弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
特許庁が、昭和四十三年九月二十一日、同庁昭和四二年審判第七、〇九一号事件に
ついてした審決中、本件特許明細書第四頁第十八行ないし第十九行目の「最高一八
〇℃」を「ダクト内最高一八〇℃」と訂正する旨の請求に関する部分は、取り消
す。
原告らのその余の請求は、棄却する。
訴訟費用は、これを三分し、その二を原告らの連帯負担とし、その余を被告の負担
とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
 原告ら訴訟代理人は、「特許庁が、昭和四十三年九月二十一日、同庁昭和四二年
審判第七、〇九一号事件についてした審決は、取り消す。訴訟費用は、被告の負担
とする。」との判決を求め、被告指定代理人は「原告らの請求は、棄却する。訴訟
費用は、原告らの負担とする。」との判決を求めた。
第二 請求の原因
 原告ら訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯
 原告らは、特許第二七八、七五三号「乾燥昆布の加工法」(昭和三十四年六月二
十日特許出願、昭和三十六年六月二十六日登録)の特許権者であるところ、昭和四
十二年十月六日、本件特許明細書の「発明の詳細な説明」の項中(1)「最高18
0℃」なる記載(本件特許明細書第四頁第十八行目ないし第十九行目)を「ダクト
内最高180℃」と、(2)「35℃」なる記載(本件特許明細書第四頁第十九行
目)を「60℃」と、また、(3)「まぶし含浸させ」なる記載(本件特許明細書
第五頁第四行目)を「まぶしひきつづき加熱して含浸乾燥し」とそれぞれ訂正する
ことを内容とする訂正審判を請求し、昭和四二年審判第七、〇九一号事件として審
理されたが、昭和四十三年九月二十一日、本件審判の請求は、成り立たない。」旨
の審決があり、その謄本は、同年十一月六日、原告らに粉達された。
二 本件審決理由の要点
(一) 前記訂正箇所(1)の点については、本件特許明細書第四頁第十八行目な
いし第十九行目の「最高一八〇℃最低一〇〇℃、炉内温度三五℃内外(熱風交換一
分間三回)で乾燥する」という記述からみると、炉内に熱風を間歇的に送風するこ
とが知られ、なるほど送風のためのダクトが炉に附属している点はこれを推認する
に足りる。しかし、乾燥装置と炉が同一物であるか否かは、本件特許明細書の記載
から知ることはできず、仮に炉と乾燥装置が同一であり、これに熱風送入のダクト
が附属していることが本件特許明細書から推認できるとしても、ダクトの温度は場
所により区々であるから、最高最低温度を計測場所との関連において示すのでなけ
れば、科学的に無意味であり、不明瞭である。しかして、計測場所を併記しないよ
うな非科学的な温度表示が慣行されているとは、とうてい考えられず、むしろ熱媒
体を外部より導入して炉(乾燥装置)を加熱するような場合、炉温(平均温度)の
ほか炉に関し、熱媒体の入口と出口の温度を表示することが慣行である。してみれ
ば、本訂正は仮に恣意的な釈明ではないとしても、これにより依然として不明瞭で
あることを免れないから、明瞭でない記載の釈明に該当しない。
(二) 前記訂正箇所(2)の点について、訂正拒絶理由通知書において、「三五
℃」が不適当であることは首肯できると説示したがこれは「三五℃」が普通の室温
に近く減圧を併用しないかぎり乾燥の能率が悪いと認められるからであり、調味煮
熟した昆布の低温乾燥温度として「六〇℃」が適当であると認めたものではない。
しかして、乾布の香味を温存するための低温乾燥の温度として「六〇℃」が適当で
あるという暗示は、本件特許明細書中にはなく、「三五℃」は同明細書が炉温につ
き示す唯一のものであり、「三五℃」が「六〇℃」の誤記であるとは認められな
い。仮に、その低温乾燥温度として「六〇℃」が自明であつて「三五℃」が六〇
℃」の誤記であることが、当業者にとつてなんの抵抗もなしに首肯しえられるなら
