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平成七年(ワ)第四二八五号 意匠権侵害差止等請求事件
             判    決
    原  告              新興機械工業株式会社
    右代表者代表取締役         【A】
    右訴訟代理人弁護士         中   務   嗣 治 郎
    同                 加   藤   幸   江
    同                 中   務   尚   子
    被  告              株式会社宝精密
    右代表者代表取締役         【B】
    右訴訟代理人弁護士         井   岡   三   郎
    同                 桑   森   ひ と み
    右井岡三郎訴訟復代理人弁護士    本   渡   諒   一
    同                 鎌   田   邦   彦
    同                 外   川       裕
    同                 裵           薫
    同                 許           功
    右本渡諒一訴訟復代理人弁護士    木   島   喜   一
    同                 伊   藤   孝   江
             主    文
     一 被告は、別紙1ないし3各記載のばね製造機の線ガイドをそれぞれ
製造、販売してはならない。
     二 被告は、パンフレット(価格表)及び請求書に、ばね製造機の先端
線ガイドの名称として、「FWG」の商標を付してはならない。
     三 被告は、別紙4及び同5各記載のばね製造機のスプリングチャック
をそれぞれ製造、販売してはならない。
     四 被告は、原告に対し、金四六万三八四〇円及びこれに対する平成七
年五月三日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
     五 原告のその余の請求を棄却する。
     六 訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原
告の負担とする。
     七 この判決の第一ないし第四項は、仮に執行することができる。
             事実及び理由
第一 請求
 一 被告は、別紙1ないし3各記載のばね製造機の線ガイドをそれぞれ製造、販
売してはならない。
 二 被告は、その発行するパンフレット及び請求書に、その販売する被告製品の
名称として「FWG」の標章を付し、そのほか被告製品の広告として「FWG」な
る標章を付してはならない。
 三 被告は、別紙4及び同5記載のスプリングチャックを製造、販売してはなら
ない。
 四 被告は、原告に対し、金九〇〇万円及びこれに対する平成七年五月三日から
支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
   本件は、ばね製造機及びそのツールを製造、販売する原告が、被告に対し、
①被告の製造、販売するばね製造機の先端線ガイド(イ号ないしハ号物件)は原告
が有する意匠権を侵害する、②被告が先端線ガイドに使用する標章は、原告が有す
る商標権を侵害する、③被告が製造、販売するスプリングチャックは、原告が有す
る特許権の間接侵害に該当する、として、それぞれの製造販売又は使用の差止め及
び損害賠償を請求している事案である。
 一 当事者間に争いがない事実
  1 意匠権
   (一) 原告の権利
     原告は、次の各意匠権(以下、(1)の意匠権を「本件第一意匠権」、その
意匠を「本件第一意匠」と、(2)の意匠権を「本件第二意匠権」、その意匠を「本件
第二意匠」という。)の権利者である。
    (1) 登録番号     第八二二五四五号
      出願日      昭和六三年一〇月一七日
      登録日      平成三年八月八日
      意匠に係る物品  ばね製造機の線ガイド
      登録意匠     別紙原告意匠目録(一)記載のとおり
     (類似意匠)
      登録番号     第八二二五四五の類似一
      出願日      昭和六三年一〇月一七日
      登録日      平成三年八月八日
      意匠にかかる物品 ばね製造機の線ガイド
      登録類似意匠   別紙原告意匠目録(一)の二記載のとおり
    (2) 登録番号     第八三四九九五号
      出願日      昭和六三年一〇月一七日
      登録日      平成四年一月一七日
      意匠に係る物品  ばね製造機の線ガイド
      登録意匠     別紙原告意匠目録(二)記載のとおり
   (二) 被告は、原告の製造にかかるばね製造機に取り付ける専用ツールとし
て、別紙1記載のばね製造機の線ガイド(以下「イ号物件」といい、その意匠を
「イ号意匠」という。)、別紙2記載のばね製造機の線ガイド(以下「ロ号物件」
といい、その意匠を「ロ号意匠」という。)及び別紙3記載のばね製造機の線ガイ
ド(以下「ハ号物件」といい、その意匠を「ハ号意匠」という。
  2 商標権
   (一) 原告の権利
     原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その商標を「本件商
標」という。)の権利者である。
     登録番号  第二五八九四九八号
     出願日   平成三年五月二四日
     登録日   平成五年一〇月二九日
     登録商標  FWG(別添商標公報参照)
     指定商品  産業機械器具、動力機械器具(電動機を除く)、風水力機
械器具、事務用機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)その他の機械器
具で他の類に属しないもの、これらの部品および附属品(他の類に属するものを除
く)機械要素
   (二) 被告は、自社が製造・販売する先端線ガイドについて、販売パンフレ
ット(価格表)及び請求書に「FWG」なる表示をしている。
   (三) 被告の使用する右表示「FWG」は、外観、称呼において原告の本件
商標と同一である。
  3 特許権
   (一) 原告の権利
     原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件特
許発明」という。)の権利者である。
     発明の名称  ばね半製品のフック起こし装置
     登録番号   第一四六六五三六号
     出願日    昭和五八年二月二二日(特願昭五八-二七八九三号)
     出願公告日  昭和六三年四月一二日(特公昭六三-一七〇一六号)
     登録日    昭和六三年一一月一〇日
     特許請求の範囲
     【請求項1】
       ばね製造機9より製造されたばね半製品1をテーブル12上方のフッ
ク起こし加工部10に移送する、先端にばね半製品挟持具20を有する上下揺動自在の
揺動アーム17と、前記フック起こし加工部10に移動した状態のばね半製品挟持具
20を挟持固定する一対の挟持片78、78を有する固定具75と、前記ばね半製品挟持具
