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裁判例


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       主   文
 申立人の本件申立を却下する。
 申立費用は申立人の負担とする。
       理   由
一、申立人の申請の趣旨および理由
 別紙のとおり
二、被申立人等の意見
 別紙のとおり
三、当裁判所の判断
 本件疏明によれば、本件執行停止がなされた場合、被申請人等主張の、「公共の
福祉に重大な影響を及ぼすおそれがある」事実を認めうる。
 よつて、本件申立ては、行政事件訴訟法第二五条第三項にいう「公共の福祉に重
大な影響を及ぼすおそれがあるとき」に該当するものと認め、これを却下し、申立
費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり決定する。
(裁判官 小西勝 杉島広利 寒竹剛)
行政処分執行停止申立書
申立の趣旨
 申立人の昭和四四年一月二二日付集団行進および集団示威運動許可申請に対し、
被申立人京都府公安委員会が昭和四四年一月二六日付で、被申立人京都府松原警察
署長が同年同月二七日付でなした各許可に付された条件のうち、
 「神宮道通を経て京都市立美術館前で流れ解散とすること」
の部分の効力を各々停止する。
 申立費用は、被申立人等の負担とする。
との裁判を求める。
申立の理由
一、(本件行政処分の存在)
(1) 申立人は京都反戦青年委員会事務局長として、同委員会に加盟している所
属員を中心として、昭和四四年一月二八日より京都で開催される「沖繩およびアジ
アに関する日米京都会議」に抗議の意思表示を示すとともに、右抗議の意思表示を
京都市民に訴えるため、円山公園ラジオ塔前―祇園石段下―四条河原町―三条河原
町―蹴上左折―東山会館前流れ解散のコースで集団行進および集団示威運動(以下
集団行進等と略す)を行うべく、昭和四四年一月二二日、集会、集団行進及び集団
示威運動に関する京都市条例(以下公安条例と略す)第二条に基き、被申立人京都
府公安委員会に対し、別紙(一)申請書記載のとおり、右集団行進等の許可を申請
したところ、被申立人京都府公安委員会は同年同月二六日付を以て、別紙(二)許
可書記載のとおり、右許可申請にかかる行進順路中神宮通りより蹴上を経由して東
山会館に至る間につき集団行進禁止する旨の決定をした。
(2) 被申立人京都府松原警察署長(以下被申立人警察署長と略す)は申立人の
右集団行進等の申請に対し、昭和四四年一月二七日道路交通法七七条に基き別紙
(三)許可書記載の通り前記公安委員会と同趣旨の決定をなしたものである。
(3) 申立人は、憲法二一条によつて保障された表現の自由の一環として、自ら
の思想信条の表現の手段として、不法にわたらない限り、公道その他公共の場所に
おいて自由に集会を開催しあるいは集団行動なし得べき地位を本来的に有するもの
であつて、被申立人等の行政許可があつてはじめて集団行動権等を享受しうるとい
うものではない。(具体的理由については、後述参照)すなわち、公安条例および
道路交通法(以下道交法と略す)においては、このような表現の自由としての集団
行動等に対して例外的に規制することができるのみで(公安条例第六条道交法七七
条二項参照)ただ便宜的に一般的に集団行進等主催者に事前に許可申請をせしめる
手続を設けているだけであり、前記二法ともその実質は届出制と異ならないと解す
べきである。(東京都公安条例等に対する昭和三五年七月二〇日最高裁大法廷判決
刑集一四巻九号一二四三頁参照)。又この点について横浜地裁昭和四三年六月二九
日判決(下刑集第一〇巻六号は、公安委員会の許可の性質について、確認的行政行
為である旨述べている)従つて、本件のごとく集団行進等に対し、行進の進路を変
更する内容の条件は、まさしく、申立人および右集団行進等に参加しようとする者
に対し、その権利を制限し、又は義務を課するいわゆる禁止の性質をもつた行政処
分と解するほかはない。
二、(被申立人公安委員会の行政処分の違法性)
(1) 公安条例は違憲立法であり、これにもとずく、行政処分は違法である。憲
法第二一条は「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障
する」と規定している。右表現の自由は、人権保障の構造体系の中でも優れて重要
な地位を占めるものであり、とくに、近代民主国家においては、国民通常その主権
を選挙を通じて行使するが、選挙には、政治的思想的意見の存在を前提とする。表
現の自由は、この政治的思想的意見の譲成をうながし、選挙の本来の目的を発揮さ
せる必須の条件であり、従つて、表現の自由は民主制社会の基礎とされ、憲法の保
障するすべての自由の母体であるとさえいわれているものである。このように、民
主制社会は民衆の話す自由のみならず、民衆の聴く自由、知る自由、反対する自由
が完全に保障されることによつて、はじめて成立するのである。ところが、現代社
会においては、大部分の民衆にとつては、印刷(新聞雑誌等)、電波(テレビ等)
など大規模且つ、最も有効な思想伝達の手段であるマス・コミユニケーシヨンは、
実際上ほとんどこれを駆使することができず、従つてこれらの者にとつては、自ら
の思想を主体的に表明する手段として、集団行進等は極めて重要な役割を果すもの
であり、また代議制のもとでは、その正常な運営上選挙権を補う参政権的要素をも
つものといわねばならず、従つて、集団行進等は正に、憲法二一条の表現の自由の
一形態といわねばならない。(京都地裁昭和四二年二月二三日判決、判例時報四八
〇号)従つて、他の自由との関連で制約しなければならないとしても、表現の自由
に対する必要にして、やむをえない最小限度にとどまらなくてはならない。この観
点にたつて、公安条例を検討すれば、(1)条例は、規制の対象となる集団行動に
つき、場所又は、方法を特定して、制限しているとはいえず、一般的に制限する規
制方式をとつているといわなければならない(とくに条例二条において、集団示威
運動については、場所のいかんを問わず規制している)。(2)公安委員会が許
