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平成一〇年(ワ)第四三〇九号 不正競争行為差止等請求事件
        判      決
         原       告    株式会社大和螺子
         右代表者代表取締役    【A】
         右訴訟代理人弁護士    矢 田 部    三   郎
         同   忠   海    弘   一
         被       告    サン・ファスナー部品株式会社
         右代表者代表取締役    【B】
         右訴訟代理人弁護士    兵   頭    厚   子
        主      文
  一 原告の請求をいずれも棄却する。
  二 訴訟費用は原告の負担とする。
        事実及び理由
 事実及び理由は、別紙事実及び理由記載のとおりであり、原告の請求はいずれも
理由がないから、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成一一年八月三〇日)
  大阪地方裁判所第二一民事部
            裁判長裁判官    小   松    一   雄
               裁判官    高   松    宏   之
               裁判官    安   永    武   央
別紙
第1 請求
1 被告は、別紙被告物件目録1ないし4記載のアジャストボルト及び同目録5記
載の脚止め金具を製造、販売してはならない。
2 被告は、前項記載のアジャストボルト及び脚止め金具を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金3625万円及びこれに対する平成10年5月8日か
ら支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が製造、販売しているアジャストボルト及び脚止め金具の形態は、
原告の商品表示として周知であるところ、被告が製造、販売しているアジャストボ
ルト及び脚止め金具は、原告の同商品と同一又は類似の形態を有し、誤認混同が生
じているから、被告が被告の同商品を製造、販売することは、不正競争防止法2条
1項1号所定の不正競争に該当するとして、原告が、被告に対し、同法3条に基づ
き、被告商品の製造、販売の差止め(同条1項)及び被告商品の廃棄(同条2項)
を求めるとともに、同法4条に基づき損害賠償を求めている事案である。
(争いのない事実等)
1 当事者
(1) 原告は、昭和49年8月10日に設立された、工業用ボルト等のボルト・ナッ
トの製造販売を目的とする株式会社である。
(2) 被告は、昭和60年7月31日に設立された、ボルト・ナット類の販売を目的
とする株式会社である。
2 原告商品
 原告は、別紙原告物件目録1ないし4記載のアジャストボルト(以下「原告アジ
ャストボルト1」などといい、併せて「原告アジャストボルト」という。)及び同
目録5記載の脚止め金具(以下「原告脚止め金具」といい、原告アジャストボルト
と併せて「原告商品」という。)を販売している。
 なお、アジャストボルトは調整ボルトとも呼ばれるものであり、自動販売機等の
機械を垂直かつ水平に保持するため、機械の下に設置されるものであり、脚止め金
具は、アジャストボルトを床面に固定するために用いられるものである。
3 被告商品
 被告は、別紙被告商品目録1ないし4記載のアジャストボルト(以下「被告アジ
ャストボルト1」などといい、併せて「被告アジャストボルト」という。)及び同
目録5記載の脚止め金具(以下「被告脚止め金具」といい、被告アジャストボルト
と併せて「被告商品」という。)を製造、販売している。
第3 争点及び争点に対する当事者の主張
1 原告商品の形態は周知な商品表示か(争点1)。
【原告の主張】
(1) 原告商品の形態的特徴
ア 従来のアジャストボルトは、ボルトと受け皿を止める手段として溶接方法を選
択し、ボルトと受け皿が一体化しているが、原告アジャストボルトは、ボルトと受
け皿の接合箇所を溶接せず、受け皿の頂部付近のボルトに六角ナット形状の座り部
を一体的に形成するとともに、ボルト下端にネジの刻みのない突起を設け、その突
起を受け皿の穴に貫通させた上、その突起部分に抜け止めナットを圧入することに
より、受け皿とボルトを止めている点に形態上の特徴がある。この方法により、従
来品では、ボルトと受け皿が一体化しているためアジャストボルトの高さを調整す
るために機械本体を持ち上げる必要があったが、原告アジャストボルトにおいて
