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平成19年1月31日判決言渡
平成15年(ワ)第2419号産業廃棄物最終処分場建設・操業差止等請求事件
主文
1被告は,別紙原告目録番号4,6,9ないし11,18,19,2
6,29ないし31,35,40ないし43,45ないし48,50,
51,57の原告らに対し,別紙設置場所目録記載の各土地について,
産業廃棄物最終処分場を建設,使用及び操業してはならない。
2その余の原告らの請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,第1項の原告らを除く原告らに生じた費用と被告に生
じた費用の5分の4を上記原告らの負担とし,その余は被告の負担と
する。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告ら
(1)被告は,原告らに対し,別紙設置場所目録記載の各土地(以下「本件
予定地」という。)について,産業廃棄物最終処分場(以下「本件処分場」
という。)を建設,使用及び操業してはならない。
(2)訴訟費用は,被告の負担とする。
2被告
(1)原告らの請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は,原告らの負担とする。
第2事案の概要
本件は,本件予定地周辺に居住して生活している原告らが,本件予定地にお
いて産業廃棄物管理型最終処分場である本件処分場の建設,使用及び操業を予
定している株式会社である被告に対し,本件処分場が建設,使用及び操業され
ると,(1)飲料水及び生活用水として利用している地下水が汚染され,こ
れにより健康被害を被る,(2)農業用水として利用している地下水や表流
水(忍川その他の河川)が汚染され,これにより農作物の汚染等から農作物の
販売が困難になるとともに健康被害を被る,(3)将来水道水源として利用
される予定の忍川が汚染され,水道水を飲用することにより健康被害を被る,
(4)廃棄物に含まれるダイオキシンなどの有害物質が飛散し,大気汚染に
より健康被害を被る,(5)本件処分場へ廃棄物を搬入する大型車両が通行
することから交通事故の危険にさらされ,これにより平穏な生活を営む権利が
侵害される,(6)忍川が汚染され,これにより貴重な水質環境を享受する
権利(忍川の水質を汚染されない権利)としての環境権が侵害されると主張し
て,人格権ないし環境権に基づき,本件処分場の建設,使用及び操業の差止め
を求めた事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実は証拠を掲記しない。)
(1)当事者
ア原告らは,千葉県旭市(旧千葉県海上郡海上町。以下「海上町」ともい
いう。),同県銚子市(以下「銚子市」という。)又は同県香取郡東庄町
(以下「東庄町」という。)に居住している者である。
イ被告は,一般廃棄物及び産業廃棄物処理業等を目的とする資本金200
0万円の株式会社であり,平成12年6月までは,訴外株式会社丙1とい
う商号で同種営業を営んでいた会社である。
(2)本件予定地
本件予定地は,飯岡台地と呼ばれる洪積台地内の,忍川によって開析され
た沖積低地に向かう谷の部分にある。飯岡台地の標高は最高56メートルで
あり,北東に向かって緩く傾斜している。飯岡台地の西側は高低差約50メ
ートルの急な崖が南北に走行しており,この崖下は標高約6メートル以下の
平坦な水田地帯となっている。海上町a地区は飯岡台地上にあり,本件予定
地の西側に位置する。
(3)本件処分場設置許可に至るまでの経緯
ア被告の前身である株式会社丙1は,昭和63年4月16日,千葉県(以
下「県」という。)知事に対して本件予定地における産業廃棄物最終処分
場建設について,事前協議書を提出した。
イ本件予定地の所在する海上町,銚子市及び東庄町は,昭和63年6月2
9日,上記アの計画についての県知事の照会に対し,いずれも反対の態度
を表明した。
ウ県知事は,平成2年5月30日,株式会社丙1に対し,当時計画されて
いた水処理装置によって浄化処理された水(以下「処理水」という。)の
忍川への放流等について変更すること(銚子市民の飲用水源である忍川へ
の処理水の放流計画において当該計画の変更をすること)の検討を指示し
たところ,株式会社丙1は,平成4年5月25日,上記計画の変更を届け
出た。
エ海上町は,平成4年6月2日,本件処分場建設反対の意思に変更はない
旨の表明をした。
オ県知事は,平成5年7月23日,株式会社丙1に対し,処分場及び蒸発
散装置等から忍川に直接放流される雨水に汚水が混入しないことの立証等
を指示したところ,株式会社丙1は,平成10年3月25日,県知事に対
し,処理水を蒸発散装置で蒸発させるため忍川に流入する水路には放流し
ない旨を回答した。
カ海上町は,平成10年5月11日,町議会臨時議会において「最終処分
場設置反対」決議を行い,銚子市も同月28日,市議会において「産廃最
終処分場反対の意見書」を採択した。
キ株式会社丙1は,平成10年6月8日,県知事に対し,本件予定地にお
ける産業廃棄物処理施設設置許可申請をした。
ク海上町は,平成10年8月30日,本件処分場建設の是非を問う住民投
票を行ったところ,投票率は約87.3パーセントであり,反対票がその
うちの約97.6パーセントを占めた。
ケ県知事は,平成11年4月27日,銚子市との事前協議終了の要件であ
る蒸発散装置の機能の有効性について,蒸発散装置が計画どおりに機能す
ることは困難であるとし,株式会社丙1の上記キの申請について不許可と
した。
コ株式会社丙1が上記の県知事の不許可処分について行政不服審査請求を
したところ,当時の厚生省(以下,単に「厚生省」という。)は,平成1
2年3月1日,上記ケの県知事の不許可処分を取り消すとの裁決をした。
サ県知事は,平成13年3月1日,被告に対し,下記の条件を付して設置
を許可した。

(ア)産業廃棄物の埋立地の底面全体は,産業廃棄物と接触した水(以
下「浸出水」という。)の浸透防止のため,粘性土遮水工(粘性土ベン
トナイト),漏水検知システム,二重シート,不織布及び保護土層によ
る5層構造とする遮水工を設置することとし,各層ごとに県の確認検査
を受けること。
(イ)産業廃棄物の埋立ては,2工区に分けて埋立てすること。
(ウ)第1工区及び第2工区の産業廃棄物の埋立ては9層とし,堰堤に
ついては整地・転圧後,県の確認検査を受けること。
(エ)産業廃棄物の埋立厚は,各層とも2.0メートル以下,中間覆土
は0.5メートル以上,最終覆土は1.5メートル以上とすること。
なお,中間覆土,中間覆土後のシート敷設,最終覆土は整地・転圧し,
自主管理後の写真を添付した報告書を提出し,現地において覆土厚及び
施工高の県の確認検査を受けること。
(オ)産業廃棄物を最終処分施設に搬入,投入する場合は,衛生的かつ
安全に留意して産業廃棄物の適正な処分を行うこと。
(カ)最終処分場(付帯設備を含む。)について,故障,破損等事故が
発生したときは速やかに県知事にその状況を報告し,環境保全に対する
措置を講ずること。
(キ)産業廃棄物の処分に関し,県知事が必要な報告を求めたときは,
速やかに報告すること。
(ク)浸出水,処理水,地下水観測井戸及び地下水集水塔の水質監視を
行い,そのモニタリングの結果及び環境保全対策の内容を常時公開,閲
覧できるよう管理事務所に常設すること。
(ケ)蒸発散装置の濾材の交換計画及び埋立場所を明確にすること。
(コ)浸出水及び処理水の水質検査を定期的に行い,その性状を確認し,
適正な蒸発散処理を行うこと。
(サ)浸出水の排水について,準好気性埋立構造を維持するため,集排
水管に浸出水が滞留しないよう施設の維持管理に万全を期すこと。
(シ)本施設において,埋立計画,水処理計画,維持管理計画,災害防
止計画及び緊急時における対応策等についての詳細な「維持管理・施設
運営管理マニュアル」を施設の使用前検査の前までに作成し,県に報告
するとともにそれに基づく適切な維持管理及び運営管理を行うこと。
(ス)処分場の使用開始から廃止まで,環境汚染賠償責任保険に加入し,
保険証の写しを更新ごとに提出すること。
また,万一環境汚染賠償責任保険に加入できない場合は,積立金によ
り事故等による環境汚染に対処するため相応の措置を講ずること。
(セ)維持管理積立金制度による積立てを,埋立期間中において行い,
その書類,当該年度積立金の報告を逐次行うこと。
(ソ)処分場の作業時間は午前8時30分から午後5時までの間とする。
(タ)本事業を実施するに当たっては,平成12年11月13日付けで
提出のあった確約書に記載のある事項について,遵守すること。
(チ)銚子市,東庄町及び海上町との間において,1市2町からの要請
に基づき,環境保全対策等について協定を結ぶこと。
(ツ)この許可証を受けても,他法令等により届出,許可等を義務付け
られている場合には,その届出,許可等を得た後,工事に着手すること。
(4)設置許可後の状況
ア原告らを含む付近住民は,平成13年5月,県知事に対し,上記(3)
サの設置許可処分の取消しを求めて行政訴訟を提起した。
イ県知事は,平成13年12月4日,被告に対し,本件処分場建設工事着
工を許可し,これを受けて被告は工事を着工した。
ウ原告らを含む付近住民は,平成14年2月12日,被告に対し,本件処
分場建設等の差止めを求める仮処分命令の申立てをした。
エ海上町農業委員会は,平成10年6月25日,同年7月27日,平成1
3年1月25日,平成14年1月28日,平成15年1月24日,平成1
6年1月26日及び平成17年1月24日,県知事に対し,本件予定地の
うち海上町abc番地d外10筆の土地に関する農地法5条の規定による
許可後の計画変更申請に係る意見として,被告の資力及び信用について融
資証明がファイナンス会社のものであり信用性がないので不適当,計画面
積が過大であり不適当,上記土地が1市2町の優良農産物生産地域内にあ
り今後の農作物生産基地としての確保とイメージダウンや生産物の取引停
止等により甚大な被害が予想される等営農条件への支障がある,処分場設
置について恒久転用としておきながら一時転用での対応そのものがそぐわ
ない,農業振興地域の整備に関する法律17条の規定による転用にも問題
があるなどとして,不許可とされたい旨の各意見書を繰り返し提出したが,
県農業委員会は転用事業の変更について承認した。
オ海上町議会は,平成15年1月24日,県知事が被告に対して本件処分
場の設置及び工事着工を許可したことについて,遺憾の意を表し,被告の
本件処分場建設に反対する旨の「建設反対と県民世論に訴える」決議を賛
成多数で議決した。
カ上記ウの仮処分命令申立事件については,平成15年6月4日に申立却
下の決定がされ,平成17年5月10日に抗告棄却,同年10月11日に
特別抗告及び許可抗告棄却の各決定がされた。
キ旭市議会は,平成17年11月25日,「(株)乙産業廃棄物最終処分
場建設反対と県民世論に訴える」決議をした。
(5)本件処分場の概要(被告の計画)
ア施設の種類産業廃棄物管理型最終処分場
イ処理する産業廃棄物の種類
汚泥,燃え殻,ばいじん,鉱さい,がれき類,金属くず,廃プラスチッ
ク類,ガラスくず及び陶磁器くず,木くず,紙くず,上記の廃棄物を処分
するために処理したもの
ウ設置場所本件予定地
エ面積6万2196平方メートル
オ処理能力埋立面積4万7854平方メートル
埋立容量74万2838立方メートル
カ計画搬入量10トントラックで1日当たり48台往復(年間9600
台)
キ構造(別紙処分場断面概要図,別紙計画平面図,別紙地下水集排水管計
画図参照)
(ア)貯留構造物
土堰堤(高さ5メートル・4段重ね)合計高さ18メートル
他に中仕切堰堤1か所
(イ)複合型遮水工
底盤部(表層から順に)
保護覆土(砂層。厚さ500ミリメートル)
高密度ポリエチレンシート(HDPE。厚さ1.5ミリメー
トル)
砂層(厚さ300ミリメートル)
加硫ゴム系シート(熱可塑性EPDM。厚さ1.5ミリメー
トル)
粘性土ライナー(厚さ500ミリメートル。透水係数1×1
0のマイナス6乗センチメートル/秒以
下)
法面部(表層から順に)
遮光性短繊維不織布(厚さ10ミリメートル)
高密度ポリエチレンシート(HDPE。厚さ1.5ミリメー
トル)
短繊維不織布(厚さ10ミリメートル)
加硫ゴム系シート(熱可塑性EPDM。厚さ1.5ミリメー
トル)
粘性土ライナー(厚さ500ミリメートル。透水係数1×1
0のマイナス6乗センチメートル/秒以
下)
漏水検知システム電流源電極線・リード線・解析用モニター等一式
浸出水の導電性を利用したシステムであり,遮水シ
ート破損箇所から漏洩した電流を遮水シートを挟ん
だ上下の検知線をそれぞれ交差するように4メート
ル×4メートルの標準敷設間隔でメッシュ状に配置
された検知線の交点ごとに検知し,各交点の電流値
の分布を専用ソフトウェアによって解析して位置を
特定する方法で測定するもの
(ウ)雨水排水設備
場内小段側溝,外周U字側溝,場内U字側溝・管渠
洪水調整池(本設1か所,仮設1か所),放流施設一式
仮設沈砂池
(エ)浸出水集排水設備
浸出水集排水管本管(口径600ミリメートル)
底盤部浸出水集排水管枝管(口径250ミリメートル)
法面部浸出水集排水管(口径200ミリメートル)
(オ)水処理施設
集水塔,送水設備,浸出水処理装置,蒸発処理施設,浸出水・処理水
調整槽
浸出水処理装置(方式)1工程:一次凝集沈殿処理
2工程:生物処理(接触ばっ気)
3工程:二次凝集沈殿処理
4工程:砂濾過処理
5工程:活性炭吸着処理
6工程:キレート樹脂吸着処理
7工程:滅菌処理
(処理量)水収支計算に用いる処理水量20立方メ
ートル/日
地下式貯留槽浸出水原水貯留槽4070立方メートル
浸出水処理水貯留槽3990立方メートル
蒸発散装置(蒸発拡散装置と熱エネルギー供給による強制蒸発処理(
散水を含む。)の2工程による蒸発処理)
基準とする面積負荷4.5ミリメートル/平方メ
ートル以下
蒸発散処理能力11.25立方メートル/日
強制蒸発及び散水等による蒸発処理量5立方メー
トル以上/日
水収支計算に用いる処理水量15.0立方メート
ル/日
(カ)外周遮水壁
コンクリート製連続遮水壁
地上高1.0メートル以上,地中部分深さ15メートル以上
(キ)地下水集排水設備
地下水集排水管本管(口径1000ミリメートル)
底盤部地下水集排水管(口径250ミリメートル)
底盤部外周地下水集排水管(口径250ミリメートル)
法面部地下水集排水管(口径200ミリメートル)
小段部地下水集排水管(口径250ミリメートル)
(ク)管理施設
管理棟搬入管理施設,簡易試験施設,記録保存施設等
地下水観測施設集水塔1か所,地下水監視井戸6か所
その他消火設備・外囲い(飛散防止柵兼用万能鋼板)
ク建築・操業の手順
(ア)本件予定地に横たわる沢状(谷間)の地形を利用し,谷底の地盤
を約10メートル程度掘削する。
谷の底部及び法面部(法面勾配1:1.0)を二重の遮水シート及び
難透水性の粘性土ライナー等で構成され,電気的漏水検知システムが組
み込まれた遮水工で覆う。
(イ)遮水工が地下水によって浸食されることがないよう,遮水工の下
部及び周辺に地下水集排水管を張り巡らせ,排水ポンプで地下水を集め
て排水する。これにより地下水位を強制的に下げて地下水が遮水工に接
触するのを防止する。
(ウ)遮水工内に張り巡らせた浸出水集水管によって浸出水を集め,処
分場が冠水して浸出水が遮水工によって包まれた埋立区域外に溢れ出る
ことを防止し,集めた浸出水を浸出水原水貯留槽で蓄え,順次,水処理
設備で浄化する。
(エ)処理水はすべて蒸発散装置等によって蒸発処理し,忍川等への放
流はしない。
(オ)浸出水全量の浄化及び蒸発処理を可能とするために,浸出水の発
生量を抑制する。
すなわち,埋立区域の外周に沿って高さ1.0メートル以上,地中の
深さ標高約35.5メートルの位置までのコンクリート製遮水壁及びこ
れに沿ってその外側に外周U字側溝を設置することにより,上記埋立区
域外に降り注ぐ雨水が表層水となって埋立区域内に流入するのを防止す
る。
また,埋立区域内の法面部に階段状の小段を等間隔に4段形成し,各
小段に設置される場内小段側溝により,埋立区域内に降り注ぐ雨水のう
ち法面部への降雨を産業廃棄物に接触させずに防災調整池へと誘導して
排水する。
下記(カ)のとおりの埋立手順を採り,埋立作業を5000平方メー
トル以下のブロックに細分化して行い,埋立区域内に降り注ぐ雨水のう
ち,埋立作業未着手部分への降雨は廃棄物に接触させずに浸出水集排水
管(雨水切替管)によって雨水排水室を経て防災調整池へと誘導し,ま
た,埋立てが終了したブロックの上部を雨水遮水シートで一時的に覆い,
このブロックへの降雨を横断勾配により地下に浸透させずに側方へと流
し,法面部の小段側溝によって廃棄物に接触させずに防災調整池へと誘
導するなどの措置により,浸出水の発生する面積を常時5000平方メ
ートル以下に限定する。
(カ)埋立手順
本件埋立区域を2つの工区に分けた上,まず,第1工区について,埋
立作業を行うブロックと他の部分とを区分する仕切土堰堤(各ブロック
は5000平方メートル以下)を築造しながら,底部から順次1ブロッ
クずつ埋立てを行い,厚さ2.0メートル以下の埋立てが終わると,厚
さ0.5メートル以上の中間覆土をし,これを繰り返した後,第2工区
を底部から第1工区と同様に埋め立てる。
そして,一つのブロックの埋立てが終了すると,中間覆土をした後,
その上部を雨水遮水シートで一時的に覆い,埋立てが終了したブロック
の上層部分の埋立作業に移行する場合には,上記雨水遮水シートを新た
な仕切土堰堤の築造後に除去して,その上に廃棄物を埋め立て,更に当
該ブロックの埋立てが終了すると,その上部を雨水遮水シートで一時的
に覆う。このような手順を繰り返して実施する。
(キ)本件埋立区域すべての埋立完了後は,最終覆土として,砂と礫等
の天然素材を用いたキャピラリーバリアー型覆土(厚さ1.5メートル
以上)をするとともに,地表面に樹木等を植栽することが計画されてい
る。
ケ現在の状況
被告は,原告らを含む住民による仮処分命令申立て(前記(4)ウ)を
受けて工事を中断していたが,平成15年3月ころ工事を再開し,現在は
ダムや遮水壁等の構造物の設置工事を完了している。
(6)本件処分場内に搬入される産業廃棄物の種類及びその有害性
本件処分場に搬入される予定の廃棄物は上記(5)イのとおりであり,こ
れには以下のとおり,人体に有害な,あるいは危険性の指摘されている様々
な物質が含まれている(弁論の全趣旨)。
ア燃え殻,ばいじん(焼却煤,飛煤)
これらには,ダイオキシン類(ダイオキシン,ダイベンゾフラン,コプ
ラナーPCBの総称)が含まれるところ,ダイオキシン類は,急性・慢性
毒性,発ガン性,生殖毒性等を有している。
イ金属くず
金属くずは,水中の電流等により金属自体が水に溶出する。金属くずに
含まれる鉄や銅は,一定限度を超えて摂取されると人体に中毒症状を引き
起こす。また,金属くずには,カドミウム等の重金属類が含まれ,鉛,合
金に添加されるヒ素,水銀,シアン等の有害物質が含まれているが,これ
らは人体に急性及び慢性の各種中毒症状を引き起こす。また,ニッケルは,
肺ガンの原因となる。
ウ廃プラスチック類
廃プラスチック類には,可塑剤として汎用されているフタル酸化合物が
含まれているが,これにはホルモン類似の作用があり,発ガン性があるほ
