弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人小川休衛、同入倉卓志の上告理由について
 上告人の本件訴えは、第一審判決添付の物件目録記載の各不動産が被相続人Dか
らE(被上告人B1、同B2、同B3及び同B4の被相続人)、被上告人B5及び
同B6に対し生計の資本として贈与された財産であることの確認を求めるものであ
る。
 民法九〇三条一項は、共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻、
養子縁組のため若しくは生計の資本としての贈与を受けた者があるときは、被相続
人が相続開始の時において有した財産の価額に右遺贈又は贈与に係る財産(以下「
特別受益財産」という。)の価額を加えたものを相続財産とみなし、法定相続分又
は指定相続分の中から特別受益財産の価額を控除し、その残額をもって右共同相続
人の相続分とする旨を規定している。すなわち、右規定は、被相続人が相続開始の
時において有した財産の価額に特別受益財産の価額を加えたものを具体的な相続分
を算定する上で相続財産とみなすこととしたものであって、これにより、特別受益
財産の遺贈又は贈与を受けた共同相続人に特別受益財産を相続財産に持ち戻すべき
義務が生ずるものでもなく、また、特別受益財産が相続財産に含まれることになる
ものでもない。そうすると、ある財産が特別受益財産に当たることの確認を求める
訴えは、現在の権利又は法律関係の確認を求めるものということはできない。
 過去の法律関係であっても、それを確定することが現在の法律上の紛争の直接か
つ抜本的な解決のために最も適切かつ必要と認められる場合には、その存否の確認
を求める訴えは確認の利益があるものとして許容される(最高裁昭和四四年(オ)
第七一九号同四七年一一月九日第一小法廷判決・民集二六巻九号一五一三頁参照)
が、ある財産が特別受益財産に当たるかどうかの確定は、具体的な相続分又は遺留
分を算定する過程において必要とされる事項にすぎず、しかも、ある財産が特別受
益財産に当たることが確定しても、その価額、被相続人が相続開始の時において有
した財産の全範囲及びその価額等が定まらなければ、具体的な相続分又は遺留分が
定まることはないから、右の点を確認することが、相続分又は遺留分をめぐる紛争
を直接かつ抜本的に解決することにはならない。また、ある財産が特別受益財産に
当たるかどうかは、遺産分割申立事件、遺留分減殺請求に関する訴訟など具体的な
相続分又は遺留分の確定を必要とする審判事件又は訴訟事件における前提問題とし
て審理判断されるのであり、右のような事件を離れて、その点のみを別個独立に判
決によって確認する必要もない。
 以上によれば、特定の財産が特別受益財産であることの確認を求める訴えは、確
認の利益を欠くものとして不適法である。本件訴えを却下すべきものとした原審の
判断は、結論において是認することができる。右判断は、所論引用の判例に抵触す
るものではない。論旨は、原判決の結論に影響しない部分の違法をいうものに帰し、
採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    大   野   正   男
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信

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