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平成13年(行ケ)第450号 審決取消請求事件(平成14年11月6日口頭弁
論終結)
          判           決
       原      告   日立機材株式会社
       訴訟代理人弁護士   吉 澤 敬 夫
       同          牧 野 知 彦
       被      告   アオイ産業株式会社
       訴訟代理人弁護士   井 垣   弘
       同    弁理士   西   良 久
          主           文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が無効2001-35041号事件について平成13年8月24日に
した審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は,下記ア記載の特許(以下「本件特許」という。)の特許権者,被告
は,本件特許の無効審判請求人であり,その経緯は下記イのとおりである。
  ア 登録第3122924号特許
    発明の名称 バケットエレベータ用バケット
    特許出願  平成6年8月19日
    設定登録  平成12年10月27日
  イ 平成13年2月 2日 無効審判請求(無効2001-35041号)
    同   年8月24日 本件特許(無効審判請求に係る全請求項1~4に
係る発明の特許)を無効とする旨の審決
同   年9月13日 原告への審決謄本送達
 2 本件特許に係る発明の要旨
  【請求項1】前後方向に凹状に湾曲した底板を,左右一対の側板間に掛け渡
し,前記底板の上面に上底を掛け渡して,該上底の前端部と後端部を前記底板に固
定したバケットエレベータ用バケットにおいて,
  前記上底を弾発性材料によって形成し,上底の前記後端部の原形状が前記底板
から離隔するように該後端部をUターンするようにして前記底板に固定し,且つ,
前記上底の厚さを,バケットエレベータの上部においてバケットが反転してバケッ
ト内の大部分の搬送物を排出したときに,自身の保有する弾発力を発揮して残りの
一部分の搬送物を弾き飛ばすことができる程度の厚さに形成したことを特徴とする
バケットエレベータ用バケット。
  【請求項2】 前記底板に1又は複数個の開口部を設けた,請求項1記載のバ
ケットエレベータ用バケット。
  【請求項3】 前記開口部を前記底板の左右方向に貫通させて,前記底板を前
後方向複数個に分割した,請求項2記載のバケットエレベータ用バケット。
  【請求項4】 前記底板を格子状の材料によって形成した,請求項1記載のバ
ケットエレベータ用バケット。
  (以下,請求項1~4記載の発明を,請求項の番号に対応して「本件特許発明
1~4」などといい,これらを総称して「本件特許発明」という。)
 3 審決の理由
   審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,①本件特許発明1,2は,いずれ
も,下記アないしウ記載の各発明(以下,順に「公然実施発明1」ないし「公然実
施発明3」という。)であるから,その特許は特許法29条1項2号に違反してさ
れたもの(無効理由1関係),②本件特許発明1は,本件出願前である平成5年8
月に日本国内において頒布された刊行物である原告作成の「DOROCARRIER」カタロ
グ(以下「原告カタログ」という。審判甲第1号証の1・本訴甲第5号証の1の
1)記載の発明であるから,その特許は同条1項3号に違反してされたもの(無効
理由2関係),③本件特許発明3,4は,いずれも,原告カタログ記載の発明及び
公然実施発明1~3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである
から,同条2項に違反してされたもの(無効理由3関係)であるとして,本件特許
は同法123条1項2号の規定により無効とすべきものとした。

  ア 公然実施発明1
   「原告製,型式HDC150固定式のDOROCARRIER」として,平成4年9月
に日本国内において公然実施をされた発明
   〔証拠〕甲5-2(審判甲2)/「DOROCARRIER」カタログ写し
       甲5-3-1~42(審判甲3-1~42)/佐藤・戸田共同企業
体営団地下鉄駒込作業所向けの設計図面写し
  イ 公然実施発明2
「レンドー工機株式会社製,型式SKH80のスキップハリヤー」として昭
和63年に日本国内において公然実施をされた発明
   〔証拠〕甲5-4(審判甲4)/「SKIPHARRYOR」カタログ写し
