弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人会社を科料六〇〇円に処する。
     原審における訴訟費用中証人Aに支給した分を除くその余の費用は全部
被告人会社の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人岡時寿作成の控訴趣意書、同弁護人及び弁護人村林隆
一連名作成の控訴趣意書補充書及び控訴趣意書再補充書各記載のとおりであり、こ
れに対する答弁は、検察官野崎賢造作成の答弁書記載のとおりであるから、いずれ
もこれを引用する。
 控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の主張について
 論旨は要するに、未成年者飲酒禁止法四条三項により準用される明治三三年法律
五二号(法人ニ於テ租税ニ関シ事犯アリタル場合ニ関スル法律)(以下、法律五二
号と略称する)二条によると「法人ヲ処罰スベキ場合ニ於テハ法人ノ代表者ヲ以テ
被告人トス」と定めており、右各法条は昭和二二年の両法律の改正に際しても、そ
のまま存置されているのであるが、それは、法人の代表者を被告人とすることによ
り、代表者の監督責任を自覚させるという合理的な政策的理由によるものである。
しかるに原判決は右法律五二号二条は空文化したとして、これを無視したのである
が、これは裁判所が消極的立法権を有することになり、原審の訴訟手続は右法条の
みならず憲法四一条、七六条三項に違反し、右違反は判決に影響を及ぼすことが明
らかである、というのである。
 よつて案ずるに、未成年者飲酒禁止法四条三項が「法律五二号ハ本法ニ依ル犯罪
ニ之ヲ準用ス」と規定し、法律五二号二条が「法人ヲ処罰スベキ場合ニ於テハ法人
ノ代表者ヲ以テ被告人トス」と規定していること、未成年者飲酒禁止法は昭和二二
年一二月二二日法律二二三号民法の改正に伴う関係法律の整理に関する法律によ
り、また法律五二号は同年四月一六日法律六一号検察庁法により、それぞれごく一
部の改正をみたが、現在まで前記各法条が削除されることなくそのまま存置されて
いることは、所論のとおりである。
 <要旨第一>しかしながら、明治二三年の刑事訴訟法(同年一一月一日施行)は法
人に被告人としての当事者能力を認めなかつたため法人を処罰する場合
における手続について何等規定するところがなかつたが、明治三三年に至り法律五
二号一条において法人を処罰する特別規定を設けた結果、これに対処するため刑事
訴訟法を改正することなく法律五二号二条においてその手続を定め爾来法人を処罰
する各種の特別法中に右法律を準用する旨の規定をおいたものと解せられるとこ
ろ、旧刑事訴訟法(大正一一年法律七五号、同一三年一月一日施行)は、その三六
条一項において「被告人法人ナルトキハ其ノ代表者訴訟行為ニ付之ヲ代表ス」と定
め、附則六一九条に「本法施行前法人ヲ処罰スベキモノトシテ其ノ代表者ヲ被告人
ト為シタル事件ニ付テハ本法施行ノ日ヨリ法人ヲ被告人トス」と規定して、法人に
当事者能力を認めるに至り、現行刑事訴訟法もその二七条一項に、同趣旨の規定を
おいて、法人に当事者能力を認めているのであるから、法人を処罰すべき場合に
は、当然、法人を被告人とすべきものというべく、法律五二号二条は旧刑事訴訟法
の施行に伴い、実質上改廃せられたものと解すべきである。ただ、右法条が現在に
至るまで削除をみることなく、形式的に存続しているのは、立法の不備というほか
はない。してみれば、法律五二号二条が現在に至るまでそのまま存置されているの
は、法人の代表者を被告人とすることにより、代表者の監督責任を自覚させようと
いう合理的な立法政策に基くものであり、今なおその効力が存すとの所論は、弁護
人らの独目の見解であつて採るをえない。
 しかして、本件においては、未成年者飲酒禁止法一条三項、四条二項により営業
者である株式会社Bを被告人として訴追及び審判がなされ、その代表者である代表
取締役Cがすべての訴訟行為を代表して行なつたものであることは、記録によつて
明らかなところであるから、原審の訴訟手続は刑事訴訟法二七条一項に適合するも
のであつて、記録を精査しても法令違反の点を見出すことができない。論旨は理由
