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判決言渡平成19年12月13日
平成19年(行ケ)第10070号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年12月6日
判決
原告エスペリオンセラピューティクス
インコーポレーテッド
訴訟代理人弁護士矢部耕三
同末吉剛
訴訟代理人弁理士江尻ひろ子
同泉谷玲子
同山本修
被告特許庁長官
肥塚雅博
指定代理人平田和男
同種村慈樹
同唐木以知良
同内山進
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日
と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2002−24664号事件について平成18年9月27日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
本件はスウェーデン国法人であるカビ・ファーマシア・アクチボラーグ以,(
下「訴外会社」という)が後記発明につき特許出願をし,その後原告がその。
権利を承継したところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求を
したが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案
である。
争点は,本願発明が,下記引用例a∼fとの関係で進歩性(特許法29条2
項)を有するかである。

・引用例a:特表平2−500797号公報(発明の名称「大腸菌中で発現さ
れるヒトアポリポタンパク質AⅠ及びその変異形,出願人A,」
国際公開日昭和63年〔1988年〕5月5日,国内公表日平
成2年3月22日,甲1)
・引用例b:国際公開第90/12879号パンフレット(甲2)
・引用例c:J.Biol.Chem.Vol.265,No.21(1990)p.12224-12231(甲3)
()・引用例d:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.83,No.20(1986)p.7643-7647甲4
・引用例e:Biochim.Biophys.Acta,Vol.960,No.1(1988)p.73-82(甲5)
・引用例f:J.Clin.Invest.,Vol.66,No.5(1980)p.901-907(甲6)
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
訴外会社は,平成4年(1992年)12月11日,名称を「アポリポ蛋
白質の分子変異体の2量体およびその製造方法」とする発明につき,優先権
主張を1991年(平成3年)12月13日(スウェーデン)として国際出
願(特願平5−510842号,以下「本願」という。翻訳文提出日平成
5年8月10日,国内公表日平成7年3月30日,公表特許公報は特表平
7−502892号〔甲8)をした。その後原告は,訴外会社の一般承継〕
人であるファーマシアアンドアップジョンアクチボラーグ(スウェーデ
ン国法人)を経て原告が特許を受ける権利の譲渡を受け,特許庁に平成11
年7月13日付けで名義変更届を提出した(甲17)が,平成14年4月3
0日拒絶査定を受けたので,平成14年12月24日付けで不服の審判請求
をした。
特許庁は同請求を不服2002−24664号事件として審理することと
し,その中で原告は,平成15年1月22日付け手続補正書で,発明の名称
を「アポリポ蛋白質A1−ミラノの2量体の製造方法」と変更するとともに
明細書の記載も変更する補正(請求項の数8,以下「本件補正」という。甲
7)をしたが,特許庁は,平成18年9月27日「本件審判の請求は,成,
り立たない」との審決をし,その謄本は平成18年10月23日原告に送。
達された。
(2)発明の内容
本件補正後の特許請求の範囲は,上記のとおり請求項1ないし8からなる
が,その請求項1に記載された発明(以下「本願発明1」といい,このうち
下記(b)を選択した場合の発明を「本願発明1」という)は,次のとおり’。
である(甲7。)

「請求項1】【
(a)組換え技術により大腸菌からアポリポ蛋白質A1−ミラノを製造
し,該アポリポ蛋白質A1−ミラノを分裂し,その後存在する単量
体を2量体に変換させるか,または
(b)アポリポ蛋白質A1−ミラノ,単量体および2量体を大腸菌中の発
現系統においてバクテリア培養媒体に分泌させる組換え技術により
アポリポ蛋白質A1−ミラノを製造し,その後存在する単量体を2
量体にさせるか,または
(c)アポリポ蛋白質A1−ミラノキャリヤから血漿を集め,単量体を純
化し,その後その単量体を2量体に変換させ,
そして2量体をほぼ純粋な形状に純化することにより製造することを特徴
とするアポリポ蛋白質A1−ミラノの2量体の製造方法」。
(3)審決の内容
ア審決の詳細は,別添審決写しのとおりである。
その要点は,本願発明1は,前記引用例a∼fに記載された発明に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項によ
り特許を受けることができない,というものであった。
イなお,審決は,本願発明1と引用例aに記載された技術的事項とを対比
した一致点と相違点を,次のように認定した。
〈一致点〉
いずれも,アポリポ蛋白質A1−ミラノ2量体に関するものである点。
〈相違点〉
本願発明1は(1)アポリポ蛋白質A1−ミラノ2量体の製造方法であ,
って,(2)その製造方法は,前記(2)記載の(a)∼(c)いずれかの方法により
2量体を製造し,さらに,(3)当該2量体をほぼ純粋な形状に純化するも
のであるのに対し,引用例aには,アポリポ蛋白質A1−ミラノを製造す
ることは記載されているが,それを2量体へと変換することについては記
載されていない点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には以下に述べるとおりの誤りがあり,この誤りに基
づいて審決は本願発明1’の進歩性を否定したものであるから,違法として
取り消されるべきである。
ア取消事由1(周知技術の認定の誤り)
(ア)審決は,本願発明1’におけるA1−ミラノの製造方法である「大腸
」,菌中の発現系統においてバクテリア培養媒体に分泌させることに関し
目的蛋白質をコードする遺伝子の5’末端側に分泌シグナル配列を付加
して,目的蛋白質を培養媒体に分泌させることは,当該技術分野におけ
る周知技術であるとする(審決8頁30行∼32行。)
しかし,以下に述べるとおり,組換えによる目的蛋白質をバクテリア
培養媒体に分泌させる技術は優先日(平成3年12月13日)当時周知
ではなかったから,審決の上記認定は誤りである。
(イ)a「分泌」という語句の意味は「広義には,細胞がその代謝産物を析,
出または排出すること。あらゆる生活細胞に普遍的な現象であるが,
普通はとくにその生産物すなわち分泌物(secretion独Sekret)が生
体にとり特殊な用途をもつような場合にこの語を用い,生体に不用な
代謝産物を出す場合には排出といって区別する。…(八杉龍一ほか」
編・岩波生物学辞典第4版〔1996年7月12日第2刷岩波書店
発行〕1256頁,甲18)と定義される(今堀和友ほか監修・生化
学辞典第3版〔1999年2月15日第3刷株式会社東京化学同人
発行〕1245頁にも同様の定義がされている。甲19。)
グラム陰性菌である大腸菌は,細胞構造を維持する最外層構造とし
て,内膜(細胞質膜)と外膜を有する。内膜の内部は細胞質であり,
内膜と外膜の間の部分はペリプラズムと呼ばれる。外膜が最も外側の
構成成分であり,リン脂質の膜にリポ多糖,蛋白質,リポタンパクが
存在し,リポ多糖とペプチドグリカンが結合して安定した構造を保っ
ている。そして,培養媒体とは,外膜の外,すなわち菌体の外部を意
味する。
したがって,目的蛋白質の培養媒体への分泌とは,細胞質内で合成
された目的蛋白質が,内膜,ペリプラズム及び外膜を通過し,菌体か
ら完全に放出され,培養液中に移行することを意味する。
これに対し,細胞溶解,溶菌,細胞の破砕及び外膜の損壊など,破
壊的な手段で細胞内の代謝産物を取り出すことは「細胞からの析出,
または排出」という上記定義には該当しないから「分泌」には含ま,
れない。また,遺伝子組換えによる蛋白質生産の分野において,当業
者は,目的蛋白質を多量に,簡単に,そして高純度で生産することを
目的としているのであり「分泌」という語句も,この観点から解釈,
されなければならない。菌体を用いて蛋白質を生産する場合,当業者
の上記目的を達成するには,菌体を保持したまま,目的蛋白質を菌体
。,外に積極的に出すことが必要であるこの当業者の常識に照らしても
培養媒体中への「分泌」とは,菌体を破壊することなく目的蛋白質を
培養媒体中へ,すなわち菌体外へ出すことを意味している。
b本願発明1’における「分泌」の概念が以上のようなものであるこ
とは,本願明細書の記載からも明らかである。
すなわち,本願明細書(甲7)には「ペリプラスミツク空間およ,
び成長媒体に対するApoA1−Mの直接分泌に関するベクトルの
構造(段落【0041「ベクトル構造の目的は成長媒体中に分。」】),
泌された非常に高いレベルのApoA1−Mを有する大腸菌中でA
poAI−M用の製造分泌系を得ることにあった(段落【004。」
4)として,目的蛋白質を培養媒体中へ分泌させることを前提とす】
る記載がある。また,本願明細書の例4(段落【0042】以下)
では,誘導開始後4時間,培養温度37℃という温和な培養条件下で
あるにもかかわらず,アポリポ蛋白質A1−ミラノの培養媒体中の濃
度が2.3g/ℓという非常に高い値を示しており,これは細胞の損
傷や破砕では説明できず,蛋白質が外膜を通過したことを示すものと
考えられる。さらに,本願明細書の実施例中には,大腸菌を破砕する
,,工程及び外膜を損傷する工程は何ら採られていないにもかかわらず
上清中(25頁11行,すなわち培養培地中に,アポリポ蛋白質A)