は、受け皿とボルトが固着していないため、ボルトを回転させるのみで同じ機能を
獲得するに至っている。
イ 従来アジャストボルトを床に固定する金具としては、アジャストボルトの下部
にボルトと一体化して設けられていたものはあった。
 これに対し、原告脚止め金具は、アジャストボルトと一体化させることなく、単
独のプレートを作り、アジャストボルトの振動を止める機能を持たせるものを作り
出した。原告脚止め金具は、機能的で簡単で安価であり、独特の形態を有してい
る。
(2)原告商品の形態が周知であること
ア 原告は、原告商品の上記形状を、原告がアジャストボルト及び脚止め金具の製
造販売を開始した昭和55年以降、何らの変更を加えることなく継続して使用して
いる。
 原告商品は日本国内において現在まで約2000万個が販売され、平成9年では
同種商品の販売量のうち約60パーセントの市場占有率を有している。
イ 原告商品は、ボルト業界はもちろん、機械業界においても認知され、平成7年
にJISのボルト版に掲載され、広くボルト業界に知れ渡った。
 JIS規格合格を得るために出願した各業者の氏名は、業界では知られている。
ウ 被告は、原告以外にも原告アジャストボルトの特徴を備えたアジャストボルト
を販売している会社を列挙しているが、そのうち株式会社ナベヤ、スギコ産業株式
会社、スガツネ工業株式会社及び株式会社サカエの販売しているアジャストボルト
は、原告がOEMにより各社に対し提供しているものであり、株式会社ミスミは、
株式会社ナベヤから仕入れたアジャストボルトを販売しているのであり、横山機工
株式会社の販売しているアジャストボルトは、別訴(当庁平成10年(ワ)4805
号不正競争行為差止等請求事件)で係争の対象となった株式会社コノエの製品であ
る。OEM取引の売上帳を見れば製造者が原告であることは明らかであり、多くの
ユーザーもこの事実を知りながら販売会社から商品を購入している。
(3) 以上より、原告商品の形態は原告商品であることを識別する表示機能を有して
おり、かつ、周知性を獲得している。
【被告の主張】
(1) 原告商品に顕著な形態的特徴はない。
ア アジャストボルトは、機械類を設置する際の高さ調整器具として相当古くから
使用されてきたものであり、ナット・ボルト・受け皿・脚止め金具の各器具から構
成される。右は、アジャストボルトの機能、効用を果たすための構成あるいは仕組
みであって、原被告アジャストボルトのみならず、他社製品一般に使用されてい
る。
 したがって、原告商品の形態は、アジャストボルト一般の形態であって、出所表
示の機能を有していない。
イ 原告は、従来品は、アジャストボルトを受け皿に止めるため、溶接していたと
主張するが、最近では溶接する方法をとった物は廃れた状態に近い。 原告は、原
告アジャストボルトの特徴として、ナットの底の突起部分にネジの刻みを入れるこ
となく、底にナットを圧入して固定する方法を採っていると主張するが、ネジ業界
においてボルトのネジを切っていない部分とネジを切ってあるナットを圧接すると
いう技術、方法は古くから知られており、原告主張の方法は、それをアジャストボ
ルトに応用したにすぎない。また、受け皿を貫通したボルトの止め方の形態は、受
け皿の裏のボルトの先端部分にナットがあるか、ワッシャーがあるか、何の金具も
ないか等の違いで現われるにすぎず、原告アジャストボルトの止め方によって形成
される止め部の形態に特徴があるとはいえない。
 なお、原告アジャストボルト3は、右特徴を備えていない。
(2) 原告商品の形態は周知でないこと
ア アジャストボルトの需要者は、商品をカタログ、機能、性能等の観点から選択
しており、形態の見地から選択していない。
イ 原告商品の形態は、アジャストボルト一般の形態であって、特に他のものと比
して特色もなく、出所表示の機能も有していない。原告が原告アジャストボルトの
形態上の特徴として主張する形態を備えたアジャストボルトは、株式会社天王金属
製作所が昭和55年ころすでに製造・販売している。また、株式会社ナベヤ、横山
機工株式会社、株式会社ミスミ、スギコ産業株式会社、スガツネ工業株式会社及び
株式会社サカエもそれぞれ、原告が主張する原告アジャストボルトの形態上の特徴
点を備えたアジャストボルトを販売している。
ウ原告が原告商品の形態が周知であることの根拠として挙げるJISのボルト版
とは、東京鋲螺協同組合が発行した「'98ねじ総合カタログ」であるが、それには
商品番号のみが掲示され、製造者、販売者等の商号、商標、商品名その他商品・営
業を表示するものは一切表示されていない。
2 類似性及び誤認混同のおそれ
【原告の主張】