20に挟持されたばね半製品1を回転させてその位置を制御する位置制御具48と、フ
ック起こし加工部10に向かって進退自在な一対の、フック起こし工具67、70用のス
ライド60、60とを有しており、前記位置制御具48にばね半製品1のフック4を引っ
掛ける垂下突起49が設けられ、この位置制御具48がテーブル12に対して上下揺動自
在の揺動体44に回転自在に設けられているばね半製品のフック起こし装置。
     【請求項2】
       前記スライド60に工具保持具69が上下揺動自在に取付けられてい
て、その前端がスライド60の前進に伴って上昇するようになされている特許請求の
範囲第1項記載のばね半製品のフック起こし装置。
    (別添特許公報(以下「本件特許公報」という。)該当欄参照)
   (二) 本件特許発明の作用効果
     本件公報には、本件特許発明の作用効果として、次のような記載があ
る。
    (1) 上下揺動自在の揺動体に位置制御具が回転自在に設けられ、この位置
制御具によってばね半製品のフックの向きを調整するので、フック起こし工具によ
るフック起こしを確実かつ正確に行うことができる。
    (2) 半製品を保持した、半製品挟持具(ホルダー)を、一対の挟持片を有
する固定具で保持して、フック起こしを行えるものであるから、すなわち、半製品
の持ち替えを行う必要がないので、作業効率を高めることができる。
   (三) 被告は、別紙4記載のスプリングチャック(以下「ニ号物件」とい
う。)及び同5記載のスプリングチャック(以下「ホ号物件」といい、ニ号物件と
併せて「被告スプリングチャック」という。)を製造、販売している。
     被告スプリングチャックは、ばね製造機により製造されたばね半製品を
挟持するばね製造挟持具であり、ばね半製品をフック起こし加工部に移送する誘導
アームの先端に装着される。被告スプリングチャックは、本件特許発明の実施品で
ある原告の製造にかかるばね半製品のフック起こし装置に装着されて使用されるも
のであり、他の機械に装着することはできない。
 三 争点
  1 意匠権侵害
   (一) イ号意匠は本件第一意匠に類似するか。
   (二) ロ号意匠は本件第一意匠に類似するか。
   (三) ハ号意匠は本件第二意匠に類似するか。
   (四) 被告は、本件各意匠権について、先使用に基づく通常実施権を有する
か。
   (五) 原告の損害額
  2 商標権侵害
   (一) 被告は、「FWG」の表示を商標として使用しているか。
   (二) 本件商標は普通名称か。
   (三) 被告は、本件商標権について、先使用に基づく通常実施権を有する
か。
  3 特許権侵害
   (一) 被告スプリングチャックは、本件特許権の技術的範囲に属する物の製
造にのみ使用される物であって、その製造が本件特許権の間接侵害に当たるか。ス
プリングチャックは本件特許権の技術的範囲に含まれるか。
   (二) 原告の損害額
 四 当事者の主張
  1 争点1(意匠権侵害)について
   (一) 争点1(一)(イ号意匠と本件第一意匠の類否)について
   【原告の主張】
    (1) 本件第一意匠の構成は、別紙6【原告の主張】欄記載のとおりであ
る。
    (2) イ号意匠の構成は、別紙7【原告の主張】欄記載のとおりである。
    (3) 本件第一意匠とイ号意匠の構成を対比すると、その構成は同一である
から、イ号意匠は本件第一意匠と類似する。
   【被告の主張】
    (1) 本件第一意匠の構成は、別紙6【被告の主張】欄記載のとおりであ
る。
    (2) イ号意匠の構成は、別紙7【被告の主張】欄記載のとおりである。
    (3) 本件第一意匠とイ号意匠は、ボルト挿通孔の位置と右半体の上側面の
水平面の形状において異なる。すなわち、ボルト挿通孔の位置は、本件第一意匠で
は、右半体の右側端線と左半体の左側端線とを対辺として構成される四角形の内側
に形成されているのに対し、イ号意匠では、右半体の右側端線と左半体の左側端線
とを対辺として構成される四角形の外側にはみ出して形成されている。また、右半
体の上側面の水平面は、本件第一意匠では、突合せ部側から右第二線を越えた位置
まで伸びているのに対し、イ号意匠では、突合せ部側から右第二線の位置までで終
っている。
    (4) 線ガイドは、本件各意匠権の出願以前から、製造するばねの大きさや
形状に応じて、ばねが線ガイドやカッター、曲げダイスなどの補助ツールに接触し
ないように、ばね製造機のユーザーにより臨機応変に削って加工して使用されてい
た。したがって、線ガイドをばね製造に際して加工、変形すること、段落としを形
成することは自由技術の一つである。
      被告は、原告の本件各意匠権出願以前の昭和六二年から別紙目録A記
載の意匠(以下「A意匠」という。)及び同目録B記載の意匠(以下「B意匠」と
いう。)を有する線ガイドを製造、販売し、公然実施してきたのであるから、A意
匠及びB意匠は公知意匠である。本件各意匠は、公知公用であったA意匠及びB意
匠に自由技術を使用した段落としを配置した形状の一つにすぎない。したがって、
本件各意匠は、A意匠及びB意匠の類似の範囲内にあり、意匠法三条一項三号、一
七条一号、四八条一項一号により登録拒絶原因ないし登録無効原因を有する。
      また、本件各意匠は、その出願前に各ユーザーの工夫により実施され
ていた意匠であるから、当業者により容易に創作できるものであり、意匠法三条二
項、一七条一号、四八条一項一号により、登録拒絶原因ないし登録無効原因を有す
る。
      このように、本件第一意匠権は無効原因を有するから、その類似範囲
は意匠公報に示された意匠そのものに限定されるべきであり、右二点の違いを有す
るイ号意匠は本件第一意匠に類似しない。
   【原告の反論】
     確かに、従前の線ガイドの意匠は、上下左右対称の八角形のA意匠、B
意匠の形状のものであった。ばね製造業者は、顧客の注文に応じて各種のばねを製
造するが、右形状の線ガイドを使用する場合には、加工パーツの先端や線ガイドが
干渉し合わないように切削して形状を整えた上でばね製造機に装着する必要があ
り、この作業には熟練を要し、均一のばねを製造することが困難であった。
     原告は、右のような問題点を解消するために、ばね製造機に装着する各
種成形ツールを開発するとともに、複数のツール相互あるいはツールと線ガイドが
干渉しないような動きの順番、位置関係などの研究を重ね、線ガイドの段落としの
角度、大きさ、位置など、ツールの相互関係が最も良い本件各意匠にたどり着い
た。本件各意匠の線ガイドを用いることにより、ばね製造業者は、線ガイドを削ら
なくても、ばね半製品が送られてくる線ガイドと、その線ガイドの先端に向かうツ
ールが干渉なくかみ合うことにより、従来とは種類の異なる切断の工法が正確かつ
容易にされるよう工夫されたものである。
     したがって、本件各意匠は、単に八角形を削ったものではなく、加工ツ
ールなどとともに原告によって開発されたものであり、A意匠、B意匠から容易に
考案できるものではないから、無効原因は存しない。
   (二) 争点1(二)(ロ号意匠と本件第一意匠の類否)について
   【原告の主張】
    (1) 本件第一意匠の構成は、別紙6【原告の主張】欄記載のとおりであ
