弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     1 本件控訴を棄却する。
     2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
         事    実
第一当事者の求める裁判
 一 控訴の趣旨
 1 原判決を取消す。
 2 被控訴人は、控訴人に対し、金八、八八一、一〇〇円及び内金七、八〇一、
〇〇〇円に対する昭和四八年五月八日から右完済に至るまで年五分の割合による金
員を支払え。
 3 訴訟費用は、第一審、第二審ともに被控訴人の負担とする。
 4 主文2につき仮執行の宣言を求める。
 二 控訴の趣旨に対する答弁
 控訴棄却の判決を求める。
 第二当事者の主張
 一 控訴人
 1 控訴人は、昭和四八年四月一〇日に、訴外清水建材重機株式会社に対して、
金七、八〇一、〇〇〇円を貸付けた。
 2 その際、訴外会社は、控訴人に対して、同社が被控訴会社に対して有する昭
和四八年三月二一日から同年四月二〇日までの工事代金債権を右貸金債権の担保と
する目的で、右工事代金債権の代理受領権限を付与した。
 3 右工事代金債権の額は、少くとも金七、八〇一、〇〇〇円を越えていた。
 4 被控訴会社は、右担保の趣旨を知りながら、昭和四八年四月二〇日に右代理
受領を承諾した。なお、その際、被控訴会社担当者は、事情の説明を求めた控訴人
の代理人田子璋弁護士に対して、被控訴会社が訴外会社に対して反対債権を有して
居り、将来、相殺をするようになることを窺わせるような事情は一切述べなかつた
ばかりか、却つて代理受領の方法で控訴人が訴外会社に対して融資して呉れるよう
に要請した。
 5 よつて、控訴人は、被控訴会社に対して前記工事代金七、八〇一、〇〇〇円
の支払を求め得べきところ、被控訴会社は、前記工事代金の支払期日である昭和四
八年五月七日に、同社が訴外会社に対して有する別紙目録記載の債権と対当額で相
殺する旨の意思表示をしたと主張して支払を拒絶した。
 6 しかし、被控訴会社の前記代理受領の承諾によつて、控訴人と被控訴会社と
の間に、被控訴会社は代理受領によつて貸金債権の満足が得られるという控訴人の
利益を承認し、正当な理由もないのに右利益を侵害しないという趣旨の契約が成立
したものであるから、被控訴人は右契約の趣旨に反して控訴人の右利益を侵害する
ことのないようにすべき義務がある。従つて、相殺を主張して支払を拒んでいる被
控訴会社の態度は、信義則に反し禁反言の法理にもとる不当の所為であつて、右相
殺をもつて控訴人に対抗しうべき限りでない。
 7 仮にそうでないとしても、被控訴会社の担当者は、代理受領の承諾をするに
際し、被控訴会社が訴外会社に対して反対債権を有することを知つて居り、また、
後にこれをもつて代理受領を承諾した債権と相殺されることを認識しながら、控訴
人にこれを秘して承諾したものであり、その結果、控訴人は訴外会社に貸付けた金
七、八〇一、〇〇〇円と同額の損害を蒙つた。右の損害は、被控訴会社の被用者が
その事業の執行につき第三者たる控訴人に加えたものであるから、被控訴会社は、
控訴人に対してこれを賠償すべき責任がある。
 8 よつて被控訴会社は控訴人に対し、控訴人による代理受領を承諾した訴外会
社の被控訴会社に対する工事代金七、八〇一、〇〇〇円及びこれに対する支払期日
の翌日たる昭和四八年五月八日以降完済までの遅延損害金を、または前項7の不法
行為による損害賠償金及びこれに対する不法行為後の遅延損害金として右と同額の
金員を支払う義務があるものというべく、なお、控訴人は本件訴訟を弁護士に委任
するための費用として金一、〇八〇、一〇〇円の支出を要することとなつたのでこ
れを加え、被控訴会社に対して、金八、八八一、一〇〇円及び内金七、八〇一、〇
〇〇円に対する昭和四八年五月八日から右完済に至るまで民法所定年五分の割合に
よる遅延損害金の支払を求めるため本訴請求に及んだ次第である。
 二 被控訴人
 1 控訴人の主張事実1は知らないが、同2のうち代理受領権限付与の事実は認
