弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人井上隆晴、同青本悦男、同中山義英、同橋詰庄治、同芝池幸夫、同有
正修の上告理由及び上告代理人色川幸太郎、同石井通洋、同阿多博文の上告理由に
ついて
 一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 被上告人らは、昭和六〇年一〇月一四日、大阪府公文書公開等条例(昭和五
九年大阪府条例第二号。以下「本件条例」という。)七条一項に基づき、本件条例
の実施機関である上告人に対し、昭和六〇年一月ないし三月に支出した大阪府知事
の交際費についての公文書の公開(閲覧及び写しの交付)を請求した。
 ところで、本件条例八条には、同条各号所定の情報が記録されている公文書は公
開しないことができる旨が規定され、その一号に、法人等に関する情報や事業を営
む個人の当該事業に関する情報であって、公にすることにより、当該法人等又は当
該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの、四号に、府の
機関等が行う企画、調整等に関する情報であって、公にすることにより、当該又は
同種の事務を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれのあるもの、五
号に、府の機関等が行う交渉、渉外、争訟等の事務に関する情報であって、公にす
ることにより、当該若しくは同種の事務の目的が達成できなくなり、又はこれらの
事務の公正かつ適切な執行に著しい支障を及ぼすおそれのあるものがそれぞれ規定
されており、また、九条には、同条各号所定の情報が記録されている公文書は公開
してはならない旨が規定され、その一号に、個人の思想、宗教等の私事に関する情
報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識
別されるもののうち、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認め
られるものが規定されている。
 そして、上告人は、昭和六〇年一〇月二九日、右請求に対応する公文書としては、
経費支出伺、支出命令伺書、債権者の請求書、領収書等の交際費の執行の内容を明
らかにした文書及び歳出予算差引表がこれに当たるとし、そのうち経費支出伺、支
出命令伺書及び歳出予算差引表を公開したが、債権者の請求書、領収書等の交際費
の執行の内容を明らかにした文書(以下「本件文書」という。)については、そこ
に記録されている情報が前記八条一号、四号、五号及び九条一号に該当するとして、
これを公開しない旨の決定(以下「本件処分」という。)をした。
 2 本件文書は、具体的には、債権者の請求書及び領収書(以下「債権者請求書
等」という。)、歳出額現金出納簿並びに支出証明書であり、そこに記録された支
出内容は、(1) 慶弔、見舞い等に関するもの、(2) 各種団体及びその主催行事
等への賛助、協賛に関するもの、(3) 餞別に関するもの、(4) 懇談に関するも
のに分けられる。
 債権者請求書等は、知事が懇談会等で外部の飲食店等を利用した際の請求書等が
主なものであり、懇談の日時、場所、出席人数並びに料理等の単価及びその合計額
が記録されており、懇談等の名称、出席者の氏名等は原則として記録されていない
が、府の担当者により出席者の氏名がメモ書き等の形で記録されたものもある。歳
出額現金出納簿は、現金の出納状況を、年月日、摘要、金員の受払い状況とその残
額とに分けて記録し、摘要欄には交際の相手方、使途等を具体的に記録している。
債権者請求書等及び歳出額現金出納簿のいずれにも、懇談の内容は全く記録されて
いない。また、支出証明書は、お祝い、香典等領収書が得られないような支出につ
いて、支出年月日、支出金額、支出先、支出の目的を記録した書類であり、特に決
まった様式はない。
 二 原審は、右の事実関係の下で、次のとおり判断した。
 1 本件文書のうち懇談に関する支出内容が記録された文書の本件条例八条四号
該当性については、当該懇談が同号所定の企画、調整等の事務(以下「企画調整等
事務」という。)に関して行われた場合であっても、債権者請求書等及び歳出額現
金出納簿には、懇談の内容は全く記録されていないため、右文書が公開されても、
特段の事情がない限り、当該又は同種の企画調整等事務を公正かつ適切に行うこと
