弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を死刑に処する。
     押収の銘仙縞模様モンペ一枚外衣類等一三点(証第一一乃至第一八号、
証第二二号、証第四三号)は、いずれも被害者Aに還付する。
     第一、二審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 被告人の上告趣旨について。
 しかし、原判決は、被告人又は被告人の妻B及びCに対する司法警察官の調書を
ば証拠として採用していないから、仮りに右調書が強制によるものであるとしても、
原判決に影響を及ぼさないこと明白であり、その他原判決に対する事実誤認の主張
は、当法律審に対する適法な上告理由ではない。
 弁護人若林清の上告趣意第一点について。
 刑訴規則施行規則三条三号の規定は、憲法七七条の最高裁判所の規則制定権内に
属し、直接には刑訴施行法一三条に基く適法な規則であつて、毫も違憲でないこと
は当裁判所大法廷の判例(昭和二四年(れ)二、〇〇〇号同二五年二月一五日同二
四年(れ)二三七号同二五年一〇月二五日各大法廷判決参照)とするところである
から、これと反対の見解を前提とする所論は採用し難い。
 同第二点について。
 しかし、犯行の日時のごときは罪となるべき事実でないばかりでなく、原判決挙
示の証拠を綜合すれば、本件犯行が判示昭和二三年六月四日午後九時三〇分過頃行
われたことを肯認するに難くはないから、原判決の理由には論旨前段のごとき違法
は認められない。次に、原判決は、本件強盗殺人の犯行の用に供された物件を「細
紐一本(証第七号、及び第八号はその切断されたもの)」と判示しているのである
から、その細紐が麻絲であると綿絲であるとは原判決の理由に何等影響を及ぼさな
いこと明白である。それ故、論旨後段も採用し難い。
 同第三点について。
 原判決は、「右犯跡を隠す為、前記二児の寝ていた布団の中に焚付薪を差し入れ、
これに燐寸の軸木を添え、それに点火すれば順次燃え拡がる仕掛をしてその一端に
点火して、現に右Aの住居に使用する家屋に放火し、よつて右布団三枚とその下に
敷いてあつた畳約三十糎平方、深さ約一、五糎を焼燬したものである」と明瞭に認
定判示している。そして、建具その他家屋の従物が建造物たる家屋の一部を構成す
るものと認めるには、該物件が家屋の一部に建付けられているだけでは足りず更ら
にこれを毀損しなければ取り外すことができない状態にあることを必要とするもの
である。従つて、判示布団は勿論判示畳のごときは未だ家屋と一体となつてこれを
構成する建造物の一部といえないこと多言を要しないから、原判決の前示判示は、
建造物の放火既遂の犯罪事実を認定判示したものではなく、その放火未遂の認定判
示であるといわなければならない。そして、右放火未遂の事実認定は、原判決挙示
の証拠によつて、肯認することができるから、原判決には所論のような事実上又は
証拠上の理由不備の違法は存しない。しかし、原判決は、右建造物の放火未遂の事
実に対し刑法一〇八条のみを適用して同一一二条を適用していないから、この点に
おいて法律上の理由不備の違法があるものというべく、本論旨は結局その理由があ
つて原判決は破棄を免れない。
 同第四点について。
 しかし、原対決の趣旨は、Dのみを殺害して金品を奪取しようと決意し実行した
趣旨ではなく、同人の外傍らに寝ていた長男E及び長女Fをも窒息せしめて殺害し
更らに三名の咽喉をも切り、かくて、右三名の抵抗を全く排除することを手段とし
て判示衣類等一四点を強取した趣旨であると解されるばかりでなく、強盗殺人罪は、
必ずしも殺人を強盗の手段に利用することを要するものではなく、強盗の機会に人
を殺害するを以て足りるものであつて本件においては少くとも強盗の機会にE、F
の両名をも殺害したこと明らかであるから、原判決がDの外右両名に対する殺人行
為に対しても刑法二四〇条後段を適用したのは違法ではない。本論旨は、その理由
がない。
 同第五点について。
 論旨第三点が結局その理由があつて、原判決は破棄を免れないことは前に述べた
とおりであつて、本件においては事実の確定に影響を及ぼすべき法令の違反がある
とは認められないから、当裁判所が本件につき更らに判決を為すべきものである。
されば、本論旨に対しては判断を与える必要を認めない。
 よつて、旧刑訴四四七条により原判決を破棄し、同四四八条により本件につき法
令を適用するに、原判決の確定した被告人の所為中判示同家茶の問に侵入した点は
刑法一三〇条に、D、同E及び同Fの三名を殺害して判示衣類等を強取した点は各
同法二四〇条後段に、判示住宅に放火して判示布団及びその下の判示畳の箇所を焼
燬した点は同法一一二条、一〇八条にそれぞれ該当するところ、判示住居侵入と各
強盗殺人並びに判示住宅放火未遂との間には互に手段結果の関係があり且つ各住居
侵入強盗殺人と住居侵入放火未遂とは一箇の行為にして数個の罪名に触れる場合で
あるから、同法五四条第一項前段、後段、一〇条により結局最も重いと認められる
Dに対する強盗殺人罪の刑に従い所定刑中死刑を選択して被告人を死刑に処し、押
収の銘仙縞模様モンペ一枚外衣類等一三点(証第一一号乃至第一八号第二二号、第
四三号)は本件強盗殺人罪に因り得た賍物であつて、被害者Aに還付すべき理由が
明白であるから、旧刑訴三七三条一項によりこれを同人に還付すべく、第一、二審
における訴訟費用は同二三七条一項により全部被告人に負担せしむべきものとし、
主文のとおり判決する。
 この判決は弁護人若林清の上告趣意第一点に対する澤田裁判官の少数意見(この
判決に引用された各大法廷判決における同裁判官の少数意見)を除き裁判官全員の
一致した意見である。
 検察官 浜田龍信関与
  昭和二五年一二月一四日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    岩   松   三   郎

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