弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
被告人を懲役2年6か月に処する。
未決勾留日数中170日をその刑に算入する。
被告人の管理するA名義の通常郵便貯金債権(口座番号甲-乙)の残高のうち
金58万9390円及びA名義の株式会社B銀行に対する普通預金債権(口座番号丙)
の残高のうち金51万8343円を没収する。
神戸地方検察庁において保管中の現金210万円(平成18年領第98号符号1
4259)及びわいせつDVD1万3144枚(平成18年領第98号の別紙記載の各符
号のもの)を没収する。
押収してある覚せい剤乾固物1包(平成18年押第6号の1)及びチャック付き
ポリ袋入り覚せい剤白色結晶粉末1袋(同号の2)を没収する。
被告人から金1169万6727円を追徴する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1大阪市a区b町c丁目d番e号f号室に事務所を置きCの名前で男女の性交の場面及,「」
び男女の性器等を露骨に撮影したわいせつなDVDの販売を業として営んでいたものであ
るが,平成17年10月3日から同年11月20日までの間,Dほか多数人に対して,前
記わいせつなDVDを同人方等に郵送して販売するに当たり,前記Dほか多数人をして,
被告人が管理するA名義の通常郵便貯金口座又は同人名義の株式会社B銀行の普通預金口
座に前記わいせつなDVDの販売代金及び送料をそれぞれ振込入金させ,合計1490万
4460円を同口座に預け入れ,もって,犯罪収益等の取得につき事実を仮装した。
第2E及びFと共謀の上,平成17年11月21日,前記f号室において,販売して不
特定又は多数の者に提供する目的で,児童を相手方とする性交又は性交類似行為に係る児
童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであり,かつ
,男女の性交の場面及び男女の性器等を露骨に撮影したわいせつなDVD50枚(平成1
8年領第98号符号11530から11543まで,11547から11552まで,11833から11836まで,11
877,12286から12289まで,12322,12323,12346,12355から12358まで,12379から12382
まで,12392,12369から12373まで,12404から12406まで及び13749)を所持するとともに
,販売する目的で,男女の性交の場面及び男女の性器等を露骨に撮影したわいせつなDV
D1万3094枚(同号の別紙記載の各符号のもののうち前掲の各符号以外のもの)を所
持した。
第3法定の除外事由がないのに,平成17年11月上旬ころから同月21日までの間,
大阪市内又はその周辺において,1-フエニル-2-ジメチルアミノプロパン又はその塩
類若干量を自己の身体に摂取し,もって,覚せい剤原料を使用した。
第4みだりに,第2記載の日及び場所において,覚せい剤である塩酸フエニルメチルア
ミノプロパン及び覚せい剤原料である1-フエニル-2-ジメチルアミノプロパンの結晶
約3.865グラム(平成18年押第6号の1及び2はその鑑定残量)並びに覚せい剤で
ある塩酸フエニルメチルアミノプロパン約0.004グラムを含有する水溶液を所持した

(補足説明)
第1弁護人及び被告人の主張
弁護人及び被告人は,判示第3の覚せい剤原料の使用について,G社長なる人物が
被告人の飲んでいた缶入りの緑茶に金魚似の魚型のプラスチックケースに入った液体を入
れてもらって飲んだことがあるが,被告人はその液体が覚せい剤原料であるとは知らなか
ったのであって,被告人が覚せい剤原料をそれと知りながら使用した事実はない,判示第
4の覚せい剤及び覚せい剤原料以下覚せい剤等ということがあるの所持について(「」。)
,被告人が居住し,稼働していた判示第1記載のマンションの居室(以下「f号室」とい
う内から発見された覚せい剤等はG社長なる人物のものであり被告人はそれが覚せ。),,