か,生殖能力及び胎内発生に対する毒性並びに免疫毒性等がある。また,
活性剤や安定剤として用いられるノニルフェノール,ビスフェノールAが
含まれているが,これらは発ガン性を有している。プラスチックには安定
剤としてカドミウムや鉛が,添加剤の原料としてシアンがそれぞれ使用さ
れているが,これらは人体に各種中毒症状を引き起こす。
エがれき類,木くず,紙くず
がれき類,木くずは主として建築廃材であるところ,これには鉄その他
の金属や,塩化ビニール製品等の新建材が使用されているから,金属くず,
廃プラスチック類と同様の有害物質が含まれている。また,建築廃材には,
防腐剤やシロアリ駆除剤等の薬品や,特に近時問題となっている石綿(ア
スベスト)が使用されている。石綿(アスベスト)の繊維は,肺線維症(
じん肺),悪性中皮腫の原因になるといわれ,肺ガンを起こす可能性があ
ることが知られている。紙くずについても塩素が漂白剤として使用されて
いる。
オ汚泥について
汚泥とは,工場排水などの処理後に残る泥状のもの及び各種製造の製造
工程において生ずる泥状のもので,有機性及び無機性のすべてのもの,と
されている。ここには,多種多様な有機性及び無機性の有害物,汚染物質
が含まれている。
(7)産業廃棄物管理型最終処分場設置等に関する法規制について
ア廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。)は,廃
棄物の排出を抑制し,廃棄物の適正な処分等の処理をし,生活環境を清潔
にすることにより,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的
として昭和45年に制定され,その後,数次の改正を経て,産業廃棄物に
ついては,事業者に対し,自ら処理する義務を負わせ,これを他人に委託
する場合には適正な処理が行われるために必要な措置を講ずる責務を負わ
せ,その収集,運搬及び処分に関しては,廃掃法12条1項にいう「産業
廃棄物処理基準」又は12条の2第1項にいう「特別管理産業廃棄物処理
基準」に従って行わなければならないこととしている(1条,11条1項,
12条1項,3項,12条の2第1項,第3項,14条12項,14条の
4第12項)。
イ産業廃棄物とは,事業活動に伴って生じた廃棄物のうち,燃え殻,汚泥,
廃油,廃酸,廃アルカリ,廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物等
をいう(2条4項1号,廃掃法施行令2条)。
ウ産業廃棄物最終処分場の設置手続については,産業廃棄物最終処分場を
設置しようとする者は,当該処分場を設置しようとする地を管轄する都道
府県知事の許可を受けなければならず,都道府県知事は当該計画が環境省
令(「一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上
の基準を定める省令」。旧総理府・厚生省令。以下「共同命令」とい
う。)で定める技術上の基準に適合し,周辺地域の生活環境に配慮された
ものであり,かつ申請者の能力がその産業廃棄物処理施設の設置に関する
計画及び維持管理計画に従って当該設置及び維持管理を的確に継続して行
うに足りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであると認め
るときでなければ許可してはならないとしている(15条の2第1項)。
また,上記許可を受けた者は,当該許可に係る施設について都道府県知
事の検査(以下「使用前検査」ともいう。)を受け,その設置に関する計
画に適合していると認められた後でなければ,これを使用してはならない
(15条の2第5項)。
さらに,上記許可を受けた者は,共同命令で定める技術上の基準及び許
可申請書に記載した維持管理計画に従い,産業廃棄物最終処分場の維持管
理をしなければならず(15条の2の2),都道府県知事は,その維持管
理がこれらに適合していないと認めるときは,設置許可を取り消し又は改
善命令若しくは使用停止命令を発することができるとされている(15条
の2の6,15条の3第1項,2項)。
エ最終処分場の種類
(ア)水銀又はその化合物を含むものを処分するために処理した燃え殻
等,特に有害な産業廃棄物(廃掃法施行令6条1項3号ハ(1)から(
5)までに掲げる産業廃棄物及び6条の5第1項3号イ(1)から(
6)までに掲げる特別管理産業廃棄物)については,「公共の水域及び
地下水と遮断されている場所で行うこと」とされ,他方,それ以外の産
業廃棄物(その中には,6条1項3号イ所定の「安定型産業廃棄物」も
含まれる。)の埋立処分に当たっては,3条3号ロの規定の例により,
原則として,埋立地(埋立処分の場所)からの浸出液による公共の水域
及び地下水の汚染を防止するために必要な「環境省令で定める設備の設
置その他の環境省令で定める措置」を講ずべきこととされており(6条
1項3号ニ,ホ,6条の5第1項3号ロ,ハ),この「設備」及び「措
置」を定めた廃掃法施行規則1条の7の3及び1条の7の4では,その
措置の一つとして,それぞれ一定の条件を備えた遮水工,保有水等集排
水設備,浸出液処理設備及び開渠等の設備を設けることが掲げられてい
る。
(イ)廃掃法15条1項及び廃掃法施行令7条14号によれば,その設
置について都道府県知事の許可を受けることが必要な産業廃棄物最終処
分場については,次の種類が定められている。
上述の特に有害な産業廃棄物については,一軸圧縮強度250キログ
ラム/平方センチメートルのコンクリート製で,かつ,厚さ15センチ
メートル以上のものなどの要件を満たす外周仕切設備が設けられ,埋立
地に雨水が入らないように必要な措置を講ずることなど,地下水の汚染
を防止する構造をもつことが義務付けられている遮断型最終処分場にお
いて処分される(廃掃法施行令7条14号イ)。
廃プラスチック類,ゴムくず,金属くず,ガラスくず,陶磁器くず及
び建設廃材等の安定型産業廃棄物については,いわゆる素掘りの穴に埋
め立てて覆土するのみで,法令上も下水汚染対策や浸出水対策は要求さ
れない安定型最終処分場において処分される(同号ロ)。
その他の産業廃棄物については,地下水汚染を防止するために,保有
水や雨水等の埋立地からの浸出を防止することができる遮水工,保有水
等を有効に集めることができる堅固で耐久力を有する管渠その他の集水
設備及び放流水の水質を排水基準に適合させることができる浸出液処理
施設を設置することが義務付けられている管理型最終処分場において処
分される(同号ハ)。
2主要な争点
本件の主要な争点は,本件処分場の建設,使用及び操業による原告らの利益
侵害の具体的可能性の有無,すなわち1本件処分場へ廃棄物を搬入する車両
等による交通事故の危険の存否,2本件処分場に搬入される産業廃棄物に含
まれる有害物質による本件予定地周辺の大気汚染の可能性の有無,3本件処
分場の操業等による本件予定地周辺の河川汚染の可能性の有無,4本件処分
場の操業等による本件予定地周辺の地下水の汚染の可能性の有無(ア本件処
分場の安全性,イ被告の維持管理計画が十分か,ウ被告が適切な維持管理
を行う経済的基盤・属性を有しているか,エ本件処分場埋立完了後及び閉鎖
後の安全性の有無,オ原告らのもとに有害物質が到達するか,カ原告らの
被害発生の可能性)であり,主要な争点に関する当事者双方の主張は,以下の
とおりである。
(1)争点1(本件処分場へ廃棄物を搬入する車両等による交通事故の危険
の存否)について
ア原告らの主張
本件処分場の操業が開始されると,産業廃棄物を搬入する大型車両が,
周辺の道路,すなわち,センターラインもなく幅員4ないし5メートル程
度の狭い県道や町道を1日に48台余り往復することになるため,これら
の道路を通学や生活道路に利用している別紙原告目録「グループ」欄中「
E」と記載されている原告ら(すなわち原告全員を指す。以下,上記目録
「グループ」欄に記載のとおり,原告らをA,B,C,D及びEの5つの
グループに分け,「Aグループの原告ら」のようにいう。)は,交通事故
の危険にさらされ,平穏な生活を営む権利を侵害される。
イ被告の主張
本件処分場の建設や操業等によって本件処分場周辺の道路の交通量が増
加することは認めるが,これによって直ちに原告らに許容し難い危険が生
じるとはいえない。
被告は町道等の道路の整備拡張についても協力する予定である。また,
上記道路は,現在でも大型車両が通行しており,本件処分場へ廃棄物を搬
出入する車両の通行自体により危険が生じるとはいえない。
(2)争点2(本件処分場に搬入される産業廃棄物に含まれる有害物質によ
る本件予定地周辺の大気汚染の可能性の有無)について
ア原告らの主張
本件処分場に産業廃棄物を搬入するトラックから大量の廃棄物が日常的
に周辺地域に落下し,特に搬入時の積み降ろしの際に飛散することが予想
される。さらに,本件処分場自体からも搬入された廃棄物の大半を占める
焼却灰が周辺地域に飛散する。
ダイオキシン類はフライアッシュに吸着し,風により容易に飛散し,遠
方まで到達する。また,ダイオキシン類は,常温でも気化し,特に夏季に
おいて相当量が気化する。気化したダイオキシン類は,ばい煙や空気中の
微粒子に吸着され,フライアッシュと同様に遠方まで飛散する。
このような大気汚染により,本件処分場周辺地域に居住し,農業に従事
するEグループの原告らは,ダイオキシン類等の有害物質によって汚染さ
れた大気を吸引することになり,その結果,生命及び身体に深刻な被害を
受け,憲法13条及び25条により保障されている人格権としての正常な
大気を享受する権利が侵害される。
イ被告の主張
産業廃棄物を運搬する車両には,有蓋車を使用し,あるいは産業廃棄物
を積載した荷台をシートで覆うとともに,飛散しやすいばいじん等は,あ
らかじめ加湿,固化を行うほか,積み降ろしや埋立作業の際には散水や覆
いをするなどの飛散防止の措置を採る予定であるから,大気中に有害物質
が飛散,拡散することはなく,本件処分場に搬入される産業廃棄物によっ
て大気が汚染されることはない。
(3)争点3(本件処分場の操業等による本件予定地周辺の河川汚染の可能
性の有無)について
ア原告らの主張
(ア)本件処分場において採られる浸出水の浄化処理及び処理水の蒸発
処理の能力は,豪雨などの際に対応できるほど十分ではないため,本件
処分場内に浸出水が貯留されて場外に溢れ,表層水となって地上を伝わ
り,本件予定地付近を水源地とする忍川等の河川に流入してこれを汚染
する。水処理装置は有害物質を完全に除去することはできないから,有
害物質が残存した処理水が放流されることになる。
(イ)aCグループの原告らは,忍川その他の河川を農業用水に利用し
ているため,風評被害によることも含め,上記(ア)のとおり汚染さ
れた河川水を使用した農作物の販売が困難になり,生活の基盤である
収入源を奪われる上,自ら作った農作物を家庭内において食用として
いることから,自己の生命及び身体を害される危険性が高い。
bDグループの原告らは,銚子市水道事業団が供給する水道水を使用
しているところ,上記事業団が忍川を将来水道水源とすることを予定
しているから,上記(ア)のとおり汚染された忍川を水源とする水道
水の供給を受けた場合,自己の生命,身体を害される危険性が高い。
c(a)Eグループの原告らは,これまで多くの貴重な魚類が多数生
息し自然豊かな清流である忍川の豊かな自然を生活の一部として享
受してきたのであり,これらの水環境は社会通念上十分に保護に値
すべきものとして環境権の対象となると考えるべきところ,上記(
ア)のとおり忍川が汚染されると原告らの環境権が侵害されること
になる。
(b)すなわち,環境権とは,「快適な生活を維持する条件として
の良い環境を享受し,これを支配する権利」をいうところ,この環
境権は憲法13条の幸福追求権の一内容として保障されるものであ
る。なぜなら,人が幸福な生活を送るためには,人の生活を取り巻
く環境,特に大気,水,日照,静穏,景観等の自然的要素を良好な
状態で享受することが不可欠であり,殊に過剰な開発行為等によっ
て自然破壊が進んでいる今日では,個々人の幸福追求権のみならず,
人類の存続の基盤であるこれらの環境を維持することが極めて重要
な課題となっているからである。
環境権が保障されるかどうかは,社会通念上保護に値する環境か
否かで決すべきであり,保護の対象や権利内容が不明確であること
などは問われるべきではない。
イ被告の主張
(ア)本件処分場に設置する水処理装置及び蒸発散装置は,過去20年
間の降雨データ等をもとにした余裕のある設計に基づいているから,十
分な水量を処理する能力がある。浸出水を浄化処理するまでの間に浸出
水を貯めておく貯留槽及び処理水を蒸発処理するまでの間に処理水を貯
めておく貯留槽の各容量についても,同じく余裕のある設計をしている
から,本件処分場内に浸出水が24時間以上滞留することはなく,した
がって,冠水する可能性は全くない。また,水処理装置は放流基準以上
の高度な管理基準を満たす処理能力を有している。
(イ)aCグループの原告らは忍川の河川水を農業用水として利用して
いるというが,対象となる農地を特定していないから,上記グループ
の原告らの耕作する農地に忍川の河川水が到達する可能性は明らかで
はない。
b忍川は,水質の悪化により10年以上前から法的に水道水源ではな
く,将来においても銚子市水道事業団が水道水源にする可能性はない
から,Dグループの原告らが将来,忍川を水道水源とする水道を利用
する可能性はおよそない。
c忍川は現在既に極めて汚染されており,また,被告は本件処分場で
は原則として処理水を放流しないから,本件処分場の建設,操業によ
りEグループの原告らの権利が侵害されるということはない。
(4)争点4ア(本件処分場の安全性)について
ア原告らの主張
(ア)遮水工について
a遮水シートについて
遮水シートの寿命はおおむね10年程度と考えるのが相当であると
ころ,その寿命が到来したときには遮水シート全体が破綻しているた
め,単なる補修を行う程度では到底対応することはできない。
寿命が到来する前であっても,遮水シートは厚さがわずか1.5ミ
リメートル程度のゴムやポリエチレン製のものであり,人間の力で簡
単に穴を開けることができ,また,接合部分が脆弱であることから,
実際の使用条件下において,数十トンものゴミの重圧に長期間にわた
って耐え続けることはあり得ず,様々な原因が複合的に作用して損傷
する。特に本件処分場予定地は地下水が豊富であることから,下記b
のとおり粘性土ライナーが損壊する危険があり,また,地盤の強度が
弱く不等沈下が生じる危険があり,遮水シートの破損の可能性が高い
ものというべきである。
現実にも遮水シートの破損事故が各地で発生していることから,遮
水シートそれ自体の安全性に問題があること,遮水シートは必ず破損
することが示されている。
b粘性土ライナーについて
(a)ベントナイトは酸,アルカリ及び塩分によって溶出したり性
能が低下したりするため,浸出水等が粘性土ライナーに接触した場
合には予定されたバリアー機能を大きく損なうことになる。また,
水を含んだ状態からいったん乾燥すると粉末状になりやすく,粘性
土ライナーは容易に亀裂を生ずる。
ベントナイトは大きな膨潤性を有することから,水分吸収によっ
て地盤を膨張させ,上部の構造物に変形や破壊を生じさせることに
なりかねず,本件処分場の遮水シート,地下水集排水管,浸出水集
排水管などが破壊される可能性がある。また,土が膨潤すると,そ
の剪断強度が低下するところ,本件処分場では底面部のみならず,
法面部にもベントナイトを敷設するから,特に強力な剪断力が働い
て脆弱となる。
(b)広大な面積の土地に均一に粘性土ライナーを敷設するのは不
可能である。また,湧水等の水に触れた部分と触れていない部分が
均一にならず,粘土層の中に空隙や亀裂が生じる可能性もある。
(c)本件処分場予定地付近は豊富に地下水を含んでいるところ,
本件処分場に遮水シートを張ってしまうと,そこから本件処分場予
定地の谷間に湧き出していた地下水が湧出口を塞がれることになる
から,おのずと地下水位が上昇することになる。本件処分場予定地
周辺の豊富な地下水を被告の敷設する程度の地下水集排水管ですべ
て排水することは不可能であり,また,地下水集排水管が不織布等
に目詰まりを起こした場合,地下水は集排水管に流れることができ
ず,粘性土ライナーを圧迫していくことになる。
被告の計画では,埋立て及び維持管理中は排水ポンプを稼動させ
て地下水位を下げるというのであるが,地下水量全体が処分場に向
かって流れるとすれば,ポンプによる排水が機能し得るとは到底考
えられない。また,外周遮水壁の設置により,地下水は行き場を失
い,遮水壁付近に滞留することになって,周辺部の水位が上昇する
と考えるのが常識的であり,被告によるポンプ容量の計算式は,豪
雨などの自然現象を織り込んでいない。
まして,埋立完了後にポンプの稼働を停止してしまえば,地下水
位が上昇することになるはずであり,ポンプの稼働停止後は地下水
位が上昇してそこで安定するという被告主張の根拠は不明である。
c漏水検知システムについて
被告は,本訴訟において,仮処分命令申立事件において安全性を力
説していた漏水検知システム(以下「旧検知システム」という。)か
ら新たな漏水検知システム(以下「新検知システム」という。)にあ
っさりと計画を変更した。そもそも漏水検知システムはいまだ完全な
技術ではなく,未成熟,発展過程の技術である。また,旧検知システ
ム(検知線の配置は20メートル×20メートルの間隔)と新検知シ
ステム(検知線の配置は4メートル×4メートルの間隔)とは相当の
価格差があるはずであるのに,被告はこの価格差を裏付ける数字を何
ら示していない。
被告は,漏水検知システムを構成する銅線の破損は浅い位置での重
機の接触等によるものしか想定していないが,これでは,腐食,高圧
や不等沈下等により深い位置で生じた銅線の破損には対応できない。
漏水検知システムが漏水を検知した時点では,汚水は既に外部に漏
れ出ていることになり,また,遮水シートの破損を完全には検知でき
ない。
d遮水シート補修の現実性の有無について
被告が計画している大掛かりな補修方法であれば,遮水シートの破
損箇所が浅い場合であっても補修には相当な費用と期間を要すると考
えられ,特に破損箇所が深い場合には補修に多額の費用とより長い期
間を要するところ,このような大掛かりな補修を被告が長期間にわた
って実施するのか疑問である。また,そもそも遮水シートの破損が埋
立開始段階に集中するとはいえず,むしろ,埋立完了後の処分場にお
いて遮水シートの破損が報告された事例は全国各地に多数存在してい
るから,埋立完了後も相当期間が経過するまでの間のシート破損を当
然考慮しなければならないにもかかわらず,被告は,遮水シートが破
損した場合の補修費用を考慮しておらず,コスト面も非現実的である
から,特に深部で発生した遮水シートの破損は補修されずに放置され
る可能性が高い。
(イ)水処理施設について
a浸出水処理装置について
被告の計画においては,浸出水処理施設の設計の前提となった降雨
量の設定に誤りがあるほか,本件処分場へ埋め立てられる廃棄物の内
容からすれば,雨水の浸透性はかなり良いと考えられること,土壌か
らの蒸発は表面から10ないし20センチメートル程度の水分につい
て考えられ,それより深い部分の水はほとんど蒸発しないこと,降雨
時には湿度が飽和状態であるからほとんど蒸発しないこと等にかんが
