弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人権逸、同田中耕輔の上告理由一について。
 横領行為によつて法人の被つた損害が、その法人の資産を減少せしめたものとし
て、右損害を生じた事業年度における損金を構成することは明らかであり、他面、
横領者に対して法人がその被つた損害に相当する金額の損害賠償請求権を取得する
ものである以上、それが法人の資産を増加させたものとして、同じ事業年度におけ
る益金を構成するものであることも疑ない。論旨は、旧法人税法(昭和二二年法律
第二八号、以下同じ。)における益金は商行為に基づく債権を基礎とし、横領に基
づく損害賠償請求権のごときを予定していないものと主張するが、そのように限定
すべき根拠は見出しがたく、もし所論のごとくであれば、法人税法上の損失もまた
横領による損害のような偶発的な損失を含まないといわなければならないはずであ
つて、到底肯認しえない。
 論旨は、原判決が、犯罪行為のために被つた損害の賠償請求権を、それが実現の
見込がないと認められるときは損金に算入しうる旨を判示しながら、本件横領によ
つて被つた損害を損金と認めなかつたのを、失当と非難する。犯罪行為のために被
つた損害の賠償請求権でもその法人の有する通常の金銭債権と特に異なる取扱いを
なすべき理由はないから、横領行為のために被つた損害額を損金に計上するととも
に右損害賠償請求権を益金に計上したうえ、それが債務者の無資力その他の事由に
よつてその実現不能が明白となつたときにおいて損金となすべき旨の原判示は、犯
罪行為のために被つた損害を損害賠償請求権の実現不能による損害に置き換えるこ
とになるものであるが、犯罪行為に基づき法人に損害賠償請求権の取得が認められ
る以上、その経理上の処理方法として十分首肯しうるものといわなければならない。
論旨は、そのような請求権の実現性の薄弱なことをあげてその益金計上を不当とす
るが、そのようなことは一概にいえるものではなく、もし損害賠償請求権がその取
得当初から明白に実現不能の状態にあつたとすれば、上記の経理方法によつても、
直ちにその事業年度の損金とするを妨げないわけであるから、所論の非難はあたら
ない。また、それでは企業体が現実に犯罪による損害と課税による損害との二重の
損失を被むるとする所論も、上記の経理方法を正解しないことに基づくものといわ
ざるをえない。
 本件についてみるに、上告会社の会計担当役員であり代表取締役でもあつた訴外
D(現姓E)Dが、係争の三事業年度にわたり業務上の保管金円をしばしば着服し
ながら、これを経費に仮装して計上していたというのであるから、上告会社は、右
Dの横領額相当の損害を被むるとともに、それと同額にのぼる損害賠償請求権を取
得していたことは明らかである。そして、右Dが示談を拒否し懲役の実刑を受けた
など原審における上告会社の主張事実だけでは、いまだその係争事業年度の間にお
いて同人に対する損害賠償請求権の全部または一部の実現不能が明らかになつたと
認めるに足りるものではない。してみれば、原判決がその横領行為により被つた損
害を損金に、これに対応する損害賠償請求権を益金に計上したのと結果を同じくす
る被上告人の更正処分(前記横領額を仮装した上告会社の経費を否認するとともに、
これと同額を右Dに対する仮払金として処理したもの)を支持したのに、所論の違
法は認められない。もつとも、原判決が、犯罪行為によつて被つた損害を損金とし
ながらこれに対応する損害賠償請求権を益金に計上しないならば、犯罪行為に原因
して国の税収入が減ずるばかりでなく、被害が課税に際し実質的に緩和されて企業
経営者の犯罪防止に対する努力が鈍り、犯罪行為が助長されることなどをあげて理
由としたのは、妥当ではない。しかし、右説示のために、原判決の前記判断の結果
が左右されるものではない。論旨は結局理由がない。
 同二について。
 論旨は、要するに、前記Dの横領の事実は、係争各事業年度の法人所得の申告の
当時上告会社には全く判明しなかつたところであるから、適正な申告ができなかつ
たとしてもやむをえないのであつて、これに対し、被上告人が過少申告加算税を課
したのを相当とした原判決は、憲法三〇条に違反するというのである。
 過少申告加算税は、旧法人税法四三条により、法人の確定決算に基づく申告等に
誤りがあつたことにつき正当な事由がないと認められる場合に課せられたものであ
るから、右論旨は、結局本件係争の各事業年度の申告には同税を課せられない正当
な事由の存したことを主張してその課税を論難するもの、すなわち違憲に名を藉り
て同条の解釈適用を争うものにすぎない。そして、原判決の認定によれば、前記D
は上告会社の経理担当役員でかつ代表取締役の地位にあつたというのであるから、
それら申告について上告会社の責任者と認めうる者であり、しかも申告が適正を欠
いたのは、同人の計上した仮装経費が損金に算入されたのによるのである。従つて、
これを上告会社には右Dの不正が判らなかつたところとして同税を課しえないとす
る所論の到底肯認しがたいことは、原判示のとおりといわなければならない。論旨
は採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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