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平成22年2月24日判決言渡
平成21年(行ケ)第10231号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年2月22日
判決
原告大成建設株式会社
訴訟代理人弁理士米田昭
被告清水建設株式会社
訴訟代理人弁護士近藤惠嗣
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2007−800217号事件について平成21年6月30日
にした審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告を特許権者とし発明の名称を「地下タンクの構造」とする特許
第3886275号に対し,被告から特許無効審判請求がなされたところ,特
許庁が平成21年6月30日付けでその請求項1を無効とする審決をしたこと
から,原告がその取消しを求めた事案である。
2争点は,上記請求項1に係る発明(本件特許発明)が,下記甲1,2に記載
された発明との関係で進歩性(特許法29条2項)を有するか,等である。

・甲1:実願平2−94761号(実開平4−53696号)のマイクロフ
(「」,,ィルム考案の名称地下式貯槽構造物出願人株式会社大林組
公開日平成4年5月7日。以下この発明を「甲1発明」という)。
(「」,・甲2:特開平6−270990号公報発明の名称地下タンクの構造
出願人東京瓦斯株式会社・清水建設株式会社,公開日平成6年9
月27日。以下この発明を「甲2発明」という)。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁等における手続の経緯
ア原告は,平成10年12月9日に本件特許出願(特願平10−3504
51号。特許願〔甲18)をし,平成18年12月1日に,特許第38〕
(。〔〕。86275号として設定登録を受けた請求項1∼3甲5特許公報
以下「本件特許」という。。)
イこれに対し,被告から平成19年10月5日付けで請求項1∼3につい
て特許無効審判請求(甲8)がなされ,同請求は無効2007−8002
17号事件として係属したところ,特許庁は,平成20年9月8日「特,
許第3886275号の請求項1,請求項2及び請求項3に係る発明につ
いての特許を無効とする」旨の審決(第1次審決,甲27)をした。。
ウそこで原告は,平成20年10月20日に上記第1次審決の取消しを求
める訴えを当庁に提起し(平成20年(行ケ)第10379号事件,平)
成20年12月1日付けで特許庁に訂正審判請求(甲6)をしたところ,
当庁は平成21年2月12日,特許法181条2項に基づき上記審決を取
り消す旨の決定をした。
エ上記決定により特許庁において前記特許無効審判請求が再び審理される
ことになり,また上記訂正審判請求が訂正の請求とみなされた(以下「本
件訂正」という。請求項2,3は削除)ところ,特許庁は,平成21年。
6月30日「訂正を認める。特許第3886275号の請求項1に係る,
発明についての特許を無効とする」旨の審決(第2次審決)をし,その。
謄本は平成21年7月10日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件訂正後の請求項1に係る発明の内容は,次のとおりである(下線は訂
正部分。以下「本件特許発明」という。)
「請求項1】【
側壁と,底板と,屋根と,側壁の外周に設置した地下壁とによって
構成した地下タンクにおいて,
地下壁の上端に,外周方向に向けて取付けた棚板と,棚板の上に地
下タンク構築後に搭載した荷重盛土とによって構成し,
側壁と,底板と,屋根と,地下壁と,地下壁の上端の外周に取付け
た棚板と,棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土の重量の
和が,底板に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状
に構成した,地下タンクの構造」。
()審決の内容3
ア審決の内容は別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件訂
正は訂正要件を備えるものであるとした上,訂正後の本件特許発明は,甲
2発明・甲1発明及び周知の事項から容易に発明をすることができたから
特許法29条2項の規定に違反し無効である,等としたものである。
イなお,審決が,上記判断に関して認定した甲2発明の内容,及び本件特
許発明と甲2発明との一致点及び相違点は,上記審決写し記載のとおりで
ある。
()審決の取消事由4
しかしながら,審決には,以下に述べるとおりの誤りがあるから,違法と
して取り消されるべきである。
ア取消事由1(甲2発明の内容,本件特許発明との一致点・相違点の認定
及び進歩性についての判断の誤り)
(ア)審決は,甲2の図1(後記のとおり)を根拠に甲2発明は「ガイ,
ドウォール6の上に搭載した土」との構成を備えるものと認定したが,
誤りである。
甲2には,地表面とガイドウォールとを関連付ける記載は明細書には
見当たらないことから,甲2において図1で説明しようとする内容は,
地下タンクであること,外側ガイドウォール6を地下水位より上方に構
築したことにあるといえる。甲2の図1は,形状,位置関係,寸法等を
正確に描いた設計図ではなく,地下タンクの技術思想を説明するため概
念的に表した図面でしかない。甲2の明細書全体の記載から把握される
技術思想は,図1においては,タンクが地下に構築されたものであるこ
とを示すとともに,ガイドウォール6が地下水位より上にあることを示
すことができればよい。図1に地表面を示す線がガイドウォールの上に
あるように描かれているからといって,ガイドウォール6の上に搭載し
た土が認定できるものではない。
図1について【図面の簡単な説明】には「本発明の地下タンクの構,
造を示す断面図である」とあり,地下タンクの構造を示す断面図であ。
ることは理解できるものの,この断面図が地下タンクをどの面に沿って
切断した図面であるかについても不明であり,ガイドウォールが地表面
より下方に構築されるか否かについて明細書に全く記載されていないこ
とからみて,ガイドウォールと上方水平線との間隔が何を意味するか一
義的に解することはできない。明細書に説明がない図面の詳細構造は,
当業者が技術常識を駆使したとしてもその内容を詳細・正確に特定する
ことはできない。
したがって,図1の記載のみから「土」が存在すると認定すること,
は根拠がない。
(イ)また,審決は甲2のガイドウオールについての認識を誤っている。
,,甲2は被告が出願人の1人となっている公開特許公報であるところ
甲2に係る特許出願には,甲1を引用文献の一つとした拒絶の理由が通
(,),知されたところ平成14年6月28日付け拒絶理由通知書甲16
これに対する被告他1名(甲2の出願人ら)の意見書(甲17)におい
て「引例2(判決注:本件甲1)には,側壁の上端部近傍の外周縁に,
張り出しスラブを設けた構造の地下式貯槽構造物が開示され,その張り
出しスラブが本願発明(判決注:本件甲2)における外側ガイドウォー
ルに相当するかのような指摘がある。しかし,この引例2における張り
出しスラブは本設の側壁の上端部にその一部として(すなわち本来的に
本設として)設けられるものであるから,これは本願発明の外側ガイド
ウォールと同一視できるようなものではない。勿論,本来的に仮設とし
て設ける外側ガイドウォールを最終的にはジベルによって地中連続壁に
対して一体化させた状態で残置するという本願発明の特徴については,
この引例2には当然に何等の開示がない(2頁10行∼17行)とし。」
ている。
上記のように,甲1発明の「張り出しスラブ」は,地下タンク本体で
ある側壁と一体化された本設の構造物である。
これに対し,本件特許発明の棚板は,仮設の地下壁の上端の外周に取
付けられた仮設の構造物である。
この点について審決は「被請求人が挙げる特許出願は,本件特許に,
係る出願とは関係のない異なる出願であり,同出願手続きにおける請求
人の主張は本件審理とは無関係である(24頁22行∼24行)とし。」
た。しかし,甲2に開示された技術内容は,その出願時点と無効審判請
求時点とで異なるものではなく,同一のものである。出願時における甲
2発明についての出願人の一人である被告の認識・主張を参酌しても,
甲2発明は仮設のガイドウォールに関するものであり,甲1発明は荷重
盛土を搭載する本設の張り出しスラブであるから,両者は地下タンクの
構成要素としては,機能,構造において異質のものである。
(ウ)また,審決が,甲2発明の地下タンクの構造に係る重量は「前記,
側壁4と,前記底版3と,前記屋根5と,前記連続地中壁2と,ガイド
ウォール6の重量の和である」と認定したが,この「地下タンクの構造
に係る重量」が,甲2発明のいう「地下タンクの構造体の重量」を意味
するのであれば,これは誤りである。
甲2の明細書の記載全体をみても,外側ガイドウォールの重量は,地
下タンクの構造体の重量に加算できることは理解できる。ところが,こ
の地下タンクの構造体の重量は,如何なるものの重量成分から構成され
るかについては,明細書に記載されておらず不明である。
にもかかわらず審決は,この不明な地下タンクの構造体の重量は,前
記側壁4と,前記底版3と,前記屋根5と,前記連続地中壁2と,ガイ
ドウォール6の重量の和であると断定しているが,その根拠は明示され
ていない。
,「【】,,,甲2には0009これら連続地中壁2と底版3と側壁4と
外側ガイドウォール6とは,鉄筋コンクリートから所定の厚みに形成さ