可、不許可の決定をすべき基準については、条例第六条において、「公衆の生命身
体、自由又は財産に対して直接の危険を及ぼすと明らかに認められる場合の外許可
しなければならない」としているだけであつて、右基準が不明確である。
(3)公安委員会が速やかに許可不許可の決定をしなかつた場合の救済手続が欠如
している等の不備を有しており、前述のごとく、表現の自由に対する必要最小限の
制約を、公安条例が課しているとは解しがたく、憲法二一条、明白に違憲な条例で
あるから、右条例にもとずく、本件公安委員会の行政処分は違法である。
 念のため書き加えれば公安条例は、前掲京都地裁判決をはじめ、これまで三回に
わたり違憲の判断が京都地方裁判所合議部でなされているものである。
(2) (被申立人公安委員会の行政処分は、公安条例第六条に違反してなされた
もので違法である。)
 申立人は、(1)で述べたごとく、あくまで公安条例が憲法第三条に反する無効
な条例であると確信するものであるが、仮に合憲としても、被申立人公安委員会の
行政処分そのものが、公安条例に反する処分と考える。公安条例第六条第六号が記
すごとく、行進進路の変更をなすには「公衆の生命、身体、自由又は財産に対し直
接の危険を防止するため、やむを得ない場合」と認定される資料があつたとき、は
じめて認められるものである。さらに、右変更の要件として、本件のごとく、申請
の進路そのものが、一キロメートル以上にわたつて大巾に変更される場合には、実
質的には、集団行進等の一部不許可(一部禁止)と理解すべきであるから、公安条
例第六条本文が、行進を不許可にする要件として掲げる「公衆の生命、身体、自由
又は財産に対して直接の危険を及ぼすと明らかに認められる場合」の認定も加味さ
れなくてはならないものと考える。(後掲の東京地裁昭和四二年六月二九日決定も
東京都公安条例についてであるが、右の二つの要件を考りよに入れているようであ
る。)従つて、本件のごとく進路変更をなすにあたつては、申請の進路集団行進等
が実施されることが、公衆の生命、身体等に直接危険を及ぼす蓋然性が認められな
くては許されるべきものではない。
 ところが、本件集団行進に関する許可に際して、右集団行進等に関して、別紙
(二)記載の通り、被申立人公安委員会は、①交通秩序を維持するための条件②危
険を防止するための条件③集団行動の秩序を維持するための条件と、六項目にわた
る厳しい条件を附与した上さらにその上に二項目にわたる遵守事項を課しているこ
と、又被申立人警察署長も別紙(三)記載の通りの条件を付与していることおよび
本件集団行動等の参加予定人員は一千人足らずであるにかかわらず、新聞報道によ
れば京都府警察本部は、約千人の警察官を本件集団行進等の警備に配置し、さらに
大阪府警察本部に五〇〇人の警察官の派遣を要請しており、万然の警備体制がとと
のえていることおよび「沖繩およびアジアに関する日米京都会議」の米側出席者の
宿舎予定とされている都ホテルと本件集団行進等の申請のコースとの位置関係は都
ホテル自身が高台にあり、申請の解散地点は、右都ホテルから離れており都ホテル
の周囲の一部を通り過ぎるにすぎないものである等の事情を勘案すれば、前記のご
とく、条例の定める行進進路の変更の要件を認定する資料はない。それにもかかわ
らず、被申立人が申立の趣旨記載の条件を付したことは、右条例の運用を誤つた違
法があるものといわなくてはならない。
 念のために、書き加えるならば前記最高裁昭和三五年七月二〇日判決は、「本条
例(東京都公安条例のこと)といえどもその運用の如何によつて憲法二一条の保障
する表現の自由の保障を侵す危険を絶対に包蔵しないとはいえない。条例の運用に
あたる公共の安寧の保持を口にして平穏で秩序ある集団行動まで抑圧することのな
いよう極力戒心すべきこともちろんである」と述べているのである。
 本件条件の附与は明らかに被申立人公安委員会の権限の濫用といわねばならな
い。
三、(被申立人警察署長の行政処分の違法性)被申立人警察署長の本件申立の趣旨
記載の行政処分は道交法第七七条に違反してなされたもので取消されるべきもので
ある。
 すなわち申立人の集団行進等に関する申請についてその申請行進進路のうち神宮
道を経て、京都市立美術館前という進路変更の条件付で申請の許可を道交法七七条
でなすことによつてその実質は申請に係る神宮道―蹴上げ左折―東山会館前の道路
使用について不許可としたものであり、申請進路一部不許可というべきものであ
る。
 ところで道交法は第七七条三項において集団行進等の道路使用を許可するに際し
て「必要な条件」を所管警察署長がつけることができる旨規定しているが右条件の
中に進路変更についてまでも含むものかは極めて疑問のあるところといわなくては
ならない。というのは通常ここでいう「条件」とは行進の隊列等の態様および通行
方法のみをさすのであつて進路変更のごとく全く申立人が申請しない進路を創設的
に作り出すことは行政処分として特別の明文の規定がない限りできないものと考え
るべきである。
 現に京都市公安条例は、第六条第六号で進路変更を明記している。この意味で本
件処分は道交法第七七条三項に反した条件をつけたもので違法である。又道交法は
条件の附与については道交法第七七条三項において「道路における危険を防止し、
その他交通の安全と円滑をはかるため」という限定を加えているだけであるに対
し、不許可にするに際しては同法同条二項において三号にわたり条件附与よりも厳
しい限定をなしているのであるがもし進路変更が条件と解されるなら実質一部行進
の不許可(一部道路使用の不許可)が、条件附与というゆるやかな要件によつてな
されるという不当な結果をきたすものである。この点からも進路変更を条件の付与
とみる不当性はあきらかである。右のごとく本件進路変更が道交法七七条三項に反
したという主張がみとめられないとしても右条件の附与の要件については単に三項
の要件をみたすだけでなく、実質的には一部不許可であるから同法二項の要件をも
みたすものでなくてはならないと考える。ところが、本件集団行進については、前
述のごとく被申立人等によつて隊列行進の態様等について厳しい条件が附せられて
いるから同法同条二項二号に、該当し交通の妨害となるおそれがなくなるばかりで
