弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を台東簡易裁判所に差し戻す。
         理    由
 本件控訴の趣意は、末尾に添附した台東区検察庁検察官副検事新堀虎六作成名義
の控訴趣意書と題する書面に記載してあるとおりであり、これに対する答弁は、末
尾に添附した弁護人高見沢博作成名義の答弁書と題する書面に記載してあるとおり
であるから、それぞれ、比照検討の上、右控訴の趣意について、次のように判断す
る。
 第一点(事実の誤認の論旨)について
 この論旨に関する判断に入る前に、まず、職権により調査すれば、本件は、原審
においては、刑事訴訟法施行法第五条により、もし、被告人からあらかじめ書面で
弁護人を必要としない旨の申出があつたときは、弁護人がなくても開廷することが
できる事件であつたものであるが、被告人からかかる書面の提出がなかつたばかり
でなく、かえつて、被告人は、原裁判所に対する弁護人選任に関する回答書なる書
面によつて、国選弁護人を頼みたいとの申出をしていたにかかわらず、原裁判所
は、これを閑却して、国選弁護人を附せず、終始弁護人のないままで審理、判決し
たものであることが記録上明らかなところであるから、原裁判所は、この点におい
て、訴訟手続に関する法令の違反をおかしているものといわなければならない。た
だ、弁護人は、被告人の<要旨第一>利益の保護のために附せられるものと解すべき
ものであるが、原裁判所は、有罪の判決をしたものではなく、無罪の判
決をしたものであるから、弁護人なくして審理、判決した右訴訟手続に関する法令
の違反が、判決に影響を及ぼすことが明らかなものとは、解することができない。
よつて、このように、原判決が無罪の判決である限り、右の違法は、原判決を破棄
すべき理由とはならないものといわなければならない。
 そして、原審においては、右のように、弁護人を必要とする事件について、終始
弁護人のないままで訴訟が<要旨第二>行われたものであるから、原審の訴訟手続
は、その全過程を通じて違法ではあるが、原判決が無罪の判決であつた
ため、かかる訴訟手続の違法があるにもかかわらず、この理由によつては、原判決
が破棄されないものであることは、前叙のとおりである。よつて、当審において、
進んで、原判決に判示された無罪の理由に事実の誤認があるかどうかを判断するに
あたつては、右弁護人の問題に関する違法の点は顧慮することなく、原審における
審理の内容を検討して、これをその判断の資料に供することかできるものと解しな
ければならない。そこで、果して、原判決に、検察官所論のような事実の誤認があ
るかどうかについて考えると、原裁判所は、本件公訴事実について、犯罪の証明が
充分ではない旨判示して無罪の判決をしたものであるが、記録によつて、原審に現
われた各証拠を検討するときは、原判決に判示されたように犯罪の証明が充分でな
いものとは、解し難いのであつて、当審において行われた事実の取調の結果からみ
ても、この判断に変りはない。それゆえ、原裁判所は、事実の誤認をおかしたもの
というほかなく、しかも、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかなものであ
るから、原判決は、このため、破棄を免れないものといわなければならない。従つ
て、この点に関する検察官の論旨は、理由がある。
 なお、さきに判断したように、原審の訴訟手続は、その全過程を通じて違法であ
るから、本件は、第一審において初から完全に手続をやり直す必要があるものであ
つて、もとより、当審において自判することができないものであることは、明らか
なところであるから、刑事訴訟法第三百八十二条、第三百九十七条第一項、第四百
条本文により、原判決を破棄して、本件を原裁判所に差し戻すこととする。
 よつて、主文のとおり判決する。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 高野重秋 判事 真野英一 判事 堀義次)

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