弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
被告人を懲役5年に処する。
未決勾留日数中40日をその刑に算入する。
理       由
(罪となるべき事実)
被告人は
第1 酒気を帯び,呼気1リットルにつき0.15ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で,平
成15年3月4日午後10時56分ころ,長野市・・・付近道路において,普通乗用自動車を運転した
第2 前記日時ころ,前記車両を運転し,前記場所先の信号機により交通整理の行われている交差点
を・・・方面から・・・方面に向かい時速約80キロメートルで直進するに当たり,対面信号機が赤色信
号を表示しているのを同交差点入口に設けられた停止線の手前約119メートルの地点で認め,制
動措置を講じれば同交差点手前の停止位置で停止することができたにもかかわらず,これを殊更に
無視し,重大な交通の危険を生じさせる速度である前記速度のまま自車を運転して進行したことに
より,折から左方交差道路から青色信号に従って同交差点内に進行してきたA(当時61歳)運転の
普通乗用自動車の右側面部に自車前部を衝突させ,よって,その衝突の衝撃によりA運転車両を
左前方に暴走させて,同車前部を同所先に設置されていた街路灯支柱に衝突させ,よって,同人に
肺挫傷等の傷害を負わせ,同月5日午前零時35分ころ,同市・・・所在のB病院において,同人を
前記傷害に基づく緊張性気胸により死亡させた
ものである。
(法令の適用)
被告人の判示第1の所為は道路交通法117条の4第2号,65条1項,同法施行令44条の3に,判示
第2の所為は刑法208条の2第2項後段,1項前段にそれぞれ該当するところ,判示第1の罪について所
定刑中懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判
示第2の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役5年に
処し,同法21条を適用して未決勾留日数中40日をその刑に算入することとし,訴訟費用は刑事訴訟法1
81条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,長野市内のC街道と呼ばれる国道・・・号線を酒気を帯びて普通乗用自動車を運
転し(判示第1),前方の十字路の対面信号機が赤色信号を示していたのに殊更にこれを無視し,制限速
度50キロメートル毎時を大幅に超過した重大な交通の危険を生じさせる時速約80キロメートルで運転し
たことによって,青色信号に従った被害者運転車両に自車を激突させて,被害者を死亡させた(判示第2)
という事案である。
被告人は,一緒に飲酒した友人3名を同乗させて走行中,飲酒の影響から気が大きくなり,「C街道
は,片側2車線の広い直線道路で,交通量も少ない。速度を上げて走ると,きっと気持ちがいいだろう。」
などと考えて,同道路上の赤色信号を次々に無視しながら加速し,赤色信号に従って停止している車両を
反対車線に進出して追い越すなどし,後ろの座席に同乗した友人らに「危ねえ。止めろ。」などと大声で制
止されたにもかかわらず危険な運転を継続し,判示交差点においても,「交差道路の道幅が狭いので,左
右道路から交差点に入ってくる自動車はないだろう。対面信号が赤色になったばかりで,全赤があるか
ら,仮に交差道路の停止線付近から発進してくる自動車があったとしても,自車の方が先に通過できるで
あろう。」などと根拠もなく安易に考えて,対面信号機の赤色信号を殊更に無視して運転したのであって,
その動機は極めて自己中心的かつ短絡的であり,その運転態度は戦慄を覚えるものがある。
被告人が次々と赤信号無視をした道路は,長野駅から2,3キロメートル位の場所であって,交通量も
少なくなく,交差道路から交差点に進行してくる車両が存在することは容易に想定されるのである。このよ
うな道路で,当時小雪が舞い,路面の凍結も考えられる状態にあるのに,高速運転をした上,赤信号を殊
更に無視した被告人の運転は,自動車を走る凶器とさせた悪質このうえないものというほかはなく,事故
の発生はいわば必然的なものであったといえる。
このような危険な運転の結果,判示交差点の左方道路から青色信号に従って自動車を進入させた,何
ら落ち度のない被害者を死亡するに至らせたものであって,被害者の無念さや,遺族の悲嘆の情は察す
るに余りあるところであり,被害者の妻は被告人に対して,「一生刑務所で罪を償って欲しい。」と厳重な
処罰を求めている。
また,被告人は,平成14年8月8日,酒気帯び運転で罰金20万円に処せられた前科があるにもかか
わらず,その後も飲酒した上で運転をしていたことを自認するところ,本件犯行時も,自宅から自動車で居
酒屋に行き,友人らと飲酒後,さらに飲酒するために友人らを同乗させて酒気帯び運転をしていたのであ
って,被告人の遵法精神の欠如には著しいものがあり,被告人の刑事責任は重いというべきである。
他方,被告人運転車両の任意保険によって被害者の遺族との間に示談が成立する見込みがあるこ
と,被告人は捜査段階から本件犯行自体は認め,2度と危険な運転はしない旨述べ,反省の情を示して
いること,被告人の父親等が被告人の指導監督の意思を示していること,被告人が若年であることなどの
事情も認められる。そこで,これらの一切の事情を総合考慮して,主文のとおり量刑する。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役6年)
平成15年6月18日
長野地方裁判所刑事部
裁判長裁判官   青木正良
裁判官   桂木正樹
裁判官   山下博司

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