ば、かような誤記は権利解釈上何ら実害はなく、あえて訂正を要しないであろう。
訂正審判は、原則上、かような誤記の訂正はこれを認めていないのである。
(三) 前記訂正箇所(3)の点については、「含浸粉燥」が微粉末をまぶし「ひ
きつづき低温乾燥する」ことにより、微粉末を昆布の組織内に浸入させることであ
るという点を首肯させるに足る記載事実は、本件特許明細書を精査検討してもこれ
を発見することができない。すなわち、「含浸乾燥」が「低温加熱」または「低温
乾燥」との関連において説明されていないのである。したがつて、「含浸乾燥」が
本発明の新規性と進歩性とを宿す重要な技術思想であつて、「微粉末をまぶしひき
つづき低温乾燥することにより微粉末を昆布の組織内に浸入させる」というような
概念を、これに内包させることを意図するならば、明細書中で定義すべきであり、
かかる定義が存在しない本件特許明細書よりすれば、本件審判請求人ら(原告ら)
には、「含浸乾燥」に対し、特段の意味を含ませる意図がなかつたものと推断する
ことができるであろう。このような観点からすれば、唯一の実施例における前記訂
正は、とりも直さず、特許請求の範囲の項における「含浸乾燥」にも「ひきつづき
低温加熱乾燥する」という新規な技術思想を附加することに帰するものというべ
く、実質上特許請求の範囲を変更するに至るものと認められる。そして、かかる訂
正を許さないことは、特許法第百二十六条第二項が明定しているとおりである。
 以上の説示により明瞭なように、前記(1)、(2)および(3)の訂正事項
は、特許法第百二十六条第一項の各号のいずれにも該当せず、なかんずく(3)に
ついては、同条第二項に違反するものと認めざるをえない。
三 本件審決を取り消すべき事由
(一) 本件審決理由の要点(一)の点について
 本件特許明細書第四頁第十八行目ないし第十九行目の「乾燥装置を用い最高一八
〇℃、最低一〇〇℃」なる記載を「乾燥装置を用いダクト内最高一八〇℃最低一〇
〇℃」と訂正することは、明瞭でない記載の釈明に該当し、特許法第百二十六条第
一項第二項に違背しない。
(二) 本件審決理由の要点(二)の点について
 本件特許明細書における「炉内温度三五℃」との記載は、特許請求の範囲の項の
「低温にて乾燥し」の記載に対応する実施例の説明として記載されているのであ
り、本件特許発明の「低温乾燥」に関する技術的意義によりすれば、右「低温」乾
燥とは、六〇℃内外の温度を指すことは自明というべく、「三五℃」の記載は明白
な誤記である。すなわち、右「低温乾燥」は、昆布を調味液で煮詰め、密閉して蒸
し込み、さらに余分調味液を分離した後に、煉瓦積の乾燥装置を用いて「ダクト内
最高一八〇℃、最低一〇〇℃」で、加熱による人為的な乾燥を行なうものであり、
本件明細書記載の三五℃内外の温度であつては、略々常温による自然乾燥に等し
く、乾燥能率の点から乾燥塩昆布の工業生産には到低向かないものであり、したが
つて、乾燥能率の見地のみよりすれば、炉内温度はできるだけ高温の方がよいわけ
であるが、高温に過ぎれば乾燥すべき昆布中に含まれる調味料の香気が散逸し、さ
らには調味料が変質して味を甚しく劣化せしめるのみならず、昆布内部が必要な程
度に乾燥するまでに昆布の表面がかたくなり、そり返つて乾燥昆布として品質劣悪
なるものができあがることは、自明であり、結局、本件特許明細書に示された「低
温乾燥」という技術思想は、調味料を含んだ昆布を乾燥するにあたつて、昆布の香
気と品質をそこなうことなくして工業的に乾燥を行ないうる程度の低温度を意味す
ることは明らかであるから、この意味合いでの低温乾燥温度の例示として「炉内温
度六〇℃」が適当であることは、当業者のみならず、調味料を含んだ食料品の乾燥
加工に携わる者であれば、その実際の経験に基づく技術常識上容易に首肯しうると
ころである。
 以上のとおり、本件特許発明の「低温乾燥」に関する技術思想を当業者の技術常
識に照らして考えるならば、「炉内温度三五℃」なる記載が不適当であるととも