       甲5-5-1~8(審判甲5-1~8)/飛島建設豊島園作業所向
けの設計図面写し
  ウ 公然実施発明3
   「レンドー工機株式会社製,型式SKH65のスキップハリヤー」として平
成3年に日本国内において公然実施をされた発明
   〔証拠〕甲5-4(審判甲4)/「SKIPHARRYOR」カタログ写し
       甲5-7-1~7(審判甲7-1~7)/横浜治水事務所の帷子川
の工事の設計図面写し
第3 原告主張の審決取消事由
 審決は,本件特許発明1,2と公然実施発明1との同一性の判断を誤る(取
消事由1)とともに,本件特許発明1,2と公然実施発明2,3との同一性の判断
を誤り(取消事由2),さらに,本件特許発明1と原告カタログ記載の発明との同
一性の判断を誤った(取消事由3)ものであり,これらの誤った判断を前提に,請
求項1の従属項に係る本件特許発明3,4の進歩性をも否定したものであるから,
審決は違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(本件特許発明1,2と公然実施発明1との同一性の判断の誤
り)
 (1) 審決は,本件特許発明1と公然実施発明1との一致点として,「・・・上
底の前記後端部の原形状が前記底板から離隔するように該後端部をUターンするよ
うにして前記底板に固定した,バケットエレベータ用バケット」(審決謄本7頁
(2-1)項)と認定した上,両者の相違点(「上底の厚さに関して,前者では,
バケットエレベータの上部においてバケットが反転してバケット内の大部分の搬送
物を排出したときに,自身の保有する弾発力を発揮して残りの一部分の搬送物を弾
き飛ばすことができる程度とするのに対して,後者では,約8㎜とする点」)につ
いて,「後者の上底も,バケットエレベータの上部においてバケットが反転してバ
ケット内の大部分の搬送物を排出したときに,自身の保有する弾発力を発揮して残
りの一部分の搬送物を弾き飛ばすことができる,と解すべきである」(同8頁第2
段落)と認定判断するが,誤りである。
 (2) すなわち,公然実施発明1の「DOROCARRIER」は原告の製品であるとこ
ろ,本件特許発明の発明者である原告従業員徳重洋行が本件特許発明1の特徴的な
構成である上底の原形状及び厚さについてのアイデアを考えたのは,平成6年7月
のことであり(甲6の1~3),それ以前の原告製品に本件特許発明1の上記構成
が開示されていることはあり得ない。従来製品においても,弾性部材からなる上底
をUターンさせて底板に固定してあるのだから,その端部が多少は底板から隔離する
ことはあるが,本件特許発明1の特許請求の範囲の「上板の前記後端部の原形状が
前記底板から離隔するように該後端部をUターンするようにして前記底板に固定し」
との記載はこのような無意味な内容をいうものではなく,本件特許発明が規定する
上底は,特許請求の範囲に記載されているとおり,「上底の厚さを,バケットエレ
ベータの上部においてバケットが反転してバケット内の大部分の搬送物を排出した
ときに,自身の保有する弾発力を発揮して残りの一部分の搬送物を弾き飛ばすこと
ができる程度の厚さ」を有する弾発性材料によって構成したものでなければなら
ず,その結果,上底の原形状は底板から大きく膨らんだ形状として取り付けること
になる。これに対し,公然実施発明1については,甲5-2には上底の形状は記載
されておらず,甲5-3-30には上底の原形状が記載されているものの,これ
は,底板に対してつぶれた原形状を有する従来から存在する上底にすぎず,このよ
うな形状では搬送物を弾き飛ばすことができないことは明らかである。
 (3) 本件特許発明2は,請求項1の従属項であるから,本件特許発明1につい
て上述したことがそのまま妥当する。また,本件特許発明2が規定する「底板に開
口部を設ける」ことの主な技術的意義は,上底が搬送物を弾き飛ばすために速やか
に原形状に復帰させる必要があり,速やかに空気が侵入するように構成するもので
あるところ,公然実施発明1には,このような技術的意義は示されていない。
 2 取消事由2(本件特許発明1,2と公然実施発明2,3との同一性の判断の
誤り)
 (1) 審決は,前記第2の3イ,ウに掲げた証拠等に基づいて,それぞれ公然実
施発明2,3を認定する(審決謄本7頁第2,第3段落)が,誤りである。すなわ
ち,公然実施発明2に係る甲5-5-1~8の図面には,「飛島建設豊島園現場」
との記載があり,昭和63年9月24日付けの出図スタンプが押されているから,
これが同年の飛島建設豊島園現場向けに作図されたものであることは否定しない
が,依頼者の要求により様々な設計変更が行われるのが通常であること等を考える