い剤等であるとは知らなかったとして,いずれも被告人は無罪である旨主張するので,判
示第3及び第4の事実を認定した理由について補足して説明する。
第2覚せい剤及び覚せい剤原料の所持の事実(判示第4の事実)について
1証拠上明らかな事実
関係各証拠によれば,以下の事実が明らかに認められる。
(1)被告人は,平成17年9月20日ころから,判示第4記載の日(同年11月21
),,,「」,,日までf号室において他の者とともにCの名前でインターネットを通じて
わいせつDVDの販売を業としていた。そして,同年10月ころまでは被告人,F及びH
という男の3人が,そのころ以降は被告人,F及びEの3人が,宣伝及び注文受付用のホ
ームページの作成・更新,客からの注文メールの確認,客へのメール送信,わいせつDV
Dの複製,発送,代金の入金される口座の管理,わいせつDVDの原盤や消耗品等の購入
等,わいせつDVDの販売に必要なすべての業務を行っており,中でも,被告人は,責任
者として,代金の入金される口座の管理を含む売上管理や他の従業員の管理等を行ってお
り,また,同室に居住していた。
(2)判示第4記載の日,f号室においてわいせつDVD所持を被疑事実とする捜索差
押え以下本件捜索差押えというが行われた際同室の南側和室6畳間の机以下(「」。),(
「本件机」という)の上に置かれたレターケース(以下「本件レターケース」という)。。
の中から,覚せい剤及び覚せい剤原料(覚せい剤乾固物)の入ったストローが差し込まれ
たガラス瓶以下本件ガラス瓶というが同レターケースの上に置かれたプラスチ(「」。),
ック製のかご以下本件かごというに入れられていた香醋の袋の中から覚せい剤(「」。),
及び覚せい剤原料の入ったポリ袋覚せい剤入りポリ袋以下本件ポリ袋というが(。「」。)
同机の上に置いてあった黒色財布以下本件財布というの中から覚せい剤水溶,(「」。),
液入りの金魚似の魚型プラスチックケース以下本件金魚容器というが発見された(「」。)
(なお,以下これらの覚せい剤をまとめて「本件覚せい剤等」という。。)
(3)本件レターケースは4段のものであり,下から1段目には,本件ガラス瓶のほか
,被告人の所有する音楽DVD及びCDが,2段目には,わいせつDVDの売上金の一部
である現金合計210万円が三つの封筒に分けて,3段目には,被告人が個人的に行って
いた飲食店のホステスや被告人がわいせつDVDの販売業に必要な消耗品等を購入してい
た業者の名刺が入れられていたが,このほか,ふだんは,わいせつDVDの代金が入金さ
れる判示第1記載のA名義の郵便貯金口座の通帳が4段目に入れられていたが,本件捜索
差押えの際は,被告人がちょうど同口座に入金されているわいせつDVDの代金を郵便局
に行って引きだそうと考え,同通帳とふだんは本件財布の中に入れられていた同口座のキ
ャッシュカードとを取り出して本件机の上に置いていた。
また,本件財布も,本件捜索差押えの際は,本件机の上に置かれていたが,これ
は,本件捜索差押えの際,被告人が,警察官から身分証明書の呈示を求められたことから
,本件レターケースの上段から本件財布を取り出し,その中から被告人の運転免許証を取
り出して警察官に示した後,被告人が本件レターケースに戻さずに前記机の上に置いたこ
とによるものであって,ふだんは,本件レターケースの4段目に入れられていた。
(4)本件財布の中には,覚せい剤水溶液の入った本件金魚容器のほか,ふだんは,前
記郵便貯金口座のキャッシュカード,I名義のキャッシュカード2枚,被告人がわいせつ
DVDの販売業に必要な消耗品等を購入していた業者のポイントカード,わいせつDVD
の売上金の一部である現金及び被告人の運転免許証等が入れられていた。被告人は,この
財布の中から,f号室におけるわいせつDVDの販売業の従業員であり,判示第2の犯行
の共犯者であるE及びFに対する日当を支払っていたほか,前記郵便貯金口座に入金され
たわいせつDVDの代金を郵便局で引き出す際に本件財布を持ち出すことがあった。