なくさらに本件集団行進等は前述のごとく、憲法二一条の表現の自由の一形態とし
て憲法上最大の尊重をしなければならないものであり近代民主主義国家体制の存立
の基礎となるべきものであるから以上の事情を勘案すれば被申立人京都府松原警察
署長の本件行政処分は道交法の規定に違反した違法なものである。なお本件のごと
く同じ集団行進等に対して公案条例と道交法の二法の許可が必要であるという点に
ついては処分庁および許可の要件等が異なり、その法律関係についてはかなりの疑
問のあるところだが憲法で保障された表現の自由の一現としての集団行進等につい
てはその性質上より慎重で厳格な要件においてのみ禁止しえるものとの趣旨で公安
条例が優先的に適用されるべきであるとの解釈があることを参考のために述べてお
く(横井・木宮共著注釈道交法再訂版三八〇ページ)。
四、(効力の停止を求める範囲および回復困難な損害を避けるための緊急の必要
性)
(1) 申立人は被申立人等がなした許可処分に附せられた条件のうち申立の趣旨
記載の部分の条件を取消す旨の訴訟を本日付で提起したものであるが右条件の性質
は行政法学上、行政処分に付された付款と解すべきである。ところで行政処分に付
された付款は処分と不可分一体をなすものであるから付款の違法を理由として処分
自体の取消を求めるべきであるという議論があるが本件においては公安条例あるい
は道交法は許可制を採用しているが実質は届出制と解すべきであり本件のごとく許
可に条件が附せられた場合、その条件に取消原因となる瑕疵があつても許可処分ま
で違法と解すべきではなく付款のみの取消原因となると考えられるから行政処分の
一部取消訴訟を提起することができると解すべきである。
(2) 本件集団行進等は昭和四四年一月二八日より京都において開催される「沖
繩およびアジアに関する日米京都会議に対する抗議の意思表示をなすとともに右抗
議の意思表示を京都市民各層に訴える目的でなされるものであるがとくに右会議の
アメリカ側出席者の宿泊予定の場所である「都ホテル」附近まで行進することによ
つて直接これら参加者に右意思を表明することは他に何ら適当な言論手段をもたな
い申立人および本件集団行進等参加者にとつて唯一の効果的方法といわなくてはな
らない。
 しかるに本件集団行進等の実施日は本年一月二八日であり、このままにして本案
の結論をまつていては前記本件集団行進等の所期の行進を実施することは不可能と
なり後日では回復し難い損害をこうむり緊急の必要性があることは明白である。
 よつて、申立人は右行進等の主催者の代表者とし、又自からも右行進に参加する
ものとして本執行停止の申立に及んだものである。
 なお本件申立は本件集団行進等の実施日になされるという結果になつてしまつた
が本件集団行進等の申請そのものは昭和四四年一月二二日午後四時にはその手続を
完了しながら被申立人等の行政処分が昨日午前十一時四〇分頃になされたためであ
ることを御考慮頂きたい。しかしながら前記のごとく被申立人等の権限の濫用によ
る司法的救済は実質的には執行停止の方法による他ないことを御勘案のうえ本件集
団行進等の実施に支障のないよう勇断をもつて本執行停止をされることを切望する
次第である。
 ついでながら公安委員会および警察署長の集団行進等に対してなされた違法な条
件の付与に対して右条件の効力を執行停止決定した裁判例を参考のために掲載して
おきます。
(1) 東京地裁決定昭和四二年六月九日(杉本決定)判例時報四八三号
(2) 同決定昭和四二年七月十一日(右同)判例時報四八七号
(3) 同決定昭和四二年十一月二十三日(右同)右同五〇一号
(4) 同決定昭和四二年十一月二十七日(緒方決定)右同五〇一号
(5) 大阪地裁決定昭和四三年六月十四日(小石決定)右同五二四号
意見書
京都府公安委員会
意見の趣旨
一、本件申立を却下する。
二、申立費用は申立人の負担とする。
との裁判を求める。
意見の理由
第一、本件許可処分に至る経過
 申立人は昭和四十四年一月二十二日被申立人京都府公安委員会に対し、集団示威
行進の許可をもとめて、後記のとおり「集会、集団行進及び集団示威運動に関する
条例」(昭和二十九年七月一日京都市条例第一〇号、以下「京都市公安条例」とい
う)にもとづく集団示威行進(以下「本件示威行進」という)の許可申請をした。
 これに対し被申立人は、後記事実関係に基き、京都市公安条例六条六号により申
立の趣旨記載の条件(以下「本件許可条件」という)を含む同別紙(三)の許可処
分(以下「本件許可処分」という)をした。
 すなわち、申立人が代表者である京都反戦青年委員会(以下本件主催団体とい
う)は、京都府学生自治会連合(以下単に府学連という)を参加団体として約一〇
〇〇名にのぼる参加予定人員をもつて、昭和四十四年一月二十八日午後七時三十分
より同八時三十分までの間、円山公園ラジオ塔前―石段下―四条河原町―三条河原
町―東山三条―蹴上げ左折―東山会館前流れ解散という進路で、沖繩問題日米京都
会議抗議のため前記条例にもとづく「集団行進および集団示威運動許可申請」をな
したところ、右進路部分について、円山公園ラジオ塔前から三条神宮道までは申請
どおりとされたのに「その後は、神宮道通りを経て京都市立美術館前で流れ解散と
すること」と許可条件が付されたため、この条件部分の執行停止を申立てて本件に
及んだものである。
 そこで以下本件団体(前記主催者団体および参加団体を総称して本件団体とい
う)が問題としてとりあげる前記許可条件(進路の一部変更)を付したことの理由
とその合理性を明らかにし、本件許可処分が適法たる所以を記述する。
第二、本件許可処分は適法かつ妥当である。
一、京都市公安条例の合憲性
(一) 申立人は、京都市公安条例が日本国憲法第二十一条の表現の自由保障を侵
す違憲の立法であると主張される。
 けれども表現の自由といえども国民はこれを濫用することができず、つねに公共
の福祉のためにこれを利用する責任を負う(憲法十二条参照)ものであることは、
最高裁昭和三十五年七月二十日大法廷判決において判示されているところであり、
かつ京都市公安条例は第六条において「公安委員会は、第四条の規定による許可申
請があつたときは、屋外集会集団行進又は集団示威行進の実施が公衆の生命、身