と,当該図面が現実に使用された製品のものであるかどうかは明らかでない。ま
た,公然実施発明3に係る甲5-7-1~7に関しては,その一部に「帷子川
(作)向スキップハリヤー製作図」との記載や日付が手書きされているにすぎず,
上記のような出図スタンプもないなど,不自然な点があり,これが公然実施発明3
として実施されたものの図面であるかどうかは不明といわざるを得ない。
 (2) 仮に,上記各図面が公然実施されたものに係るものであるとしても,公然
実施発明2に係る甲5-5-8に記載されている上底は,バケットが反転した状態
においてさえ,底板からほとんど隔離していない形状のものであり,弾発力を利用
して搬送物を弾き飛ばすことは不可能である。また,公然実施発明3に係る甲5-
7-3は,一見,本件特許発明の願書添付図面図1,3と類似しているように見え
るが,上記図面を注意深く観察すれば,運び側のバケットこそが原形状を示すもの
であり,戻り側のバケットはバケットが反転したことによって上底が垂れ下がって
いる状態を示していることが理解されるものである。すなわち,本件特許発明1で
は,願書添付図面図5の略1時付近で,弾発力を発揮し,搬送物の一部を弾き飛ば
して原形状に復帰する点に特徴があるのに,甲5-7-3のものは,同略4時の時
点で原形状から引力によって垂れ下がることによって搬送物を排出するものにすぎ
ず,両者の構成及び技術的思想は全く異なる。
    しかも,公然実施発明2においては上底の幅をバケットの幅よりも広く設
計することが強く意識されているものであり,公然実施発明3においては上底の幅
とバケットの幅が基本的に同じ寸法に設計されている。このような構成では,バケ
ット側板と上底が接している部分に強い摩擦力が生ずることは明らかであり,むし
ろ,上底が弾発力を発揮することを阻止する構造を示すというべきである。
 (3) 以上の点は,本件特許発明1,2に共通するほか,本件特許発明2に関し
ては,上記1(3)で述べたところがそのまま妥当する。また,公然実施発明2,3に
おいて,本件特許発明2が規定する「底板に開口部を設ける」ことの技術的意義が
開示されていないことも,同様である。
 3 取消事由3(本件特許発明1と原告カタログ記載の発明との同一性の判断の
誤り)
   原告カタログも原告製品である「DOROCARRIER」に関するものであり,公然
実施発明1に関して1で述べたところがそのまま妥当する
第4 被告の反論
   審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(本件特許発明1,2と公然実施発明1との同一性の判断の誤
り)について
   原告は,本件特許発明1の上底の原形状は底板から大きく膨らんだ形状とし
て取り付けることになる旨主張するが,弾性部材の端部の底板からの隔離の程度は
本件明細書に何ら記載されておらず,原告の主張する上底の上記取付形状は,本件
特許発明1の必須の構成要素であるとはいえない。公然実施発明1においても,上
底の後端部はUターンするようにして底板に固定しており,その端部が底板から隔離
した形状となっている。したがって,その円弧状に膨らんだ部分にはゴム素材によ
る弾性力が働いており,当該部分に荷重がかかると底板に押し付けられて平たくつ
ぶれるが,荷重が小さくなると押し付けられていた部分が弾発力で元の膨らんだ形
状に復帰する。そして,上底の後端部側に排出物が残留していれば,この弾発力を
用いてこれを弾き飛ばすことできるのであるから,本件特許発明1,2と公然実施
発明1との間に技術的な差異はない。
 2 取消事由2(本件特許発明1,2と公然実施発明2,3との同一性の判断の
誤り)について
   甲5-5-1~8,甲5-7-1~7が,それぞれ,公然実施発明2,3と
して実施されたバケットエレベータ用バケットに係る図面であることは,公然実施
発明2,3に係る工事の担当者としてこれに立ち会ったA作成の陳述書(乙1)等
から明らかである。
   原告は,甲5-5-8の図面はバケットが反転した状態を示すものと主張す
るが,同図は左側の平面図に対応する側断面図にすぎず,反転した状態を示すもの
ではない。また,原告は,甲5-7-3の図面中,戻り側のバケットは上底が垂れ
下がっている状態を示す旨主張するが,この上底の上端部はバケット底板に沿って
固定されているので,バケットの倒立位置では上底の上端部側の固定点からUターン
するように折り返され,その上端部側のUターンする部分の弾発力によって上底が一
定姿勢に保持されるのであって,不規則に垂れ下がるのではない。そもそも,本件
特許発明1,2との同一性をいう上で,運び側と戻り側とで上底の形状が同一であ
る必要はない。