(5)本件机には,本件レターケースのほかパソコン1台が置かれていたが,このパソ
コンは「C」のホームページの更新をするためのものとして被告人が専用していたもので
あり,本件机が置かれていた南側和室6畳間は,専ら被告人が使用していた部屋であった

2以上認定の事実からすれば,本件レターケース,本件かご及び本件財布は,いずれ
も,専ら被告人の所有物がその中に入れられ,被告人が専ら管理,使用するもの,あるい
はこれと一体的に管理されているものであることが明らかであって,これらの中に入れら
れていた本件覚せい剤等についても,被告人がこれらを自己の支配下に置いて所持してい
たことは明らかであり,また,被告人がこれらを覚せい剤等であると認識していたことも
強く推認される。
3これに対して,被告人は,公判廷及び捜査段階において,本件覚せい剤等について
,①本件金魚容器に入っていた覚せい剤水溶液については,同容器は本件財布の所有者で
あるG社長が本件財布の中に入れたと思われ,被告人自身は本件財布の中に同容器が入っ
ていることは本件捜索差押えの際に初めて気付いた,②本件ガラス瓶に入っていた覚せい
剤及び覚せい剤原料についても,本件ガラス瓶はG社長のもので,中の白い固形物は滋養
強壮剤か何かと思っていた,③香醋の袋の中の本件ポリ袋に入っていた覚せい剤及び覚せ
い剤原料についても,香醋の袋はG社長のもので,G社長がこの袋から香醋を取り出して
飲んでいたのを見たことがあるが,被告人自身は中を見たことがない旨供述する。
しかし,この被告人の供述は,以下に述べる理由から,到底信用することができな
い。
(1)まず,被告人の前記各供述は,いずれもG社長なる人物の存在を前提とするもの
であるが,その真偽を問題にする以前に,その内容自体が不自然,不合理である。すなわ
ち,
ア前記①の供述については,本件財布には,前記のとおり,ふだんは,前記郵便貯
金口座のキャッシュカード,被告人が消耗品を購入していた業者のポイントカード,わい
せつDVDの売上金の一部である現金及び被告人の運転免許証等が入れられていたもので
あって,被告人は本件財布を日常的に使用していたものと認められる。そうすると,被告
人以外の者が,被告人に無断で本件金魚容器を本件財布の中に入れるということそれ自体
が考え難いことである上,被告人がこれに気付かないということも考え難い。被告人は,
G社長が平成17年11月19日の未明にf号室に来た際に入れたと思うが,同日が土曜
日であり,本件捜索差押えの際まで前記キャッシュカードを使う必要がなかったため,本
件財布を使用しなかった旨供述するが,仮にその供述する時期に本件財布に本件金魚容器
が入れられたとしても,被告人は,同月21日,本件捜索差押えの前に,本件財布から前
記キャッシュカードを取り出し,前記机の上に置いていたのであり,少なくともその際に
は本件金魚容器が入れられていることを知り得たはずであるから,被告人の前記供述は,
不自然,不合理であるというほかない。
イそして,被告人の前記②の供述については,本件ガラス瓶は透明であって外から
中身が見えるものであり,被告人もこれを見ているところ,ストローが差し込まれた本件
ガラス瓶の中の白い固形物を見て滋養強壮剤か何かと思ったというのは,それ自体不自然
であるし,被告人の前記③の供述についても,被告人の供述によれば,G社長なる人物は
,香醋の袋に覚せい剤の入ったポリ袋を香醋とともに入れており,本件捜索差押えの際に
は香醋だけがすべて費消され,覚せい剤のみが残っていたことになるが,香醋の袋に香醋
とともに覚せい剤を保管するのは,覚せい剤の隠匿のためと考えるのが自然であるところ
,そうであれば香醋がなくなったにもかかわらず,そのまま覚せい剤のみを香醋の袋に入
れ続けるのは不自然であって,被告人のこの供述もまた不自然,不合理である。
(2)また,そもそも,被告人の前記各供述がその存在を前提とするG社長なる人物が
存在していることは証拠上うかがわれず,被告人の前記各供述は,この点でも虚偽である
ことが明らかというべきである。すなわち,