。」「【】,れている…・0012このような地下タンクの構造1によれば
連続地中壁2の頂部は,その外側に設置された外側ガイドウォール6に
ジベル7で結合したから,外側ガイドウォール6の重量を地下タンクの
構造体の重量に加算できる。このため,地下タンクの構造体における地
下水の浮力に対する安全性を維持できるとともに,側壁4や底版3を周
囲の地盤の圧力に対抗できる必要な強度の厚みに形成できるから,側壁
4や底版3を薄くでき,地盤を掘削する量を低減でき,側壁4や底版3
に要するコンクリートの量を低減できる。したがって,地下タンクの構
造1の施工期間を短縮でき,地下タンクの構造1の施工に要する費用を
低減できる」と記載されている(下線は原告が付記。。)
上記段落【0009】の「これら連続地中壁2と,底版3と,側壁4
と,外側ガイドウォール6とは,鉄筋コンクリートから所定の厚みに形
成されている」という記載と,段落【0012】の「側壁4や底版3。
を周囲の地盤の圧力に対抗できる必要な強度の厚みに形成できる」とい
う記載を併せ考えてみても,甲2発明の地下タンクの構造体の重量が,
側壁,底版,地下壁の重量に屋根の重量を加えた重量から構成されてい
ると断定することはできない。
したがって,甲2発明の地下タンクの構造に係る重量は「前記側壁,
4と,前記底版3と,前記屋根5と,前記連続地中壁2と,ガイドウォ
ール6の重量の和である」とした審決の認定は誤りである。
(エ)上記のとおり審決は,甲2発明のガイドウォールを本件特許発明の
「棚板」に相当するものであると認定したが,これは甲2発明のガイド
ウォールがその上に土を搭載するものであることを前提になされたもの
であり,その前提が成り立たないことは上記(ア)のとおりである。甲2
発明のガイドウォールは,土が搭載されていようがいまいが,あくまで
も連続地中壁を構築するためにのみ使用されたガイドウォールであり,
,。本件特許発明の棚板に相当するものではなく審決の認定は誤りである
(オ)さらに審決は,ガイドウォール上に搭載した土について,土の重量
を加えたガイドウォール(棚板)の重量を加算することは,当業者にお
いて当然の行為であると判断したが,本件特許発明が属する土木工学の
分野においては,当該土の質量を地下タンクの荷重として見込むか否か
を工学的に検証し,土の質量を地下タンクの荷重として見込むことが工
学的に可能であると決定したときに,荷重盛土として利用して地下タン
クの重量に加算する。本件特許発明の荷重盛土は,地下タンクの荷重と
して利用する工学上の荷重盛土であって,工学的な検討がなされていな
い単なる土の重量とは異なっている。審決の認定は誤りである。
(カ)審決は,甲2発明においては「地下タンクの構造」と「地下タン,
クの構造体」とを明確に区分して使用されていることを看過している。
すなわち,甲2においては,重量に関する概念を伴うときに「地下タン
クの構造体」といい,重量に関する概念を伴わず単に地下タンクの構成
要素を表わすときに「地下タンクの構造」としている。これは,甲2の
以下の記載をみれば明らかである(下線は原告が付記。)
「0007】【
【作用】…外側ガイドウォールを構造体の一部として利用できる。すな
わち,ガイドウォールの重量が地下タンクの構造体の重量に加算され
る」。
「0010】…また,地下水位より上方に構築された外側ガイドウォ【
ール6には,浮力が作用しないから,外側ガイドウォール6の全ての重
量が地下タンクの構造体の重量に加算される」。
「0012】…外側ガイドウォール6の重量を地下タンクの構造体の【
重量に加算できる。…」
「0013】そして,外側ガイドウォール6を連続地中壁2に結合し【
て,地下タンクの構造体の重量として利用するために,外側ガイドウォ
ール6の撤去作業を不要にできる。…」
「0014】さらに,外側ガイドウォール6を地下水位より上方に構【
築したため,…外側ガイドウォール6の重量の全てを地下タンクの構造
体の重量に加算できる。…」
「0015】【
【発明の効果】以上説明したように,本発明の地下タンクの構造によれ
ば,内部掘削時の山留壁としての連続地中壁と,地中に内部空間を画成
する側壁と,該側壁の下端部に設置される底版とを有する地下タンクの
構造であって,前記連続地中壁の頂部は,その外側に設置された外側ガ
イドウォールにジベルで結合されている構成にしたから,外側ガイドウ
ォールを地下タンクの構造体の一部として利用できる。すなわち,外側
ガイドウォールの重量を地下タンクの構造体の重量に加算できる」。
上記のように,甲2に記載された技術思想は,外側ガイドウォールに
限って地下タンクの構造体の重量に加算するという,土木工学の分野に
属するものであり,物理学上の質量あるもの全てを地下タンクの構造体
の重量に加算するというものではない。
これによれば「タンク構造体に付属する物の重量をもタンク構造体,
の重量として考慮するという思想に立つものである」とする審決の認。
定は「ガイドウォールの上に搭載した土」の認定の誤りの上に,さら,
に誤りを重ねるものである。
(キ)以上のとおり審決の甲2発明の認定は誤りであり甲2発明は側,,「
壁と,底版と,側壁の外周に設置した地下壁とによって構成した地下タ
ンクにおいて,前記地下壁の上端は,連続地中壁を施工するときにその
外側に設置され,その重量が地下タンクの構造体の重量に加算される,
外側ガイドウォールにジベルで取付けられ,前記地下タンクの構造体と
ガイドウォールは底板に下から作用する揚圧力で浮くのを防止するとと
もに,底版と側壁は周囲の地盤の圧力に対抗できる必要な強度の厚みに
形成された,地下タンクの構造」と認定すべきであり,これを前提と。
すると,本件特許発明と甲2発明とは
<ア>地下壁の上端に取付けられたものが,甲2発明においては,そ
の重量が地下タンクの構造体の重量に加算される外側ガイドウォー
ルであるのに対し,本件特許発明においては,外周方向に向けて取
付けた棚板であり,該棚板には地下タンク構築後に荷重盛土が搭載
されるものである点
<イ>地下タンクの形状が,甲2発明においては,地下タンクの構造
体とガイドウォールは底板に下から作用する揚圧力で浮くのを防止
するとともに,底板と側壁は周囲の地盤の圧力に対抗できる必要な
強度の厚みに形成されたものであるのに対し,本件特許発明におい
ては,側壁と,底板と,屋根と,地下壁と,地下壁の上端の外周に
取付けた棚板と,棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土
の重量の和が,底板に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも
大きい形状に構成されたものである点
で相違する。審決の甲2発明の認定は誤りであり,これに基づき本件特
許発明との一致点及び相違点の認定も誤りである。
(ク)またそもそも審決が認定した甲2発明によれば甲2発明は前,,,「
記側壁4と,前記底版3と,前記屋根5と,前記連続地中壁2と,ガイ
ドウォール6の重量の和である地下タンクの構造に係る重量が,底版3
に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成」され
ていることから,甲1発明の地下タンクの重量に張り出しスラブに搭載
した盛土の荷重を加える技術思想を甲2発明に適用すべき必要性が全く
ない。そうすると,審決自らが,甲2発明に甲1発明を適用すべき動機
付けが存在しないことを認定しているに他ならない。
また,仮設物であるガイドウォールの上に荷重盛土を搭載する技術思
想が甲2発明にも甲1発明にも存在しない。そうすると,甲2発明と甲
1発明に接した当業者は,甲1発明から荷重盛土を搭載する張り出しス
ラブの構成を除去することはできないから,甲2発明に甲1発明を適用
した地下タンクの構造は,甲2発明のガイドウォールと甲1発明の張り
出しスラブをともに備えた地下タンクの構造に想到し得るにすぎないも
のであって,本件特許発明の構成には想到し得ない。
イ取消事由2(審判手続の法令違反)
(ア)口頭審理において陳述した審判請求書,口頭陳述要領書において主
張した事実は,審決の基礎とし得る。しかし,本件特許発明の具体的無
効理由は,甲1発明を主引用例とし甲2発明を従たる引用例とするもの
にすぎず,審決の甲2発明を主引用例とし甲1発明を従たる引用例とす
るものではない。書面審理中に提出された上申書においては,甲2発明
を主引用例とし甲1発明を従たる引用例とする具体的無効理由が提出さ
れているが,これについて反論する機会が原告に対し与えられていない
ことからみて,弁論主義の原則に反するものであり,審決の基礎とはな
し得ない。次に,書面審理中に提出された弁駁書において訂正審判請求
書に対して主張した事実は,審決の基礎とし得るものの,甲2発明を主
引用例とし甲1発明を従たる引用例とする審決の具体的無効理由とは異
なる。もっとも,審判においては,当事者が申し立てない理由について
も,職権で審理することができる(特許法153条1項)が,その際に
は,審判長はその審理の結果を当事者に通知し,意見を申し立てる機会
を与えなければならない(同条2項。しかし,原告は,審決の具体的)
な特許無効理由については全く知らされておらず,これに意見を申し立
てる機会も与えられていない。かかる審決は,無効審判請求事件の審理
手続きに違背し,この手続き違背が審決の結論に重大な影響を与えるも
のであるから,取消しを免れない。
(イ)被告は,提出した審判請求書,口頭審理陳述要領書,弁駁書におい
ては,本件特許発明は,甲2発明に,甲1発明の「スラブと盛土層」の
構成を組み合わせることにより,容易に推考できたものである,という
主張は行っていない。
