弁護士法人ITJ法律事務所

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平成17年3月22日宣告
平成16年(わ)第3014号強制執行妨害被告事件
判   決
主   文
被告人Aを懲役1年2箇月に,被告人Bを懲役8箇月にそれぞれ処する。
この裁判の確定した日から,被告人Aについて5年間,被告人Bについて3年
間,それぞれ上記各刑の執行を猶予する。
理   由
(罪となるべき事実)
 被告人Aは,労働者派遣事業等を営むC株式会社の実質的経営者,被告人Bは同社
の取締役であった者であるが,同社に対して多額の債権を有していた株式会社Dの申
立てにより,平成16年2月27日,C株式会社がE銀行に対して有していた預金債権が
仮に差押えられたことを聞き込んで,C株式会社がF信用金庫に対して有している預金
債権に対しても,近く同様に仮差押がなされるものと察知し,これを免れる目的で,被告
人Aの三男であるG,C株式会社の経理を担当していた関連会社の従業員であるH及び
F信用金庫本店営業部長であるIと共謀の上,同日,被告人Aの指示を受けた被告人B
が,三重県四日市市ab丁目c番d号所在のF信用金庫本店営業部に赴き,同営業部に
開設されていたC株式会社名義の普通預金口座(口座番号e)から,620万525円を払
い戻す手続を行い,そのころから,上記Gの住居である名古屋市f区gh丁目i番j号所在
のJk号室等に,上記払戻を受けた現金を隠し,もって,C株式会社所有の財産を隠匿し
た。
(法令の適用)
 1 罰  条         いずれも刑法60条,96条の2
2刑種の選択いずれも所定刑中懲役刑選択
 3 刑の執行猶予       それぞれ同法25条1項
(量刑上特に考慮した事情)
1不利に働く事情
  (1) 犯行は,自分達が経営しあるいは所属する株式会社の預金債権に対する債権
者の追及を免れる目的で行われたもので,自分らの利益のためには公の秩序
や企業の社会的責任を顧みない経営態度が発現したもので,態様は悪質で,動
機に酌むべき事情も認められない。
  (2) 犯行により,債権者の債権の速やかな実現が現実に妨げられたもので,その
結果も軽視できない。
  (3) 同様の行為が頻発している今日の社会情勢において,企業の倫理観を涵養
し,企業の活動に対する社会的信頼を形成し,同種の犯行を根絶するために
も,この種の犯行に対しては厳しく処罰することが必要である。
  (4) 被告人Aは,本件を主導して行ったものでありそれ自体で共犯者中では最も責
任が重いが,同被告人は,同種の犯行で有罪判決を受け執行猶予付き懲役刑
に処せられ,その刑の執行猶予期間が満了してほどなく本件犯行に及んでお
り,遵法精神の乏しさは明らかである。
  (5) 被告人Bについても,取締役として,会社の非違行為を防止する責任もあある
のに,これを放棄して,実質的な経営者の被告人Aの指示に安易に従って,自ら
預金の引出を実行したものであって,その責任は他の共犯者に比して格段に重
く,被告人Aに次ぐもので,懲役刑を選択すべきものである。
 2 酌むべき事情
  (1) 被告人Aについて
   ① 現在では自己の行為の違法性を認識して,反省の気持ちを深め,贖罪のため
の寄付等にも及んだ。
   ② 家族が第一線から身を引かせて再発を防止する旨を申し出ている。
   ③ 継続的な検査あるいは治療を要する状況にある。
  (2) 被告人Bについて
   ① 現在では自己の行為の違法性を認識して,反省の気持ちを深めている。   
② 前科がない。
   ③ 家族が更生への協力意思を示している。
  (3) 被告人らの本件犯行について,グループ企業全社について社会的制裁を受
け,全企業を挙げて,信頼回復のため,弁護人らの協力を得て,再発防止のた
めの方法を講じつつある。
3そこで,被告人両名について,それぞれの役割の重要性を考慮して主文の懲役刑
を量定した上で,自力更生の機会を与えることとした。
(求刑 被告人Aにつき懲役1年2月,被告人Bにつき懲役8月)
  平成17年3月22日
    名古屋地方裁判所刑事第5部
           裁 判 官伊  藤   新  一  郎

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