体、自由又は財産に対して直接の危険を及ぼすと明らかに認められる場合の外はこ
れを許可しなければならない」として許可が義務づけられており、不許可の場合が
厳格に制限されている点からみても、決して表現の自由を侵す違憲立法ではない。
集団行動の条件が許可であれ、届出であれ、要はそれによつて表現の自由が不当に
制限されなければ差支えないことは、前記最高裁判決の明示するところである。
 また、公衆の生命、身体、自由又は財産に対して直接の危険を及ぼすと明らかに
認められる場合には許可が与えられないことになるが本条例の対象とする集団行動
が、場合によつては群集心理の赴くところ不測の事態を惹起し、公衆の生命、身
体、自由又は財産に対して直接かつ明白な危険を与えるに至ることがあり得ること
に鑑み、公安委員会が公共の福祉の保持の観点から諸般の状況を考慮して適切な条
件を付することは憲法二十一条で保障する表現の自由を侵害することにはならない
というべきである。
 申立人は、京都市公安条例を違憲とする京都地裁判決があることを理由として、
同条例は違憲立法であると主張する。しかし、最高裁の前記憲法判断は変更されて
いないし、右憲法判断に基いて京都市公安条例を合憲とする大阪高裁昭和三十九年
十月二日判決(法律時報昭和四十二年十月号臨時増刊二三六頁)もあり、申立人主
張は失当である。
 なお、京都市公安条例を前記東京都公安条例と対比するとき、東京都条例が不許
可の場合の基準として「公共の安寧保持」などという抽象的概念を用いているのに
対し、京都市公安条例は、「公衆の生命、身体、自由又は財産に対する直接の危
険」が明白に存在するかどうかを挙げ、その具体的特定性に配慮している等の点
で、東京都公安条例等の他の公安条例よりはるかにすぐれた内容をもつものである
ことが明らかである。
 この点からも東京都公安条例が合憲とされる以上、京都市公安条例もまた合憲で
あるといわなければならない。
(二) 申立人は、公安委員会は、許可申請手続に瑕疵のない限りにおいて必ず申
請どおりの進路で許可を与えるべき覊束行為であると主張されるが、公衆の生命、
身体、自由又は財産に対して直接の危険があり、これを防止するために進路の一部
変更の条件等を付すべきやむを得ない場合に該るかどうかの点は、諸般の状況を具
体的に考慮して判断すべき事項であるから、公安委員会はこれについて裁量権を有
するものであり、このことは許可不許可の決定について判示している前記、最高裁
判決の趣旨からも明らかである。
二、本件許可条件を付した理由とその合理性
 ところで、被申立人が本件示威行進を許可するにあたり、これに付した前記進路
の一部変更の条件は、京都市公安条例六条によつてなしたものである。
 そして、同条例が合憲の立法であり、また公安委員会が、公共の福祉の観点か
ら、同条例六条にもとずきいかなる条件を付すかは、その裁量に属するものである
ことについては、前述のとおりである。
 そして本件の場合、以下にのべるとおり、許可申請にかかる予定進路のうち三条
神宮道から解散地点までの道路交通の状況(交通量、工事状況等)および附近住民
等に及ぼす影響を、本件団体の最近の違法行為の数々等と併せ考えながら、綜合勘
案すれば、本件許可条件を付すべき、合理的理由があつたものであり、これが本件
示威行進による表現の自由を侵すものでなく、裁量権の濫用にもあたらないこと明
らかであるから、違法とさるべき理由はない。
(一) 三条神宮道から東山会館に至る道路交通等の状況
(1) 右道路の位置ならびに交通量
―疎乙第三ないし第五号証参照―
(イ) 本件示威行進の申請道路のうち、問題となつている三条神宮道から蹴上に
至るいわゆる三条通り(国道一号線)は、歩車道の区別のある舗装道路であり(た
だし車道中央に、京阪電鉄株式会社―以下京阪電鉄という―の京津線の併用軌道敷
その幅員六・三〇メートルがあり、一部は敷石舗装となつている)車道幅員一七・
六〇メートル、歩道幅員左右各三メートルとなつている。しかしこの車道部分には
右述の如く、京阪電鉄の併用軌道敷があるため、この部分を除くと東行車線は五・
一五メートル、西行車線は六・一五メートルにすぎない。しかして以上の歩車道の
区別は、安全柵で仕切られ、かつ歩道部分は車道より二〇センチメートル高くなつ
ている。そして、歩道には街路樹がならび、これに面して一般の住宅および商店が
ならんでおり、いわゆる商・住宅街を形成している。
(ロ) ところで本件道路は、京阪神より大津市を経て東京方面に通ずる国道一号
線の一部にあたり、五条バイパスが通じた今日でも、なお、上下交通の車輛はおび
ただしく、かつ京阪電鉄京津線が前述の如く併用軌道を通行しているため、交通規
制として、全面的駐車禁止、最高時速四〇粁(併用電鉄の電車時速三五粁制限)、
東山三条交差点において、昼間東山通の北進車両の右折禁止の措置がとられてい
る。
 しかも、本件蹴上交差点は、いわゆる変則三差路(Y字形交差点)で、東山通を
ぬけて京都市内へ出入する自動車交通のネツクとなつている。特に夜間に入ると長
距離大型トラツクまたはダンプカーの通行が頻繁となり、かつそのスピードも往々
にして右制限速度をこえるものがあり、取締に苦慮しているところである。
 しかして本件後述の如きの工事現場附近における平日の午後六時から午後九時ま
での交通量についてみるに、本年一月二日の交通量調査によれば、
東行
午後六時から七時まで 七八四台
同 七時から八時まで 五七四台
同 八時から九時まで 四九九台
西行
午後六時から七時まで 八二八台
同 七時から八時まで 五九四台
同 八時から九時まで 五四六台
となつている。
(ハ) のみならず本件の三条神宮道より東一二〇メートルの地点に歩道陸橋が設
置されており、これは京都市立栗田小学校に通ずるために地元の要望にこたえてつ
くられたものであり、この陸橋のとりつけ部分は前記歩道中におかれているため、
この部分の歩道通行はいちじるしく狭められている。
 しかも、この陸橋の東約一〇メートルの地点から東に向つて一五五・五メートル
の区間にわたつて現在、右京津線の軌道敷工事が行なわれている。この工事は昭和
四四年一月一五日に着手し、同年三月二〇日に完工予定で、施行者京阪電鉄株式会