被告の無効審判請求書(甲8)における主張は,本件特許発明の甲1
発明との相違点は,甲2発明の構成の一部を組み合わせた程度のものに
すぎないから,請求項1に係る本件特許発明は,その技術分野における
通常の知識を有する者が甲1発明及び甲2発明から容易に推考できた発
,。,,明であるというものである上記論旨は甲1発明を主引用例として
本件特許発明と甲1発明との相違点については甲2発明の一部を組み合
わせた程度のものにすぎない,というにあるのであって,甲2発明に甲
1発明の構成の一部を組み合わせた程度のものとの主張ではない。被告
はこのことを,請求項1に係る本件特許発明は,その技術分野における
通常の知識を有する者が甲1及び甲2から容易に推考できた発明であ
る,とその記載の順序には明確な意図をもって表記しているのであり,
甲2発明及び甲1発明に基づいて容易に推考できた発明であることを意
図しているとは認め難い。
,()さらに被告は平成20年5月30日付け口頭審理陳述要領書甲9
において,審判請求書に関し追加主張するとともに,答弁書及び口頭
審理陳述要領書における原告の主張に対する反論をしている。しかし,
被告のこの追加主張と原告の主張に対する反論は,審判請求書の具体的
無効理由の域を出るものではない。
なお,被告が原告提出の口頭審理陳述要領書に反論できたのは,原告
が審判合議体の指定した期日を遵守して平成20年5月22日提出する
一方,被告は当該期日を遵守することなく,口頭審理期日の前日である
平成20年5月29日に口頭審理陳述要領書を提出したためである。こ
れはアンフェアであり許されることではない。
(ウ)ところで,審判合議体は平成20年5月30日午後2時,特許庁審
,,判廷において行われた口頭審理において平成20年6月16日までに
甲2を主引用例としこれに甲1を組み合わせることについて,両当事者
の考えを内容とした上申書の提出を求めた。この内容は第1回口頭審理
調書(甲10)に記載されている。
これに対して被告及び原告はともに,平成20年6月16日付けで上
申書を提出した(甲11,12。そして被告は,この上申書の中で初)
めて,甲2発明に甲1発明を組み合わせたことによっても容易に想到し
得た発明にすぎない旨を主張した。
以上の手続きの経緯から明らかなように,被告は,原告と同時に提出
した上申書の中で初めて上記主張をしているのであるから,当然のこと
ながら原告は,原告提出の上記上申書において,被告提出の上記上申書
の特許無効理由に反論することは物理的に不可能である。
よって原告は,上申書において,甲2発明を主引用例とすることにつ
いて原告の考え方を表したにすぎず,被告の主張する具体的無効理由に
反論したものではない。そして,被告提出の上申書の写しは,原告に対
し審理終結通知書(甲13)と同日である平成20年8月22日に送達
されたのである(甲14。)
以上の本件特許無効審判請求事件の経緯からみて,被告の上記上申書
における主張である攻撃に対し,合議体より原告の防御である反論をす
る機会は与えられておらず,いわゆる弁論主義の原則を踏まえていない
ことが明らかである。したがって,両上申書を,上記審判事件中の審決
が基礎とする資料として扱うことは,当事者系審判事件の弁論主義の原
則に反し,事件の審理の基礎資料として採用することは許されない。
(エ)そこでさらに,その後になされた平成20年9月8日付け審決(第
)(())1次審決に対する審決取消訴訟平成20年行ケ第10379号
に対し,知的財産高等裁判所による差戻し決定後の特許庁における審理
において,被告から平成21年4月10日付け弁駁書(甲15)が提出
されているので,この弁駁書における被告の無効理由の詳細について検
討する。被告は,この弁駁書において,甲2発明に甲1発明を組み合わ
せることについて主張しているが,被告の主張は,第1次審決を擁護す
る意見を開陳しているにすぎないものであり,被告自身が主体的に,訂
正後の本件特許発明を認定し,甲2発明を正しく認定し,両者を対比し
て一致点と相違点を導き,この相違点について,具体的に訂正後の本件
発明が進歩性を備えるものではない理由を示すものではない。原告は,
かかる抽象的な弁駁書における被告の主張に対しては,具体的に反論す
ることができない。
(オ)以上のように,本件無効審判請求事件において審決の基礎とする資
料とし得る,審判請求書,口頭審理陳述要領書,弁駁書においてなされ
ている被告の主張は,本件訂正後の特許発明は,甲1,甲2に記載され
た発明から当業者が容易に想到し得た発明であり,特許法29条2項の
規定により特許を受けることができない,よって,本件特許発明は,特
許法123条1項2号により,無効とすべきである,というに尽き,本
件特許発明は,甲2発明に甲1発明の一部構成を適用することにより,
当業者が容易に発明をすることができた発明であることについて,具体
的,詳細に論述するものとは言い難い。
この弁駁書に対し,原告は平成21年5月18日付け審判事件上申書
(甲26)において反論しているものの,詳細な無効理由が不明である
一方,取り消された審決(第1次審決)の無効理由も,もはや対世的効
力のないものとされているから,これらの無効理由に対して詳細に反論
したものではない。
原告は,審理が適法に進められていたならば,審決のこの結論には至
らなかったと考えるものであり,これは審決の結論に影響を与える重要
な手続き違背があり,許されるべきでない。
以上のとおり,審決は特許法153条2項の規定に違反してなされた
ものであり,取消しを免れない。
2請求原因に対する認否
請求原因()ないし()の各事実は認めるが,同()は争う。134
3被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
()取消事由1に対し1
ア原告は,取消事由1として,審決が甲2発明の認定を誤り,そのため本
件特許発明との一致点及び相違点の認定を誤り,その結果容易想到性の判
断を誤ったと主張する。原告の主張する取消事由1は,以下のとおり整理
することができる。
①甲2の図1において地表面を示す線が外側ガイドウォールの上端面よ
り上方にあるか否かを議論すること自体が許容されるべきことではない
から「ガイドウォールの上面には『土』が存在すると理解するのが自然,
である」との審決の認定は誤りである。
②甲2発明のガイドウォールを本件特許発明の棚板と同視した審決の認
定は誤りである。
③甲2発明について「前記側壁4と,前記底版3と,前記屋根5と,前
記連続地中壁2と,ガイドウォール6の重量の和である地下タンクの構
造に係る重量が,底版3に下から作用する揚圧力と等しいかそれよりも
大きい形状に構成した」との審決の認定は誤りである。
④審決は,上記①ないし③の認定の誤りの結果,本件特許発明の容易性
の判断を誤った。
イ原告は,甲2の図1で地表面がガイドウォール6より上にあることは明
細書からは読み取れず,甲2のガイドウォール6上に土が存在しないと主
張する。しかし,甲2の図1を見れば明らかなとおり,ガイドウォール6
の上方に水平線が引かれ,その両端にはクロス・ハッチングが付されてい
る。甲2発明のような地下構造物の図面において,通常,クロス・ハッチ
ングが地盤面を表現するために用いられていることは当業者の常識であ
り,甲2において,当業者の常識と異なる表現方法が採用されていること
を疑うべき根拠はない。したがって,ガイドウォール上面には土が存在す
ると理解するのが自然であるとの審決の認定には誤りはない。
原告は,甲2の図1における水平線の説明が明細書中にないから,水平
線には意味がないと主張し,また,水平線をどこに描いても甲2発明を説
明することができるなどと主張する。この原告の主張は,本件において甲
2が引用されていることの法律上の意味を誤解している。すなわち,甲2
は,特許法29条1項3号の刊行物として引用されているにすぎない。し
たがって,本件における甲2発明とは,当業者が甲2の図1と明細書の記
載を総合して読みとることのできる発明であって,甲2の明細書における
本発明と一致しているとは限らない仮に甲2の明細書における本「」。,「
発明」は水平線をどこに描いても説明できるとしても,審決は甲2の図1
に基づいて甲2発明を認定したのであって,甲2の明細書における「本発
明」をそのまま甲2発明として認定したわけではないから,原告の主張は
的外れである。
審決が甲2発明のガイドウォールの上に土が存在すると認定したことに
誤りはない。
ウまた原告は,甲2のガイドウォールは「ガイドウォールの自重のみを連
続地中壁に伝達するもの」であるのに対して「本件特許発明の棚板は,,
ガイドウォールを転用する形態をとろうがとるまいが,本来的に『棚板』
であって,棚板自体の重量とその上に搭載された荷重盛土の重量を支持す
るものであり,棚板と盛土の重量を荷重として地下壁に伝達するものであ
る」から両者は異なると主張する。しかし,甲2の図1を見れば明らかな
,,とおり甲2のガイドウォールの上には土が搭載されているのであるから
当然,ガイドウォールも土の荷重を支持するのに必要な強度を有している
ものである。原告は,本件明細書においてガイドウォールを棚板として使
用する場合について「地下連壁1の上端の外周に取付ける棚板7は,あ,
らたに構築することも可能であるが,地下連壁1の構築に際して設置した
ガイドウォール4を転用することができる。その場合には通常の仮設のガ
,,イドウォール4とは異なり後述するような重量を支持できるだけの寸法
。」(【】),強度が必要となる段落0010と記載されていることを根拠に
甲2のガイドウォールは「後述するような重量を支持できるだけの寸法,
強度」を有しないと主張するものもと思われる。そこで,念のため甲2の