に、低温乾燥温度の例示として「炉内温度六〇℃」が適当であることが理解される
のであつて、本訂正は、誤記の訂正として、許されるべきであり、本件審決は、こ
の点において判断を誤つているものというべきである。
 また、本件審決は、低温乾燥温度について、「六〇℃が自明であつて、三五℃が
六〇℃の誤記であることが当業者にとつてなんの抵抗もなしに首肯しえられるなら
ば、かような誤記は権利解釈上何ら実害はなく、あえて訂正するを要しない」とし
ているが、
誤記の訂正として審判により訂正が認められるのは、当業者としての技術常識に照
らし、特許明細書の記載に誤記が認められる場合についてであることはいうまでも
ないのであるから、本件特許明細書に示された「低温乾燥」に関する技術思想より
して、「炉内温度三五℃」なる記載が誤記であり、「炉内温度六〇℃」が適当であ
ることが首肯しえられるならば、そのような誤記を訂正して特許明細書の記載を表
現上も明確にすることにより、低温乾燥工程をめぐる権利解釈を安定せしめる必要
はあるのであつて、このような場合に訂正が許されないとするいわれはない。
(三) 本件審決理由の要点(三)の点について
 本件特許発明において「低温乾燥」方法を用いた技術思想よりすれば、微粉末を
まぶした後の含浸「乾燥」工程においても、工業的に「低温乾燥」の方法によるこ
とは技術常識上当然であるのみならず、加熱手段(低温乾燥)を採ることが「含
浸」という技術思想のうちに含まれていることも、明らかである。したがつて、本
訂正個所を「ひきつづき加熱して含浸乾燥し」と訂正することは、不明瞭な実施例
の記載を明瞭ならしめるだけであり、何ら新たな技術思想を付加するものではな
い。すなわち、乾燥昆布加工の工程中に「低温乾燥」の工程が存し、これを受けて
微粉末をまぶした後の含浸「乾燥」が行なわれるのであるから、特段の説明がなく
ても、後の「乾燥」が「低温乾燥」を意味することは明白である。換言すれば、本
件特許発明における「低温乾燥」という技術思想が、調味料を含んだ昆布を乾燥す
るにあたつて、香気と品質をそこなうことなく工業的能率的に乾燥を行ないうる程
度の温度による乾燥を意味することは、技術的常識として明らかである。また、
「含浸」なる用語は、一般的に慣用されている技術用語であり、液体を固体の組織
内に全体的に含ませ浸み込ませることをいう。したがつて、本件特許発明において
微粉末をまぶし含浸させるということは、微粉末を液体中に溶解したうえ、その溶
液を昆布組織内へ浸みこませ込る意味であることはいうまでもなく、そのために
は、含浸工程において加熱手段を必要とすることは自明である。
けだし、低温乾燥した昆布に微粉末をまぶした後、ひきつづいて、加熱(低温乾
燥)することによつて、布昆組織内の調味液の温度が高まる結果、調味液の溶解度
が高くなり、かつ、膨張するため溶解能力の高くなつた調味液を昆布表面に滲み出
させることができるのであり、この滲み出た溶解能力の大きい調味液の中に微粉末
が溶解し、微粉末は溶解のかたちで昆布組織内へ比較的容易に含浸することとな
り、かつ、低温の続行により、乾燥塩昆布として必要な乾燥状態のものが得られる
のである。
第三 被告の答弁
被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。
原告ら主張の事実中、本件に関する特許庁における手段の経緯および本件審決理由
の要点ならびにに本件審決理由の要点(一)の点についての原告らの主張事実は、
いずれも認めるが、その余は争う。
(一) 本件審決理由の要点(二)要点について
 炉内温度「三五℃」が本件特許明細書に示された唯一の炉内温度であるから、こ
れが低温に過ぎる温度であるとしても、何度とすべきを誤つて三五℃と記載したの
か、本件特許明細書の記載に基づくかぎり、窺知することができない。一方、本件
特許明細書の記載の「三五℃」で低温乾燥すれば、乾燥塩昆布の品質の良い製品が
できることも事実であるから、「三五℃」は乾燥に不適当な温度ではなく、また、