り、本件第一意匠の類似意匠の構成は、別紙8【原告の主張】欄記載のとおりであ
る。
    (2) ロ号意匠の構成は、別紙9【原告の主張】欄記載のとおりである。
    (3) 本件第一意匠の類似意匠の構成とロ号意匠の構成を対比すると、ロ号
意匠は、左右半体の後部上下に形成された側面形状L字状の段部を有する点におい
て本件第一意匠の類似意匠と異なるのみである。右相違部分は全く軽微な差違にす
ぎないうえ、右部分のロ号意匠の構成は、そもそも基本意匠たる本件第一意匠の構
成と同一であるから、ロ号意匠は本件第一意匠と類似する。
   【被告の主張】
    (1) 本件第一意匠の構成は、別紙6【被告の主張】欄記載のとおりであ
り、本件第一意匠の類似意匠の構成は、別紙8【被告の主張】欄記載のとおりであ
る。
    (2) ロ号意匠の各構成は、別紙9【被告の主張】欄記載のとおりである。
    (3) 本件第一意匠の類似意匠とロ号意匠は、後部(背部)上下に配設され
たL字状の段部の有無、形状において異なる。
      本件第一意匠は、前記(一)で述べたとおり無効原因を有するものであ
るから、その類似範囲は意匠公報に示された意匠そのものに限定されるべきであ
り、右二点の違いを有するロ号意匠は本件第一意匠に類似しない。
   (三) 争点1(三)(ハ号意匠と本件第二意匠の類否)について
   【原告の主張】
    (1) 本件第二意匠の構成は、別紙10【原告の主張】欄記載のとおりであ
る。
    (2) ハ号意匠の構成は、別紙11【原告の主張】欄記載のとおりである。
    (3) 本件第二意匠の構成とハ号意匠の構成を比較すると、その構成要件は
同一であり、両者は類似する。
   【被告の主張】
    (1) 本件第二意匠の構成は、別紙10【被告の主張】欄記載のとおりであ
る。
    (2) ハ号意匠の構成は、別紙11【被告の主張】欄記載のとおりである。
    (3) 本件第二意匠とハ号意匠は、右半体の上側面の水平面は、本件第二意
匠では突合せ部側から右第二線の位置まで伸びているのに対し、ハ号意匠では突合
せ部側から右第二線の位置まで伸びていない。また、左半体の上側面の水平面は、
本件第二意匠では突合せ部側から左第一線まで伸びているのに対し、ハ号意匠では
突合せ部側から左第一線を越えた位置まで伸びている。さらに、本件第二意匠とハ
号意匠では各垂直線の幅が異なる。
      本件第二意匠は前記(一)で述べたとおり無効原因を有するものである
から、その類似範囲は公報に示された意匠そのものに限定されるべきであり、右の
違いを有するハ号意匠は本件第二意匠に類似しない。
   (四) 争点1(四)(被告の先使用権の有無)について
   【被告の主張】
     被告は、本件各意匠権の出願日より前である昭和六二年五月二一日から
A意匠を有する線ガイドを、昭和六三年九月一七日からB意匠を有する線ガイド
を、それぞれ製造、販売し、公然実施してきた。被告の創作したA意匠及びB意匠
は、線ガイドの両端をカットして八角形とした点において基礎的意匠であり、有用
性のある意匠である。
     一方、本件各意匠は、被告が創作したA意匠及びB意匠である八角形を
基本意匠とし、これに段落としの形状を設けたにすぎない。すなわちA意匠と本件
第一意匠との相違は、右半体の上下部分にL字形の切欠き段部があるか否かであ
り、B意匠と本件第二意匠との相違は、右半体の上下部分にL字形の切欠き段部が
あるか否かである。
     先使用権の範囲は、単に実際に実施していた意匠に限定されるべきでは
なく、意匠思想が同一性を失わない範囲において変更した意匠にも及ぶものである
ところ、前記のとおり、線ガイドは購入した各ユーザーがそれぞれの条件に従って
加工することを予定している製品であって、これを意匠として見るとき、切欠き段
部を設けたとしても基本的意匠を喪失させるものではなく、両意匠の本質は同じで
類似意匠の関係にある。
     したがって、被告は、本件各意匠権につき、先使用に基づく通常実施権
を有する。
   【原告の主張】
     前記のとおり、本件各意匠は被告の主張するA意匠及びB意匠とは明ら
かに異なるから、被告の主張は失当である。
   (五) 争点1(五)(損害)について
   【原告の主張】
    (1) 被告は、平成四年三月から平成七年二月までの間に、イ号ないしハ号
物件を少なくとも合計一二〇〇個製造、販売した。
      被告のイ号ないしハ号物件の販売による利益は、少なくとも一個当た
り六〇〇〇円であるので、被告は右行為により合計七二〇万円の利益を得た。
      右利益額は、原告の損害額と推定される。
    (2) 被告が提出した帖簿及び納品書控えによっても、被告は、平成四年三
月から平成七年二月までの間に、イ号ないしハ号物件を少なくとも四五五個、総額
八八五万四六二〇円で販売した。本件各意匠権の実施料相当額は、売上高の五パー
セントであるから、原告は、四四万二一三一円の損害を被った。
   【被告の主張】
     被告は、イ号ないしハ号物件を合計三二個、総額七〇万七〇〇〇円(一
個当たり二万円が一八個、二万二〇〇〇円が一個、二万五〇〇〇円が一三個)で販
売した。
     被告の製造原価率は七二・三七四パーセントであるので、これにイ号な
いしハ号物件の売上総額七〇万七〇〇〇円を乗じると、製造原価は五一万一六八四
円である。
     また、被告の販売及び一般管理費率は、二六・八六二パーセントである
ので、これに線ガイドの売上総額七〇万七〇〇〇円を乗じると、販売及び一般管理
費は一八万九九一四円である。
     よって、被告のイ号ないしハ号物件の販売による利益は、売上総額から
製造原価並びに販売及び一般管理費を控除した五四〇二円である。
  2 争点2(商標権侵害)について
   (一) 争点2(一)(商標としての使用)について
   【原告の主張】
     被告は、その製造販売する先端線ガイドについて、顧客との間でFWG
の名称で注文を受けて納品しており、原告の社名は記載されていない。すなわち、
被告はFWGを自社の商品の商標として使用している。
   【被告の主張】
     商標法の目的が、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業
務上の信用の護持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保
護することにある(同法一条)ことから考えると、商標の使用とは、商品の製造者
が商標権者であるかのように誤信せしめ、商標権者の信用又は需要者の利益を損な
うような形態による使用をいうものと解すべきである。
     被告は、価格表に原告の特定の機種に適合する部品の価格表であること
を明示して、部品を特定するために先端線ガイドと表示し、原告の先端線ガイドの
呼び名である「FWG」を表示したものである。定価表には作成者が被告であるこ
とが明示されており、「FWG」の表示は原告のFWGで表示される部品と同じ役
割を果たす部品を製造販売していること、及びその価格を示しているにすぎないの
であるから、商標として使用しているということはできない。
   (二) 争点2(二)(普通名称)について
   【被告の主張】
     本件商標「FWG」は、線送りガイドの最終部のツールを意味する英語