社大津支社が、下請業者日新建工株式会社をして施行中のものであるが、その道路
使用許可は、昭和四四年一月八日付で所轄の松原警察署長によつて許可済のもので
ある。そしてこの工事内容は、軌道敷の板石をとりはずし、約五〇センチメートル
をほりおこし、砂礫を掘削除去した上、枕木をとりはずし、レールをとりかえ、そ
の下にコンクリート基礎打ちをおこなわんとするもので東行、西行夫々を三つの工
区に分ち、右工事期間中、午後八時から午前六時までの夜間工事を専らとするもの
である。
 そのため、すでに同工事区間一五五・五メートルにわたつては危険防止のため、
防護柵をもつて軌道敷と車道部分を区切り、赤色ボールが設置されており、軌道敷
内への立入りはもちろん、車輛の軌道敷内通行は禁止(事実上不能)されているの
である。
 したがつて、この東行車線は、幅員が前記五・一五メートルよりも、右防護柵等
の設置のため、いちじるしくせばめられ、有効幅員は約三メートルにすぎず、自動
車一台がかろうじて通行できる幅しか存在していない。
(2) 京津軌道の工事日程と附近の状況
―疎乙第六ないし第八号証の一、二参照―
(イ) 右工事は、東行・西行軌道とも、三条神宮道側から五〇メートル間隔でそ
れぞれ三つの工区にわけられ、東行軌道の第一工区については、すでに板石の撤
去、砂礫の除去、枕木の撤収、レールのつけ替えも終り、現在、生コンクリートう
ちの段取りがすすめられており、第二工区は、板石の撤去、砂礫の掘削がすすめら
れ早晩、枕木の撤収、レールのつけかえ、生コンクリートうちの手筈となつてい
る。そして以下順次第三工区に及ぶとともに次に西行軌道の第四、第五、第六工区
が右の順にしたがい同様工事がおこなわれる工程となつているのである。
(ロ) 本件示威行進が行われんとする前後の本工事の状況は、右第一工区の生コ
ンクリートうちや、第二工区の枕木の撤収、レールの付替、生コンクリートうち等
が予定されており、そのため生コン車の搬入、工事用具の配備、ブルトーザーによ
る掘削土砂の散乱工事人夫の作業等、いわゆる土木工事の徹夜作業が続行されてい
るのである。
 しかしてこの工事を一時的にも中止することはできない。けだし、本工事を緊急
に行わねばならないのは、周知の如き昭和四十三年十一月二十二日の京阪電車民家
突入事件が発端となり、その事故原因となつた軌道敷石の浮上を速かに除去し、こ
れを舗装化することが緊急の必要ある工事として突貫工事がすすめられているもの
である。
 すなわち、本件工事現場区間にあたる、京津線蹴上駅西方約三〇〇メートルの地
点でさる十一月二十二日の早朝、浮上していた板石に、同京津線京都行電車の前部
フエンダー(排障器)がのしあげ、前車輪が脱線し、附近のaアパート玄関および
b方のブロツク塀をつきやぶりガラス戸、中屋根等をめちやめちやに損壊し、その
ため、乗客二名が全治一ケ月の重傷をおうという災事をひきおこした。
 この事故の原因は、本件道路の軌道敷用板石が通行車輛の振動のため浮上り、こ
れに前記電車がのしあげたからであり、かかる板石の浮上はおそらく夜間の大型ダ
ンプカーの通行量の増大がもたらしたものと推察され、これを未然に予知調査する
ことは、至難のことが判明した。
 そこで、地元一部住民の反対のため昨年来一時中止になつていた本件軌道工事が
急速にこれが実施を要望する声がたかまり、年末年始の時期をさけ、本年一月下旬
から前記工事の着手となつたものである。
(ハ) しかも、この道路工事に関連して留意さるべきことは、工事のための新レ
ールおよび撤収後の旧レールをはじめ犬釘や枕木、掘穿済の砂礫、工事用具(シヨ
ベル、つるはし、バール、角材およびバイブレーター等)やブルトーザー、生コン
ミキサーカーの搬入および生コン(粘状の石、砂利、生コン)の基礎打が見られ、
かつ一五ないし二〇名におよぶ工事人夫が徹夜作業を続行しているためもつとも憂
慮される投石用の資材や角材の入手も容易であつて、これを予め収去して置くこと
は前記工事日程と右資材の性質に鑑み不可能に近い。
(ニ) しかして、本件三条通りの両側には、前述した民家および商店が密集し、
本件示威行進の通過予定時間頃は、各民家とも表戸をあけて商店は、その営業中に
かかるものである。
 また、本件三条通りの両側歩道はいずれも有効幅員が街路樹や商店等の商品置場
又は自家用バイク等の駐車等のため、著しくせばめられており、特に本件工事現場
の両側約一〇メートルの地点に前記歩道陸橋が設置されているため、その取付部分
の歩道は、幅員が約一メートルとなつている。
 しかして、集団示威行進と関連して看過できないことは、集団示威行進の通過に
は、必ず一般大衆のデモ見物が蝟集するものである。そのためいわゆるデモ隊と一
般大衆との接触、後者へのデモ隊の働きかけやアピールが往々にして勢の赴くまま
混乱を惹起するものであることは、当然予想すべき事柄であろう。
 したがつて、その観点から本件係争道路附近の歩道および車道、周囲の沿道街家
の密集状況等諸般の状況をも十分考量検討すべきものといわねばならない。
(3) 東山会館附近の状況
―疎乙第九ないし第一三号証参照―
(イ) 前記工事現場を通過し約二五〇メートル東進すると、前述した蹴上交差点
に至る。本地点は、いわゆる変則三差路であり、かつ、その中央部を京阪電鉄京津
線が横断しているため、京都市へ出入りする自動車交通のネツクとなつているもの
である。そのことは、前記京阪電車民家突入事件の折、午前六時頃から同一〇時頃
まで約四時間にわたり約一キロメートルに及ぶ自動車の数珠つなぎが露呈し、国道
一号線が完全に痲痺したことに徴しても、これを知ることができよう。そしてその
事故の際右渋滞を避けた車が東山五条バイパスに殺到したため、山科四宮から烏丸
五条間も車の波でいわゆるノロノロ運転となつたのである。(疎乙第八号証の一)
(ロ) しかして、この交差点を左折し、約一七〇メートル北進すると東山会館
(正しくは、京都市健康保険組合東山会館という)に至るが同会館前はもちろん京
都市道仁王門通りの路上であり、その通路幅員は歩道幅一、五メートルを含め一
一・五メートルにすぎない。また会館前仁王門通の交通量は、南北両行で午後八時
から午後九時までの間、一時間に一〇三五台、歩行者一四五名と頻繁である。しか