める。
 2 同3は否認する。被控訴会社が昭和四八年三月二一日から同年四月二〇日ま
での工事代金として訴外会社に対して支払うべき金額は、右期間内の下請労賃、外
注輸送費計六、〇一〇、六二〇円から工事完了まで被控訴会社が留保することにな
つている工事出来高の一割と立替金計三四七、四一七円を控除した金五、六六三、
二〇三円である。
 3 同4のうち、被控訴会社が控訴人主張の日時に本件代理受領を承諾した事は
認めるが、その余の事実は否認する。
 4 同5のうち、被控訴会社が控訴人主張の如き反対債権をもつてする相殺の意
思表示をなした事実は認める。右相殺により控訴人主張の工事代金債権は消滅し
た。
 5 同6から8までは争う。
 第三証拠(省略)
         理    由
 第一 控訴人の訴外会社に対する融資
 原審証人Aの証言により真正に成立したものと認められる甲第一号証並びに原審
証人B、同Aの各証言及び控訴本人Cの原審における尋問の結果を綜合すれば、控
訴人が昭和四八年四月一〇日に訴外会社に対して金七、八〇一、〇〇〇円を貸付け
たことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
 第二 訴外会社の控訴人に対する工事代金受領の代理権の付与とその被控訴会社
による承諾
 一 右金七、八〇一、〇〇〇円を借受ける際に、訴外会社が控訴人に対して、同
社が被控訴会社に対して有する昭和四八年三月二一日から同年四月二〇日までの工
事代金受領の代理権を付与し、被控訴会社が昭和四八年四月二〇日に右代理受領を
承諾したことは、当事者間に争がない。そして、原審証人Aの証言により真正に成
立したものと認められる甲第二号証、原審証人Dの証言により真正に成立したもの
と認められる乙第一号証の二並びに右各証言及び控訴本人の原審における尋問の結
果を綜合すれば、右代理権授与は、控訴人が訴外会社に対して有する貸金債権を担
保するためになされ、被控訴会社は控訴人の申出に応じ、担保の趣旨であることを
了解して代理受領を承諾したものであることが認められる。
 二 してみれば、控訴人は、被控訴会社に対して代理受領の趣旨に従い、訴外会
社が昭和四八年三月二一日から翌月二〇日までの間に被控訴会社の注文に応じて実
施した工事出来高に相当する請負代金の支払を控訴人になすよう求め得べきとこ
ろ、それが金六、〇一〇、六二〇円であることは被控訴会社の自認するところであ
るが、それ以上の金額に達している旨の控訴人の主張を肯認するに足る適確な証拠
はない。
 被控訴会社は、また、「工事完了まで出来高の一割に相当する金員を被控訴会社
で留保でき、これと立替金を併せて計金三四七、四一七円を前記出来高より控除す
る。」と主張するが、右留保の合意や立替の事実を認むべき何らの証拠もないの
で、右主張もまた採用し得ない。
 従つて、被控訴会社は、控訴人に対し金六、〇一〇、六二〇円の請負代金を支払
う義務があることとなり、その弁済期が昭和四八年五月七日であることは、被控訴
会社の明らかに争わないところである。
 第三 被控訴人のした相殺とその効果
 一 原審証人Eの証言によりいずれも真正に成立したものと認められる乙第五、
第六号証、原審証人Dの証言により真正に成立したものと認められる乙第八号証、
原審及び当審証人Dの証言並びに当審証人Fの証言を綜合すれば、被控訴会社は昭
和四六年五月一五日に訴外会社に対し三箇月後に返還する約定で金四、〇〇〇、〇
〇〇円を貸付け、更に同年七月三〇日に同年一二月に返還する約定で金三、五〇
〇、〇〇〇円を貸付けたが、その支払のないまま訴外会社は昭和四八年四月末に倒
産し、その代表者は一時所在不明となつたこと、被控訴会社は、昭和四九年一月三
一日に、訴外Fを介し、右二口の貸付金合計金七、五〇〇、〇〇〇円とその他の債
権(別紙債権目録表示)とをもつて、被控訴会社の訴外会社に対する前記請負代金
債務と対当額で相殺する旨の意思表示を書面で訴外会社代表者になしたこと、以上
の事実が認められる。
 <要旨>二 ところで、代理受領の承諾の効果は、債権譲渡の際の債務者の異議を