1−ミラノが得られている。その上,特許請求の範囲も,「バクテリ
ア培養媒体中に分泌させる」として,積極的かつ意図的にタンパク質
,,を菌体外に出す発明として表記しているばかりでなく請求項1には
本願発明1’に該当する(b)とは別の選択肢(a)として,細胞を破壊し
,,て目的蛋白質を取り出す態様が記載されておりこれとの対比からも
本願発明1’は,菌体を破壊する態様を含んでいない。
(ウ)a上記の意義における蛋白質の培養媒体への分泌の技術は,以下に述
べるとおり,本願優先日である1991年(平成3年)12月13日
当時,決して周知ではなかったものである。
本願優先日の5年後である1996年(平成8年)に掲載された学
術論文であるMariaSandkvistとMichaelBagdasarian「組換えタンパ
ク質のグラム陰性菌による分泌(カレント・オピニオン・イン・バ」
,。「」。)イオテクノロジー7巻505頁以下甲9以下甲9論文という
には,蛋白質のペリプラズムへの移行に関し,次の問題が指摘されて
いる。第1に,シグナル配列を結合した蛋白質がすべて容易に細胞質
膜を通過するわけではない(甲9〔原文〕508頁右欄“TypeII
secretionapparatus”15行∼17行〔訳文〕12頁1行∼2行。,)
第2に,バクテリアのペリプラズムを産生するためのスケールアップ
法は,依然として開発段階にある(甲9〔原文〕同41行∼43行,
〔訳文〕同下4行∼6行。このように,本願優先日の5年後の時点)
,,においても細胞質から内膜を超えてのペリプラズムへの移行でさえ
目的蛋白質によっては適用できず,さらなる知見・技術の蓄積が必要
とされる状況であった。
bその上,目的蛋白質がペリプラズムへ移行後,更に外膜を通過する
ための機構に関しては,甲9論文には宿主である大腸菌に非常に多く
の操作・工夫が必要であることが述べられており(甲9〔原文〕50
9頁左欄第1,2パラグラフ〔訳文〕13頁2行∼14頁1行,同,)
機構は同論文掲載時点でも明らかではなく,蛋白質ごとに異なった作
用・機構が働いているであろうという知見が得られつつある状況でし
かなかった。
甲9論文の著者らは,結論として「…分泌の機序に関する我々の,
理解がこの3又は4年間で多大に増加したという事実に関わらず,我
,,々はタンパク質の細胞外トランスロケーションを支配する分子機序
特にII型及びIII型の系による機序を少しも理解していない…甲。」(
〔〕“”,〔〕9原文509頁右欄Concludingremarks7行∼12行訳文
15頁13行∼16行)と述べている。つまり,1996年(平成8
),,年の前3∼4年の間に顕著な知見の蓄積があったがそれでもなお
タンパクの菌体外分泌を支配する分子メカニズムの理解にはほど遠い
ものであり,培養媒体への分泌の試みは試行錯誤が必要な状況であっ
たというのである。
なお,甲9論文には,I型分泌装置に関し「単離遺伝子の操作の宿,
主として,大腸菌は,間違いなく,最も普遍的で,今日まで最もよく
研究された生物である。それには,1つだけ欠点がある:実験株のK
。」12及びBがタンパク質を細胞外の培地へ分泌しないことである…
(甲9〔原文〕508頁左欄“TypeIsecretionappartus”1行∼4
行〔訳文〕9頁下2行∼10頁2行)と記載されている。,
cしかも,甲9論文のほか,特許文献(特許庁編・特許マップシリー
ズ化学10「遺伝子工学」1999年〔平成11年〕5月14日初
版社団法人発明協会発行〔甲20,学術文献(引用例d〔甲4,〕)〕
塚越規弘編・生物化学実験法45「組換えタンパク質生産法」200
1年〔平成13年〕5月15日初版吉田眞次発行〔甲22,Joan〕
A.StaderandThomasJ.Silhavy,“EngineeringEscherchiacolito
SecreteHeterologousGeneProducts”,MethodsinEnzymology,vol.
185(1990)166-187〔乙1,以下「乙1論文」という,辞典類(瀬野。〕
「」〔〕悍二編バイオサイエンス戦略マニュアル1990年平成2年
7月25日初版1刷共立出版株式会社発行甲21太田次郎編バ〔〕,「
イオサイエンス事典」2007年〔平成19年〕2月10日新装版
〔〕),第1刷株式会社朝倉書店発行甲23のいずれの観点からしても
本願優先日ころから現在に至るまで,大腸菌は生産した蛋白質を培養
媒体中に分泌しないと認識されてきた。
したがって,蛋白質を大腸菌から培養媒体中に分泌させる技術が周
知でなかったことは明らかである。
(エ)これに対し審決は,大腸菌中の発現系統を用いて目的蛋白質を培養媒
体に分泌させて製造することが記載された例として,引用例aを挙げる
(8頁32行∼35行。)
しかし,引用例a(甲1)の実施例1の実験では,大腸菌を培養し,
目的蛋白質の合成を誘発した後,細胞を破砕している(10頁左下欄7
行∼下3行。細胞破砕物を処理・分析して得られるということは,得)
られているアポリポ蛋白質A1は細胞内(ペリプラズムを含む)に留ま
ったものであることを意味する。細胞粗抽出物(培養媒体ではない)を
処理・分析して,10mg/ℓのアポリポ蛋白質A1が得られたとの記載
(10頁右下欄3行∼11行)も同様である。したがって,本実験では
目的蛋白質を培養媒体中へ分泌させることは意図されていないし,培養
媒体中に分泌されていないと考えられる。
また,実施例3においても,細胞培養物を遠心分離によりペレット化
し,菌体の固まりを得,そしてその得られたペレットをゲル電気泳動バ
,()。ッファに懸濁し電気泳動分析を行っている15頁右上欄2行∼6行
つまり,培養媒体中の産物を分析したのではなく,菌体に留まっている
産物を分析している。ここでも目的蛋白質を培養媒体中へ分泌させるこ
,。とは意図されていないし培養媒体中に分泌されていないと考えられる
なお,審決は,引用例aの実施例3に関し「…18個のアミノ酸から,
なるプレ配列をN末端側に付加することにより,分泌発現させる態様も
」(),,記載されている…8頁33行∼35行とするがこのプレ配列は
上記のとおり,培養培地中への分泌を実現したものではない。
(オ)a被告は「分泌」という語句は,細胞外皮の損傷による漏出や細胞,
溶解も含む旨の独自の主張を展開し,漏出の例及びタンパク質を大腸
菌から培養媒体中に分泌させる技術が周知であったことの証拠とし
て,乙1∼3の各文献を提出する。
,「」,「」,しかし漏出とは予測に反して正に漏れ出ることであり
乙1論文における培地中の蛋白質濃度も2㎎/ℓ程度にすぎない(乙
1論文184頁28行。蛋白質の生産を目指す技術分野において,)
培養媒体中への分泌とは,積極的に意図して行われる相当な量の蛋白
質の移動であり「漏出」のように偶発的で微量の発現を指すもので,
はない。
また,これらの文献の公開時期は,乙1論文及び乙2(Sabine
Riethdorf,etc.“ExcretionintotheCultureMediumofaBacillus
β-GlucanaseafterOverproductioninEscherichiacoli”,
ZeitschriftfrNaturforschung.C,Journalofbiosciences,45(199ü
0)240-244以下乙2論文というが平成2年であり乙3Ilari,「」。),(
Suominen,etc.“Extracellularproductionofclonedα-amylaseby
Escherichiacoli”,Gene,61(1987)165-176,以下「乙3論文」とい
う)が昭和62年であって,いずれも本願優先日(平成3年)に極。
めて近接した時期に公開されており,これらの内容が短期間のうちに
,。,業界に知れ渡りよく用いられるようになったとは考え難いしかも
乙1論文∼乙3論文には,これらの投稿時において,タンパク質を大
腸菌から培養媒体中に分泌させる技術が周知であったことを示す記載
はみられず,かえって,乙1論文中には,E.coli(大腸菌)は通常,
タンパク質を分泌しない旨が繰り返し言及されている(原文〕16〔
7頁11行∼14行・訳文〕1頁23行∼25行,原文177頁1〔
3行∼14行・訳文〕8頁7行)上,上記技術が周知であることと〔
は矛盾する記載さえある乙1原文180頁19行∼20行訳(〔〕,〔
文〕10頁21行∼22行。)
bまた被告は,本願実施例で10時間や22時間の誘導を行った例が
あるという点を根拠として,本願発明1’において,蛋白質が細胞外
皮の損傷などによって漏出したと主張する。
しかし,本願実施例では,短い誘導時間で高いタンパク質濃度に到
達する例も記載されている(誘導開始後4時間で2.3g/ℓ〔甲7
段落【0047,5時間で1.3g/ℓ〔段落【0050。被告】〕】〕)
は,自己に都合の良い10時間や22時間という長時間の例のみを作
為的に抜き出しており,恣意的というほかない。
cなお,被告は本願明細書の記載をるる挙げて「分泌」の概念を拡,
張しようとするが,査定系の事件において,特許出願に係る発明の進
歩性の審理では,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確
に理解することができないなど特段の事情がある場合に限って,明細
書の詳細な説明の記載の参酌が許されるにすぎない。特段の事情のな
い限り,発明の要旨認定は,特許請求の範囲の記載に基づいてなされ
るべきである(最高裁判所平成3年3月8日第二小法廷判決・民集4
5巻3号123頁参照。)
上述したとおり,本願発明1’の属する技術分野において,当業者
は,「分泌」という語句の技術的意義につき,菌体を破壊することなく
目的タンパク質を培養媒体中へ出すことと一義的に明確に理解するこ
とができる。したがって,分泌の概念を拡張しようとする被告の解釈
は誤りである。
イ取消事由2(顕著な効果の看過)
本願発明1’においては,目的蛋白質であるアポリポ蛋白質A1−ミラ
ノは外膜の外,すなわち培養媒体に分泌され,しかも,①誘発後4時間で
