弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一、 原判決中被告人Aに関する部分を破棄する。
     二、 被告人Aを懲役三年に処する。
     三、 原審の未決勾留日数中九〇日を右の刑に算入する。
     四、 原審の訴訟費用中証人Bに支給した分は、被告人Aと被告人Cと
の連帯負担とする。
     五、 被告人Aに対する本件公訴事実中、Dに対する強姦の点につい
て、同被告人は無罪。
     六、 被告人Cの本件控訴を棄却する。
     七、 被告人Cに対する当審の未決勾留日数中一二〇日を、同被告人に
対する原判決の刑に算入する。
         理    由
 本件各控訴の趣意は、被告人Aの弁護人表権七、被告人C本人各作成の控訴趣意
書記載のとおりであるから、これらを引用する。
 被告人C本人の控訴趣意第一点について。
 論旨は、原判示第一の(一)についての事実誤認を主張し、被告人Cは、Eから
現金二〇〇円を借りたものであつて、原判示のようにこれを喝取したものではな
い、というのである。
 しかし、原判決の挙示する対応各証拠によると、被告人Cは、原判示日時ごろ、
F高等学校校舎内にはいり、Eが同校三一三号教室で授業を受けている最中に、同
人から小遣銭をたかつてやろうと考え、右教室の下側窓から同人に対し「ちよつと
金を貸してくれ」と言い、同人が「今金あらへん」と断わつているのに、なおも
「二〇〇円でええ、貸してくれ、昼休みにHまで持つて来いや」と要求し、右Eが
同被告人と中学の同級生で家も近所であるため、同被告人が不良仲間と徒党を組ん
で嵐山付近で勢威を張つていることをよく知つており、常日ごろ被告人らを恐れて
いることに付け込み、同被告人の要求を断わると後でどのような危害を加えられる
かも知れないと恐れさせて、同人から現金二〇〇円の交付を受けた事実を認めるこ
とができるのであつて、同被告人が特にEを脅迫する言葉を使つていないからとい
つても、前記認定のように同人が被告人Cを恐れていることに乗じて金銭を要求
し、同人にこの要求に応じないと後でどのよ5な危害を加えられるかも知れないと
恐れさせて、金銭を交付させた以上、恐喝罪の成立を免れるものではないことはい
うまでもない。原判決には所論のよらな事実誤認はなく、論旨は理由がない。
 被告人C本人の控訴趣意第二点、弁護人表権七の控訴趣意第一点について。
 各論旨は、原判示第二についての事実誤認を主張し、被告人C本人の論旨は、同
被告人は本件恐喝の現場にいなかつたのであるから右犯行には関係がない、とい
い、弁護人表権七の論旨は、被告人AはGがBを脅迫して金銭を要求しているのを
見ていただけであつて、原判示のように本件恐喝を共謀したことはない、というの
である。
 しかし、原判決の挙示する対応各証拠を総合すれば、被告人C、同AがGと共謀
して原判示恐喝行為に及んだ事実を認めることができる。すなわち、右各証拠によ
ると、被告人C、同A並びにGらは、原判示の日に、京都市a区b町H喫茶店に集
つた際、被告人Cは、同喫茶店に居合わせたF高等学校の生徒に頼んで中学の同級
生であつた同高校生Iを呼び出してもらつた上、いやがる同人をおどして同じく中
学の同級生であつた同高校生Dを呼び出せと命じ、I、Gと共にF高等学校校舎に
はいり、前記認定のようにEから金銭を喝取し、次いでIを介してDを同校裏のJ
山に連れ出した後、IやGに指図してH喫茶店にいる被告人Aを呼びに行かせたこ
と、被告人Aは、右の連絡を受けてGと前記喫茶店を出たがF高等学校北門前路上
において、同校生徒Bに会うや、Gが右Bに対し「おい、ちよつと二、三百円つも
りしてくれ」と言い、同人が金がないと断わると、更に被告人AとGとがかわるが
わる「おいこら作つてこい」「そんなぐらいの金が都合できんのか、友達にけんか
でも売つてここへ連れてこい」「金ができたらJ山のところに直ぐ持つてこい」な
どと語気荒く金銭を要求し、右Bをこれに応じないと後でどのような危害を加えら