表示「FinalWireGuide」の略語そのもののみからなる標章である。「ファイナル
ワイヤーガイド」という言葉は、我が国でも普通名称として使用されているし、輸
出関係の書類では、「FWG」という略号が使われていた。また、日本では言葉の
頭文字をとって省略するのは通常のことであり、「FWG」も先端線ガイドを表示
する普通名詞といえる。
     したがって、被告が被告の製造した先端線ガイドの商品表示として「F
WG」を使用したとしても、本来商標権の及ばない普通名称として使用したにすぎ
ないものであるから、右使用について原告の商標権は及ばない。
   【原告の主張】
     商標法二六条一項三号にいう「普通名称」とは、指定商品と同一の商標
であるなど、商品の一般的名称と認識されるに至ったものであり、その名称が、商
品の普通名称を表示するものとして、現実に使用されている場合である。
     本件商標である「FWG」は、現実の取引において、一般的名称として
使用されていない。
   (三) 争点2(三)(被告の先使用権の有無)について
   【被告の主張】
     被告は、昭和六二年五月ころから先端線ガイドを製造、販売している
が、平成元年二月ころから平成三年四月ころまでの間に、同先端線ガイドを「FW
G」いう商品表示で浅賀製作所及び【C】に対して受注し、製造・販売していた。
     これにより、被告は自己の商品表示として「FWG」を不正競争の目的
なく使用した結果、本件商標出願当時、被告の商品表示「FWG」は被告商品の商
標として広く需要者間に認識されていた。
     また、被告は、その後も現在まで被告は被告商品表示として「FWG」
を継続して使用しているから、右商標権について先使用権がある。
   【原告の主張】
     先使用権者としての保護を受けるためには、当該商標を不正競争の目的
なく使用していなければならないが、被告は、原告が線ガイドに「FWG」という
標章を付していることを知りながら、これを利用して同じ商品表示を使用したので
あるから、不正競争の目的なく使用したとはいえない。
     また、それが被告商品の周知商標となったとはいえない。
  3 争点3(特許権侵害)について
   (一) 争点3(一)(侵害の有無)について
   【原告の主張】
    (1) 本件特許発明は、ばね製造機本体で製造された片方のフック部分のみ
起こされたばね半製品をスプリングチャックで掴んで二次加工機へ移送し、他方の
フックを起こしてばねを完成させるまでの間、一貫してばねの半製品の持ち替えを
要さずに作業を行う、ばね半製品のフック起こし装置に関するものである。多種類
のフック形状を持つばねを製造するためには、ばね製造機とは別の機械へ移送して
フックを形成する必要があるところ、移送に際して持ち替えが必要な場合には、持
ち替えに必要な巻の長さが必要となり、コイル部分が短いばねは製造できないとい
う欠点があった。本件特許発明は持ち替えを要さないという構成を採用することに
より、右の問題点を解消したものである。また、スプリングチャックによって全工
程にわたり確実にばね半製品を挟んでいるため、作業効率も高まり、フックを確実
に歪みなく起こすことも可能となった。
      したがって、本件特許発明において、全工程にわたりばね半製品を掴
んでいるスプリングチャックは、最重要のツールである。
    (2) 被告スプリングチャックは、原告の本件特許権の実施品であるばね半
製品のフック起こし装置の一部分である揺動アームの自由端側に取り付けられた半
製品挟持具が有する挟持片の先端に装着されるものである。
      被告は、被告スプリングチャックを、原告の製造・販売にかかる特許
実施品たる機械に装着する部品としてのみ販売しており、これは、特許法一〇一条
一号にいう物の生産にのみ使用する物である。
    (3) スプリングチャックは、製造するばねの種類により複数必要である
が、摩耗するものではなく、消耗品ということはできない。
   【被告の主張】
    (1) 間接侵害について
     ① 特許法一〇一条一号に規定する「その物の生産にのみ使用する物」
とは、特許法七〇条に定める当該特許発明の「技術的範囲に属する物」を「生産す
る」こと、すなわち、技術的範囲がいくつかの構成要件から成立している場合にお
いて、その構成要件の一つ或いはいくつかを「生産する」ことをいう。
     ② 本件特許発明の特許請求の範囲には、「ばね半製品挟持具20を挟持
固定する一対の挟持片78、78を有する固定具75」を構成要件の一つとする記載はあ
るが、「ばね半製品挟持具20」に設けられる「挟持片21、21」及びこの「挟持片
21、21」の先端に突設する「半割り筒状のホルダー24、24」は構成要件とはなって
いない。したがって、「半割り筒状のホルダー24、24」は、そもそも本件特許発明
の技術的範囲に属するものではなく、本件特許発明の技術的範囲で示された技術思
想を具現した完成物の存在を前提として、その完成物に付加して使用するものであ
る。
     ③ 被告の製造するニ号及びホ号物件は、前記半割り筒状のホルダー
24、24に相当するものであるから、右半割り筒状のホルダー24、24を業として生産
し、販売することは、本件特許権を侵害する間接侵害とはならない。
    (2) スプリングチャックは消耗品である。このような消耗品の製造、販売
までも特許権者に独占させることは、特許権の保護の範囲を逸脱し、特許権者を不
当に優遇する結果となるから、仮にそれが特許発明を構成する部品であったとして
も、その製造等は特許権の侵害行為とはならない。
    (3) スプリングチャックを装着するフック起こし装置の価格が一台二五〇
〇万円程度するのと比較して、一個わずか一万数千円のスプリングチャックの製
造、販売について、特許権侵害であるとして差止めを請求することは、信義に反す
る行為であり、権利の濫用として許されない。
      また、被告は、ばね製造業者から、具体的な形状の指示を受けてスプ
リングチャックの製造、販売をしている。したがって、被告の行為はばね製造業者
の製造と同じく評価されるから、許されるものである。
   (二) 争点3(二)(損害)について
   【原告の主張】
    (1) 被告は、平成四年三月から平成七年二月までの間に、被告スプリング
チャックを少なくとも六〇〇個製造販売した。
      被告スプリングチャックの販売による利益は、少なくとも一個当たり
三〇〇〇円であるので、被告は合計一八〇万円の利益を得ている。
    (2) 被告の自認するところに従っても、被告は、平成四年三月から平成七
年二月までの間に、少なくともニ号及びホ号物件を九五個、総額一〇七万七〇〇〇
円で販売した。この実施料相当額は、売上高の五パーセントであるから、原告は五
万三八五〇円の損害を被った。
   【被告の主張】
     被告は、ニ号物件及びホ号物件を合計九五個、売上総額一〇七万七〇〇
〇円(一個当たり九〇〇〇円が一個、一万円が三九個、一万二〇〇〇円が五〇個、
一万五〇〇〇円が二個、一万六〇〇〇円が三個)で販売した。
     被告の製造原価率は七二・三七四パーセントであるので、これにスプリ
ングチャックの売上総額一〇七万七〇〇〇円を乗じると、製造原価は七七万九四六
八円である。
     被告の販売費及び一般管理費率は二六・八六二パーセントであるので、
