弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は末尾添附の弁護人田村喜作提出の控訴趣意書記載のとおりであ
るからここにこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は左のとおりである。
 論旨二について。
 原判決挙示の証拠によれば被告人がA子を自動車運転台に押し倒しA子の唇に口
を寄せて同女に接吻しようとしたところ、同女は持つていた買物袋を口元に当て被
告人の要求を拒み、極力抵抗するに拘らず、同女の口を押えたり、身体を動かせな
いようにしたりしてなおも接吻を追つたもので、A子はこれを防ぐため被告人の指
にかみついたり、顔をよじらせ、足をバタバタさせたりして、その口唇部が運転台
の部品に当つて歯が一本脱けてしまうほど抵抗したことが認められるのであるから
被告人は所論のようにA子の同意が得られるに於ては接吻しようと試みたに過ぎな
いものではなく、同女の抵抗するに拘らず強いて接吻しようとしたのであつたが同
女の抵抗が予期以上のものがあつたためにその目的を遂げられなかつたものと認め
られ、これと同趣旨の原判決に事実を誤認した点があるといえないから、論旨は理
由がない。
 同三について。
 接吻は相手方に対する愛情の表現であり、殊に成長した男女間のそれは性欲と無
関係なものではない。しかし性的の接吻をすべて反風俗的のものとし刑法にいわゆ
る猥褻の観念を以て律すべきでないのは所論のとおりであるが、それが行われたと
きの当事者の意思感情、行動環境等によつて、それが一般の風俗道徳的感情に反<要
旨>するような場合には、猥褻な行為と認められることもあり得るのである。本件に
ついて見るに被告人の所為たるや、見知らぬ間柄であるA子外二名の女性を
家まで送つてやるからといつて自己の運転する自動車に乗せ、同女の家とは違つた
方向に運転し、深夜人のないa川原に連れて行き助手BらがA子を除いた二名の女
性を連れていずれにか姿を消した後でA子が前記のようにはげしく抵抗するにかか
わらず運転台に押し倒し接吻しようとしたもので、同女がこれを承諾すべきことを
予期し得る事情は少しもないのに、単に自己の性欲的満足を得る目的で相手方の感
情を無視し、暴力を以て強いて接吻を求めたものであり、かような情況の下になさ
れる接吻が一般の道徳風俗感情の許容しないことは当然であつて刑法の猥褻の行為
に該るものといわなければならない。原審が右事実につき刑法第百七十六条第百八
十一条を適用したのは正当で論旨は理由がない。
 同四について。
 被告人がA子に接吻しようとし抵抗されてその目的を遂げなかつたことは所論の
とおりであるが、その際同女に対し原判決の如き傷害を負わしめているのであるか
ら、接吻が未遂に終つたと否とを問うことなく刑法第百八十一条を適用すべきもの
であり、原審の法律適用はこの点に於ても違法ではなく、論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 加納駿平 判事 吉田作穂 判事 山岸薫一)

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