標の各図形部分は,いずれも円輪郭内にやや縦長
の楕円形の2個の点のみで描かれた目と,その下部に,両端上がりの弧線によ
り描かれた口とを,黒色で表したものであり,人間の笑顔と思われる表情を単
純化して表現したものと認識される。
そして,本願商標の本件図形と引用商標の図形とは,仔細に観察する
,,,と目の部分の長さ口の部分の線の太さなど細部において差異が見られるが
その基本的な構成の態様は同一であり,図形全体としてこれを見る者に共通し
た印象を与えるものということができ,時と所を異にして離隔的に観察した場
合には,需要者(本願商標の指定商品は,遊戯用器具,おもちゃ,人形,運動
用具等であり,一般の需要者を対象とする)にとって,その差異は気づくこ。
とがかなり困難な微差に止まるものであるから,両図形は,外観上,互いに類
似すると認められる。
(4)ア原告は,本願商標と引用商標とは,その目と口の描き方が異なると
主張するが,上記のとおり,その差異は微差に止まるものであって,両商標の
類似性を肯定する妨げとなるものではない。
イ原告は,本願商標は,本件図形の創作者であるP1の名前を表示す
ることによって,容易に引用商標との違いが認識できるとし,本願商標は,図
形の中の文字に重点を置いて類否を判断すべきであると主張する。
,,,,しかし本願商標の構成中本件図形部分が見る者の注意を惹き
強い印象を与える構成となっており,独立して自他商品の識別標識としての機
能を果たすものと認められることは,前記のとおりであるから,本件図形部分
に着目して,その類否を判断することは相当であるし,また,本件図形部分が
独立して自他商品の識別力を有する以上,本件図形中に創作者の名前が配置さ
れているからといって,これにより引用商標との類否の判断を左右することに
なるということはできない。原告の上記主張は採用できない。
ウ原告は,本願商標について「その構成中,図形部分と文字部分は,
これらを常に一体不可分のものとするべき格別の結び付きがあるとも理解し得
ない」とした審決の認定判断が誤りであると主張するが,本願商標の構成の態
様からすれば,本件図形部分と文字部分とが不可分一体的に結合しているとま
でいえないことは前記のとおりであり,審決の上記認定判断に誤りはない。
エ原告は,商標の類否を外観,観念,称呼によって判断するのは妥当
でないとも主張しているが,商標の類否の判断に当たって,外観,観念,称呼
の要素を考慮して判断することには合理性があり,原告の主張は採用の限りで
ない。
オ原告は,大阪地裁判決を引用して,本件図形は,従来から多くの人
に使われており,独占することはできないのであり,また,商標の登録条件と
しての類似性は,商標に示された具体的外観を備えているかどうかという点に
限定されるべきであると主張する。
しかし,本件全証拠を検討しても,本件出願時及び本件審決時にお
いて,本件図形が何人も自由に使用することが許されたものであったと認める
に足りる的確な証拠はないし,仮にそうであったとしても,そのことから直ち
に本件図形が自他商品の識別標識としての機能を持たないということはできな
いのであり,前記のとおり,本件図形が,これを見る者の注意を惹き,独立し
て自他商品の識別標識としての機能を果たすものである以上,その部分に着目
して商標の類否判断をすべきことは当然である。また,原告が引用する大阪地
裁判決の判示部分は,登録商標に係る商標権に基づく禁止権の効力が及ぶ範囲
について判示したものであって,商標の登録要件に関する本件とは事案を異に
するものであるから,上記判示部分を根拠に,本願商標と引用商標との類似す
る範囲を限定して解釈すべきである旨の原告の主張は失当である。
なお,原告は,過去の不服審判事件の審決についても言及するが,
それらは,本件とはその対比する商標を異にし,本願商標と引用商標との間に
見られる態様とは異なる事件についてのものであり(甲第15号証,原告の)
主張は当たらない。
(5)以上のとおり,本願商標と引用商標とは,その外観において類似する
商標と認められ,また,その指定商品も同一又は類似のものであることが認め
られる(乙第6号証の2,5,8,11)から,この点に関する審決の認定判
断に誤りはない。
2原告は,本件図形の創作者,著作者はP1であり,創作・著作者を特定
した本願商標の登録を特別に認めるべきであると主張する。
しかし,本件において,P1が創作したという本件図形について,原告
がいかなる権利を有するかについては,明確な主張がないが,仮に原告が本件
図形についての著作権を有するとしても,原告の上記主張は採用することがで
きない。
,,すなわち他人の著作権と抵触する商標の先願登録がある場合において
著作権者がこの商標の無効審判を得ることなく,自己の著作物を用いた商標を
出願したときに,著作権者からの登録出願を認めるべきものとする規定は商標
法上存在しない。これは,特許庁は,著作権に関する専門官庁ではなく,商標
の出願審査において,著作権の所在につき逐一調査,認定等することは困難で
あることから,著作権との抵触については事後的な救済(同法第29条,第4
6条等)に委ねることとし,出願時においては著作権の所在につき審査しない
としたことによるものと解される。したがって,仮に原告が本件図形につき著
作権を有するとしても,だからといって本願商標の登録を特別に認めるべき根
拠はないというべきである。
また,原告は,引用商標はP1が創作した本件図形を剽窃したものであ
り,審決がこの点を考慮していないことは,先願主義の過剰な解釈の弊害の現
れであると主張する。
しかし,仮に原告主張のように本件図形が剽窃されたものであったとし
ても,引用商標は,無効審判が確定するまでは,有効に存続しているものであ
り,本願商標との関係で,商標法4条1項11号にいう「当該商標登録出願の
日前の商標登録出願に係る他人の登録商標」に当たることは明らかである。商
標法4条1項11号の規定による商標の類否の判断は,出願に係る商標と特定
の他人の登録商標との対比においてのみ決定されるべきものであり,仮に当該
他人の登録商標が無効とされるべき瑕疵を有していたとしても,そのことによ
って類否の判断を異にすべきものではないから,原告の上記主張は採用できな
い。
3以上のとおりであるから,本願商標は商標法4条1項11号に該当する
として,その登録を拒絶すべきであるとした審決の認定判断に誤りはなく,そ
の他,審決にはこれを取り消すべき誤りがあるとは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき行
政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官佐藤久夫
裁判官三村量一
裁判官古閑裕二

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