これにスプリングチャックの売上総額一〇七万七〇〇〇円を乗じると、販売費及び
一般管理費は二八万九三〇四円である。
     よって、被告のスプリングチャック販売による利益は、売上総額から製
造原価並びに販売及び一般管理費を控除した八二二八円である。
第三 当裁判所の判断
 一 争点1(意匠)について
  1 証拠(甲12、検甲10、乙8、証人【D】)によれば、本件各意匠にかかる
物品及びイ号ないしハ号物件であるばね製造機の線ガイド(先端線ガイド)とは、
次のようなものであることが認められる(なお、書証は、枝番の全部を含むとき
は、その記載を省略する。)。
   (一) 先端線ガイドは、ばね製造機において直線形状で送り出されてくるワ
イヤーを案内する部材であり、右ワイヤーがばね形状に加工される作業領域(以
下、単に「作業領域」という。)の直前に取り付けられるものである。
   (二) 作業領域には、直線形状で送り出されているワイヤーをばね形状に成
形したり、ばねのフック部分を成形したりするため、あるいは、ワイヤーを切断す
るための様々なツールが放射状に配置されている。ばね製造機では、この作業領域
において、これらのツールが交互に、あるいは同時に、先端線ガイドからワイヤー
が排出される部分に押し出され、これらが単独で、あるいは相互にワイヤーに作用
することによって、直線形状のワイヤーがばねの形状に成形される。
   (三) これらの各種のツールは、形成するばねの形状により、種類、配置位
置や移動方向が決定されるが、各ツールの種類や配置位置によっては先端線ガイド
と各種ツールとが干渉し合うことにより、十分な作業スペースが確保されなくな
る。
     そこで、従前、先端線ガイドがいわゆるホームベース型の五角形、ある
いは八角形であった当時は、ばね製造業者は、成形するばねの形状に合わせて、各
種ツールと先端線ガイドが干渉し合わないように先端線ガイドを切削して、形状を
整えることによって作業スペースを確保した上で作業を行っていた。
   (四) 原告は、ばね製造機の製造業者として、ばね製造機及び各種ツール等
を製造、販売しているが、右のような先端線ガイドの切削作業には熟練を要し、均
一のばねを製造するのに困難が伴うことから、各種ツールの形状、作動順序、配置
と先端線ガイドの形状について検討を重ねていた。その結果、成形するばねの形状
によって先端線ガイドを切削しなくとも、各種ツールと先端線ガイドが相互にうま
くかみ合い、互いに干渉し合うことなくばね成形作業を行うことが可能となるよう
に段落ち部を形成した先端線ガイドの意匠を創作し、これが本件第一、第二意匠及
び本件第一意匠の類似意匠として登録された。
  2 右認定の事実からすると、本件各意匠は、段落とし部の位置、形状にその
創作的な特徴があるものであり、従来の八角形の線ガイドとは根本的にその形状が
異なるものというべきである。また、本件各意匠は、ユーザーであるばね製造業者
が、成形するばねの形状に合わせて独自に切削した線ガイドの形状とも異なるもの
であるということができる。そうすると、本件各意匠は、単純な八角形の形状の線
ガイドの意匠の類似の範囲に属するものではなく、また、各ユーザが切削して使用
していた線ガイドの意匠とも類似するものではない(なお、本件各意匠と同一の形
状に切削した線ガイドを本件各意匠の出願前にユーザーが使用していたと認めるに
足りる証拠はない。)。
  3 争点1(一)(イ号意匠と本件第一意匠の類否)について
   (一) 証拠(甲2)によれば、本件第一意匠の構成は、別紙12【本件第一意
匠の構成】欄記載のとおりであると認められる。
   (二) 別紙1(イ号物件目録)添付の図面、証拠(検甲2)及び弁論の全趣
旨によれば、イ号意匠の構成は、別紙12【イ号意匠の構成】欄記載のとおりである
と認められる。
   (三) そこで、両意匠を比較すると、両者は、次の各点で共通するというこ
とができる。
    (1) 全体形状において、左右一対の半体を突き合わせてなるもので、正面
形状は上下方向に長い変形略八角形であり、正面図及び背面図は上下方向の中央を
通る仮想水平線を対称軸として線対称である点
    (2) 左右半体の基本形状において、左右半体各々は、これらの突合せ部の
前側部に形成された相互に対向する上下方向に渡る線材溝と、ボルト頭が嵌まり込
む段落ち部を有する前後方向(正面から背面へ)に貫通した上下方向に長い楕円状
の上下一対のボルト挿通孔と、後部上下部に形成された側面形状L字状の段部とを
有する点
    (3) 前面の形状において、右半体の前面には、突合せ部から右側に垂直線
(右第一線)及び更にその右側に垂直線(右第二線)が配設され、左半体の前面に
は、突合せ部から左側に垂直線(左第一線)及び更にその左側に垂直線(左第二
線)が配設されている点
    (4) 左半体の具体的構成において、左半体の左右側面は、背面に対し直角
の垂直平面であり、左半体の上側面は、突合せ部側から左第一線までの狭い水平面
と、次いで左側に向かって下り傾斜の傾斜平面とを有し、左半体の下側面は、突合
せ部側から左第一線までの狭い水平面と、次いで左側に向かって上り傾斜の傾斜平
面とを有し、左半体の前面は、突合せ部側から左第一線までの背面に対して平行な
狭い垂直面と、次いで背面に対して緩やかな角度の垂直平面を有するという点
    (5) 右半体の具体的構成において、右半体の左右側面は、背面に対して直
角の垂直平面であり、右半体の上側面は、突合せ部側から狭い水平面と、次いで正
面から見てL字状に表れる切欠き段部と、更に右側に向かって下り傾斜の傾斜平面
とを有し、右半体の下側面は、突合せ部側から狭い水平面と、次いで正面から見て
逆L字状に表れる切欠き段部と、更に右側に向かって上り傾斜の傾斜平面とを有
し、右半体の前面は、突合せ部側の背面に対して平行な狭い垂直平面と、次いで背
面に対して緩やかな角度の垂直平面とを有するという点
   (四) 他方、両意匠は、右半体の上下側面の形状について、本件第一意匠は
右第二線を越えた位置まで狭い水平面が形成され、次いで傾斜平面が形成されてい
るのに対し、イ号意匠は右第二線の位置まで狭い水平面が形成され、次いで傾斜平
面が形成されている点が異なるということができる。
   (五) そこで検討するに、右の本件第一意匠とイ号意匠の相違点は、両者の
全体形状、切欠き段部の位置及び形状、ボルト挿通孔の位置及び形状の類似性、特
に本件第一意匠の特徴というべき切欠き段部の位置、形状が酷似していることから
すれば、これら類似性に埋没する程度の微差にすぎないというべきであって、右相
違点をもって、両者が美感を異にするものということはできない。
     また、被告は、ボルト頭が嵌まり込む段落ち部の位置について、本件第
一意匠は左右端線を対辺とする四角形の内側に形成されているのに対し、イ号意匠
は右四角形からはみ出した位置に形成されていることを両意匠の相違点として挙げ
るが、本件第一意匠においても、ボルト挿通孔は厳密には右四角形から若干はみ出
した位置に形成されていることは、その図面上明らかであり、また、イ号意匠につ
いても、右四角形からはみ出す部分はごく僅かであるということができるから、右
相違点は一見して判別し難い程度の微差にすぎず、このことをもって、両意匠が美
感を異にするものであるということはできない。