ガイドウォール6に盛土が搭載可能かという点について検討すると,甲2
の図1に記載された実施例を見ればガイドウォール6上に土(盛土)が存
在し,盛土の重量も地下水の浮力に対抗する下向きの力に加算されること
は当業者に自明である以上,甲2のガイドウォール6は盛土を搭載するこ
とが可能な形状をしており,実際にも盛土を搭載しているから,盛土を搭
載することができる寸法,強度を有しているといえる。
原告は,審決の認定は物理学上の法則を振り回すに留まって,本件特許
発明が属する土木工学的なアプローチを怠った旨主張するが,土木工学に
おいても,もとより,物理学上の法則を免れないのであって,原告の主張
は意味不明である。
また,原告は,甲1の張り出しスラブ20が荷重作用のある本設物,甲
2のガイドウォール6が荷重作用のない仮設物,本件特許発明の棚板が荷
重作用のある仮設物であるとしたうえで,本件特許発明の棚板の構成は甲
1と甲2のいずれにも開示されていないと主張する。これは,本設物と仮
設物との違い,荷重作用の有無の違いを主張することで,甲2のガイドウ
ォール6が棚板に該当しないことを主張するものである。
本設物と仮設物の違いについて検討すると,原告も,新たに構築する形
態と,地下壁の構築に際して設置したガイドウォールを転用する形態があ
るが,ガイドウォールを転用する形態をとったとしても,荷重盛土の重量
を支持できるだけの寸法,強度を有する「棚板」であることに変わりがな
い,などとするとおり,仮設か本設かの違いが,棚板に該当するか否かと
いう違いを生じさせる要素ではない。
さらに,原告は,甲2発明のガイドウォール6が本件特許発明の棚板に
当たらないことの理由の一つとして,ジベル7が本件特許発明のせん断伝
達鋼材72とは異なるとも主張するが,甲2でガイドウォール6が盛土の
重量に耐え得る寸法,強度を有するためには,必然,ジベル7も盛土の重
量に耐え得る構造とする必要があることは当業者にとって自明のことであ
るから,甲2発明のジベル7は本件特許発明のせん断伝達鋼材72とは異
なるものではない。
以上のとおりであるから「甲2発明のガイドウォールも『棚板』とい,
える」とした審決の認定に誤りはない。
エ原告は甲2発明は本件特許発明のように地下タンクの総重量を側,,,「
,,,,,壁と底板と屋根と地下壁と地下壁の上端の外周に取付けた棚板と
棚板の上に搭載した盛土の重量の和」と規定する技術思想とは異なる旨主
張する。しかし,甲2には,従来技術の問題点に関して「…側壁や底版,
,,は地下水の浮力に対する安全性から所定の厚みに形成されているために
側壁や底版の周囲の地盤の圧力に対抗できる強度以上の厚みに形成されて
いる。このため,地盤を掘削する量が多大になり,側壁や底版に要するコ
ンクリートの量が多大になる。そして,連続地中壁を施工するときに使用
した内側ガイドウォールと外側ガイドウォールとを撤去するために,これ
らの撤去作業が煩雑であった(段落【0004)との記載があり,そ。」】
の解決手段の作用に関して「…連続地中壁の頂部は,その外側に設置さ,
れた外側ガイドウォールにジベルで結合されているから,外側ガイドウォ
ールを構造体の一部として利用できる。すなわち,ガイドウォールの重量
が地下タンクの構造体の重量に加算される(段落【0007)との記。」】
載があるほか,図1に示されている実施例の説明においては「さらに,,
外側ガイドウォール6を地下水位より上方に構築したため,外側ガイドウ
ォール6自身に浮力が作用するのを防止でき,外側ガイドウォール6の重
量の全てを地下タンクの構造体の重量に加算できる。このため,地下タン
クの構造体における地下水の浮力に対する安全性を向上できる。…(段」
【】)。,,落0014と記載されているさらに発明全体の効果については
「…地下タンクの構造体における地下水の浮力に対する安全性を維持でき
るとともに,側壁や底版を周囲の地盤の圧力に対抗できる必要な強度の厚
みに形成できるから,側壁や底版を薄くでき,地盤を掘削する量を低減で
き,側壁や底版に要するコンクリートの量を低減できる。…(段落【0」
016)とも記載されている。】
これらの記載を総合すれば,甲2発明は「地下タンクの重量のみにて,
揚圧力に対抗する方式」を採用するものであることが明らかである。甲2
発明は,強度上必要な厚みに側壁や底版を形成することによって側壁や底
版に要するコンクリート量を減らし,そのことによって軽くなった地下タ
ンクの重量を補うために外側ガイドウォールの重量を利用することを明瞭
に開示している。すなわち,甲2発明は,ガイドウォールについての各論
発明ではなく,地下タンクの総重量に着目した発明である。
もっとも,甲2においては,地下水の浮力と地下タンクの重量の大小関
係について明示的に記載された部分は存在しない。原告の主張はこの点を
捉えてのものとも考えられる。しかし「地下水の浮力に対する安全性を,
向上できる」あるいは「地下水の浮力に対する安全性を維持できる」とい
う表現が繰返して用いられていることから,甲2発明においても,本件特
許発明と同様に「側壁と,底板と,屋根と,地下壁と,地下壁の上端の,
外周に取付けた棚板と,棚板の上に搭載した盛土の重量の和が,底板に下
から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成」されている
ことは明らかである。
ところで,甲2においては,ガイドウォールの上に搭載されている盛土
の重量については言及されていないことから,原告は,そのことを理由と
して,甲2発明においては,盛土の重量を除いて地下タンクの重量を計算
しても,地下水の浮力に対抗できるが,本件特許発明では,盛土の重量を
含めて初めて地下水の浮力に対抗できるということを主張しているように
も見受けられる。しかし,原告の主張は,第1に,本件特許の特許請求の
範囲の記載に基づかない主張であるから,甲2発明の解釈にかかわらず,
失当であり,第2に,地下水の浮力に対抗する重量の計算に当たって盛土
の重量を考慮することは当業者の容易になし得ることであるから失当であ
る。
甲2発明において「側壁と,底板と,屋根と,地下壁と,地下壁の上,
端の外周に取付けた棚板の重量の和が,底板に下から作用する揚圧力と等
しいかそれよりも大きい形状に構成」されていれば,盛土の重量はマイナ
スではあり得ないから盛土が存在する限りその重量には無関係に側,,,「
,,,,,壁と底板と屋根と地下壁と地下壁の上端の外周に取付けた棚板と
棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土の重量の和が,底板に下
から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成した」という
本件特許発明の要件は充足される。甲2発明において,盛土の重量に言及
していないことが本件において意味を持つとすれば上記要件については,
「側壁と,底板と,屋根と,地下壁と,地下壁の上端の外周に取付けた棚
板の重量の和が,底板に下から作用する揚圧力よりも小さく,かつ,側壁
と,底板と,屋根と,地下壁と,地下壁の上端の外周に取付けた棚板と,
棚板の上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土の重量の和が,底板に下
から作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成した」ことが
特許請求の範囲に記載されていなければならない。しかし,特許請求の範
囲にはそのような記載はないばかりか,このような内容は,本件特許の明
細書にも記載されていない。したがって,原告の主張は,本件特許の特許
請求の範囲の記載に基づかない主張であるから,失当である。
次に,甲1には「上記構成の地下式貯槽構造物によれば,側壁の上端,
部近傍の外周縁に設けられた環状の張り出しスラブと,この張り出しスラ
ブ上に積載された盛土層とを有しているので,地下式貯槽構造物には,地
下式貯槽構造物自体の自重に加え,盛土層の荷重が作用しており,これら
の相互作用により地下式貯槽構造物の底版に作用する地下水の揚圧力に対
。」()。,抗できる4頁11行∼18行と明確に記載されているしたがって
甲1に接した当業者は,甲2においては盛土の重量について言及されてい
ないとしても,地下タンクの自重のみではなく,ガイドウォールの上に搭
載されている盛土の重量を加えて地下水の浮力に対抗できればよいことを
容易に理解できる。したがって,甲2に盛土の重量に関する明示的な記載
がなくても,当業者は当然に盛土の重量を考慮に入れるものである。
以上のとおり,甲2に盛土の重量に関する明示的な記載がなくても,甲
1に接した当業者は当然に盛土の重量を考慮に入れるものであるところ,
この場合に,当業者が事前に土木工学上の考慮を加えてガイドウォールが
盛土の荷重を支持できる寸法,強度を備えるように設計することは,これ
もまた自明のことである。
オ原告は,審決が甲2の「ガイドウォールと土」という構造と甲1の「ス
ラブと盛土層」という構造は類似するとして,甲2と甲1の組み合わせの
,。,容易性を認めた点に対し両者が類似しないと主張するその理由として
原告は,本設と仮設の違いや,土の質量と盛土荷重とは物理学と土木工学
という観点から異なることを主張するが,それが誤りであることは既に述
べたとおりである。
また原告は,甲2発明には盛土荷重が不要であるから甲1発明を適用す
る動機がないとも主張する。しかし,すでに述べたとおり,甲2発明は,
強度上必要な厚みに側壁や底版を形成することによって側壁や底版に要す
るコンクリート量を減らし,そのことによって軽くなった地下タンクの重
