弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違
反,事実誤認の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ,職権で判断する。
本件は,覚せい剤取締法違反等の事実により勾留のまま地方裁判所に起訴された
被告人につき,第1審裁判所が,犯罪の証明がないとして無罪判決(以下「本件無
罪判決」という。)を言い渡し,刑訴法345条の規定により勾留状が失効したと
ころ,検察官の控訴を受けた控訴裁判所において,職権で,被告人を再度勾留(以
下「本件再勾留」という。)し,これに対して弁護人が異議を申し立てたものの,
棄却されたことから,更に特別抗告に及んでいる事案である。被告人は,外国人で
あり,本件無罪判決により釈放された際,本邦の在留資格を有しなかったため,入
国管理局に収容されて退去強制手続が進められていたが,本件再勾留により拘置所
に身柄を移されたものである。
所論は,上記被告事件の訴訟記録が控訴裁判所に到達した日の翌日に,本件再勾
留がされたことを指摘しつつ,第1審の無罪判決後に控訴裁判所が被告人を勾留で
きるのは,少なくとも,当事者の主張,証拠,公判調書等の第1審事件記録につき
十分な調査を行った上で,第1審の無罪判決の理由について慎重に検討した結果,
第1審判決を破棄して有罪とすることが予想される場合に限られると解すべきであ
るのに,原決定はこのような解釈によることなく,控訴裁判所が,慎重な検討のた
めの時間的余裕のないままに,「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があ
ると即断したことを是認し,かつ,本件が「第1審判決を破棄して有罪とすること
が予想される場合」に当たらないことも明らかなのに,これを看過しているなどと
して,本件再勾留が違法であると主張する。
そこで検討すると,第1審裁判所において被告人が犯罪の証明がないことを理由
として無罪判決を受けた場合であっても,控訴裁判所は,その審理の段階を問わ
ず,職権により,その被告人を勾留することが許され,必ずしも新たな証拠の取調
べを必要とするものではないことは,当裁判所の判例(最高裁平成12年(し)第
94号同年6月27日第一小法廷決定・刑集54巻5号461頁)が示すとおりで
ある。しかし,刑訴法345条は,無罪等の一定の裁判の告知があったときには勾
留状が失効する旨規定しており,特に,無罪判決があったときには,本来,無罪推
定を受けるべき被告人に対し,未確定とはいえ,無罪の判断が示されたという事実
を尊重し,それ以上の被告人の拘束を許さないこととしたものと解されるから,被
告人が無罪判決を受けた場合においては,同法60条1項にいう「被告人が罪を犯
したことを疑うに足りる相当な理由」の有無の判断は,無罪判決の存在を十分に踏
まえて慎重になされなければならず,嫌疑の程度としては,第1審段階におけるも
のよりも強いものが要求されると解するのが相当である。そして,このように解し
ても,上記判例の趣旨を敷えんする範囲内のものであって,これと抵触するもので
はないというべきである。
これを本件について見るに,原決定は,記録により,本件無罪判決の存在を十分
に踏まえて慎重に検討しても,被告人が,上記起訴に係る覚せい剤取締法違反等の
罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認められるとして本件再勾留を
是認したものと理解でき,その結論は,相当として是認することができる。
よって,刑訴法434条,426条1項により,裁判官全員一致の意見で,主文
のとおり決定する。なお,裁判官田原睦夫,同近藤崇晴の各補足意見がある。
裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見に賛同するものであるが,なお事案にかんがみ,第1審で無罪判
決が言い渡された場合の控訴審における勾留の要件及び本件事件への当てはめにつ
いて,以下に私の意見を述べる。
1第1審で刑訴法345条に定める判決が言い渡されて,検察官から控訴がな
されたときに,被告人を勾留することができる場合の要件について,刑訴法60条
以外に規定はないが,刑訴法345条の趣旨及び控訴審の構造を踏まえれば,次の
ように解すべきものと考える。
(1)「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」について
控訴裁判所は,被告人に罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由(以下「嫌
疑」という。)が存するか否かについては,第1審判決を踏まえた上で,控訴裁判
所として独自に判断すべきものであることは言うまでもない。したがって,第1審
判決が刑の執行猶予あるいは罰金の判決の場合は,有罪の判決であるから,通常は
嫌疑が存するものと言い得るが,控訴裁判所において,記録を検討した結果,その
点につき疑問が存すれば,勾留すべきでないことは当然である。
他方,第1審において事実調べをなした上で,無罪判決を言い渡した場合,その
事実は尊重されるべきであるから,控訴裁判所が勾留するには,その無罪判決にも
かかわらず,なおその判決を覆して有罪判決がなされ得るに足る嫌疑が存在する相
当な理由が必要と言うべきである(最高裁平成12年(し)第94号同年6月27
日第一小法廷決定・刑集54巻5号461頁における遠藤光男裁判官,藤井正雄裁