れるかも知れないと恐れさせて、被告人Cのいる前記J山で待機し、間もなく同所
に来たBから現金四〇〇円ぐらいの交付を受けたが、その際被告人CとGとがかわ
るがわる「何や、これだけか」「こんなもんで足るかい、もうちよつと何とかして
持つてこい」と重ねて金銭を要求し、同人から現金三五〇円ぐらいの交付を受け
て、合計七五〇円ぐらいの現金を喝取したことが認められ、右認定のように、被告
人Aは、最初から本件恐喝の実行行為に加担しており、被告人Cも被告人AやGに
対し終始指導的立場に立ち、自己の提唱で強姦の被害者であるDを呼び出し、自ら
Eに対する恐喝を実行し、更に本件恐喝についても実行行為の一部に関与している
のであるから、これらの事情を総合すれば、本件共謀関係の存在を肯定することが
できるのであつて、殊に、当審において取り調べた証人Gの証人尋問調書中「私と
CはDにきついことを言つて、同女に学校を抜けて遊びに行くことを承諾させた
が、私は二、三百円しか金がなかつたし、仲間の金全部集めても五百円くらいであ
つた。それで遊びに行くには心細いなあと話をした。当時私は兄のKと電気の仕事
をしていたが、その日はさぼつていたから家へ金を取りに行くわけにもいかず、時
計を質に入れようかとも言つたが、そのうち誰かがBから金を借りようと言い出
し、同人から金を借りることになつた。」旨の供述記載をも加えて考察すると、本
件共謀関係の存することは更に明白である。なお、表弁護人の所論によると、原判
決が証拠として挙示する被告人Aの司法巡査及び検察官に対する各供述調書は信用
性がない、というのであつて、なるほど、同被告人の司法巡査に対する昭和四〇年
七月一二日付供述調書には、Gが最初Bに対し「おいちよつと二、三百円つもりし
てくれ」と言つた旨の記載があるのに対し、同被告人の検察官に対する同年七月三
〇日付、同八月一八日付各供述調書には、被告人AがBに「金を貸してくれ」と言
い出した旨の記載があり、この点について両者の供述内容が違つていることは所論
指摘のとおりであるが、右各供述調書を対照してもその内容の大綱において本質的
なむじゆんがあるとは認められないから、所論のようなくいちがいがあるからとい
つて直ちに右各供述調書の信用性がないと断ずることはできない。また、被告人
C、同A並びにGがH喫茶店に集つた際、被告人CがIを同喫茶店に呼び出し、D
の呼出を命じていることは前記認定のとおりであるから、被告人Aが検察官に対す
る前記供述調書において、被告人CがDを旅館に連れて行くことを予想していた趣
旨の供述をしていることも決して不自然、不合理ではない。その他記録を調べてみ
ても、原審のした証拠の取捨選択、価値判断に論理則、経験則の違反は認められら
い。論旨はいずれも理由がない。
 弁護人表権七の控訴趣意第二点について。
 論旨は、原判示第七についての事実誤認を主張し、要するに、被告人Aが被告人
Cらと共謀してDを強姦したことはない、というのである。
 よつて記録を調査し、原審において取り調べた被告人Cの司法警察員に対する昭
和四〇年七月七日付(七一二丁以下)検察官に対する同年七月三〇日付各供述調
書、被告人Aの司法巡査に対する同月三日付、検察官に対する同月三〇日付各供述
調書、証人Dの証人尋問調書、L、Mの司法巡査に対する各供述調書並びに当審に
おいて取り調べた証人Gの証人尋問調書、Gの検察官に対する供述調書、証人Nの
当審公判廷における供述を総合すると、被告人Cは、中学の同級生でかねて顔見知
りのDを強姦しようと企て、前記認定のように、Iに命じて同女をJ山に連れ出し
た上、GやIを通じてH喫茶店から被告人Aを呼び寄せ、同被告人及びGと共に、
同女をタクシーに乗せて原判示O地下グリルまで連れ出したが、同店内で被告人C
は、右Dに気付かれなようにひそかに、被告人A、Gに同女を旅館に連れ込んで強
姦しようとその意中を打ち明け、被告人Aらもこれに賛成し、更に被告人CはNに
連絡して自動車を持つてこさせ、同人も右犯行に加わることを承知したので、ここ