量を補うためにガイドウォール6の重量を利用することを明瞭に開示して
いる。他方,甲1発明は,明細書の「…この考案にかかる地下式貯槽構造
物によれば,側壁の上端部近傍の外周縁に設けた環状の張り出しスラブ上
に盛土層を設けることにより,タンク自体の自重と盛土荷重との相互作用
により地下式貯槽構造物の底版に作用する地下水の揚圧力に対抗でき,従
来の地下式貯槽構造物のように底版などのタンク構成部分の厚みを過剰に
する必要がない(8頁)との記載にあるように,底版などの厚みを従来。」
よりも薄くすることで軽くなった地下タンクの重量を補うためにタンク自
体の重量に盛土重量を荷重させることを開示しており,甲2発明と甲1発
明とは,その目的を共通にする。そうであれば,甲2の「ガイドウォール
と土」の構造を甲1における「スラブと盛土」の構成との上記類似性に着
目して両者を組み合わせる動機も存在するといえ,審決の判断には誤りは
ない。
()取消事由2に対し2
ア原告が取消事由2として主張する審理の重大な手続違反とは,審決が当
事者の申し立てない理由について判断したにもかかわらず,特許法153
条2項に基づいて,その審理の結果を被請求人(原告)に通知し,意見を
申し立てる機会を与えなかったというものである。原告の主張する「当事
者の申し立てない理由」とは「甲2発明に,甲1発明の『スラブと盛土,
層』の構成を組み合わせることにより,容易に推考できたものである」と
いう理由である。
したがって,原告の主張は,次の2点からなるものである。
①「甲2発明に,甲1発明の『スラブと盛土層』の構成を組み合わせ
ることにより,容易に推考できたものである」という理由は,原審無
効審判において当事者が申し立てない理由に該当する。
②原審は,原告(被請求人)に対して特許法第153条2項に基づく
意見を申し立てる機会を与えなかった。
,,イ特許法153条2項の趣旨についてまず特許法131条の2第1項は
無効審判請求書における請求の理由を補正することを原則として禁じてい
るところ,これは,審判の審理を迅速にするとともに,被請求人の防御範
囲が不当に拡大しないためである。審理を不当に遅延させるおそれがない
ことが明らかである場合,一定の要件のもとに請求の理由の補正が許され
るが(同第2項,その場合には,あらためて被請求人に答弁書を提出す)
る機会が与えられ(特許法134条2項,その結果,被請求人は,明細)
書,特許請求の範囲又は図面の訂正をする機会を与えられる(特許法13
4条の2。以上は,請求人によって新たな請求の理由が追加される場合)
であるが,被請求人に防御の機会を与える必要があることは,職権によっ
て新たな理由が審理される場合にも同様である。したがって,特許法15
3条2項は,審判長が当事者及び参加人に審理の結果を通知し,意見を申
し立てる機会を与えることを規定している。そして,この場合にも,特許
法134条の2の規定により,被請求人には明細書等の訂正の機会が与え
られる。
ウ原告の主張する被告が申し立てていない理由とは,甲2発明を主引用例
。,とし甲1発明を従たる引用例とするという審決理由を指しているしかし
知的財産高等裁判所平成19年10月18日判決(平成18年(行ケ)1
0378号)は「特許法153条1項,2項でいう『理由』とは,同法,
29条1項3号を引用する同条2項に基づく容易想到性の判断に関して
は,当該発明が特定の刊行物(引用例)記載の発明に基づいて容易に発明
をすることができたという判断又は主張によって特定されるものである。
そして,その場合において,引用例が2以上あるときに,いずれの引用例
をいわゆる主引例とし,いずれを副引例とするかは,単に判断方法の問題
であるに過ぎず,その点に違いがあるからといって,異なる『理由』であ
るとすることはできない」と判示している。本件において,被告は「本。,
件特許の請求項1乃至3に係る発明は,甲第1号証,甲第2号証,甲第3
号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた
ものである(審判請求書〔甲8〕4頁)と無効理由を主張し,この主張。」
を具体的に述べた部分においては「…請求項1に係る本件発明は,その,
技術分野における通常の知識を有する者が,甲第1号証から容易に推考で
きた発明であり,また,甲第1号証及び甲第2号証から容易に推考できた
発明でもある(9頁末行∼10頁2行)と主張している。よって,被告。」
が申し立てた理由は甲1ないし甲3記載の発明に基づいて容易に発明をす
ることができたという主張によって特定されており,その中でいずれを主
引用例とし,残りのいずれを副引用例とするかで,異なる理由を構成する
ことはない。すなわち,原審判手続において,特許法第153条2項の適
用はなく,原告に意見を述べる機会を与えなかったとしても何ら違法では
なかったものである。
さらに原告は,被告が甲2を主引用例とする無効理由についても具体的
に主張していること(平成20年6月16日付け上申書〔甲11,平成〕
21年4月10日付け弁駁書〔甲15)を看過し,さらには,審決で判〕
断された上で採用されなかった原告の主張を,審理の対象外とされたと誤
って主張しているものであり,失当である。
エ以上のとおり,本件においては,当事者の申し立てない理由の審理は行
われていない。しかし,仮に,本件の第1次審決が出された時点で原告の
主張するような手続的な違法が存在したとしても,原告は,すでに,意見
を申し立てる機会及び明細書等を訂正する機会を与えられ,現実にその機
会を利用して意見を申し立て,特許請求の範囲の訂正を行ったから,すで
に違法は治癒している。
まず,平成20年9月8日付けの第1次審決において,甲2を主引例と
して,甲1を組み合わせることが審理されたことが述べられている。そし
て,第1次審決に対して審決取消訴訟が提起されたことにより,原告は特
許法第126条2項に基づく訂正審判請求を行った。その後,特許法第1
81条2項により,第1次審決は決定によって取り消され,本件は特許庁
に差し戻された。特許庁は,特許法第134条の3第2項の規定により,
被請求人たる原告に対して訂正請求の機会を与えた。訂正請求に伴って意
見を申し述べることは当然に許されるから,同時に意見申立ての機会も与
えられたことになる。
すなわち,この段階で,原告は,第1次審決において甲2発明に基づい
,,て甲1発明を組み合わせるという無効理由が審理されたことを知りかつ
訂正請求及び意見申立ての機会を与えられたのである。しかし,被請求人
たる原告は,新たな訂正請求を行わなかったので,訂正審判請求書に添付
された訂正明細書を援用した訂正の請求がなされたものとみなされた。
その後,請求人たる被告に弁駁書を提出する機会が与えられ,さらに,
被請求人たる原告に上申書を提出する機会が与えられた。このような審理
を経て,本件審決(第2次審決)がなされたのである。
,,仮に原告の主張する手続的違法を理由に本件審決を取り消すとすると
特許庁においてあらためて「甲2発明に基づいて甲1発明を組み合わせる
ことにより本件発明は容易である」という理由を審判長が通知し,原告に
意見申立て及び訂正請求の機会を与えることになるが,上述した審理経過
に照らして,原告に対して再度の機会を与える合理性は見い出せない。
以上のとおり,取消事由2は,審理された無効理由が新たな無効理由で
はないという実体的な理由と,そもそも,原告にはすでに意見申立て及び
訂正請求の機会が与えられているという手続的な理由により,成り立たな
い。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯,(2)(発明の内容,(3)(審))
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2取消事由1(甲2発明の内容,本件特許発明との一致点・相違点の認定及び
進歩性についての判断の誤り)について
原告は,審決が甲2発明の内容,本件特許発明との一致点・相違点の認定を
誤り,進歩性についての判断も誤ったと主張するので,以下順次検討する。
(1)原告は,審決の甲2発明の認定に誤りがある旨主張する。
(,「」,ア甲2特開平6−270990号公報発明の名称地下タンクの構造
出願人東京瓦斯株式会社・清水建設株式会社,公開日平成6年9月27
日)には,以下の記載がある。
(ア)特許請求の範囲
・「請求項1】内部掘削時の山留壁としての連続地中壁と,地中に内部空【
間を画成する側壁と,該側壁の下端部に設置される底版とを有する地下タ
ンクの構造であって,前記連続地中壁の頂部は,その外側に設置された外
側ガイドウォールにジベルで結合されていることを特徴とする地下タンク
の構造」。
(イ)発明の詳細な説明
・「産業上の利用分野】本発明は,例えばLPG地下式貯槽等の地下構造【
物に用いて好適な地下タンクの構造に関するものである(段落【000。」
1,手続補正前のもの)】
・「発明が解決しようとする課題】ところで,側壁や底版は,地下水の浮【
力に対する安全性から所定の厚みに形成されているために,側壁や底版の
周囲の地盤の圧力に対抗できる強度以上の厚みに形成されている。このた
め,地盤を掘削する量が多大になり,側壁や底版に要するコンクリートの
量が多大になる。そして,連続地中壁を施工するときに使用した内側ガイ
ドウォールと外側ガイドウォールとを撤去するために,これらの撤去作業
が煩雑であった(段落【0004)。」】
・「課題を解決するための手段】本発明の地下タンクの構造は,内部掘削【
時の山留壁としての連続地中壁と,地中に内部空間を画成する側壁と,該
側壁の下端部に設置される底版とを有する地下タンクの構造であって,前
記連続地中壁の頂部は,その外側に設置された外側ガイドウォールにジベ