   (六) よって、イ号意匠と本件第一意匠は類似するものというべきである。
  4 争点1(二)(ロ号意匠と本件第一意匠の類否)について
   (一) 本件第一意匠の構成は、前記3(一)に述べたとおりであり、証拠(甲
3)によれば、本件第一意匠の類似意匠の構成は、別紙13【本件第一意匠の類似意
匠】欄に記載のとおりであると認められる。
   (二) 別紙2(ロ号物件目録)添付の図面、証拠(検甲4)及び弁論の全趣
旨によれば、ロ号意匠の構成は、別紙13【ロ号意匠の構成】欄記載のとおりである
と認められる。
   (三) そこで、本件第一意匠の類似の範囲にある本件第一意匠の類似意匠と
ロ号意匠を比較すると、両者は、次の各点で共通するということができる。
    (1) 全体形状において、左右一対の半体を突き合わせてなるもので、正面
形状は上下方向に長い変形略一〇角形であり、正面図及び背面図は上下方向の中央
を通る仮想水平線を対称軸として線対称である点
    (2) 左右半体の基本形状において、左右半体各々は、これらの突合せ部の
前側部に形成された相互に対向する上下方向に渡る線材溝と、ボルト頭が嵌まり込
む段落ち部を有する前後方向(正面から背面へ)に貫通した上下方向に長い楕円状
の上下一対のボルト挿通孔とを有し、また、左半体は上下部に左右方向に貫通する
ねじ孔を有し、右半体は上下部に左右方向に貫通する前記左半体のねじ孔の軸芯と
軸芯を同一とする、ボルト頭が嵌まり込む段落ち部を有するボルト挿通孔を有する

    (3) 前面の形状において、右半体の前面には、突合せ部から右側に垂直線
(右第一線)及び更にその右側に垂直線(右第二線)が配設され、左半体の前面に
は、突合せ部から左側に垂直線(左第一線)及び更にその左側に垂直線(左第二
線)が配設されている点
    (4) 左半体の具体的構成において、左半体の左右側面は、背面に対し直角
の垂直平面であり、左半体の上側面は、突合せ部側から左第一線までの狭い水平面
と、次いで左側に向かって下り傾斜の傾斜平面と、更に傾斜の終わったところから
左に向かって狭い水平面とを有し、左半体の下側面は、突合せ部側から左第一線ま
での狭い水平面と、次いで左側に向かって上り傾斜の傾斜平面と、更に傾斜の終わ
ったところから左に向かって狭い水平面とを有し、左半体の前面は、突合せ部側か
ら左第一線までは背面に対して平行な狭い垂直平面と、次いで背面に対して緩やか
な角度の狭い垂直平面を有する点
    (5) 右半体の具体的構成において、右半体の左右側面は、背面に対して直
角の垂直平面であり、右半体の上側面は、突合せ部側から右第二線を越えた位置ま
での狭い水平面と、次いで正面から見てL字状に表れる切欠き段部と、更に右側に
向かって下り傾斜の傾斜平面とを有し、右半体の下側面は、突合せ部側から右第二
線を越えた位置までの狭い水平面と、次いで正面から見て逆L字状に表れる切欠き
段部と、更に右側に向かって上り傾斜の傾斜平面とを有し、右半体の前面は、突合
せ部側から右第一線までの背面に対して平行な狭い垂直平面と、次いで背面に対し
て緩やかな角度の垂直平面とを有する点
   (四) 他方、ロ号意匠は左右半体各々が後部上下部に形成された側面L字状
の段部を有するのに対し、本件第一意匠の類似意匠はそのような段部を有しない点
において、両意匠は相違するということができる。
   (五) そこで、本件第一意匠の構成をみると、ロ号意匠が本件第一意匠の類
似意匠と構成を異にする右(四)の点は、本件第一意匠の構成と同一であるというこ
とができる。
     したがって、ロ号意匠と本件第一意匠の類似意匠の右(四)の相違点をも
って、両意匠が美感を異にするものということはできない。そして、その余の点に
ついては、ロ号意匠の構成は本件第一意匠の類似意匠と同一の構成であるというこ
とができ、特に本件第一意匠の特徴というべき切欠き段部の位置、形状が酷似して
いることからすれば、本件第一意匠の類似意匠が本件第一意匠に類似する以上は、
ロ号意匠は本件第一意匠に類似するものというべきである。
  5 争点1(三)(ハ号物件と本件第二意匠の類否)について
   (一) 証拠(甲5)によれば、本件第二意匠の構成は、別紙14【本件第二意
匠の構成】欄に記載のとおりである。
   (二) 別紙3(ハ号物件目録)添付の図面、証拠(検甲6)及び弁論の全趣
旨によれば、ハ号意匠の構成は、別紙14【ハ号意匠の構成】欄に記載のとおりであ
る。
   (三) そこで、両意匠を比較すると、両者は、次の各点で同一である。
    (1) 全体形状において、左右一対の半体を突き合わせてなるもので、正面
形状は変形略八角形であり、正面図及び背面図は上下方向の中央を通る仮想水平線
を対称軸として線対称である点
    (2) 各半体の基本形状において、左右半体各々は、これらの突合せ部の前
側部に形成された相互に対向する上下方向に渡る線材溝と、ボルト頭が嵌まり込む
段落ち部を有する前後方向(正面から背面へ)に貫通した上下方向に長い楕円状の
一つのボルト挿通孔と、後部上下部に形成された側面形状L字状の段部とを有する

    (3) 前面の形状において、右半体の前面には、突合せ部から右側に垂直線
(右第一線)及び更にその右側に垂直線(右第二線)が配設され、左半体の前面に
は、突合せ部から左側に垂直線(左第一線)及び更にその左側に垂直線(左第二
線)が配設されている点
    (4) 左半体の具体的構成において、左半体の左右側面は、背面に対して直
角の垂直平面であり、左半体の上側面は、突合せ部側からの狭い水平線と、次いで
左側に向かって下り傾斜の傾斜平面とを有し、左半体の下側面は、突合せ部側から
の狭い水平面と、次いで左側に向かって上り傾斜の傾斜平面とを有し、左半体の前
面は、突合せ部側から左第一線までの背面に対して平行な狭い垂直平面と、次いで
背面に対して緩やかな角度の垂直平面を有する点
    (5) 右半体の具体的構成において、右半体の左右側面は背面に対して直角
の垂直平面であり、右半体の上側面は、突合せ部側からの狭い水平面と、次いで正
面から見てL字状に表れる切欠き段部と、更に右側に向かって下り傾斜の傾斜平面
とを有し、右半体の下側面は、突合せ部側からの狭い水平面と、次いで正面から見
て逆L字状に表れる切欠き段部と、更に右側に向かって上り傾斜の傾斜平面とを有
し、右半体の前面は、突合せ部側から右第一線までの背面に対して平行な狭い垂直
平面と、次いで背面に対して緩やかな角度の垂直平面を有する点
   (四) 他方、両意匠は、左半体の上側面及び下側面の突合せ部側の狭い水平
面が、本件第二意匠は左第一線までであるのに対し、ハ号意匠は左第一線を越えて
左第二線に至らないまでの範囲である点、及び、右半体の上側面及び下側面の突合
せ部側の狭い水平面について、本件第二意匠は右第二線までなのに対して、ハ号意
匠は右第一線を越えて左第二線に至らないまでの範囲である点が相違する。
   (五) そこで検討するに、両意匠の右相違点は、両者の全体形状、切欠き段
部の位置及び形状、ボルト挿通孔の位置及び形状の類似性、特に本件第二意匠の特
徴というべき切欠き段部の位置、形状が酷似していることからすれば、その類似性
に埋没する程度の微差にすぎないというべきであって、右相違点をもって、両者が
美感を異にするものということはできない。
   (六) よって、ハ号意匠は本件第二意匠に類似する。