に被告人C、同A、G及びNの四名は、附近の旅館で同女を強姦することを共謀の
上、被告人CがNの運転する自動車に同女を乗せて旅館にはいり、被告人A、Gが
後から続いて旅館にはいるという手はずのもとに、同被告人らは附近のP旅館に行
つたが、休業を理由に入室を断わられたため、犯行の場所を原判示Q旅館に変える
こととし、先の手はずどおり、被告人CがNの運転する自動軍に同女を乗せて右Q
旅館に連れ込み、続いて被告人A、GもNが折り返し迎えに来た自動車に乗り同旅
館に着き、同旅館の主人Lに対し、被告人Cのはいつた客室に案内せよと求めたと
ころ、同女から断わられて押問答をしているうち、この騒ぎを聞いて被告人Cも客
室から出て来たので、被告人A、G及びNは被告人Cを交えて相談した結果、被告
人Aら三名は本件強姦の実行を断念して引き返すことになり、被告人Cもこれを了
承したため、被告人AはG、Nと共に同旅館から退去し、被告人Cだけがなおも<要
旨>右旅館にとどまり、単独でDに対する強姦を遂げたことが認められる、以上認定
のように、被告人Aが一旦は被告人Cらと強姦の共謀を遂げたとはいえ、
G、Nと共に、右犯行の着手前右共謀に基づく犯罪の実行を断念する意思を表明
し、共謀者被告人Cもこれを了承したことにより、一旦成立した共謀関係は犯行の
着手前にすでに消滅したと解するのが相当であるから、その後における被告人Cの
強姦行為について、被告人Aが共謀共同正犯としての刑責を負うべきいわれはな
い。従つて、原判決が、その判示のとおり被告人Aが被告人Cと共謀して本件強姦
行為に及んだ旨認定したのは事実を誤認したことが明らかである。この点の論旨は
理由がある。
 なお、Dに対する強姦行為が被告人Cの単独犯行に帰することは前記認定のとお
りであるから、原判決が右強姦行為を被告人C、同Aらの共謀による犯行と認定し
たのは、被告人Cに対する関係においても事実を誤認したものというべきである
が、本件犯行は被告人Cが首唱して被告人Aらと共謀を遂げ、後に右共謀関係解消
後も、ひとり旅館にとどまりこれを実行したものであつて、右の誤認は被告人Cに
つき判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえないから、同被告人に対する
関係では破棄の事由としない。
 弁護人表権七の控訴趣意第三点について。
 論旨は、原判決が判示第八の(二)(イ)のRに対する強姦致傷の行為につい
て、被告人Aの共同正犯としての刑責を認めたのは、共同正犯に関する法律の適用
を誤まつた違法がある、というのである。
 よつて案ずるに、原判決の挙示する関係各証拠によると、被告人A、同Cは、昭
和四〇年五月二四日午後七時ごろ、嵐電嵯峨駅前付近で、仲間のS、T、U、V、
N、W、Xらと集つていたが、S、TがWのバイクに乗つて国鉄嵯峨駅前に出たと
ころ、京都府船井郡c町から通勤する女工R、同Yの両名が帰りの汽車に乗り遅れ
たのを見て、Tが同女らに話しかけているうちに、Sが被告人Aら仲間のいるとこ
ろに戻り「駅にええ女二人おるわ、汽車に乗り遅れよつた」と知らせ、右仲間から
「ええ女か、ものになるか」という話が出て、被告人Cが「おれが見て来てやる」
と言いSの運転するバイクでその場に行き、同女らを見て強姦しようと考えるにい
たり、同女らに対し「おれも亀岡まで帰るんや、自動車があるから送つてやろら
か」と誘い、同女らがこれに応ずる態度を示すや、バイクで引き返し、仲間達に
「ええ女や、自動車で送つてやるとうまいこと言つておいた、途中で連れて帰つて
来るから待つとれ」と連絡し、Zに電話をかけて自動車を持つて来てくれるよう依
頼し、被告人Cは、右Zの運転する自動車に同女らを乗せ、国鉄園部駅前十字路付
近まで行つた後、再び京都市内に向けて引き返し、同女らを同市a区d町e番地所
在f団地内の新築空家前まで連行し、被告人Cが、同女らに対し「向うには墓場や
火葬場があるのや、おれらのいうことをきかんとそこへ連れて行くぞ」などと言つ
て同女らを脅迫し、ZがRを同家屋二階に連れ込み、次いで、被告人Cも、Yに対