がない。
 控訴趣意中、事実誤認の主張について
論旨は、(一)被告人会社従業員Dは本件違反行為当時、Eが未成年者であること
を知らなかつたものである。(二)仮りに、DがEを二〇才に満たない者であると
認識していたとしても、Dは成年者と未成年者とが来店したときと同様の気持で、
コップは二個出したが、ビールは成年者(Aを成年者と認識していた)に販売供与
したものであつて、Eに対する販売供与行為はないというのである。
 しかしながら、原判決挙示の各証拠、特に証人E、同D(二回)の原審公判廷で
の各供述を総合すると、DはEを一七、入才、Aを二〇才ないし二一才位と思つた
こと及びEとAは友人であるから二人で仲良く割勘で飲むのであろうと思いなが
ら、コップ二個とビール合計三本を提供したことが認められる。もつとも、証人D
は最初、右認定にそう供述をしながら、その後、一たん右認定に反し、各所論にそ
う供述をしたけれども、すぐ後に同証人自らこれを否定し、再び右認定にそう供述
に戻つているものであり、しかも右各所論にそう供述はあいまいで、弁護人の誘導
的な質問に迎合して答えたものとの疑が濃厚であるからこれを信用することはでき
ない。そして、前記認定の事実によれば、Dは、Eが満二〇年に満たない者である
ことを知りながら、同人にビールを販売供与したものというべく、所論はいずれも
肯認することができず、この点に関する論旨も理由がない。
 控訴趣意中、法令の適用の誤りの主張について
 (一) 論旨は、未成年者飲酒禁止法は、営業者に故意、過失が存在しないとき
でも処罰するものであるから、適法手続に関する憲法三一条に違反するものであ
る。というのである。
 <要旨第二>しかしながら、未成年者飲酒禁止法四条二項のいわゆる転嫁罰規定
は、其の業態上酒類を販売又は供与する営業者の代理人、同居者、雇人
其の他の従業者が其の業務に関して、満二〇才に至らない者の飲用に供することを
知つて酒類を販売又は供与した行為に対し営業者が知つている場合は勿論知らない
場合においても営業者として右行為者らの選任、監督その他違反行為を防止するた
めに必要な注意を尽さなかつた過失のあることを前提とし、かつ、その過失の存在
を推定した規定と解すべきであるから、営業者において右に関する注意を尽したこ
との証明がなされない限り、営業者は自己の指導によらないことの理由だけではそ
の刑責を免れないとする法意であると解するを相当とする。それ故右規定は、故意
過失もなき営業者を処罰するものであるとの前提に立脚して、これを憲法三一条違
反であるとする所論はその前提を欠くものであつて理由がない。
 (二) 論旨は、原判決は被告人において行為者の選任、監督その他違反行為を
防止するために必要な注意を尽さなかつた等の過失が存在したか否かについて審理
せず、従つてこれが判断をせずに被告人を有罪としたのであるから、明らかに法令
の適用に誤りがあり、判決に影響をすること明らかである。というのである。
 <要旨第三>しかしながら、前記のごとく未成年者飲酒禁止法四条二項は、営業者
に違反行為者の選任、監督その他違反行為を防止するために必要な注意
を尽さなかつた過失の存在を推定した規定であるから、右過失の存在は検察官にお
いて主張及び立証をすることを要せず、営業者である被告人において過失の不存在
を主張及び立証して、右推定をくつがえさないかぎり、被告人はその刑責を免れな
いものというべく、従つて有罪判決中に、被告人に過失のあることを明示すること
を要しないものと解する。しかして、記録によれば、原審公判廷において、証人D
(第二回公判)及び被告人会社代表者Cに対し、被告人会社代表者の過失の存否に
関連する尋問ないし質問がなされており、証人D(二回)の原審公判廷における証
言によれば、被告人会社の店に未成年者には酒類を販売しない旨のはり紙はしてあ
るけれども、同人は被告人会社代表者から未成年者には酒類を販売してはならない
旨の指示をうけたことがないことが認められる。もつとも、被告人会社代表者は原
審公判廷において、同人がDを雇うとき履歴書をとり、役場への照会をし、Dに対
し、未成年者には絶対に酒類を販売してはならない、若い学生や運転手には酒を売