2.3g/ℓ,更に2時間後では2.5g/ℓの濃度で分泌,②誘発処理1
0時間後に,3.7g/ℓの濃度で,処理後22時間で4.4g/ℓの濃度
で分泌,③誘発処理5時間後に1.3g/ℓの濃度で分泌されている(本
願明細書の例4参照。特に,③では,300ℓのバイオリアクターで高濃)
度の生産を確認しており,これは工業的レベルでの実施を可能とするもの
である。
一方,従来技術である引用例aでは,0.2mg/ℓ及び10mg/ℓのア
ポリポ蛋白質A1が菌体内に得られているにすぎないのであって,本願発
明1’における生産量は,引用例aと比較して100倍以上,最高440
倍にも及ぶ。
しかも,本願発明1’の方法により得られるアポリポ蛋白質A1−ミラ
ノ2量体は,繊維素溶解活性に関し,取消事由4において述べるように,
従来技術と比較して約10倍以上,場合によっては約22倍,約53倍に
も達する効果を奏するものである。そのような有用な蛋白質を工業的レベ
ルで極めて効率的かつ大量に製造し得ることは,本願発明1’の格別顕著
な効果である。
審決は,この本願発明1’の顕著な効果を看過するものであり,明らか
に誤りである。
ウ取消事由3(引用例dの適用の困難性についての判断の誤り)
(ア)審決は,引用例dの,①チオレドキシンは還元され,変性されたRN
アーゼの再活性化(還元型RNアーゼを酸化することによる分子内ジス
ルフィド結合の形成)において効果的であることと,②チオレドキシン
はジスルフィド交換のための触媒として働くことについての各記載(記
載事項(d1,6頁4行∼7行)を引用して,アポリポ蛋白質A1−)
ミラノ単量体に,ジスルフィド結合を形成させる方法(d1)を適用し
て2量体化することは,当業者にとって格別な困難性を有するものでは
ないとする。
しかし,審決の上記判断は,以下に述べるとおり,上記記載事項(d
1)に係る方法がアポリポ蛋白質A1−ミラノの2量化に適用できると
いう前提において誤りがある。
(イ)記載事項(d1)の①(酸化によるジスルフィド結合の形成)に関す
る審決の誤り
記載事項(d1)の①(酸化によるジスルフィド結合の形成)は,ウ
シ膵臓RNアーゼAという特定の蛋白質について,酸化型チオレドキシ
ンから還元型チオレドキシンへの反応(酸化型チオレドキシン()-S-S-
+→還元型チオレドキシン()+)によるジス2X-SH2-SHX-S-S-X’
ルフィド結合の形成の例を示したものであるところ,酸化型チオレドキ
シンから還元型チオレドキシンへの反応は,これによりジスルフィド結
合(−S−S−)が形成されることにはなるが,酸化型チオレドキシン
の還元は一般的に起きるものではなく,むしろ特異的である。還元が起
きる例は,NADPH及びチオレドキシンレダクターゼによる方法など
に限られている。
また,蛋白質の立体構造は,アミノ酸配列など多数の因子に依存して
,。おりジスルフィド結合を形成するサイト付近の立体構造も様々である
それゆえ,分子間ジスルフィド結合の形成により蛋白質を2量化する方
法は,蛋白質に応じて異なり,ある蛋白質で有効な手法が他の蛋白質で
も有効であるとは限らず,蛋白質間のわずかな違いでも2量化に大きな
差異をもたらす(SadBOUHALLAB,etc.“Copper-catalyzedformationofï
diulfide-linkeddimerofbovineβ-lactoglobulin”,Lait84(2004)517
-525,甲13,以下「甲13論文」という。本願発明1’のアポリポ。)
蛋白質A1−ミラノは,ウシ膵臓RNアーゼとは全く異なる蛋白質であ
る。したがって,この例から,直ちにチオレドキシンがアポリポ蛋白質
A1−ミラノの2量化に有効であるとはいえない。
したがって,この事例が適用できる蛋白質は限定され,かつ,特異的
で一般化されるものではないから,上記①の手法を本願発明1’のアポ
リポ蛋白質A1−ミラノに適用できるものではない。
(ウ)記載事項(d1)の②(ジスルフィド交換)に関する審決の誤り
記載事項(d1)の②は,スクランブルされたRNアーゼ(リボヌク
レアーゼ)のジスルフィド交換による再活性化に言及したものであり,
既にジスルフィド結合を形成済みで−SH基を有していない蛋白質を対
象とするものである。
これに対し,本願発明1’は,同発明の方法により大腸菌の発現系統
においてバクテリア培養媒体に分泌されたアポリポ蛋白質A1−ミラノ
(これには多量の単量体が含まれている。本願明細書図6を参照)に,
ジスルフィド結合を新たに形成することにより,単量体を2量体にする
工程を含んでいるのであり,既に形成されたジスルフィド結合の組替え
を行っているのではない。すなわち,本願発明1’で必要とされている
,,。工程はジスルフィド結合の形成であってジスルフィド交換ではない
したがって,本願発明1’では,記載事項(d1)の②の技術を必要
としておらず,同技術を適用する必要はない。
エ取消事由4(顕著な作用効果についての判断の誤り)
(ア)a審決は,本願発明1’により得られたアポリポ蛋白質A1−ミラノ
2量体が繊維素溶解刺激特性を有していることについて,2量体を得
ることが十分動機付けられる以上アポリポ蛋白質A1−ミラノ2量体
自体が有する性質は本願発明1’の容易性の判断に影響を与えない旨
述べる(審決9頁下8行∼下2行。)
しかし,製造方法の発明の技術的範囲はその方法により生産した物
の使用に及ぶ(特許法2条3項3号,68条)ところ,生産した物の
使用によって発揮される効果は,製造方法の発明の実施によって奏す
る効果であり,また,生産した物が新規である場合には,生産した物
の使用によってもたらされる効果も,製造方法の発明によって初めて
実現した効果である。したがって,この場合の生産した物の効果は,
進歩性の判断に当たって参酌されるのが相当である。
,,’,そして化学分野とりわけ本願発明1の属する医薬品分野では
発明の作用効果が発明の構成から予測し難く,実際に実験を行ってみ
。,なければ作用効果が判明しないことは広く知られているしたがって
ある発明に想到することが一見容易であるように見えても,その発明
が当時の技術水準から予測される範囲を超えた顕著な作用効果をもた
らすものであれば,これを特許するのが相当というべきである。
b本願発明1’は,アポリポ蛋白質A1−ミラノの2量体をほぼ純粋
な形状で製造する方法であり,物を生産する方法の発明である。そし
て,本願発明1’では,アポリポ蛋白質A1−ミラノの2量体が,ほ
ぼ純粋な形状,すなわち,2量体が90%以上,好ましくは98%以
上を占める状態(本願明細書〔甲7〕9頁段落【0023)に純化】
されて製造される。このような高純度のアポリポ蛋白質A1−ミラノ
2量体は,本願優先日において知られていなかった。
したがって,本願発明1’で得られる純粋な形状のアポリポ蛋白質
A1−ミラノ2量体の奏する効果は,本願発明1’の効果として参酌
されなければならない。
この点,被告は,本願発明1’で製造されるアポリポ蛋白質A1−
ミラノ2量体が引用例fに既に記載されていると主張するが,本願発
明1’のアポリポ蛋白質A1−ミラノ2量体は天然に存在するものと
実質的に同一の立体構造及び生理活性を有し,変性していないものを
指しているのに対し,引用例fのアポリポ蛋白質A1−ミラノ2量体
は,SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)
によって分離されたもので,変性されているから,両者は異なる物質
であり,新規性を失っていない。引用例eでも,SDS−PAGEに
よって蛋白質の分離が行われているため,引用例fと同様に,本願発
明1’のアポリポ蛋白質A1−ミラノ2量体の新規性が失われるもの
ではない。審決には,引用例e及び引用例fのアポリポ蛋白質A1−
ミラノ2量体の精製に関する記載について全く摘示されておらず(民
事訴訟法179条を特許審査及び審判に準用するという規定は設けら
れておらず,争いのない事項を審決から省略することが許されるわけ
ではない,被告の主張は審決に基づかないものである。。)
(イ)aそして,本願発明1’の方法で製造されるほぼ純粋な形状のアポリ
ポ蛋白質A1−ミラノ2量体は優れた繊維素溶解活性(繊維素の溶解
は血管壁上の繊維素堆積に対する主要な防御手段であり,血栓症の予
防に有用である)を示し,従来技術と比較してt−PAによるプラ。
スミノーゲン活性化に対するアポリポ蛋白質A1−ミラノ2量体の効
果につき約10倍ないし約22倍(本願明細書の段落【0085】参
照,プラスミノーゲンの自己賦活につき約53倍(本願明細書の段)
落【0076】参照)にも達する効果を奏する。かかる効果は,従来
技術と同じ種類の効果であっても,その程度は従来技術と一桁異なる
量的に格段に優れたものであり,進歩性を肯定するのに十分顕著なも
のである。
bこの点,審決は,アポリポ蛋白質A1−ミラノの繊維素溶解刺激特
()性という効果は予測可能なものであるとする10頁下9行∼下8行
が,本願優先日において,アポリポ蛋白質A1の繊維素溶解作用につ
いて公知であったとしても,アポリポ蛋白質A1−ミラノ2量体に優
れた繊維素溶解作用があるという開示はなされていない。引用例aに
は,アポリポ蛋白質A1−ミラノの特性に関し,脂質結合性の変化及
びHDL粒子の形成への寄与等が記載されているものの,繊維素溶解
と関連する特性は開示されておらず,ましてアポリポ蛋白質A1−ミ
ラノ2量体という構成が繊維素溶解に寄与する機序について,何ら開
示も示唆もされていない。そもそも,アポリポ蛋白質とは,脂質代謝
に関与する蛋白質であり,2量体の形成によって繊維素溶解という異
質の効果が顕著に発現すると予測することは困難である。
また,審決は,繊維素溶解作用を有するアポリポ蛋白質A1の変異
体であるA1−ミラノキャリア個体は,アテローム性動脈硬化になり
にくいという事実があることをもって,アポリポ蛋白質A1ミラノ2
量体と繊維素溶解系に関連性があることは,当業者であれば容易に推
測できるとする(10頁17行∼22行。しかし,アテロームの形)