 3 取消事由3(本件特許発明1と原告カタログ記載の発明との同一性の判断の
誤り)について
   上記1で述べたとおりである。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由2(本件特許発明1,2と公然実施発明2,3との同一性の判断の
誤り)について
 (1) 原告は,甲5-5-1~8,甲5-7-1~7の各図面が,それぞれ公然
実施発明2,3として公然実施をされた発明に係るものであるかどうか明らかでな
い旨主張する。
    しかし,まず,レンドー工機株式会社製の垂直土砂搬送機「スキップハリ
ヤー」(型式SKH80)が,昭和63年から平成元年にかけて飛島建設豊島園作
業所の現場に納入され使用されたこと,同じく「スキップハリヤー」(型式SKH
65)が,平成3年から平成4年にかけて横浜治水事務所の帷子川工事の現場に納
入され使用されたこと自体は,レンドー工機株式会社作成の「SKIPHARRYOR」カタ
ログ(甲5-4),A作成の陳述書(乙1)及び日誌(乙4-1~7,乙5),鴻
田産業株式会社作成の部品表等(乙2,3〔枝番を含む〕)から疑いの余地はな
い。なお,上記Aは,上記各現場への「スキップハリヤー」の据え付け工事等に直
接立ち会うなどしてこれに関わった者であり,その陳述書及び日誌の記載内容を疑
うに足りる事情も見当たらない。
    そこで,進んで,前記各図面が,上記の各現場に実際に納入され使用され
た「スキップハリヤー」に係るものであるかどうかを検討するに,まず,公然実施
発明2に係る甲5-5-1~8に関しては,当該図面自体,「垂直土砂搬送機(飛
島建設;豊島園現場)」との名称や「63.9.24」の日付のある出図スタンプ
の押捺されたものである上,図番(ST-37000以下)が「飛島建設向スキッ
プハリヤー組製作品部品表」(乙2の1)の記載とも一致している。そして,Aの
前記日誌(乙4-1~7)において,他の現場向けの図面に関しては図面の手直し
等の経緯が逐一記載されているのに,上記図面に関しては事後的な修正が生じたこ
とを示す記載もなく,これらにAの陳述書(乙1)の記載を総合すれば,甲5-5
-1~8の図面は,公然実施発明2として実施された「スキップハリヤー」(型式
SKH80)の図面であると優に認めることができる。次に,公然実施発明3に係
る甲5-7-1~7について見るに,納入現場を特定する当該図面自体の記載とし
ては,甲5-7-1の表紙に「帷子川(作)向スキップハリヤー製作図」と手書き
で記した記載があるにすぎないが,型式SKH-65のスキップハリヤーの納入実
績は,上記帷子川工事現場以外に見当たらず(甲5-4),これに上記図面の入手
経路等を具体的に述べるAの陳述書(乙1)を総合すれば,甲5-5-1~8の図
面は,公然実施発明3として実施された「スキップハリヤー」(型式SKH65)
の図面であると認めることができ,この認定に反する証拠はない。
 (2) 次に,原告は,公然実施発明2に係る甲5-5-8及び公然実施発明3に
係る甲5-7-3の各図面に示された上底では,弾発力を利用して搬送物を弾き飛
ばすことは不可能である旨主張するので,以下検討する。
   ア まず,甲5-7-1~7によれば,公然実施発明3のバケットの上底
が,本件特許発明1のものと同様,「上底の前記後端部の原形状が前記底板から離
隔するように該後端部をUターンするようにして前記底板に固定」されていること
は明らかであり,このこと自体は,甲5-7-3の左図の運び側のバケットと戻り
側のバケットのいずれの状態を原形状と見るかによって左右されるものではない。
なお,本件特許発明1が,上記「底板からの隔離」の程度を何ら特定するものでな
いことは,特許請求の範囲の記載から明らかである。
   イ そこで,公然実施発明3が,本件特許発明1の「上底の厚さを,バケッ
トエレベータの上部においてバケットが反転してバケット内の大部分の搬送物を排
出したときに,自身の保有する弾発力を発揮して残りの一部分の搬送物を弾き飛ば
すことができる程度の厚さに形成した」構成を備えるものかどうかを見るに,公然
実施発明3のバケットの上底が,厚さ8.1㎜のゴム板であることは甲5-7-5
に明記されているところ,その底板への固定態様は上記アのとおりであって,垂直
面を形成するバケット側板に固着されているものではない。そうすると,このよう
な態様で固定された厚さ8.1㎜ものゴム板に対し,一定の荷重を与えた後にこれ
を解放した場合,当該ゴム板は,自身の保有する弾発力を発揮して,平たくつぶさ
れていた形状から原形状に急激に復帰する動作を行うことは,当該上底の固定方
法,材質特性及び厚さに照らして自明のことである。これをバケットエレベータ用