  6 争点1(四)(被告の先使用権の有無)について
    前記2で認定判断したとおり、本件各意匠は、原告が自社で製造、販売す
るばね製造機のツールである先端線ガイドの形状として、ばね製造機に使用する各
種成形ツールの形状、配置位置等とともに、独自に創作したものであり、従前から
使用されていた八角形形状のA意匠及びB意匠とは、その基本形状が異なるものと
いうべきである。したがって、仮に、被告が、本件各意匠の出願前に八角形形状の
A意匠及びB意匠を実施していたとしても、このことをもって、本件各意匠につい
て、先使用に基づく通常実施権が成立するものではない。
    したがって、被告の主張は採用できない。
  7 争点1(五)(損害)について
   (一) 意匠法三九条二項による原告の損害額の推定について
    (1) 証拠(乙26ないし28、36)によれば、被告が製造、販売したイ号ない
しハ号物件の個数は合計三二個、売上総額は七〇万七〇〇〇円であると認められ、
これを覆すに足りる証拠はない。
    (2) ところで、意匠法三九条二項にいう「利益の額」とは、侵害者が侵害
行為によって得た売上額から侵害者において当該侵害行為たる製造、販売に必要で
あった諸経費を控除した額であると解するのが相当である。
    (3) そこで、右の点について検討すると、証拠(乙31ないし33)によれ
ば、被告の平成四年から平成六年までの各事業年度における売上高、製造原価及び
その売上高に占める割合並びに荷造運賃及びその売上高に占める割合は、それぞ
れ、次のとおりであると認められる。
     ① 第一〇期(平成四年五月一日から平成五年四月三〇日まで)
       売上高   一億五九三三万一〇〇五円
       製造原価  一億一六二〇万八三六七円(七二・九四パーセント)
       荷造運賃     一四三万四一七五円( 〇・九〇パーセント)
     ② 第一一期(平成五年五月一日から平成六年四月三〇日まで)
       売上高   一億五〇一二万三五六一円
       製造原価  一億〇九六三万五七三四円(七三・〇三パーセント)
       荷造運賃     一六七万〇二四一円( 一・一一パーセント)
     ③ 第一二期(平成六年五月一日から平成七年四月三〇日まで)
       売上高   一億八三八二万二八四七円
       製造原価  一億三四九一万六五一九円(七三・三九パーセント)
       荷造運賃     一八六万五六九三円( 一・〇一パーセント)
      右各事実によれば、被告における売上高に占める製造原価の割合は概
ね七三パーセント前後、荷造運賃は約一パーセントであると認められるから、被告
の製造、販売したイ号ないしハ号物件についても、その売上高に占める製造原価の
割合は、七三パーセント、売上高に占める荷造運賃の割合は一パーセントと認める
のが相当である。そうすると、被告がイ号ないしハ号物件を製造、販売することに
より得た利益は、売上高の二六パーセントであると認められ、これを覆すに足りる
証拠はない。右以外に、被告がイ号ないしハ号物件を製造、販売するために経費を
要したことを具体的に認めるに足りる証拠はない。
      なお、証拠(乙35)によれば、被告は、運送業者との間で、北陸、中
部、関西、中国地域に発送する場合、二キログラムまでは六〇〇円、五キログラム
までは七〇〇円などの料金設定による継続的な運送契約を締結していることが認め
られるが、証拠(乙26、29)からも明らかなとおり、被告の顧客に対する納品は、
他の商品と一括してされることが多いものと認められ、イ号ないしハ号物件をそれ
ぞれ個別に顧客に送付したと認めるに足りる証拠はないから、右設定料金に販売個
数を乗じて荷造運賃を算定するのは妥当ではない。
    (4) よって、被告がイ号ないしハ号物件を製造、販売することにより得た
利益は、イ号ないしハ号物件の売上高七〇万七〇〇〇円の二六パーセントに相当す
る一八万三八二〇円であると認められ、右金額は、意匠法三九条二項により、原告
が受けた損害の額と推定される。
   (二) 原告は、意匠法三九条三項に基づき、実施料相当損害金の請求もする
が、本件各意匠の実施料相当損害金について、右(一)で認定判断した金額を上回る
と認めるに足りる証拠はないから、採用することはできない。
 二 争点2(商標)について
  1 争点2(一)(商標としての使用)について
    証拠(甲10、11、13及び14)によれば、被告は、自らが発行する価格表、
納品書等に、その製造、販売する先端線ガイドの製品名として、「FWG」との標
章を使用していることが認められる。
    被告は、右表示は、原告の「FWG」で表示される部品と同じ役割を果た
す部品であることを示すためのものにすぎないから、商標としての使用には当たら
ないと主張する。しかし、商標法は、「商品又は役務に関する広告、定価表又は取
引書類に標章を付して展示し、又は頒布する行為」を標章の使用として定義してい
るところ(二条三項七号)、商品の価格表や取引書類等に、自らの商品について、
ある標章を付している場合には、当該標章が、他社製品に適合する部品であること
の説明として付記されているものであることが明白である場合はともかくとして、
そうでない場合には、商標としての使用に該当するものというべきである。この点
を被告の価格表及び取引書類についてみると、証拠(甲13、14)によれば、被告製
品のバネツールについての価格表には、原告の会社名、ばね製造機の製品番号を欄
外上部に記載し、右バネ製造器の各種部品、ツールの一般的な名称や金額等を記載
した一覧表中において、「先端ガイド」という部品名称と並べて「FWG」との表
記がされているものの、それ以外に右「先端ガイド」に関する被告製品の製品名、
製品番号等は明示されていないことが、また、証拠(甲10)によれば、被告の納品
書には、「品名」の欄に「VF830FWG」と表記され、その他、被告製品の製
品名、製品番号等は記載されていないことがそれぞれ認められる。右事実によれ
ば、これらで使用されている「FWG」の表示が、被告製品の商品表示ではなく、
原告の「FWG」で表示される部品と同じ役割を果たす部品であることを示すため
のものであることが明らかであるということはできないから、被告の主張を採用す
ることはできない。
    したがって、被告は「FWG」の標章を、商標として使用しているという
ことができる。
  2 争点2(二)(普通名称)について
    「FWG」との表示が、ばね製造機の先端線ガイドを示す普通名称である
と認めるに足りる証拠はない。
    なお、証拠(乙9、10)によれば、ばね製造機械の分野において、本件商
標の出願前より、線ガイドについて「ワイヤーガイド(wireguide)」、あるいは
「ファイナルワイヤーガイド」と表示されていたことが認められるが、右事実を超
えて、「FWG」との表示が、これらの部品(パーツ)の普通名称として使用され
ていたと認めるに足りる証拠はない。
    したがって、被告の主張は採用できない。
  3 争点2(三)(被告の先使用権の有無)
    証拠(乙11ないし20)によれば、被告は、本件商標の登録出願前から、先
端線ガイドについて、「FWG」との標章を使用していたことが認められる。しか
し、右各証拠により認められる「FWG」との標章の使用例は、いずれも、原告が
