弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人渡部信男の上告趣意第一点及び第二点について。
 原審第二回公判において立会検事が被告人に対し附帯控訴をしたこと、及び原判
決が第一審で無罪になつた事実であるAに対し、被告人が人絹織物等二八〇疋を販
売譲渡した点を有罪と判定したことはいずれも所論のとおりである。しかし同一事
件においては、訴訟のいかなる段階においても唯一の危険があるのみであつて、そ
こには二重危険というものは存在しないのであるから下級審における無罪又は有罪
判決に対し、検察官が上訴をなし有罪又はより重き刑の判決を求めることは、被告
人を二重の危険に曝すものでもなく、従つてまた憲法三九条に違反して重ねて刑事
上の責任を問うものでないことは当裁判所の判例(昭和二四年新(れ)第二二号同
二五年九月二七日大法廷判決参照)とするところであるから本件において検事が附
帯控訴をしたこと及び第一審で無罪となつた事実を原判決が有罪としたことはいず
れも憲法三九条に違反するものであるということはできないのである。論旨はいず
れも理由がない。
 同第三点について。
 原判決が所論の証拠によつて被告人がAから小巾織物三六五反を買受け、又同人
に対し人絹織物二八〇疋を売却した事実を認定していることは所論のとおりである。
しかしながら、原審公判廷における被告人のAから繊維製品を買受け又は同人に売
渡した顛末に関する供述が原審裁判長の誘導尋問により被告人の自白を強要したも
のであることは記録上これを認むべき事跡はないのであるから、原判決が右供述を
証拠に採用したことは正当で所論のような違法はない。また裁判所が証拠に引用し
た被告人の自白がその裁判所の公判廷における自白であるならばそれは憲法三八条
三項の自白に含まれないことは当裁判所の判例として示したところである(昭和二
三年(れ)第一六八号、同年七月二九日大法廷判決、昭和二三年(れ)第一五四四
号、同二四年四月二〇日大法廷判決参照)。そして原判決が証拠に引用したのは原
審の公判廷における被告人の自白であるから、たとえそれが唯一の証拠であつても
その自白のみによつて事実を認定できるのである。従つて原判決には所論のような
違法なく論旨は採用できない。
 よつて旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。
 この判決は論旨第一、二点については裁判官全員一致の意見によるものであり、
論旨第三点については真野、斎藤各裁判官の補足意見、塚崎、澤田、井上、栗山、
穗積各裁判官の反対意見を除き、その他の裁判官一致の意見によるものである。
 右補足意見及び各反対意見は前記引用の大法廷判決に記載されたところと同一で
ある。
 検察官茂見義勝関与
  昭和二五年一一月八日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       保
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
 裁判官真野毅、同穗積重遠は出張につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義

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