成は,動脈内膜内にコレステロールを主体とする脂質が集積すること
によって開始され,拡大してアテローム板に至るものであって,繊維
素の形成に起因するものではないし,アテローム性動脈硬化は,血漿
コレステロールレベルの増加と関連があるのに対し,繊維素溶解活性
はプラスミノーゲンの活性化と関連があり,アテローム性動脈硬化の
原因であるアテロームの形成及び成長と繊維素形成との間には直接の
関係はない。したがって,アテローム性動脈硬化の防御効果と繊維素
溶解効果とは各々別の機序によるものと考えるのが合理的である。
なお,審決は,引用例bの記載事項(b2)を引用して「…高コ,
レステロールが原因で形成される繊維素についても,その溶解作用を
有することが知られていた…」(10頁14行∼15行)とするが,
記載事項(b2)は,アポリポ蛋白質A1に関するものであり,A1
−ミラノに関するものではないし,ましてA1−ミラノ2量体に関す
るものではない。ちなみに,被告は,アポリポ蛋白質A1−ミラノ2
量体の繊維素溶解活性の比較対照として,アポリポ蛋白質A1ではな
くアポリポ蛋白質A1−ミラノについてるる述べるが,このような主
張は審決から乖離するものであり,許容できない。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1)取消事由1に対し
ア本願優先日前の刊行物である乙1論文には,大腸菌における異種遺伝子
産物を分泌させる技術が紹介されているところ「…これまでの8∼10,
年間で我々は,生体膜を通過して分泌されるように変化したタンパク質が
E.coliの内膜を介してペリプラズムへと搬出されることが可能であるこ
とを多くの事例において立証することができている。…(訳文15頁2」
行∼5行)とあるように,多くの事例でペリプラズムへの移行が知られて
おり,これが困難というものではない。
乙1論文においては「分泌」なる用語を「…本稿で我々は“分泌”,,,
という用語の使用をタンパク質の成長培地への局在化を意味することに限
。」(),「,定する…訳文1頁17行∼18行組み換えタンパク質の分泌は
特異的であることが明らかにされていなければならない(例,漏出または
細胞溶解の結果であってはならない。…(訳文7頁19行∼20行)と)」
して限定的に用いている。これに対し,本願明細書には,本願発明1’に
おける「バクテリア培養媒体中に分泌させる」に関し,当該分泌の態様に
ついて何ら特定していないのであるから,本願発明1’では,当該文言に
包含されるいかなる態様も包含されるのである。
そして,乙1論文には,長時間の誘導により漏出が起こることが示され
ており(訳文14頁6行∼13行,15頁6行∼10行,このことは乙)
2論文,乙3論文にも記載されるように周知のことである。そして,本願
発明1’における「バクテリア培養媒体中に分泌させる」とは,本願明細
書(甲7)の段落【0048】においては10時間や22時間の誘導をお
こなっていることから,細胞外皮の損傷などにより培養媒体中に漏出する
態様も包含していると解するほかない。したがって,これを周知技術と判
断した審決に違法はない。
イ原告は,本願発明1’において「分泌」とは「細胞が,その代謝産物,,
を析出または排出すること」であり,細胞溶解,溶菌,細胞の破砕及び外
膜の損壊など,破壊的な手段で細胞内の代謝産物を取り出すことは「細,
胞からの析出または排出」という定義に照らし「分泌」には含まれない,
と主張し,本願優先日において,蛋白質を大腸菌から培養媒体中へ分泌さ
せることは困難であることの方が周知であったとしている。
確かに,乙1論文に記載されるように,細胞溶解,溶菌,細胞の破砕及
び外膜の損壊など,破壊的な手段(外膜の損傷を引き起こす過剰発現も含
め)なしに,真核生物の蛋白質を大腸菌から培養媒体中へ分泌させること
は,分子量の大きい蛋白質においては知られておらず,本願優先日におい
て困難であったものである。
しかし,本願明細書には原告の主張するような「分泌」の定義は記載さ
れておらず,本願発明1’においては,シグナル配列の機能によりペリプ
ラズムに分泌された蛋白質が,外膜の損傷により培養媒体中へ漏出するこ
とも「分泌」の概念に含ませるべきである。,
また,本願明細書の記載をみても,蛋白質を大腸菌から培養媒体中へ分
泌させることは困難であり,本願発明1’はそれを解決したものであるこ
とを説明する記載は見出せない。この一事からだけでも,本願発明1’に
おいて,困難であった狭い意味での「分泌」だけでなく,乙1論文などに
記載され,当業者が困難なく実施できる技術である,過剰発現された蛋白
質が,外膜の損傷により培養媒体中へ漏出することなども,用語「分泌」
の概念に含ませて理解せざるを得ないものである。
また,本願明細書の段落【0042】∼【0045】には本願発明1’
で用いられた材料やプラスミドの構築などについて説明されているとこ
ろ,ompAシグナル配列を用いることによりペリプラズムにまで分泌さ
せるという工夫は示されているが,外膜を通過させるための工夫は何ら示
。,,.されていないさらに本願明細書の例4においては誘導後4時間で2
3g/ℓの濃度に達したことが示されているが,明らかに過剰発現といえ
るほどの量が発現しているにもかかわらず,外膜の損傷により培養媒体中
へ漏出したのでない根拠は何ら示されていない。
したがって,本願発明1’において,狭い意味での「分泌」が意図され
ていると理解することはできない。
(2)取消事由2に対し
ア原告は,有用な蛋白質を工業的レベルで極めて効率的にかつ大量に製造
し得ることは,本願発明1’の格別顕著な効果であり,審決がこれを看過
して進歩性を否定したことは誤りである旨主張する。
しかし,本願発明1’は,アポリポ蛋白質A1−ミラノを大腸菌中の発
現系等においてバクテリア培養媒体中に分泌させることについて単に大,「
腸菌中の発現系統においてバクテリア培養媒体に分泌させる組替え技術に
より」と規定するのみであって,当該「組替え技術」の内容についてそれ
以上の限定をしていない。そうすると,採用する組替え技術によっては本
願明細書の実施例を下回る貧弱な分泌量しか得られないような態様をも含
むものであり,本願明細書の実施例に記載される分泌量が本願発明1’に
おいて必ず奏される効果とはいえない。
したがって,本願明細書の実施例の記載に基づく効果に触れずに進歩性
を否定したとしても違法ではない。
イまた,本願実施例の効果についてみても,比較する発現蛋白質の量は,
本願の実施例では培養上清中に得られたものであるのに対し,引用例aの
実施例では細菌培養物を再懸濁させて得たものであり,また,蛋白質を発
現させた時間も異なるから,これらが両実施例における大腸菌の発現蛋白
質の産生能ないし分泌能をそのまま反映するものであるとは直ちにはいえ
ず,当該比較に基づいて,本願の実施例が格別の効果を奏するものである
とはいえない。
(3)取消事由3に対し
ア原告は,2量体の形成に関し,引用例dに記載された方法をアポリポ蛋
白質A1−ミラノに適用することに特別な困難性はないとした審決の判断
は誤りである旨主張している。
しかし,一般に,チオレドキシンを作用させてジスルフィド結合を形成
させる技術は当業者に周知である。例えば,引用例dにおいては,牛の膵
臓のリボヌクレアーゼに対して大腸菌のチオレドキシンを作用させている
のであり,これらは本来特異的な反応が期待されるものではないところの
ものでありまた乙5KatsuzumiOkumura,etc.Thioredoxin-catalyzed,,(“
RefoldingofRecombinantProtein:RefoldingofHumanPro-urokinase”,
Agric.Biol.Chem.,52(11),2969-2972,1988,以下「乙5論文」という)。
にも,ヒトのプロウロキナーゼにチオレドキシンを作用させることが記載
されている。そうすると,原告主張のように,チオレドキシンによるジス
ルフィド結合の形成は特異的な反応であって,アポリポ蛋白質A1-ミラ
ノの2量化に用いても成功する見通しに乏しいとはいえない。
しかも,引用例dは審査段階から一貫して引用例とされていたにもかか
わらず,原告は,チオレドキシンの作用が特異的であると単に主張するの
みで,チオレドキシンによりアポリポ蛋白質A1−ミラノの2量体化がで
きないことを,具体的に一切示していない。
イ仮に引用例dに記載されるチオレドキシンによる方法が適用できないと
しても,本願発明1’においては2量体にさせる方法が何ら限定されてい
ないのであるから,チオレドキシンを用いた方法に限られず,本件優先日
前に周知の任意のジスルフィド結合の形成方法が適用できるものである。
例えば,引用例d(甲4)には空気酸化が記載され(甲4〔原文〕76
44頁右欄39行∼40行,乙4〔訳文〕1頁18行∼19行,この方)
法によってもジスルフィド結合の形成はできるのである。また,本願発明
1’において用いられている還元及び酸化グルタチオンを用いる方法も,
乙6(TakashiTsuji,etc.“CharacterizationofDisulfideBondsin
ReccombinantProteins:ReducedHumanInterleukin2ininclusion
”)BodiesandItsOxidativeRefolding,Biochemistry1987,26,3129-3134
や乙5論文の図(Fig.)2(原文〕2971頁〔訳文〕1頁下5行∼下4〔,
行)の「●」で示される例において行われているとおりよく知られた方法
である。したがって,審決の判断に誤りはない。
(4)取消事由4に対し
ア原告は,本願優先日において純粋な形状のアポリポ蛋白質A1-ミラノ
2量体は新規であったと主張するが,アポリポ蛋白質AI−ミラノの2量
体は,本願優先日において,既にアミノ酸分析もできる程度に純粋に精製
されていたのであり,本願発明1’による生産物自体は新規であるとはい
えない。引用例fにはアミノ酸分析もできる程度の純粋な形状に純化され
たアポリポ蛋白質A1−ミラノの2量体が記載されている。