みれば,浸出係数(浸出水の降雨量に対する割合)の算定数値が低い
から,貯留槽は,本件処分場に溜まる浸出水全量を処理することがで
きるほどの十分な容量を有していないことになる。したがって,豪雨
の際には側溝が溢れ,浸出水発生量の抑制は計画どおりにはならない。
浸出水処理装置によりダイオキシン類,フタル酸,重金属類等を完
全に除去することは不可能であるし,そもそも,浸出水処理施設の設
計の前提とされた原水(浸出水)の水質設定に誤りがあるから,その
浄化性能はあてにならない。
b蒸発散装置について
被告の計画においては,蒸発散装置設計の前提とされた水収支に誤
りがある上,浸出水処理設備の処理能力が日量20立方メートルであ
るのに対し,蒸発散装置の処理能力は日量15立方メートルしかない
から,処理水全量を蒸発処理する能力がない。各種溶存物質を含む処
理水を連続して蒸発させれば,析出物が付着した蒸発散装置が目詰ま
りを起こして機能しなくなるおそれもある。
また,被告の事業計画上,蒸発処理に必要な経費が確保されていな
い。後記(6)に記載のとおりの被告の財務状況から考えれば,被告
は,汚水処理施設を安上がりにするために放流基準を満たす程度の汚
水処理施設ではなく,蒸発散処理施設にしたものと疑われる。
(ウ)キャピラリーバリアー型覆土について
被告は,本件処分場の埋立作業が完了し,処分場を閉鎖した後の維持
管理については,キャピラリーバリアー型覆土をもって処分場内への雨
水の浸透を防ぐ旨強調するが,完全に雨水の浸透を防ぐことなどできる
はずもないから,遮水シートが破損しない場合には,年月の経過により,
いずれは処分場内に浸出水が溢れ,表層水となって河川に混ざり,又は
地下に浸透して地下水に混入することになる。
被告は内部に配管して散水をすることも計画しているが,これではわ
ざわざ埋立区画を5000平方メートルに区切って雨水の浸入を制限し
ようとした意味がなくなってしまうし,また,キャピラリーバリアー型
覆土によって雨水の浸入を完全に遮断するという計画と矛盾する。
イ被告の主張
(ア)遮水工について
a遮水シートについて
HDPEシート及びEPDMシートは,共に耐紫外線性において試
験時間4800時間(約24年に相当)までは大きな物性変化は見ら
れない。また,耐熱性,耐薬品性(耐酸性試験及び耐アルカリ性試
験)においても所定の品質を確保している。本件処分場では,遮水シ
ートの表面に遮光率95パーセント以上の遮光性短繊維不織布を敷設
することで紫外線による劣化を防止し,埋立期間は約10年間である
ため長期間紫外線にさらされるわけではなく,浸出水原水の濃度は強
酸,強アルカリではないことから,上記試験の条件よりも安全である
といえる。
確かにEPDMシートについては鉛筆による刺突によって穴があく
が,これは上層に敷設されるHDPEシートについては当てはまらな
い。本件処分場においては,遮水シートにまで及ぶような突起物が搬
入されることはなく,仮に搬入されたとしても,法面ではシートの上
に不織布を敷設し,更にその上に畳を保護マットとして使用し,底部
ではシートの上に50センチメートルの砂層を敷設するため,突起物
がHDPEシートに直接及ぶことはなく,ましてその下側に敷設され
ているEDPMシートに及ぶことはない。
本件処分場の支持地盤であるDs1,Ds2及びDc2の各層は,
その成り立ちから不当沈下等はなく安全な地盤である。
原告らの指摘する事故例は,改正前の法基準及び技術基準のもとで
の設計,施工及び維持管理がされてきた処分場に関するものであり,
本件処分場とは全く構造や条件が異なるものである。
b粘性土ライナーについて
(a)粘性土ライナーの耐化学性が問題となるのは,ベントナイト
の膨潤性に依存した遮水ライナーにおいてであり,構造が異なる本
件処分場の粘性土ライナーにおいては特に問題とならない。(b)
のとおり現地の砂(Ds2層)とベントナイトとを混合したときに
は,既に現地の砂中の水分とベントナイトが先に反応しており,仮
に後から化学物質を含んだ溶液が接触しても問題は発生しない。
(b)本件処分場では,現地の砂に10パーセント程度のベントナ
イトを添加して,1×10のマイナス6乗センチメートル/秒の粘
性土ライナーを施工する。また,処分場掘削完了後,粘性土ライナ
ー造成時に地盤の転圧締固めを行うところ,粘性土ライナーの下層
に更に同じ性能の不透水層があることから最下層部の遮水バリアー
の性能は更に大きく向上するといえる。
粘性土ライナーに用いられるベントナイトは天然材料で無機物で
あるため腐らず燃えない特徴があり,半永久的に遮水効果を維持す
る。また,無機・有機汚染物質に対して収着(濾過・吸着)する機
能がある。重機の接触,地震等の地盤変動によって生じる亀裂・変
形に対しても,ベントナイト混合土中のベントナイトが水を吸水す
ることで膨潤し自己修復する性質をもつ。
(c)被告は,地下水・湧水対策を施しており,掘削時点ですべて
の法面の点検を行い,湧水箇所を調査し,所定の位置に基幹となる
地下水集水管を敷設し,そこから枝状に地下有孔排水管を設置し,
湧水を処分場底部にある地下水の本管(口径1000ミリメート
ル)に導くことを計画している。地下水の流れのほとんどが有孔管
の集水網に集中して流れることになり粘性土ライナーを流失させる
地下水の流れは更に少なくなり,粘性土ライナーの流失その他の現
象は本件処分場では起こらない。地下水以外に粘性土ライナーの侵
食要因はなく,粘性土ライナーの侵食に対する長期耐久性は半永久
的といえる。
(d)遮水シートと粘性土ライナーを組み合わせた複合遮水構造と
することにより,同一の要因から複数の遮水層が同時に破損するリ
スクを回避することが可能である。遮水シートを粘性土ライナーに
密着させることで,仮に二重遮水シートが同時に破損した場合でも,
遮水シートは粘性土ライナーが浸出水に曝露される面積を最小限に
し,浸出水の流出を防止する。したがって,遮水シート破損が直ち
に浸出水の漏水事故につながることはなく,シート補修期間中の地
下水汚染リスクを回避することができる。また,遮水シート直下に
設置する粘性土ライナーは,その表面を平滑に仕上げることにより
応力集中を遮水シートに生じさせないから,下地材として破損防止
効果を有する。
c漏水検知システムについて
被告は,本件処分場の安全性を担保するために,本来法基準では設
置義務までは負わない漏水検知システムを設置するものである。
検知システムの電極線の断線防止対策として,電極線はメッシュご
と(4メートル×4メートル間隔)に50センチメートル程度の蛇行
部を設けており,万が一電極線が重機の接触等で引っ張られた場合で
も蛇行部が伸びることで電極線の切断を防止することができる。新検
知システムは旧検知システムとは異なり,断線してもこれと変わらな
い精度で漏水検知が可能であり,電極線の断線に対して十分に考慮さ
れている。
また,新検知システムは,実際に漏水がなくともシートの破損を検
知することができる。
d遮水シート補修の現実性の有無について
遮水シートが損傷する要因となる廃棄物埋立中の重機の接触や廃棄
物の接触を防ぐために,法面の遮水工上部に保護材(古畳)を用い,
シート直近の埋立を慎重に行う。仮に埋立作業中に遮水シートを損傷
させた場合は,漏水検知システムがこれを検知するため,重機等によ
り廃棄物を掘削し,破損箇所を露出させて補修する。
埋立完了後,深部の遮水シートが破れた場合には,ライナープレー
ト様の土留め壁を設置しながら補修を行うが,この方法は土木技術の
分野では下水道工事等で一般的に用いられている工法であり,特別な
ものではない。また,遮水シートの補修コストは,損害発生頻度を1
年に2回程度と想定して1年間2回分で約500万ないし800万円
を見込んでおり,事業収支計画にある予備費から充当することができ
る。
しかも,本件処分場においては施工管理を徹底し,漏水検知システ
ムで常時遮水工の状態をモニタリングしているため,遮水シートの破
損は小規模な破損の時点で補修することが可能であり,その損傷を放
置し大規模な損傷に発展するような事態は起こり得ない。
(イ)水処理施設について
a浸出水処理装置について
本件処分場に設置する浸出水処理装置は,産業系排水の水処理にお
いて豊富な実績をもつ日立プラントテクノ株式会社が設計・施工を担
当しているものであり,「ダイオキシン類対策特別措置法に基づく廃
棄物の最終処分場の維持管理の基準を定める省令」を満たすように計
画されている。
浸出水の処理はその過程において,重金属類やSS,無機塩類,ダ
イオキシン類,規制対象外の化学物質を適正に処理し,これにより除
去された有害物質である汚泥や捕集剤についても適正に処理するもの
である。
本件処分場においては,廃棄物を受け入れるに当たり,受入基準を
設けて審査を行うから,この受入審査において本件処分場の受入基準
を超える廃棄物を搬入することは原則としてない。したがって,浸出
水の原水水質が計画値を超えることは通常ないが,仮に何らかの理由
により一時的に浸出水の原水水質が計画以上に悪化した場合において
も,浸出水調整槽内で水質が平均化されること,浸出水調整槽で原水
水質を監視し,水質に合わせた薬剤の添加量及び滞留時間等を制御す
ることで浸出水処理装置の能力にある程度の余裕があること等施設の
運転を適正に管理することにより対応が可能である。
浸出水処理装置については,毎日適正な維持管理を行うため,処理
能力に突然異常を来す事態は生じにくく,日常管理の中で浸出水原水
水質と処理水水質を把握しているため,処理水質が管理目標値を超え
るような場合は事前に予想し,対応することが可能である。
また,水処理施設のメンテナンス計画については,営業許可時に作
成する維持管理マニュアルに規定する。
b蒸発散装置について
本件処分場においては,処理水を自然エネルギーによる蒸発装置,
有償エネルギーによる強制蒸発設備(ドライヤー)などの補完設備及
び計画散水により蒸発処理を行う。また,降雨による影響をなくすた
め,蒸発装置上に透光性の自動開閉式屋根を設置する。
蒸発量の変動に対しては処理水調整槽の容量により対応することが
可能である。大規模な処理水貯留槽により,数年間を通しての平均蒸
発量で対応ができるため,短期的な蒸発量の変動は問題ない。
気象条件の良いときには計画的に5000平方メートルの埋立エリ
アに散水して蒸発量を増大する計画をしており,晴れた夏場は1日1
0ミリメートル/平方メートルの蒸発も可能であるため,通常の数倍
の蒸発量を確保することができるが,これによりコスト収支上余裕が
できるから,より安全な処理ができる。
また,被告は余熱利用が可能な予備発電装置を設置することを計画
しており,この設備を稼働させた場合,余熱利用のエネルギーで1日
当たり15トンの処理水の蒸発が更に可能であり,1日当たり最大合
計30トン以上の蒸発が可能であるから,コスト的にも予算内で運転
管理が可能な計画となっているといえる。
さらに,ゴミ質の変化により塩分が増加傾向にあるため脱塩装置の
追加について県環境生活部産業廃棄物課と協議したところ,より安全
性を高める設備であり,追加することに対して問題はないという見解
を得ている。
c水収支について
降雨対策については,降雨の想定を,法基準ではなく過去100年
間の銚子気象台の降水データを用いて検討し,安全性の確保できる構
造・防災計画としている。特に外周の雨水がどのような集中豪雨によ
っても処分場内部に入らない外周遮水壁を設けたことにより,確実な
災害防止が可能となっている。
また,浸出水の貯留容量や内部の小段側溝の排水能力について,基
準を大きく越える計画としており,本件処分場の防災設備(雨水排水
設備)は災害を防止するという直接的な役割だけでなく,有害物質に
対するバリアーとして非常に重要な役割を果たすものである。
d浸出水発生量について
本件処分場の浸出水及び処理水調整槽は年間を通じて発生する浸出
水量及び処理水量を平均化し,安定した水処理を行うことを目的とし
て,調整容量はモデル年における算定結果の4倍以上,最大年におけ
る算定結果の2倍以上の安全率を考慮している。
本件処分場においては調整槽容量に十分な余裕があるため,降雨量
を実測値ではなく想定値とした場合に生じる実測値との日降水量の差
は問題にならない。
e浸出係数の設定について
銚子気象台には蒸発計がないことから,より安全な設定となる東京
の数値を採用して計算した。また蒸発量は可能蒸発量を基準として算
定するのが通例である。本件処分場で使用している浸出係数は十分な
妥当性がある。
(ウ)キャピラリーバリアー型覆土について
埋立完了後最終覆土として施すキャピラリーバリアー型覆土が雨水浸
透抑制効果を有し,有害物質の安定化に資する準好気性の環境を維持す
るのに有効であることは,多くの研究によって実証され,放射性廃棄物
処理場において実用化されている。また,キャピラリーバリアー型覆土
は,その素材が半永久的に変質しない天然の土や石等であることから,
長期的安定性を十分に有している。
(5)争点4イ(被告の維持管理計画が十分か)について
ア原告らの主張
被告の本件処分場維持管理計画は,包括的,概括的なものにとどまり,
不十分な面を多く有するものであるから,本件処分場の安全を担保し得る
ような計画であるとは到底いえない。
イ被告の主張
本件処分場の維持管理計画は使用前検査の審査対象となっており,維持
管理計画が不適切なものであれば本件処分場の営業許可を取得することは
できない。維持管理情報の開示方法等は地元市町村と協議を重ねて決定す
べき内容であり,今後地元市町村の要望等に応じて策定することとなる。
また,本件処分場維持管理の情報開示は,平成9年6月の廃掃法の改正に
より,生活環境の保全上利害を有する者である近隣住民への搬入廃棄物の
種類・量,浸出水水質試験結果及び地下水水質試験結果等の維持管理情報
の開示が制度化されており,情報開示方法の詳細については他の項目と同
様に地元3市町及び県と協議し決定する。さらに,地元住民からの意見・
要望の受付方法及びその処理方法についても関係各所と協議して決定する
ことになる。
(6)争点4ウ(被告が適切な維持管理を行う経済的基盤・属性を有してい
るか)について
ア原告らの主張
(ア)被告には経済的基盤がないこと
十分な経済的基盤を備えない事業者が産業廃棄物処分場を建設操業す
ることになれば,経費が削減されて当初計画どおりの建設操業が行われ
なくなり,また,適切な管理が行われなくなるから,建設操業する当該
事業者には十分な経済的基盤が存在することが必要であるところ,被告
は以下のとおりこれを満たしていない。
a被告の借入計画が不明朗であること
被告が県知事に提出した融資内諾証明書の記載内容が被告の資金計
画の内容と異なっていること,また,被告は,その主張を裏付ける書
類を示さず,銀行等との交渉経過すら明らかにしないこと,被告の主
張が変遷していること自体から,そもそも被告が銀行から巨額かつ低
利の融資を受けられる見通しは全く立っていないと考えざるを得ない。
b被告に多額の債務が存在すること
現時点において,被告の主張によっても,現在被告は23億230
0万円の負債があることになるが,これに訴外丙2に対する11億6
000万円の債務等を合計すると42億5000万円の債務を負って
いることになる。
被告の平成14年2月時点における決算報告書には,当時存在した
すべての債務が記載されておらず,決算報告書に記載のないいわゆる
簿外債務が存在していたし,仮処分命令申立事件の審尋が行われてい
た平成15年1月当時,被告は,真実に反し,当時代表者であった丙
2と訴外丙3株式会社からの借入金しかない旨主張していた。
被告はそのほとんどにおいて年利15パーセントという利息制限法
の上限金利が設定されている巨額の債務を負っているにもかかわらず,
資金計画においては上記債務の返済を全く考慮に入れていない。
c本件処分場予定地に錯綜した権利関係が設定されており,これが被
告の経営にも重大な悪影響を及ぼすこと
本件予定地には,被告自身が債務者となっているもののほかにも多
数の抵当権設定登記が存在するところ,被告は,各抵当権設定登記を
抹消登記しなければならず,そのために被告自身が債務を肩代わりす
る必要がある。
そして,上記抵当権設定登記に関係する会社の多くは本店所在地や
役員を共通にするなど錯綜した関係があり,それらの会社が億単位の
金員貸借を行っていることや,その中には実在していない会社もある
ことから,これらの関係者らは本件処分場から不正な利得を得る目的
の下に不明朗な金員貸借をし,その旨の抵当権設定登記を行った可能
性がある。
被告の役員及び元役員などの関係者らは,各抵当権設定登記に積極
的かつ重大な関与をしていたのであり,自ら錯綜した権利関係を設定
した被告が,本件処分場を適正に建設操業するとは到底考えられない。
(イ)事業計画の数次にわたる変遷
被告は,負債の額や担保抹消金の負担の必要性が明らかになる都度,
事業計画を変遷させてきたが,このような変遷経過にかんがみると,被
告の事業計画変更に何ら合理的理由がないことは明らかである。また,
事業計画の変更を繰り返しても必ず収支計算が合うのは,借入額を操作
することにより数字合わせをしているからにほかならない。
イ被告の主張
(ア)被告の経済的基盤について
本件処分場の予測総売上額と支出予定額から事業収支のバランスがと
れており,十分に事業として成り立つ。融資予定先から120億円を限
度としての融資了解を得ており,形式的要件である営業許可ないしは許
可に必要な条件が整ったときには操業開始時に必要な額の融資が実行さ
れる予定である。
(イ)事業計画の変遷について
被告が事業計画を変更させたのは,本来は被告の負担すべきものでは
ないが事実上負担する可能性のある本件予定地上に設定された抵当権の
被担保債務の額が変動していたこと,環境保全に対する対策費や保険料
を算入してよりよい事業計画としたことによるものである。
(7)争点4エ(本件処分場埋立完了後及び閉鎖後の安全性の有無)につい

ア原告らの主張
管理型処分場においては廃棄物安定化の時期がそもそも予測し得ないの
みならず,とりわけ本件処分場においては,キャピラリーバリアー型覆土
等の設備によって,廃棄物を洗い流して徐々に安定化させる働きを有する
雨水の量が少なくなるように設計されているため,安定化時期が通常の処
分場に比べ相当遅れることが予想される。
仮に安定化の時期が2,30年後ということになれば,そもそも被告は
その時点で経済的に破綻しており,到底処分場の管理など事実上できない
状態になっていると考えられる。したがって,安定化時期が長期化すれば,
処分場が安定化しないまま放置され,汚水が外部に流出するのは必至であ
る。
また,仮に短期間で安定化したとしても,内容物は無害化していない(
無害化に至るまでの時間は予測不可能である。)以上,その時点で管理を
中止して地下水排水のためのポンプ稼働を止めると地下水位が上昇して内
容物が地下水に水没することになるのであるから,有害物質が外部に放出
されることになる。
イ被告の主張
被告は,最近の研究で示されている安定化に有効な対策を施すことによ
って,本件処分場において埋め立てられた廃棄物が安定化に要する期間の
目標値を埋立完了後10年程度としているが,処分場閉鎖後の安全性を確
保するために,廃棄物の安定化(無害化)を阻害しないように浸出水の発
生を抑止し,無害化に至るまでの間の遮水工の耐久性を確保し,更に再掘
削による汚濁物質の流出を防止するための跡地利用を制限することにして
いる。