バケットの具体的な運転動作の中で見れば,上底を有するバケットが搬送物をすく
い取ることによって上底には荷重が加わり,上底は平たくつぶされるが,当該バケ
ットがバケットエレベータの最高位置を過ぎて反転した際,搬送物が排出される結
果,荷重の解放に伴い上底自身の保有する弾発力が発揮され,平たくつぶされてい
た形状から原形状に急激に復帰する動作を行うことは明らかである。以上のこと
は,本件特許発明の願書添付図面図1,3に酷似する甲5-7-3の図面にも明確
に示されているということができ,その図示から理解される技術的思想と本件特許
発明1との間に何らの違いも認めることはできない。加えて,Aの陳述書(乙1,
6)によれば,「スキップハリヤー」が,粘着性の強い土砂の排出を容易にするた
め,上底が底板に付着しないようにする構成が意識的に採用されていたことが認め
られるところ,これも上記認定に沿うものである。そうすると,上記の弾発力によ
って,上底に残されていた搬送物の一部分を「弾き飛ばす」ことになるのも当然の
ことであるから,公然実施発明3は本件特許発明1の上記構成を備えるものと認め
られる。
   ウ 原告は,甲5-7-3の図面の戻り側のバケットは上底が垂れ下がって
いる状態を示しているにすぎない旨主張するが,同図の戻り側と運び側の各バケッ
トの上底の形状を見ると,後端部をUターンするように折り曲げた部分は,径の大
小の違いがあるだけで,いずれも半円形として示されている。このような戻り側の
バケットの図示から自然に理解されるのは,原告の主張するような「垂れ下がって
いる状態」ではなく,ゴム板である上底自身の弾発力が発揮されて原形状に復した
姿というべきであり,原告の上記主張は採用し得ない。
     また,原告は,本件特許発明1では,願書添付図面図5の略1時付近で
弾発力を発揮し,搬送物の一部を弾き飛ばして原形状に復帰する点に特徴があるの
に,甲5-7-3のものは,同略4時の時点で原形状から引力によって垂れ下がる
ことによって搬送物を排出するものにすぎない旨主張するが,この主張も,甲5-
7-3の図面において,戻り側のバケットの上底が「垂れ下がっている状態」が示
されていることを前提とするものであって,採用の限りでない。
     さらに,原告は,公然実施発明3では,上底の幅とバケットの幅が基本
的に同じ寸法に設計されており,バケット側板と上底が接している部分に強い摩擦
力が生ずることを根拠として,上底が弾発力を発揮することを阻止する構造を示す
旨主張する。確かに,甲5-7-4,5によれば,公然実施発明3の上底の幅とバ
ケットの幅が基本的に同じ寸法(700㎜)とされていることが認められ,そうす
ると,上底の両側端部とバケットの側板との接触部に多少の摩擦が生ずることも考
えられるが,公然実施発明3の運転動作からすると,当該接触部にゴム板の自重が
加わるものではないから,この摩擦が,前記のように上底が弾発力を発揮して底板
から離反する動作を妨げるような要素であるとはいえない。
   エ 以上の趣旨は,底板の固定方法,材質,厚さ等で,公然実施発明3とほ
ぼ同じ構成が採用されている公然実施発明2にも妥当するというべきである。な
お,甲5-5-8の図面の上底はUターンするように折り曲げた部分の膨らみが小
さいこと,上底の幅がバケットの幅よりわずかに広く設計されていること(甲5-
5-8)などの点で違いがあるとしても,程度の差こそあれ,上底の弾発力で搬送
物の一部分を弾き飛ばすに足りるものであることに変わりはないというべきであ
る。
 (3) したがって,本件特許発明1と公然実施発明2,3との同一性を肯定した
審決の判断に誤りはない。本件特許発明2について,原告は,「底板に開口部を設
ける」ことの技術的意義が公然実施発明2,3に示されていない旨主張するが,公
然実施発明2,3のバケットの底板が開口部を有することは,甲5-4,甲5-7
-4,乙6から明らかである。そうすると,その余の点について判断するまでもな
く,本件特許発明1,2に係る特許を無効とした審決の判断に誤りはない。そし
て,本件特許発明1の従属項に係る本件特許発明3,4について,原告は,もっぱ
ら本件特許発明1についての認定判断の誤りに伴う違法をいうにすぎないから,結
局,本訴請求は理由がないことに帰する。
 2 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がなく,他に審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 長  沢  幸  男
    裁判官 宮  坂  昌  利

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