そして,公知のアポリポ蛋白質A1−ミラノの2量体も同じく繊維素溶
解活性を有しているものであるから,審決で認定判断したように,アポリ
ポ蛋白質A1−ミラノ2量体自体が有する性質は,アポリポ蛋白質A1−
ミラノ2量体の製造方法に係る本願発明1’の容易性の判断に影響を与え
ない。
なお,審決においては,引用例fに上述の記載があることを特に摘記し
てはいないが,これは,原告が,審判請求書の請求の理由を変更する平成
15年1月22日付け手続補正書(乙8)において,引用例e及び引用例
fには「血漿から精製されたアポリポ蛋白質A1−ミラノの2量体が記載
されており,…(3頁下7行∼下6行)と自ら述べているとおり,精製」
されたアポリポ蛋白質A1−ミラノ2量体自体は公知のものであることに
ついて,原告(審判請求人)が争っていなかったからである。審決は,こ
のように,精製されたアポリポ蛋白質A1−ミラノの2量体が公知文献に
記載されているという争いのない事実を前提に,2量体を得ることが十分
動機付けられると判断したものである。
イ原告は,本願明細書の表5,表7及び表10の記載を根拠に,アポリポ
蛋白質A1−ミラノ2量体が,アポリポ蛋白質A1と比較して,少なく見
積もっても52.6倍(表5,約10倍以上(表7,及びアポリポ蛋白))
質A1が負の効果であるのに対し極めて大きな効果(表10)があると主
張する。
これらの表に示される数値の誤差の程度については明細書の記載から全
く明らかでなく,原告主張の倍率はそのまま認められるものではないが,
表5や表10においてはアポリポ蛋白質A1の測定値が対照のものよりか
えって劣っていることが示されていることから,アポリポ蛋白質A1は繊
維素溶解活性がほとんどないであろうことを読み取ることができる。この
ように,繊維素溶解活性がほとんどないであろうアポリポ蛋白質A1と比
較して効果が優れているからといって,このことから,直ちに,アポリポ
蛋白質A1−ミラノ2量体が格別優れた効果を有するものであるというこ
とはできない。
例えば,引用例bには,アポリポ蛋白質A1−ミラノはアポリポ蛋白質
A1よりフィブリン(繊維素)溶解の活性化において有意に優れているこ
と(乙7〔訳文〕8頁左上欄5行∼右上欄最下行)が,表1とともに示さ
れている。アポリポ蛋白質A1−ミラノ単量体が2量体になっても,その
立体構造は基本的には変わらない可能性が高いといえ,生物学的活性もそ
のまま維持されることが最も予測できることである。そして,アポリポ蛋
白質A1−ミラノは2量体の形態になると,更にいろいろな優れた性質を
有する可能性があるから,2量体のアポリポ蛋白質A1−ミラノが優れた
性質を有することは予想外というほどのものではなく,ほぼ純粋な形状に
純化された2量体のアポリポ蛋白質A1−ミラノが格別顕著な効果がある
とまではいえない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯,(2)(発明の内容,(3)(審決))
の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2取消事由1(周知技術の認定の誤り)について
(1)審決は「…あるタンパク質を遺伝子工学的に製造する際に,培養上清中,
に目的タンパク質を分泌することができれば,精製を容易にすることができ
るため,目的タンパク質をコードする遺伝子の5’末端側に分泌シグナル配
列を付加して,目的タンパク質を培養媒体に分泌させるようにすることは,
例をあげるまでもなく,当該技術分野における周知技術である。…(8頁」
28行∼32行)として,蛋白質を培養媒体に分泌させることは周知技術で
あると認定したのに対し,原告は同認定の誤りを主張するので,この点につ
いて検討する。
(2)本願発明1’は「アポリポ蛋白質A1−ミラノ…を…培養媒体に分泌さ,
せる」とするのみで「分泌」の概念について特段の定義付けをしていない,
ことから,まず「分泌」の概念について検討する。
ア「分泌」の辞書的な意味に関しては,次の記載がある。
(ア)「広義には,細胞がその代謝産物を析出または排出すること。あらゆ
る生活細胞に普遍的な現象であるが,普通はとくにその生産物すなわち
分泌物(secretion独Sekret)が生体にとり特殊な用途をもつような場
合にこの語を用い,生体に不用な代謝産物を出す場合には排出といって
区別する。…(八杉龍一ほか編・岩波生物学辞典第4版〔1996年」
7月12日第2刷岩波書店発行〕1256頁,甲18)
(イ)「広義には細胞が代謝産物を排出することで,通常その分泌物が生
体にとって特殊な用途をもつ場合をいい,生体に不用な物を出す排出と
区別される。…(今堀和友ほか監修・生化学辞典第3版〔1999年」
2月15日第3刷株式会社東京化学同人発行〕1245頁,甲19)
イ異種遺伝子産物を分泌する大腸菌の創出をテーマとする,本願優先日前
の平成2年に頒布された乙1論文には「分泌」に関し次の記載がある。,
(ア)「…本項では,E.coliから分泌される異種タンパク質において遭遇す
る諸問題の一部を明らかにして,今日までに達成されている成功の一部
について考察を加えたいと思う。
いくつかの文脈では”タンパク質分泌”という用語はE.coliに関す,
る研究において,ペリプラズム,外膜または培地へのタンパク質の局在
化を表すために漠然と用いられてきている。本稿で我々は”分泌”と,
いう用語の使用をタンパク質の成長培地への局在化を意味することに限
定する。…(訳文1頁12行∼18行)」
(イ)「Escherichiacoliにおける分泌を我々はどのように定義するか?
E.coliにおけるエンテロトキシンおよびコリシンの分泌に関する長文
の,時には混乱するような文献によっても明らかなように,真正のタン
パク質生産物の真の分泌を立証するためには,我々が必要であると考え
ているいくつかの基準をリストアップすることも役立つと思われる。
1.…
2.組み替えタンパク質の分泌は,特異的であることが明らかにされて
いなければならない(例,漏出または細胞溶解の結果であってはならな
い。…)

多くの異なる発生源由来の外部タンパク質について,E.coliからの分
泌であることを記述した報告はあるが,上記のすべての基準を厳格に満
たしている研究は見当たらない(訳文7頁8行∼下1行)。」
(ウ)「真核細胞性タンパク質の搬出および/または分泌
以下の項では,E.coliにおいて搬出および/または分泌されている真
核細胞性タンパク質のいくつかの具体例を紹介する。…(訳文10頁」
19行∼21行)
(エ)「マウス−ヒトFabタンパク質

組み替えオペロンを含むE.coli細胞の培養物についてFabタンパク
質を発現するように4時間にわたって誘導したところ,タンパク質の大
部分がペリプラズム内に出現した…。しかしながら16時間の誘導後で
は,分泌タンパク質の90%が成長培地内で認められた。…
このような分泌成功の理由は完全には明らかになっていない;しかし
4時間の誘導後にタンパク質が主としてペリプラズムに局在化したとい
う事実から判断すれば,Fabタンパク質が長時間の誘導後に成長培地へ
と漏出した可能性が高いと思われる。…むしろ我々は長時間にわたる高
レベルの発現が細胞外皮に損傷をもたらし,タンパク質の培地への漏出
を可能にしていると考えている。そのような作用はこれまでに原核細胞
タンパク質についても観察されている(訳文13頁20行∼14頁1。」
3行)
(オ)「結び
…2番目の主要な課題は,タンパク質が外膜を通過する方法を知るこ
とである。我々は既に,細胞外分泌がペリプラズムからの漏出によって
E.coliにおいて明白に達成されている事例を報告している。これらの研
究からこのタイプの分泌に関するいくつかの所見が得られており,それ
」()らは以下のように要約することができる:訳文15頁1行∼10行
(3)以上によれば「分泌」とは,辞書的意味においては,広義には細胞がそ,
の代謝産物を細胞外に排出する場合を広く指称するものと理解することがで
,,()きまた大腸菌における遺伝子産物の分泌をテーマとする論文乙1論文
の記載によれば,大腸菌に関する研究の分野においては,一般的に「タンパ
ク質分泌」という用語がペリプラズム,外膜または培地へのタンパク質の局
在化を表す広範な概念として位置付けられ,しかも,タンパク質が外膜を透
過し,細胞培地へ局在する場合としては,長時間にわたる高レベルの発現が
細胞外皮に損傷をもたらし,これにより培地への漏出があった場合について
も,細胞外分泌の概念に包摂され得るものとして位置付けられていることが
認められる。なお,乙1論文では,漏出の結果による分泌を殊更にその定義
から除いているが,これは同論文の立場が特異的な組替えタンパク質の分泌
を志向したことによるものであって,これにより上述した一般的な意義にお
ける分泌概念が左右されるものではないと解するのが相当である。
このようにして認められる分泌の概念を,本願発明1’に即し,遺伝子組
換えを行った大腸菌により蛋白質を培養媒体中に分泌させる場合について考
察すると,この場合の「分泌」とは,大腸菌が,目的蛋白質を,培養媒体中
に排出する現象を広く指称するものと理解することができるのであって,上
記乙1論文における漏出(上記(2)イ(イ)∼(エ)参照)の場合も含め,目的蛋
白質の細胞外への移動は,その態様を問わず広く「分泌」に含まれるものと
解される。
そして,このような意味での分泌概念が,本願優先日(平成3年12月1
3日)当時,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有
する者)において周知であったことは,乙1論文における上記記載から明ら
かである。
(4)アこの点に関し原告は,蛋白質を細胞外の培養媒体中へと分泌させる技術
が本願優先日当時周知でなかったことの根拠として,甲9論文に,蛋白質
のペリプラズムへの移行に問題点が指摘されていることや,本願優先日当
時,蛋白質の菌体外分泌を支配する分子メカニズムへの理解が十分なもの
ではなく,培養媒体への分泌の試みは試行錯誤が必要な状況であったこと
