弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人両名の弁護人堂野達也の上告趣意第一点及び第二点について。
 本件のごとく、短刀、拳銃、小銃等を使用して人を殺害して、物を強取したとい
う案件において、これら兇器が領置、押収されている場合、裁判所が事実審理をす
るにあたつては、公判廷において被告人に直接これらの証拠物を示し、その意見弁
解を聞き適法な証拠調を経た上で、犯罪の証拠としてこれを判決に挙示することは、
事実審として、まさにとるべき妥当の措置ではあるけれども、かくのごとき兇器等
といえども、必ずしも、常に、これを公判廷に顕示して証拠調をしなければならな
いというものではない。その他の証拠で犯罪事実を認定し得る場合には、事情によ
つて、兇器等を証拠としないで、本件におけるがことく、間接に、右兇器等に対す
る捜査官憲の領置書若くは領置目録をとつて、犯罪事実認定の資料とすることも、
法律上許されないことではないのである。結局、証拠の取捨、選択は事実審の自由
裁量に属するところであるから、右のごとき物的証拠を犯罪事実認定の証拠としな
かつたことをもつて、原判決に違法ありということはできないのみならず、原判決
は、これらの物件を証拠としなかつたのであるから、証拠調を経ない証拠物を証拠
とした違法も存しないのである。また、犯罪捜査の段階において、司法警察官によ
つて、領置された物件のごときものは、旧刑訴第三四二条の「公判期日前、訴訟関
係人ヨリ提出シタル証拠物」にも、同法第三二六条乃至第三二八条により、裁判所
が公判期日前「集取シタル物」にも該当しないものであるから、右物件について、
原審が公判において証拠調をしなかつたことをもつて、同法第四一〇条第一三号に
該当する違法ありとすることはできない。尚、論旨は、原判決が、司法警察官作成
の証拠物の領置書若くは領置目録を事実認定の資料としたことをもつて、適法なる
証拠に基かずして事実を認定した違法があると主張するのであるが、右のごとき書
類といえども、公務員がその職務権限に基いて作成した文書であつて、その記載内
容が証拠品の領置に関するに過ぎないからといつて、当然にその証拠能力を否定す
る何らの根拠もなく、その文書の記載内容の趣旨に従つて、事実証明の用に供し得
ることは勿論であり、司法警察官が本件被疑事件について、兇器等を被告人等の手
から領置した事実は、右の文書によつて証明されるのであつて、かかる事実は、ま
た、他の証拠と相竣つて本件犯罪事実認定の一資料となり得るのである。原審が本
件の審理にあたつて、犯罪の手段として用いられた有力なる物的証拠について、直
接の審理をせず、如上間接の書類を採つて、これに代えたことは、事実審として妥
当を欠くの憾はあるけれども、所論のごとく適法な証拠に基かずして事実を認定し
た違法があると、断定することはできないのである。論旨は理由がない。
 同第三点について。
 裁判所が、法律の規定に基いて、弁護人を選任するにあたつては、弁護人が公判
期日前に、弁護の準備をするに必要な時日の余裕をおいて、選任すべきであつて、
公判期日の前日に弁護人を選任するがごときは、弁護権を尊重すべき裁判所の措置
として、当を得たものでないことは勿論であるといわなければならない。記録を査
閲すれば、原審において、被告人Aは、自ら弁護人を選任することができない旨を
申出でたため、裁判所は昭和二三年六月一四日同人のため弁護士宗政美三を弁護人
に選任し、翌一五日公判を開廷し、同弁護士立会の上事実審理、証拠調を施行、同
弁護士の弁論を経て、即日公判手続を終結したことは所論のとおりである。しかし
ながら、原審公判調書によれば、当日の公判には終始、右弁護人は立会つたのであ
るが、弁護人から弁論準備のため期日の延期若くは審理の続行を申出でた形跡もな
く、その開廷並びに審理の進行について、被告人からも、弁護人からも別段の異議
もなく、弁護人の弁論を経て結審となつているのである。おもうに、本件は、その
内容がさして複雑というでもなく公判における事件の審理も相当詳密に行われたの
で、弁護人としては、特に期日の延期続行等を申請するまでもなく、公判審理に立
会うことによつて、十分に事件の全貌を把握し得て被告人の弁護に欠くるところの
ないものと信じ直ちに弁論をして、その日の結審に別段の異議を述べなかつたもの
と推断するのが相当である。若し弁護人において弁論準備のために、なお時間的余
裕が必要と思えば期日の延期、続行を申請すべきであつて、裁判所がかかる申請を
も容れず徒らに結審を急いたという場合ならば、まさに不法に弁護権を制限したと
いうべきであるけれども、本件において、かかる形跡のないことは前述のとおりで
あつて、かくのごとき場合においても、裁判所が職権をもつて、弁論を続行しない
限り、不法に、弁護権を制限した違法あるものとすることは到底首肯し難いところ
である。以上の次第であるから、裁判所が公判期日の前日に弁護人を選任した一事
をもつて、直ちに原判決に旧刑訴第四一〇条第一一号に該当する違法ありとの論旨
は、これを採用することができない。
 被告人Bの上告趣意について。
 所論は、原審は、自分を主犯として死刑を言渡したものと思われるが、相被告人
Aは、兇悪な人間であつて、犯行現場でも、自分は、同人の威嚇によつて、やむな
く行動したに過ぎない。されば、主犯と云わるべきは、Aであり、自分が同人と同
じく死刑を言渡されたのは不服である等の趣旨において、諸般の事情を陳弁してい
るのであるが、要するに、原審の事実の誤認及び量刑の不当を主張するに帰着する
のであつて、上告適法の理由とならない。
 被告人Aの上告趣意について。
 所論は、犯行現場で被害者を殺害するまでの事態を生じたのは、相被告人Bが勝
手に行動を開始したからで、自分は最後まで殺意はなかつた、本件の主犯はBであ
るとの趣旨に基いて、詳細な事情を陳述し、死一等を減じて欲しいというのである
が、要するに原審の事実の誤認、及び量刑の不当を主張するに帰着するのであつて、
上告適法の理由とならない。
 よつて旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 右は全裁判官一致の意見である。
 検察官 橋本乾三関与
  昭和二四年七月一三日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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