に著しい支障を及ぼすおそれがあるとはいえない。そもそも、懇談の相手方にとっ
ては、知事と懇談等を行うことは社会通念上名誉でこそあれ何ら不名誉ないし嫌悪
すべきことではなく、これを公開するとしても、そのために懇談等を回避すること
は考えにくく、さらに、知事の行動も、当該行政事務が遂行された後においては、
これを公開しても、通常は、同種の行政事務の公正かつ適切な遂行に著しい支障を
及ぼすようなことはないというべきである。本件においては、右特段の事情を認め
るべき証拠はない。
 2 本件文書のうち懇談に関する支出内容が記録された文書の本件条例八条五号
該当性については、当該懇談が同号所定の交渉、渉外、争訟等の事務(以下「交渉
等事務」という。)に関して行われた場合であっても、債権者請求書等及び歳出額
現金出納簿には、懇談の内容は全く記録されていないため、右文書が公開されても、
特段の事情がない限り、当該又は同種の交渉等事務の公正かつ適切な執行に著しい
支障を及ぼすおそれはない。本件においては、右特段の事情を認めるべき証拠はな
い。
 また、懇談以外の慶弔、見舞い、賛助、協賛、餞別に関する知事の儀礼的な接遇、
交際等は、それ自体が広い意味での交渉等事務に含まれると解することができ、こ
の内容、程度を逐一明らかにすることは、府の相手方に対する評価、位置付けを明
らかにすることになるから、相手方の中には、これに不満を抱き、府に対して非協
力的な態度を採る者も出ることが全く考えられないではない。しかし、府の政治的、
経済的、社会的な地位を考慮すると、そのような事態が右の交渉等事務の公正かつ
適切な執行に著しい支障を及ぼす程度にまで出現するとは考えられない。
 3 本件文書の本件条例九条一号該当性については、そこに記録されている情報
は、いずれも知事の公的交際に係るもので、相手方にとって純粋に私生活上の事柄
であるとはいえず、また、知事との交際の事実が社会通念上相手方にとって公開を
欲しない事柄であるともいえない。
 4 本件文書のうち本件条例八条一号該当性が問題になるのは、債権者請求書等
のみであるが、そこには、当該飲食店を経営する業者の営業上の秘密、ノウハウ等
が記録されているわけではないので、これが公開されたとしても、それによって、
当該飲食業者の競争上の地位その他その有する正当な利益が害されることは考えら
れない。
 5 以上によれば、本件文書には、本件条例八条一号、四号、五号、九条一号の
いずれかに該当する情報の記録はなく、これを非公開とすべき理由はないので、本
件処分は違法である。
 三 しかしながら、原審の右判断のうち、本件文書に本件条例八条一号に該当す
る情報が記録されていないとする点は是認することができるが、同条四号、五号、
九条一号に該当する情報が記録されていないとする点は是認することができない。
その理由は、次のとおりである。
 1 知事の交際費は、都道府県における行政の円滑な運営を図るため、関係者と
の懇談や慶弔等の対外的な交際事務を行うのに要する経費である。このような知事
の交際は、懇談については本件条例八条四号の企画調整等事務又は同条五号の交渉
等事務に、その余の慶弔等については同号の交渉等事務にそれぞれ該当すると解さ
れるから、これらの事務に関する情報を記録した文書を公開しないことができるか
否かは、これらの情報を公にすることにより、当該若しくは同種の交渉等事務とし
ての交際事務の目的が達成できなくなるおそれがあるか否か、又は当該若しくは同
種の企画調整等事務や交渉等事務としての交際事務を公正かつ適切に行うことに著
しい支障を及ぼすおそれがあるか否かによって決定されることになる。
 本件においては、知事の交際事務のうち懇談については、歳出額現金出納簿に懇
談の相手方と支出金額が逐一記録されており、また、債権者請求書等の中にも府の
担当者によって懇談会の出席者の氏名がメモ書きの形で記録されているものがある
ことは前記のとおりであり、これ以外にも、一般人が通常入手し得る関連情報と照
合することによって懇談の相手方が識別され得るようなものが含まれていることも
当然に予想される。また、懇談以外の知事の交際については、歳出額現金出納簿及
び支出証明書に交際の相手方や金額等が逐一記録されていることは前記のとおりで
ある。
 ところで、知事の交際事務には、懇談、慶弔、見舞い、賛助、協賛、餞別などの
ように様々なものがあると考えられるが、いずれにしても、これらは、相手方との
間の信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的として行われるものである。そして、