を挙げるとともに,本願優先日前後の文献の記載もこれを裏付けるもので
あると主張する。
,,イこれに関し甲9論文その他本願優先日前後に発行された各種文献には
原告の指摘するとおり,次のような記載がある。
(ア)「…分泌の機序に関する我々の理解がこの3又は4年間で多大に増加
したという事実に関わらず,我々は,タンパク質の細胞外トランスロケ
ーションを支配する分子機序,特にII型及びIII型の系による機序を
少しも理解していない。…(甲9論文,訳文15頁13行∼16行,」)
ペリプラズムへの移行に関する問題点の指摘として「第一に,シグナ,
ル配列へ融合したすべてのタンパク質が細胞質膜を通して容易に移行す
るわけではない(同訳文12頁1行∼2行「第二に,バクテリアの」),
ペリプラズムを産生するためのスケールアップ法は,依然として開発段
階にある(同訳文12頁下4行∼下2行)。」
(イ)「…大腸菌は生成物を菌体外に放出しない欠点をもつ…(特許庁編・」
特許マップシリーズ化学10「遺伝子工学」32頁5行∼6行,19
〔〕,)99年平成11年5月14日初版社団法人発明協会発行甲20
(ウ)「大腸菌では今のところ,蛋白質を菌体外に分泌する機構は知られてい
ないので,外膜やペリプラズムに合成された蛋白質を局在化させるとい
う方法が試みられている。…」(瀬野悍二編「バイオサイエンス戦略マ
ニュアル」654頁右欄14行∼15行,1990年〔平成2年〕7月
25日初版1刷共立出版株式会社発行,甲21)
(エ)塚越規弘編・生物化学実験法45「組換えタンパク質生産法」(200
1年〔平成13年〕5月15日初版吉田眞次発行,甲22)の8頁表
ⅠⅠ−1の「細胞外への分泌」の欄では,生産される蛋白質の発現する場
所が,酵母などでは「培地中,即ち培養媒体中と表示されているのに」
対し,大腸菌では「ペリプラズム」,すなわち菌体内であることが表示さ
れている。
(オ)遺伝子組換えで最も広く用いられている宿主は大腸菌Escherichia「,(
coli)である。この細菌は遺伝学的に詳しく解析されているので,実験
上有利な点が多い。しかし,生産物を菌体外に分泌しないので,分離に
。」(「」手間がかかるなどの問題もある太田次郎編バイオサイエンス事典
326頁左欄20行∼25行,2007年〔平成19年〕2月10日新
装版第1刷株式会社朝倉書店発行,甲23)
(カ)「大腸菌は,通常,蛋白質を分泌しないし,ジスルフィドを含むタン
パク質を産生しないからこれは,おそらく驚くべきことではない(引。」
,〔〕,)用例d甲4訳文1頁下1行∼2頁2行審決6頁12行∼14行
(キ)「…E.coliは通常はタンパク質を分泌しないことから,分泌される
異種タンパク質の創出は培養上清中の当該タンパク質以外はほとんど生
産しない連続培養の利用を可能にする。…(乙1論文,訳文1頁23」
行∼25行「…E.coliは通常はタンパク質を分泌しないことから,),
これは注目すべきことである(同,訳文8頁7行)。」
ウ以上の記載は,確かに,いずれも大腸菌が蛋白質を細胞内のペリプラズ
ムや細胞外の培養媒体中に分泌することの困難性を述べるものということ
はできる。しかし,乙1論文では,上記イ(キ)のように蛋白質の培養媒体
中への分泌について否定的な理解があるにもかかわらず,一方で蛋白質の
培養媒体中への「漏出」については「細胞外分泌がペリプラズムからの,
漏出によってE.coliにおいて明白に達成されている」ことが報告されて
おり(前記(2)イ(エ),両者は互いに矛盾するものではない(上記イ(キ)に)
おける分泌の困難性を肯定したとしても,前記(3)に述べた「漏出」の存
在を肯定できる)ことは明らかである。また,その他の上記イの各記載を
みてもこれらにおける分泌が乙1論文における特異的な分泌前,「」「」(
「.」),,記(2)イ(イ)の2参照を指すものと解する余地がありそうすると
これらを肯定したとしても,前記(3)の漏出(これが広義の分泌概念に含
まれることは,前記(3)に述べたとおり)が本願優先日当時周知であるこ
とと矛盾するものとは直ちに認め難い。
エさらにいえば,分泌に関する上記のような理解は,本願明細書の記載と
矛盾するものではない。
すなわち,本願明細書には,前記イの各記載によって指摘された意味で
の(特異的」な意味での)分泌の困難性を解決すべき課題として設定し「
つつ,これを克服した旨の記載は見当たらないし,アポリポ蛋白質A1−
ミラノの具体的な製造方法においても,実験材料やプラスミドの構築など
につき,ompAシグナル配列を用いることによりペリプラズムにまで分
泌させるなどといった工夫は示されているものの,外膜を通過させるため
の工夫は何ら示されておらず(段落【0042】∼【0045,本願明】)
細書の記載上,本願発明1’の方法により上記の意味での分泌の困難性を
克服できるのか明らかとはいえない。さらに,実施例の記載においても,
発現したアポリポ蛋白質A1−ミラノが外膜の損傷により培養媒体中へ漏
出したものではないことの根拠は示されていない。
このような記載を考慮すると,本願発明1’が,前記(3)の漏出の態様
「」,を排除した狭い意味での分泌に限定されるものと解することはできず
このことは,原告が主張する本願明細書の記載事項(目的蛋白質を培養媒
体中へ分泌させることを前提とする記載や,本願発明1’に関する記載に
菌体を破壊する態様が含まれていないことなど)及び引用例aの記載事項
(引用例aの実施例では培養媒体中に目的蛋白質が分泌されていないこと
など)により,左右されるものではない。
オなお原告は,本願明細書の例4で,温和な培養条件下であるにもかかわ
らずアポリポ蛋白質A1−ミラノの培養媒体中の濃度が2.3g/ℓとい
う非常に高い値を示していること(段落【0047)は,細胞の損傷や】
破砕では説明できず,蛋白質が外膜を通過したことを示すものであると主
張する。
しかし乙13BiochemicalandBiophysicalResearchCommunications,(
:vol.163(1989)851-859)には,誘導後1時間から1時間半で細胞の増殖
は止まり,培養媒体中に蛋白質が出てくることが示されているところ,上
記の例4では誘発後4時間に同濃度に達した旨が記載されていること(同
段落)からすれば,本願明細書の例4に関する上記記載は,外膜の損傷に
より培養媒体中へ漏出した場合と直ちに矛盾するものではないし,また,
仮にこれが漏出以外の現象による可能性を示唆するものであったとして
も,実施例に記載された方法が「漏出」によらないことや,本願発明1’
の「分泌」が「漏出」によるものを除外していることを根拠付けるもので
はないから,原告の上記主張は採用することができない。
また原告は,蛋白質の生産を目指す技術分野において,培養媒体中への
分泌とは積極的に意図して行われる相当な量の蛋白質の移動であり「漏,
出」のように偶発的で微量の発現を指すものではないとも主張するが,上
記のとおり本願明細書の実施例における蛋白質の分泌が「漏出」によるも
のでないことを認めるに足りる証拠がない以上,原告の主張は採用するこ
とができない。
(5)以上のとおり,本願発明1’における分泌方法は,本願優先日当時周知で
あったということができるから,原告の取消事由1に関する主張は理由がな
い。
3取消事由2(顕著な効果の看過)について
(1)ア原告は,本願発明1’によるアポリポ蛋白質A1の生産量は,引用例a
と比較して100倍以上,最高440倍にも及び,有用な蛋白質を工業的
レベルで極めて効率的かつ大量に製造し得ることは格別顕著な効果である
にもかかわらず,これを看過した審決は誤りである旨主張するので,この
点について検討する。
イ本願明細書(甲7)には,バイオリアクター中のアポリポ蛋白質A1−
ミラノの製造(本願明細書の例4)の実施例として,次の3例の記載があ
る。
(ア)段落【0047】
「3.5リツトルのバイオリアクター中でのRV308/pKP68
3の培養。…上清中のApoA1−Mの濃度が放射免疫検定法(アポ
リポ蛋白質A1RIA100キツト,…)により測定された。58の
ODにおいて,16時間の培養後に,0.5mMIPTGを添加するこ
とにより蛋白質合成が誘起され,そして温度は37℃に増加した。誘発
後4時間後,ApoA1−Mの濃度は2.3g/ℓであり,そしてそ
の後の2時間後,濃度は2.5g/ℓであつた」。
(イ)段落【0048】
「3.5リツトルのバイオリアクター中のBC50/pKP764の
培養。…60のODにおいて,15時間後,IPTGが添加され,そし
て温度が上昇された。10時間後に上清中のApoA1−Mの濃度は
3.7g/ℓでありそして発生後22時間で,濃度は4.4g/ℓであつ
た」。
(ウ)段落【0049】及び【0050】
「300リツトルのバイオリアクター中でのBC50/pKP764
の培養。…バイオリアクター中での16時間の培養後に培養が51のO
Dを有したとき,IPTGが添加されそして温度が37℃に上昇され
た」。
「単量体および2量体としてのApoA1−Mの濃度は発生後5時
間で1.3g/ℓでありそして次の時間中にバイオリアクターは冷却さ
れる一方,ApoA1−Mの濃度は1.5g/ℓに上昇した」。
ウ一方,引用例a(甲1)には,実施例1として次の記載がある。
(ア)「大腸菌株における発現
…プラスミドpC1856を担う細菌宿主CAG629をすべての組換
えpFCE4誘導体で形質転換させた。…誘発後,細胞を10分間氷冷
し遠心によってペレット化した。次にペレットを『ELISA』の項で記載
のごとく処理して細胞を破壊した。…保持されたタンパク質をおおまか
に洗浄し,1Mの酢酸で溶出させた。…予備結果を平均すると培養物1
ℓ当たり約0.2mgのapoAⅠが存在した(10頁左下欄3行∼下。」
3行)
(イ)「すべての組換えpUC8/9誘導体で細菌宿主MC1061を形質
転換させた。…このインキュベーション後,細胞を10分間氷冷し遠心
によってペレット化した。この段階以後はpFCE4誘導体で記載した
手順と同じ抽出手順で処理した。…予備結果を平均すると培養物1ℓ当