判官の各反対意見参照)。言い換えれば,第1審無罪判決の場合の控訴裁判所での
勾留の際の嫌疑は,第1審係属中における嫌疑よりはより高度な嫌疑が必要とされ
るものと言うべきである(比喩として必ずしも適切ではないが,第1審での勾留に
おける犯罪の嫌疑は,「犯罪を犯したことが相当程度の可能性」をもって認められ
れば足りるのに対し,第1審無罪判決後における嫌疑は,「犯罪を犯したことが相
当程度の蓋然性」をもって認められるに足りる必要があるとするものである。)。
このように,第1審無罪判決の控訴審での勾留における嫌疑は,第1審係属中に
おける嫌疑よりも高度なものでなければならないと解することなく,第1審係属中
と同程度の嫌疑が存すれば足りると解することは,第1審無罪判決にもかかわらず
控訴裁判所は,刑訴法60条に定める他の要件が存する限り被告人を勾留すること
ができることとなり,無罪判決の言渡しによって勾留状が失効することを定めた刑
訴法345条の意義を没却することとなる。
(2)勾留の理由について
控訴審で被告人を新たに勾留するには,刑訴法60条1項各号に定める事由が新
たに生じたことが必要である(最高裁昭和29年(あ)第2248号同年10月2
6日第三小法廷判決・裁判集刑事99号507頁)。
同条1項各号に定める事由のうち,1号及び3号の該当性については,次に述べ
る勾留の必要性の観点からの検討が不可欠であり,また,2号については,検察官
は本来第1審で立証を尽くしているはずであり,加えて,控訴審は,事後審として
の性質上,証拠の取調べは制限され,事実誤認に関しては,やむを得ない事由によ
って第1審の弁論終結前に取調べ請求することができなかった証拠であって,判決
に影響を及ぼすべき事実の誤認を証明するために欠くことができない場合に限り,
これを取り調べなければならない(刑訴法393条1項ただし書)とされているの
であって,第1審の無罪判決後になお被告人に新たに罪証を隠滅するおそれが存す
ることは,極めてまれであると言わねばならない。
(3)勾留の必要性について
被告人に刑訴法60条1項各号に該当する事由が認められても,なお被告人を勾
留する必要性がなければ,被告人を勾留することはできない。被告人は,第1審公
判では,公判期日への出頭義務が存する(刑訴法286条等)から,刑訴法60条
1項1号,3号に該当する場合には,原則として勾留の必要性が認められる。
しかし,控訴審では,被告人には出頭義務はなく(刑訴法390条本文),ま
た,弁論能力も認められないのであるから(刑訴法388条),控訴審での審理の
ために被告人を勾留する必要があるのは,実体的真実発見のために被告人質問をす
る必要がある等,なお被告人の公判期日への出頭を確保する必要性があり,かつ,
勾引によっては,その出頭を確保することが困難であると認められる場合に限られ
ると言うべきである。
2本件勾留の適法性について
本件は,第1審で無罪判決が言い渡され,被告人が刑訴法345条により釈放さ
れた後に,検察官による職権発動の申立てを受けて控訴裁判所が勾留を決定したも
のであるから,その適法性の有無については,1に述べたところに基づいて判断す
べきであり,その判断に裁量権の濫用がある場合には,当該勾留は違法であって,
取り消されるべきものである。
そこで記録を検討するに,原決定は,「本件記録を精査し,被告人に対し無罪の
言渡しをした第1審判決の理由を踏まえて慎重に検討した上でも,なお被告人が本
件公訴事実記載の犯罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由があることは明らか
である」としているところ,第1審判決は,故意を否認する被告人の弁解には多く
の疑問点が存することを認めながらも,「被告人には,未必的にせよ,覚せい剤取
締法違反及び関税法違反の故意があったとするには合理的疑いが残る」と判示して
いるのである。かかる第1審判決の判示をも踏まえれば,被告人に犯罪を犯したこ
とを疑うに足りる相当な理由があるとする原決定は是認することができる。また,
被告人に刑訴法60条1項各号に該当する事由が存することを認めた上で,被告人
を勾留しないときには出入国管理及び難民認定法による退去強制手続の対象となる
ことをも含めて,勾留の必要性があるとした原決定には裁量権の濫用は認められな
い。したがって,勾留の裁判に対する異議申立てを棄却した原決定は是認すること
ができるものと言うべきである。
おって,前記平成12年決定の判例としての射程距離に関する考え方,並びに出
入国管理及び難民認定法に基づく退去強制手続と刑事訴訟手続の調整規定を設ける
必要性については,近藤裁判官の補足意見に同調するものであり,ここに援用す
る。
裁判官近藤崇晴の補足意見は,次のとおりである。
1私は,法廷意見に賛同するものであるが,第1審で無罪判決を得た被告人を
控訴裁判所が勾留することは例外的な場合にのみ認められるべきであり,その要件
の充足については厳格な判断が要求されるものと考えるので,若干敷衍して述べて
おきたい。
2第1審裁判所が被告人を無罪としたときは勾留状はその効力を失うが(刑訴
法345条),検察官が控訴した場合に,控訴裁判所が刑訴法60条1項の要件の
下に改めて被告人を勾留することは禁止されてはいない。しかし,第1審裁判所が
被告人を無罪としたときは,いわば無罪の推定がより強まった状態になったのであ
るから,十分な重みをもってこれを尊重すべきであり,それにもかかわらず控訴裁