相手方の氏名等の公表、披露が当然予定されているような場合等は別として、相手
方を識別し得るような前記文書の公開によって相手方の氏名等が明らかにされるこ
とになれば、懇談については、相手方に不快、不信の感情を抱かせ、今後府の行う
この種の会合への出席を避けるなどの事態が生ずることも考えられ、また、一般に、
交際費の支出の要否、内容等は、府の相手方とのかかわり等をしん酌して個別に決
定されるという性質を有するものであることから、不満や不快の念を抱く者が出る
ことが容易に予想される。そのような事態は、交際の相手方との間の信頼関係ある
いは友好関係を損なうおそれがあり、交際それ自体の目的に反し、ひいては交際事
務の目的が達成できなくなるおそれがあるというべきである。さらに、これらの交
際費の支出の要否やその内容等は、支出権者である知事自身が、個別、具体的な事
例ごとに、裁量によって決定すべきものであるところ、交際の相手方や内容等が逐
一公開されることとなった場合には、知事においても前記のような事態が生ずるこ
とを懸念して、必要な交際費の支出を差し控え、あるいはその支出を画一的にする
ことを余儀なくされることも考えられ、知事の交際事務を適切に行うことに著しい
支障を及ぼすおそれがあるといわなければならない。したがって、本件文書のうち
交際の相手方が識別され得るものは、相手方の氏名等が外部に公表、披露されるこ
とがもともと予定されているものなど、相手方の氏名等を公表することによって前
記のようなおそれがあるとは認められないようなものを除き、懇談に係る文書につ
いては本件条例八条四号又は五号により、その余の慶弔等に係る文書については同
条五号により、公開しないことができる文書に該当するというべきである。
 2 また、本件における知事の交際は、それが知事の職務としてされるものであ
っても、私人である相手方にとっては、私的な出来事といわなければならない。本
件条例九条一号は、私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情
報が記録されている文書を公開してはならないとしているものと解されるが、知事
の交際の相手方となった私人としては、懇談の場合であると、慶弔等の場合である
とを問わず、その具体的な費用、金額等までは一般に他人に知られたくないと望む
ものであり、そのことは正当であると認められる。そうすると、このような交際に
関する情報は、その交際の性質、内容等からして交際内容等が一般に公表、披露さ
れることがもともと予定されているものを除いては、同号に該当するというべきで
ある。
 したがって、本件文書のうち私人である相手方に係るものは、相手方が識別でき
るようなものであれば、原則として、同号により公開してはならない文書に該当す
るというべきである。
 四 原審は、以上に判示したところと異なる見解に立ち、本件文書のうち交際の
相手方が識別され得るものについても、その支出内容等が外部に公表、披露される
ことがもともと予定されているものであるか否かなど、前記のような交際事務に対
する支障の有無の点を個別、具体的に検討することなく、本件文書には本件条例八
条四号、五号に該当する情報は一切記録されていないとし、また、知事の交際に関
する情報はすべて本件条例九条一号に該当しないとし、本件処分をすべて違法とし
て取り消しており、この判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざる
を得ず、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。これと同旨をいう論
旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上判示したところに従って、
本件文書に記録された情報が本件条例八条四号、五号、九条一号に該当するか否か
について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    味   村       治
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    三   好       達
            裁判官    大   白       勝

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