たり10mgのapoAⅠが得られた(同右下欄1行∼11行)。」
(2)以上の記載によれば,本願明細書の実施例(例4)では「ApoA1,
−M」すなわちアポリポ蛋白質A1−ミラノを培養上清中に得て測定したも
のであるのに対し,引用例aの実施例1では,細胞を破壊した上で「ap,
oAⅠ」すなわちアポリポ蛋白質A1を得たものであることが認められる。
そして,両者は蛋白質の発現時間等,培養条件を異にしており,これらの
比較から直ちに本願発明1’の効果を定量的に評価することは困難といわざ
るを得ない。その上,本願発明1’は,アポリポ蛋白質A1−ミラノを大腸
菌中の発現系等においてバクテリア培養媒体中に分泌させることについて,
単に「大腸菌中の発現系統においてバクテリア培養媒体に分泌させる組替え
技術により」と規定するのみで,当該「組替え技術」の内容についてそれ以
上の限定をしていない。そうすると,上記本願明細書及び引用例aの記載を
みても,これらは,特定の組換え技術ないし培養技術,例えば特定のプロモ
ーターなどの制御配列や特定の発現ベクターを採用し,又は特定の成分等の
培地を用いるなど,種々の技術を組み合わせたものであり,これら各種の方
法を広く包摂するものと解するほかないから,その効果も,前提とする諸条
件により区々にならざるを得ず,本願明細書の実施例に記載される分泌量が
本願発明1’において必ず奏される効果ということもできない。
したがって,原告の主張する上記両実施例の比較をもってしても,本願発
明1’の方法が格別顕著な効果を有するものとは直ちに認め難い。
(3)しかも,甲9論文に「…大量の細菌タンパク質の産生では,注目のタン,
パク質が細胞外の培地へ分泌されれば,この『コンパートメント』の容量が
他の細胞のコンパートメントに比較してきわめて大きく,そして一般に,全
体の収率がペリプラズム又は細胞質の蛋白質のそれより高いので,特に有利
」(〔〕“”,〔〕である甲9原文505頁左欄Introduction6行∼12行訳文
2頁6行∼10行)と記載されているとおり,培養上清は,細胞内ないしペ
リプラズムに比較してその容量が極めて高いと認められる。
そもそも甲9論文には,上記記載に加えて「…故に,組換えDNA技術,
の進展におけるごく早期の段階から,組換えタンパク産物の培養基又は宿主
細菌のペリプラズム中への分泌を確実にする系を開発するために種々の努力
がなされてきたことは,驚きではない。…(訳文〕2頁13行∼17行)」〔
との記載があるほか,引用例bに対応する公表公報である乙7(特表平5−
504673号)にも「…形質転換された酵母株が適切な培地中で培養さ,
れ,この培地からApoAⅠおよびApoAⅠ−M分子が回収される。か
かる形質転換酵母株を培養すると,高収率のApoAⅠおよびApoAⅠ
−Mが培養ブロスから単離される(5頁左上欄2行∼5行)と記載されて。」
いるところ,これらはいずれも,培養媒体からの生成蛋白質の取得が収率性
の観点で優位にあること及びそのことに対する当業者の認識の存在を示唆す
るものである。このことからすれば,遺伝子組換え技術により,宿主となる
微生物に蛋白質を生産させる技術において,生成した蛋白質を細胞外へ分泌
させる研究が積極的に行われてきた理由は,生成蛋白質の単離及び精製の容
易性に加え,細胞質に比べて培養媒体が生成物を蓄える場の区画としての容
量が格段に大きく,高収率が期待できる点にあったことがうかがわれる。
そうすると,培養上清中の発現タンパクの量が細菌培養物中の量よりも多
く,ひいては,前者の方が蛋白質を効率的かつ大量に産出し得るということ
は,当業者が容易に予期し得る効果であったというべきである。
(4)したがって,以上述べたことからすると,本願発明1’の方法が格別顕著
な効果を有するものとは直ちに認め難く,仮に原告主張の効果を前提にして
も,これにより本願発明1’の容易想到性の判断を左右するものとは認めら
れないから,原告の上記主張は理由がない。
4取消事由3(引用例dの適用の困難性についての判断の誤り)について
(1)ア審決の認定した本願発明1’と引用例aの一致点及び相違点は前記第3
の1(3)のとおりである。これをアポリポ蛋白質A1−ミラノ単量体の2
量化という観点から詳述すると,引用例a(甲1)には「…変異形の内,
部にシステイン残基が存在するので,apoAⅠⅠとの複合体及びapo
AⅠ二量体の形成が可能である。…(4頁左上欄下6行∼下4行,審決」
3頁16行∼18行)として,アポリポ蛋白質A1−ミラノにはCys残
基が存在することと,これを利用することでその2量体を形成することが
可能であることが開示されているものの,Cys残基を使用した2量体構
造自体については開示がなかったことから,審決は「引用例aには,アポ
リポ蛋白質A1−ミラノを製造することは記載されているが,それを2量
体へと変換することについては記載されていない点」を相違点としたもの
と理解することができる。
イこの点,Cys残基を利用して2量体を形成することとは,Cys残基
に存在するSH基を互いに結合させること,すなわち,ジスルフィド結合
,(,を形成させることを意味することは明らかであるところ引用例d甲4
乙4)には,SH基を有する蛋白質にジスルフィド結合を形成させる方法
に関し,以下の記載がある。
(ア)「還元され,変性されたRNアーゼの再活性化において,チオレドキ
シンは,モデルであるジチオール,ジチオトレイトールよりもモル単位
で1000倍効果的であり,チオレドキシンは,ジスルフィド変換のた
めの効果的な触媒として働くことが示唆された(甲4訳文1頁2行∼。」
5行,記載事項(d1。審決6頁4行∼7行))
(イ)「酸化チオレドキシンによる還元変性RNaseの再活性化
還元変性タンパク質をフォールディングする第1の工程は,ランダム
ジスルフィドを形成し,その後ジスルフィドを固有の配座に再配置する
ことである…(乙4,1頁6行∼8行)」
(ウ)「…還元変性RNaseのリフォールディングにおけるチオレドキシ
ンの二重の役割を示唆している。最初に,酸化チオレドキシンは,チオ
ール−ジスルフィド交換の単純なプロセスによってRNaseジスルフ
ィドの形成を触媒することができる。次いで,RNaseチオールの酸
化において生成した還元チオレドキシンは,混合RNaseによって生
じるRNaseジスルフィド交換を触媒することができる図1乙()。」(
4,2頁12行∼16行)
ウすなわち,引用例dは,還元蛋白質が活性化するために必要とされる折
り畳み構造(フォールディング)が変性して不活性となっている場合に,
これを適切な構造へと再折り畳み(リフォールディング)することが記載
されているところ,その方法は,最初に,変性した還元蛋白質の任意のS
H基(Cys残基はSH基を含むものである)に酸化剤である酸化チオレ
ドキシンを使用して,酸化反応によりジスルフィド結合(S−S結合)を
形成し,次いで,上記反応により還元された還元チオレドキシンを触媒と
して使用することにより,上記ジスルフィド結合を活性化が生じるように
再配置,すなわち正しいCys基同士の間でジスルフィド結合(S−S結
合)が形成されるように,S−S結合を組み換えるものであると認められ
る。
そうすると,引用例dは,SH基を有する蛋白質に酸化剤を用いること
でジスルフィド結合を形成することが可能であることを開示していること
になるから,これをSH基を有するアポリポ蛋白質A1−ミラノ単量体に
適用すれば,当該SH基にジスルフィド結合を形成することにより,その
2量体構造を観念することができることになる。
したがって,本願発明1’の属する技術の分野における通常の知識を有
する者は,引用例aの記載(前記アに述べたとおり,引用例aには,アポ
リポ蛋白質A1−ミラノにCys残基が存在することと,これを利用する
ことでその2量体を形成することが可能であることが開示されている)。
に加え,引用例dを参酌すること(上記のとおり,引用例dには,酸化剤
を使用してジスルフィド結合を形成できることが開示されている)によ。
り,アポリポ蛋白質A1−ミラノ単量体を2量体にすることを容易に想到
できたものというべきである。
そして,審決が「…アポリポ蛋白質A1−ミラノ単量体を2量体に変,
換する方法として,引用例dに記載されるような,蛋白質にジスルフィド
結合を形成させる方法(記載事項(d1)を適用して2量体化すること)
は,当業者にとって格別な困難性を有するものとも認められない(9頁。」
11行∼14行)として,2量体を製造するための方法として,ジスルフ
ィド結合を形成させる方法を適用することは容易である旨を述べ,その例
として「還元され,変性されたRNアーゼの再活性化」における「ジス,
ルフィド変換」の事例(記載事項(d1)を挙げているのも,上記の趣)
旨を述べたものと理解することができるから,この点に関する審決の判断
に誤りがあるということはできない。
(2)アこれに対し原告は,審決が引用例dの記載事項(d1(審決6頁4行)
∼7行)に記載された還元型RNアーゼを酸化することによる分子内ジス
ルフィド結合の形成方法を適用することは(Ⅰ)酸化型チオレドキシン,
の還元が特異的であり(Ⅰ)蛋白質間の違いが2量化に大きな差異をも,’
たらすことを考慮しない点(前記第3,1(4)ウ(イ))及び(Ⅱ)本願発明
1’で必要としていないジスルフィド交換の方法を適用する点(同(ウ))
で,前提において誤りがある旨主張する。
イこのうち,酸化型チオレドキシンの還元が特異的である旨の主張(上記
(Ⅰ)は,今堀和友ほか監修「生化学辞典第3版(東京化学同人平成)」
11年2月15日発行,甲12)のチオレドキシンの項における「…酸化
型(S−S)の還元は特異的であるが,還元型(−SH)はHO,イン22
スリン,メチオニンスルホキシド,酸化型グルタチオンも還元でき非特異
的である(870頁左欄6行∼9行)との記載を根拠とするものと解さ。」
れる。
しかし,甲12の上記記載は,酸化型チオレドキシンの還元がいかなる
意味で「特異的」というのか必ずしも明らかではなく,このような記載が
あるからといって,直ちに本件に引用例dを適用することが阻害されるも