もこの会館の建物は前面に一〇段の階段があるほか、これを含めて約三六九平方メ
ートルのフロアとなつている。
 しかしながら、このフロア部分はもちろん同会館内の使用については、申立人ら
に対しなんらの使用承認も与えられていない。
 ところで本件団体は、従来集団示威行進を終えても、ただちにいわゆる流れ解散
することはほとんどなく、解散地点でいわゆる集約集会を催するのが通例である
(疎乙第一五号証)。したがつて、解散地点附近の道路交通の状況等は、かかる常
とう的な集約集会の開催との関連において再検討を要するものといわなければなら
ない。
 本件示威行進の参加人員は、申請数約一〇〇〇名となつているが、この行進の出
発に先だち府学連五〇〇名、京大統一会議五〇〇名の集団示威行進が円山公園ラジ
オ塔において合流することが予想される(右府学連等から被申立人に対し、それぞ
れ五〇〇名づつの集団示威行進が本件行進のほかに申請許可されている)。したが
つて参加人員は、計二、〇〇〇名に達することも想定せざるを得ず、かかる多数の
デモ隊が次々に本会館に到達し、次いで本件団体の代表者その他の集約演説やシユ
プレヒコールが続けられるとすれば少なくとも約一時間にわたつて右仁王門通りの
交通をしや断することが予想される。
 とすれば、この交通痲痺は、ただちに東西に波及し、前記蹴上交差点はもちろん
のこと、山科、四宮、大津方面へ、また西は、東山通りを経て、京都市北部一帯に
伝播して行くことが予想される。
(ハ) このように東山会館前を流れ解散の地点とすることは、道路交通等の面か
ら著しい支障が予想されるのであるが、さらにこれらに加えられることは、右仁王
門道に併行して、いわゆるインクラインの軌道敷が約二〇〇メートルにわたり南北
に続いている。この軌道敷は、既に廃道となつているが、軌道敷には、砂利、玉石
等が無数に存し、これがまた前述した投石用の資材と化する恐れのあることは、単
なる危惧というのではあるまい。
 しかして、後述する本件団体の違法行為の数々と関連して一考を要することは、
本会館の北隣に川端警察署南禅寺巡査派出所が所在することである。すなわち昨年
六月二八日、京都府学連が大阪難波地区において大阪市南警察署難波巡査派出所を
襲撃し、同派出所を修復困難に至る程破壊したことは、吾人のいまだ記憶に新らた
なるところである。のみならず、本件南禅寺派出所も昭和四一年七月四日の日米貿
易経済会議抗議の示威行進の際、投石、乱入され、これまた窓硝子、机の損害を被
つているのである。
(ニ) ところで、東山会館前と異り本件許可条件にかかわる解散地点、すなわ
ち、京都市立美術館前は、夜間の交通量もとみに少く、かつまた街路幅員も広く、
近くに同美術館のほか京都府立図書館、京都国立近代美術館等が隣接し、公園地域
となつており、道路も東西、南北に通じ流れ解散には格好の場所である。
 しかして、この解散地点までの三条神宮道交差点からの道路は、約三六〇メート
ルで夜間の街燈その他の照明も十分であり、歩車道の区分がなされ、かつ本件三条
通りのごとく併用軌道敷のごとき通行の障害となるものももちろん存しない。
 そしてこの両者の道路を比較するに付近の住居状況は、殆んど変りがなく、沿道
の一般公衆に訴えんとする集団示威行進の本来の目的に照しても両者の間に何らの
逕庭もない。
(二) 本件団体の最近の違法行為の数々
―疎乙第一四ないし一七号証参照―
(1) 本件団体の京都市内における違法行為の数々
 昭和四三年度において、本件主催団体たる反戦青年委員会と参加団体たる反代々
木系府学連は、京都市内で示威行進した際に、種々の違法行為を敢えて行なつてい
るが(疎乙第一五号証)、そのうち主だつたものをあげると次のとおりとなる。
(イ) cを主催者とする京都府学連は、五月二四日参加人員八〇〇名をもつて、
「府学連統一行動」のため示威行進を行ない、その際同志社大学前、河原町今出
川、河原町広小路、河原町四条、祇園石段下各交差点において、道路一杯にわたる
フランスデモを行なつて交通を完全にと絶せしめ、祇園石段下において規制中の警
察部隊に対し一部デモ隊が激しく投石を行ない、警察官一五名に負傷させるととも
に停車中のタクシー、付近の店舗、八坂神社等に損害を与え、二名の学生の検挙者
を出した。
(ロ) 本件の申立人であるdを主催者とする反戦青年委員会は、六月四日に参加
者一〇〇名をもつて「全学連第三次統一行動」のため示威行進を行ない、その際約
三五名の学生は河原町四条においてジグザグ行進を、四条大和大路から道路一杯に
フランスデモを行なつて交通を停滞させ、警察官一名に暴行を加えるとともに一名
の学生の検挙者を出した。
(ハ) 前記cを主催者とする関西学連は、六月七日参加者一四〇〇名をもつて
「六・七全関西学生統一行動」のため示威行進を行ない、その際同志社大学正門よ
り激しくジグザグ行進を開始し、河原町御池、三条、四条の主要各交差点におい
て、ジグザグ、うず巻きフランスデモを行ない、祇園石段下交差点において併進規
制を解かれるや、同交差点の交通を完全にと絶させる違法行為を敢行し、さらに激
しく投石を行なつて警察官二〇数名を負傷せしめ、学生一二名の検挙者を出した。
(ニ) また、dを主催者とする京都反戦青年委員会は、一〇月八日に参加人員二
〇〇〇名をもつて、反戦、反安保、沖繩基地撤去、e君追悼一〇・八京都労学決起
集会デモ」のため示威行進をなし、その際反代々木系学生一五一〇名は祇園石段
下、四条花見小路、河原町四条、河原町御池各交差点において激しいジグザグ行進
を行ない交通をと絶させるとともに、河原町御池西入る道路一杯に坐り込みを行な
い、京都市中主幹線道路たる御池通の交通を完全に不能におとしいれた。
 また、警察部隊により路上坐り込みを解散させられたデモ隊は、旗ざおを振り上
げて約一時間にわたり抵抗するとともに、市役所広場からレンガ歩道の敷石等で激
しい投石を行ない警察官一〇〇名に負傷を負わせ、付近の建物に被害をおよぼし
た。そしてこのとき二〇名の学生の検挙をみるに至つた。
(ホ) 以上の外、その違反行為は疎乙第十五号証のとおり多数におよんでいる。
(2) 本件団体構成員等の右以外の違法行為の数々