つてはならない旨二、三度口頭で注意した。一月のうち一五日位、一日一時間ない
し三時間位店に出ている旨供述しているけれども、前記証人Dの供述及び被告人会
社代表者の司法警察職員に対する供述調書に照らし、にわかに信用することができ
ず、仮りに、右供述が真実であるとしても、右の程度では、まだ被告人会社代表者
が従業者であるDの違反行為を防止するために相当の注意を尽したとはいえない
し、記録を精査しても、他に相当の注意を尽したことを認めるに足る資料は存在し
ない。以上の諸点にかんがみると、原審は、被告人会社代表者に過失があつたか否
かについても判断したうえ判決をしたものと考えられるので、この点に関する論旨
も理由がない。
 (三) 論旨は、未成年者飲酒禁止法四条二項にいわゆる営業者とは自然人とし
ての営業者を指し、法人を含まない。同条三項により、法律五二号一条の準用をま
つてはじめて営業者である法人を処罰しうるのであるところ、原判決は右法条を適
用せず、未成年者飲酒禁止法一条三項、四条二項、三条のみを適用しているのは、
法令の適用に誤りがあると主張する。
 よつて案ずるに、原判決が、法律五二号一条を適用せず、未成年者飲酒禁止法一
条三項、四条二項、三条のみを適用して、被告人会社を処断していることは所論の
とおりである。
 <要旨第四>そして、わが法制上、犯罪の主体となるものは通常自然人のみであつ
て、法人は原則として犯罪能力を有せず、特に法人を処罰する法規の存
在する場合にのみ、法人に刑罰を科することが許されると解すべきことも所論のと
おりである。しかし、法人の処罰につき、明文の規定がない場合であつても、行政
法規の規定自体の解釈から明らかに法人の処罰をみとめうるときは、この規定を刑
法八条にいわゆる特別の規定と解して法人を処罰することができるものと解すべき
であるから、未成年者飲酒禁止法四条二項の規定自体の解釈から明らかに法人の処
罰をみとめうるか否かにつき考えるに、同条項は前記の如く営業者が行為者の選
任、監督その他違反行為を防止するために必要な注意を尽さなかつた過失の存在を
推定した規定であるから、倫理的主体性を有しない法人は、同条にいう営業者に当
然には含まれるものとは解し難い。もつとも従業者が法人の業務に関して違反行為
をなした場合に、法人を処罰しようとするのは、自然人である代表者が従業者に対
する選任、監督等の注意義務を懈怠した点につき、一般予防的見地から、法人とそ
の機関という関係に着目して、法人にその責任を帰属せしめようとするものではあ
るが、ただかような理由だけから、法人を処罰するという明文がないのに、法人の
処罰をみとめることは、罪刑法定主義に反するものといわなければならないし、未
成年者飲酒禁止法が改正後も四条三項の準用規定を存置しておる趣旨からすると営
業者が法人である場合において法律五二号一条を準用して、その法人を処罰しよう
としているものと解することによつて、初めて右準用規定の存在理由があるものと
考えられるから前記営業者には法人が含まれていないことが明らかである。しかる
に原判決は右各法条を適用せず、未成年者飲酒禁止法一条三項、四条二項、三条の
みを適用して法人である被告人会社を処断したのであつて、法令の解釈適用を誤つ
たものというべく、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判
決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。
 よつて刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条
但書に従い、さらに次のとおり判決する。
 罪となるべき事実及び証拠はいずれも原判示のとおりであるから、これを引用す
る。
 法令は、原判示各法条のほか未成年者飲酒禁止法四条三項、明治三三年法律五二
号一条、罰金等臨時措置法二条二項を適用する。
 よつて、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 笠松義資 裁判官 中田勝三 裁判官 佐古田英郎)

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