弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
     前項の部分につき、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人滝澤功治、同小越芳保の上告理由第一点について
一 原審が確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 D金庫(以下「D」という。)は、昭和五四年七月二〇日、株式会社Eに対
し、三五〇〇万円を、昭和五五年一月から昭和六一年五月まで毎月一〇日に四五万
円(最終回は八〇万円)を支払う、利息は年八・一パーセント、遅延損害金は年一
四・五パーセントとする旨の約定で貸し付け、上告人、F及びG(以下「G」とい
う。)の三名が右の貸付金債務を連帯保証した。
 2 上告人について、昭和六〇年三月六日神戸地方裁判所明石支部において和議
開始決定があり、同年六月一二日、(1) 和議認可の決定が確定した日から六箇月
を経過した日を第一回とし、以後一年目ごとに合計一五回にわたり、毎年和議債権
元本の四パーセント相当額を支払う〈総計六〇パーセント)、(2) 債務者が(1)
の支払を終えたときは、債権者は債務者に対し、その余の和議債権元本及び利息遅
延損害金を免除する、との内容の和議条件(以下「本件和議条件」という。)で、
和議を認可する旨の決定が確定した。
 3 Gは、昭和五六年一〇月三一日から昭和六三年一〇月二〇日までの間に、連
帯保証人として合計四五九七万四七三〇円をDに弁済した。
 4 Fは無資力である。
 5 Gは、平成元年九月一三日死亡し、これを被上告人ら両名が相続した。
二 本件は、被上告人らが、上告人に対し、民法四六五条一項、四四二条、四四四
条に基づき、右弁済額合計の二分の一に相当する二二九八万七三六五円及びこれに
対する遅延損害金の支払を求める請求である。
 原審は、右の事実関係の下で、前記弁済により発生した上告人のGに対する求償
債務は、右金額及びこれに対する右弁済の後である昭和六三年一〇月二一日から完
済まで年五分の割合による利息を支払う義務であり、右求償債務が、本件和議条件
によって、平成元年一二月一二日を第一回とし、以後平成一五年まで毎年一二月一
二日に右元本二二九八万七三六五円の四パーセントに当たる九一万九四九四円(円
未満切捨て)を支払う義務等に変更されたと判断し、その限度で被上告人らの請求
を認容すべきものとした。
三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のと
おりである。
 連帯保証人は、自己の負担部分を超える額を弁済した場合は、民法四六五条一項、
四四二条に基づき、他の連帯保証人に対し、右負担部分を超える部分についてのみ、
求償権を行使し得るにとどまり(最高裁昭和四五年(オ)第六一七号同四六年三月
一六日第三小法廷判決・民集二五巻二号一七三頁)、弁済した全額について負担部
分の割合に応じて求償することができるものではない。そして、連帯保証人の一人
について和議開始決定があり、和議認可決定が確定した場合において、右和議開始
決定の時点で、他の連帯保証人が和議債務者に対して求償権を有していたときは、
右求償権が和議債権となり、その内容は和議認可決定によって和議条件どおりに変
更される。
 右の場合、和議開始決定の後に弁済したことにより、和議債務者に対して求償権
を有するに至った連帯保証人は、債権者が債権全部の弁済を受けたときに限り、右
弁済による代位によって取得する債権者の和議債権(和議条件により変更されたも
の)の限度で、右求償権を行使し得るにすぎないと解すべきである。けだし、債権
者は、債権全部の弁済を受けない限り、和議債務者に対し、和議開始決定当時にお
ける和議債権全額について和議条件に従った権利行使ができる地位にあること(最
高裁昭和六〇年(オ)第五八九号同六二年六月二日第三小法廷判決・民集四一巻四
号七六九頁参照)からすれば、連帯保証人は、債権者が債権全部の弁済を受けるま
での間は、一部の弁済を理由として和議債務者に求償することはできないというべ
きであり、また、和議制度の趣旨にかんがみても、和議債務者に対し、和議条件に
より変更された和議債権以上の権利行使を認めるのは、不合理だからである。
 これを本件についてみるに、Gの上告人に対する求償権の存否及び額を判断する
には、前記説示したところに従って、和議開始決定までにGが上告人に対して有し
ていた求償権、和議開始決定の後にGが上告人に対して有するに至った求償権、和
議開始決定時にDが上告人に対して有していた和議債権(連帯保証債権)の各内容
及びDが債権全額の弁済を受けたか否かを確定しなければならない。ところが、原
審は、これらの点を何ら確定しないまま、Gは、上告人に対し、右の和議開始決定
の前後にわたってDにGが弁済した額の合計額の二分の一に相当する二二九八万七
三六五円の求償権を有するものとし、右求償権が本件和議条件とは異なる内容に変
更されたものと判断し、その限度で被上告人らの請求を認容したものであり、原審
の判断は、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすこ
とは明らかである。論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、原判決中上告人
敗訴部分は破棄を免れない。そして、以上判示したところに従って更に審理を尽く
させる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、その余の論旨に対する判断を省略し、民訴法四〇七条一項に従い、裁判
官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    河   合   伸   一

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