のとはいえない。しかも,ジスルフィド結合は二つのSH基が酸化される
ことによって形成される結合であるところ(甲10,その結合が酸化剤)
として酸化型チオレドキシンを使用する場合にのみ起こり得るというので
あれば別論であるが,原告の引用する甲13論文では銅を使用するジスル
フィド結合の例が挙げられ(訳文1頁7行,また,本願発明1’自体,)
グルタチオン(GSSG)を使用してジスルフィド結合変換の反応を用い
ていること(甲7,14頁下9行∼下8行)からすると,ジスルフィド結
合が酸化型チオレドキシンを使用する場合のみに起こり得るものでないこ
とは明らかである。
以上に鑑みれば,前記(1)に述べた引用例dについても,Cys残基に
含まれるSH基に酸化剤を使用してジスルフィド結合を形成できるという
意味において参酌することができると解すべきであって,その際,酸化剤
の種類を酸化型チオレドキシンに限定すべきものではない。
また原告は,酸化型チオレドキシンに関し,還元が起きる例はNADP
H及びチオレドキシンレダクターゼによる方法などに限られるとも主張す
るが,以上に述べたところに照らして採用することができない。
したがって,原告の上記(Ⅰ)の主張は採用することができない。
ウ次に上記(Ⅰ)の主張について検討する。’
まず,蛋白質間の違いが2量化に大きな差異をもたらすとの主張が,酸
化剤を酸化型チオレドキシンに限定した上で,これをアポリポ蛋白質A1
−ミラノ単量体という特定の蛋白質に適用することの困難性をいうもので
あるならば,前記イに述べたとおり,そのように酸化剤を限定するという
前提において誤りがあるといわざるを得ないから,原告の主張は採用する
ことができない。
また,同主張が酸化剤を限定するものではなく,アポリポ蛋白質A1−
ミラノという特定の蛋白質へのジスルフィド結合変換の適用困難性をいう
趣旨であるとしても,以下のとおり同主張は採用することができない。
すなわち,原告の上記主張は甲13論文を根拠とするものであるが,甲
13論文は「銅で触媒されるβ−Lgの変換が,変異体A及びBについ,
。,,。て観察されたしかし変換の速度論はこれら二つの変異体で異なった
…(訳文1頁7行∼8行)として,銅を使用するジスルフィド結合形成」
反応において異なる蛋白質間におけるジスルフィド変換の速度に差異が生
じたことを記載したものであって,変異体A及びBという両蛋白質におい
てジスルフィド結合自体が起こらなかったというものではない。また,甲
13論文を含め,アポリポ蛋白質A1−ミラノ単量体という特定の蛋白質
について,ジスルフィド結合変換を行うことが困難であることをうかがわ
せるような証拠も見当たらない上,そもそも本願発明1’自体,前記のと
おり,グルタチオンを使用するジスルフィド結合変換を行うことにより2
量体を製造しているのであるから,本件において上記の意味でのジスルフ
ィド結合変換の適用困難性を論じることは意味がないというほかない。
なお,原告の上記主張が,ジスルフィド結合変換が行われる蛋白質によ
,’り変換速度の差異があることを前提に引用例d記載の方法を本願発明1
に適用するジスルフィド変換では速度が遅きに失することをいうものであ
るとしても,本願発明1’は,アポリポ蛋白質A1−ミラノの2量化の方
法について何ら限定するところがなく,そのような主張は請求項の記載に
基づかないものといわざるを得ないから,いずれにせよ採用することがで
きない。
エさらに,上記(Ⅱ)の主張について検討するに,原告の上記(Ⅱ)の主
,「」,張は引用例dにはジスルフィド交換について記載されているのみで
「ジスルフィド結合の形成」については記載されていないから,これを本
’。願発明1に適用することはできない旨をいうものと解することができる
しかし,上記(1)イのとおり,引用例dは,SH基を有する蛋白質に,
酸化剤を用いることでジスルフィド結合を形成することが可能であること
を開示しており,これを本願発明1’に適用できることは上記(1)ウに述
べたとおりである。
また原告は,本願発明1’は既に形成されたジスルフィド結合の組替え
を行っているのではない旨主張するが,前記(1)に述べたとおり,本件に
おいて引用例dを参酌する意義は,Cys残基に含まれるSH基を使用し
てジスルフィド結合を形成できるという点にあり,既に形成されたジスル
フィド結合の組替えを問題とするものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
5取消事由4(顕著な作用効果についての判断の誤り)について
(1)原告は,本願発明1’の生産物である高純度のアポリポ蛋白質A1-ミラ
ノ2量体は新規であるとして,これに基づく繊維素溶解活性特性は本願発明
1’の効果として参酌されなければならないと主張する。
しかし,原告が審判請求書の理由を変更した平成15年1月22日付け手
続補正書乙8には引用文献2のBiochim.Biophys.Acta,Vol.960,No.1(),「『
(1988)P.73-82及び引用文献3のJ.Clin.Invest.,Vol.66,No.5(1980)P901』『
-907』には血漿から精製されたアポリポ蛋白質A1−ミラノの2量体が記載
されており(3頁下10行∼下6行)との記載があり,本願優先日である」
平成3年(1991年)12月13日以前に頒布された引用例e(上記引用
文献2)や引用例f(上記引用文献3)に精製されたアポリポ蛋白質A1−
ミラノの2量体に関する記載があることは優に推認することができる。そし
て,本願発明1’の生産物である高純度のアポリポ蛋白質A1−ミラノの2
量体と上記各文献におけるアポリポ蛋白質A1−ミラノの2量体との間に,
蛋白質としての構造(アミノ酸配列)上の差異は認められない。
この点原告は,引用例fのアポリポ蛋白質A1−ミラノ2量体は変性され
ているのに対し,本願発明1’のそれは変性していないとか,本願発明1’
のそれは高純度であるなどとして,両者は異なる旨主張するが,両者に作用
効果上の差異があるか否かはともかく,蛋白質としての構造に差異があるこ
とを認めるに足りる証拠はない。もっとも,原告の上記主張は,両者の同一
性について,アミノ酸配列の異同のみならず,蛋白質としての立体構造上の
差異をも問題とする趣旨とも解する余地があるが,本願発明1’は,アポリ
ポ蛋白質A1−ミラノの2量体に関し,その立体構造について何ら限定する
ところがないから,このような主張は請求項の記載に基づかないものという
ほかなく,採用することができない。
したがって,本願発明1’の方法により製造された高純度のアポリポ蛋白
質A1−ミラノの2量体が新規であるとは認められないから,原告の上記主
張は前提を欠くものである。
(2)また,原告の主張する効果は,十分予期し得るものといわなければならな
い。
すなわち,本願優先日前であるに頒布された引用例b(甲2)には「…,
さらに,動物モデルにおいて動脈疾患を改善するHDLの可能性は,Apo
A1はかなりのフィブリン溶解活性を呈し得るという観察によってさらに刺
[(),(),激されたサクらSakuetalトロンボウシス・リサーチズThromb.Res.
39:1−8,1985。…(訳文〕1頁下10行∼下7行)との記載]」〔
や,引用例bに対応する公表特許公報である乙7(特表平5−504673
号)には「フィブリン溶解の活性化プラスミノーゲンのプラスミンへの,
変換を促進する,すなわち,フィブリン溶解を開始させる試薬が,心筋梗塞
の治療において増大する関心を獲得しつつある…。以前のデータは,Apo
A1がinvitroにてフィブリン溶解活性化し得ることを示している…。ウロ
キナーゼ活性の増強または抑制を測定するために,実験は,フィブリン平板
法により実施した…この系において,ApoA1−MはApoA1よりも
有意に優れているようである(8頁左上欄5行∼右上欄下1行)として,。」
フィブリン(繊維素)溶解の活性化に関する実験においてアポリポ蛋白質A
1−ミラノは同A1よりも有意に優れている旨の結果が得られていることの
記載がある。これによれば,アポリポ蛋白質A1−ミラノに繊維素溶解活性
があり,かつ,これが同A1よりも有意に優れていることは知られており,
これと構造上の共通部分が多いA1−ミラノ2量体,ひいては本願発明1’
の方法により製造された高純度のA1−ミラノ2量体が同様の性質を有する
ことは十分予期し得ることであるといわざるを得ない。
しかも,原告が本願発明1’の方法により得られた高純度のアポリポ蛋白
質A1−ミラノの効果の優位性を主張する際,その比較対照とされたものは
同A1であり(本願明細書〔甲7]段落【0076【0085】参照,】,)
本願発明1’の方法により得られた高純度の同A1−ミラノが,従来技術に
より取得された同A1−ミラノに比べても量的に顕著に優れる効果を奏する
ことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,本願発明1’の方法により製造された高純度のA1−ミラノ
の2量体の効果は予測可能というべきであるから,効果の点からみても,原
告の主張は理由がない。
(3)なお,原告は,引用例e及びfの記載事項に関する被告の主張は審決に基
づかないものであると主張するが,上記(1)に述べた手続補正書(乙8)の
記載に鑑みれば,引用文献e及びfにアポリポ蛋白質A1−ミラノ2量体の
精製が記載されていることは優に推認でき,これを周知技術として認定の基
礎とすることは妨げられるものではない。したがって,原告の上記主張は採
用することができない。
6結論
以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

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また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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