判所が被告人を勾留するのは,社会通念に照らすならばかなり違和感のある事態だ
といわなければならない。
したがって,勾留の要件が満たされているかどうかの判断は,起訴前あるいは第
1審で審理しているときの勾留におけるそれよりも更に厳格なものでなければなら
ないと考える。すなわち,この場合の刑訴法60条1項にいう「被告人が罪を犯し
たことを疑うに足りる相当な理由」については,起訴前あるいは第1審で審理して
いるときの勾留について要求される程度以上に,第1審の無罪判決を尊重してもな
お強い疑い(以下「高度の嫌疑」という。)があるといえることが要求されるもの
というべきである。また,控訴審においては原則として被告人の出頭を要しないの
であるから(刑訴法390条),控訴審の審理のために勾留の必要性があると認め
られるのは,第1審裁判所が審理を尽くしたとは認められない場合などの極めて例
外的な場合にとどまるものというべきであろう。
そして,上記高度の嫌疑や勾留の強い必要性の要件の充足について,控訴裁判所
の判断に裁量権の逸脱や濫用がある場合には,その勾留の裁判は違法であって取消
しを免れないものというべきである。
3最高裁平成12年(し)第94号同年6月27日第一小法廷決定・刑集54
巻5号461頁(以下「12年判例」という。)は,第1審で無罪判決を得た被告
人について,控訴裁判所が第1回公判前(控訴裁判所に訴訟記録が到着してから7
日後)に勾留状を発したことを是認し,これに対する異議申立て棄却決定に対する
特別抗告を棄却した。この12年判例が控訴審での勾留について上記2のような厳
格性を要求しないとの趣旨であるとすれば,これに疑義を差し挟む余地があるが,
私は,上記2に述べたところが必ずしも12年判例と抵触するものではないと考え
る。
すなわち,12年判例は,第1審裁判所が被告人を無罪とした場合であっても,
被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合であって,刑訴法6
0条1項各号に定める勾留の理由があり,かつ,その必要性があるときは,同条に
より職権で被告人を勾留することができ,その時期には特段の制約がないとした。
12年判例のこの説示については,以下のように理解することが可能である。す
なわち,1審無罪の被告人を控訴審で勾留する場合であっても,嫌疑,勾留の理由
及び勾留の必要性の各要件が満たされれば足りるとの点では,被疑者・被告人の勾
留一般と別異のものではなく,また,その各要件が満たされる限りはその時期につ
いても特段の制約がないとしたにとどまるのであって,その抽象的要件の具備の要
求から更に進んで,具体的事実に照らして各要件の充足性を判断するに当たってそ
の要求される程度までもが被疑者・被告人の勾留一般と同様のもので足りるとして
いるわけではない,あるいは,この点については何らの説示もしていない,と。
そして,そうだとすれば,12年判例の事案の具体的事実関係の下において,多
数意見は,高度の嫌疑や勾留の強い必要性のあることが要求されるとしても,その
時点でこれを充足しているとしたものであり,反対意見は,高度の嫌疑や勾留の強
い必要性のあることが要求されるのであって,その時点ではこれを充足していない
としたものであると理解することが可能である。
4なお,1審無罪の被告人を控訴審で勾留するには高度の嫌疑や勾留の強い必
要性のあることが要求されると解する場合において,これが充足されず,かつ,被
告人が本邦での在留資格を有しない外国人であるときは,勾留されていない被告人
は,出入国管理及び難民認定法による退去強制手続の対象となるから,控訴審の審
理において被告人質問が必要となってもこれを行うことができず,また,控訴審で
は有罪とされた場合であっても刑の執行を確保することもできない。このような事
態に対処するためには,退去強制手続と刑事訴訟手続との調整規定を設け,退去強
制の一時停止を可能とするなどの法整備の必要があるのであるが,12年判例にお
いて遠藤裁判官の反対意見と藤井裁判官の反対意見がそれぞれこの点を強く指摘し
たにもかかわらず,いまだに何らの措置も講じられていない。
したがって,上記のような不都合が生ずることをもって,1審無罪の被告人の控
訴審における勾留について,被告人が本邦での在留資格を有しない外国人であると
きはその要件の充足を緩やかに解すべきであるとすることは許されないと考える。
5以上のとおりであるから,本件においても,第1審で本件無罪判決を得た被
告人について控訴裁判所が勾留状を発したことについては,その時点(控訴裁判所
に訴訟記録が到着した翌日)で高度の嫌疑や勾留の強い必要性の要件を充足してい
ることが要求されたのであって,それは,起訴前あるいは第1審で審理していると
きの勾留について要求されたのと同程度では足りないと解すべきである。
もっとも,記録を検討しても,上記高度の嫌疑や勾留の強い必要性の要件の充足
について,本件再勾留の裁判をした控訴裁判所の判断に裁量権の逸脱や濫用がある
とまでは認められず,これに対する異議申立てを棄却した原決定が違法であるとは
いえない。したがって,結論としては,本件特別抗告は棄却を免れないものという
べきである。
(裁判長裁判官那須弘平裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官
田原睦夫裁判官近藤崇晴)

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