 被告は、約7、8年前から被告商品を製造販売しているが、別紙原告商品目録及
び被告商品目録の各1ないし5を比較すれば分かるように、被告商品は、原告商品
のデッドコピーである。なお、原告アジャストボルトの1、2及び4の受け皿が台
形であるのに対し、被告アジャストボルト1、2及び4の受け皿は球形であるが、
それは、原告からデッドコピーであるといわれることをおそれて変えたにすぎな
い。
 したがって、被告商品の形態は原告商品の形態と同一又は類似し、需用者の間で
誤認混同が生じている。
【被告の主張】
 被告アジャストボルトも、原告アジャストボルトと同様に、ボルト、受け皿、金
具という仕組みを有する。
 しかし、原告アジャストボルト1、2及び4の受け皿が台形であるのに対し、被
告アジャストボルト1、2及び4の受け皿は半球形であり、その形態は異なる。
 したがって、被告商品の形態は原告商品の形態に類似せず、誤認混同のおそれも
ない。
3 損害の額
【原告の主張】
 被告は、平成3年1月1日から平成10年3月31日までに、被告商品を合計7
億2500万円販売した。そして、原告商品の形態の実施料相当額は、売上高の5
パーセントであるから、原告は、3625万円の損害を被った。
【被告の主張】
 争う。
 なお、被告は、本件において、原告の損害賠償請求のうち本訴提起より3年以前
の分について消滅時効を援用した。
第4 当裁判所の判断
1 争点1について
(1) 元来、商品の形態は、主としてその具備する機能を最も良く発揮させる目的や
美感を高める目的で選定されるものであって、商標のように商品の出所を識別させ
る目的で選定されるものではない。しかし、当該商品の形態が同種の商品と識別で
きるだけの個性的な特徴を示す場合には、長期間独占的に使用するとか、宣伝広告
を積極的に展開するとか、種々の媒体に取り上げられるとか、多くの販売実績を積
み重ねるとかの事情が重なることによって、需要者の間において、その形態を有す
る商品は特定の事業者が製造販売している商品であるとの認識が浸透することがあ
り得、その場合には、商品形態も不正競争防止法2条1項1号にいう周知の商品表
示たり得ると解される。
(2) 原告商品の形態は個性的な特徴を示しているか。
ア 原告商品の形態(検甲1ないし5)
(ア) 原告アジャストボルトの、通常の使用状態における外観を観察すると、いず
れもボルトを軸とし、底部に受け皿が設けられ、受け皿の頂部付近のボルトにナッ
トが一体形成されており、ボルトには別にナット1個が螺合されているという基本
的形状を有している。そして、原告アジャストボルト1ないし3の受け皿はキャッ
プ形状を呈しているのに対し、原告アジャストボルト4の受け皿はキャップ形状部
分のフランジ部から先端部を円弧形状に先細に形成した固定板部が一体的に延設さ
れている。
 また、原告アジャストボルトを底面から見ると、ボルト下端が受け皿に貫通し、
同1、2及び4はボルト下端部にもナットがあって、同ナットがボルトと回転不能
に圧入されて嵌着しており、同3はボルト下端部が押し広げられ、ワッシャーがボ
ルト下端部と受け皿との間に取り付けられている。
(イ) 原告脚止め金具は、上板部、下板部及びこれらを繋ぐ上下方向に延びる斜板
部を一体的に形成しており、上板部の自由端部には半だ円形状の切欠部(二股部)
を形成するとともに下板部中央にボルト孔を形成している。
(ウ) なお、原告は、原告アジャストボルト以外にも各種アジャストボルトを製
造、販売しているが、その多くは、原告アジャストボルトの上記基本的形状を備え
ている(甲2)。
イ 他社製品のアジャストボルト、脚止め金具の形態
(ア) タキゲン製造株式会社、TSB、スギコ産業株式会社、株式会社ナベヤ及び
株式会社ミスミは、原告商品と同一形態のアジャストボルト及び脚止め金具を販売
している(甲11、13、14、乙3、5、弁論の全趣旨)。
 横山機工株式会社は、原告アジャストボルトと同一形態のアジャストボルトを販
売している(乙4、弁論の全趣旨)。
 株式会社栃木屋、スガツネ工業株式会社及び株式会社サカエは、原告アジャスト
ボルト1及び2と同一形態のアジャストボルトを販売している(甲12、乙9の
1、乙10、弁論の全趣旨)。
 上記同業他社のうち横山機工株式会社を除く者は、いずれも原告からOEM取引
により原告商品と同一形態の商品の供給を受け、自社商品として販売している者
か、その者から商品を購入している者である(弁論の全趣旨)。
(イ) 株式会社天王金属製作所、株式会社ムラコシ精工、木村製作所株式会社は、
原告アジャストボルト1ないし3と同じく、ボルトを軸とし、底部にキャップ形状