(イ) 京都反戦青年委員会ならびに京都府学連構成員たる全学連各派は、昭和四
二年一〇月八日および一一月一二日東京都羽田空港において行なわれた佐藤首相訪
米阻止ならびに同首相東南アジア訪問阻止を目的とする示威行進に参加し、警察部
隊に対する投石、出動車の焼打ち等の暴力行為をなしたことは記憶に新しいところ
である。
(ロ) また、全学連各派は右のほか昭和四三年一月一八日、同年一二月一八日に
おこなわれた佐世保市の原潜寄港阻止斗争に、また同年三月一〇日、三一日、六月
三〇日、一一月二三日等に成田市三里塚の成田空港設置阻止斗争に、同年三月一〇
日、四月二一日に東京都王子市で行なわれた王子野戦病院開設阻止斗争に、同年六
月一五日、二八日両日大阪市で行なわれた御堂筋デモなどに参加し数々の違法行為
をなし、その間、現在まで京都反戦青年委員会では一名、反代々木系府学連では三
八五名が検挙され、その検挙罪名は暴力行為等処罰に関する法律違反、公務執行妨
害罪、傷害、暴行、公安条例違反、道路交通法違反等多数にわたつている。
(三) 本件示威行進が前記道路交通および附近住民に及ぼす影響
(1) 前述したように、本件示威行進の主催者である京都反戦青年委員会および
その参加団体である府学連等は、最近、京都市内および全国各地の各種デモを、あ
るいは組織し、あるいはこれに参加し、道路一杯にジグザグ行進、フランスデモ、
うず巻きデモをくりかえし、時には交差点にすわりこんで路上を占拠したり、敷石
等をはがして投石をつづけ、警察官や一般民衆に多数の負傷者を生ぜしめ、また附
近民衆に相当の被害を与えたばかりでなく、数々の違法行為をエスカレートし、そ
のため、前述した「暴力行為等処罰に関する法律」違反の罪名等で、多数の検挙者
を出しているものである。
 しかも、このようないわば不覊奔放な集団的暴力の行使は、最近の東大紛争をは
じめ、各学園紛争における全学連系の共斗会議派の暴力行為とあわせ考えるとき、
群衆心理の赴くところ、不測の事態を惹起するおそれ少なしとしない状況下にあ
る。
(2) しかして、本件示威行進の申請にかかわる前記三条神宮道から解散地点附
近までの道路交通等の状況は、かかる数々の違法行為をくりかえしてきた本件主催
団体等の性格にかんがみるとき、甚だ由々しき不祥事態が憂慮されるのである。
 まず、前述した約一五〇メートルにわたる軌道工事が、本件示威行進の通過予定
時間帯に実施されている事実はみおとすことができない。
 すなわち、シヨベル、つるはし、バール、角材およびバイブレーター等の工具類
が現場内にもちこまれ、約二〇名近くの工事人夫が作業に従事しており、しかも生
コン車が次々に生コンクリートを運搬してきたり、他方、ブルトーザーが軌道敷内
の土砂の掘削をしており、その他、新旧のレールや枕木、板石等が存在しているの
である。
 このため、東行、西行とも軌道敷内は立入および通行を禁止され、安全柵で仕切
られているため、東行線の車道幅員は有効約三メートルにせばめられ、並通自動車
一台分が通行できる余裕しかない。そこに、前記生コン車が入りこみ、生コンクリ
ートを投入する作業が加わるため、さなきだに狭められた車道交通は、倍一層の支
障を余儀なくされているのである。
 かかる状況下にあるところに、本件の千数百名に及ぶ示威行進が東進せんとする
と、必ずやこの部分の道路交通は、その間途絶のやむなきにいたることは必至であ
る。
 しかして、この一五五・五メートルにわたる交通の麻痺が一旦おこるとそれは直
ちに車輛に波及し、東は、蹴上交さ点をへて山科、四宮、大津、西は三条神宮道、
東山三条、三条京阪、三条河原町の各主要交さ点に伝播し、京都市の東部および北
部一帯の交通状況を数時間にわたり麻痺渋滞させることとなる。
(3) しかも、本件デモの主催団体等は、前記違法行為の数々をくりかえしつづ
けてきた。
 したがつて、前記工事現場の状況は、右デモ隊の投石や暴行等に対して、いわば
格好の材料を与えまじき危険性を有している。すなわち、前記工事用具やレール、
枕木、犬釘、安全柵、安全灯ありとあらゆる資材が、一挙に暴具と化し、しかも砂
礫、コンクリート(粘状で砂利、石を含んでいる。)、板石は予めこれを他に移転
しておくことは不可能である。また、その間工事を中止することも前記工事の緊急
性、工事日程のスケージユール上困難であるのみならず、万一、これらの工事現場
内にデモ隊が乱入し(乱入を防ぐすべは、道路内であるため不可能である。)、工
事現場が荒らされた場合、その損害は尠なからず、かつ、これが復旧に必要以上の
多額の費用と日時を要するに至るであろう。
 そして、この一帯でもし乱暴狼藉がおこなわれるや、それはその附近に密集する
民家と商店に波及し、表戸をあけて営業中の商店や、民家の建物または営業その他
住民の生命、身体、財産に不測の被害と混乱をまきおこさないとも限らない。
 由来、この一帯は閑静な東山山麓の好個の住宅地帯であり、その静穏は京都人に
ふかく親しまれ、京の誇りともなつている。
 そのような東山一帯が、一種の乱斗の場と化すことは、地域住民の甚だ迷惑かつ
遺憾な出来事といわざるをえない。
(4) のみならず、デモ隊の通過には必然的に一般大衆のデモ見物がつきまとい
がちであり、本件附近一帯は前述した歩道の有効幅員がいちじるしく狭く、かつ、
栗田小学校前の陸橋がその通行を一層せばめているので、その面からもこの示威行
進の車道通行は道路交通全般に対し、いちじるしい支障をもたらすものといわねば
ならない。
 しかして、本件示威行進は、前記三条通りを車道左側端に沿つて東進してくるも
のである。
 それは三条河原町から右折後、京阪電鉄三条駅前の混雑、東山三条交差点の輻
輳、解散地点への左折の容易さや対向車両との衝突などを考慮して、デモ隊の安全
と交通への支障を総合勘案して、かくなつたものにほかならない。
 そこで、かかる車道左側端に沿つて東進してきた場合、解散地点を東山会館とす
ると、前述した仁王門通りの杜絶が現出し、再び、交通麻痺が東西南北へ波及して
いくこととなる。
 すなわち東山会館用地については、前述したように申立人にその使用がみとめて
おらず、そのフロアーの面積は階段部分を含んで、三六九平方メートルにすぎない
から、これを無断使用したとしても、いわゆる「集約集会」が催された場合、同地