被告は,本件処分場において,半永久的に変質しない安定した材料であ
る自然材料の土,石,粘土を組成とし,半永久的に機能を維持できる天然
バリアー(ベントナイトライナー,キャピラリーバリアー)の技術を取り
入れている。
なお,維持管理費用については,安定化の時期の確定が困難であるため,
被告は約30年分を確保しており,また,埋め立てた廃棄物の安定化の判
断は被告が実施する各種維持管理業務の報告をもとに県が行うこととなる。
(8)争点4オ(原告らのもとに有害物質が到達するか)について
ア原告らの主張
(ア)地下水の状況
a本件予定地及び原告らが多数居住するa地区を含む一帯は飯岡台地
上にあるが,この飯岡台地は,本件予定地からa地区・西側崖地まで
の狭い地域に限定されない大きな広がりをもつ台地であり,その地層
と地下水は一体,同一のものと考えられる。地表からおよそ15ない
し16メートルにわたる範囲が地下水を豊富に抱え込んだ土の塊とな
っており,そのうち下部の10メートルほどは地下水が飽和状態とな
り,自由に移動する地層となっている。
b被告は,a地区における地下水位の測定値が,本件処分場側に位置
する地点における測定値より高いことを根拠にして,本件処分場とa
地区との間には,地下水の分水嶺が存在する旨主張するが,そのよう
な測定の結果は部分的な難透水層の上にある宙水の存在により矛盾な
く説明できる程度のものであり,分水嶺の存在を証する理由にはなり
得ない。
(イ)汚染経路
本件処分場から流出した有害物質は,以下の経路でa地区及び周辺地
域の地下水ないし井戸水を汚染することが予想される。
a本件処分場底面から有害物質が流出した場合
有害物質は,本件処分場底面から流出すると,a地区に連なってい
る極めて透水性の良い地下水が飽和状態(供給過剰の状態)の地層に
浸み出すため,そこから取水する原告らの井戸水を汚染する。
b本件処分場側面から有害物質が流出した場合
有害物質は,本件処分場側面から上記aと同じ地層に浸出すると,
上記aのとおり原告らの井戸水を汚染することになる。
浸出水の流出が地下水面より高い位置で,かつ地下水が不飽和状態
にある地層で起きた場合には,有害物質は,毛細管現象により地層粒
子間に保持され,降雨等による上方あるいは側面からの水分供給によ
り飽和状態となったときに下方に浸透する。その結果,汚染水は下方
の地下水内に流入して拡散することになる。そして,不飽和状態の地
層に地下水が流路として移動する管状の間隙があれば,降雨などを待
たずに汚染水が流出して地下水と混じり,地層内を移動して汚染が拡
散していくことになる。
c地下水位が上昇して標高46メートル付近にまで近づくと,宙水が
地下水内に取り込まれる格好となるため,この状態で処分場から有害
物質が漏れ出すと宙水が早い時期に汚染され,ここから取水する原告
らの井戸水を汚染することになる。
本件処分場の遮水壁の存在により,地下水は処分場内に湧水として
流出することができないから,必然的に地下水面は上昇し,以上のよ
うな汚染経路が形成される。
また,降雨を原因とした地下水位の上昇も考慮されなければならな
い。
イ被告の主張
(ア)地下水の状況について
aa地区のある飯岡台地の西側には,屏風岩と共通する固結粘土岩の
窪みが集落の下の地盤中にあり,そこに長期的に雨水が溜まっている
状況と推定され,また,台地全体の一部分に不透水あるいは難透水の
地層(主に粘土層)があり,その上部に雨水が溜まり,少量の浸透雨
水が供給されて湧水となって点在している状況である。
ba地区は本件予定地の西側に位置しているところ,本件予定地の西
側約150メートル付近から,本件予定地に向かって地下水位が低下
しているから,地下水は本件処分場に向かって流れている。本件予定
地とa地区の間には,地下水位の最も高い部分があり,地下水の分水
嶺となっているから,本件予定地を通過した地下水が重力に反してa
地区に向かって流れていくことはあり得ない。
(イ)汚染経路について
a地区の地下水の水位が標高40メートル付近にあり,a地区の井戸
水源となる不透水層の窪みの外縁の高さも標高40メートル付近と考え
られるところ,本件処分場付近の沢は標高25ないし30メートル程度
であるから,標高30メートル付近の地下水がこの不透水層の標高40
メートルの井戸水源の方向に流れて汚染が到達することはあり得ない。
本件処分場付近の沢の方向からして,飯岡台地の地下水は沢の方向と
同様に主に西側から東方に流れており,上流のa地区の井戸が本件施設
に影響されることはない。
(9)争点4カ(原告らの被害発生の可能性)について
ア原告らの主張
(ア)a浸出水は,本件予定地外に漏れ出すと,本件予定地を包み込む
ように存在している透水性の高い地層中の地下水に混入し,これを汚
染することになる。このように汚染された地下水が,A,Bグループ
の原告らが使用している井戸に到達することになるから,生活用水及
び飲料水を井戸水に依存しているAグループの原告らは,汚染された
井戸水の摂取により,下記bの浄水享受権を侵害される危険性が高い。
b人格権としての浄水享受権
浄水享受権とは,人が生活していく上で必要な水を確保する権利を
いい,国民の生命,身体及び健康に対する侵害を未然に防止するため
に憲法13条及び25条に基づく人格権の一種として保障を受けるも
のである。この浄水享受権は2つの内容に区別される。
(a)身体的人格権の一環として認められる浄水享受権
身体的人格権は,各人の人格に本質的なものであるゆえ,何人も
みだりにこれを侵害することは許されず,その侵害に対しては差止
めなど,当然にこれを排除する権利が認められるものというべきで
ある。
また,人の健康を脅かす環境破壊は「健康で文化的な最低限度の
生活を営む権利」を直接的かつ現実的に侵害するものであるところ,
憲法25条はこのような権利侵害から人々を保護する役割を果たす
ものであるから,身体的人格権は憲法25条によっても保障されて
いる。
(b)平穏生活権の一環として認められる浄水享受権
生命,身体に対する侵害の危険が,一般通常人を基準として,危
険感や不安感となって精神的平穏や平穏な生活を侵害していると評
価される場合には,人格権の一つとしての平穏生活権を侵害するも
のとして差止請求権が発生する。平穏生活権が憲法13条及び25
条で保障される以上,その一環である浄水享受権についても同様に
保障されるべきである。
水を摂取した者の生存・健康が侵害されることが科学的に十分に
証明されていない場合として,人の生存・健康に対する科学的な危
険性の指摘はあってもいまだ十分な証明がない場合や,十分な研究
がされていない場合があるが,これらの場合に当該水が飲用・生活
用水として不適当なものとなっていることは一般通念上明らかであ
る。さらに,人の生存・健康に対して危険性がないことが科学的に
証明されている場合であっても,一般通常人の感覚に照らして,飲
用等に供することが適当ではない場合がある。当該水が飲用・生活
用水として使用できないものかどうかは,主観的な不安であるに止
まらず,社会通念という客観的な基準によって判断される。平穏生
活権としての浄水享受権は,単に主観的な不安感に止まらず,客観
性をもった利益であり,十分に法的保護に値する権利である。
(イ)また,農業用水として地下水を使用しているBグループの原告ら
はCグループの原告らと同様,汚染された農業用水を使用した農作物の
販売ができなくなり収入源を奪われるとともに,自己の生命及び身体を
害される危険性が高い。
イ被告の主張
(ア)水道への切替えの必要性及び容易性
Aグループの原告らの多くが居住しているa地区の地下水は,周辺住
民が農業や畜産業を営むことによって,既に飲用には適さない状態にま
で汚染されている。また,a地区には既に水道が引かれており,多くの
住民が水道を利用している状況にあって,水道への切替えが容易なので
あるから,上記原告らは,地下水を利用する必要性はないし,利用すべ
きではない。そもそも,上記原告らが既に汚染されている地下水の利用
を止めさえすれば,本件処分場に持ち込まれる産業廃棄物の影響により,
生命,身体が害される可能性はない。
(イ)平穏生活権の一環として認められる浄水享受権について
差止めを求められるかどうかは,社会の一員として生ずる負担が一般
人に許容できるかどうかが基準となるべきである。およそ漠然とした権
利侵害感や危険感が保護されるというものではない。したがって,原告
らの主張する平穏生活権の一環として認められる浄水享受権は差止めの
根拠にはならない。
第3当裁判所の判断
1差止めの要件及び立証責任について
(1)人格権は極めて重大な保護法益であり,物権と同様に排他性を有する
権利というべきであるから,人格権を侵害された者は,民法709条及び7
10条により損害賠償請求をすることができるのはもとより,現に行われて
いる侵害行為を排除し,又は将来生ずべき侵害を予防するため,侵害行為の
差止めを求めることができると解される(最高裁昭和61年6月11日大法
廷判決・民集40巻4号872頁参照)。
もっとも,差止めを認めることになれば上記侵害行為とされる行為をする
者の行動に大きな制約を課すことになるから,いかなる場合においても侵害
行為とされるものを差し止められるわけではなく,上記行為の態様や程度,
被侵害利益の性質と内容,侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内
容と程度を比較検討するなど諸事情を総合的に考慮し,上記侵害行為が違法
であるといえる場合に侵害行為を差し止めることができると考えるべきであ
る。
(2)本件において,原告らは,生命及び身体が害され,また,財産的損害
を被ることを理由として,産業廃棄物最終処分場の建設,使用及び操業を予
定している被告に対し,これらの差止めを求めているが,このような差止め
が認められるためには,ア有害物質が本件処分場に搬入され,イ搬入さ
れた有害物質が本件処分場外に流出し,ウ流出した有害物質が原告らのも
とに到達し,エ原告らの利益が侵害されるとの各事実が存することが前提
となる。
これらの事実の存否について立証責任の分配をどう考えるべきか検討する
と,本件のように一般の住民である原告らが,産業廃棄物最終処分場の建設
等を計画している者を相手として,上記処分場の操業に関して生じる健康被
害等を理由に差止めを求める事案においては,被告は処分場を操業する者と
して専門的な対策を講じるべき立場にあり,廃掃法が共同命令の遵守の有無
を一つの基準として設置の許否を決すべきものとしていること,共同命令は,
科学的知見及び技術水準を踏まえつつ,最終処分場に対する国民の不安感を
払拭することをも考慮した上で,最終処分場の安全性を確保するために策定
されたものであること,事業者は環境保全義務を負っている(環境基本法8
条参照)こと等にかんがみれば,証明の公平な分担の見地から,上記イの事
実については事業者である被告が立証責任を負う,すなわち,搬入された有
害物質が本件処分場外に流出しないことを立証するべきである。他方,上記
ア,ウ及びエの事実については,被告の方が原告らよりも証拠に近い位置に
ある,すなわちそれらに関する情報や資料が被告に集中しているわけではな
く,また,被告が事業を行うに当たり当然に上記の情報等を保有すべき立場
にあるわけでもないから,立証責任の一般原則により差止めを求める原告ら
が,有害物質が本件処分場に搬入されること,本件処分場から流出した有害
物質が原告らのもとに到達し,原告らの利益が侵害されることを立証するべ
きである。
以下,これに従って順次検討する。
2争点1(本件処分場へ廃棄物を搬入する車両等による交通事故の危険の存
否)について
原告らは,本件処分場の建設や操業が行われた場合,周辺の道路を頻繁に往
来する大型車両により,交通事故の危険にさらされ,平穏な生活を営む権利が
侵害される旨主張する(第2の2(1)ア)。
前記第2の1(5)カのとおり,本件処分場の事業計画上,産業廃棄物の運
搬だけでも10トン車両で1日当たり延べ48台(年間にすると延べ9600
台となる。)の往復が予定されていることから,本件処分場の操業等により本
件予定地の周辺道路において交通量が増加する可能性は考えられる。しかし,
これによって交通事故の危険性がどの程度の具体的蓋然性をもって原告らに発
生するのかは不明である。そうすると,本件処分場の建設や操業に伴う交通事
情の変化により原告らの平穏生活権が具体的に侵害されるとまではいい難い。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
3争点2(本件処分場に搬入される産業廃棄物に含まれる有害物質による本件
予定地周辺の大気汚染の可能性の有無)について
(1)前記第2の1(6)のとおり,本件処分場において受け入れる予定の
産業廃棄物には人体に有害なあるいは危険性の指摘されている各種の物質(
以下,これらを「有害物質」という。)が含まれている可能性が高いから,
被告が本件処分場において操業を開始すれば,産業廃棄物とともに上記有害
物質が本件処分場内に搬入されることになると認められる。
(2)ア原告らは,産業廃棄物の本件処分場への運搬中,搬入時の積み降ろ
しの際及び埋立作業時において,搬入廃棄物の大半を占める焼却灰が周辺
地域に飛散し,また,これに含まれるダイオキシン類が常温で気化し,ば
い煙や空気中の微粒子に吸着されて遠方まで飛散することにより大気が汚
染され,Eグループの原告らが生命及び身体に深刻な被害を受け,憲法1
3条及び25条により保障されている正常な大気を享受する権利が侵害さ
れる旨主張する(第2の2(2)ア)。
イしかし,弁論の全趣旨によれば,被告は,本件処分場に搬入される焼却
煤その他の産業廃棄物については,あらかじめ加湿するか又は固化した上
で有蓋車両を使用させるか又は荷台をシートで覆って運搬させて,運搬中
の産業廃棄物の落下や飛散の防止対策を講じること,加湿に当たり水分過
剰により汚水が漏水しないように配慮すること,埋立作業中には適宜散水
して産業廃棄物の乾燥を防止すること,産業廃棄物を処分場内に投入した
当日には覆土すること等の対策を採る計画であることが認められ,また,
前記第2の1(5)ク(カ)及び(キ)のとおり,厚さ2.0メートル以
下の廃棄物埋立作業を終えるたびに厚さ0.5メートル以上の中間覆土の
上に雨水遮水シートを施し,これらの埋立てが完了した後は厚さ1.5メ
ートル以上の最終覆土を施した上で樹木を植栽する計画であること,埋立
完了後も処分場閉鎖までの維持管理期間中は処分場内の点検が続けられる
ことが認められるから,焼却煤が大気中に飛び散る可能性は乏しいという
べきである。
また,ダイオキシン類が常温で気化する事実を認めるに足りる的確な証
拠はない。なお,ダイオキシン類が多量に含まれる飛煤については,特別
管理産業廃棄物処分場への廃棄が法定されており(廃掃法施行令2条の4
第5号ワ,6条の5),本件処分場の受入品目から除外されているから,
飛煤が本件処分場に持ち込まれる可能性が高いとは認められない。
(3)以上によれば,本件処分場に搬入される産業廃棄物に含まれる有害物
質により本件予定地周辺の大気汚染が生じる可能性がある旨の原告らの主張
は,採用することができない。
4争点3(本件処分場の操業等による本件予定地周辺の河川汚染の可能性の有
無)について
(1)原告らは,被告の計画する浸出水処理装置及び蒸発散装置の処理能力
が十分ではないため,浸出水が貯留して場外に溢れ,表層水となって本件予
定地付近を水源地とする忍川等の河川に流入してこれを汚染し,これにより
Cグループの原告らが,風評被害によることも含め,汚染された河川水を使
用した農作物の販売が困難になり,生活の基盤である収入源を奪われる上,
上記農作物を食べることにより自己の生命及び身体を害される危険性が高い,
Dグループの原告らが将来水道水源となる忍川の汚染により自己の生命及び
身体を害される危険性が高い,Eグループの原告らが忍川の豊かな水環境を
享受する環境権を侵害される旨主張する(第2の2(3)ア)。
(2)アしかし,Cグループの原告らの主張する損害については,汚染され
た河川の水が農作物に取り込まれて生育した農作物が有害になることの相
当因果関係及び風評被害が具体的蓋然性をもって生じることを認めるに足
りる的確な証拠はない。
イDグループの原告らの主張する損害については,証拠によれば,忍川が
認可上の水道水源であることは認められるものの,将来において具体的に
水道水源として利用されることを認めるに足りる的確な証拠はない。
ウまた,Eグループの原告らの主張は,環境権の侵害を根拠にして本件処
分場の建設等の差止めを求めるものであるが,環境権はその内容が一義的
に明確ではなく,そのため,環境権が侵害されたと判断する要件があいま
いであること,環境権に基づき差止めを認めた場合の既判力の範囲が不明
確となること等から,直ちにこれを差止めの根拠となる法的権利として認
めることはできない。なお,環境が破壊されることによりその生命や健康
が被害を受けるおそれのある場合には,人格権に基づき,一定の要件の下
にそのような行為の差止めを求めることができることは前記1のとおりで
ある。
(3)以上によれば,本件処分場の操業等により本件予定地周辺の河川が汚
染されて原告らの利益が侵害される旨の原告らの上記主張は,採用すること
ができない。
5以下,本件処分場の操業等による本件予定地周辺の地下水の汚染の可能性の
有無(争点4)について検討する(これについて被告が立証責任を負うことは
前述のとおりである。)。
(1)争点4ア(本件処分場の安全性)について
ア遮水工について
(ア)各項中に掲記した各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実
を認めることができる。
a遮水シートについて
(a)日本遮水工協会は,平成10年6月改正の共同命令を踏まえ,
遮水シート自主規格解説を作成したが,これによれば,遮水シート
に要求される基準として,1アスファルトシート以外は1.5ミ
リメートル以上の厚さがあること,2十分な遮水性があり表面に
穴や亀裂がないこと,3廃棄物や保有水(浸出水)等により想定
される荷重,埋立作業用の車両等による衝撃力,これらにより生じ
る安定計算上許容し得る基礎地盤の変位及び想定される温度応力に
対し,強度及び伸びで対応できる性能をもつこと,4敷設や接合
等において不具合が生じない施工性を有すること,5紫外線曝露
前に比較して大きく劣化しない耐候性,セ氏−20度(冬季)から
セ氏70度(夏季)までの温度変化に対する熱安定性,保有水の水
質に耐える耐酸性及び耐アルカリ性,耐油性その他埋め立てられる
廃棄物の化学的な性状に対する耐性,その他大気中のオゾンによる
品質劣化や曲げによる応力が継続した場合の耐性等の耐久力がある
こと,6有害物質が遮水シートから溶出しない安全性を有するこ
とが挙げられている。遮水シートが耐久性を維持する寿命について
は,日本遮水工協会は10年を保証し,自主規格値を15年として
いる。
(b)日本遮水工協会作成(平成14年5月)の廃棄物最終処分場
遮水シート取扱いマニュアルにおいては,遮水シートの損傷は埋立
処分場の建設工事期間中からあらゆる場面で発生する危険があり,
突起のない下地地盤の整備や遮水シートの施工・保護土の施工等の
十分な施工管理を行うことが重要であると指摘され,損傷の発生に
ついては,1遮水シート施工中における施工ミスによるもの,2