ルで結合されていることを特徴とするものである(段落【0006)。」】
・「作用】本発明の地下タンクの構造では,連続地中壁の頂部は,その外【
側に設置された外側ガイドウォールにジベルで結合されているから,外側
ガイドウォールを構造体の一部として利用できる。すなわち,ガイドウォ
。」(【】)ールの重量が地下タンクの構造体の重量に加算される段落0007
・「実施例】以下,本発明の地下タンクの構造の一実施例について,図1【
を参照しながら説明する。図1に示すように,符号1は地下タンクの構造
であり,この地下タンクの構造1は,地中に連続して構築された連続地中
壁2と,この連続地中壁2の内側に固定・設定される底版3と側壁4と,
側壁4の上端部に開閉自在に屋根5と,連続地中壁2の外側に設置された
外側ガイドウォール6とから構成されている(段落【0008)。」】
・「これら連続地中壁2と,底版3と,側壁4と,外側ガイドウォール6と
は,鉄筋コンクリートから所定の厚みに形成されている。これら底版3,
側壁4,屋根5に囲まれて内部空間8が画成されている。この内部空間8
には,例えば,液化天然ガス等の液体が充填されている。前記底版3と側
壁4とは,地中に構築され,これら底版3と側壁4との周囲の地盤の圧力
に対抗できる必要な強度の厚みに形成されている(段落【0009)。」】
・「外側ガイドウォール6は,地下水位より上方に構築され,連続地中壁2
外側の周囲に配設され,かつ,この連続地中壁2の頂部にジベル7で結合
されている。このジベル7は,例えば,スタッドボルト,アンカーボルト
等からなり,連続地中壁2と外側ガイドウォール6とにまたがって配設さ
れ,鉛直方向および円周方向に沿って複数並設され,外側ガイドウォール
6の自重をジベル7を介して連続地中壁2に伝達させることができる。ま
た,地下水位より上方に構築された外側ガイドウォール6には,浮力が作
用しないから,外側ガイドウォール6の全ての重量が地下タンクの構造体
の重量に加算される(段落【0010)。」】
「。,・このような地下タンクの構造1を施工する方法について説明するまず
外側ガイドウォール6と内側ガイドウォールとを仮設する。これら外側ガ
イドウォール6と内側ガイドウォールとの間を掘削し,連続地中壁用鉄筋
籠(図示略)を挿入する。その後,コンクリートを打設し,連続地中壁が
完成するが,このときに,外側ガイドウォール6に,その内側に突出する
ジベル7を取り付けておくことにより,連続地中壁2の頂部と外側ガイド
ウォール6とを結合する。連続地中壁2完成後に,内側ガイドウォールを
撤去する。次に,連続地中壁2内部の地盤を床付け位置まで掘削し,掘削
された地中の底部に底版用鉄筋(図示略)を組み立て,地中の底部にコン
クリートを打設することにより底版3が完成する。連続地中壁2の内側に
は,側壁用鉄筋(図示略)を組み立て,コンクリートを打設することによ
り,側壁4が完成する。その後,側壁4の上端部に屋根5を取り付けるこ
とにより,地下タンクの構造1が施工される(段落【0011)。」】
・「このような地下タンクの構造1によれば,連続地中壁2の頂部は,その
外側に設置された外側ガイドウォール6にジベル7で結合したから,外側
ガイドウォール6の重量を地下タンクの構造体の重量に加算できる。この
ため,地下タンクの構造体における地下水の浮力に対する安全性を維持で
きるとともに,側壁4や底版3を周囲の地盤の圧力に対抗できる必要な強
度の厚みに形成できるから,側壁4や底版3を薄くでき,地盤を掘削する
量を低減でき,側壁4や底版3に要するコンクリートの量を低減できる。
したがって,地下タンクの構造1の施工期間を短縮でき,地下タンクの構
造1の施工に要する費用を低減できる(段落【0012)。」】
・「そして,外側ガイドウォール6を連続地中壁2に結合して,地下タンク
の構造体の重量として利用するために,外側ガイドウォール6の撤去作業
を不要にできる。このため,地下タンクの構造1の施工作業性を向上させ
ることができ,外側ガイドウォール6の撤去作業を不要にできるから,地
下タンクの構造1の施工期間を短縮できる(段落【0013)。」】
・「発明の効果】以上説明したように,本発明の地下タンクの構造によれ【
ば,内部掘削時の山留壁としての連続地中壁と,地中に内部空間を画成す
る側壁と,該側壁の下端部に設置される底版とを有する地下タンクの構造
であって,前記連続地中壁の頂部は,その外側に設置された外側ガイドウ
ォールにジベルで結合されている構成にしたから,外側ガイドウォールを
地下タンクの構造体の一部として利用できる。すなわち,外側ガイドウォ
。」(【】)ールの重量を地下タンクの構造体の重量に加算できる段落0015
・「このため,地下タンクの構造体における地下水の浮力に対する安全性を
維持できるとともに,側壁や底版を周囲の地盤の圧力に対抗できる必要な
強度の厚みに形成できるから,側壁や底版を薄くでき,地盤を掘削する量
を低減でき,側壁や底版に要するコンクリートの量を低減できる。したが
って,地下タンクの構造の施工期間を短縮でき,地下タンクの構造の施工
に要する費用を低減できる(段落【0016)。」】
(ウ)図面(かっこ内は【図面の簡単な説明】の記載である)。
・【図1(本発明の地下タンクの構造を示す断面図である)】。
イ上記ア(ア)∼(ウ)によれば,甲2発明は,地下タンクの構造に関するも
のであるところ(段落【0001,従来の地下タンクにおいては,側壁】)
や底版が,地下水の浮力に対する安全性の観点からは必要以上の厚みとな
っており,地盤掘削量が多大で,側壁・底版に要するコンクリート量も多
大となるとともに,内外のガイドウォールの撤去作業が手間となっていた
(段落【0004。そこで,甲2発明は,側壁・底版に要するコンクリ】)
ート量及び地盤掘削量を低減させること,外側ガイドウォールの撤去作業
を不要とすることをその目的とする(段落【0005。このため甲2発】)
明の外側ガイドウォール6は,連続地中壁2とジベルで結合されて外側周
囲に配設され,地下水位より上方に構築されている(段落【0010。】)
この外側ガイドウォール6は地下タンクの構造体の一部となり,地下水位
より上方にあるから,その全ての重量は地下タンクの構造体の重量に加算
して利用できることとなる(段落【0007・0010・0012】】【】【
・0013。これにより,地下タンクの構造体における地下水の浮力【】)
に対する安全性を維持できるとともに(段落【0012,外側ガイドウ】)
ォール6の撤去作業が不要になる(段落【0013。この外側ガイドウ】)
ォール6の重量を地下タンクの構造体の重量に加算できるため,側壁・底
版を必要以上に厚くする必要がなくなり,地盤切削量,コンクリート量の
低減となるものである(段落【0015・0016。】【】)
そして,外側ガイドウォール6の重量が加算される地下タンクの構造体
の重量とは,地下タンクの構造は「本発明の地下タンクの構造は,…連続
地中壁と,…側壁と,…底版とを有する地下タンクの構造であって,前記
連続地中壁の頂部は,その外側に設置された外側ガイドウォールにジベル
で結合されていることを特徴とするものである段落0006…。」(【】),「
,,この地下タンクの構造1は…側壁4の上端部に取り付けられた屋根5と
…から構成されている(段落【0008)とされているところからし。」】
て,連続地中壁・側壁・底版及び側壁上端部の屋根5からなり,それらの
重量の和(当然外側ガイドウォール6はその一部に含まれる)が地下タン
クの構造体の重量であると解される。
また,上記ア(ウ)のとおり,図1には甲2発明の地下タンクの構造が示
されているところ,土中に埋設される外側ガイドウォール6には,地表面
。,,とみられる直線より下に配設されているそうすると甲2発明において
(外側)ガイドウォール6の上方には土があるものと理解することができ
る。さらに,その土の重量についても,当然ガイドウォール6の重量とと
もに,地下水の浮力に抗するものと解される(この点については後記()4
においても検討する。)
そうすると,審決が,甲2発明の内容につき「連続地中壁2の内側に,
,,固定・設置される側壁4連続地中壁2の内側に固定・配置される底版3
側壁4の上端部に開閉自在に構成された屋根5,地中に連続して構築され
た連続地中壁2によって構成された地下タンクにおいて,連続地中壁2の
上端に外周方向にジベル7で取り付けられたガイドウオール6と,ガイド
ウオール6の上に搭載した土とによって構成され,前記側壁4と,前記底
版3と,前記屋根5と,前記連続地中壁2と,ガイドウオール6の重量の
和である地下タンクの構造に係る重量が,底版3に下から作用する揚圧力
と等しいかそれよりも大きい形状に構成した,地下タンクの構造(17。」
頁9行∼18行)と認定したことに誤りはない。
()また,甲1発明は,以下のとおりであることが認められる。2
ア甲1(実願平2−94761号〔実開平4−53696号〕のマイクロ
フィルム,考案の名称「地下式貯槽構造物,出願人株式会社大林組,公」
開日平成4年5月7日)には,以下の記載がある。
(ア)実用新案登録請求の範囲
・「1)底版と,側壁と,屋根とを備えた地下式貯槽構造物において,前(
記側壁の上端部近傍の外周縁に設けられた環状の張り出しスラブと,こ
の張り出しスラブ上に積載された盛土層とを有することを特徴とする地
下式貯槽構造物」。
(イ)考案の詳細な説明(便宜のため,判決において①以下の番号を付し
た)
①「産業上の利用分野〉〈
この考案は,液化ガスなどが貯蔵される地下式貯槽構造物の構造に関す
る(1頁15行∼17行)。」
②「作用〉〈
上記構成の地下式貯槽構造物によれば,側壁の上端部近傍の外周縁に設