へのデモ隊の到達までの時間を考えるなら、参加人員千数百名が同路上を約一時間
にわたり占拠することは必至である。
 そして、その間の通行車両は、一〇三五台、歩行者一四五名と予想されるので、
それが一時的に停滞すれば、南北進それぞれ約二五〇〇メートルにわたる数珠つな
ぎとなり、それが前記蹴上交差点のネツク地帯と倍一層渋滞され、その交通麻痺
は、山科、四宮、東山バイパスはもちろん京都市の東部、北部一帯に伝播するに至
る。
 しかも、この東山会館附近には、インクラインの廃道数か所所在し、暴力投石の
素材は無数に散在している。
 のみならず、問題の南禅寺派出所が隣接しているので、いわゆる交番襲撃の危険
なしとしないのである。
(5) ところで一方、本件条件による変更後の解散地点は、京都市立美術館前附
近であるから、前述した公園地域の実情にかんがみ、附近一帯には相当広範囲の広
場と街路があり、しかも、夜間交通量はとみに少ない地域であり、夜間照明もま
た、街路灯のほか完備しているので、かりに申立人らが通例の如く集約集会をひら
くとしても、一般公衆はもちろん附近の建物や施設に影響を及ぼすことは殆んど考
えられない。
 しかも、ここに至るには三条神宮道を左折すればたり、この左折後美術館までの
交通も、さほどの量ではないから、三条神宮道交差点後の南北交通の整理も、頗る
容易に行なうことが可能である。
(6) 右にのべたとおり、被申立人は、公衆の生命、身体、自由に対する直接の
危険を防止するためのもつとも適切な措置として、京都市公安条例六条にもとづ
き、本件の許可条例を付したものである。
 しかるに申立人は、本件許可条件のとおり行進経路を変更するときは、本件示威
行進の目的を達することはできないから、右条件は、憲法二一条で保障された表現
の自由を侵害するものであるという。
 しかしながら、集団示威行進は、それによつて、その目的、主張に対する一般市
民の共感を呼びかけることを要素とし、その点に表現の自由としての本質があるの
であり、また、一方表現の自由といえども、国民はこれを濫用することができず、
つねに公共の福祉のためにこれを利用する責任を負うものであることは、前述のと
おりである。
 ところで、本件許可条件は、許可申請にかかる行進経路のうち三条神宮道から解
散地点までの八九五メートル(全体の二二・三パーセント)の部分について、前記
のとおり公衆の生命身体自由または財産に対する直接の危険防止の見地から変更を
加えたものであるにすぎず、本件示威行進進路の主要部分であり、かつ、京都市の
中心街で、一般市民への呼びかけの見地から最も効果的であると考えられる四条通
り、河原町通り等については、許可申請どおり行進せしめるものである。
 また、変更にかかわる進路も附近の状況は、許可申請の進路附近の状況もさほど
の逕庭はなく、本件示威行進の目的は充分に達せられ、一般市民に対する呼びかけ
の効果が減殺されるおそれは全くない。
 また仮りに、本件許可条件の付与によつて、右の効果になんらかの影響があると
しても、それが極めて些少のものであり、公共の福祉の制約により、受忍すべき程
度を越えるものではないことは明らかである。
 よつて本件許可条件は、申立人らの本件示威行進による表現の自由を侵すもので
はなく、憲法二一条に反するものではないといわなければならない。
 以上のとおり、本件許可条件は、これを付するにつき、合理的理由が存し、同条
件を違法として取消すべき理由は何ら存しないから、本件申立は、本案について理
由がないことが明らかであるというべきである。
第三、執行停止の緊急の必要性がない。
 本件許可処分は、すでにのべたように、本件示威行進を許さないことを内容とす
るものではなく、許可申請にかかる行進経路のうち三条神宮道から解散地点までの
八九五メートル(全体の二二・三パーセント)の部分について、前記のとおり、公
衆の生命身体自由または財産に対する直接の危険防止の見地から、変更を加えたも
のであるにすぎない。
 したがつて、本件許可条件に従つて行進しても、本件示威行進の目的は充分に達
せられ、一般市民に対する呼びかけの効果が減殺されるおそれは全くない。
 また仮りに、本件許可条件の付与によつて、右の効果になんらかの影響があると
しても、それが極めて些少のものであることは明らかであり、これに反して前述し
たように、本件許可条件が公共の福祉に裨益するところはきわめて大きいといわね
ばならないから、かような場合には、本件許可条件の執行停止を求めるべき緊急の
必要性は存しないものというべきである。
第四、本件の執行停止がなされた場合には、公共の福祉に重大な影響を及ぼすもの
である。
 本件示威行進が、許可申請のとおり実施されるとすれば、神宮道三条から東山会
館前の解散予定地点までの交通が著しく阻害されるだけでなく、交通事故の発生も
充分予測されるところである。
 なかんずく、前記工事中の道路部分においては、その危険性がきわめて著しいこ
とは明らかである。
 のみならず、本件示威行進主催団体および参加団体の前記性格と数々の違法行為
等に徴すれば、工事中の電車軌道部分から採取した石、砂利等による投石や、工事
資材等を使用しての暴行等収拾のつかない混乱状態が現出することは必至であり、
このため一般通行人や附近民家にも被害が及び、静閑をもつて京の誇りとされる東
山一帯が一種異常な騒乱状態におちいることが憂慮されるのである。
 したがつて、本件について許可申請どおりの行進が実施されたならば、同地域に
おける公衆の生命身体自由または財産に直接の危険が発生するおそれが著しく、ま
さに公共の福祉に重大なおそれがある場合に該ること明らかである。
第五、結語
 以上のとおり、本件許可条件は、公衆の生命身体自由または財産に対する直接の
危険発生防止という重大なる公共の福祉維持のための、必要最少限度の措置という
べきであり、これによつて申立人の意思に反する制約を課することになつても、そ
の故に本件許可処分が違法視される理由はなんら存在しないものといわざるを得な
い。
 よつて、本件申立はすみやかに却下さるべきである。

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