留めない承諾と同様に解することは出来ず、一般に、債権担保を目的とする
代理受領の承諾をした第三債務者は、債務が有効に存在しその支払を現実になすべ
き関係にある限り、その履行を直接自己の債権者に対してなすこと等によつて正当
の理由がなく代理受領権者の利益を害してはならない拘束を負うものと解すべきで
あるが、承諾前から有する反対債権をもつて相殺をなしうる利益(受働債権のうえ
にあたかも担保権を有するにも似た地位)まで喪失すると解することは、特段の事
情のない限り、(甲第二号証、承諾書に振込銀行の指定があることをもつては、未
だ特段の事情があるとはなし難い。)、推測される第三債務者の合理的意思に反
し、相当ではなく、従つて、前記相殺を主張して支払を拒んでいる被控訴会社の態
度が控訴人主張のように信義則に反し禁反言の法理にもとる不当の所為であるとは
言えない。証人B及び控訴本人は、原審において、被控訴会社の経理課長であるD
が控訴人の代理人である田子弁護士に対して代理受領の方法で控訴人が訴外会社に
対して融通してくれるよう要請したと供述するけれども、右各供述は証人Dの原審
における証言及びそれにより真正に成立したものと認められる乙第一号証の一と対
照するとき、容易に措信し難いし、仮にその要請があつたと仮定しても、如上判示
の観点からすれば、相殺の主張を直ちに不当としてその効果を否定すべき理由は見
出し得ない。
 三 従つて、控訴人が被控訴会社に対して請求している訴外会社の請負工事代金
債権は相殺により消滅したものというほかはない。
 第四 不法行為の成否
 被控訴会社の担当者(証拠に照らし、前記Dを指す趣旨と解される。)が右代理
受領の承諾をするに際し、被控訴会社が訴外会社に対して有する反対債権をもつて
代理受領を承諾した債権が相殺され消滅すべきことを認識しながら控訴人にこれを
秘して承諾した旨の控訴人の主張については、これを肯認するに足りる何らの証拠
もなく、却つて、原審証人D、同G、同Bの各証言及び右D証言により真正に成立
したものと認められる乙第一四号証を綜合すれば、被控訴会社が代理受領を承諾し
た工事代金の支払を拒絶するに至つたのは、右承諾後、代金支払期日までの間に、
前叙のとおり訴外会社が倒産しその代表者が所在不明になるという不測の事態が生
じ、被控訴会社の債権の回収が困難となつたために執られた措置にほかならないこ
とと認められる。
 従つて、不法行為の使用者責任を問う控訴人の主張もまた採用し得ない。(ちな
みに、相殺したことをもつて不法行為となし得ないことは前述したところから明ら
かである。)
 第五 結論
 よつて、その余の点に就て判断するまでもなく、控訴人の本訴請求を棄却した原
判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事
訴訟法第八十九条の規定を適用して、主文の通り判決する。
 (裁判長裁判官 室伏壮一郎 裁判官 横山長 裁判官 三井哲夫)
(別紙)
      債 権 目 録
 一、 金四、〇〇〇、〇〇〇円(昭和四六年五月一五日貸付金)
 一、 金三、五〇〇、〇〇〇円(昭和四六年七月三〇日貸付金)
 一、 金一七、二一二、二〇〇円(昭和四六年五月三一日付債務弁済譲渡担保契
約に基く貸付金合計内訳次の通り。)
 (イ) 金七、一一二、二〇〇円 貸付日昭和四七年一一月三〇日、弁済期同年
四月三〇日
 (ロ) 金四、四〇〇、〇〇〇円 貸付日昭和四八年一月三一日、弁済期同年四
月三〇日
 (ハ) 金九〇〇、〇〇〇円 貸付日昭和四八年一月三一日、弁済期同年四月三
〇日
 (二) 金三、八〇〇、〇〇〇円 貸付日昭和四八年三月三一日、弁済期同年六
月三〇日
 (ホ) 金一、〇〇〇、〇〇〇円 貸付日昭和四八年一月三一日、弁済期同年四
月三〇日
 一 右の(イ)から(ホ)までの各貸付金に対する貸付日から弁済期まで約一割
の割合による約定利息及び弁済期の翌日以降右完済に至るまで年一割の割合による
遅延損害金

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