施工完了後における浸出水集排水管敷設や浸出水集排水管の被覆
材敷設によるもの,3保護土設置時の重機の走行によるもの,4
埋立作業開始時(法面保護作業時を含む。)における廃棄物投入
による接合部の剥がれ,穴あき及び引き裂き,5埋立中における
地盤沈下や法面破壊等によるもの,6供用中一定期間経過後にお
ける下地の洗掘(粘土分の流出),湧水による膨れ,法面の滑落等
によるものなどの様々な原因が挙げられている。
これに対する対策として,遮水シートは時間とともに劣化が進行
するため,定期的に露出部の遮水シートの抜取り検査を実施して,
劣化状況を把握し,必要に応じて貼り直すことも考慮しておく必要
があるとされている。
また,補修方法については,HDPEシートにおいては直径1セ
ンチメートル以内の穴は押し出し溶接機により直接ロッドを塗布す
る,裂け目や接合部は補修用シートを当て,押し出し溶接機で接合
するとされ,EPDMシートにおいては補修用シートを接着剤で貼
り付ける方法が紹介されている。
(c)海外の研究によれば,HDPEシートなどの遮水シートにつ
いては,通常の施工管理が行われた場合では1ha当たりの孔穴が
8ないし10個,施工管理が不十分な場合では17個程度存在し,
極めて良好な施工管理でも1,2個の存在は避けられないとの指摘
がされている。
(d)平成13年に開催された廃棄物学会による第12回廃棄物学
会研究発表会において,京都大学防災研究所の研究者らにより,漏
水検知システムを利用した遮水シートからの漏水対策について経済
性や損傷検知後の修復の困難性の問題が指摘され,処分場の安全性
の適正評価のために遮水シートは損傷するという立場に立って漏水
量を抑制する観点から粘性土ライナーの有用性が説かれ,粘性土ラ
イナーを利用した場合には浸出水の水位が高い場合においても10
年間にわたり化学物質の漏出をほぼ抑えられるとの発表がされた。
(e)財団法人化学物質評価研究機構による耐候性紫外線変化性能
を測定するためのウェザオメーターによる促進曝露試験において,
HDPEシート及びEPDMシートは,共に試験時間4800時間
(試験時間200時間で1年に相当するため,24年に相当)まで
においては大きな物性変化を起こさないとの試験結果が得られた。
(f)シーアイ化成株式会社,財団法人化学技術戦略推進機構高分
子試験評価センター及び財団法人化学物質評価研究機構それぞれに
よる熱安定性試験(試験片をセ氏80度に保持された恒温槽に24
0時間静置した後に引張試験を行うもの)において,いずれもHD
PEシート及びEPDMシートは共に規格値80パーセント以上の
性能を保持した旨の試験結果が得られた。
(g)シーアイ化成株式会社,財団法人化学技術戦略推進機構高分
子試験評価センター及び財団法人化学物質評価研究機構それぞれに
よる耐薬品性(酸,アルカリ)試験(試験片をpH3の酸試験液又
はpH12のアルカリ試験液に浸漬させ,試験時間240時間静置
した後に引張試験を実施するもの)において,HDPEシート及び
EPDMシートは,共に規格値80パーセント以上の性能を保持し
た旨の試験結果が得られた。
(h)本件処分場においては,遮水シートの接合は熱溶着接合施工
により行われ,溶着部については全箇所負圧試験を行って溶着状況
を検査することが予定されている。
(i)本件処分場においては,遮水シートを貫通する集水管との接
合部分には工場加工の一体成型品を使用し,遮水シートとコンクリ
ート,遮水シートと貫通管との接合には接着剤及び固定金具を用い,
遮水シートと岩盤との接合は処分場で行わないことが計画されてい
る。
(j)被告は,遮水シート敷設工事に際しては,下地の突起物を除
去する計画であり,車両の走行の際に,法面部では保護布の上に古
畳を,底盤部では50センチメートルの保護砂層の上に更に鉄板を
敷く計画である。
(k)本件処分場においては,受入基準(営業許可申請時点で決定
される。特別管理産業廃棄物に該当する飛煤やpH2以下の強酸及
びpH12.5以上の強アルカリを受け入れることがないことはも
ちろんであるが,汚泥等の含水率については85パーセント以下に
脱水したもの,燃え殻及び可燃性の産業廃棄物については熱しゃく
減量10パーセント以下に焼却したものに限定し,また,物理的に
遮水工を損傷する可能性のある廃プラスチック及び金属くず等の産
業廃棄物は小さく(最大径がおおむね15センチメートル以下に)
破砕したものに限定すること等が予定されている。)を設けること
が計画されている。
(l)被告は,排出事業者からの申告を受けて審査を行い,申告時
に産業廃棄物の種類及び数量,サンプル及び受入基準に適合してい
ることを証明する分析結果(公的機関による証明)を提示させ,継
続して受け入れる場合は,排出事業者に上記分析結果を定期的に提
出させること,事前検査として,排出事業者に対する書類検査,立
入検査を行うほか,搬入管理を徹底することを計画している。具体
的には,受入管理職員を4名置き,処分場入口に設置する管理棟受
付において,目視検査,展開検査及び抜取り性状検査を行い,事前
申告と異なる産業廃棄物が搬入されていないかを確認し,違反の疑
いが生じた場合には,当該産業廃棄物の受入れを留保した上で公的
機関による産業廃棄物の分析試験を行い,違反が確認されれば当該
産業廃棄物の受入れを拒否し,以後は当該排出事業者からの産業廃
棄物の受入れを拒否することとする。また,GPS車両運行システ
ムを採用することにより,産業廃棄物を積み換えるような違反行為
を予防する計画であり,搬入された産業廃棄物ごとに埋立位置を特
定して記録するシステムを採用することにより,後日違反が発覚し
産業廃棄物を除去する必要が生じた場合にも対応できるようにする。
(m)財団法人廃棄物研究財団が平成10年6月改正の共同命令等
を踏まえて作成した産業廃棄物最終処分場使用前検査マニュアルに
は,遮水工の検査に関しては許可申請図書どおりに遮水工ができて
いるかどうかを確認することを前提として,遮水シートに関しては
施工や遮水性能については書類審査だけではなく現地を確認して検
査することなどが定められている。また,遮水シートの接合部が強
度をもっているか,マイナスドライバーを接合部に当てて剥離や不
具合がないか調査するなどの方法が定められている。
(n)本件処分場においては,掘削後床付け完了時点で,県立会い
の下,平板載荷試験を実施し,地盤強度及び沈下量を直接測定して
確認する予定である。
(o)本件予定地付近一帯の地質は,第3紀中新世から鮮新世にか
けて堆積した三浦層群を基盤としており,上位には第4紀洪積世に
堆積した上総層群及び成田層群が分布し,表層には関東ローム層及
び段丘堆積物等が分布する。忍川による開析谷低地においては開析
作用により関東ローム層,段丘層及び成田層上部が欠層となり,こ
れに代えて第4紀沖積世に堆積した沖積層が分布する。沖積層には,
一部軟弱な腐食土層が見られ,その下層には洪積砂質土層(Ds1
層,Ds2層)が厚く分布している。
それぞれの地層は,ほぼ水平に堆積している。
本件処分場の建設工事の際には谷底の部分を更に10メートル程
度掘削し,上記沖積層を除去することから,遮水工の支持地盤はD
s2層,法面部は主にDs1層に囲まれることが見込まれる。
本件処分場の遮水工の支持地盤となる底部計画高さ(標高29メ
ートル)付近に対応するDs2層における地盤強度は,降伏圧が1
12.5トン/平方メートルであり,N値(当該地層における土の
固さを示す度合い)は22である。
本件処分場の遮水工の法面部付近に対応するDs1層におけるN
値は25である。
(p)他の処分場における遮水シート破損事例
1東京都八王子市戸吹最終処分場からの汚水漏出について,昭和
62年,地方自治法174条に基づく事故調査委員会による調査
研究結果が発表され,それによれば,廃棄物搬入路の真下の遮水
ゴムシートが約6.4平方メートルにわたって破損した。
2平成7年から廃棄物の搬入が開始された千葉県八千代市所在の
一般廃棄物最終処分場において,平成10年ころから遮水シート
に複数の亀裂が発見された。その対策として八千代市は5年間に
わたり総額55億円を要する改修事業をするとした。
3平成10年に建設された茨城県龍ヶ崎市板橋町所在の一般廃棄
物最終処分場において,平成11年及び平成12年に不織布に剥
がれや穴が多数発見された。
4平成11年,愛知県津島市の一般廃棄物最終処分場において,
遮水シートに直径2ないし10ミリメートルのピンホール等が発
見された。シート破損の補修には750万円を要した。
b粘性土ライナーについて
(a)本件処分場においては,透水係数1×10のマイナス5乗セ
ンチメートル/秒である現地のDs2層(難透水層)の砂を90∼
95パーセント,粘土の一種であるベントナイトを5∼10パーセ
ントの割合で混合し,ベントナイトをいわゆる目つぶし材として使
用し,1×10のマイナス6乗センチメートル/秒以下の透水係数
を確保する予定であるが,ベントナイトと現地砂の混合比率につい
ては,現在実験中であり,いまだ確定していない。
(b)ベントナイトは,低レベル放射性廃棄物埋設施設の保護土に
も使用されており,その場合には地下水による浸食量は1万年でベ
ントナイト混合土の厚さ2メートルのうち2センチメートル程度に
とどまると算定されている。
(c)被告は,粘性土ライナーを埋立区域の底部及び法面部に敷設
する際には,地下水集排水管の敷設工事後に地下水位を計測し,か
つ,湧水及び地下水が処理できることを目視確認した上で(不完全
な場合には,地下水排水工の設計を見直して,施工し直す。),粘
性土ライナーを施工する手順を採ることを予定している。
(d)ベントナイトを組成するNaモンモリロナイトは,外部膨潤,
内部膨潤ともに大きく,周囲を拘束しないで自由に膨潤させるとそ
の体積が元の体積の10倍以上に達する性質を有している。
(e)被告は,本件処分場閉鎖後には,地下水排水ポンプの稼働を
停止することを予定している。
(f)被告は,粘性土ライナーの修復については計画していない。
(g)地下水集排水管には,粘性土ライナーの粒子を引き込むこと
のないようにフィルター材で覆われるが,フィルター材が周囲から
流入してくる粒子により詰まらず,周囲の土に比して透水性がある
という必要条件を満たしているかどうかは,条件式に一定の数値を
代入することによって判明するが,被告は具体的数値を明らかにし
ていない。
c漏水検知システムについて
(a)本件処分場に設置される漏水検知システムは浸出水の導電性
を利用したシステムであり,遮水シートを挟んだ上下の検知線をそ
れぞれ交差するように4メートル×4メートルの間隔で配置して,
遮水シート破損箇所から漏洩した電流を検知線の交点ごとに検知し,
各交点の電流値の分布を専用ソフトウェアによって解析することで
漏水の位置を特定する機能を有する。既に国内において,39件の
実績がある。
(b)漏水検知システムの一部の配線に支障が生じた場合には,新
たな抵抗線を突き入れる方法により補完する。
(c)被告は,本件処分場設置許可取得時点においては,遮水シー
ト破損箇所から漏洩した電流を,遮水シートの上下を20メートル
間隔で平行に配置された検知線が検知し,検知線方向の短絡(ショ
ート)位置を専用ソフトウェアが電気抵抗値を解析することで漏水
の位置を特定する機能を有する漏水検知システムを採用するとして
いたが,平成16年10月19日の本件口頭弁論期日において,上
記(a)の新検知システムへの採用変更を明らかにした。
d遮水シート補修について
(a)本件処分場において,遮水シートの破損が埋立初期段階で発
見された場合には,バックホウにより廃棄物及び覆土を掘削(底盤
付近においては人力で掘削)して破損箇所を露出させ,補修用シー
トで修復する。他方,埋立完了後に破損が発見された場合などで,
破損箇所が深い位置にある場合については,ライナープレートを用
いて土留壁を設置しながらクラムシェル等で廃棄物及び覆土を掘削
(底盤付近はミニバックホウ及び人力で掘削)して,補修用シート
で修復することとしている。
(b)被告は,シートの補修費用について5.0メートルのライナ
ープレートを使用した場合には1か所当たり267万6000円,
7.0メートルのライナープレートを使用した場合には1か所当た
り378万円と見積もっている。
(イ)上記(ア)及び前記第2の1の認定事実に基づき,検討する。
a遮水シートについて
(a)共同命令においては,遮水工の要件として,1不織布その
他の物(二重の遮水シートが基礎地盤と接することによる損傷を防
止することができるものに限る。)の表面に二重の遮水シート(当
該遮水シートの間に,埋立処分に用いる車両の走行又は作業による
衝撃その他の負荷により双方の遮水シートが同時に損傷することを
防止することができる十分な厚さ及び強度を有する不織布その他の
物が設けられているものに限る。)が敷設されていること,2基
礎地盤は,埋め立てる産業廃棄物の荷重その他予想される負荷によ
る遮水層の損傷を防止するために必要な強度を有し,かつ,遮水層
の損傷を防止することができる平らな状態であること,3遮水層
の表面を,日射によるその劣化を防止するために必要な遮光の効力
を有する不織布又はこれと同等以上の遮光の効力及び耐久力を有す
る物で覆うことが要求されている。
(b)本件処分場においては,遮水工の構造は前記第2の1(5)
のとおり,上層の遮水シート(HDPEシート)の上には保護層(
法面部は遮光性短繊維不織布,底盤部は厚さ500ミリメートルの
保護覆土)が敷設され,下層の遮水シート(EPDMシート)につ
いては,上層のHDPEシートと下層のEPDMシートとの間に敷
設される保護層(法面は短繊維不織布,底盤部は厚さ300ミリメ
ートルの砂層)が敷設され,更にその下部に厚さ500ミリメート
ルの粘性土ライナーが敷設されるのであり,共同命令が要求してい
る二重の遮水シートに,更に粘性土ライナーが付加されているもの
である。
(c)本件処分場に使用されるHDPEシート及びEPDMシート
は,上記(ア)a(e)ないし(g)のとおり,遮水シートの代表
的な破損原因である紫外線,熱,酸及びアルカリに対し十分な耐候
性,耐熱性及び耐薬品性があることが認められる。
すなわち,紫外線に関しては,試験における条件よりも,実際は
各遮水シートの上に保護層が敷設されて紫外線の影響が低減される
ことが認められるのであるから,敷設工事中に一時的に遮水シート
が陽光にさらされる可能性があることを考慮しても,紫外線が原因
で遮水シートが劣化する可能性は極めて低いというべきである。
また,温度上昇に関しては,埋め立てられた廃棄物の温度が試験
条件であるセ氏−20度を下回ったり,セ氏70度を上回るような
状況になることを示す的確な証拠はなく,かえって,気温の上昇は
セ氏40度程度が上限であり,本件処分場に埋め立てられる産業廃
棄物は焼却煤等の無機物が主であって,上記(ア)a(k)及び(
l)のとおり受入審査等の搬入管理を行うことにより,熱源となる
ような生ゴミ及び有機汚泥等の許可品目外の産業廃棄物の持込みを
防止することができることも勘案すると,温度上昇により遮水シー
トが劣化する可能性は極めて低いというべきである。
さらに,酸やアルカリに関しても,上記(ア)a(k)及び(
l)のとおり,受入審査等の搬入管理を行うことにより,液状の産
業廃棄物が持ち込まれることを防止することができ,また,pH2
以下の強酸及びpH12.5以上の強アルカリは受け入れられない
ことを勘案すると,浸出水に含まれる酸やアルカリにより遮水シー
トが劣化する可能性は極めて低いというべきである。
(d)遮水シートは,遮水工設置工事中や埋立作業中に重機や産業
廃棄物と接触して損傷する可能性が指摘されているが,上記(ア)
a(j)のとおり,被告は,法面部では保護布の上に古畳を,底盤
部では50センチメートルの保護砂層の上に更に鉄板を敷く計画を
立てており,少なくともこれに従う限りにおいては,遮水工設置工
事中や廃棄物埋立作業中に重機によって損傷する可能性は少ないと
いうべきである。
(e)遮水シートは,接合部分において脆弱になる可能性が指摘さ
れているが,上記(ア)a(h)及び(i)のとおり,本件処分場
においては,接着ではなく溶融によりシートを接合させるものであ
り,接着による方法よりも接合部分が剥がれる可能性は低い。また,
上記(ア)a(m)のとおり,使用前検査においてマイナスドライ
バーを接合部に当てるなどの方法で,シートの接合部が強度をもっ
ているか,剥離や不具合がないか確認されることになっていること
から,遮水シートの接合部分が脆弱であるとは一概にはいえない。
(f)遮水シートの支持地盤の強度が不足している場合には,不等
沈下により遮水シートに過剰な負担を与え,遮水シートの引き裂き
や接合部の剥離等の原因となる可能性があるが,本件処分場の支持
地盤は,上記(ア)a(o)のとおり,底盤部のDs2層における
地盤強度が降伏圧112.5トン/平方メートルであり,埋立高7
5メートルの産業廃棄物の荷重に耐えられる計算になり,本件処分
場埋立完了時における荷重をかけた場合の沈下量は0.14ミリメ
ートルと推定されるところ,本件処分場における埋立高は25メー
トルとなる計画であり,限界加重の3分の1程度にとどまる見込み
であることが認められる。また,同(n)のとおり,掘削後床付け
完了時点で,県立会いの下で平板載荷試験を実施し,地盤強度及び
沈下量を直接測定して確認する予定であること,その結果強度不足
等の問題があることが確認されれば,良質土に置き換える等の補強
工事を行い,必要な強度及び連続性を確保した支持地盤を構築する
ことが可能であると考えられることから,支持地盤は十分な支持力
を有するものと認められる。
(g)そして,遮水工の設置に際しては,粘性土ライナー,漏水検
知システム,二重シート,不織布及び保護土層の各層ごとに県の確
認検査を受けることが設置許可の条件となっており(前記第2の1
(3)サ(ア)),適切に敷設されているかどうかについて第三者
によるチェックが行われることになっているから,計画どおりに設
置しない可能性は極めて低いというべきである。
(h)以上において検討した結果によれば,本件処分場に敷設され
る遮水シートの性能,敷設方法,保護方法等に照らし,上記遮水シ
ートは,適正に設置ないし管理されていれば,廃棄物及び浸出水を
周辺環境から遮断する性能をもち,本件処分場内の有害物質を当面
の間においては外部に漏出しないだけの安全性を有しているものと
認められる。
もっとも,上記(ア)a(p)のとおり,他の処分場において遮
水シートが破損している事例があることが認められるところ,本件
処分場においては前記認定のとおりに設計・施工され,廃棄物を受
け入れるものであり,上記の過去の破損事例とは処分場の構造,工
法又は管理体制が異なるから,これらの事例と同じように本件処分
場においても破損するとは直ちにいうことはできないものの,当時
の法令に従い,適正に設置ないし管理されていたはずの処分場にお
いてもそのような前例があることは無視できないところである。
また,遮水シートの損傷は埋立処分場の建設工事期間中からあら
ゆる場面で発生する危険があるとの日本遮水工協会等の指摘や,損
傷の頻度が1ha当たり8ないし10個という研究,遮水シートの
寿命が日本遮水工協会の自主規格値として15年と述べられている
ことから,遮水シートにはいずれは破損する蓋然性が認められる。
これらのことからすれば,遮水シートは,その維持管理等が適正