製造、販売するばね製造機に適合する部品の名称にかかるものであり、右使用の事
実のみをもって、「FWG」なる表示が、被告の業務にかかる商品であることを表
示するものとして需要者の間に広く認識されていたということはできず、その他、
これを認めるに足りる証拠はない。
    したがって、被告の主張は採用できない。
  4 なお、原告は、被告製品全般について、本件商標権の使用差止めを請求し
ているが、本件全証拠によっても、被告が先端線ガイド以外の商品について、本件
商標を使用していると認めることはできない。
    したがって、原告の被告に対する本件商標の使用差止請求は、先端線ガイ
ドに係る部分以外は、被告が「本件商標権の侵害をする者又は侵害をするおそれが
ある者」であると認めることはできないから、原告の主張を採用できない。
 三 争点3(特許権侵害)について
  1 争点3(一)(侵害の有無)について
   (一) 被告スプリングチャックが、本件特許発明の実施品である原告製造に
かかるばね半製品のフック起こし装置にのみ使用されるものであることは、当事者
間に争いがない。
   (二) 原告は、本件特許発明において、「半割り筒状ホルダー24、24」に該
当するスプリングチャックは、本件特許発明の構成要件に含まれると主張し、他
方、被告は、構成要件には含まれないものであると主張する。
     右について検討するに、本件特許権の特許請求の範囲には、「前記フッ
ク起こし加工部10に移動した状態のばね半製品挟持具20を挟持固定する一対の挟持
片78、78を有する固定具75と、」との構成が記載されているが、ここにいう「一対
の挟持片78、78を固定する固定具75」との構成部分に、スプリングチャックに相当
する「半割り筒状のホルダー24、24」が含まれるとは、明示的には記載されていな
い。
     そこで、この点について本件公報の記載を見ると、証拠(甲9)によれ
ば、本件公報には、発明の詳細な説明においては、「半製品挟持具20」は、「一対
の挟持片21、21」を有しており、当該「挟持片21、21」の先端には半製品を保持す
る「半割り筒状のホルダー24、24」が突設されていると説明されており(三欄一八
行ないし二六行)、「半製品挟持具20」の構成については、他の実施例の記載はな
いこと、また、発明の効果を記載した部分には、「半製品1を保持した、半製品挟
持具20(ホルダー24、24)を、一対の挟持片78、78を有する固定具75で保持して、
フック起こし作業を行なえるものであるから、即ち、半製品1の持ち変えを行なう
必要がないので、作業効率を高めることが出来る。」と記載されていること(七欄
一一行ないし八欄二行)、さらに、別の場所においては、「これと同時に固定具
75の挟持片78、78が閉じホルダー24、24を強固に保持する。」(六欄三五ないし三
七行)、「開かれた状態の挟持具20のホルダー24、24を半製品1に被せるべく起立
途中の揺動アーム17が完全に起立する。その後、ホルダー24、24が閉じて半製品1
を挟持すると、…半製品1をフック起こし加工部10に移動させる」(六欄一六行な
いし二三行)等と記載されていることが認められる。
     これらの記載を総合すると、特許請求の範囲における「半製品挟持具
20」とは、「半割り筒状ホルダー24、24」を備えた「挟持片21、21」をまとめて表
現したもの、すなわち、両者の構成を備えたものを表現するための用語であると解
するのが妥当であり、「半製品挟持具20」には、「半割り筒状ホルダー24、24」を
少なくとも含むものと解するのが妥当である。このように解さなければ、本件特許
発明において、「半製品挟持具」は、「ばね」という半製品を挟持することができ
ないし、また、持ち替えが必要ないという効果を奏することもできないことにな
り、不合理というべきである。
   (三) 前記のとおり、本件特許発明において、スプリングチャックに該当す
る「半割り筒状ホルダー24、24」は、持ち替えを要さずにフック起こし機に移動さ
せることができるということから生じる本件特許発明の作用効果を生じさせる中核
を担う部品であって、これを本件特許発明の付加的な構成部分ということはできな
い。また、本件特許発明において、「半割り筒状ホルダー24、24」は、成形するば
ねの大きさによって複数種類を用意する必要があると考えられるが、容易に摩耗す
るものとはいえず、これを当初より交換が予定されている消耗品の供給と同視する
ことはできないというべきである。
     被告は、スプリングチャックの製造、販売を差し止めるのは権利濫用に
当たると主張するが、スプリングチャックの本件特許発明における右のような性質
に鑑みれば、これを採用することはできない。
   (四) そうすると、被告スプリングチャックは、本件特許発明の特許請求の
範囲に記載された「半製品挟持具20」という構成の一部であり、その挟持作用を担
うものと解されるから、本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成要件の一
部に相当する部品であるということができる。
     前記のとおり、被告スプリングチャックは、本件特許発明の実施品にの
み使用されるものであるから、これを製造、販売する行為は、本件特許発明の技術
的範囲に属する物の生産にのみ使用する物を生産し、又は譲渡をする行為に該当
し、本件特許権を侵害するものとみなされる(特許法一〇一条一号)。
  2 争点3(二)(損害)について
   (一) 特許法一〇二条二項による損害額の推定について
    (1) 証拠(乙29、30)によれば、被告が製造、販売したニ号及びホ号物件
の個数は合計九五個、売上総額は一〇七万七〇〇〇円であると認められ、これを覆
すに足りる証拠はない。
    (2) 前記一7(一)で認定判断したとおり、被告における売上高に占める製
造原価の割合は七三パーセント前後、荷造運賃は約一パーセントであると認められ
るから、被告の製造、販売したニ号ないしホ号物件についても、その売上高に占め
る製造原価の割合は、七三パーセント、売上高に占める荷造運賃の割合は一パーセ
ントと認めるのが相当である。そうすると、被告がニ号及びホ号物件を製造、販売
することにより得た利益は、売上高の二六パーセントであると認められる。
    (3) よって、被告がニ号及びホ号物件を製造、販売することにより得た利
益は、その売上総額一〇七万七〇〇〇円の二六パーセントに相当する二八万〇〇二
〇円であると認められ、右金額は、特許法一〇二条二項により、原告が受けた損害
の額と推定される。
   (二) 原告は、特許法一〇二条三項に基づき、実施料相当損害金の請求もす
るが、本件特許権の実施料相当損害金について、右(一)で認定判断した金額を上回
ると認めるに足りる証拠はないから、採用することは出来ない。
 四 結論
   よって、本訴請求は、主文第一項ないし第四項の限度で理由がある。
(平成一一年八月二三日口頭弁論終結)
  大阪地方裁判所第二一民事部
         裁判長裁判官小   松   一   雄
            裁判官渡   部   勇   次
            裁判官   水   上       周

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