他方、低温乾燥の温度は、食品の種類および製品に要求される品質の程度によつ
て、それぞれに適した温度が決定されるのであり、本件乾燥昆布の低温乾燥温度と
して六〇℃の温度が自明な温度であるということはできない。
(二) 本件審決理由の要点(三)の点について
 本件特許明細書中の「まぶし含浸乾燥する」の微粉末をまぶした昆布の含有水分
の状態は、まぶした微粉末が一度溶解される程の水分ではなく、製品とする場合に
加熱乾燥を必要とするものとは考えられないものであり、特許請求の範囲の項およ
び他二個所の「含浸乾燥」の記載についても「加熱乾燥」の工程の記載とは判断で
きず、本件特許明細書全文の記載からも「ひきつづき加熱して乾燥し」の工程を導
きだすことはできない。また、特許請求の範囲の項およびその他の二個所に「含浸
乾燥」と記載されていて、訂正希望個所である実施例には「含浸させ」とのみ記載
されていることは、本件特許発明の方法が、本問題点に関するかぎり、人為的加乾
熱燥を行なわず、「含浸と乾燥」とは、微粉末をまぶすという人為的操作に伴う自
然現象を併記したにすぎないものであることを示すものである。以上よりして、唯
一の実施例の「まぶし含浸させ」を「まぶしひきつづき加熱して含浸乾燥し」と
「ひきつづき加熱乾燥する」という工程を附加する訂正は、ひいては特許請求の範
囲の項における含浸乾燥にも「ひきつづき低温加熱乾燥する」という新規な技術思
想を附加することに帰し、実質上特許請求の範囲の項を変更するに至るから、特許
法第百二十六条第二項に照らし許されない。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯および本件審決理由の要点が、いずれ
も原告ら主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決理由の要点(一)の点についての原告らの主張事実は、被告の認めて
争わないところであり、この事実によれば、本件特許明細書の「発明の詳細な説
明」の項中「最高180℃」なる記載(本件特許明細書第四頁第十八行目ないし第
十九行目)を「ダクト内最高180℃」と訂正することは、特許法第百二十六条第
一項第三号の明瞭でない記載の釈明に該当すると認めることができる。
 さらに、原告らは、本件審決理由の要点(二)および(三)の点については、そ
の主張の点に判断を誤った違法がある旨主張するが、以下に説示するとおり、この
主張は理由がないものというほかはない。
(一) 本件審決理由の要点(二)の点について
 成立に争いのない甲第二号証(本件特許明細書)によれば、本件訂正審判によ
り、訂正を求めた個所である「発明の詳細な説明」の項の実施例中の「炉内温度3
5℃内外で乾燥す。」なる記載に対応する部分は、同明細書第二頁二行目の
「・・・低温にて乾燥し」および同明細書第三頁末行目より第四頁一行目までの
「・・・低温にて乾燥し」なる文言ならびにに同明細書第五頁第十三行目「特許請
求の範囲」の項中の「・・・低温にて乾燥し」なる文言以外には、その記載を見出
すことができず、したがって、右実施例中の「炉内温度三五℃内外で乾燥す。」な
る記載は、本件特許発明にかかる「乾燥昆布の加工法」の段階的加工工程について
の構成要件中の一工程である「低温乾燥」の温度条件についての一実施例である
「炉内温度三五℃内外」を示したものであると認定することができる。他方、同明
細書中には、「低温乾燥」についての温度条件である「低温」なる概念の温度幅に
ついては、特別の説明がないから、ここにいう「低温」なる概念も、本件特許発明
にかかる工程を経て処理された昆布に、混合微粉末をまぶす工程に移行する中間的
乾燥処理として、技術常識上の適度の温度幅を有する「低温」なる概念と理解する
ことができる。果たしてしからば、本件特許発明の構成要件中の一工程を構成する
「低温乾燥」の温度条件についての一実施例を示した「炉内温度三五℃内外で乾燥
す。」なる記載は、右「低温乾燥」なる概念に矛盾するものとは認められず、右