に行われて初めて将来に向けても完全に安全なものであるといえる
のであるが,これについては後に検討する。
b粘性土ライナーについて
(a)本件処分場に設置される粘性土ライナーについては,上記(
ア)b(a)のとおり,透水係数1×10のマイナス6乗センチメ
ートル/秒以下の性能を満たすものを製作すること,前記第2の1
(5)ク(イ)及び上記(ア)b(c)のとおり,地下水を粘性土
ライナーに直接接触させないようにすることによって浸食を防止す
る計画となっており,粘性土ライナーを敷設する際には湧水及び地
下水が処理できることを目視確認した上で施工する手順を採る予定
となっていることから,処分場閉鎖前には粘性土ライナーが地下水
にさらされる危険性は少ないものと認められる。もっとも,上記(
ア)b(g)のとおり,被告は地下水集排水管のフィルター材の性
能を明らかにしていないから,地下水がすべて排水されるか(特に
集中豪雨時など)については疑問がある。
また,処分場閉鎖後には,上記(ア)b(e)のとおり,排水ポ
ンプの稼働が停止されるから,地下水位が上昇して粘性土ライナー
が地下水と接触する事態が想定される。ベントナイトと現地砂の混
合比率は,その膨潤性に影響を大きく及ぼすことになり,慎重な考
慮を要するところ,本件処分場において使用される粘性土ライナー
が低レベル放射性廃棄物埋設施設のベントナイト混合土(地下水に
よる浸食量が1万年でベントナイト混合土の厚さ2メートルのうち
2センチメートル程度にとどまると算定される)と同一性を有して
いるのか不明である。また,上記混合比率はいまだ確定されていな
いことも勘案すると,粘性土ライナーが地下水により浸食されて遮
水性を失う可能性がないとはいえない。
なお,本件処分場に持ち込まれる産業廃棄物は前記第2の1(
6)のとおりであり,強酸,強アルカリ,有機溶剤等の液状の産業
廃棄物を本件処分場に受け入れることはそもそも許されず,上記(
ア)a(k)及び(l)のとおり受入審査等を実施することによっ
て,液状の産業廃棄物が持ち込まれることを防止することができる
から,粘性土ライナーが酸やアルカリの影響を受けることまずはな
いと考えられる。
(b)以上において検討した結果によれば,地下水集排水管が十分
に機能するかについては疑問があり,地下水が触れることによって
粘性土ライナーが浸食されたり,膨潤したりする結果,支持力が変
化して遮水シートに剪断力が働く可能性が否定できず,粘性土ライ
ナーの修復は計画されていないこと(上記(ア)b(f))も考慮
すると,これらいずれかの理由により遮水シートが破損した場合に
は,浸出水が粘性土ライナーを通過して本件処分場の外部に漏出す
るおそれがないとはいえない。
c漏水検知システムについて
(a)浸出水が本件処分場外に流出するのは,浸出水が上層の遮水
シート(HDPEシート)の破損部からシート間にある保護層に流
入し,その後下層の遮水シート(EPDMシート)の破損部に到達
し,更に粘性土ライナーを通過するという経過をたどることになる
ところ,各遮水シートの上層にある保護層(底盤部は砂層,法面部
は不織布)は透水性が高いため,遮水シート双方に破損が生じた場
合,浸出水は,上層のHDPEシート破損部からシート間にある保
護層に流入することになるが,下層のEPDMシートの破損部に到
達した浸出水は,粘性土ライナーへは浸透せず,はるかに透水性の
高い保護層を動水勾配に沿って流れ,底盤に敷設された浸出水集排
水管へと集水されると考えられ,集排水管及び遮水工の勾配により
速やかに排出されることから,粘性土ライナーが完全な場合には,
これを通過する圧力が働く可能性は低く,浸出水が直ちに外部に漏
れ出すことはないと推認できる。
(b)本件処分場の漏水検知システムは,上記(ア)c(a)のと
おり,既に国内において,39件の実績があり,遮水シートの破損
箇所の早期発見に有効なシステムであり,完全性を有した粘性土ラ
イナーの遮水性により外部漏出が防止されている間に速やかに破損
箇所が補修される限りにおいて,浸出水の外部漏出を防止し,地下
水汚染を防止する効果があるものと認めることができる。
(c)原告らは,被告が新検知システムに採用変更したことを,上
記システム機能の有効性に対する疑問の根拠として主張するが,新
たな技術を採用することは,これによってより安全な維持管理を期
するものであると考えられるから,原告らの上記主張を採用するこ
とはできない。
漏水検知システムが銅線の腐食等により故障する事態があり得る
ことは否定できないが,上記(ア)c(c)のとおり,新たな抵抗
線を突き入れる方法により補完することが可能であると認められ,
これも維持管理の適正に係わることである。
(d)以上において検討した結果によれば,漏水検知システムは,
十分な機能を有するものと認められる(なお,漏水検知システムの
変更に伴う費用については,維持管理計画に関する検討の中で更に
検討する。)。
d遮水シートの補修について
(a)遮水シートの補修は,上記(ア)d(a)のとおり行われる
ことが認められるが,遮水シートの破損が埋立初期の段階で発見さ
れた場合には,埋立作業が半ばであり破損箇所も浅い位置にあるか
ら,その補修が困難というべき理由はなく,他方,破損が埋立の完
了後に発見された場合などで破損箇所が深い位置にあるときでも,
一般的な土木技術を用いて埋立区域を掘削することができるから,
技術的に現実的な可能性を有するものであるといえ,これを覆すに
足りる証拠はない。
(b)これに対して,補修の費用に関しては,1ha当たり8ない
し10個の孔穴が存在するとの研究結果(上記(ア)a(c))に
照らせば,被告主張のように1年に1,2回の補修で済むとするこ
とには疑問があり,そうすると,定期的に露出部の遮水シートの抜
取検査を実施して,劣化状況を把握し,必要に応じて貼り直すこと
も考慮しておく必要があると指摘されていること(上記(ア)a(
b))も勘案すると,1年間の補修に要する費用について,被告主
張のように約500万ないし800万円の補修費を見込むだけで足
りるということには疑問がある。
(c)以上の検討結果によれば,被告は,技術的には遮水シートを
補修することは可能であるとしても,費用面においてこれが可能で
あることが満たされて初めて現実的に補修可能といえるのであるか
ら,これについては,維持管理計画に関する検討の中で更に検討す
る。
イ水処理施設について
(ア)各項中に掲記した各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実
を認めることができる。
a1887年から2000年までの114年間における銚子市の1時
間当たりの最大降水量は1947年8月28日の140.0ミリメー
トル,1日最大降水量は311.4ミリメートルであり,年間最大降
水量は2352ミリメートルである。また,1991年から2000
年までの日平均降水量は4.29ミリメートル(小数点第3位以下四
捨五入。)である。
また,1996年の東京都における年間降雨量は1333.5ミリ
メートルであり,蒸発量は879.3ミリメートルである。
b本件処分場埋立区域内法面部の小段側溝の排水能力は毎時180.
5ミリメートルであり,場外側溝及び埋立完了時の場内側溝の排水能
力は毎時104.0ミリメートルである。
c本件処分場において採用予定の水処理設備(浸出水処理装置及び蒸
発散装置)は,管理型産業廃棄物最終処分場における水処理設備の納
入実績を有する日立プラントテクノ株式会社が設計・施工するもので
あり,操業開始後の運転管理については,同社の関連会社が訴外丁1
株式会社とともに担当する計画である。なお,丁1株式会社は,平成
10年12月に会社更生法の適用を申請し,その後更生手続が進めら
れた。
d蒸発散装置は,直径100ミリメートル(送水管)及び直径300
ミリメートル(送風管)のメッシュ状のパイプを1.5メートル間隔
で配置し,送風設備4台を備えた蒸発散面積(地表部)を2500平
方メートルとする仕様であり,同設備内に雨が降り注ぎ蒸発を要する
水量が増加することを防止するため,透光性の自動開閉式屋根が設置
され,地表面及び地中管内への送風による蒸発量の合計として,年間
平均1日当たり4.5ミリメートル/平方メートルを処理する能力が
あるものである。
e本件処分場では,蒸発散装置による蒸発処理に加え,計画散水(晴
天の日照エネルギー及び風力エネルギーの大きいときに埋立対象ブロ
ックへ処理水を散水すること)を行うとともに,1日当たり15トン
の蒸発処理能力を有する強制蒸発設備(電力を利用したドライヤー方
式)を併設して,上記蒸発散装置による蒸発処理を補完する計画であ
り,処理水貯留槽も設置される計画である。
(イ)上記(ア)及び前記第2の1の認定事実に基づき,検討する。
a浸出水処理装置について
(a)本件処分場においては,前記第2の1(5)キ(ウ)及び(
カ)のとおり,埋立区域の外周部に地上高1.0メートル以上の外
周遮水壁が設置され,これを囲むように場外U字側溝(雨水排水用
管渠)が設けられ,埋立区域の法面部には階段状の小段が形成され,
各小段ごとに雨水排水用の場内U字側溝が設けられることから,こ
れにより,埋立区域内への直接降雨以外の水は埋立区域に流入せず,
法面部への降雨も産業廃棄物に接触することなく場内U字側溝によ
り防災調整池へと誘導される。
また,前記第2の1(5)ク(カ)のとおり,廃棄物の埋立作業
は5000平方メートル以下のブロックに分割して,1ブロックず
つ順次埋め立てる方式が採用され,埋立作業未着手のブロック部分
への降雨は産業廃棄物に接触させずに浸出水集排水管(雨水切替
管)によって雨水排水室を経て防災調整池へと誘導される。埋立て
が完了したブロックについては,雨水遮水シートで上部を覆い,こ
のブロックへの直接降雨を側方へと流し,法面部の小段に設けられ
た側溝によって廃棄物に接触させずに防災調整池へと誘導すること
が予定されている。
これらの方策によって,浸出水の発生面積を現に埋立作業中の1
ブロック(5000平方メートル以下)部分に限定することができ
るものである。
(b)上記(a)の計画を前提とした本件処分場における浸出水の
発生見込量は,1日平均約12.2立方メートル(=〔1/10Q
00〕×C×I×A。:浸出水発生量〔ミリメートル/日〕,CQ
:浸出係数0.57,I:降雨量4.29〔ミリメートル/日〕,
A:産業廃棄物が雨水と接触する面積5000〔平方メートル〕。
浸出水発生量の算定に当たっては,1991年から2000年まで
の銚子気象台の降水量データ及び厚生省水道環境部監修「廃棄物最
終処分場指針解説」p125表Ⅱ−31中の東京の月別浸出係数
(0.57)を採用した。)となることが認められる。
(c)原告らは,雨水排水用管渠の設計において前提とされた降水
量の設定に誤りがあるから,豪雨の際には側溝が溢れ,浸出水発生
量の抑制は計画どおりにはならない旨主張するが,上記(ア)a及
びbのとおり,銚子市の降水量データによると,1時間当たりの最
大降水量は1947年8月28日の140.0ミリメートルである
のに対し,埋立区域内法面部の小段側溝の排水能力は毎時180.
5ミリメートルであることから,側溝の維持管理が適正に行われて
いる限り,排水能力は十分であるといえる。
なお,場外雨水排水管渠については,仮に雨水等が溢れたとして
も,高さ1メートル以上の外周遮水壁があることから,処分場周辺
が冠水して,埋立区域外への降雨が埋立区域内に流入してくる可能
性は極めて低いというべきである。
また,原告らは,被告が施設設計の際に採用した東京都の浸出係
数の数値は不当に低く,0.9の数値を使用すべきであって,同数
値を基礎とした場合には,本件処分場の水処理設備では埋立区域内
に浸出水が滞留することになる旨主張する。
しかし,東京都と銚子市の各地理的状況を考慮すると,その日照
時間,気温,風の状況及び天候等に照らし,東京都における浸出係
数は銚子市のそれよりも少なくはないということができるから,被
告が東京都の数値を採用したことが不合理とはいえないところ,上
記(ア)aのとおり,1996年の東京都における年間降雨量は1
333.5ミリメートルであるのに対し,蒸発量は879.3ミリ
メートルであり,降雨量の約65パーセントは自然蒸発することが
認められ,また,本件処分場において埋立ての際には,前記第2の
1(5)ク(カ)のとおり,2.0メートルの産業廃棄物層に対し
て0.5メートルの中間覆土を繰り返す埋立計画であるから,埋立
区域内の透水性が特別高いとはいえない。したがって,全国の主要
都市における月別の浸出係数の最大値がほとんど0.9に近いとい
っても,その範囲は北海道旭川市から沖縄県那覇市に至るものであ
るからその地理的状況及び気象状況は大いに異なる。このような差
異を勘案せずに,本件処分場における浸出係数として0.9を採用
する合理性を見いだすことはできない。
以上のとおりであるから,本件処分場の施設の構造からすると,
浸出水発生量が十分に抑制される措置が採られているものと考えら
れる。
(d)以上を踏まえて浸出水処理装置の処理能力について検討する
と,本件処分場の浸出水処理装置は,上記(ア)cのとおり,管理
型産業廃棄物最終処分場における水処理設備の納入実績を有する日
立プラントテクノ株式会社が設計・施工するものであり,操業開始
後の運転管理については,同社の関連会社が丁1株式会社とともに
担当する計画であること,本件処分場の操業前に水処理設備の試運
転調整を行い,県知事による使用前検査においてその性能を確認す
ることが予定されていること,前記第2の1(3)サ(ク)のとお
り,処理水の水質を継続的に確認し,その結果を常時公開できるよ
うにすることが本件処分場の設置許可の条件とされており,被告が
これを遵守する義務があること等を総合的に考慮すると,放流基準
水質(廃掃法15条の2第1項1号及び共同命令参照)を満たさな
い性能のまま,浸出水処理装置が稼働する可能性は極めて低いとい
うべきである。
b蒸発処理装置について
(a)本件処分場において設置が予定されている蒸発処理装置は,
上記(ア)cのとおり,浸出水処理装置と同様,日立プラントテク
ノ株式会社が設計・施工を担当し,操業開始後の運転管理について
は,同社の関連会社が丁1株式会社とともに担当する計画であるこ
と,上記(ア)d及びeのとおり,年間平均1日当たり4.5ミリ
メートル/平方メートルを処理する能力があり,蒸発散装置による
蒸発処理に加え,計画散水を行うとともに,1日当たり15トンの
蒸発処理能力を有する強制蒸発設備(電力を利用したドライヤー方
式)を併設して,上記蒸発散装置による蒸発処理を補完する計画で
あることから,十分な処理能力を有するものと認められる。
(b)原告らは,各種溶存物質を含む処理水を連続して蒸発させれ
ば,析出物が付着した蒸発散装置が目詰まりして機能しなくなる旨
主張するが,このような目詰まりの具体的可能性は明らかではなく,
また,仮に付着したとしても保守管理を行うことにより性能を維持
することは十分可能と考えられるから,蒸発散装置の機能を否定す
るほどの事情にはならない。
c浸出水貯留槽及び処理水貯留槽について
本件処分場においては,4070立方メートルの浸出水貯留槽が確
保されているところ,上記aのとおりの浸出水発生量抑制措置を行う
前提で本件処分場における浸出水の発生量を計算すると,1日平均1
2.2立方メートル,年間平均4453立方メートル(12.2立方
メートル×365日)となることに加え,上記(ア)aのとおり過去
114年間(1887年から2000年)の銚子市の降水量データ(
年間最大降水量2352ミリメートル,日最大降水量311.4ミリ
メートル等)及び浸出水集排水管の能力(本管口径600ミリメート
ル)等に照らすと,埋立区域内に浸出水が滞留することはないという
べきである。
また,前記第2の1(5)キ(オ)のとおり,処理水貯留槽の容量
も3990立方メートルが確保されているのであって,上述した蒸発
処理の能力及び降水量データと対比した場合,容量は十分なものとい
える。
d以上において検討した結果によれば,浸出水の発生量が抑制される
本件処分場においては,浸出水処理装置及び蒸発散装置,浸出水貯留
槽及び処理水貯留槽等は,その処理能力等において十分なものである
と認められる。
ウキャピラリーバリアー型覆土について
前記第2の1(5)ク(キ)のとおり,本件処分場においては,埋立区
域すべての埋立てが完了した後は,上部を遮水シートで覆わずに最終覆土
としてキャピラリーバリアー型覆土を施し,地表面に樹木等を植栽するこ
とが計画されている。そして,証拠によれば,キャピラリーバリアー型覆
土は,境界面の間隙水圧が一定数値以下の不飽和領域では「礫よりも砂の
方に水が流れる」という性質に基づき,異なる土質材料(粗粒土,細粒土,
粘性土)を用いて覆土を構築し,覆土中間層を通じて雨水を排水すること
により,遮水性を発揮することを目的とする覆土であり,20∼30パー
セント程度の浸出水を発生させる粘性土覆土と比較した場合,その4パー
セント程度に浸出水の発生量を抑制できることが実証実験によって裏付け
られており,実際に低レベル放射性廃棄物管理施設等において実用段階に
あることが認められる。
このキャピラリーバリアー型覆土に樹木等による蒸発効果を併せ,キャ
ピラリーバリアー型覆土の下層にある産業廃棄物等への雨水の浸入及びこ
れによる浸出水の発生を防止することを目指す上記計画の有効性を覆すに
足りる証拠はないから,相応の有効性を有するものと考えられる。
(2)争点4イ(被告の維持管理計画が十分か)について
ア前記第2の1(7)のとおり,廃掃法上,産業廃棄物最終処分場の設置
許可を受けた被告は県知事による使用前検査を受けることになっている。
また,前記第2の1(3)サ(ア)のとおり,本件処分場の設置許可の
条件として,遮水工の施工について,粘性土ライナー,漏水検知システム,
二重シート,不織布又は保護土層の5層構造の各層の施工ごとに県の確認
検査を受けることになっており,産業廃棄物の埋立てに当たっても,覆土
厚及び施工高について,県の確認検査を受けること等が定められている。
以上の事実にかんがみると,被告は,本件処分場を設置許可申請の計画
どおり適正に施工しない限り,操業を開始することができないという規制
を受けているといえる。
イ証拠及び弁論の全趣旨によれば,丁1株式会社は,被告に対し,本件処
分場設置許可の事業の範囲に関し,被告の増資株式の一部を引き受けて工
事請負業者として参加し,適正な運転維持管理体制の確立に協力する旨確
約しており,丁1株式会社と訴外丁2株式会社の共同企業体は,本件処分
場の第1工区の建設工事について,設計許認可,設計監理業務及び建設工
事についての県による使用前検査合格までの業務を完成することを保証し
たこと,本件処分場の維持及び運転管理は,最終処分場技術管理者の資格
を有する技術者を長とした組織で行い,運営管理の主たる業務である技術
関連業務は,すべて本件処分場の設計及び施工を担当している丁1株式会
社へ業務委託する予定であることが認められる。
また,前記(1)ア(ア)a(k)及び(l)のとおり,本件処分場に
おいては,埋立事業に関する運営管理体制を採る計画であること等が認め
られ,計画どおりに実行される限りにおいて遮水工を物理的又は化学的に
損傷する可能性のある産業廃棄物が持ち込まれる可能性は低いといえる。
ウ廃掃法8条の4,15条の2の3の規定により,生活環境の保全上利害