ア被告人が捜査段階及び公判廷で供述する被告人とG社長なる人物の関係は,要す
るに,①平成14年3月ころに大阪ミナミのバカラ賭博場でG社長と知り合い,同年4月
ころ,G社長に頼まれて,時々,大阪市a区g町にあるJというマンションの一室(以下「
Jというへ行って封筒を受け取ってG社長に渡すようになりG社長がJにおいてわ」。),
いせつビデオ及びDVDの販売業を行っていることが分かった,②同年5月ころ,被告人
は,G社長に頼まれ,判示第2の犯行の共犯者であるEを,Jにおけるわいせつビデオ等
の販売業の従業員として面接した,③平成16年4月ころからは,やはりG社長から頼ま
れて大阪市h区iにあるKというマンションの一室(以下「K」という)へ行って封筒を。
受け取ってG社長に渡すようになり,G社長がKにおいてもわいせつDVDの販売業を行
っていることが分かった,④同年10月ころ,G社長から,KにおけるわいせつDVDの
販売業を手伝うように言われて,1日あたり1万円を超える日当を受け取って働くように
なり,同室におけるわいせつDVDの販売業の名称が「C」であることが分かった,⑤平
成17年5月初めころに「C」はKから大阪市h区jにあるLというマンションの一室に
移転し,その際,G社長から言われて被告人が売上げの管理,従業員の管理等の一切を任
される責任者となったが,被告人は1日1万5000円の日当制で雇われたにすぎず,経
営者はG社長であった⑥同年9月中旬ころCはLからf号室に移転したが被告人,,「」,
は以前と同様,日当制で雇われた責任者にすぎず,経営者はG社長であった,⑦G社長は
,二,三日あるいは三,四日に一回,深夜,他の従業員がいない時間にf号室を訪れて,
わいせつDVDの売上げから経費等を除いた額を持ち帰っていた,⑧G社長のフルネーム
又は本名,電話番号,住所は分からないが,被告人の方からG社長に連絡を取る必要があ
る場合は,大阪ミナミのバカラ賭博場に行けば会える,というものである。
イしかし,被告人が,G社長に日当制で雇われているというにもかかわらず,雇い
主のフルネームあるいは本名,電話番号,住所をおよそ知らないというのは極めて不自然
,不合理である。しかも,被告人は,G社長から被告人の携帯電話にG社長が発信者番号
を通知して電話をかけてきたことがあったにもかかわらず,それを保存しなかったなどと
述べるが,その不合理さは言を待たない。また,G社長が,二,三日あるいは三,四日に
一回,深夜,他の従業員がいない時間に訪れて売上げを持ち帰っていたという点について
も,そのようなことがあれば,たとえ深夜であったとしても,他の従業員が来訪者の存在
を知り,又は疑う状況,例えば来訪のこん跡等があるのが自然であるのに,f号室におけ
るわいせつDVDの販売業の従業員であったE及びFは,G社長の存在はもちろん,名前
すら聞いたことがない,被告人及び他の従業員のほかにf号室を訪れた者はいない,被告
人から被告人の上に経営者がいると聞いたこともなく,そのような経営者の存在をうかが
わせる状況もなかった旨一致して供述していることからしても,不自然である。しかも,
平成14年3月に知り合ったばかりであり,同年4月から封筒の受取等の簡単なことを時
々頼まれていたにすぎない被告人が,わいせつビデオ等の販売業の従業員の面接を依頼さ
れたというのも,不自然,不合理である。
ウしかも,証拠によれば,①平成15年8月のKの賃貸借契約書には,被告人の顔
写真がはり付けられており,被告人がIと称して同室の賃貸者契約を締結しているが,こ
の時期は,いまだ被告人は時々Jに出入りしていただけであり,Kにおける「C」の名前
でのわいせつDVDの販売業とは全く関係なかったはずの時期であること,②被告人は,
遅くとも平成15年10月下旬又は11月上旬ころからCのホームページの更新作業,「」
を業者に依頼しているが,この時期も,前同様,被告人は「C」とは全く関係なかったは
ずの時期であること,③「C」で販売したわいせつDVDの代金が振り込まれていた判示