けられた環状の張り出しスラブと,この張り出しスラブ上に積載された
盛土層とを有しているので,地下式貯槽構造物には,地下式貯槽構造物
自体の自重に加え,盛土層の荷重が作用しており,これらの相互作用に
より地下式貯槽構造物の底版に作用する地下水の揚圧力に対抗できる」。
(4頁10行∼18行)
③「実施例〉〈
…地下式貯槽構造物は,これを構築する際に地上から地中連続壁工法に
より地盤E中の支持層に下端が到達するように形成された環状の土留壁
10と,土留壁10の内部を根切りして,その底面に砕石層11を敷設
した上に形成された円盤状の底版12と,前記土留壁10の内面側にこ
れと一体に形成された両端が開口した円筒状の側壁14と,側壁14の
上端を閉止するようにその上端部と一体的に形成された屋根16とを有
していて,底版12,側壁14,屋根16とで四周が画成されている」。
(4頁下2行∼5頁14行)
④「すなわち,この実施例の地下式貯槽構造物では,側壁14の上端部近傍
の外周縁に環状の張り出しスラブ20が,側壁14と一体に形成され,
この張り出しスラブ20上に盛土層22が設けられている(6頁7行。」
∼11行)
⑤「以上のように構成された地下式貯槽構造物では,側壁14の上端部近傍
の外周緑に設けられた環状の張り出しスラブ20と,この張り出しスラ
ブ20上に積載された盛土層22とを有しているので,地下式貯槽構造
物には,地下式貯槽構造物自体の自重に加え,盛土層22の荷重が作用
しており,これらの相互作用により地下式貯槽構造物の底版に作用する
地下水の揚圧力に対抗できる(7頁3行∼10行)。」
⑥「第2図は,この考案の他の実施例を示しており,以下にその特徴点につ
いてのみ説明する。
,,同図に示す実施例では屋根16の高さが第1図のものよりも高いので
盛土層22は,側壁14の上端部近傍の外周縁に形成された張り出しス
ラブ20上にだけ載置するようにしている(7頁11行∼16行)。」
(ウ)図面(かっこ内は「図面の簡単な説明」の記載である)。
・第2図(第二実施例を示す断面図と上面図である)。
イ上記ア(ア)∼(ウ)によれば,甲1発明は,液化ガスなどが貯蔵される地
下式貯槽構造物の構造に関するものであり(①,側壁の上端部近傍の外)
周縁に設けられた環状の張り出しスラブの上に積載された盛土層を有し,
この盛土層の荷重も作用して地下水の揚圧力に対抗する(②)もので,第
2図によれば,盛土層22が張り出しスラブ20の上に積載された状態が
看て取れる(③∼⑥。)
()一方,本件特許発明は,以下のとおりであることが認められる。3
ア本件訂正後の本件明細書(全文訂正明細書,甲7)には,以下の記載が
ある。
(ア)特許請求の範囲
上記第3,1()記載のとおり。2
(イ)発明の詳細な説明
・「発明の属する技術分野】【
本発明は,地下タンクの構造に関するものである(段落【0001)。」】
・「従来の技術】【
,,,,一般に地下タンクは図7に示すように側壁aと底板bと屋根cと
側壁aの外周に設置した地下連壁dとによって構成してある。
タンクの底板bには地下水の水頭に応じて,大きな揚圧力が下から作用
して,タンクに浮き上がり力を与えている(段落【0002)。」】
・「本発明が解決しようとする課題】【
上記のような揚圧力に対抗するためには,従来の地下タンクでは壁,床
版の厚さを増して大きな重量を確保し,そのコンクリートの重量によっ
て揚圧力に対抗する対策を採用している。
しかしこのような対策を採用するためには,掘削深さ,および掘削幅を
大きく拡大しなければならず,またコンクリートの体積が大きくなりき
わめて不経済となる(段落【0003)。」】
・「本発明は上記したような従来の問題を解決するためになされたもので,
簡単な施工と構造によって,揚圧力に対抗することができる,地下タン
クの構造を提供することを目的とする(段落【0004)。」】
・「本発明の実施の態様】【
以下図面を参照しながら本発明に関わる地下タンクの構造の実施例につ
いて説明する(段落【0006)。」】
・「<イ>一般的構造。
地下タンクは一般にはまずタンクの周囲に地下連壁1を構築し,地下連
壁1によって包囲した内側の地山を最深部まで掘削し,底板2コンクリ
ートを打設し,側壁3を立ちあげて構築してゆく。最上部まで立ちあげ
たら屋根6を架設して完了する(段落【0007)。」】
・「<ロ>地下連壁の構築。
地下連壁1の構築に際してはまず地表部分にガイドウオール4を設け
る。
このガイドウオール4はコンクリート製の板体であり,地下連壁1の溝
。,の縁に枠として配置するこのガイドウオール4を設けることによって
地下連壁1構築のための掘削機5が移動しても溝の周囲の地山が崩壊す
ることを防止することができる。
したがって,地下連壁1の施工が完了するとガイドウオール4は地下連
壁1の頭部に位置することになる(段落【0008)。」】
・「<ハ>棚板の形成。
上記のように,地下タンクは側壁3と,底板2と,屋根6と,側壁3の
外周に設置した地下連壁1とによって構成してある。
このような地下タンクにおいて,地下連壁1の上端に,外周方向に向け
て棚板7を片持ち梁状に張り出した状態で取付ける。
,。この棚板7は地下連壁1の上端とは構造上一体化するように構成する
そのために例えば地下連壁1の上端と棚板7とをキー71を介して取付
けたり(図,上端と棚板7とに連続するせん断伝達鋼材72を水平に配)
置したり(図,上端と棚板7との間に機械継ぎ手73で連続した鉄筋7)
4を配置したり(図,あるいは連壁1の上端内部で,連壁1の鉄筋11)
と棚板7の鉄筋74を重ね継ぎ手で構成したり(図,といった各種の構)
成を採用することができる。
棚板7の構築は地表面に棚板7部分を掘削して構成する。したがって地
表面の掘削,地表面での鉄筋組み立て,地表面からのコンクリートの打
設といった,通常のスラブ構築の方法とかわりなく,きわめて簡単な作
業によって構築することができる。
なお,実際には地下連壁1の上端は解体して新たに別のコンクリートを
打設して継ぎ足す場合が多いが,そのように継ぎ足した部分も含めて本
明細書では『地下連壁1』と称している(段落【0009)。」】
・「<ホ>棚板7上の盛土。
地下タンクの構築が完了したら,盛土を行う。
盛土で重要な点は,特に地下タンクの周囲に配置した棚板7の上に搭載
した荷重盛土8の量である(段落【0011)。」】
・「<ヘ>棚板7上の荷重盛土8の決定。
棚板7は自由な寸法だけ周囲に張り出すものではなく,その上に搭載す
る荷重盛土8の量,すなわち荷重盛土8の重量が問題である。
そのために板の寸法の決定は(段落【0012),」】
・棚板7の上に搭載した荷重盛土8の重量と側壁3の重量と底「[],[],[
板2の重量]と[屋根6の重量]と[地下連壁1の重量]と[棚板7,,,
の重量]の和が,底板2に下から作用する[揚圧力]と等しいかそれよ
りも大きくなるようにその形状を構成する。
そうすれば上向きの力よりも下向きの力が大きくなり,揚圧力によって
地下タンクが浮き上がる危険性は解除される(段落【0013)。」】
・「本発明の効果】【
本発明の地下タンクの構造は以上説明したようになるから次のような効
果を得ることができる。
<イ>コンクリートを厚くして重量を増加するためにはタンクの底板
2,あるいは側壁3の掘削量を増加しなければならない。
しかし本発明の構成であれば,地表面に棚板7部分を配置するだけであ
るから,地表掘削,地表での鉄筋組み立て,地表面からのコンクリート
の打設といった,通常のスラブ構築の方法とかわりなく,きわめて簡単
。」(【】)な構造によって揚圧力に対抗することができる…段落0014
(ウ)図面(かっこ内は【図面の簡単な説明】の記載である。甲5〔特許
公報)〕
・【図1(本発明の地下タンクの構造の実施例の説明図)】。
イ上記ア(ア)∼(ウ)によれば,本件特許発明は,地下タンクの構造に関す
るものであり(段落【0001,従来の地下タンクでは,タンクの底板】)
には地下水の水頭に応じて,大きな揚圧力が下から作用して,タンクに浮
き上がり力を与えているところ(段落【0002,これに対抗するため】)
に,壁,床版の厚さを増して大きな重量を確保し,そのコンクリートの重
量によって揚圧力に対抗する対策を採用していたが,これでは,掘削深さ
・幅を拡大しなければならず,コンクリートの体積も大きくなって不経済
であるとの問題があった(段落【0003。そこで,本件特許発明は,】)
簡単な施工と構造によって,揚圧力に対抗することができる地下タンクの
構造を提供することを目的とする(段落【0004。】)
そのため,本件特許発明では,地下壁の上端に取付けた棚板と,棚板の
上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土とによって構成し,側壁と,底
板と,屋根と,地下壁と,地下壁の上端の外周に取付けた棚板と,棚板の
上に地下タンク構築後に搭載した荷重盛土の重量の和が,底板に下から作
用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成した,地下タンクの
構造とすることにより(特許請求の範囲,地表面に棚板部分を配置する)
だけであるから,地表掘削,地表での鉄筋組み立て,地表面からのコンク
リートの打設といった,通常のスラブ構築の方法とかわりなく簡単な構造
によって揚圧力に対抗することができるとするものである(段落【001
4。】)
()小括4
上記()・()で認定した内容により甲2発明と本件特許発明とを対比する13
と,甲2発明の「連続地中壁2の内側に固定・設置される側壁4」は,本件
特許発明の「側壁」に,甲2発明の「連続地中壁2の内側に固定・設置され
る底版3」は本件特許発明の「底板」に,甲2発明の「側壁4の上端部に開