を有する者(付近住民)に対する,搬入産業廃棄物の種類,量,浸出水水
質試験結果及び地下水水質試験結果等の維持管理情報の開示制度が制定さ
れているところ,前記第2の1(3)サ(ク)のとおり,本件処分場につ
いては,浸出水,処理水,地下水の水質を常時観測し,その結果を常時公
開できるようにすることが設置許可の条件となっているから,遮水工及び
水処理システムの状況を第三者が監視する体制も整備されるということが
できる。
エ以上において検討した結果によれば,本件処分場については,被告が示
す計画に従った場合には,処分場施設の適切な建設,施工が実践され,施
設の適切な維持管理及び埋立事業の適切な運営管理が行われる予定である
ことが認められる。
そこで,被告がこのような計画を真に実行できるのか否かを検討する必
要がある。
(3)争点4ウ(被告が適切な維持管理を行う経済的基盤・属性を有してい
るか)について
ア各項中に掲記した各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認め
ることができる。
(ア)千葉県を含めた首都圏では,産業廃棄物の排出量に比して最終処
分場が不足しており,産業廃棄物の減量化や再資源化の促進が図られて
も,今後も管理型最終処分場の需要がなくなることはないと見込まれる。
(イ)千葉県における管理型処分場の廃棄物処理料金は,平成13年1
0月から11月当時において1立方メートル当たり2万ないし3万50
00円(中央値2万7500円)である。
(ウ)本件予定地には別紙被担保債権一覧表記載の担保が設定され,同
表「18.8.31残高」欄記載の被担保債務が少なくとも存在してお
り,被告は,営業許可を取得するために融資を受ける段階において,被
告自身を債務者としていない債権を担保する抵当権等についてもその登
記を抹消するため費用を支払う必要がある(このことは被告自身も認め
ている。)。被告は現在において収益事業は行っておらず,また,上記
弁済に必要な積極財産を有していない。
(エ)被告は,本件処分場における事業遂行過程において,土木工事保
険及び請負賠償責任保険のほか,天災等不稼動保険(年間保険料200
0万円),営業開始後処分場閉鎖までの間の雨による有害物質の漏出や
有害物質汚染による実害発生に対する補償,汚染を浄化するための費用
や汚染防止の補修費用について,補償額5億円を限度とする環境保険(
埋立完了後は30年間を想定。年間保険料は埋立期間中は1200万円,
埋立完了後は300万円から100万円に漸減する見込みである。)等
に加入して事業資金を保全するとともに,埋立完了後処分場閉鎖までの
間の維持管理資金として8億4000万円を事前に一括積立てし,さら
に,平成3年度税制改正により創設された租税優遇措置のある特定災害
防止準備金制度を利用して,10年間の埋立期間中に年間3000万円
宛総額3億円を事業準備金名目で積み立てることによって,上記保険と
合わせて危険防止,環境汚染防止のための原資とすることを計画してい
る。
(オ)被告は,次の計算により,営業開始当初に105億2778万6
000円を準備することにより,事業収支のバランスがとれるものと計
画している。
a被告は,本件処分場における予測総売上額について,次のとおり計
画している。すなわち,本件処分場の処理容量は69万3000立方
メートルであり,このうち千葉県内に不法に投棄された廃棄物を無償
で受け入れる予定量が5万5520立方メートル(5年間)であるこ
とから,有償での受入廃棄物量は63万7480立方メートルである
とし,廃棄物処理料金を1立方メートル当たりの処理料金中央値2万
7500円に基づき175億3070万円と算定している(ただしキ
ャッシュフロー上は,年々1パーセントの処理料金の上昇を見込んで
いることから,10年間で181億9255万円強となるとしてい
る。)。
b被告は,本件処分場における予測支出額について,次のとおり計画
している。すなわち,本件処分場立ち上げに必要な費用(操業開始
前)として,土地代39億5916万3000円(担保抹消費用及び
丙2に対する借受分11億6000万円の合計),建中金利10億1
559万9000円,建設費45億円,本件処分場閉鎖後の維持管理
費用の保全のための事前積立金8億4000万円並びに営業準備費及
び予備費2億1302万4000円を計上しており,また,操業開始
後に必要な費用として第2工区埋立地の工事費6億円及びランニング
コスト年間4億2100万円(各種保険料等を含むもの。ただし,年
1パーセントのインフレを考慮して計算している。)を計上している。
(カ)株式会社丙1は,平成9年6月10日,丙3株式会社に対し,本
件予定地に含まれる用地取得の取りまとめを委託した。丙3株式会社は,
平成10年3月31日までに上記用地の所有権の移転や引渡しができる
状態にするなどの任務を行い,これを終了した際には株式会社丙1が1
1億円を丙3株式会社等に土地売買代金として支払う旨を約した。
(キ)被告は,平成13年3月1日付けで本件処分場の設置許可を得た
ことから,同年4月2日,丙3株式会社との間で,取りまとめ費用とし
て約定した11億円から取りまとめ用地を一部返還したことによる返還
代金を差し引いた3億4108万5890円を本件処分場の営業開始後
2か月以内に一括弁済する旨の合意をした。
(ク)被告は,平成13年10月18日付けで金融機関から融資内諾証
明書の交付を受けており,上記証明書には,融資金額50億円(融資限
度額),年利4パーセント,本件予定地すべてに第1順位の抵当権設定
ができることが融資条件であることなどが記載されている。また,上記
金融機関との同年11月8日付けの合意書には,融資実行時点で金利を
年4パーセントと定めると記載されている。
(ケ)原告らのうちの一部の者は,被告がかつて本件処分場の事業資金
借入れのために融資交渉をしていた金融機関(丁3銀行,丁4銀行,丁
5銀行,丁6銀行)を訪れ,被告への融資については慎重に対応してほ
しい旨述べた。
(コ)被告の平成14年2月時点の決算報告書には,訴外株式会社丙4
に対する18億5000万円の債務(平成13年8月13日に設定され
た抵当権は平成14年4月25日,訴外丙5に移転した。)や訴外丙6
に対する3億円の債務(不動産登記簿上,平成13年5月22日の貸付
けとなっている。)が記載されていない。
(サ)本件予定地上に設定された抵当権設定登記に関係する者(債権者,
債務者及び抵当権設定者)中,債権者訴外丙7株式会社,債権者訴外株
式会社丙8,債権者株式会社丙4,債務者訴外丙9株式会社及び債務者
訴外株式会社丙10は,いずれも平成15年3月時点又は過去において,
登記簿上の本店所在地を千葉市e区fg−h−iにおいて同じくしてい
る(丙3株式会社の旧本店所在地でもある。)。また,債務者訴外株式
会社丙11,債権者訴外丙12株式会社,債務者・抵当権設定者訴外株
式会社丙13は,同月時点で登記簿上その存在が認められなかった。
被告の本店所在地と債権者訴外株式会社丙14の本店所在地は,共に
千葉市e区jk−l−mであり,被告の旧本店所在地と債務者・抵当権
設定者株式会社丙10の本店所在地は同じ千葉市e区no−p−qであ
る。
債権者訴外株式会社丙15の本店所在地と丙3株式会社の本店所在地
は共に東京都r区st−u−vである。
(シ)本件予定地上に設定された抵当権設定登記に関係する会社は,次
のとおり,役員の多くを共通にし,また,個人の債権者又は債務者を役
員としている。
訴外丙16は,丙7株式会社の代表取締役及び丙9株式会社の取締役
である。
訴外丙17は,株式会社丙14の代表取締役及び債務者訴外有限会社
丙18の代表取締役である。
債務者訴外丙19は,株式会社丙14の取締役,訴外株式会社丙20
の代表取締役,債権者訴外丙21株式会社の監査役及び有限会社丙18
の監査役である。
訴外丙22は,株式会社丙14の取締役,丙9株式会社の監査役,株
式会社丙20の取締役及び有限会社丙18の取締役である。
訴外丙23は,丙3株式会社の取締役及び訴外株式会社丙24の代表
取締役である。
債権者訴外丙25は,丙9株式会社の取締役である。また,かつて債
務者訴外株式会社丙26の代表取締役であり,被告の取締役であった。
債権者訴外丙27は,株式会社丙20の監査役である。
債務者訴外丙28は,訴外有限会社丙29の取締役であり,被告の唯
一の株主であり,かつて被告の取締役であった。
丙3株式会社の代表取締役丙30はかつて被告の取締役であった。
(ス)被告は,次のとおり,事業計画を変更した。
すなわち,平成12年11月当時の事業計画においては,総事業費が
70億2750万円とされ,土地代として15億円,建設費として50
億円が計上された。
前記第2の1(4)ウの仮処分命令申立事件係属中に提出された事業
計画においては,総事業費が99億円とされ,土地代として47億53
25万円(主に担保抹消予備費32億3438万7000円が加えられ
た。),建設費として45億円が計上された。
平成17年4月に提出された事業計画においては,総事業費が100
億8640万7000円とされ,土地代として39億5916万300
0円(担保抹消予備費が20億7500万円と計上された。),建築費
として45億円が計上され,予備費が9302万4000円とされ,完
了後管理費積立前払費用として8億4000万円が付加された。
平成18年10月に提出された事業計画においては,建中金利及び開
発費が増加したため,総事業費が105億2778万6000円とされ
た。
(セ)別紙被担保債権一覧表記載の債権のうち,株式会社丙14の各債
権,株式会社丙15の株式会社丙20に対する債権,有限会社丙29の
債権を除く債権には,不動産登記簿上,年15パーセントの割合による
利息の約定が付されており,株式会社丙14の各債権には年12パーセ
ント,株式会社丙15の上記債権には年12パーセント,有限会社丙2
9の債権には年6パーセントの利息の約定が付されている。
(ソ)株式会社丙1の代表取締役訴外丙31は,平成10年5月27日,
当時株式会社丙1の監査役であった訴外丙32弁護士,顧問であった丙
2,顧問税理士であった丙19及び取締役であった訴外丙33を同行し
て海上町役場を訪れた。丙33は,同和団体を称する組織の千葉県連合
本部会長の肩書を付した名刺を持参し,海上町役場の助役に対し,県議
会議員が被告に土地を提供した本件予定地周辺の住民について批判的な
発言をしたとされることについて明らかにしなければ全国の同和の団体
すべてが県に押し寄せて大行動を起こす旨述べ,大声を出した。
(タ)今後の工事はまず丁1株式会社が立て替えて20億円分に相当す
る工事を行うことになっているが,仮処分命令申立後は裁判の推移を見
ている状況である。
イ上記ア及び前記第2の1の認定事実に基づき,検討する。
(ア)被告は,営業開始当初に105億2778万6000円を準備す
ることにより本件処分場の事業収支のバランスはとれており十分に事業
として成り立つところ,融資予定先から120億円を限度とする融資の
了解を得ており,形式的要件である営業許可又は許可に必要な条件が整
ったときには操業開始時に必要な額の融資が実行される予定である,事
業計画の変遷についてはよりよい事業計画としたことによるものである
旨主張する(第2の2(6)イ(イ))。
(イ)上記ア(ア)のとおり,本件処分場については,安定した売上高
(収入)が見込まれる社会事情があり,また,同(エ)のとおり,被告
は,本件処分場における事業の遂行過程において,各種保険に加入して
事業資金を保全するとともに,埋立完了後処分場閉鎖までの間の維持管
理資金を事前に一括積立てし,さらに,特定災害防止準備金制度を利用
して総額3億円を事業準備金名目で積み立てることによって,上記保険
と合わせて危険防止,環境汚染防止のための原資とすることを計画して
いるところ,これを前提として,上記総収入額を基礎に被告が作成した
事業計画書及びキャッシュフローの内容によれば,10年で埋立てを完
了した時点において,負債を全部返済した上で4億6762万4000
円が残るほか,災害防止準備金としての積立金3億円及び維持管理資金
8億4000万円が残る計画となっている。
しかしながら,上記計画がそのとおり実行されるかどうかは,本件処
分場立ち上げの時点(本件処分場操業前)において計画どおり資金が存
在していること,上記維持管理資金が積み立てられること,維持管理費
用が計画どおりの数値で足りること等の点をすべて満足させなければな
らない。
そこで,次に,被告がこのような計画を実施する意思と能力があるの
か,検討する。
(ウ)借入計画について
原告らは,被告が融資を受ける見込みが立っているかどうかについて,
疑問を呈しているところ,被告は,融資の確実性を示す証拠を何ら提出
していない。もっとも,上記ア(ケ)のとおり,被告が融資交渉をして
いた金融機関に原告らの一部の者が働きかけた経緯にかんがみると,被
告が上記証拠を提出しないことのみをもって直ちに融資の見込みがない
と認定するべきではないが,結果として融資を受ける見込みに関しては
不明な点が多いことは否定できない。そして,被告代表者丙34は,被
告自身は巨額の融資を受ける信用等を有していないことを自認し,また,
借入先は銀行以外の貸金を業とする会社である旨供述しているから,被
告が融資を受けられるとしても通常の金融機関よりもかなり高額の利息
を負担することになるはずである。
(エ)事業計画について
a上記ア(ウ)及び(ス)のとおり,被告が本件処分場の営業許可を
取得するためには,本件予定地に設定された抵当権の被担保債務につ
いては被告自身が債務者となっていなくとも融資を受ける段階ですべ
て弁済する必要があり(このことは被告自身も認めている。),被告
はこれら担保権抹消費用の額が変動したとして事業計画の土地代部分
を変遷させたのであるが,上記被担保債務の額が不動産登記簿上の額
から弁済により減額されたこと,借入利息が年利4パーセントである
ことを示すものとして被告が提出した証拠は,次のとおり直ちに信用
することができない。
すなわち,上記各書面は,本件訴訟提起前から関係当事者間で作成
されていた書面ではなく,その作成時期(平成14年12月6日から
平成15年3月6日にかけて作成された。)及び作成経緯からして飽
くまで原告らの主張に対し反駁する目的のもとに作成された書面であ
る可能性が高く,被告が本件処分場事業を進めることを第一義として,
事実と異なる内容の書面を作成した可能性が否定できないというべき
である。なぜなら,これらの書面は原告らによる前記仮処分命令申立
事件の提起後,本件訴訟の係属中に本件予定地の担保設定状況につい
て原告らが指摘したことを踏まえて提出されたものであり,上記抵当
権に関係している者らは本件処分場が操業することが可能になれば担
保抹消の見返りに被告から多額の金員を受け取ることができるという
重大な利害関係を有しており,また,「債務承認書」と題する証拠の
うちには,当事者を異にする書面であっても体裁が不自然に同一であ
るものも含まれているからである。しかも,上記各書面の作成者のう
ち,株式会社丙11,株式会社丙13は,平成15年3月時点で登記
簿上その存在が認められなかったものである。さらに,上記「債務承
認書」には平成15年12月20日までに債務を完済する旨が記載さ
れているものがあるが,現在においても上記債務について完済された
事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
そうすると,他に,別紙被担保債権一覧表記載の債務者が具体的に
債務の弁済をしたことあるいはそれが可能な程度の資力を有していた
ことを認めるに足りる確たる証拠もない本件においては,同表「18
年8月31日残高」欄記載の金額は信用できず,「設定金額」欄記載
の金額か又はそれに近い金額が不動産登記簿に記載された割合の利息
(年6パーセントないし15パーセント)とともに残っているものと
扱わざるを得ない。
別紙被担保債権一覧表において被告の負担する利息債務額は合計5
億3438万円強とされているが,上記のとおり,別紙被担保債権一
覧表「設定金額」欄記載の金額に平成14年6月1日から平成19年
12月31日までの期間の利率年15パーセント(ただし株式会社丙
14の各債権,株式会社丙15の株式会社丙20に対する債権につい
ては年12パーセント,有限会社丙29の債権については年6パーセ
ント)として算定した利息は合計39億9091万円強となり,この
債務増額分34億5653万円は上記(イ)で被告の計画により残る
とされる16億0762万4000円(4億6762万4000円,
災害防止準備金積立金3億円及び維持管理資金8億4000万円の合
計額)をはるかに上回る金額である(なお,「設定金額」欄記載の金
額に設定日から平成19年12月31日までの期間の上記利率で算定
した利息は更に巨額になる。)
bさらに,被告は,丙2に対して11億6000万円の債務を負って
いる(当事者間に争いがない。)が,丙2は,上記金員の出所につい
て,実家の信用で約3名くらいから借りたとあいまいな供述をするほ
かは,その内容について供述しようとしないが,前記のとおり原告ら
の一部がかつて被告と融資交渉をしていた金融機関に働きかけをした
ことを考慮しても,丙2の上記供述態度はあまりに不自然であり,丙
2からの上記債務に関しては不明朗な点があるといわざるを得ない。
c前記(1)ア(イ)d(b)のとおり,遮水シートの補修費用につ
いて,1ha当たり8ないし10個の孔穴が存在するとの研究結果(
同(ア)a(c))やこれまで遮水シートが破損した実例が少なから
ずあること(同(ア)a(p))に照らせば,被告の計画どおり1年
に1,2回の補修で済むのか疑問があり(計算上は5000平方メー
トルの埋立区画では4ないし5個の孔穴,本件処分場全体の埋立面積
4万7854平方メートルでは約40ないし50個の孔穴が存在する
ことになる。),定期的に露出部の遮水シートの抜取検査を実施して
劣化状況を把握し,必要に応じて貼り直すことも考慮しておく必要が
あると指摘されていること(同(ア)a(b))や,遮水シートが破
損した他の処分場の事例(同(ア)a(p)。総額55億円の改修を
見込む千葉県八千代市の事例は別としても,愛知県津島市の事例では
1回の補修に750万円を要した。)を考慮すると,1年につき約5
00万ないし800万円の補修費を見込むだけで足りるのかについて
もやはり大きな疑問があること,また,漏水検知システムが変更した
にもかかわらず,その価格差が全く事業計画に現れていないことから
すると,総事業費額が事業計画に掲げられている数値にとどまるとは
考え難い。
d一方,事業計画の収入面を見ると,被告は,1立方メートル当たり
の単価につき年1パーセントの上昇を見込んで10年間合計で181
億9255万円強の収入があるとしているのであるが,果たして今後
長期にわたりそのような安定した上昇が見込まれるかについては,確
実性に乏しいといわざるを得ないところである。そうすると,これを
除いただけで合計額は約175億3070万円となるから,6億61
85万円強が減少する。もっとも,被告は,支出のうちいわゆるラン
ニングコストについても1パーセントの上昇を前提としているので,
これを除外した場合の支出減約1億9459万円(約44億0459
万円−4億2100万円×10年)を勘案しても差引き4億6726
万円が減少することになり,結局,被告の予定する操業開始から10