第1記載のB銀行の口座は,平成15年11月に開設されたものであり,その口座開設申
込書は被告人が記入したものであるが,この時期も,前同様,被告人は「C」とは全く関
係なかったはずの時期であること,④被告人は,平成16年1月ころ,自らわいせつDV
Dの販売のための私設私書箱を開設する契約をしているが,この時期も,前同様,被告人
は時々Jに出入りしていただけで,G社長からわいせつDVDの販売業を手伝うように言
われる前のことであること,⑤平成16年1月から5月までの間,Kにおける「C」の名
前でのわいせつDVD販売業の従業員であった者が,被告人から仕事の指示を受け,また
被告人に給料を上げるように求めたところ辞めるように言われた旨述べているが,この時
期も,被告人は「C」とは全く関係なかったはずの時期か,時々G社長から頼まれてKに
封筒を受け取りに行っていたにすぎない時期であること,⑥被告人は,同年7月20日か
ら12月20日までの間,前記B銀行の口座から,11回にわたり合計303万6666
円を被告人の前妻に送金しているが,この時期も,被告人は時々G社長から頼まれてKに
封筒を受け取りに行っていたにすぎない時期であること,⑦本件レターケースの中には,
わいせつDVDの売上金の一部である現金合計210万円が,1から9までの数字が振ら
れた封筒に90万円,10から17までの数字が振られた封筒に80万円,18から21
までの数字が記載された封筒に40万円と,三つの封筒に分けて入れられていたところ,
このように21日間分の売上げが残っていたことはG社長が二,三日あるいは三,四日に
一回訪れていたことと整合しない上,その金額が1日当たりちょうど10万円であること
も,わいせつDVDの売上げから経費等を除いた額をすべてG社長に渡していたことと整
合しないことなど,被告人の前記供述内容と明らかに矛盾する点が多々認められる。なお
,被告人は,これらの点について,縷々弁解するが,その内容は弁解のための弁解ともい
うべき不自然,不合理なものであって,到底これらの点と被告人の前記供述内容の矛盾を
整合的に説明するものではない。
4このように,本件覚せい剤等について覚せい剤等であると認識して所持していたこ
とを否定する被告人の供述は信用することができないから,前記2の推認のとおり,被告
人は,本件覚せい剤等を覚せい剤等であると認識して所持していたことが優に認められる

第3覚せい剤原料の使用の事実(判示第3の事実)について
1証拠によれば,被告人が平成17年11月21日に任意提出した尿から覚せい剤原
料が検出されたことが認められ,また,第2で認定のとおり,被告人は本件覚せい剤等を
それと認識して所持していたことが認められることからすれば,被告人が判示第3記載の
時期に覚せい剤原料をそれと認識して自己の体内に摂取し使用したことが強く推認される

2これに対して,被告人は,公判廷及び捜査段階において,平成17年11月19日
未明,f号室にG社長が来た際,被告人が眠いと言ったところ,G社長が被告人の飲んで
いた缶入りの緑茶に金魚似の魚型プラスチックケースに入った液体を入れてくれたので,
興奮剤か媚薬のようなものだと思って飲んだが,覚せい剤原料であるとは知らなかった旨
供述する。しかし,第2で認定したとおり,被告人の供述するG社長の存在自体が虚偽の
ものであること,被告人は当初お茶に混ぜたのは白い結晶粉末であったと供述していたの
を捜査段階の途中から前記の供述に変遷させており,その理由について合理的な説明をし
ていないこと,本件金魚容器内の覚せい剤水溶液を服用しても,被告人の尿中から覚せい
剤原料が検出されることはあり得ないことからすれば,前記の被告人の供述が虚偽である
ことは明白である。
なお,この点,被告人は,公判廷において,G社長がこの時に使った魚型プラスチ
ックケースと本件金魚容器は別のものであるかもしれない旨供述するが,そもそもG社長
の存在が虚偽であることは前記のとおりであるし,ある者が同じ日に一つには覚せい剤,