の受け皿が設けられ、該受け皿の頂部付近のボルトにナットが一体形成されている
という基本的形状を有するアジャストボルトを販売している(乙2、7、検甲1
4)。
(ウ) タキゲン製造株式会社の商品名ロータリーアジャスターというアジャストボ
ルトを底面からみると、原告アジャストボルト3と同様に、ボルト下端部が押し広
げられ、ワッシャーがボルト下端部と受け皿との間に取り付けられている(甲1
1、検甲15)。
(エ) 株式会社タツタ及びオークラ輸送機株式会社は、ボルトを軸とし、底部に受
け皿が設けられ、受け皿の頂部付近のボルトにナットが一体形成されているという
基本的形状を有するアジャストボルトを販売しているが、両者の受け皿からは固定
板部が一体的に延設されており、特に後者の固定板部は、原告アジャストボルト3
と同様、先端部が円弧形状に先細に形成されている(検甲11、12)。
(オ) タキゲン製造株式会社、TSB、スギコ産業株式会社、横山機工株式会社、
スガツネ工業株式会社及び株式会社サカエは、上記アジャストボルト以外にもアジ
ャストボルトを販売しており、それらの多くは、ボルトを軸とし、底部に受け皿が
設けられ、受け皿の頂部付近のボルトにナットが一体形成されているという基本的
形状を有している(甲11、13、14、乙4、9の1、乙10)。
ウ 以上の事実からすると、まず、アジャストボルトにおいて、原告アジャストボ
ルト1ないし3のようにボルトを軸とし、底部にキャップ形状の受け皿が設けら
れ、受け皿の頂部付近のボルトにナットが一体形成されているという基本的形状か
らなるものはごく一般的であり、また、原告アジャストボルト4のように受け皿か
ら先端部が円弧形状に先細に形成された固定板部が一体的に延設されている形状も
他社製品に見られる基本的形状であって、原告アジャストボルトがこれらの基本的
形状から原告の商品であることを示す商品表示としての周知性を獲得しているとは
認めることができない。
エ そこで次に、原告アジャストボルトの具体的形状に基づく商品表示としての周
知性について検討する。
(ア) この点について原告は、原告アジャストボルトでは、ボルト下端にネジの刻
みのない突起を設け、その突起を受け皿の穴に貫通させた上、その突起部分にナッ
トを圧入することにより、受け皿とボルトを止めており、それにより受け皿とボル
トが固着していないため、ボルトを回転させるのみでアジャストボルトの高さを調
整することができる点にその形態上の特徴があると主張する。
 しかし、前記のとおり、原告アジャストボルトと同一形態のアジャストボルトが
他社製品として市場に出回っていることからすると、少なくとも現時点において
は、原告主張のような形態が、原告のアジャストボルトであることを示す商品表示
として周知性を獲得しているとはいえない。また、これらの他社製品がいつごろか
ら市場に出回っていたかを厳密に認定し得る証拠はないが、現時点において原告ア
ジャストボルトの形態が原告の商品であることを示す商品表示としての周知性を獲
得していると認め難い以上、それにもかかわらず、被告商品の販売が開始された時
期(原告の主張によれば平成3年ころ)においては原告アジャストボルトの形態が
商品表示としての周知性を獲得していたと認めるに足る証拠はない。
(イ) これに対し、原告は、株式会社ナベヤ、スギコ産業株式会社、スガツネ工業
株式会社及び株式会社サカエの販売する原告アジャストボルトと同一形態のアジャ
ストボルトは、原告がOEM取引により上記他社に対し提供している製品であり、
株式会社ミスミは、株式会社ナベヤから仕入れたアジャストボルトを販売している
にすぎないと主張する。
 しかし、OEM取引というのは、相手方ブランドでの商品供給を行う取引形態を
意味し、現に上記各社のカタログ(甲14、乙3、8ないし10)を見ても、原告
が供給している商品であるとの表示は全くなく、他にそのような表示が付されて販
売されていることを窺わせる証拠もないから、これらの商品に接した需要者・取引
者が、それを原告の商品であると認識するとは通常考えられない。
(ウ) もっとも、このような事情が存するとしても、取引の実情によっては、なお
原告アジャストボルトの形態に原告の商品であることを示す商品表示としての周知
性を認める余地もあり得る。
 この点について、原告は、まず、原告アジャストボルトを昭和55年以降、何ら
の変更を加えることなく継続して使用し、原告アジャストボルトは日本国内におい
て現在まで約2000万個が販売され、平成9年では同種商品の販売量のうち約6
0パーセントの市場占有率を有していると主張する。しかし、弁論の全趣旨によれ