年後の利益とされる4億6762万円がほぼ消失する結果となる。
e以上によれば,被告の事業計画の実効性には重大な疑問があるとい
わざるを得ない。
(オ)被告の属性について
a上記ア(コ)の被告の決算報告書に記載されていない債務について,
被告は,丙3株式会社が勝手に被告を債務者とする抵当権設定登記を
行ったものであると主張している。
しかし,株式会社丙4に対する債務については,被告から用地取得
の取りまとめを委託された会社である丙3株式会社が委託者である被
告に無断で被告に不利なことをするとは考え難く(証人丙2は丙3株
式会社による抵当権設定については被告が了承している旨の供述もし
ている。),18億5000万円もの債務について登記簿上自己が債
務者とされていることを知った後に放置していた被告の対応にかんが
みても,上記債務を担保するため,真実抵当権が存在していたものと
考えるのが相当である。
また,被告は,丙6に対する債務については,決算報告書の作成さ
れた平成14年2月以降に真実は借りたものであるが,他の債権者と
の関係から登記簿上その前から借りているものとして設定した旨主張
するが,これを認めるに足りる的確な証拠はなく,登記簿上の平成1
3年5月に借り受けたものと認めるのが相当である。そうすると,被
告は,当時負っていた債務について触れることなく虚偽の決算報告書
を作成したものというべきである。仮に,被告の上記主張のとおりの
経緯があったとすれば,被告は,真実と異なる抵当権設定登記をする
ことを躊躇しない者ということになる。
本件予定地に設定された多数の抵当権の債権者又は債務者となって
いる会社の役員の多くが共通していること,そのうちの丙28は被告
の唯一の株主にしてかつての代表取締役であり,丙25及び丙27は
被告のかつての取締役であることは上記ア(シ)のとおりであるが,
これらの者により被告の資産である本件予定地に多数の抵当権が設定
されていき,被告は事実上その全債務を負担しなければ登記抹消がで
きない状態になっているものである。
b上記ア(ソ)のとおり,被告の前身である株式会社丙1は,その取
締役であり同和団体を称する組織に所属する丙33を海上町役場に同
行して,丙33が全国の同和の団体すべてが県に押し寄せて大行動を
起こす旨述べて大声を出すにまかせ,その要求を認めさせようとした
ものである。被告はその前代表者である丙2に対して11億6000
万円の債務を負っているが,丙2は,自らが提供した金員は本件処分
場の建設や今後の運営の資金となることなく,被告が上記丙33らと
の関係を絶つために使用された旨供述している。
(カ)以上の検討結果によれば,被告には,別紙被担保債権一覧表の「
設定金額」欄の「合計」欄を参照すると,本件処分場を立ち上げるに当
たって債務者に代わって弁済する必要のあるものも含めると,本件処分
場の土地を取得するにつき,被担保債権元本だけでも約50億円(上記
(エ)aで説示のとおりの利息39億9091万円を含めると合計約8
9億9091万円)の支払義務を負っていることになるところ,被告の
事業計画においては,前記(3)ア(オ)bのとおり,土地代としては
約39億6000万円が計上されているにとどまり,このような巨額の
支払をすることは念頭に置かれていない。そして,上記被担保債権の債
権者及び債務者中に実在が認められない会社があり(したがって,真の
債権者又は債務者が不明である。),これらの会社を含む債権者又は債
務者である株式会社並びに被告の取締役(代表取締役を含む。)に他の
債権者,債務者が就任している(かつて就任していた)こと,被告の前
代表取締役であり被告の債権者である丙2自身の負っている債務の内容
が不明朗であること,その他被告の属性にかんがみれば,たとえ営業許
可を受けて融資が実行されたとしても,まずこれらの不明朗な債務の支
払に充てられることになる可能性が否定できない。また,被告代表者丙
34は,被告が120億円を超えて融資を受けることはないと言明して
おり,被告が高額の利息支払を負担して金融機関以外から借入れをせざ
るを得ないことは上記(ウ)のとおりである。
そうすると,元本のみによっても約10億6000万円の資金不足が
生じるわけであるから,上記ア(エ)のとおり,被告が埋立完了後処分
場閉鎖までの間の維持管理費8億4000万円を営業許可取得後本件処
分場への産業廃棄物受入開始までに信用力及び拘束力を有する機関に一
括して積み立てることを予定しているとしても,これについての裏付け
が全くないことも勘案すれば,上記維持管理費を予定どおり積み立てる
ことにつきたやすく首肯できるものではない。仮に,当初の借入計画と
は別に必要資金を追加して調達しようとすれば,より高額の利息支払を
迫られることになる蓋然性が高いが,このことは,必然的に被告の運営
を圧迫することになるから,被告の本件処理場に関する維持管理能力を
更に減殺する要素となるというべきである。
したがって,本件処分場における被告の維持管理計画が資金面におい
て覆されることになるから,被告において,必要な維持管理期間を通じ
て安定的かつ継続的に本件処分場を適切に維持管理し得ると認めること
はできない。
(キ)このように被告の本件処分場維持管理能力に資金面から大きな疑
問があることになれば,前記のとおり,遮水シートが破損した場合,そ
の補修が不完全になること,地下水集排水管が機能不十分となった場合
に地下水が接触することにより粘性土ライナーが変化すること等から遮
水シートが破損し,本件処分場から浸出水が漏出する蓋然性があると推
定することができる。すなわち,本件処分場埋立完了後及び閉鎖後の廃
棄物の安全性について論じるまでもなく,本件処分場に搬入された有害
物質が処分場外に流出することはないとの被告の立証がされていないと
いうべきである。
そこで,次に,このような漏出した浸出水が原告らのもとに到達する
かを検討する。
6争点4オ(原告らのもとに有害物質が到達するか)について
(1)各項中に掲記した各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認
めることができる。
ア飯岡台地は,利根川と屏風ヶ浦に囲まれた広大な台地であるところ,そ
の西側にAグループの原告らの多くが居住するa地区がある。a地区の地
下水は,本件処分場方向の台地中核部から供給されている。
イ本件予定地付近の地下水位は標高約42メートルであり,ほとんど天候
に左右されない。a地区と本件予定地との間に標高約46メートルの宙水
がある。a地区の西側の崖からは標高約35メートルの位置に豊富な湧水
が見られる。
ウa地区の世帯数は115所帯であり,少なくとも半数は生活用水・飲料
水を地下水に頼っている。
エa地区の南の標高約25メートルの場所に位置する龍福寺には,豊富な
水量の滝が流れている。
オa地区の西南の崖に位置する水神社には,昔から豊富な水が湧き出てい
る。
カ被告は,平成16年10月,外周遮水壁を貫入する深さを約40メート
ル付近とした計画を変更し,約36.5メートルまでにしたこと,また,
遮水効果及び構造物の長期的耐久性への期待並びに打設に際しての騒音振
動問題への配慮から,鋼矢板工法からSMW工法に変更したことを明らか
にした。
(2)上記(1)及び前記第2の1の認定事実に基づき,検討する。
ア地下水の状況について
被告は,本件処分場西側450メートル地点及び300メートル地点に
おいて行ったボーリング調査の資料をもとに,後者の地点における水位が
前者の地点における水位より低いことや宙水が存在すること等に基づき,
a地区と本件予定地の間には地下水の分水嶺が存在する旨主張する(第2
の2(8)イ(ア)b)。
しかし,被告が行った地盤調査においては,台地部から谷部に向けて緩
やかな動水勾配が認められるとするだけで,a地区の井戸水やその西側湧
水に関する調査を行っておらず,そこにおいては,被告の主張に沿うよう
な土丹層の存在及び形状は全く認められない。かえって,飯岡台地全般が
同一地層である前提に立って台地部・谷部合わせて一連の帯水層を形成し
ていると記載されていると考えられる。これは,飯岡台地が上記(1)ア
のとおり大きな広がりをもつ台地であり,その層相が同一であり,生成時
代・堆積環境が同一であり,ほぼ水平に堆積していて露頭の分布が同一地
層として矛盾なく説明できる(前記5(1)ア(ア)a(o))ことから
も裏付けられる。
さらに,被告の主張を前提とした場合,a地区に湧く地下水の供給源が
分水嶺以西の約300ないし400メートル程度の狭い帯状地域に降った
雨に限定されることになるところ,上記(1)ウないしオのとおりのa地
区及びその周辺の豊富な水量の井戸水及び崖端に見られる湧水の存在に照
らせば,被告が主張するような分水嶺があると認めることはできない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができず,本件処分場付
近の地下水とa地区の地下水とは一体,同一のものというべきであるとこ
ろ,本件処分場はこの豊富な量の地下水を蓄えた台地の谷の部分に建設,
操業されようとしているものである。
イ汚染経路について
上記アのとおり,本件処分場付近の地下水とa地区の地下水は一体のも
のであると認められ,地下水は多様につながっているものであることにか
んがみると,本件処分場付近が浸出水によって汚染された場合には,その
汚染は広域に及ぶものとなる。
この点,本件処分場方向へ地下水集排水管によって地下水位を下げるこ
とが計画されているが,前記5(1)ア(ア)b(g)のとおり,被告は
地下水集排水管のフィルター材の目詰まりの可能性がないことについて明
らかにしていないことからそれが十分に機能するのか疑問であり,また,
被告は,上記(1)カの外周遮水壁の貫入深度の変更に関して,外周部の
地下水の流入防止にも一定の効果を期待して,追加ボーリング調査により
地下水が上部を流れている不透水層が標高36.5メートル付近に連続し
て存在しているとの予測を立て,新たにこの位置まで連続壁を貫入させる
ことを実施したと主張していたものの,原告らからその実効性について疑
問が呈されると,外周遮水壁の設置目的は飽くまで処分場外周からの雨水
の流入を防止するためであり,地下水を減少させるという効果は飽くまで
も二次的なものであると主張するに至ったことにかんがみると,地下水が
常に粘性土ライナーに接触しないといえるのか疑問を抱かざるを得ない。
そうすると,本件処分場の底面又は側面から有害物質が漏出した場合に
は,有害物質が拡散して大部分の原告らが居住するa地区へ流入するとい
うべきである。
他方,地下水位が上昇して宙水まで及ぶかどうか,また,a地区以外の
地区にまで流入するかについては,これを認めるに足りる的確な証拠はな
いから,これらを前提とする汚染経路の存在を認めることはできない。
したがって,Aグループの原告らのうち,a地区に居住し,かつ,地下
水を飲用している者(ただし,宙水を井戸水源とする者を除く。)につい
ては,本件処分場から有害物質が流出した場合には,これが到達し,有害
物質が吸収される具体的可能性があるというべきである。
そして,本件処分場は,1日当たり10トントラック延べ48台が運び
込む容量総合計74万2838立方メートルの有害物質を含んだ廃棄物を
埋め立てるのであるから,上記のように本件処分場から漏出する水を摂取
する者の健康に悪影響を及ぼすものというべきである。
そこで,上記原告らについて,被害発生の可能性を検討することとする。
7争点4カ(原告らの被害発生の可能性)について
(1)ア証拠によれば,Aグループの原告らのうち,別紙原告目録番号4,
6,8ないし11,18,19,24,26,28ないし30,35,4
0ないし43,45ないし48,50,51,57の原告らは,a地区に
居住し,かつ,地下水を飲用していることが認められる。もっとも,証拠
及び弁論の全趣旨によれば,このうち別紙原告目録番号8の原告甲1及び
同目録番号24の原告甲2は宙水を井戸水源としており,その他の者は地
下水脈を井戸水源としていることが認められる。
上記地下水脈を井戸水源としている原告らについては,本件処分場から
有害物質が漏出した場合,飲用した地下水が汚染されることが認められる
から,このような有害物質に汚染された地下水を飲用した場合にその生命
又は身体に重大な影響を及ぼすことは明らかである。
そして,人は,生存していくために飲用水の確保が不可欠であり,かつ,
確保した水が有害物質を含有するようなものであれば,たとえ有害物質の
含有量が微量であっても,これを長期間にわたって飲用し続けることによ
って体内に蓄積され,健康を害し,生命・身体の完全を害することは明白
であるから,人格権としての身体権の一環として,質量ともに生存又は健
康を損なうことのない水を確保する権利があると解される。そして,この
ような権利が侵害される蓋然性がある場合には,人の生命・身体に認めら
れる価値の高さから,侵害の原因となる行為に公共性等が認められるとし
ても,上記行為の差止めを求められるというべきである。
イこの点,被告は,a地区の地下水は既に飲料には適さない状態にまで汚
染されており,また,a地区には既に水道が引かれており,多くの住民が
水道を利用している状況にあって,水道への切替えが容易なのであるから,
地下水を利用する必要性はないし,利用すべきではない旨主張するところ,
a地区の住民において水道水を利用している者が多いこと,原告らの一部
が利用する井戸の水質調査において,硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素が基準
値を上回っている旨の結果が出ていることなど,これに沿うような事情も
ある。
しかし,上記水質調査は上記原告らの井戸のすべてにおいて実施したわ
けではない点において不十分であり(井戸の利用者に健康障害が発生した
ということを認めるに足りる証拠はない。),また,上記6(1)ウのと
おり,a地区の少なくとも半数はいまだに井戸水を利用していること,原
告らは水道水よりも井戸水を利用することを望み,しかも,水道水を利用
するには300万円程度の費用がかかること,硝酸性窒素及び亜硝酸性窒
素については地下水の水質保全のために窒素肥料の使用量や溶け出す量を
減らす栽培法を作り上げる対処方法などがあること等にかんがみると,上
記原告らが,人体に各種中毒症状を引き起こす有害物質(第2の1(
6))の混入しない井戸水を飲用水として利用する利益を保護する必要が
あるというべきである。
したがって,上記原告らは,被告に対し,本件処分場の建設等の差止め
を求めることができる。
(2)他方,原告らは,平穏生活権の一種としての浄水享受権が保障される
べきであるとして,上記利益も侵害されると主張する(第2の2(9)ア(
ア)b)。
しかし,水が科学的に飲用・生活用水として適当である場合には,これを
飲用・生活用水に供することにつき不安を感ずる者があるとしても,このよ
うな不安が生ずるにつき客観的・科学的根拠があるとはいえないから,この
ような主観的な不安を直ちに法的保護の対象とすることはできない。
また,水が科学的に飲用・生活用水として適当であることが不明であるに
すぎない場合にも,これを飲用・生活用水に供することにつき不安を感ずる
者があるとしても,有害物質が不特定である上に,当該水が有害か否かも不
明なままでは,抽象的な不安感を超える具体的な利益が侵害されたとはいい
難い。
したがって,飲用水に有害物質が含まれておらず,飲用・生活用水に適し
た水である場合や,さらには,具体的に人体に有害な物質を特定せず抽象的
な人体への危険性を主張するにすぎない場合において,飲料水に使用するこ
とについての主観的な不安だけを根拠として,そのような水を排出する施設
の建設等の差止めを求めることができると解することはできない。
(3)また,原告らは,Bグループの原告らについて,農業用水として利用
している地下水が汚染されることによって財産権や生命・身体を害される危
険性が高い旨主張するが,汚染された地下水が農作物に取り込まれて生育し
た農作物が有害になることの相当因果関係及び風評被害が具体的蓋然性をも
って生じることを認めるに足りる的確な証拠はないから,上記主張は,採用
することができない。
8結論
以上のとおりであり,産業廃棄物処分場を建設し,操業するに当たっては,
周辺環境に十分配慮しなければならないところ,本件処分場は地下水の豊富な
地域に建設され,操業されようとしており,立地の選定自体に慎重さを欠いた
面があるといわざるを得ない。そして,そのような地域に立地して産業廃棄物
処分場を建設する以上,その操業により有害物質が地下水に浸透することがな
いように万全の措置が講じられなければならない(行政による設置許可を受け
たということは設置のための一定の基準を満たしたということにすぎない。平
成12年法律第105号による改正後の廃掃法15条の2第1項3号に基づき
新設された環境省令12条の2の3第2号には申請者の能力について「産業廃
棄物処理施設の設置及び維持管理を的確にかつ継続して行うに足りる経理的基
礎を有すること」と規定されている。)が,そのためには経済的な裏付けが必
要であるところ,営利を目的とする私企業である被告には本件処分場の操業に
つき適切な維持管理を継続するだけの経済的な基盤を認めることができない。
被告代表者丙34は,今後営業許可に至るまで段階的に検査を受けていかなけ
ればならず,そのいずれかの段階で被告が必要な基準を満たしていなければ許
可が与えられないのであるから,このような手続により安全性は担保されてい
る旨供述するが,前記認定の諸事情,とりわけ侵害されるおそれのある原告ら
の利益が身体的人格権に基づく重大なものであり,被害の回復が困難なもので
あることを考慮すると,事後的な行政的な手続のみによって,原告らに対する
違法な侵害のおそれのある行為を十分予防することはできない。
9よって,人格権に基づき本件処分場の建設,使用及び操業の差止めを求める
原告甲3,同甲4,同甲5,同甲6,同甲7,同甲8,同甲9,同甲10,同
甲11,同甲12,同甲13,同甲14,同甲15,同甲16,同甲17,同
甲18,同甲19,同甲20,同甲21,同甲22,同甲23,同甲24及び
同甲25(別紙原告目録番号4,6,9ないし11,18,19,26,29
ないし31,35,40ないし43,45ないし48,50,51,57の原
告ら)の請求は理由があるから,これをいずれも認容し,人格権又は環境権に
基づき本件処分場の建設,使用及び操業の差止めを求めるその余の原告らの請
求は理由がないから,これをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決
する。
千葉地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官長谷川誠
裁判官工藤涼二
裁判官泉寿恵
(別紙)
原告目録(省略)
ただし,原告番号1から7は「A,B,E」グループ,同8から14は「A,C,E」
グループ,同15から57は「A,E」グループ,同58から61は「B,E」グループ,
同62は「C,E」グループ,同63から74は「D,E」グループ,同75から100
は「E」グループである。
設置場所目録(省略)
処分場断面概要図(省略)
計画平面図(省略)
地下水集排水管計画図(省略)
被担保債権一覧表(省略)

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