もう一つには覚せい剤原料が入った二つあるいはそれ以上の数の魚型プラスチックケース
を持って被告人を訪問し,そのうち一つを被告人に服用させ,もう一つを本件財布の中に
隠匿するということ自体,極めて不自然であって,その供述は到底信用できないものであ
る。
3したがって,前記1の推認のとおり,被告人が判示第3記載の日ころに覚せい剤原
料をそれと認識して自己の体内に摂取し使用したことが優に認められる。
第4結論
以上のとおりであるから,判示第3の覚せい剤原料の使用,判示第4の覚せい剤及
び覚せい剤原料所持のいずれについても,判示の事実が優に認められる。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,インターネットを利用してわいせつDVDを販売する店舗において
,児童ポルノを含むわいせつDVDを販売して不特定又は多数の者に提供する目的で所持
し判示第2これらわいせつなDVD等の販売代金等及び送料を客に他人名義の口座に(),
振込送金させて犯罪収益等の取得につき事実を仮装し判示第1覚せい剤原料を自己使(),
(),()。用し判示第3また覚せい剤及びその原料を所持した判示第4という事案である
まず,児童ポルノDVDを含むわいせつDVDの販売目的所持及び犯罪収益等の取得に
つき事実を仮装した組織犯罪処罰法違反の各犯行については,前記補足説明で認定した事
実からすれば被告人は遅くとも平成15年8月にKを賃借したころ以降からCの,,,「」
実質的な経営者としてわいせつDVDの販売を始め,その後2年余りの長期間にわたって
,従業員を雇って指揮監督しながら,大規模かつ職業的にわいせつDVDを販売して多額
の利益を得ていたことが認められる。被告人は,自らが店舗の経営者であることを否定し
ているため,犯行の動機については明らかではないが,いずれにせよ容易に多額の金銭を
得ることが主たる動機であったと考えられ,その犯行に至る経緯や動機に酌むべき事情が
ないことは明らかであり,所持に係るわいせつDVDは約1万3000枚と多量であり,
事実を仮装した犯罪収益等の額も約1500万円と多額である。また,被告人によるわい
せつDVDの販売手法は,インターネットという伝ぱ性,匿名性が高い手段を利用して,
発覚を避けながら容易に多額の利益を得ることのできるものであり,これによって実際に
2億5000万円近くもの売上げを得ており,このことも量刑上見過ごすことができない
。ところが,被告人は,自らが実質的な店舗の経営者であったことを否定し,責任者では
あったが日当制で雇われていたにすぎないなどと述べて,自己の刑事責任を軽減させるこ
とにきゅうきゅうとしており,自己の罪責を受け止める姿勢が不十分である。
次に,本件覚せい剤原料の使用並びに覚せい剤及びその原料の所持の各犯行は,被告人
が否認しているためその経緯や動機は不明であるものの,そこに酌むべき事情が存在しな
いことは明らかである上,所持に係る覚せい剤等の量も少ないものではない。また,この
ことや所持の態様に照らせば,被告人の覚せい剤使用の常習性やこれに対する親和性,依
存性もうかがわれるが,被告人は,これらの各犯行を否認し,不自然,不合理な弁解を繰
り返しており,反省の態度がみられない。
このようにみると,被告人の刑事責任は重い。
しかし,他方,被告人は,児童ポルノDVDを含むわいせつDVDの販売目的所持及び
組織犯罪処罰法違反の各犯行については犯罪の成立を認めて一応の反省の情を示している
こと,前科がないこと,知人が今後の被告人の更生に協力することを約していることなど
,被告人のために酌むべき事情も認められるので,これらの事情を十分に考慮し,被告人
を主文の刑に処することとした。
(検察官澤井百合子,私選弁護人宮本清司(主任,同重村達郎各出席))
(求刑―懲役4年,貯金債権,預金債権,現金及び覚せい剤の没収,追徴)
平成18年7月19日
神戸地方裁判所第2刑事部
裁判官岩崎邦生

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