し左手のいれずみの傷跡を見せながら「これおれが煙草の火で焼いてしたのや、お
前も焼いたろか」などと脅迫して、同女を同家屋階下に連れ込んだこと、一方被告
人Aは、嵐電嵯峨駅前で仲間達と集つている際、前記のようないきさつで、被害者
両名のいるところがら戻つて来た被告人Cから前記の連絡を受け、更に同被告人が
Zから自動車を回してもらい、これに同乗し国鉄嵯峨駅前から被害者両名を乗せて
被告人Aら仲間のいるところに立ち寄つた際も、同被告人らから「女を連れて帰つ
てこいよ」と言つたのに対し、被告人Cが「まかしておけ、これから行つてくるか
ら待つとれ」と答えて出発したのを見送り待機していたが、同日午後一一時ごろ被
告人AとNとがバイクでZの自動車を捜して回つた結果、途中でZの運転する自動
車を見つけそのあとを追つているうち、前記空家の前に到着し、被告人C及びZが
同女らを右空家の中に連れ込んでいるのを見とどけ、被告人Cらが同所で同女らを
強姦しようとしていることを察知し、被告人A、Nも右犯行に加わることを決意
し、嵐電嵯峨駅前に引き返し、同所で待つていた前記のS、T、U、V、W、Xら
に対し、被告人C、Zらと共に同女らを強姦しようと相謀つた上、その場に駆けつ
け被告人Cらの犯行に加わり、原判決認定のように、Z、V、T、被告人CらはR
を、被告人C、N、被告人A、WらはYを、それぞれ強姦したことが認められるの
であつて、被告人Aが同女らに対する強姦を共謀して、他の共犯者らと前記のよう
に強姦行為を遂げた以上、共犯者の行為は、自己の意思活動と相合して自己の行為
を組成するものと認めるべきであるから、被告人Aにおいて右被害者の一人である
Rに対する強姦行為を実行していなくとも、同女に対する強姦行為について共同正
犯の責任を免れるものではない。
 原判決が、被告人Aに対し原判示第八の(二)(イ)のRに対する強姦致傷行為
について共同正犯の責任を認めたのは正当であつて、所論引用の判例に反するもの
ではない。論旨は理由がない。
 よつて、被告人Cについては、刑事訴訟法三九六条、刑法二一条、刑事訴訟法一
八一条一項但書を適用して、主文六、七項のとおり判決し、被告人Aについては、
量刑不当の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項、三八二条によ
り、原判決中同被告人に関する部分を破棄し、同法四〇〇条但書により、更に次の
とおり判決する。
 被告人Aの罪となるべき事実は、原判示第七の事実を削除し、原判示事実のとお
りであり、その証拠は原判決の挙示する対応各証拠のとおりであるから、いずれも
これを引用する。
 被告人Aの原判示第二の行為は刑法二四九条一項、六〇条に、同第三の行為は暴
力行為等処罰に関する法律一条、刑法二〇八条、罰金等臨時措置法三条一項二号
に、同第四の行為は暴力行為等処罰に関する法律一条、刑法二六一条、罰金等臨時
措置法三条一項二号に、同第八の(二)の各行為はいずれも刑法一八一条、一七七
条、六〇条に、同第九の行為は刑法二三五条、六〇条に該当するところ、同第三、
第四の罪については所定刑中懲役刑を、同第八の(二)の各罪については所定刑中
有期懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本
文、一〇条により重い原判示第八の(二)のRに対する強姦致傷の罪の刑に同法一
四条の制限内で法定の加重をしたうえで、被告人Aを懲役三年に処し、原審におけ
る未決勾留日数の算入につき同法二一条、訴訟費用の一部負担について刑事訴訟法
一八一条一項本文、一八二条を適用する。
 被告人Aに対する本件公訴事実中Dに対する強姦の点については、前記のとおり
犯罪の証明がないことに帰するので、刑事訴訟法三三六条により無罪の言渡をす
る。
 (裁判長裁判官 山崎薫 裁判官 浅野芳朗 裁判官 大政正一)

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