閉自在に構成された屋根5」は本件特許発明の「屋根」に甲2発明の「地中
」,「」壁に連続して構築された連続地中壁2は側壁の外周に設置した地下壁
に相当するものといえる。
そして,本件特許発明の「棚板」は,上記()で検討したように,地下壁3
の上端に取り付けられるものであるところ,外周方向に向けて片持ち梁状に
張り出した状態で取り付けられ(段落【0009,その上に荷重盛土を載】)
せるものであるから,甲2発明における,連続地中壁とジベルで結合され外
側周囲に配置されて,その上方には土が載っている「ガイドウォール」に相
当するものといえる。
一方,本件特許発明において,土は地下タンクの構築後に棚板の上に搭載
され「荷重盛土」とされている(特許請求の範囲の記載)のに対し,甲2,
発明における「土」については,揚圧力に抗するための重量の和とされるか
の点も含め,甲2発明において明示はされていない。
,,「,そうすると審決が本件特許発明と甲2発明との一致点につき側壁と
底板と,屋根と,側壁の外周に設置した地下壁とによって構成した地下タン
クにおいて,地下壁の上端に外周方向に向けて取付けた棚板と,棚板の上に
搭載した土とによって構成し,地下タンクの構造に係る重量が,底板に下か
ら作用する揚圧力と等しいかそれよりも大きい形状に構成した,地下タンク
の構造」である点を認定し(20頁17行∼22行,相違点として,本件。)
特許発明では「棚板の上に搭載した土」が「地下タンク構築後に」棚板の,,
上に搭載され,また「荷重盛土」とし重量に加算し,地下タンクの構造に,
係る重量が「側壁と,底板と,屋根と,地下壁と,棚板と,棚板の上に搭載
した荷重盛土の重量の和」であるのに対し,甲2発明では「棚板の上に搭,
載した土」が「地下タンク構築後に」棚板の上に搭載されるとの明示はな,
く,また「棚板の上に搭載した土」を「荷重盛土」とし重量に加算すると,
の明示はなく,地下タンクの構造に係る重量が「側壁と,底板と,屋根と,
地下壁と,棚板の重量の和」である点を認定した(20頁24行∼31行)
ことについて,いずれも誤りはないというべきである。
そこで,本件特許発明と甲2発明との相違点について検討すると,甲2発
明には,上記()で検討したとおり,ガイドウォールの上に土が存するとこ1
ろ,上記()のとおり,甲1発明には環状の張り出しスラブの上の盛土層の2
荷重も作用することで揚圧力に抗する地下式貯槽構造物の構成が示されてい
るから,甲2発明のガイドウォールの上の土に甲1発明の盛土層の荷重を作
用して揚圧力に抗するとの構成を採用することは当業者(その発明の属する
技術の分野において通常の知識を有する者)において容易に想到し得るもの
と認められる。また,地下タンクの構造に関する本件特許発明において,棚
板の上の土を地下タンクの構築後に搭載するとの施工の順序の定めについて
は,訂正後の明細書の記載を参酌しても格別の意味を持つと解することはで
きないところ,甲2発明においても,施工段階においてガイドウォールの上
に土が存するものとは解されないから,地下タンクの構築後にガイドウォー
,。ルの上に土を搭載することは当業者において容易に想到し得ることである
そうすると,審決が,本件特許発明と甲2発明との相違点の構成につき容
易想到であるとした判断についても誤りはないというべきである。
()原告の主張に対する補足的判断5
ア原告は,甲2発明が「ガイドウォール6の上に搭載した土」を備える,
としたのは誤りである旨主張する。
しかし,上記(1)イで検討したとおり,図1によれば,土中に埋設され
るガイドウォール6の上には土があるものと理解できるから,審決がガイ
ドウォール6の上に搭載した土を備えるものと認定したことに誤りはない
から,原告の上記主張は採用することができない。
イまた原告は,甲2発明のガイドウォールと本件特許発明の棚板とは異な
るものであると主張する。
しかし,甲2発明のガイドウォールは,その自重を連続地中壁に伝達す
るものであるから,ガイドウォール上の土の荷重も合わせて連続地中壁に
伝達するだけの強度及び寸法を備えるものとすることは当業者において当
然になしうる事項であり,甲2発明のガイドウォールは本件特許発明の棚
板に相当するものである。原告の上記主張は採用することができない。
ウ次に原告は,審決が甲2発明の地下タンクの構造に係る重量は「前記,
側壁4と,前記底版3と,前記屋根5と,前記連続地中壁2と,ガイドウ
ォール6の重量の和である」としたのは誤りであると主張する。
しかし上記(1)で検討したとおり甲2発明の地下タンクの構造は…,,「
連続地中壁と,…側壁と,…底版とを有する地下タンクの構造であって,
前記連続地中壁の頂部は,その外側に設置された外側ガイドウォールにジ
。」(【】),ベルで結合されていることを特徴とするものである段落0006
「…この地下タンクの構造1は,…側壁4の上端部に取り付けられた屋根
5と,…から構成されている(段落【0008)とされているところ。」】
からして,揚圧力に抗する地下タンクの構造に係る重量は連続地中壁・側
壁・底版・側壁上端部の屋根5及び連続地中壁と結合された外側ガイドウ
ォール6の重量の和であると解される。原告の上記主張は採用することが
できない。
エ次に原告は,本件特許発明が属する土木工学分野においては,土の重量
を地下タンクの荷重として見込むことが工学的に可能であるとされたもの
であり,単なる土の質量とは異なるとも主張するが,甲1発明及び甲2発
明に接した当業者は,甲2発明のガイドウォールの上の土の重量を荷重と
して考慮し得ると解されるから,原告の上記主張は採用することができな
い。
オさらに原告は,甲2発明に甲1発明を適用すべき動機付けがない旨を主
張するが,本件特許発明・甲2発明・甲1発明はいずれも地下タンクの構
造に係る同一の技術分野に属し,地下水の揚圧力に抗するための荷重とい
う共通の技術課題を有するものであるから,適用すべき動機付けが存する
というべきであり,原告の上記主張は採用することができない。
3取消事由2(審判手続の法令違反)について
原告は,本件審判手続には,甲2発明を主引例として,これに甲1発明を組
み合わせるとの構成については,原告に意見を述べる機会が与えられず法令違
反があると主張するので,以下検討する。
無効審判請求人である被告は平成19年10月5日付け無効審判請求書甲,(
8)において,本件特許発明が進歩性を欠如するとの無効理由を主張するにつ
き,刊行物として甲1∼甲3を挙げた。これに対し,平成20年5月30日に
行われた第1回口頭審理(甲10〔第1回口頭審理調書)において,審判長〕
から,甲2を主引用例としこれに甲1を組み合わせることについて両当事者の
考えを内容とした上申書を提出することが求められ,これを受けて原告は,平
成20年6月16日付け上申書(甲12)を提出した。同上申書において原告
は「Ⅱ.甲第2号証を主引例にして甲第1号証(の図2)の構成を置換した,
場合,もしくは組み合わせた(寄せ集めた)場合に対して,本件特許発明1が
進歩性を有すること(6頁下8行∼下6行)の項目において,甲2発明に甲」
1発明を組み合わせた場合につき詳細に反論している。
そして,平成20年9月8日付けで本件訂正前の請求項1∼3に係る発明を
無効とする内容の第1次審決がされたところ,第1次審決では甲2発明を主引
用例としてこれに甲1等を組み合わせるとの論理付けが示されている(甲2
7。原告は,この第1次審決に対し平成20年10月20日に審決取消訴訟)
(平成20年(行ケ)第10379号)を提起し,平成20年12月1日に本
件特許につき訂正審判請求(甲6,7)を行ったところ,上記第1次審決につ
いては知的財産高等裁判所において特許法181条2項による取消決定(差戻
し決定)がされた。そして差戻し後の審判手続きにおいて,原告は,特許庁審
判長から指定された訂正を請求するための相当の期間(甲23)内に訂正請求
を行わなかったところから,上記平成20年12月1日付け訂正審判請求書に
添付された全文訂正明細書を援用した訂正の請求がされたとみなされることと
された。また,上記差戻し決定後の審判手続において原告が出した上申書(平
成21年5月18日付け,甲26)においても「Ⅱの1.甲第2号証に記載,
された発明との対比(11頁17行以下)において,甲2発明に甲1発明を」
,「,適用した場合の無効理由について詳細に反論した上で以上詳述したように
甲2発明に甲1発明を適用したとしても,当業者といえども上記相違点…に係
る構成を想起し得ないのであるから,訂正特許発明の特許性を否定することは
できない(15頁14行∼16行)として甲2発明を主引用例としてこれに。」
甲1発明を組み合わせることについて詳細に反論しているところである。
以上の検討によれば,甲2発明を主引用例として,これに甲1発明を組み合
わせることについては,第1次審決がなされる以前から原告において十分に反
論をする機会が与えられて実際に反論もし,第1次審決・訂正(審判)請求等
を経て,更に差戻し後の審判手続きにおいても更なる反論を行ってきたもので
あるから,本件第2次審決が当事者が申立てない無効理由について判断し,こ
れについて原告に意見を申し立てる機会を与えなかったものとは到底いえない
ことは明らかである。審判の手続に法の定める手続違背はなく,原告の上記主
張は採用することができない。
4結語
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は全て理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官真辺朋子

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