「炉内温度三五℃内外で乾燥す。」なる記載をもって、誤記であるとすることはで
きない。原告は、「低温乾燥」とは、工業的に乾燥を行ないうる程度の低温度を意
味し、この観点から「炉内温度三五℃」は不適当であり、「炉内温度六〇℃」が適
当であることは当業者の技術常識から明らかである旨主張するが、右原告主張の技
術常識は認めるに足りないのみならず、前段説示の理由に照らすと、原告の右主張
は理由がないものといわざるをえない。
(二) 本件審決理由の要点(三)の点について
 前掲甲第二号証によれば、本件訂正審判により、訂正を求めた個所である本件特
許明細書の「発明の詳細な説明」の項の実施例中の「まぶし含浸させ」なる記載
(同明細書第五頁第四行目)に対応する部分は、同明細書第二頁第三行目より第四
行目までの「・・・の混合微粉末をまぶし含浸乾燥する・・・」および同明細書第
四頁第二行目より第三行目までの「・・・の混合微粉末をまぶして含浸乾燥すれ
ば」なる文言ならびに同明細書第五頁第十四行目から第十五行目までの「特許請求
の範囲」の項中の「・・・微粉末をまぶし含浸乾燥する・・・」なる文言以外は、
その記載を見出すことができず、これらの記載よりすれば、「まぶし含浸させ」る
工程は「乾燥昆布の加工法」の段階的加工工程についての構成要件中の一工程であ
る「低温乾燥」に引き続いて行なわれる「混合微粉末をまぶし含浸乾燥する」工程
であることが認められる。原告らは、本件特許明細書第五頁第三行目より第四行目
までの「・・・の混合微粉末を、・・・まぶし含浸させ」なる個所を、明瞭でない
記載の釈明を理由として、「・・・の混合微粉末を・・・・まぶしひきつづき加熱
して含浸乾燥し」と訂正することを求めるが、前認定のとおり本件特許発明の構成
要件中の一工程である「混合微粉末をまぶし含浸乾燥する」工程中には、『まぶし
「ひきつづき加熱して」含浸乾燥』する条件は開示されておらず、また、本件特許
明細書の当該実施例自体に徴するも、本件特許発明の「低温乾燥」工程と、これに
引き続いて行なわれる「混合微粉末をまぶし含浸乾燥する」工程との関連を示す個
所の記載は、「翌日これを・・・・・炉内温度三五℃内外で乾燥す。」と記載され
た後、行を改めて『斯く処理したものを「選別し」、』と記載され、これに続いて
「・・・・・の混合微粉末を、昆布四瓩に対し四〇〇瓦の割合でまぶし含浸させ」
と記載されており、叙上の記載態様に徴すれば、「炉内温度三五℃内外での乾燥」
工程と「混合微粉末のまぶし含浸」工程との間には、工程間の段落を示す撰別行為
が介在し、したがって、「乾内温度三五℃内外での乾燥」工程は、「混合微粉末の
まぶし含浸」工程へは直接継続されるものではない意味に解せられるところ、後者
の「混合微粉末のまぶし含浸」工程を、「・・・・の混合微粉末を・・・・まぶし
ひきつづき加熱して含浸乾燥し」と訂正されるとするならば、後者の工程に「加
熱」乾燥なる温度条件を附加することになり、単なる釈明上のものである意味にお
いて、特許法第百二十六条第一項第三号にいう「明瞭でない記載の釈明」に該当す
るものということができない。原告は、含浸工程において加熱手段を必要とするこ
とは自明である旨主張するが、前認定のとおり本件特許明細書全体の記載を通じ
て、原告主張のように解することができないから、原告の右主張は採用するに由な
い。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、本件審決理由の要点(一)の点についての原告らの
請求は、これを認容し、本件審決理由の要点(二)および(三)の点についての原
告らの請求は、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法
第七条、五事訴訟法第八十九条、第九十二条および第九十三条の規定を適用して、
主文のとおり判決する。
(裁判官 三宅正雄 武居二郎 布井要太郎)

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