ば、原告アジャストボルトにおけるボルト下端とナットの結合形態は時期により変
遷がある上、原告アジャストボルトの販売量について同主張を認めるに足る証拠は
ない。
 また原告は、原告商品は、ボルト業界はもちろん、機械業界においても認知さ
れ、平成7年にJISのボルト版に掲載され、広くボルト業界に知れ渡ったと主張
する。原告が主張するJISのボルト版とは、東京鋲螺協同組合が発行した「'98
ねじ総合カタログ」(甲28)であると認められるところ、同カタログには、原告
商品が掲載されているものの、それが原告の商品であることを示す記載は何らなさ
れていない。したがって、上記カタログに掲載された結果、原告商品の形態が特定
の事業者の出所を示すものとして周知となったとは認められない。また、上記カタ
ログに掲載されたことが、原告商品の形態が原告の出所を示すものとして周知とな
った結果であるとも認められない。
 さらに原告は、自己と取引のあるアジャストボルトを取り扱う取引者が、原告商
品の形態を一見すれば、それが原告の商品であることがわかる旨の報告書を書証と
して提出しているが(甲34ないし58)、それらは、予め、原告商品の形態を一
見すればそれが原告の商品であることがわかる旨の文言が印刷された用紙に、原告
の取引者が記名、押印しているという文書であるから、そもそも、その信用性は低
い上、原告と直接取引のある者のうち、原告商品の形態を見ることにより、それが
原告の商品であると認識する者がいたとしても、そのことにより、アジャストボル
トを取り扱う取引者が広くそのような認識を有しているとは認められない。
 そして、本件全証拠によっても、原告が、原告商品の形態についての宣伝広告を
積極的に展開するとか、種々の媒体に取り上げられるとかいった事情も特に認めら
れない。
 以上より、原告アジャストボルトの取引実績や宣伝広告等の実情から、OEM取
引の存在にかかわらず、原告アジャストボルトの形態が原告の商品であることを示
す商品表示として周知性を有しているとも認められない。
(エ) なお、原告は、上記のような原告主張の原告アジャストボルトの形態的特徴
を採ることによる製造上の利点や機能上の利点を主張する。
 しかし、仮に、原告アジャストボルトが、機能上、他の同種製品と比較して優れ
ていた点を備えているとしても、それが不正競争防止法2条1項1号の商品表示と
して保護されるためには、当該機能が客観的、可視的な形態として現われ、当該形
態自体が個性的であるか、又は当該形態自体は個性的ではないが、当該機能が当該
形態に結びつけられて取引者又は需要者に認識される結果、当該形態が取引者又は
需要者に強く注目されなければならないと解されるところ、本件全証拠によっても
そのような事情を認めることはできない。
(オ) 以上によれば、原告アジャストボルトの形態が、原告の商品であることを示
す商品表示として周知性を有しているとは認めるに足りない。
オ 次に、原告脚止め金具について検討するに、これについても前記のとおり、同
一形態の脚止め金具が他社から販売されており、それが原告からOEM供給されて
いるものであるとしても、その旨を示す表示はなく、さらに取引実績や宣伝広告等
の実情から、特にその形態が原告の商品を示す商品表示として周知になっていると
認めるに足りる証拠もない。
 また、原告脚止め金具は、OEM製品を除外すると、そもそも、被告以外には同
業他社が同種商品を販売しているとは認められない。しかしながら、原告脚止め金
具の形態は、上板部、下板部及びこれらを繋ぐ上下方向に延びる斜板部を一体的に
形成し、上板部の自由端部に半だ円形状の切欠部(二股部)を形成するとともに下
板部にボルト孔を形成したというものであるところ、脚止め金具の機能に照らせ
ば、当業者が、アジャストボルトの脚止め金具をアジャストボルトと別個に製造し
ようとすれば、このような形態を採用するであろうことは容易に想像できるところ
であり、そのような形態を原告のみに独占させることは、アジャストボルトと別個
に脚止め金具を商品としたというアイディアを独占させることにつながり、不正競
争防止法2条1項1号による保護の枠を超えるものである。
 よって、原告脚止め金具の形態が、原告の商品であることを示す商品表示として
周知性を有しているものとは認められない。
(4) したがって、被告が被告商品を製造、販売することが不正競争防止法2条1項
1号所定の不正競争に当たるとは認められない。
2 よって、原告の請求は、その余の争点について判断するまでもなく、いずれも
理由がない。

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